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無機化学基礎 2009.10 初版 2016.3 改訂

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無機化学基礎

古 曵 重 美

2009.10 初版

2016.3 改訂

Page 2: 無機化学基礎 › chem13 › image › 無機化学基礎.pdfⅠ 原子と原子核、そして周期表 1.原子の構造 質量数A:陽子の数+中性子の数、原子番号Z:陽子の数=中性原子の核外電子の数、つまり、A-Z

Ⅰ 原子と原子核、そして周期表

1.原子の構造

質量数 A:陽子の数+中性子の数、原子番号 Z:陽子の数=中性原子の核外電子の数、つまり、A-Z は中性

子の数である。

問題 1 元素と同位体についてのべよ。

解 Z が同じ核種の集合を元素と呼ぶ。

と のように、Z が同じで Aが異なる核種同士を互いに同位体であると言う。

2.放射性崩壊

83Bi より Z の大きな原子は自然に壊れて放射線を出し、原子核内に変化が生じる。

α 崩壊: α 線 の原子核を放出 → +

β 崩壊: β 線 高エネルギーの電子を放出 → + e-

α 崩壊や β 崩壊の際、X 線より高いエネルギーを持つ電磁波である γ 線も同時に放出される。

問題 2 放射性同位体の崩壊によって生成する核種を 内に記せ。

(1) が β 崩壊すると が生じる。

(2) が α 崩壊すると が生じる。

3.質量欠損

の質量は 4.002u(u:原子質量単位 1.66×10-27kg)で、その構成要素である陽子2個と中性子2個、そ

して電子2個の質量の総和 4.032u より 0.03u だけ軽い。これは粒子が結合して原子を形成した方が安定であるか

らである。その安定化したエネルギー、すなわち核の結合エネルギーは ΔE=ΔmC2 で与えられる。この場合、

0.03(1.66×10-27kg)(3×108ms-1)2=4.5×10-12J、1モル当たりでは(6×1023mol-1)(4.5×10-12J)=2.7×109kJmol-1が核の結合エ

ネルギーとなる。

問題 3 文章中の空欄( )に最も適切な語句、記号、または数値を入れて文章を完成させなさい。

83Bi より大きな原子番号を有する原子は自然に壊れて( 放射線 )を放出し安定な核種に変わる。α 崩壊や

β 崩壊に際しては高エネルギーの電磁波である( γ 線 )も同時に放出される。質量数 226 の Ra の同位体は

( α 線 )を放出して原子番号が( 2 )だけ減少し、質量数は( 4 )だけ減少して Rn に変

わる。質量数 228 の Ra の同位体は( β 線 )を放出して原子番号が( 1 )だけ増し、Ac に変わる。

ところで He 原子の質量は 4.002u(u:原子質量単位 1.66×10-27kg)で、陽子 2 個と中性子( 2 )個、そし

て( 電 子 )2 個の質量の総和 4.032u より 0.03u だけ軽い。光速 3×108ms-1とアボガドロ数 6×1023mol-1より、

He の核の結合エネルギーは( 2.7×109 )kJmol-1となる。

12

6 C

13

6 C

4

2 He

226

88 Ra

4

2 He

222

86 Rn

228

88 Ra

228

89 Ac

4

He

14

6 C

14

7 N

238

92 U

234

90 Th

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4.ボーアの水素原子模型

電子のエネルギーは E = -(1/n2)(me4/8ε02h2)で表される。ここでmは電子の質量(9.1×10-31 kg)、e は素電荷

(1.6×10-19 C)、ε0は真空の誘電率(8.85×10-12 Fm-1)、h はプランク定数(6.6×10-34 Js)である。n=1 は基底状態でエネル

ギーが最低の状態である。n=2 以上は励起状態でエネルギーが高い状態を表す。基底状態における水素原子の電

子エネルギーを求めると、E1=-(1/12)(me4/8ε02h2) =-2.18×10-18 J となる。

ボーア模型の仮定:電子は離散的なエネルギー準位に属し、量子条件を満たす軌道を運動する。

電子は原子核との間にはたらくクーロン力を向心力とする等速円運動を行う。{(1/4πε0)(e2/r2)} = mv2/r、ここで

vは電子の速度、rは軌道の半径である。量子数nを用いて mvr = n(h/2π)と書き、量子条件と呼ぶ。角運動量はħ =

(h/2π) の整数倍のみ可能で、角運動量は量子化している。尚、量子条件を満たす状態を定常状態と呼び、定常状

態における電子のエネルギーをエネルギー準位と言う。

電子は波長λ = h/pの物質波で、2πr = n(h/p) = nλであるから、電子の軌道は電子の物質波としての波長の整数倍

となる。 電子が軌道を一周したときに波としての位相がもとの位相と重なればその波は定在波として永続的に

残る。ボーアの量子条件は電子が波として振る舞うことを示唆している。

ボーア半径:基底状態の水素原子の電子の軌道半径a0をボーア半径と呼ぶ。

v2 = e2/(4πε0mr) = n2h2/(4π2m2r2) よりn2h2/(πmr) = e2/ε0 、r = n2ε0h2/(πme2) = n2a0、ボーア半径a0 = ε0h2/(πme2) = 0.053

nm

エネルギー準位:電子のエネルギーは運動エネルギーと静電気力によるポテンシャルエネルギーの和である。

E = (mv2/2) + (−e2/4πε0r) = −e2/(8πε0r)、ここでr = n2ε0h2/(πme2)を代入してE = −me4/(n28ε02h2)となる。これより量

子数が大きいと電子のエネルギーが大であると分かる。エネルギー最小の基底状態(n=1)における電子のエネル

ギーは、E1 = −me4/(128ε02h2) = −2.18×10−18 Jである。 n≥2の励起状態に在る電子のエネルギーは高い。

水素原子の第一イオン化エネルギー:水素の電子が原子核から無限に離れた状態のエネルギーはE∞ = En = 0

となる。水素の第一イオン化エネルギーはE∞ − E1 = − E1である。よって、|E1| = me4/(128ε02h2) =13.6 eVとなる。

水素の輝線スペクトル:電子が量子数nの状態から量子数n'の状態に移るときに吸収または放出される光子のエ

ネルギーは遷移に係わるエネルギー準位EnとEn'の差である。即ち、|En − En'| = hν、ここで、νは光子の振動数であ

る。n>n'の時、放出される光の波長λは次の関係を満たす。

(hc/λ) = (En − En') 、よって(1/λ) = (En − En')/hc = (me4/8ε02ch3){(1/ n'2) − (1/ n2)}、ここでR = (me4/8ε0

2ch3) とすると(1/λ)

= R{(1/ n'2) − (1/ n2)}となる。このRはリュードベリ定数の値となり、バルマー系列等の水素原子のスペクトルを

説明できる。

問題 4 水素原子より放射される光の波長を求めなさい。但し、電子の質量は 9.1×10-31kg、素電荷は 1.6×10-19C、

真空の誘電率は 8.85×10-12Fm-1、プランク定数は 6.6×10-34Js、そして E=h=h(C/)、C は光速(3×108ms-1)である。

(1) n=2 から n=1 の電子遷移による放射。

E21=E2-E1={(-1/22)-(-1/12)}(me4/802h2) =(3/4)2.18×10-18J=1.635×10-18J

=hC/E=(6.6×10-34Js)(3×108ms-1)/(1.635×10-18J)=1.21×10-7m=121 nm 答 121 nm

(2) n=3 から n=2 の電子遷移による放射。

E32=E3-E2={(-1/32)-(-1/22)}(me4/802h2) =(5/36)2.18×10-18J=3.028×10-18J

=hC/E=(6.6×10-34Js)(3×108ms-1)/(3.028×10-18J)=6.54×10-7m=654 nm 答 654 nm

lim n→∞

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5.量子数

1) 主量子数 n:軌道の空間的拡がりや軌道エネルギーを規定する。

n 1 2 3 4

記号 K L M N

2) 方位量子数 l:軌道の形(角度分布)を規定する。

l 0 1 2 3 ・・・・ (n-1)

記号 s p d f

3) 磁気量子数 m:磁場中での軌道の向きを規定する。磁場が無ければ m の値が異なっても電子のエネルギー

は等しい(エネルギー準位の縮退) +l・・・・0・・・・-l

4) 電子スピン量子数 s:電子のスピン角運動量 +1/2と-1/2

問題 5 n=3 の水素原子の波動関数の量子数の組み合わせを書き出せ。

n 3 3 3 3 3 3 3 3 3

l 0 1 1 1 2 2 2 2 2

m 0 +1 0 -1 +2 +1 0 -1 -2

以上、計9個の組み合わせがある。

6.電子配置と価電子のスピン状態

例えば、基底状態のH の電子配置は 1s1、基底状態の He の電子配置は 1s2と書く。

パウリの排他原理:1つの原子内では4つの量子数で規定される或る一つの状態をとる電子は1個しか無い。

フントの規則:エネルギー準位が同じ軌道が複数存在するとき電子はなるべくスピンが平行となるように配置さ

れる。

5B 7N 8O 10Ne

電子配置 1s22s22p1 1s22s22p3 1s22s22p4 1s22s22p6

価電子のスピン状態

問題 6 16S、20Ca、22Ti、24Cr、26Fe 原子の基底状態における電子配置と価電子のスピン状態を記せ。

電子配置 価電子のスピン状態

16S 1s22s22p63s23p4

20Ca 1s22s22p63s23p64s2

22Ti 1s22s22p63s23p63d24s2

24Cr 1s22s22p63s23p63d54s1

26Fe 1s22s22p63s23p63d64s2

2p 2p 2p 2p

4s

4s

3d

3p

4s

3d

3d

4s

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7.周期表

1) 原子の大きさの大まかな傾向

同族元素では周期表の下へ行くほど原子半径が大で、同一周期の元素では周期表の右へ行くほど原子半径が小

である。すなわち周期表の左下へ向かって原子半径が大きくなる。

同一周期の元素では、核電荷に対する他の電子の遮蔽が完全ではないため原子番号が増えるにつれ最外殻の電

子軌道半径が減少する。

2) 第一イオン化エネルギー

気相に孤立している原子から電子1個を除くに要するエネルギーで、陽イオンになり易さの尺度となる。すな

わち、イオン化エネルギーが小さいほど陽イオンになり易い。

問題 7 Na, Mg, Al の第一イオン化エネルギー(kJ/mol)はそれぞれ 495.4, 737.6, 577.4 である。このうち Na に次い

で陽イオンになり易い元素はどれか。

解 上記3つの元素のうちで二番目に小さな第一イオン化エネルギーを持つ Al である。

3) 電子親和力

気相に孤立している原子が電子を受け取って陰イオンになるときに放出するエネルギーで、陰イオンになり易

さの尺度となる。すなわち、電子親和力が大きいほど陰イオンになり易い。

但し、酸素などはO→O-は 141 kJ/mol、O-→O2-は-780 kJ/mol で、1価の陰イオンにはなり易いが、2価の

陰イオンとするには外部からエネルギーを与えてやらなければならない。

4) 電気陰性度

ある原子が他の原子と結合するときに他の原子の電子を引き寄せる能力の相対的な尺度を電気陰性度と呼ぶ。

ポーリングはフッ素と炭素の電気陰性度をそれぞれ 4.0 と 2.5 とし、その他の元素の電気陰性度を定めた。電気

陰性度の値は周期表の右上の元素ほど大きく、左下の元素ほど小さい。

問題 8 1属元素と水素との化合物で陰イオンとなる元素はどちらか。但し、1属元素の電気陰性度の値は

0.9~1.0、水素のそれは 2.2 である。

解 1属元素の水素化物ではより大きな電気陰性度値を持つ水素が陰イオンとなる。

問題 9 文章中の空欄( )に最も適切な語句、または記号を入れて文章を完成させよ。

同族元素では周期表の( 下 )へ行くほど原子半径が大きく、同一周期の元素では周期表の右へ行くほ

ど原子半径が( 小さ )い。気相に孤立している( 原 子 )から( 電 子 )1個を除くに要するエ

ネルギーを第一イオン化エネルギーと呼ぶ。Na, Mg, Al の第一イオン化エネルギーはそれぞれ 495.4, 737.6, 577.4

(kJ/mol)であり、陽イオンになり難い順は( Mg ),( Al ),( Na )である。気相に孤立している原子

が電子を受け取って陰イオンになるときに( 放 出 )するエネルギーを(電子親和力)と呼ぶ。ある原子

が他の原子の電子を引き寄せる能力の相対的な尺度を(電気陰性度)と呼ぶ。その値は周期表の( 右 上 )

の元素ほど大きい。

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Ⅱ 分子軌道と二原子分子

8.分子軌道

原子同士が価電子を共有する結合を共有結合と呼ぶ。以下、H2を例にとり LCAO (linear combination of atomic

orbitals) 分子軌道法の考え方を説明する。

水素原子 HAと HBの原子軌道 φAと φBの線形結合(和と差)で水素分子の結合性分子軌道 Ψbと反結合性分子

軌道 Ψa を近似する。すなわち、Ψb=φA+φB:同位相の原子軌道の組み合わせと Ψa=φA-φB:逆位相の原子軌

道の組み合わせである。これが、LCAO 法である。

結合性分子軌道Ψbと反結合性分子軌道Ψaにおける電子の存在確率は Ψb2=(φA+φB)2 と Ψa

2=(φA-φB)2で、

2つの水素原子の原子軌道における電子の存在確率の単純な和(φA2+φB

2)より結合性分子軌道Ψbでは(+2φAφB)

だけ大きく、反結合性分子軌道 Ψaでは(-2φAφB)だけ小さい。

すなわち、結合性分子軌道Ψbの電子の存在確率は2つの水素原子 HAと HBの正電荷を持つ原子核の中間で増

大しており、電子の負電荷のために原子核間に結合力が働き結合性分子軌道のポテンシャルエネルギーは元の原

子軌道のそれより低くなる。

反対に反結合性分子軌道 Ψaの電子の存在確率は2つの原子核の中間で減少し(電子密度ゼロの節面を生じ)

ており、負電荷の減少による原子核間の反発力増大のため反結合性分子軌道のポテンシャルエネルギーは元の原

子軌道のそれよりも高くなる。

右図に示すように、水素分子 H2では元の水素原子の 1s 軌道よりも

-ΔE だけポテンシャルエネルギーが低い結合性分子軌道に2個の

電子が配置され、+ΔE だけポテンシャルエネルギーが高い反結合性

分子軌道に配置される電子はゼロとなるので、2原子分子 H2が安定

に存在できる。

Ψbのエネルギー低下の大きさは 2 つの水素原子の 1s 軌道の重なり

(重なり積分)に依存する。平衡距離 a0から少し引き離せば重なり

は小さくなり、エネルギー低下(ΔE)は減少する。逆に近づき過ぎる

と、重なりは大きくなるものの、2 つの原子核間の静電的斥力が大きく

働くようになって、重なりの効果を打ち消してしまう。

同様にして、ヘリウムの2原子分子が安定に存在できない理由を

LCAO 分子軌道により、以下に考察する。

ヘリウム原子HAと HBの原子軌道 φAと φBの線形結合で仮想的な

ヘリウム2原子分子の結合性分子軌道 Ψbと反結合性分子軌道Ψaを

近似する。すなわち、Ψb=φA+φBとΨa=φA-φBである。

∆E

E

a0

Ψa

Ψb

a

水素の分子

軌道の波動

関数

分子軌道の波動関数

の 2 乗(電子の存在

確率)

節面

反結合軌道

結合軌道

等電子密度線図

a

A B

2 つの水素原子

の波動関数

a

Ψa

節面

Ψa2

a

Ψb

a

Ψb2

a

1s

φA

1s

φB

Ψb

-ΔE

Ψa

+ΔE

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右図に示すように、仮想的な He2では元のヘリウム原子の 1s 軌道

よりも-ΔE だけポテンシャルエネルギーが低い結合性分子軌道に

2個の電子が配置され、+ΔE だけポテンシャルエネルギーが高い

反結合性分子軌道にも2個の電子が配置されることになるので、

2つのヘリウム原子が分子軌道を形成しても元の原子軌道よりも

エネルギーの利得は無く、ヘリウムの2原子分子は安定に存在でき

ない。

以上の説明を下図にまとめた。

つまり、反結合性分子軌道に電子が入るようになると結合は不安定化し、

電子で満たされると分子は安定に存在できない。

問題 10 平衡距離にある二つの水素原子 HAと HBからなる水素分子 H2の分子軌道に関して、以下の問に答えな

さい。

(1) それぞれの 1s 原子軌道を φAと φBで表し、原子軌道の線形結合で分子軌道を表すとき結合性分子軌道 Ψbと

反結合性分子軌道Ψaはそれぞれどのように表されるか。 解 Ψb= φA+φB Ψa= φA-φB

(2) ΨbとΨaにおける電子の存在確率はそれぞれどのように表されるか。

解 結合性分子軌道 Ψb2= (φA+φB)2 = φA

2+φB2+2φAφB

反結合性分子軌道 Ψa2= (φA-φB)2 = φA

2+φB2-2φAφB

(3) ΨbとΨaにおける電子の存在確率を図に描きなさい。 (4) H2の分子軌道エネルギー準位図を描きなさい。

解 解

(5) H は二原子分子を形成するが、He は二原子分子を形成しない。その理由述べなさい。

解 H2では核間の電子存在確率が増大し、結合力が働いてエネルギーが低くなった Ψbに2個の電子が入る

のみであり、二原子分子を形成した方がより安定となる。仮想的な He2を考えると、核間で電子の存在

確率が減少し、反発力が働いてエネルギーが高くなった Ψaにも電子が2個入ることになり、二原子分子

を形成したとしてもエネルギーが低下するわけではないので、He は二原子分子を形成しない。

1s

φA

1s

φB

Ψb

-ΔE

Ψa

+ΔE

H2 安定に存在 1s

Ψa 電子0個

Ψb 電子2個

1s

Ψa 電子2個

Ψb 電子2個

He2 存在しない

反結合軌道は空でエネルギー低下

安定化

反結合軌道も電子 2 個で充満

エネルギー増大

不安定化

E

E

HA1s

φA

HB1s

φB

Ψb

-ΔE

Ψa

+ΔE

分子軌道エネルギー準位図 電子確率分布(Ψb:実線とΨa:点線)

HB HA

Ψb

Ψa

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9.σ 結合と π 結合とエネルギー準位図

結合軸に沿って円筒対称に電子が分布している分子軌道を

σ 軌道、結合軸を含む節面を持つ分子軌道を π 軌道と言う。

σ 軌道による結合を σ 結合、π 軌道によるそれを π 結合と言う。

問題 11 二原子分子の結合に関して、以下の問に答えなさい。

(1) N2, O2, F2分子の価電子軌道にかかわるエネルギー準位(σ 軌道

と π 軌道)の図を描き、スピン量子数+1/2と- 1/2の電子をそれぞれ

↑と↓で表して、図中にその電子配置を標示しなさい。

N2 O2 F2

(2) N2, O2, F2分子の不対電子数を答えなさい。 解 N2: 0 個 O2: 2 個 F2: 0 個

(3) N2, O2, F2分子のうちで最も安定な分子はどれか、それは何故かを述べなさい。

解 最も安定な分子は N2 である。

理由は、 結合性軌道は全部電子で占められ、反結合性軌道には電子が存在しないためである。

4) 異核二原子分子ではその結合にかかわる原子軌道同士で 解

エネルギー差があり、結合はイオン結合性を帯び、

分子軌道は元の原子軌道に似てくる。CO 分子の場合、

その電子密度分布は元の原子軌道のエネルギーが低い

酸素原子側にかたよってくる。CO 分子の価電子軌道

にかかわるエネルギー準位図を描きなさい。

10.結合次数

結合性分子軌道を占める電子の数と反結合性分子軌道を占める電子の数との差の半分を結合次数と呼ぶ。結合

次数が大きいほど結合エネルギーが大きく、結合距離が短い。

問題 12 O2分子、O2-イオン、F2分子の結合次数と不対電子数を求めよ。

O2 (結合軌道電子数6-反結合軌道電子数2)/2=2 結合次数2、不対電子数2

O2- (結合軌道電子数6-反結合軌道電子数3)/2=1.5 結合次数1.5、不対電子数1

F2 (結合軌道電子数6-反結合軌道電子数4)/2=1 結合次数1、不対電子数0

p σ

p σ*

p π

p π*

2p 2p

σ

σ* π*

π σ

σ* π*

π σ

σ* π*

π

Ψb

Ψa

C 2p

O 2p

σ

π

π*

σ*

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11.立体構造と分子軌道(合原等,現代の無機化学, p.133-137)

MnO や FeO など NaCl 型構造を持つ遷移金属酸化物を例に取る。3d 軌道に電子を有する金属元素M を中心に

おくと、図に示すように直交する x, y, z 座標上にそれぞれ等距離に配位子(酸素)が配置され、M d 軌道とO p

軌道より d-p 混成軌道が形成される。

NaCl 型結晶構造

d – p σ 結合

x

y

z

O pz

M dz2

O py

O px

M d x2-y2

O pz

M dxz

O py

x

y z

O py

O px

M d xy

d – p π 結合

O px

O pz

M dyz

Fe4s

FeO の正八面体配位子場

d - pσ 結合と d - pπ 結合、

非結合 pπ は省略

3d

2p Fe2+ 3d6

s – p σ*

s – p σ

d – p σ

d – p π

d – p π*

d – p σ*

正八面体配位子場

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問題 13 FeO は図 1 の NaCl 型結晶構造をとる。

つまり、3d64s2の価電子配置を有する Fe を原点に

置き、x, y, z 直交座標の等距離の位置に酸素が配置

された図 2 の局所構造をとる。

Fe 4s 軌道とO 2p 軌道より形成される結合性

および反結合性の s-p σ 軌道および s-p σ*軌道と、

Fe 3d 軌道とO 2p 軌道より形成される結合性

および反結合性の d-p σ 軌道と π 軌道および

反結合性の d-p σ*軌道と π*軌道のエネルギー

準位図を描き、スピン量子数+1/2と-1/2の電子を

それぞれ↑と↓で表して、電子配置を標示しなさい。

図 1 図 2

O

2p

d – p π*

d – p σ*

d – p π

d – p σ

s – p σ

s – p σ*

3d

Fe

4s

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Ⅲ 固体の結晶構造

12.結晶

同一の単位構造をある格子の格子点に配置したものを結晶と呼ぶ。

空間格子:格子は空間における周期的な点の配列である。

単位構造:単位構造は 1 個以上の原子を含む。

13.立方格子と六方格子

立方晶系には単純立方(sc)格子、体心立方(bcc)格子、面心立方(fcc)格子の 3 種がある。

単純立方格子:単純立方格子は基本単位格子である。a は最隣接原子間距離である。

体心立方格子:体心立方格子は格子点 2 個分を含む。各原子は(√3/2)a の距離に 8 個の最隣接原子を、a の距離に

6 個の第二隣接原子をもっている。

面心立方格子:面心立方格子は格子点 4 個分を含む。各原子は(1/√2)a の距離に 12 個の最隣接原子をもっている。

六方(hex)格子:六方格子の基本単位格子は辺のなす角が 120゜の菱形を底面とする直角柱である。

六方最密(hcp)格子:六方最密格子は 2 個の原子を含む。

hex 格子

a3

a2

a1 60°

a

c

^ y

x ^

z ̂

hcp 格子

a3 a2

a1

fcc 格子

a1

a2

a3

bcc 格子

a1

a2

a3

x ^

y ^ z ̂

fcc 格子

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問題 13 六方最密格子、立方最密格子、および体心立方格子には格子点が何個分含まれるか。

解 六方最密格子 6個分、立方最密格子 4個分、体心立方格子 2個分

問題 14 六方最密格子、面心立方格子と体心立方格子の充填率を求めよ。

解 六方最密格子 0.740、面心立方格子 0.740、体心立方格子 0.680

問題 15 銀は面心立方格子をとり、密度は 10.5gcm-3である。銀の原子量を 108 として、銀の単位格子の一辺の

長さを求めよ。

解 0.4nm

14.格子間隙サイトの限界半径比の求め方

四面体型サイト 八面体型サイト

問題 16 平面三角形型サイト、四面体型サイト、八面体型サイト、立方体型サイトの格子間隙サイトについて

限界半径比を求めなさい。

解 平面三角形型サイト 0.155、四面体型サイト 0.225、八面体型サイト 0.414、立方体型サイト 0.732

15. 八面体孔と四面体孔

面心立方格子は八面体孔を格子点4個分、四面体孔を格子点8個分含む

解 0.414

辺長 a の正方形を考える。

辺上で 2 つの大球(半径 r1)が接するので a=2r1である。

面対角線で大球(半径 r1)と小球(半径 r2)が接する。

)(22 21 rra

112 414.012 rrr

414.01

2 r

r

a2

a2

112 225.012

3rrr

212

3rra 1

2

2

2

3r

225.01

2 r

r

解 0.225

辺長 a の立方体中に置いた

辺長 の正四面体を考えると、

面対角線で 2 つの大球(半径 r1)が

接する。つまり、 =2r1である。

また、体対角線で大球(半径 r1)

と小球(半径 r2)が接する。

面心立方格子とオクタント 面心立方格子の八面体孔位置

面心立方格子の四面体孔位置

面心立方格子の八面体孔位置と四面体孔位置

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16.ダイヤモンド型構造と閃亜鉛鉱型構造、NaCl 型構造およびウルツ鉱型構造

1) ダイヤモンド型構造:ダイヤモンド型構造の立方体単位格子は 8 個の原子を持ち、2つの面心立方格子を互

いに四面体孔の半分を埋めあうように組み合せて構成できる。

2) 閃亜鉛鉱型構造:ダイヤモンド型構造を構成する一方の面心立方格子に Zn を置き、他方の面心立方格子に

Sを置いた時、閃亜鉛鉱型構造が構成される。

3) NaCl 型構造:NaCl 型構造は二つの面心立方格子を組み合せて構成できる。一方の面心立方格子に Na+を置

き、他方の面心立方格子に Cl を置いた時、岩塩型構造が構成される。

4) ウルツ鉱型構造:互いに四面体孔の半分を埋めあうように Zn の六方最密格子とSの六方最密格子を組み合

せて構成できる。

閃亜鉛鉱型結晶構造 NaCl 型結晶構造

NaCl 型結晶構造 閃亜鉛鉱型結晶構造

ウルツ鉱型構造 六方最密充填構造に於ける

四面体孔位置の例

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問題 17 塩化ナトリウム結晶(p.61 図 3.8 参照)のイオン間距離は 0.281nmである。塩素とナトリウムの原子量を

それぞれ 23 と 35.5 とし、塩化ナトリウム結晶の密度を求めよ。

解 2.3gcm-3

問題 18 下の立方格子に陰イオンと陽イオンを表し、NaCl 型およびセン亜鉛鉱型の結晶構造図を完成させなさ

い。

問題 19 下の文章中の( )に最も適切な語句や数値を入れなさい。

セン亜鉛鉱単位格子中の陰イオンと陽イオンはそれぞれ( 立方最密充填 )の配列をなしている。陰イオ

ンと陽イオン、それぞれの格子は格子点( 4 )個分の八面体型サイトと( 8 )個分の四面体型サイ

トを含み、( 八 )面体型サイトはすべて( 空 )であるが、( 四 )面体型

サイトの( 半 分 )は反対電荷のイオンによって占められている。

NaCl 単位格子中の大球と(小球)はそれぞれ(立方最密充填)の配列をなしており、大球の(最密充填)格子に含ま

れる(八面体型)サイトの(すべて)は小球によって占められている。

17.格子エネルギー

1) 格子エネルギーとマーデリング定数、およびボルン-ランデの式

陽イオンと陰イオンの静電引力により結合したイオン結晶中では、反対符号の電荷を持つイオン間の引力が最

大となり、かつ同符号の電荷を持つイオン間の反発力が最小になるように各イオンが配列している。

多数のイオンが無限に遠く離れた状態から凝集して結晶をつくるときに放出されるエネルギーを格子エネル

ギーと言う。つまり、イオン結晶は格子エネルギー分だけエネルギーが低く、安定な状態である。

先ず、イオンを電荷を持った球とする静電的モデルを扱う事とする。一対の陽イオン(Z+)と陰イオン(Z−)が距

離 r だけ離れているときのポテンシャルエネルギーは、式 E = (Z+Z−e2)/(4πε0r) で与えられる。

結晶格子中ではイオンは他の多くのイオンと静電的に相互作用する。この相互作用の加算を表す項マーデリン

グ定数 Aと呼ぶ。つまり、結晶中の一対のイオンのエネルギーは、単独のイオン対のエネルギーの A倍となる。

よって、結晶中では E = A (Z+Z−e2)/(4πε0r) となる。

NaCl 型結晶では 1 個のイオンは最も近い 6 個の反対電荷のイオンに取り囲まれて引力的な相互作用を、その

つぎに近い 12 個の同符号のイオンとは反撥的な相互作用を、そしてその次ぎに近い 8 個の反対電荷のイオンと

はまた引力的な相互作用を生じており、そのマーデリング定数は A = {6 − (12/√2) + (8/√3) − ・・・} = 1.747 と

なる。マーデリング定数は結晶型によって異なる。

イオンは核外電子を有するので、イオン同士が極端に接近すると相互に強い反発力が働く。この反発力は B/rn

で表され、定数 n はボルン指数と呼ばれている。

NaCl 型結晶構造 セン亜鉛鉱型結晶構造

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NA対のNa+とCl −を含む1モルの結晶の格子エネルギーU (Uは放出されるエネルギーなので全ポテンシャル

エネルギーに負号を付けたものである)は、U = −E = {−ANA(Z+Z−e2)/(4πε0r)} − {NAB/rn} となる。イオン間距離 r

が平衡距離のとき U は極大をとるので、dU/dr = 0 となる。よって、B = −A(Z+Z−e2)rn-1/(4πε0n) である。U が極大

をとるときのイオン間距離を r0、そして格子エネルギーを U0と書けば、U0 = {−ANA(Z+Z−e2)/(4πε0r0)}{1 − (1/n)} と

なる。これをボルン-ランデの式と呼ぶ。ボルン指数 n は陽イオンと陰イオンの n の平均値を用いる。

問題 20 正負イオンが一次元結晶を作っている時のマーデリング定数を求めよ。

異符号 距離 1r : 2 個, 距離 3r : 2 個, 距離 5r : 2 個, ···

同符号 距離 2r : 2 個, 距離 4r : 2 個, 距離 6r : 2 個, ···

A = {(2/1) - (2/2)} + {(2/3) - (2/4)} + {(2/5) - (2/6)} + ··· = 2{1 - (1/2) + (1/3) - (1/4) + (1/5) - (1/6) + ···}

ln(1 + x)において x = 1 のとき ln(1 + 1) = 1 - (1/2) + (1/3) - (1/4) + (1/5) - (1/6) + ···となる。

よって、A = 2ln2 = 2 × 0.693 = 1.386 答 一次元結晶のマーデリング定数は 1.386 である。

問題 8 正負イオンが二次元正方格子を組む時のマーデリング定数を求めよ。

(1) 3 × 3 の時、(注意:表面に在るイオンは分数の電荷を持つ)。

異符号 距離 1r : 4 個(電荷 1/2) そして、同符号 距離√2r : 4 個(電荷 1/4)

A = {(4/1) × (1/2)} - {(4/√2) × (1/4)} = 2 - (1/√2) = 1.2929 答 1.2929

(2) 5 × 5 の時、

異符号 距離 1r : 4 個(電荷 1), 距離√5r : 8 個(電荷 1/2)

同符号 距離√2r : 4 個(電荷 1), 距離 2r : 4 個(電荷 1/2), 距離 2√2r : 4 個(電荷 1/4)

A = {(4/1) × (1)} - {(4/√2) × (1)} + {(8/√5) × (1/2)} - {(4/2) × (1/2)} - {(4/2√2) × (1/4)} = 1.6069 答 1.6069

(3) 7 × 7 の時、

異符号 距離 1r : 4 個(電荷 1), 距離√5r : 8 個(電荷 1), 距離 3r : 4 個(電荷 1/2), 距離√13r : 8 個(電荷 1/2)、そして

同符号 距離√2r : 4 個(電荷 1), 距離 2r : 4 個(電荷 1), 距離√8r : 4 個(電荷 1), 距離√18r : 4 個(電荷 1/4),

距離√10r : 8 個(電荷 1/2)である。よって、

但し、 432

)1ln(432 xxx

xx である

(1)

r

r 3×3

(2)

r

r

5×5

(3)

r

r 7×7

:正イオン

:負イオン r

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A = {4 - (4/√2)} + {(8/√5) - (4/2) - (4/2√2)} + {(4/3) × (1/2)} + (8/√13) × (1/2) - (8/√10) × (1/2) - (4/√18) × (1/4)}

= 1.6105 答 1.6105

問題 22 NaCl 構造の単位胞が 1 個の時のマーデリング定数を求めよ。

異符号 距離 1r : 6 個(電荷 1/2), 距離√3r : 8 個(電荷 1/8)

同符号 距離√2r : 12 個(電荷 1/4)

A = {(6/1) × (1/2)} - {(12/√2) × (1/4)} + {(8/√3) × (1/8)} = 1.456

答 1.456

問題 23 NaCl 構造の単位胞が 8 個の時のマーデリング定数を求めよ。

異符号 距離 1r : 6 個(電荷 1), 距離√3r : 8 個(電荷 1),

距離√5r : 24 個(電荷 1/2), 距離√9r : 24 個(電荷 1/4)

同符号 距離√2r : 12 個(電荷 1), 距離 2r : 6 個(電荷 1/2),

距離√6r : 24 個(電荷 1/2), 距離√8r : 12 個(電荷 1/4),

距離√12r : 8 個(電荷 1/8)

A = {6 - (12/√2)} + {(8/√3) - (6/2) × (1/2)} + {(24/√5) × (1/2) - (24/√6) × (1/2)

- (12/√8) × (1/4)} + { (24/√9) × (1/4) – (8/√12) × (1/8)}

= 1.752 答 1.752

問題 24 ボルン-ランデの式を用いてMgO(格子定数 0.42 nm)の格子エネルギーを求めなさい。

マーデルング定数 1.75、アボガドロ数 6.0×1023 mol-1、素電荷 1.6×10-19 C、真空の誘電率 8.8×10-12 Fm-1、ボルン指数

を He 型で 5、Ne 型で 7、Ar 型で 9、Kr 型で 10、Xe 型で 12 とおく。

答 3970kJ/mol

r

molkJ

molJ

Fmolc

mmF

Cmol

r

neZZAN

uA

3970

10968.3

10968.3

1021.0108.84

857.0106.122100.675.1

4

11

6

26

912

21923

00

2

0

Mg2+の電子配置は[Ne]型であり、

ボルン指数は n=7 となる。

O2-の電子配置も[Ne]型で、

ボルン指数はやはり n=7 となる。

よってMgO は n=7 であり、

(1−1/n) = (1−1/7) = 0.857 となる。

r

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問題 25 NaBr は塩化ナトリウム型結晶構造をとり、Na+-Br-イオン間距離は 2.9×10-8 cmである。

ボルン-ランデの式より格子エネルギーを求めよ。必要な数値は教科書を参照すること。

また、e = 1.6×10-19 C, ε0 = 8.8×10-12 Fm-1, 1 C2F-1 = 1m2kgs-2 = 1J である。

塩化ナトリウム型結晶構造なので A=1.75 である。Na+の電子配置は[Ne]型でボルン指数は n=7、Br-の電子配

置は[Kr]型でボルン指数は n=10 なので、平均値をとり n = 8.5 とする。{1−(1/n) }= {1−(1/8.5)} = 0.88 である。

U0 = ANAZ+Z-e2{1-(1/n)}/4πε0r0 = 1.75(6×1023/mol)( 1.6×10-19 C)2(0.88)/ 4π(8.8×10-12F/m)(2.9×10-10m)

= 7.39×105 = 739×102 kJ/mol 答 739kJ/mol

2) ボルン-ハーバーサイクル

熱力学的データが有るときは、ボルン-ハーバーサイクルをつかって格子エネルギーを求める事もできる。

例として NaCl 結晶を取りあげ、下にボルン-ハーバーサイクルを示し、格子エネルギーを求める。

ΔHF:固体 NaCl の生成エンタルピー、ΔHA:金属 Na の原子化エンタルピー、ΔHD:気体 Cl2分子の解離

エンタルピー、ΔHI:Na原子のイオン化エンタルピー、ΔHE:Cl原子の電子付加エンタルピー、 ΔHL:NaCl

結晶の格子エンタルピーとする。

右のボルン-ハーバーサイクルより、

ΔHF = ΔHA + ½ΔHD + ΔHI + ΔHE + ΔHL

U0 =-ΔHL

となることが分かる。

NaCl の場合、

⊿HF = -411.1, ⊿HA

Na

= 107.8, ⊿HD

Cl2 = 244,

⊿HI = 494, ⊿HE = -349 であるので、

格子エネルギーU0は 785.9 kJ/mol となる。

問題 26 適当なボルン-ハーバーサイクルを考え、ヘスの法則を用いて次の結晶の格子エネルギーを求めよ。

数値の単位は kJ/mol である。

(1) MgS; ⊿HF = -346, ⊿HAMg = 148, ⊿HA

S = 279, ⊿HI = 2201, ⊿HE = 332

解 3306kJ/mol

(2) KCl; ⊿HAK = 89.1, ⊿HD

Cl2 = 244, ⊿HI = 418, ⊿HE = -349, ⊿HF = -436.7

解 716.8kJ/mol

問題 27 FeⅡS のデータを用いて S の 2 電子親和力を求めよ。数値の単位は kJ/mol である。

⊿HAFe = 416.3, ⊿HA

S = 278.8, ⊿HI1+ = 761, ⊿HI

2+ = 1561, ⊿HE1- = -200, ⊿HF = -100, ⊿HL -3219

解 301.9kJ/mol

NaCl (s) Na+ (g) + Cl- (g)

ΔHI + ΔHE

ΔHA + ½ΔHD

Na (s) + ½Cl2 (g) Na (g) + Cl (g)

ΔHF

ΔHL=-U0

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問題 28 CaCl2 結晶についてボルン-ハーバーサイクルを示し、格子エネルギーを求めなさい。数値の単位は

kJ/mol である。ΔHACa = 178, ΔHD

Cl = 244, ΔHI1+ = 590, ΔHI

2+ = 1146, ΔHE = -349, ΔHF = -795.8

ボルン-ハーバーサイクル図

答 2255.8kJ/mol

2

8.2255

)8.795(1146)349(2590244178

2 21CCa

0

2

FIEI

lDA

L

HHHHHH

HU

Ca(s) + Cl2(g) Ca(g) + 2Cl(g) ΔHA

Ca +ΔHDCl

2

Ca+(g) + 2Cl-(g)

ΔHI1++ 2ΔHE

ΔHI2+

ΔHF

CaCl2 (s) Ca2+(g) + 2Cl-(g) ΔH0

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Ⅳ 結晶の電子バンド構造

18.固体中の電子

これまで結晶の物理的構造、つまり格子点の空間的配列と、その安定性、即ち格子エネルギーについて述べて

きた。ここでは固体の化学結合、即ち電子構造について述べる。

今回は固体のエネルギーバンドの出発点となる金属とトランジスター(LSI)、太陽電池、発光ダイオード(LED)、

固体レーザーなどの固体素子材料として重要な半導体を取りあげる。これらは固体中の全原子が化学結合してい

るとみなせる固体である。

結晶は 1 cm3当たり 1022~1023個程度の原子を含んでおり、固体中の全電子と全原子核との相互作用を記述す

る波動関数を、シュレーディンガー方程式を直接解いて求めることはできない。

ところが、結晶は並進対称性、即ち格子点の周期構造を持つので、結晶全体の波動関数は単位格子の波動関数

の和(ブロッホ和)となる。

単位格子の電子構造は最近接原子間の相互作用のみで定まり、その単位格子の波動関数を個々の原子の波動関

数の線形結合として得る方法が原子軌道線形結合(linear combination of atomic orbitals, LCAO)法、または強束縛

近似(tight binding approximation, TB)法と呼ばれるものである。

結晶では、その並進対称性の要請から、各格子点で原子のポテンシャルが周期的に繰り返されることになるが、

その原子波動関数の裾部分の重なり合いにより、格子点の中間領域では隣接原子のポテンシャルが合成されて、

各々の原子が単独で存在したときよりもエネルギーの低いポテンシャルが生成する。(結晶場の効果)

この結晶ポテンシャルは格子点からの距離に依存して変化する。このポテンシャルを反映して、結晶の電子エネ

ルギーは格子点からの距離に依存して変化する。(しかし、この結晶場の効果は次に述べる遷移積分の効果より

小さい)

さらに、を格子点からの距離に比例した角度とすると、右向進行波と左向進行波は各々Ψ ei、Ψ ei

と表され、隣接格子点間の波動関数の重なり合い(Ψ Ψ)は cosの形で電子のエネルギーが変化する合成波

動関数を生じる。(遷移積分の効果)

つまり、結晶では唯一の結合軌道、唯一の反結合軌道でも、その電子のエネルギーは格子点からの距離による

変化を示し、幅を持つエネルギー帯(バンド)を形成する。

電子が存在するエネルギーの最も高いバンドを価電子帯と呼び、電子が存在しないエネルギーの最も低いバン

ドを伝導帯と呼ぶ。伝導帯下端と価電子帯上端のエネルギー差をバンドギャップと呼び、Egで表す。

19.金属のバンド構造

ここでは金属 Na の電子バンド構造を考え、その電気良導性を考察することとする。Na は体心立方格子型結晶

構造をとり、電気や熱の良導体で延性や展性を持ち、不透明で光沢を示すなど金属的性質を有する。

分子軌道法で n 個の Na 原子が周期配列した原子鎖(原子間隔 a)のエネルギー準位を考える。図 1(a)の 3s13p0電

子配置を有する価電子軌道は図 2 に示すように、それぞれ隣接原子間で同一位相の波動関数の組み合わせと反位

相の波動関数の組み合わせとなる結合性分子軌道と反結合性分子軌道を形成する。結合性分子軌道と反結合性分

子軌道は図 1(b)のようにそれぞれ n 重縮退している。結合性分子軌道には 1 個/原子の電子が存在するのみであ

り、分子軌道を用いて金属Na の性質を説明する電子バンド構造を導くことはできない。

図 3 に s 軌道の結合性電子波動関数の例を示した。波動関数は原子間隔 a の中で電子の位置に対応して変化す

る。波動関数の 2 乗である電子密度が座標に依存するので、原子核の陽電荷と電子とのクーロン相互作用は座標

に依存する。よって、電子の位置エネルギーは原子間隔 a の中で変化し、座標に依存した異なる値をとる。つま

り、電子エネルギーのバンド構造が形成され、結晶の電子エネルギーは単位格子内の座標に依存することになる。

1 個の電子が存在していた 3s と空であった 3p の原子軌道は、図 1(c)に示すように Na 結晶ではそれぞれ結合

性と反結合性のバンドを構成する。最大 2 個/原子の電子を収容できる結合性 s バンドには 1 個の電子が入り、

反結合性 s バンドは空である。結合性 p バンドも反結合性 p バンドも、元々空である。結晶化、即ち原子の周期

的配列によって生じた結合性バンドのエネルギーは低く、反結合性のそれは高い。図 1(c)に示すように結合性の

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s バンドと p バンドにエネルギー的な重なりが生じ、最大 8 個/原子の電子を収容できる価電子バンドが生成す

る。つまり、価電子バンドの大部分は空であり、その底に電子が 1 個存在する。電場を印加するとこの電子が結

晶内を移動して電荷を運ぶ、つまり電気が流れる。

固体が電気の導体であるか、絶縁体であるかは、バンドが電子によって満たされている程度によって決まる。

電子が電場によって加速され、移動するためには、高いエネルギー準位へ移る必要がある。そのためにはバンド

に電子準位の空きが在ることが必要である。

金属は価電子帯が部分的にしか満たされておらず、空の準位があるので電気伝導性を示す。ダイヤモンドは

Si と同じ結晶構造、化学結合の様式をとるが、その Egは 5.6 eV と大きく、室温程度では価電子帯から伝導帯へ

電子が熱励起されることがなく絶縁体である。

問題 29 以下の文章中の( )に適切な語句を入れよ。

図 1(c)が( 金 属 )のバンド構造を表すとき、灰色部分は電子が(充満した準位)を、白色部分は電子

が( 空の準位 )を表す。金属は( 価電子 )帯が部分的にしか満たされておらず、( 空の準位 )が

あるので電気伝導性を示す。

20.半導体のバンド構造と電気的性質

次に半導体シリコン(Si)のバンド構造とキャリアー励起およびドーピングについて考察する。

1) 真性半導体

Si は図 4 に示すダイヤモンド型結晶構造をとる半導体(Eg 3 eV)である。Si は C と同じく sp3の価電子配置

をとり、図 5 に示すようにダイヤモンド型格子中で sp3混成軌道を用いて互いに化学結合を形成する。図 6 に示

すように価電子帯は 4 個の電子で満ちた sp3結合性軌道、伝導帯は空の sp3反結合性軌道である。図 7 に示すよ

うに絶対零度において半導体の価電子帯は電子で満ち、Egで隔てられた伝導帯は空である。Eg =1.1eV の Si では

熱励起によって室温で伝導帯の底部に電子が生じ、価電子帯の上部に正孔が残って極めて僅かな電気伝導性を示

す。

+ + + + +

+ + + + +

+ +

+ + + + + 3s

3p

Ψb

Ψa

Ψb

図 2

a a

­θ +θ

図 3

Ψb=Σφs

φ=Aeiθ

s

p

(a)

単原子

(b)

n 原子鎖

(c)

結晶

図 1

図 4 ダイヤモンド型構造 図 5 結合性軌道の連結

図 6 Si のバンド構造形成

バンドギャップ Eg

価電子帯

伝導帯

Si 原子 準位

Si 原子 sp3混成 4 重縮退

Si 結晶 バンド構造

Si sp3混成 n 原子鎖

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図 7 に示すように Si に赤外線より短い波長の光、即ち Egより

大きな光子エネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が

伝導帯へ光励起され電気伝導が生じる。これを光伝導と言う。

図 8 に示すように、熱励起、光励起、いずれの励起でも電場印加

により価電子帯の正孔と伝導帯の電子が互いに反対方向に移動して、

電気が流れる。

そもそも電気伝導率(抵抗率の逆数)は次式で表される。

ne

ここで n は単位体積当りの電荷担体(キャリアー)数、Ze は

キャリアーの電荷(e は素電荷)、は易動度(電場中での動き易さ)

である。

空のバンドではキャリアーが存在しない(n0)ので伝導性はない。

電子が満ちたバンドでは電場を印加してもキャリアーとして働かない(詰まって動けない)。

つまり、易動度() となって伝導性はない。

バンド中の一部に部分的に電子が存在する場合のみ、キャリアーとなる電子も存在し、また電場印加によって電

子が移動できるので、伝導性が得られる。

前述のように、Si の Egは 1.1 eV 程度とダイヤモンドのそれ(5.6 eV 程度)より小さく、熱励起によっても、

極めて僅かではあるが価電子が伝導帯へ励起され、その電気伝導度は温度とともに増大する。

何も不純物元素を添加(ドープ)していない真性半導体の場合、価電子帯に残された電子の孔(ホール)も、

伝導帯に励起された電子とともにキャリアーとして振舞う。

ホールは正電荷を持つので、電場印加により電子と反対方向に移動する。つまり真性半導体の場合、キャリア

ー濃度(n)は単一キャリアーの場合の 2 倍となる。

問題 30 可視光領域の光子エネルギーは 1.5 ~ 3.1 eV である。次のどの物質が可視光の波長全体にわたる光伝導

体となるか。Si:Eg=1.1 eV, Ge:Eg=0.8 eV, CdS:Eg=2.4 eV

解 Si と Ge

2) 不純物ドーピング

図 9 に真性半導体におけるキャリアーの熱励起過程を再掲したが、真性半導体では電子デバイスの構成に必要

となるキャリアー濃度の制御、すなわち電気伝導率の制御は困難である。半導体のキャリアー濃度制御、すなわ

ち電気伝導率制御の目的には微量の不純物を固溶(ドープ)させる不純物ドーピングの手法が利用されている。

図 10 や図 11 に示すように Si より価電子の多い、または少ない元素をドープし半導体 Si の電気伝導率を増加さ

図 7

真性半導体の価電子帯から 伝導帯への電子の光励起

E=hν > Egの光子

Si の Egは常温で約 1.1 eV であり、約 1m 程度

の波長の赤外線を照射すると光伝導性を示す。

これは空の伝導帯に価電子帯から電子が励起

され部分的に満たされたバンドとなって自由

に電子が移動出来るようになったからである。

hEg≈1.1eV

電子

ホール ホール

exp(Eg/kT)

電子

光 熱

図 8

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せるわけである。

先ず図 10 に示した n 型ドーピングから説明する。As ドープの Si 結晶では Siが Asで置換される。Si のそれ

より 1 つ多い As の価電子は、低温では As 原子近傍に束縛されて伝導帯のすぐ下に局在したドナー準位をつく

る。Si の温度を上げていくとドナー準位の電子が伝導帯へ熱励起され負電荷を持つキャリアーとなる。この電子

をキャリアーとする半導体を n 型半導体と言う。As のドナー準位は伝導帯下約 50 meV に在り、300 K の熱エネ

ルギー(kT)は 25 meV であるので、ドナー準位の電子は室温で伝導帯へ励起される。

次に、反対に価電子が1つ少ない Bを Siと置換した B ドープ Si を、図 11 を用いて考える。B は価電子が 1

つ少ないので Si の価電子帯から電子を奪い、自身は Bイオンとなって価電子帯にホールを生じさせる。このホ

ールはクーロン力によって Bイオンの周囲に束縛され、局在するが、その束縛エネルギーは約 50 meV であり、

常温では価電子帯へホールが励起され正電荷を持つキャリアーとなる。このホールをキャリアーとする半導体を

p 型半導体と言う。価電子帯のすぐ上に在るホールの準位をアクセプター準位と言う。

問題 31 次の不純物半導体のうち、どれが p 型に、どれが n 型になるか。又、どちらでもないものはどれか。

a) As をドープした Ge, b) Ge をドープした Si, c) In をドープした Ge

解 a) n 型, b) どちらでもない, c) p 型

問題 32 以下の文章中の( )に適切な語句を入れよ。

Si 半導体に少量の B をドープし、Si の一部を価電子が( 3 個 )の B で置換しても電気伝導率は著

しく大きくなる。下右図に示したように、B は( 価電子帯 )から電子を奪い、B-となって価電子帯に

( 正 孔 )を生じさせる。この正孔のエネルギー準位は価電子帯の直ぐ上約( 0.05eV )にあり、

室温では価電子帯へ励起されキャリアーとなる。正のキャリアーを多く含む半導体を( p 型半導体 )と呼ぶ。

価電子帯の直ぐ上にある不純物の準位を(アクセプター準位)と呼ぶ。

図 9

真性半導体の価電子帯から 伝導帯への電子の熱励起

exp(Eg/kBT)

Si

Si Si

Si

Si

図 10

n 型半導体のドナー準位から 伝導帯への電子の熱励起

exp(ED/kBT)

Si

Si

Si

Si

As

exp(EA/kBT)

図 11

p 型半導体の価電子帯からアクセ プター準位への電子の熱励起

Si

B Si

Si

Si

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3) 太陽電池(pn 接合)

暗所(dark)では、より電子密度の高い n 型とより電子密度の低い p 型を接合するとフェルミ準位が揃うよう

に n 型領域から電子が p 型領域へ移動し、n 型へ電子を引きつけるような電場が生じる。これに Eg以上のエネル

ギーを有する光を照射する(illuminated)と、価電子帯にホールが生じ、伝導帯へ電子が励起されて、電子正孔

対が発生する。伝導帯へ励起された電子は電場によって n 型領域へ引き寄せられ、価電子帯のホールは p 型領域

へ引き寄せられて空間的に分離される。(この分離により、電子正孔対の再発光による消滅は容易には生じない

ことになる。)電子は n 型領域を通じて外部回路へ自由に移動できるので、光照射により pn 接合により生じた

電流を何等かの仕事に使うことが出来る。光源として太陽光を使う Si 太陽電池はクリーンで安価なエネルギー

源である。

空乏層 depletion layer

n-type

p-type CBM

EF VBM

E

CBM CBM

VBM VBM n-type p-type

EF

EF

接合前

dark

illuminated

hh

接合後

EF(フェルミ準位)は電子の存在確率が

1/2 となるエネルギー準位である。

i

45meV

電子伝導 CBM

donor level

As As As As As

VBM

n-type

49meV

VBM

CBM

p-type

B

B

B

B

B

ホール伝導

accepter level