納税者の脱税行動と公共財 滝 田 公...

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93 47 納税者の脱税行動と公共財 納税者の脱税行動と公共財 1.初めに 納税者の脱税行動については、Allingham and Sandmo (1972)が、脱税行動 を一種の危険資産への投資行動の応用という視点から分析して以来、その方向 で多くの研究がなされてきた 1 。しかしながら、このような資産選択モデルに よる脱税行動の分析結果には幾つかの問題点がある。そのうち、特に重要であ ると思われるものが、ふたつある。ひとつは、比較静学の結果で、納税者の危 険に対する態度についての適当な仮定の下では 2 、税率が上昇すると脱税額が 減少するという結果が得られ、これは、われわれの直感に反する。もうひとつ の問題点は、仮に脱税という危険な投資のリスク・プレミアムが正であって も、すべての納税者が、脱税を行うわけではないという事実である。脱税行動 によって利益が得られることが分かっていても、ある人は脱税をし、他の人は そうしないという事実を説明できるモデルが必要である。これを説明するもの としては、幾つかの要因が考えられよう。たとえば、市民の義務として税金は 納めるべきであると言う様な納税者の倫理観、あるいは、自分の脱税行為が露 1 これらの文献の鳥瞰を得るには、Cowell(1990) が便利である。 2 いわゆる、絶対危険回避の仮定である。

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( )93 47納税者の脱税行動と公共財

<論 説>

納税者の脱税行動と公共財

滝 田 公 一

1.初めに

 納税者の脱税行動については、Allingham and Sandmo(1972)が、脱税行動

を一種の危険資産への投資行動の応用という視点から分析して以来、その方向

で多くの研究がなされてきた 1。しかしながら、このような資産選択モデルに

よる脱税行動の分析結果には幾つかの問題点がある。そのうち、特に重要であ

ると思われるものが、ふたつある。ひとつは、比較静学の結果で、納税者の危

険に対する態度についての適当な仮定の下では 2、税率が上昇すると脱税額が

減少するという結果が得られ、これは、われわれの直感に反する。もうひとつ

の問題点は、仮に脱税という危険な投資のリスク・プレミアムが正であって

も、すべての納税者が、脱税を行うわけではないという事実である。脱税行動

によって利益が得られることが分かっていても、ある人は脱税をし、他の人は

そうしないという事実を説明できるモデルが必要である。これを説明するもの

としては、幾つかの要因が考えられよう。たとえば、市民の義務として税金は

納めるべきであると言う様な納税者の倫理観、あるいは、自分の脱税行為が露

1 これらの文献の鳥瞰を得るには、Cowell(1990) が便利である。 2 いわゆる、絶対危険回避の仮定である。

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( )9448 駒大経営研究第44巻第 3・4

見したら、家族や友人はどう思うだろうというような納税者の所属する社会の

規範などにより、納税者の多くは、利益が期待できても脱税行動をとらないと

考えることができる。しかし、本稿では、次のような視点でこの事実を説明す

ることが可能であるのかどうかということを検討してみたい。すなわち、納税

者の税収によって公共財の供給のための費用が賄われるため、そのこと意識し

て正直に税を納める納税者が出てくるということである。そのため、本稿では、

公共財の供給量は納税者の納める期待税収に等しいと仮定しよう 3。そうする

と、納税者は、他の納税者がどれだけ脱税をしているかによって、期待税収が

異なり、また、公共財の供給量も異なってくるので、そのことを考慮して、自

分が脱税するかどうか、もし脱税をするならどの程度にするのかを考えること

になる。このように、モデルを構成するならば、これは、実は、公共財の自発

的供給モデルと基本的なところでは同じものになることは容易にわかる 4。ま

た、このような脱税モデルは、公共財の自発的供給モデルに、具体的で、現実

的な内容を与えるという意味でも興味深いと思われる。

 本稿の構成は以下のようである。まず、2 節でモデルの概要を紹介し、2 節

では、公共財の供給を考慮しない従来の脱税モデルと公共財の供給量を考慮し

たモデルとの比較を行う。4節では、納税者の効用関数が、qusailinear の場合と、

2 次関数の場合とについて、種々のナッシュ均衡を吟味し、正直な納税者が存

在するかどうかを調べる。

2.モデル

 n 人からなる、あるローカル・コミュニティを考え、そこでは、納税者の税

金によって公共財の供給が行われているとする。納税者 k は、正規の税額を収

3 公共財の供給量が納税者の期待税収に等しいというアイデアは、Cowell(1990) に見ら

れる。 4 公共財の自発的供給モデルについては、Andoreoni(1990), Bergstrom, Blume and Varian(1986), Warr(1983) などを参照されたい。

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( )95 49納税者の脱税行動と公共財

めることも出来るし、公共財の供給にタダ乗りすることを考えて、脱税するこ

とも可能であるとしよう。しかも、他の納税者がどのような納税活動を行って

いるかを、どの納税者も知ることができるくらいのコミュニティ・サイズであ

るとする。ただし、徴税当局はそのような情報は持ち合わせず、どの納税者が

脱税を行っているかどうかは分からないものとしよう。したがって、徴税当局

は、調査を行い 5、ある確率 p (0 < p < 1)で、納税者の脱税行為を摘発するこ

とが出来、正規の税のほかに課徴金を徴収することが出来るものとしよう。こ

の課徴金の率を θ ( > t ) とする。納税者にとって、脱税行動が魅力的である

ためには、所得を 1 単位脱税したときの期待所得が非負でなければならない。

すなわち、

(1)

 納税者 k の所得水準は外生的に与えられ、それを、yk (>0) とする。比例所

得税が、課せられ、その税率を t (0<t<1) とし、真の所得額と申告所得額の差

を ek (0 ≦ ek ≦ yk) とすると、脱税額は、 t ek で与えられる。税率 t は、外生変

数なので、脱税額の大きさは、ek の大きさで決まる。以下、脱税額の大きさと

ek の大きさとを区別しないで使う。脱税が成功したときの、この納税者の消費

水準を C ks とすると、

(2)

であり、また、脱税が摘発されたときのこの納税者の消費水準を C kf とすると、

(3)

0)1( ppt

kksk teytc )1(

kkf

k eytc )1(

5 簡単化ために、そのための調査費用は掛からないものと仮定しておく。

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( )9650 駒大経営研究第44巻第 3・4

となる。更に、このコミュニティに供給される公共財の量を g で表し、コミュ

ニティ全体として得られる期待税収(課徴金も含めた)によって賄われるとす

ると、

(4)

となる。このように公共財の供給量を定義すると、0 ≦ ek ≦ yk であるときには、

(5)

となることに注意されたい。また、納税者 k の効用関数を uk とし、厳密に凹で、

2 回微分可能であるとする。このとき、脱税行動を踏まえた納税者 k の期待効

用は次の式で与えられる。

(6)

ここで、γk ( ≧ 0) は、公共財に対する納税者 k の選好の程度を表すパラメー

ターとする。納税者 k の行動は、次の最大化問題で定式化される。

(7)

納税者の脱税行動をこのように定式化するならば 6、モデルの構造は、公共財

の自発的供給モデルと論理的な構造がかなり似ていることは容易に分かる。公

共財の定義式を、次のように書き換えると、

(8)

となり、それぞれの納税者の脱税額は、ある意味で公共財に対する負の自発的

kkkkk etypeytpg )()()1(

kk

kk ytgytp )(

),(),()1(),,( gcpugcupgccEu kf

kkkkkf

kkk

kkkf

kkkeyetosubjectgccEuimize

k

0),,(max

kk

kk eppttyg ))1((

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( )97 51納税者の脱税行動と公共財

供給量と考えることが出来き、それぞれの脱税額が少なければ少ないほど、各

納税者の公共財に対する自発的供給量は増えるということになる。

3.公共財の供給を考えた場合とそうでない場合との脱税額の比較

 本節では、公共財の供給を考えた場合とそうでない場合との脱税額の比較を

行う。脱税額を増やすと、公共財の供給量は減るので、納税者が税収は公共財

の供給という形で還元されると考えない場合より、脱税額は減少すると予想さ

れる。そのため、納税者 k の最大化問題の 1 階の最適条件を見てみると、次の

ようになる。

(9)

また、2 階の条件は、次のようである。

6 もとより、此れが唯一の定式化ではない。たとえば、2人ケースの場合で考えると、

次のような定式化も可能である。納税者1の期待効用は、自分と相手がそれぞれ脱税行

動に成功した場合と、失敗した場合のそれぞれのケースに応じて税収が異なるので、公

共財の供給量もそれぞれの場合に応じ異なることを考慮して決定される、と考える。す

なわち、

)11(,()1())22()11(,()1(),,( 1111112

111 eytcuppeyteytcupgccEu f

)11(,())22()11(,()1( 1112

111 etycupeytetycupp ff))22( ety

))22( ety

)(),(

)(),()1()(

),(),()1()(

ggcup

ggcuppptt

cgcup

cgcutp

eEu

k

kf

kk

k

kskk

k

fk

kf

kksk

kskk

k

k

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( )9852 駒大経営研究第44巻第 3・4

(10)

効用関数 uk が厳密に凹な関数であれば、

(11)

となる。次の交叉編微分の式 (12)が負であれば、γk の値が小さくなると、1

階の最適条件の式は上方にシフトする。公共財の供給が無い場合は、γk = 0

の場合と考えられるので、内点解の場合には、公共財供給のある場合の最適応

答の脱税額より、したがってナッシュ均衡値の脱税額より、公共財供給のない

場合の方が脱税額は大きくなる。

(12)

ここで、この交叉編微分式は、一般的には必ずしも負とはならないが、効用関

数 uk が、私的財と公共財との間で分離可能である場合、または、次の交叉編

微分式(13)が、

)(),()(2

)(),())(1(2

)(),(

)(),()1()(

),(),()1()(

22

2

2

2

222

2

22

2

22

2

2

gcgcuppttp

gcgcuppttpt

ggcup

ggcuppptt

cgcup

cgcutp

eEu

kf

k

kf

kkk

ksk

kskk

k

k

kf

kk

k

kskk

k

fk

kf

kksk

kskk

k

k

0)(2

2

k

k

eEu

)(),(

)(),()1()(

)(),()(

)(),())(1(

)(),(

)(),()1()()(

22

2

2

2

222

2

ggcup

ggcuppptt

gcgcuppttp

gcgcuppttpt

ggcup

ggcuppptt

eEu

k

kf

kk

k

kskk

kf

k

kf

kkk

ksk

kskk

k

k

kf

kk

k

kskk

kkk

k

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( )99 53納税者の脱税行動と公共財

(13)

となり、非負である場合には、(12)式は負となることは容易に分かる。

4. ナッシュ均衡解

 ナッシュ均衡解を求めるためには、最適応答関数を求める必要がある。制約

条件を満たすような内点解については、納税者 k の最適化のための 1 階の条件

はゼロに等しくなるので、適当な仮定の下では、陰関数の定理が成立し、次の

ような、納税者 k の最適応答関数が求められる。

(14)

最適応答関数の納税者 j (j ≠ k) についての傾きは、次の式で与えられる。

(15)

この式の分母は、最適化のための 2 階の条件から、負であるので、分子の符号

がどのようになるか調べて見る。そのために、実際に以下の計算をして見ると、

(16)

となる。よって、たとえば、効用関数の形状が、私的財と公共財との間で分離

可能なものであれば、全体の符号は負となりそうであるが、一般には、その符

0)(

),(2

gcgcu

kk

kkk

),,,,,(),(ˆ 1121 nkkkkk eeeeeewhereer

2

2

2

)(ˆ

k

k

jk

k

j

kk

eEu

eeEu

eer

)(),(

)(),(

)1(

)()(

),()(

),()1()(

22

2

2

2

222

2

gcgcup

gcgcutp

ppttg

gcupg

gcupppttee

Eu

kf

k

kf

kk

ksk

kskk

kk

kskk

k

kskk

kjk

k

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( )10054 駒大経営研究第44巻第 3・4

号を定めることが出来ない。そこで、本稿では、消費財と公共財とは、いわゆ

る戦略的代替の関係にあると仮定して 7、以下の議論を進めることにしよう。

すなわち、

(17)

と仮定しよう。

 次に、脱税額についての制約条件を考慮した、納税者の最適応答について見

てみる。脱税額に関する制約を考慮すると、納税者 k の最適応答は次のように

なる。すなわち、

(18)

また、同じことであるが、納税者 k の最適応答は次のようにも書ける。

(19)

 最も単純なケース、納税者 1, 2 から成る、2 人ゲームの場合についてナッシュ

均衡がどのようなものか考えてみよう。最適応答関数が右下がりであれば、ナッ

シュ均衡解の種類は、それぞれの最適応答関数の e1 軸と e2 軸との交点の相対

的な大きさに依存することは容易に分かる。以下、これらの軸との交点は、非

負であるとしよう。

02

jk

k

eeEu

7 戦略的代替、補完の関係については、Bulow, Geanakoplos, and Klemperer (1985) を参照

されたい。

0

0)(ˆ

00

)(

k

kk

kkkk

k

k

kk

eEuify

yeifere

Euif

er

kkk

kkkk

k

kk

yerifyyerifer

erifer

)(ˆ)(ˆ0)(ˆ

0)(ˆ0)(

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( )101 55納税者の脱税行動と公共財

納税者 1 の e2 軸との交点は、納税者 1 の最適応答がゼロの脱税額となるよう

な、納税者 2 の脱税額を表している。すなわち、

(20)

を満たす、e2 である。それを、ê12 で表すことにする。そうすると、r̂1'(e2) < 0

であるので、e2 > ê12 を満たすすべての e2 について、r̂1'(e2) < 0 となり、(19)

式より納税者 1 の最適応答は、

(21)

となる。また、納税者 1 の最適応答関数の e1 軸との交点は、納税者 2 の脱税

額がゼロであるときの納税者 1 の最適応答である。すなわち、

(22)

を満たす e1 である。これを、ê11 で表すことにしよう。

 同様のことは、納税者 2 についても言えて、納税者 2 の最適応答関数の e1

軸と交点を、ê21 で表し、e2 軸との交点を ê22 で表すことにする。納税者 1 の場

合とまったく同じ議論によって、

(23)

 以上のことを考慮して、ナッシュ均衡にどのようなものがあるかを考えると、

ナッシュ均衡は、ê11 と ê21 との相対的な大きさと ê12 と ê22 との相対的な大き

さによって、次の 5 通りの場合のどれかで与えられることが分かる。すなわち、

)(ˆ0 21 er

0ˆ 1122 eee

)0(1̂1 re

0ˆ 2211 eee

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( )10256 駒大経営研究第44巻第 3・4

(24)

である。ただし、場合分けの煩雑さを避けるために、所得の制約は効いてこな

いと仮定しておく。すなわち、

(25)

と仮定する 8。

 これらのケースを図示したものが次の図 1, 2, 3, 4, 5 であり、図 5 の場合を

除いて、黒丸で表されているのがナッシュ均衡点である。図5 の場合は、特殊で、

最適応答関数 r̂1 (e2), r̂2(e1) が、ちょうど重なる場合で、重なる部分すべてがナッ

シュ均衡となる。

22122111

22122111

22122111

22122111

22122111

ˆˆ,ˆˆ)(ˆˆ,ˆˆ)(ˆˆ,ˆˆ)(

ˆˆ,ˆˆ)(ˆˆ,ˆˆ)(

eeeeveeeeiveeeeiii

eeeeiieeeei

222111 ˆˆ yeye

8 後に述べる数値例で、所得制約が効いてくる場合があるが、それはそのときに述べる。

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( )103 57納税者の脱税行動と公共財

図 1:ケース( i )

r1r2

e11

e12

e21

e22

e1

e2

ê12

ê22

ê21 ê11

e1

r1r2

e2

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( )10458 駒大経営研究第44巻第 3・4

図 2:ケース(ii)

r1r2

e11

e12

e21

e22

e1

e2

ê22

ê12

e2

r2r1

ê21 ê11

e1

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( )105 59納税者の脱税行動と公共財

図 3:ケース(iii)

図 4:ケース(iv)

r1

r2

e11

e12

e21

e22

e1

e2

ê22

ê12

e2

r2

r1

ê21ê11e1

e11

e12

e21

e22

r1 r2

e1

e2

ê22

ê12

e2

r2r1

ê21ê11e1

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( )10660 駒大経営研究第44巻第 3・4

 以上の図示から分かることは、すべての納税者が脱税を行うナッシュ均衡だ

けが存在するのは、ケース(iii)の場合だけであることが分かる。すなわち、

それぞれの納税者について、相手が正直な納税者で脱税を行わない場合にど

れだけ自分が脱税できるかを表す額(ê11 と ê22)が、相手が公共財の供給のこ

とを考えて正直な納税者にならざるを得なくなるような自分の脱税額(ê12 と

ê21)を下回る場合のみである。それ以外の場合には、必ず、正直な納税者が

存在するナッシュ均衡が存在する。いずれにせよ、これらのケースのうちどの

ケースが生じるかは、納税者の効用関数の形状に依存すると考えられる。そこ

図 5:ケース(v)

e11

e12

e21

e22

r1r2

e1

e2

ê22

ê12

e2

r2r1

ê21 ê11e1

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( )107 61納税者の脱税行動と公共財

で、以下の節では、いくつかの効用関数形を考えて、ナッシュ均衡の性質を調

べてみる。

4.1 効用関数が Qusailinear の場合

 納税者 k の効用関数を、次の様に特定しよう。すなわち、

(26)

まず、2 人ゲームの場合、すなわち、納税者 1,2 の場合から考えてみる。この

場合には、それぞれの納税者の、それぞれの応答関数の e1 軸と e2 軸との交点

の座標を容易に計算することが出来て、

(27)

となることが分かる。したがって、

(28)

が得られる。一般性を損なうことなく、γ1 ≧γ2 と仮定してよいから、

(29)

となり、これは、ケース(iv)の場合に相当する。よって、得られるナッシュ

均衡は、

)(),( gLogcgcu kkkkk

ppttyytee

ppttyytee

2212221

1211211

)(ˆˆ

,)(ˆˆ

ppttee

ppttee

122212

122111

ˆˆ

,ˆˆ

22122111 ˆˆ,ˆˆ eeee

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( )10862 駒大経営研究第44巻第 3・4

(30)

である。すなわち、公共財に対する選好の程度の高い方の納税者 1 は、正直な

納税者となり脱税をせず、公共財に対する選好の程度の低い方の納税者 2 は、

正直な納税者の税によって供給される公共財にタダ乗りし脱税を行う、という

ナッシュ均衡が得られる。また、公共財に対する選好の程度が同じであれば、

ケース(v)の場合に相当し、無数のナッシュ均衡が存在することも分かる 9。

 次に、比較静学の結果を見てみよう。リスク・プレミアム(1)が非負で、

公共財に対する選好の程度が納税者により異なる限り、パラメーターを変化さ

せても、ナッシュ均衡は同じ種類のものになるので、この場合は比較静学の分

析を行うことが可能である。θ , p, t, についてそれぞれ、その効果を見てみる

と、次のようになる。

(31)

(32)

(33)

課徴金率θ の増加は、納税者 2 の脱税額を増やすことになり、かなり、直感

に反する結果である。これは、ひとつには、公共財の財源として課徴金が加え

られていること、もうひとつは、効用関数の形状が危険中立的である、ことな

どの理由からそうなるのではないかと思われる。脱税の摘発率 p についても

同様に直感に反する結果である。また、税率の変化については、その符号を定

2*12

22*2

*1 ,ˆ,0 g

pptteee

9 これらの結果は、本質的には、Bergsrom, Blume and Varian (1986), p 41 に述べられてい

るものと同じである。

0)1(

)(ˆ2

22122

ppttytype

0)1(

))((ˆ2

22122

ppttytyt

pe

222122

)1()1()(ˆ

pptpyyp

te

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( )109 63納税者の脱税行動と公共財

めることが出来ない。ただし、課徴金の率 θを次のように分解すれば、次の

ような尤もらしい結果が得られる。すなわち、θ = s t とすると、

(34)

 最後に、n 人の場合の、ナッシュ均衡がどのようなものか考えてみよう。一

般性を損なうことなく、

(35)

と仮定できる。このとき、

(36)

と定義すると、

(37)

が成り立つ。ナッシュ均衡は、

(38)

で与えられることは容易に分かる。すなわち、最も公共財に対する選好の程度

の低い納税者のみが脱税をし、他の納税者は正直に税を支払うというものであ

る。

4.2 効用関数が 2 次関数の場合

 この節では、納税者 k の効用関数として、次のようなものを考えよう。すな

01

ˆ 2122

pspyy

te

n21

nkpptt

yte

k

n

ii

k ,,2,1,~ 1

11~~~ eee nn

nnnk geenke *** ~,1,,2,1,0

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( )11064 駒大経営研究第44巻第 3・4

わち、

(39)

この関数が、厳密に凹である為には、

(40)

でなければならないことは簡単な計算から容易に分かる。

 以下、2 人ゲームの場合を考える。この場合には、前節と異なり、内点解が

存在し、そのような内点解をもたらす、それぞれの納税者の最適応答関数は、

簡単な計算から次のようになる。

(41)

(42)

したがって、通常のパラメーターの仮定の下では、それぞれの内点解をもたら

す最適応答関数は、右下がりの直線となることが分かる。それぞれの最適応

答関数の、e1 軸と e2 軸との交点は、簡単な計算からそれぞれ次のようになる。

納税者 1 の最適応答関数については、

(43)

(44)

2)(

5)(

2),(

22 ggcga

ccgcu kkkk

k

kkkkk

250 ka

212

111121 ˆ

ˆˆ)(ˆ eeeeer

221

222212 ˆ

ˆˆ)(ˆ eeeeer

2111

2221

2121111111

))(52())1((5

)(5))21(5())1((5)(ˆ

ppttaptpyyttyytaytapptte

)51)(()(5))21(5())1((5)(ˆ

111

212

121111112 pptta

yyttyytaytapptte

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( )111 65納税者の脱税行動と公共財

となり、納税者 2 の最適応答関数については、

(45)

(46)

となる。このとき、内点のナッシュ均衡解は、次のようになる。

(47)

(48)

4.2.1 公共財の選好度とナッシュ均衡

 ここで、ナッシュ均衡解の性質を知るために、次のようにγ1 とγ2 以外のパ

ラメーターの値を特定してみる。すなわち、

(49)

このとき、脱税行動のリスク・プレミアム、(1)式は、

(50)

となり、脱税行動そのものは納税者に利益をもたらすことに注意しよう。そこ

で、γ1 とγ2 の値を 0 から 10 まで変化させたときの、ê11 と ê21 との差の大き

さの変化を図示してみる。

)51)(()(5))21(5())1((5ˆ

122

212

212121112 pptta

yyttyytaytae

2222

2221

2212222211

))(52())1((5

)(5))21(5())1((5)(ˆ

ppttaptpyyttyytaytapptte

22112112

22122111*1 ˆˆˆˆ

)ˆˆ(ˆˆeeeeeeeee

22112112

11212212*2 ˆˆˆˆ

)ˆˆ(ˆˆeeeeeeeee

.2.1,5,7,3.0,15.0,15,20 2121 yytpaa

0075.0pptt

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( )11266 駒大経営研究第44巻第 3・4

この図からわかるように、ê11 と ê21 との差は、γ1 とγ2 の値が小さいときには、

負であり、γ1 とγ2 の値が大きくなると正になる。また、γ2 の値を固定して

おいて、γ1 の値を増やしてゆくと、ê11 と ê21 との差は、負から正に変化する。

たとえば、γ2 = 1 として、γ1 を 0 から 10 まで変化させたときそれぞれの差を

図示すると次の図 7 のようになる。

図 6:ê11 と ê21 との差

4 6 8 10 1

25

20

15

10

5

5

e11 e21

図 7:γ2 = 1 の場合

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( )113 67納税者の脱税行動と公共財

一方、ê12 と ê22 との差を同様に図示すると、次のようである。

この図からわかるように、ê12 と ê22 との差は、γ2 の値がかなり大きくて、γ1

の値がかなり小さい場合には負となるが、その他の残りの場合には概ね正とな

る。一般性を損なうことなく、γ1> γ2 と仮定できるので、γ2 の値がかなり大

きくて、γ1 の値がかなり小さい場合は無視して良く、問題の差の値は概ね正

となる。たとえば、γ2 = 1 として、γ1 を 0 から 10 まで変化させたときそれぞ

れの差を図示すると次の図 9 のようになる。

図 8:ê12 と ê22 との差

2 4 6 8 10 1

5

10

15

20

25

30

35

e12 e22

図 9:γ2 = 1 の場合

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( )11468 駒大経営研究第44巻第 3・4

よって、γ1 > γ2 の仮定のもとでの以上の推論をまとめると、次のようになる。

ê11と ê21との差は、γ1がγ2に対して相対的に大きくなってゆくと、最初負であっ

たものが正の値に変わる。一方、ê12 と ê22 との差は、γ1 がγ2 に対して相対的

に大きくなっても、常に正の値をとる。これは、γ1 がγ2 に対して相対的に大

きくなってゆくと、ナッシュ均衡は、ケース(iii)からケース( i )に変化す

ることを意味する。

 同じことは、γ2 = 1 として、γ1 を 0 から 10 までの間を 2 単位刻みで変化さ

せた時、それぞれの納税者の最適応答関数のグラフを描いてその推移を見てみ

ても確認できる。次の図 10 ~ 14 を見られたい。

10 20 30 40e1

10

20

30

40

e2

r1

r2

図 10:γ1 = 1 のとき

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( )115 69納税者の脱税行動と公共財

10 20 30 40e1

10

20

30

40

50

e2

r1

r2

図 11:γ1 = 3 のとき

10 20 30 40e1

10

20

30

40

50

e2

r1

r2

図 12:γ1 = 5 のとき

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( )11670 駒大経営研究第44巻第 3・4

10 20 30 40e1

10

20

30

40

50

e2

r1

r2

図 13:γ1 = 7 のとき

10 20 30 40e1

10

20

30

40

50

e2

r1

r2

図 14:γ1 = 10 のとき

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( )117 71納税者の脱税行動と公共財

これらの図から分かることは次のようである。納税者 2 の公共財に対する選好

度を基準としたとき(すなわち、γ2 = 1)、納税者 1 の公共財に対する選好度

( γ1 ) を徐々に増やしてゆくと、最初は、二人とも脱税を行うが、納税者 1 の

公共財に対する選好度がかなり大きくなると、納税者 2 は脱税をせず、納税者

1 のみが脱税をするナッシュ均衡に移行してゆくことが分かる。しかし、納税

者 1 の公共財に対する選好度の方が納税者 2 の公共財に対する選好度より大き

いにもかかわらず、納税者 2 が正直な納税者になるということは、これはかな

り直感に反する結果である。なぜこのようなことが起こるかというと、これは

ぞれぞれの納税者の所得制約を無視しているためと思われる。この数値例では、

それぞれの所得は、

(51)

となっている。そこで、所得制約をも考慮に入れた、それぞれの納税者の最適

応答関数のグラフを、やはり、γ2 = 1 として、γ1 を 0 から 10 までの間を 2

単位刻みで変化させて描くと、次の図 15 ~ 19 が得られる。

5,7 21 yy

e1

e2

r1

r2

y1

y2

図 15:γ1 = 1 のとき

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( )11872 駒大経営研究第44巻第 3・4

e1

e2

r1

r2

y1

y2

図 16:γ1 = 3 のとき

e1

e2

r1

r2

y1

y2

図 17:γ1 = 5 のとき

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( )119 73納税者の脱税行動と公共財

e1

e2

r1

r2

y1

y2

図 18:γ1 = 7 のとき

e1

e2

r1

r2

y1

y2

図 19:γ1 = 10 のとき

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( )12074 駒大経営研究第44巻第 3・4

したがって、この効用関数形の場合のナッシュ均衡解のひとつは、両方の納税

者とも所得全部を脱税するというものになる。このとき、公共財の供給量の期

待値は最小となり、(5)式から、

(52)

となる。

4.2.2 所得制約を考慮したナッシュ均衡のパターン

 それでは、所得の制約を考慮したナッシュ均衡解は、このタイプ以外には存

在しないのだろうか。この問題を考える為に、それぞれの納税者の行動に所得

制約が効く場合と効いてこない場合とを考え、場合の組み合わせを作ると、次

のようになる。

(53)

ここで、( i )のケースは、両方の納税者に所得制約が効いている場合であり、( ii)

と(iii)のケースは、どちらか一方の納税者に所得制約が効いている場合であり、

(iv)のケースは両方の納税者に所得制約が効かない場合である。それぞれの

場合に、どのようなナッシュ均衡が実現するかを、適当なパラメーターの値を

用いて例示してみよう。

 まず、両方の納税者に所得制約が効いている場合を見てみよう。次のような

パラメーターの値(list 1)を考えると、( i )のケースの条件が満たされるこ

とは容易に分かる。ナッシュ均衡を図示してみると、次の図 20 となる。この

例における納税者 1 と納税者 2 との違いは、公共財に対する選好度だけである

ことに注意されたい。

7.2))(( 21 yytp

222111

222111

222111

222111

ˆˆ)(ˆˆ)(

ˆˆ)(ˆˆ)(

yeandyeivyeandyeiii

yeandyeiiyeandyei

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( )121 75納税者の脱税行動と公共財

(54)

この場合には、前節の結果と違って、ナッシュ均衡は内点解になっている。す

なわち、どちらの納税者も所得の一部分だけを脱税していることになる。

 次に、ケース(ii)の場合、すなわち、納税者 1 のみが所得の制約を受けて

いる場合である。次のようなパラメーターの値を考えるとこの条件が満たされ

る。list 1 と list 2 とは、納税者の所得水準のみが異なっていることに注意され

たい。

(55)

}2.1,1,2,6.1,4,3.0,15.0,5,5{1

212121 yytpaalist

r1

r2

5 10 15e1

5

10

15

e2

図 20:どちらの納税者も所得制約下にある場合

}2.1,1,2,3,2,3.0,15.0,5,5{2

212121 yytpaalist

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( )12276 駒大経営研究第44巻第 3・4

この場合には、納税者 1 はすべての所得を脱税し、納税者 2 はその所得の一部

分を脱税する。この場合、納税者 1 は、相対的に所得は低いが、公共財に対す

る選好度は高い。

 ケース(iii)の場合、すなわち、納税者 2 のみが所得の制約を受けている場

合を見てみよう。この場合は次のパラメーターの値を想定する。

(56)

r1

r2

2 4 6 8 10e1

2

4

6

8

10

12

14

e2

図 21:納税者 1 のみが所得制約を受けている場合

}2.1,1,2,8.0,3,3.0,15.0,5,5{3

212121 yytpaalist

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( )123 77納税者の脱税行動と公共財

ナッシュ均衡は、次の図 22 で与えられる。

この場合は、前の( ii)のケースと対称的で、納税者 2 はすべての所得を脱税

し、納税者 1 はその所得の一部分を脱税する。納税者 2 は、相対的に所得が低

く、また、公共財に対する選好度も低い。

 次に、どちらの納税者も所得制約を受けない場合を見てみる。パラメーター

の値は、次の list 4 で与えられる。

(57)

この場合は、ナッシュ均衡は、内点均衡となる。すなわち、どちらの納税者も、

所得の一部分を脱税する。図 23 を見られたい。

r1

r2

2 4 6 8 10 12 14e1

2

4

6

8

e2

図 22:納税者 2 のみが所得制約を受けている場合

}2.1,1,2,7.0,1,3.0,15.0,5,5{4

212121 yytpaalist

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( )12478 駒大経営研究第44巻第 3・4

4.2.3 内点ナッシュ均衡の性質

 最後に、どちらの納税者も所得制約や非負制約を受けていない場合、すなわ

ち、内点ナッシュ均衡解の性質を調べてみよう。パラメーターの値に、(57)

の list 4 を用い、他のパラメーターの値は固定しておき、税率、t、脱税が露見

する確率、p および 懲罰率、θがそれぞれ変化した場合に 10、それが、それぞ

れの納税者の均衡脱税額や公共財の均衡供給量にどのような影響を与えるか調

べてみる。まず 4.2.3.1 節で脱税額への影響を調べ、4.2.3.2 節で公共財供給量

へ影響を調べる。

4.2.3.1 脱税額への影響

 まず、税率の脱税額への影響は、次のようである。次の図 24 を見られたい。

税率の増加は、 (1) 式で表わされる脱税行動のリスク・プレミアムを増加させ

るので、すべての納税者の脱税額が増加することが分かる。この場合の比較静

学の結果は従来のモデルと異なり、われわれの直感とも一致する結果である。

納税者 1 と納税者 2 とのパラメーターの値の違いは、納税者 1 の方が、納税者

10 ただし、リスク・プレミアムが正の範囲で、それぞれのパラメーターを変化させる。

r1

r2

1 2 3 4 5e1

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

e2

図 23:どちらの納税者も所得制約を受けない場合

Page 33: 納税者の脱税行動と公共財 滝 田 公 一repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33332/... · 金によって公共財の供給が行われているとする。納税者

( )125 79納税者の脱税行動と公共財

2 より所得が大きく、また、公共財に対する選好度が 2 倍大きい。その結果は、

納税者1の方が、納税者2より一様に脱税額が大きいということに表れている。

次に、脱税が露見する確率、p について見ると、次の図のようである。

0.4 0.6 0.8 1.0t

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

e1 ,e2

e1

e2

図 24:納税者 2 のみが所得制約を受けている場合

0.05 0.10 0.15 0.20p

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

e1 ,e2

e2

e1

図 25:脱税が露見する確率の変化の効果

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( )12680 駒大経営研究第44巻第 3・4

この場合には、p の増加は、(1)式で表わされる脱税行動のリスク・プレミア

ムを減少させるが、納税者 1 と 2 では、その効果が異なる。納税者 2 は、脱税

が露見する確率が増加すると、脱税額は減少してゆくが、納税者 1 は、脱税額

が最初増加し、次に減少するという、従来のモデルに見られない効果が見られ

る。

 最後に、懲罰率θの変化の効果を見てみる。これは、先ほどの脱税が露見す

る確率の変化の効果と、定性的にほぼ同じである。θの増加は、(1)式で表わ

される脱税行動のリスク・プレミアムを減少させるが、納税者 1 と 2 では、そ

の効果が異なる。

4.2.3.2 公共財供給量への影響

 この節では、前節と同じパラメーターの値のもとで、税率、露見の確率、懲

罰率などが公共財の供給量にどのような影響を与えるかを調べてみる。

まず、税率の効果は、次の図 27 で分かる。図から、公共財の供給量を最大に

するような税率が存在することが分かる。現在のパラメーターの値では、およ

そ、t = 0.3 である。

0.5 1.0 1.5

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

e1 ,e2

e2

e1

図 26:懲罰率の変化の効果

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( )127 81納税者の脱税行動と公共財

 次に、脱税露見の確率の効果を見てみる。次の図 28 を見られたい。

脱税露見の確率が増加すればするほど、(1)式で表わされる脱税行動のリスク・

プレミアムが減少するので脱税額は全体としては減少し、公共財の供給量は増

えることが分かる。

0.2 0.4 0.6 0.8 1.0t

0.1

0.2

0.3

0.4

g

図 27:税率の公共財供給量に及ぼす効果

0.05 0.10 0.15 0.20p

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

g

図 28:脱税露見の確率の公共財供給量に及ぼす効果

Page 36: 納税者の脱税行動と公共財 滝 田 公 一repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33332/... · 金によって公共財の供給が行われているとする。納税者

( )12882 駒大経営研究第44巻第 3・4

 同様のことは、懲罰率の変化の効果についても言える。

5. 結びに代えて

 本稿の提示した問題は、次のようなものである。すなわち、もし納税者の納

める税金で公共財の供給が賄われるということを、各納税者が意識するなら

ば、当該の公共財に対する選好度の強い納税者は脱税を行わないだろうか? 4

節の分析から分かったことは、以下の通りである。もし納税者の効用関数が、

quasilinear であるならば、公共財に対する選好度の最も低い納税者を除いて、

残りの納税者はすべて脱税をせず、正直な納税者となる。一方、納税者の効用

関数が 2 次関数である場合には、すべての納税者が何らかの脱税行為を行うば

かりではなく、場合によっては所得をすべて脱税してしまう場合すらある、と

いうことである。世の中には様々な考え方を持った納税者が居り、従って、納

税者の効用関数は、色々な形状を採りうると考えると、納税者の納める税金で

公共財の供給が賄われるということを各納税者が意識することだけでは、正直

な納税者の存在を説明することは難しいように思われる。

 本稿で提示したような問題は、本稿で考察したようなモデルでは十分分析出

0.5 1.0 1.5

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

g

図 29:懲罰率の変化の効果

Page 37: 納税者の脱税行動と公共財 滝 田 公 一repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33332/... · 金によって公共財の供給が行われているとする。納税者

( )129 83納税者の脱税行動と公共財

来ないのかもしれない。別の分析枠組み、例えば、まず脱税をするかどうかを

決定し、次に、脱税を行うならどれだけ脱税するかを考えるような 2 段階ゲー

ムや、不確実性を明示的に取り入れたベイズ・ゲームの枠組みで分析すること

の方が望ましいかもしれない。このような試みについては、他日を期したい。

6. References

Allingham, M. and A. Sandmo (1972), “Income tax evasion: A theoretical analysis”, Journal of Public Economics 1:323-338

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