PSD (位置検出素子)...PSDは受光面全域での位置検出が可能ですが、図 2-4のようにスポット光の一部が受光面からはみ出した 場合、スポット光の光量重心位置と受光面上の光量重
emm...
Transcript of emm...
Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilisの遺伝子解析による
emm型別と経口抗菌薬感受性
1)埼玉県衛生研究所臨床微生物担当,2)北里大学大学院感染制御科学府,3)北里生命科学研究所感染情報学研究室,4)獨協医科大学病院感染防止対策課,5)東京大学医学部付属病院感染制御部,6)東京都老人医療センタ―研究検査科
砂押 克彦1)3) 油橋 宏美2) 小林 玲子3)
山本 芳尚4) 奥住 捷子4) 吉田 敦4)
三澤 慶樹5) 安達 桂子6) 生方 公子2)3)
(平成 18 年 3 月 6 日受付)(平成 18 年 4 月 18 日受理)
Key words : Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis , emm typing, drug susceptibility,macrolide resistance
要 旨2003 年 9 月から 2005 年 10 月までの期間に,11 医療機関から Lancefield の抗血清による凝集反応で,A
群,C群,あるいはG群のいずれかに凝集した総計 593 株の β溶血性レンサ球菌の送付を受けた.それらのうち,生化学的性状検査によって 128 株が Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis( S. equisimilis)と同定された. S. equisimilisと同定された菌株の Lancefield の抗血清による分類では,A群凝集株が 5株,C群凝集株が 17 株,そしてG群凝集株が 106 株であった.これらの菌株は,若年層では呼吸器感染症由来の検査材料からの分離が多かったが,40 歳代以上では血液や閉鎖性膿汁,関節液からの分離が多く認められた.病原性に関わるMタンパクをコードする遺伝子解析による emm型別では,27 種の型が認められた.本来無菌的である検査材料から検出された菌において,さまざまな emm型が認められた.また,すべての菌株が病原性に関わる slo, sagA, skcg遺伝子を保持していた.本菌に対する経口抗菌薬のペニシリン系薬とセフェム系薬の抗菌力は,0.016~0.031µg�mLと優れていた.しかし,マクロライド系薬や levofloxacinには明らかな耐性を示す菌も認められた.これらの成績から, S. pyogenesや S. agalactiae以外には,病原性が乏しいとされてきた β溶血性レンサ球
菌の再検討が必要なことが示唆された.〔感染症誌 80:488~495,2006〕
序 文β溶血性レンサ球菌は,Lancefield の凝集反応に
よってA群,B群,C群,G群およびF群等に分類されることはよく知られていることである.しかし,これらの群別は菌名を表わすものではない.菌の生化学的性状に基づくと,同一の菌種として同定された菌においても,Lancelield の血清型別ではいくつかの群に分類される1).1996 年に提唱された Streptococcus
dysgalactiae subsp. equisimilis2)( S. equisimilis)はその典型で,A群,C群,G群に凝集する株が含まれる1).
従来,C群や G群溶血性レンサ球菌は,検出されたとしてもほとんどが病原性に乏しいものとして扱われ,本来無菌的である閉鎖性の検査材料(平素無菌的検査材料)からの検出菌でないかぎり,臨床的に重要視されなかった.ところが,最近実施したC群,G群溶血性レンサ
球菌に関する全国的なアンケート調査によると,これらの細菌に対する注目すべき実態が明らかにされた3).すなわち,これらのレンサ球菌は,血液,関節液,あるいは閉鎖性膿汁から分離されることが予想よりもはるかに多く,また重症感染症例もかなり認められたということである.加えて,これらの細菌の分離症例には,壮年期以上の基礎疾患を有している患者が
原 著
別刷請求先:(〒108―8641)東京都港区白金 5―9―1北里大学北里生命科学研究所感染情報学研究室
砂押 克彦
感染症学雑誌 第80巻 第 5号
488
Table 1 Sequences of oligonucleotide primers used in this study
Productlength(bp)
PositionPrimer(mer) Sequence(5’ to 3’ ) Primer(gene)
sloa)
83-10321AGAGAGGCTATGGCACATTAC SLO-83S
264346-32621GTTGCTCACTTGTCGTTGTGG SLO-346R
skcgb)
698-71720CACTAGCTATCGGTGACACC SKN-S
171868-84920GGTAAGTAAACTCTTGATCC SKN-R
sagAc)
563-58725CAAATATTTTAGCTACTAGTGTAGC sagA-S
127689-67119CTTCCGCTACCACCTTGAG sagA-R
emmd)
Variable length by PCR19TATT(C/G)GCTTAGAAAATTAA emm-S
amplification (1kbp)20GCAAGTTCTTCAGCTTGTTT emm-R
ermBe)
721-74020CGTACCTTGGATATTCACCG ermB-S
224944-92223GTAAACAGTTGACGATATTCTCG ermB-R
ermA(ermTR)f)
578-59821GCTACCTTATTGTAGAGAGGG TR-S
295872-85221ACATTCGCATGCTTCAGCACC TR-R
mefAg)
180-19920GGGACCTGCCATTGGTGTGC mefA-S
402581-56220CCCAGCTTAGGTATACGTAC mefA-R
*Numbering for the 7 genes were based on the following papers :
Accession No. AB050250a) Ferretti JJ, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2001, 98:4658-63.14)
Accession No. X13400 b) Walter F, et al., Nucleic Acids Res. 1989, 17:1262.16)
Accession No. AY033399c) Ikebe T, et al., Epidmiol. Infect. 2004, 132:145-9.5)
Accession No. U02480 d) Whatmore AM, et al., Mol. Microbiol. 1994,11:363-74.12)
Accession No. X52632e) Trieu-Cuot P, et al., Nucleic Acids Res. 1990,18:3660.17)
Accession No. AF002716 f) Seppälä H,et al., Antimicrob Agents Chemother. 1998, 42:257-62.18)
Accession No. U83667g) Tait-Kamradt A, et al., Antimicrob Agent Chemother. 1997, 41:2251-5. 20)
多数を占めていることが明らかにされた.つまり,これらの実態は,日本社会における生活習慣病を抱える人口の相対的増加,あるいは超高齢化社会を反映していると推定される.C群,G群に属するレンサ球菌が,近い将来におい
て臨床上問題化するという懸念は,国立感染症研究所の感染症発生動向調査からも推測される4).全発症例が把握の対象となっている Streptococcus pyogenes( S.
pyogenes:GAS)による劇症型感染症の中に,2000年頃から C群,あるいはG群溶血性レンサ球菌(GCS,GGS)による発症例が散見されている.しかも,それらのレンサ球菌は S. equisimilisと同定されており,病原性に関連する数種の遺伝子を保持していることが報告されている5).また,その病原性関連遺伝子は, S. pyogenesと共通していることが次第に明らかになってきている6).一方,わが国においては,重症感染症から分離され
たC群,G群溶血性レンサ球菌についての報告は散見される7)~9)が,一般検査材料から分離される当該菌の疫学研究はなされていない.そのような背景から,C群およびG群として収集
された菌株の中の S. equisimilisについて,emm遺伝
子解析による型別,いくつかの病原遺伝子の保有状況,および経口抗菌薬に対する感受性について検討したので報告する.
検査材料と方法1.検査材料と対象菌株2003 年 9 月から 2005 年 10 月までの 26 カ月間に,
11 医療機関から Lancefield の抗血清による凝集反応でA群,C群,あるいはG群のいずれかに凝集したβ溶血性レンサ球菌の送付を受けた.総計 593 菌株が収集された.それらの菌株のうち,2の項に示す生化学的性状検査によって,128 株が Streptococcus dysga-
lactiae subsp. equisimilis( S. equisimilis)と同定された.これらの菌株は,Lancefield の凝集反応試験によっては,A群凝集株が 5株,C群凝集株が 17 株,そしてG群凝集株が 106 株と分類された.その他に,C群,あるいはG群レンサ球菌として
送付を受けた菌株のうち,16 株はいわゆるAnginosusgroup に属する菌種と判定されたため,今回の検討からは除外した.2.生化学的性状検査上述した被験菌株の菌名は,Manual of Clinical Mi-
crobiology1)において, S. equisimilisの判定項目とし
平成18年 9月20日
489S. dysgalactiae subsp. equisimilisの疫学
Fig. 1 Age-distribution of patients with invasive group C or group G streptococcal in-
fections(n=128).
Fig. 2 Clinical samples distributed according to the age of the patients(n=122).
て記載されている次の項目を重要視した.すなわち,C群,あるいはG群に凝集することに加え, S. pyo-
genesに較べて(i)β溶血性が強いこと,(ii)コロニーがグロッシ―で大きいこと,(iii)PYR(ピロリドニルアシルアミダーゼ:アミノペプチダーゼ)試験が陰性であること,(iv)β-D-グルクロニダーゼ(βGUR)活性が陽性であることなどである.PYR試験は,正確に判定できる PYR cards(Oxoid Biochemical Iden-tification System, OXOID)を用い,その成績を基準とした.並行して,Rapid ID32 STREP(ビオメリュー)による生化学的性状検査も実施したが,PYRの再現性が劣るため,Rapid ID32 STREPによる検査は糖利用能のみを菌種同定の参考とした.なお,前述したA群に凝集した 5株は,PYR試験
が陰性,βGUR陽性,さらに次項に記す emm型がC群,G群レンサ球菌の保持するタイプに型別されたことから S. equisimilisとした.
3.遺伝子解析による emm型別遺伝子解析による emm型別はすべての菌株を対象
とした.血液寒天培地上に発育したコロニーからの溶菌液の作製は既に述べた方法10)に従った.DNA増幅用の primer は Table 1に示した塩基配列11)12)を用いた.すなわち,sense primer は菌体内で合成されたMタンパクの細胞膜通過時のシグナルペプタイドをコードするN末側の basic region 部位,reverseprimer は C末側の conserved region 部位に設計した.PCR反応液(50µL)の組成は,10×EX buffer 5µL,
dNTP mix 4µL,各 primer(100pmol)0.25µL,TakaraEX Taq DNA ポリメラーゼ 0.25µL,DNA sample2µL,DW 38.25µL とした.DNA増幅条件は,94℃,5分のDNA変性後,94℃,30 秒,52℃,1分,72℃,2分�cycle として 30cycle 実行,最後に 72℃,10 分の伸長反応を行った.DNAの増幅が確認されたサン
感染症学雑誌 第80巻 第 5号
490 砂押 克彦 他
Fig. 3 Emm typing by genetic analysis of the emm gene encoding M protein in Streptococcus dysga-
lactiae subsp. equisimilis(n=128).
Table 2 MIC distribution of 9 antimicrobial
agents against S. dysgalactiae subsp.equisimilis
MIC(μg/mL)Antibioitics
MIC90MIC50Range
0.0160.0160.008 - 0.016PenicillinG
0.0310.0310.016 - 0.031Ampicillin
0.0160.0160.016 - 0.063Amoxicillin
0.0310.0160.016 - 0.031Cefdinir
0.0160.0160.008 - 0.031Cefditoren
0.0310.0310.016 - 0.031Faropenem
40.1250.063 - _> 64Clarithromycin
321 0.5 -_> 64Azithromycin
21 0.25 - 64Levofloxacin
プルは常法13)に従ってDNAを精製後,塩基解析を行った.シークエンス用 primer の 配列は,5’―TATTCGCTTAGAAAATTAAAAACAGG―3’である.次いで,sense 側 primer 寄りの塩基配列が解読で
きた位置より 300bp 前後のデータを emmの相同性を検索する目的で,CDCの Streptococcus pyogenes Data-
base(http:��www.cdc. gov�ncidod�biotech�strep�strepblast.html)へ送付した.解析結果は電子メールにて返却された.emm型は塩基配列が 95%以上の相同性を示すことを基準とした.4.病原性遺伝子検査S. equisimilisとされたすべての菌株について,
Streptolysin O をコードする slo遺伝子14)15),Strep-tolysin S をコードする sagA遺伝子5),ストレプトキナーゼをコードする skcg遺伝子16)の有無を調べた.それぞれの遺伝子検索に用いた primer は Table 1
に示したが,血液寒天培地上に発育したコロニーからの溶菌液の作製,ならびにDNA増幅反応条件などは3の項に準じた.5.薬剤感受性の測定薬剤感受性の測定は penicillinG(PCG),ampicillin
(ABPC),amoxicillin(AMPC),cefdinir(CFDN),cefditoren(CDTR),faropenem(FRPM),clarithro-mycin(CAM),azithromycin(AZM),および levoflox-acin(LVFX)の 9薬剤とした.これらの薬剤は,当該企業から力価の明らかなものの分与を受けるか,あるいは購入して使用した.6.マクロライド系薬耐性遺伝子の検索マクロライド系薬耐性遺伝子の検索には,Table 1
に示す 3種類の primer を使用した.すなわち,50Sリボソームをジメチル化する酵素をコードする ermB
遺伝子検索用17),同様にジメチル化する酵素をコードする ermA(ermTR)遺伝子検索用18),そしてマクロライド系薬の菌体外への排出に関わる膜タンパクをコードする mefA遺伝子検索用19)20)である.溶菌液は emm型別の際に作製したDNAサンプル
液と同様に作製し,既報10)の反応組成液を用い,94℃,2分のDNA変性後,94℃,15 秒,53℃,15 秒,72℃,15 秒�cycle の条件で 35 サイクルの増幅反応を行った.終了後のサンプルは電気泳動を行い,DNA増幅の有無を判定した.
成 績1. S. equisimilis分離例の年齢分布と検査材料Fig. 1には, S. equisimilisが分離された症例の年齢
分布を示す.20 歳代と 70 歳代にピークを認める 2峰性分布を示し,学童期に多く分離される S. pyogenes
平成18年 9月20日
491S. dysgalactiae subsp. equisimilisの疫学
Fig. 4 Distribution of MICs for clarithromycin, azithromycin, and levofloxacin against Streptococcus dysgalactiae subsp.
equisimilis.(n=128).
のそれとは明らかに異なっていた.また,Fig. 2には, S. equisimilisが分離された症例
の年齢と検査材料との関係を示した.すなわち, S.
equisimilisが分離された検査材料の内訳は,喀痰が 30検体,咽頭が 25 検体,閉鎖性膿汁と血液がそれぞれ14 検体,扁桃ぬぐい液が 9検体,関節液 5検体,耳漏 4検体であった.小児期から成人の 30 歳代にかけては,咽頭・扁桃
ぬぐい液,あるいは喀痰からの分離が 80%近くを占めていたが,40 歳代から 50 歳代になると,閉鎖性膿汁や血液からの分離例が次第に多くなり,60 歳代以上ではさらに血液や関節液といった平素無菌的検査材料からの分離が相対的に多くなっていた.統計学的にも S. equisimilisが分離される検査材料は,症例の年齢によって有意に異なるという結果であった(χ2=68.166,p=0.0000(**)).2. emm型別および病原遺伝子の保有状況Fig. 3には, S. equisimilis 128 株の emm型別の結果
を示す.C群,G群に分類されるレンサ球菌の emm
型は,図でも明らかなように,27 の emm型に区別され,疫学的には多くの型が分布していることが示された.その中でも,比較的菌株数の多かった型は,stG10.0(13.3%),stG6.1(10.9%),stG6792.0(10.2%)などであった.また,図中の星印は,血液や関節液などの平素無菌
的検査材料より分離された S. equisimilis(20 株)のemm型の分布である.分離頻度の高い emm型の棒グラフの上にプロットされている株が目立つが,特定のemm型への片寄りは認められず,10 の emm型に分散していた.なお,128 株すべての株が slo遺伝子,sagA遺伝子,
skcg遺伝子を保持していた.3.薬剤感受性Table 2には,128 株の S. equisimilisに対する β-ラ
クタム系薬の PCG,ABPC,AMPC,CFDN,CDTR,FRPMの 6薬 剤,マ ク ロ ラ イ ド 系 薬 のCAMとAZM,お よ び LVFXの 計 9薬 剤 に 対 す るMICrange,MIC50,MIC90の成績を示す.本菌の β―ラクタム系薬感受性は, S. pyogenesに対
する薬剤感受性と同様に,極めて優れていた.MIC90値の優れた順に記すと,PCG=AMPC=CDTR(0.016µg�mlL)>ABPC=CFDN=FRPM(0.031µg�mL)であった.β―ラクタム系薬に対する感受性が低下したと思われる株は認められなかった.Fig. 4には,128 株に対するマクロライド系薬の
CAMおよびAZM感受性とマクロライド耐性遺伝子の保有状況を示す.ermA遺伝子,ermB遺伝子およびmefA遺伝子のいずれかを保持する株が 14 株(10.9%)認められた.その内訳は ermA保持株が 3株,ermB保持株が 4株,そして mefA保持株が 7株
感染症学雑誌 第80巻 第 5号
492 砂押 克彦 他
であった.なお,PCRによって上記 3種類の耐性遺伝子の保
持が認められなかった菌株の中に,AZMに対して 8µg�mL以上のMICを示す株が 4株認められた.この4株が示すMICからは,3種類のマクロライド耐性遺伝子とは別の耐性機構を有していると考えられた.ニューキノロン系薬については,LVFXの感受性
のみ測定したが,Table 2と Fig. 4に示すように,本菌に対するMIC range は 0.5―2µg�mL,MIC50は 1µg�mL,MIC90は 2µg�mLと劣っていた.
考 察近年,わが国においても,Vandamme ら2)によって
提唱された S. equisimilisが S. pyogenesの保有する病原因子のいくつかを保持し,時に侵襲性の重症感染症を惹起することが報告され始めている5)7)~9).しかし,細菌検査室においてレンサ球菌を同定しよ
うとすると,信頼できる同定キットがなく,また安易に迅速キットに頼ると誤りを生じかねないといった懸念も生じている.今回,収集された β溶血性レンサ球菌について詳細な同定を行った結果, S. equisimilis
と判定するキーポイントは,Lancefield の凝集反応によってC群,G群溶血性レンサ球菌と判定されることに加え,CO2培養 20 時間後において,i)S. pyogenes
よりも強い β溶血性を示すこと,ii)グロッシ―な大きいコロニーを形成すること,iii)アシルアミダーゼ活性を調べる PYR試験が陰性であること,iv)β―グルクロニダーゼ活性が陽性であること,の 4点が重要であると考えられた.これらの性状の確認から S.
equisimilisと判定された 128 株は, S. pyogenesにおいて認められる emm型ではなく,すべて stc あるいはstg 番号の付いた emm型に分類された.つまり,遺伝子検査の不可能な細菌検査業務においては,血液寒天培地上に発育した β溶血性コロニーがA群,C群,あるいはG群に凝集する場合,上記の性状試験を実施することが菌種の同定にとって不可欠と考える.一方, S. equisimilisが S. pyogenesのMタンパクに
近似のMタンパクを産生すること,さらには strep-tolysin O,streptolysin S,そしてストレプトキナーゼをコードする遺伝子を保持していることは,本菌がヒトに病原性を発揮するためには極めて重要な因子であると思われる. S. pyogenesでは,emmを始めとして, C5a ペプチダーゼ21),IgG 結合タンパク22),IgA結合タンパク23)の遺伝子群が mga遺伝子によって調節されていることが知られ,しかも嫌気条件下でその発現量が増加するという示唆に富む現象が報告されている23).
S. equisimilisにも mga遺伝子と近似の調節遺伝子が存在していて,emm遺伝子とストレプトキナーゼ
遺伝子はその制御下に置かれていると報告されている24).その意味では,本菌もまた嫌気的条件下において病原性は増強されるものと解される.著者らは S. equisimilisの全国的なアンケート調査3)
および本論文において, S. equisimilisは若年層においては咽頭や扁桃,あるいは喀痰からよく分離されるのに対し,40 歳以上の壮年期においては平素無菌的検査材料から分離されることが有意に多く,そのほとんどが基礎疾患を有している患者であることを明らかにしてきた.そのことは,基礎疾患のない年齢層における S. equisimilisの感染創は局所にとどまるが,基礎疾患を抱える症例においては,ひとたび菌が組織内に侵入すると,上述した菌側の多くの病原因子によって容易に重篤な感染症が成立するものと推察される.今後, S. equisimilisによる発症のメカニズムについて,宿主側と菌側からのさらなる研究が求められる.最後に,治療用抗菌薬と S. equisimilisとの関係につ
いて述べておきたい.本邦において当該菌がヒト由来の検査材料からどの程度の割合で分離されていたのかは,ほとんど明らかにされていない.しかし,1990~1996 年に血液培養から分離されたレンサ球菌について私達が調べた成績では,明らかな β溶血性を示す大きなコロニーのレンサ球菌は分離されていなかった25).東京都老人医療センタ―の安達らの成績(2006年 1 月 29 日,第 17 回日本臨床微生物学会・モーニングセミナ―)によれば,2000 年頃より血液からの本菌の分離が急上昇してきたと発表している.この時期には新たなマクロライド系,ニューキノロ
ン系の経口抗菌薬が市販され始めている.このことも本菌分離例の増加と関係を有しているかもしれない.何故ならば,これらのマクロライド系薬やニューキノロン系薬に対する S. equisimilisの感受性はペニシリン系薬やセフェム系薬に比して明らかに劣ることが今回の検討で明らかとなったからである.のみならず,これらの菌の中には既にマクロライド系薬やニューキノロン系薬に耐性を示す菌も見られているからである.今後, S. equisimilisによる感染症に対して,何が適切な治療抗菌薬となり得るのかを早急に検討して行かなければならないであろう.謝辞:本研究における菌株の収集にご協力を賜りました,医療法人社団神鋼会神鋼病院臨床検査室の高橋敏夫さん,兵庫県立尼崎病院研究検査部の幸福知己さん,西神戸医療センタ―臨床検査技術部の山本 剛さん,(株)キュ―リン細菌検査室の小林とも子さん,越谷市立病院臨床検査科細菌検査室の五十里博美さん,千葉県こども病院検査部の澤田恭子さん,東芝病院臨床検査部の深澤鈴子さん,独立行政法人労働者健康福祉機構東北労災病院検査科の黒川いくさんに厚く御礼申し上げます.
平成18年 9月20日
493S. dysgalactiae subsp. equisimilisの疫学
文 献1)Ruoff KL, Whiley RA, Beighton D: Streptococ-
cus . In:Murray PR, Baron EJ, Jorgensen JH,Pfaller MA, Yolken RH(eds). Manual of ClinicalMicrobiology. American Society for Microbiol-ogy, Washington DC, 2003;p. 405―21.
2)Vandamme P, Pot B, Falsen E, Kersters K,Devriese LA:Taxonomic study of LancefieldStreptococcal groups C, G, and L ( Streptococcusdysgalactiae ) and proposal of S. dysgalactiaesubsp. equisimilis subsp. nov. Int J Syst Bacte-riol 1996;46:774―81.
3)生方公子,砂押克彦,小林玲子,奥住捷子:C群およびG群溶血性レンサ球菌による侵襲性感染症についてのアンケート調査.感染症誌2006;80:480―7.
4)IDSC 国立感染症研究所 感染情報センター:http :��idsc.nih.go.jp�iasr�index-j.html.
5)Ikebe T, Murayama S, Saitoh K, Yamai S,Suzuki R, Isobe J, et al.:Surveillance of severeinvasive group-G streptococcal infections andmolecular typing of the isolates in Japan. Epide-miol Infect 2004;132:145―9.
6)Kalia A, Enright MC, Spratt BG, Bessen DE:Directional gene movement from human-pathogenic to commensal-like Streptococci. In-fect Immun 2001;69:4858―69.
7)Hirose Y, Yagi K, Honda H, Shibuya H, OkazakiE:Toxic shock-like syndrome caused by non-group A beta-hemolytic streptococci. Arch In-tern Med 1997;157:1891―4.
8)Kugi M, Tojo H, Haraga I, Takata T, Handa K,Tanaka K:Toxic shock-like syndrome causedby group G Streptococcus. J. Infect 1998;37:308―9.
9)Hashikawa S, Iinuma Y, Furushita M, OhkuraT, Nada T, Torii K, et al.:Characterization ofgroup C and G Streptococcal strains that causeStreptococcal toxic shock syndrome. J Clin Mi-crobiol 2004;42:186―92.
10)Ubukata K, Muraki T, Igarashi A, Asahi Y,Konno M:Identification of penicillin and otherbeta-lactam resistance in Streptococcus pneumo-niae by polymerase chain reaction. J Infect Che-mother 1997;3:190―7.
11)Beall B, Facklam R, Thompson T:Sequencingemm-specific PCR products for routine and ac-curate typing of group A Streptococci. J ClinMicrobiol 1996;34:953―8.
12)Whatmore AM, Kehoe MA:Horizontal genetransfer in the evolution of group A streptococ-cal emm -like genes:gene mosaics and vari-ation in Vir regulons. Mol Microbiol 1994;11:363―74.
13)Hasegawa K, Chiba N, Kobayashi R, Murayama
S, Iwata S, Sunakawa K, et al.:Rapidly increas-ing prevalence of β-lactamase-nonproducing,ampicillin-resistant Haemophilus influenzae typeb in patients with meningitis. AntimicrobAgents Chemother 2004;48:1509―14.
14)Ferretti JJ, McShan WM, Adjic D, Savic DJ,Lyon K, Primeaus C, et al.:Complete genomesequence of an M1 strain of Streptococcus pyo-genes . Proc Natl Acad Sci, USA 2001;98:4658―63.
15)Okumura K, Hara A, Tanaka T, Nishiguchi I,Minamide W, Igarashi H, et al.:Cloning and se-quencing the streptolysin O genes of group Cand group G streptococci. J Sequencing andMapping 1994;4:325―8.
16)Walter F, Siegel M, Malke H:Nucleotide se-quence of the streptokinase gene from a group-G Streptococcus. Nucleic Acids Res 1989;17:1262.
17)Trieu-Cuot P, Poyart-Salmeron C, Carlier C,Courvalin P:Nucleotide sequence of the eryth-romycin resistance gene of the conjugativetransposon Tn 1545 . Nucleic Acids Res 1990;18:3660.
18)Seppälä H, Skurnik M, Soini H, Roberts MC,Huovinen P:A novel erythromycin resistancemethylase gene ( ermTR ) in Streptococcus pyo-genes . Antimicrob Agents Chemother 1998;42:257―62.
19)Clancy J, Petitpas J, Dib-Haji F, Yuan W, Cro-nan M, Kamatu AV, et al.:Molecular cloningand functional analysis of a novel macrolide-resistance determinant, mefA , from Streptococ-cus pyogenes . Mol Microbiol 1996;22:867―79.
20)Tait-Kamradt A, Clancy J, Cronan M, Dib-HajjF, Wondrack L, Yuan W, et al.: mefE is neces-sary for the erythromycin-resistant M pheno-type in Streptococcus pneumoniae . AntimicrobAgents Chemother 1997;41:2251―5.
21)Chen CC, Clearly PP:Cloning and expressionof the streptococcal C5a peptidase gene in Es-cherichia coli : linkage to the type 12 M proteingene. Infect Immun 1989;57:1740―5.
22)Heath DG, Boyle MDP, Clearly PP:IsolatedDNA repeat region from fcrA76 , the Fc-bindingprotein gene from an M-type 76 strain of groupA streptococci, encodes a protein with Fc-binding activity. Mol Microbiol 1990;4:2071―9.
23)Podbielski A, Flosdorff A, Weber-HeynemannJ:The group A streptococcal virR 49 genecontrols expression of four structural vir regu-lon genes. Infect Immun 1995;63:9―20.
24)Geyer A, Schmidt K-H:Genetic organizationof the M protein region in human isolates of
感染症学雑誌 第80巻 第 5号
494 砂押 克彦 他
group C and G streptococci : two types of multi-gene regulator-like ( mgrC ) regions. Mol GenGenet 2000;262:965―76.
25)五十嵐厚美,村木智子,旭 泰子,森 伴雄,
奥住捷子,生方公子,他:血液培養由来口腔レンサ球菌のペニシリン結合蛋白と蛍光基質による菌種同定.日臨微誌 1997;7:178―84.
Emm Typing by Genetic Identification of Streptococcus dysgalactiaesubsp. equisimilis and Susceptibility to Oral Antibiotics
Katsuhiko SUNAOSHI1)3), Hiromi ABURAHASHI2), Reiko KOBAYASHI3), Yoshitaka YAMAMOTO4),Katsuko OKUZUMI4), Atsushi YOSHIDA4), Yoshiki MISAWA5), Keiko ADACHI6)& Kimiko UBUKATA1)3)
1)Department of Clinical Microbiology, Saitama Institute of Public Health, 2)Graduate School of Infection Control Sci-ences Kitasato University3) and Laboratory of Infectious Agents Surveillance, Kitasato Institute for Life Sciences, Ki-tasato University, 4)Division of Infection Control, Department of Medical Safety Administration, Dokkyo UniversitySchool of Medicine Hospital, 5)Department of Infection Control and Prevention, University of Tokyo Hospital, 6)Labora-
tory Medicine, Tokyo Metropolitan Geriatric Medical Center
A total of 593 β-hemolytic streptococci belonging to Lancefield group A (GAS), group C (GCS) or groupG (GGS) according to agglutination tests were collected from 11 medical institutions between September2003 and October 2005. In total, 128 strains were identified as Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis (S.equisimilis) using physiological tests. Of these strains, 5 strains were agglutinated to Lancefield group A, 17strains to group C, and 106 strains to group G. Most of these strains were largely isolated from clinical speci-mens collected from young patients with respiratory infections and middle-aged patients (in their 40s);mostof the strains were isolated from blood, atretic pus, or joint fluid. Genetic analysis of the emm gene encodingthe M protein revealed that these strains could be classified into 27 types. Also, many emm types werefound in strains isolated from normally aseptic clinical specimens. In addition, all strains tested had slo, sagA,and skcg genes, which contributed to their virulence. The susceptibility of the strains to oral penicillin andcephalosporin antibiotics was excellent, with MICs ranging from 0.016 to 0.031mg�mL. In contrast, strainscarrying the macrolide resistant elements of the ermA, ermB, and mefA genes and strains showing a high re-sistance to levofloxacin were also confirmed in this study. These results suggest that β-hemolytic strepto-cocci, except for S. pyogenes and S. agalactiae, should be reconsidered as a causative pathogen in streptococ-cal infections.
平成18年 9 月20日
495S. dysgalactiae subsp. equisimilisの疫学