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006 環境管理│ 2019 年 2 月号│Vol.55 No. 2 インタビュー 特集 1 なぜ、日本は 石炭火力発電の活用を つづけているのか? 資源エネルギー庁にきく インタビュー

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006 環境管理│2019年 2月号│Vol.55 No. 2

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特集 1

なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?

資源エネルギー庁にきくインタビュー

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なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?

写真:「環境負荷低減」と「エネルギー効率向上」を世界最高水準で両立した磯子火力発電所(提供:J-POWER)

取材・文:本誌編集部/写真・図提供:経済産業省 資源エネルギー庁

 「パリ協定」では「 2℃目標」が設定され、世界は「低炭素」から「脱炭素」へと舵を切った。これを受けて、化石燃料産業から投資を撤退する「ダイベストメント」の動きがヨーロッパ系の金融機関から広がっており、電力については石炭火力発電からの撤退の動きがみられる。 こうした動きの中、日本では震災以降、現在も多くの石炭火力発電所の計画が進行中であり、世界の流れに逆行しているといわれている。しかし、石炭火力が持つ様々なメリットを考えれば、日本にとって引き続き重要な選択肢であり、逆に世界の温室効果ガス削減に貢献する技術といえる。 本稿では、エネルギー政策における石炭火力発電の重要性から、建て替え(増

設)の必要性、石炭火力発電を使わざるを得ない新興国への技術提供による国際貢献等について、経済産業省 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 電力基盤整備課 岡田莉奈係長と、同資源・燃料部 石炭課 東谷佳織係長にお聞きした。

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止まらない日本バッシング

 「温室効果ガスを大量に排出する石炭火力を国内に新設・稼働し、さらに新興国に輸出しようとしている」──近年のCOPでは必ずこのような「日本叩き」が行われる。化石燃料からの投資撤退を表明した運用機関は約 1,000を上回り、それに応じて世界中の企業が石炭・石油・天然ガスからの「撤退」を続 と々表明している。 だが実際に「脱化石燃料」、「脱石炭」等で国家は安全に運営できるのか。CO2 削減に見合った「脱化石」のメリットは本当にあるのか。エネルギーについての冷静な議論は、いわゆる「世界の流れ」とは別に検討しなければならない。

「我々は、安全性(Safety)を大前提として、自給率(Energy

Security)、経済効率性( Economic Efficiency)の向上、環境適合( Environment)を同時達成するべく、取り組みを進めています。その『 3E+S』を基本において、エネルギー源ごとの強みが最大限に発揮され、弱みが補完されるよう、多層的なエネルギー供給構造を実現することが不可欠です。 そのために描かれたのが『2030 年度のエネルギーミックス』です。また、エネルギーミックスを実現すると同時にCO2 削減目標を達成することが重要であり、それに向けて『 電力事業者の自主的枠組み』があり、政府としては『それを支える仕組み』を整えています」(岡田係長)

エネルギーの安全保障とは──各国で異なるエネルギーのポートフォリオ

 2011 年の東日本大震災以降、日本は「エネルギー自給率の低下」、「電力コストの上昇」、「CO₂ 排出量の増加」などの課題に直面している。 どの国にとってもエネルギーの安全保障は重要な問題である。1973 年のオイルショックによる社会の混乱を持ち出すまでもなく、エネルギーは日々 の生活や企業の活動、社会インフラにとって 24 時間、365日安定して供給されることが大前提であり、まさに国民のライフラインである。 ところが、日本のエネルギー自給率は 8%と非常に低い(図 1)。国産エネルギーとして太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーに期待が高まっているが、1 次エネルギーに占める割合は 7%に届かず、水力を加えても10%程度にしかならない(図 2)。原子力発電は東日本大震災での原発事故を受けてほぼ止まった状態であり、今後も化石燃料が主要なエネルギー源である状況に変わりはない。 だが、化石燃料は日本にはほとんどなく、エネルギー資源の大部分は諸外国からの輸入に頼らざるを得ない。また日本は島国であるため、パイプラインや国際送電線によって他の国と連結することが難しいという地理的リスクを抱えている。ヨーロッパのような地続きの国々は、天然ガスのパイプラインや送電線を国際的に連結し、需給

図1/世界各国のエネルギ自給率の比較

(出典:第 2 回エネルギー情勢懇談会参考資料( 1 次エネルギー。IEA Energy Balances 2017。日本の自給率は資源エネルギー庁推計))

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時に満たすことがエネルギーの安全保障につながる(図

2)。 とはいえ、一つのエネルギー源で「 3E+S」を完全に満たすことは難しいため、各国はさまざまなエネルギー源を組み合わせて、戦略的にエネルギー政策を決定している。つまりは、エネルギー政策はその国が保有する資源や自給率、地理的な条件などを踏まえて考えていく必要があるということである。

のバランスに応じて互いにエネルギーの売買を行うことができる。国内で必要な電力をすべて自国でまかなうだけの設備容量を持つ必要は必ずしもないのである。しかし島国の日本では、常時必要となる設備容量のすべてを国内で備える必要がある(図 3)。 日本のエネルギー政策を考えるうえでは、このような状況に合わせたエネルギーのポートフォリオを考えなければならない。その前提が「 3E(エネルギーの安定供給、経済効

率性の向上、環境への適合)+S(安全性)」であり、これらを同

図2/ 3E+Sとエネルギーミックス

(出典:資源エネルギー庁)

図3/各国の国際的エネルギー連結の状況

(出典:エネルギー情勢懇談会資料より作成)

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石炭という選択肢──安定して、長く使える

 では、日本のエネルギーのポートフォリオはどうなっているのか。 2016 年度のポートフォリオは、化石燃料依存度は89%、うち、石油が 39. 7%、天然ガスが 23. 8%、石炭が 25. 4%となる(図 2・第 1 次エネルギー供給ベース)。 原油はサウジアラビアやアラブ首長国連邦等の中東などに約 86%依存しているが、天然ガスは東南アジアやオーストラリアなど、より日本に近く政情が安定している地域から輸入できる。さらに石炭は、賦存地域(天然資

源が理論上は存在していると算定されている地域)が世界中に広く分散しており、供給の安定性が高くなる(図 4)。 多様なエネルギー資源を多様な地域から調達すれば、一部地域で混乱があっても供給が途絶えるリスクは低減する。

「石炭は、欧州・ユーラシア、北米、アジア大洋州など

地理的にバランスよく分散しており、供給の安定性が高いといえます。石油や天然ガスと比べて、地域による偏在が少なく、地政学的リスクの高い中東に依存する必要がないことから、エネルギーセキュリティを向上させることが可能です」(東谷係長)

多様な燃料をバランスよく使うことがエネルギーの安定供給に貢献

 では、ほかの化石燃料と比較してみよう。石炭は、経済的に採掘できる年数(可採年数)がほかの化石燃料に比べて約 3 倍、153 年と長い(図 5)。また、熱量あたりで比較すると、原油やLNGに比べて価格が 1/2~ 1/3と安価であり、価格の変動も少ないため、発電コストの低いエネルギー源として活用することができる(図

6)。 さらに、石炭は常温で固体であり、LNGのように揮

図4/日本の化石燃料の輸入先と中東依存度(ホルムズ依存度)

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図5/石炭の可採年数・地域別資源埋蔵量

(出典:BP統計2018)

図7/在庫水準の比較(2017 年 3 月末)

(出典:電力調査統計、ガス事業生産動態統計調査)

図6/燃料価格の推移

(出典:一般財団法人 日本エネルギー経済研究所)

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 横浜市にある磯子石炭火力発電所は「クリーンコール技術」とよばれる技術を活用し、2002 年のリプレース

(建て替え)前に比べて、窒素酸化物( NOx)92%、硫黄酸化物( SOx)83%、粒子状物質( PM)90%と大幅な削減に成功した(図 9)。また日本は世界でも最高効率の発電技術(USC:超々臨界圧)を持っており、少量の燃料で多くの電気をつくることができる。当然、排出されるCO2

の量も大幅に削減されることになる(図 10)。 また、インド、東南アジア諸国を中心とした新興国では、経済発展とともに今後も石炭火力発電のニーズが拡大する見通しとなっているが、日本は新興国のニーズに応じてこのクリーンで高効率な石炭火力発電技術の導入を支援することによって、各国のエネルギー安全保障を担保するのと同時に、CO2 削減、大気汚染物質削減に貢献することができる。 ちなみに、日本で商用化されているUSCを中国やインド等アジアの国 と々米国の石炭火力に適用すると、CO2

削減効果は約 12 億t(11. 8 億t)にのぼるという試算がある。これは、日本全体のCO2 排出量(約 13 億t)に匹敵する規模となるという。

「諸外国から要請があった場合には、相手国のエネルギー政策はもちろん、気候変動対策にも見合うかたちで、高効率石炭火力発電の導入を支援しています。導入を支援するのは原則的に世界で最新鋭であるUSC(超々臨界圧)以上の発電設備となります。また、経済協力開発機構( OECD)が定めた、石炭火力発電への支援方法に関するルールに基づいています」(東谷係

長)

 高効率化に向けた次世代技術としては、USCのほかに「コンバインド・サイクル発電」、「石炭ガス化複合発電(IGCC)」、「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」

発せず、爆発の危険性も低いことから、保管が容易であるというメリットも持っており、日本国内には約 1 か月分の在庫が存在している(図 7)。 このように石炭は、ほかの化石燃料よりも高い安定供給性、経済性を持つといえる。電源の供給においてこの安定供給性、経済性は非常に重要なマターとなる。電気を安定して使うには、常に発電量(供給)と消費量(需

要)を同じにする必要があるのだが、発電量の不安定な再生可能エネルギーの出力の上下に対応するには、火力発電等で発電量と消費量のバランスをとらなければならない。一定量の電力を安定的に低コストでつくることのできる電源を「ベースロード電源」というが、石炭は化石燃料の中で地政学的リスクが最も低く、熱量あたりの単価も最も安いことから、重要なベースロード電源と評価されている(図 8)。

「さまざまな輸送ルートで輸入した多様な燃料を使い分けることができれば、リスクを分散させ、エネルギー供給の安定性を向上させることにつながります。その中でも石炭は、エネルギー自給率の低い日本にとって、とても重要なエネルギー資源だといえます」(東谷係長)

石炭火力発電の「輸出」は国際貢献につながる

 日本が国際的な非難を受けている理由に、石炭火力を国内に新設・稼働し、「さらに新興国に輸出しようとしている」というのがある。だがこの「輸出」は、実は世界のCO2 の削減、地球温暖化対策へとつながっている。それは技術の供与による「国際貢献」である。

図8/ベースロード電源

(出典:資源エネルギー庁)

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などがある。日本の高効率石炭火力発電によるCO2 排出量はLNG火力発電や石油火力発電よりは多いものの、世界の石炭火力発電の平均より少なく、USC、IGCC、IGFCと、技術の進化に伴い低炭素化はさらに進んでいる(図 10)。

高効率化のための三つの制度──省エネ法、高度化法、自主的取り組み

 さらに批判の的となっているのは、石炭火力発電所の「新設」だ。

図9/磯子石炭火力発電所「クリーンコール技術」による大気汚染物質の削減

(出典:資源エネルギー庁)

図10/世界における火力発電のCO2 排出量の比較

(出典:電力中央研究所報告書(2016)や各研究事業の開発目標をもとに推計、国内USCについては最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況(BATの参考表)をもとに算出、海外については、「CO2 Emissions from Fuel Combustion 2016」をもとに算出)

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 2018 年 3 月末時点での日本における石炭火力発電所の増設計画は、1,673 万kW、30 機となるが、それは日本全体で火力発電の高効率化を進めようとしているからである。古くて発電効率の悪い火力発電に代えて、

「クリーンコール技術」を活用した、発電効率の高い新たな火力発電を導入することで発電設備の新陳代謝を進め、CO2 排出量も減らしていくことが目的で、逆にいえば現在の建設計画をすべて中止させてしまうと、古くて発電効率の悪い発電設備が残ったままになるおそれがある。 それら「新設」、「リプレース」による発電の高効率化と、それによる低炭素化の実現のために、国と電力業界は三つの制度、取り組みを設定した。

「省エネ法では発電効率を向上させることが求められています。だから、新しく建設する火力発電については、世界で最新鋭であるUSCに相当する発電効率が必須となります。既存の設備を含めた火力発電全体の 2030年度時点における平均効率については、石炭火力だけでは達成することが困難な基準が求められていますので、実質的には新しく建設する火力発電の高効率化を義務づけ、ガス火力発電の活用をうながし、石炭火力発電を火力発電全体の半分未満におさえることが求められているということです」(岡田係長)

 さらに、非化石エネルギー源の利用拡大、および化石燃料の高効率化による有効利用を促進することを狙うしくみとして、通称「エネルギー供給構造高度化法(高

度化法)」という制度がある。高度化法では、小売電気事業者に対して、供給する電気のうち「非化石電源(非

化石エネルギーを使って発電する方式)」でつくられた電気が占める比率(非化石電源比率)を、2030 年度に 44%以上にするよう求めている。

 この二つの法律に、電力会社 10 社と新電力会社など電力業界が策定した「電気事業における低炭素社会実行計画」を含めた三つの取り組みによって、火力発電の高効率化についての実効性と透明性が確保される

(図 11)。「これら三つの取り組みが相互に作用しあって『三位一体』となって機能することによって、2030 年度のエネルギーミックスやCO2 削減目標の達成につなげていくことになります」(岡田係長)

「欧州をはじめとした脱石炭の流れの中、石炭に対する風当たりは強くなってきています。再エネの普及などで石炭利用は将来的には減っていく流れにありますが、3E+Sの観点からも引き続きなくてはならないものです。エネルギーを使っていく中で、あらためて日本における石炭の役割について考えていただければと思います」

(東谷係長)

図11/電力事業者の自主的な枠組みと、支えるしくみ

(出典:資源エネルギー庁)