20130116 SKL Commentary...ウエスタン・アセット 2 2013年1月 市場コメント...

5
ケン・リーチ © Western Asset Management Company 2013.  当資料の著作権は、ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタ ン・アセット」という)に帰属するものであり、ウエスタン・アセットの顧客、その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人のみを対象として 作成されたものです。第三者への提供はお断りいたします。当資料の内容は、秘密情報及び専有情報としてお取り扱い下さい。無断で当資料のコピーを 作成することや転載することを禁じます。 金融危機後、当社が投資の前提としてきたのは、世界経済の回復は続くものの極めて 緩慢であり、低成長にもかかわらずシステミック・リスクに起因するリスクプレミアムは 徐々に低下する、との見方である。そうしたシナリオに沿えば、回復は二進一退の展開 となるだろう。潜在的なリスクや度重なる危機の発生で、より積極的なポジショニングの 見直しや更なる分散投資戦略が必要になると言われていた。だが、当社が力強い回復 を確信していた資産クラスは唯一投資適格社債であった。過去数年間にわたり当レポー トで述べてきたように、同アセットクラスは金融危機時に最も過小評価されていた。市 場に織り込まれたデフォルト率は、最も大きな時に大恐慌の際の実際のデフォルト水 準の数倍に達するほどで、社債スプレッドのボラティリティは非常に激しいものとなっ た。それでも、イールドスプレッドが25年間の平均に戻る中で(図表2)、社債は見事と しか言いようのない高いリターンを付けている(図表1)。 当社では、投資家はシステミック・リスクとシクリカルなリスクの両面を慎重に見極め る必要があることを特に強く主張してきた。リスク資産に大幅なリスクプレミアムが 織り込まれると、ロングを解消しようとする傾向が強まる。しかし、システミック・リス クが後退すると、恐慌時に迫るバリュエーションを活用するニーズが、成長が予想を 下回った場合に慎重姿勢をとるという従来の考え方を上回った。昨年の例もそうした 事例を示すものだった。米国や世界の成長は年央に大幅に悪化したが、欧州を中心に、 システミック・リスク再燃の可能性は政策対応によって抑えられた。テールリスクが更 に後退する中、潜在成長率を下回る成長になる可能性があるという妥当な懸念に基 づくディフェンシブな戦略を、異例のバリュエーションに基づくロング継続の戦略がま たしても勝った。 過去数年間の極めて好調な社債のリターン(図表1)が繰り返されることはないだろう。 長年にわたり利益を生み出してきた平均回帰の動きは既に過去のこととなり、現在は 0 5 10 15 20 パーセント(%) 1年間トータル・リターン 2009‒2012年トータル・リターン 2009 18.7 2010 9.0 2011 8.1 2012 9.8 11.3 2009–2012 市場コメント このウェリントンという男はなんとも愚かで、自分が敗れたことに気づかず、戦い続けている。 ~ナポレオン・ボナパルト 20131 出所:バークレイズ 図表1 米国投資適格社債

Transcript of 20130116 SKL Commentary...ウエスタン・アセット 2 2013年1月 市場コメント...

Page 1: 20130116 SKL Commentary...ウエスタン・アセット 2 2013年1月 市場コメント 「この先どこへ向かうのか?」と問う段階にきている。システミック・リスクは大幅に減退

ケン・リーチ

© Western Asset Management Company 2013.  当資料の著作権は、ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタン・アセット」という)に帰属するものであり、ウエスタン・アセットの顧客、その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人のみを対象として作成されたものです。第三者への提供はお断りいたします。当資料の内容は、秘密情報及び専有情報としてお取り扱い下さい。無断で当資料のコピーを作成することや転載することを禁じます。

金融危機後、当社が投資の前提としてきたのは、世界経済の回復は続くものの極めて緩慢であり、低成長にもかかわらずシステミック・リスクに起因するリスクプレミアムは徐々に低下する、との見方である。そうしたシナリオに沿えば、回復は二進一退の展開となるだろう。潜在的なリスクや度重なる危機の発生で、より積極的なポジショニングの見直しや更なる分散投資戦略が必要になると言われていた。だが、当社が力強い回復を確信していた資産クラスは唯一投資適格社債であった。過去数年間にわたり当レポートで述べてきたように、同アセットクラスは金融危機時に最も過小評価されていた。市場に織り込まれたデフォルト率は、最も大きな時に大恐慌の際の実際のデフォルト水準の数倍に達するほどで、社債スプレッドのボラティリティは非常に激しいものとなった。それでも、イールドスプレッドが25年間の平均に戻る中で(図表2)、社債は見事としか言いようのない高いリターンを付けている(図表1)。

当社では、投資家はシステミック・リスクとシクリカルなリスクの両面を慎重に見極める必要があることを特に強く主張してきた。リスク資産に大幅なリスクプレミアムが織り込まれると、ロングを解消しようとする傾向が強まる。しかし、システミック・リスクが後退すると、恐慌時に迫るバリュエーションを活用するニーズが、成長が予想を下回った場合に慎重姿勢をとるという従来の考え方を上回った。昨年の例もそうした事例を示すものだった。米国や世界の成長は年央に大幅に悪化したが、欧州を中心に、システミック・リスク再燃の可能性は政策対応によって抑えられた。テールリスクが更に後退する中、潜在成長率を下回る成長になる可能性があるという妥当な懸念に基づくディフェンシブな戦略を、異例のバリュエーションに基づくロング継続の戦略がまたしても勝った。

過去数年間の極めて好調な社債のリターン(図表1)が繰り返されることはないだろう。長年にわたり利益を生み出してきた平均回帰の動きは既に過去のこととなり、現在は

0

5

10

15

20

パーセント(%)

1年間のトータル・リターン 2009‒2012年のトータル・リターン

2009

18.7

2010

9.0

2011

8.1

2012

9.811.3

2009–2012

市場コメント

このウェリントンという男はなんとも愚かで、自分が敗れたことに気づかず、戦い続けている。 ~ナポレオン・ボナパルト

2013年1月

出所:バークレイズ

図表1米国投資適格社債

Page 2: 20130116 SKL Commentary...ウエスタン・アセット 2 2013年1月 市場コメント 「この先どこへ向かうのか?」と問う段階にきている。システミック・リスクは大幅に減退

ウエスタン・アセット 2013年1月2

市場コメント

「この先どこへ向かうのか?」と問う段階にきている。システミック・リスクは大幅に減退したが消えておらず、成長が潜在成長率を下回る懸念は続くという見解は、ファンダメンタルズを割り引いて考える必要が依然としてあることを示唆している。増配や株式買い戻し、およびM&A活動の活発化が示すように、企業の極端に慎重な経営姿勢はそろそろピークを迎えているのかもしれない。

社債のボラティリティも真剣に検討する価値のあるテーマである。現在僅かな利回りの向上しか期待できない状況を踏まえると、スプレッドがどの程度拡大すると、トータルリターンが米国債と同じ水準まで低下するのだろうか。より重要な点は、その可能性を評価するために何時のボラティリティを基準にすべきなのかである。金融危機とその後の拡大されたボラティリティを使うと、現在のイールドスプレッドのメリットは極めて小さく見える。

こうした状況を背景に、当社は引き続き社債のオーバーウェイトを削減し、現在のスプレッド環境における思わしくないリスク/リターン特性に見合うように調整している。しかし依然として、ある程度のオーバーウェイトは維持すべきだと考えている。バリュエーションはシステミック・リスクに対するクッションの役目をまだ果たしている。世界および米国で現在進行中の景気回復は、リスクの水準が今後も低下することを示唆している。格付け機関はそれよりかなり慎重だが、企業のバランスシートと足元のキャッシュフローの状況は極めて好調である。そうした中、過去2年間デフォルトが起きていないという事実は示唆に富む。つまり、リスクが後退すれば、ボラティリティも低下するということだ。

経済を再び成長させるため、ゼロ%に近い政策金利とマイナスの実質金利という徹底した金融緩和策を行った中央銀行の対応も、イールドスプレッドを抑える強力な威力を発揮している。6%近い大幅なGDPギャップからみて、そうした政策金利はFRBが示した2015年というガイダンスを超えて続く可能性もある。利回りを追求する投資家は、投資している債券の信用の質を下げるか、イールドカーブの更に長期セクターにシフトするかの選択を迫られている。多くの投資家にとって(成長見通しに極めて悲観的な投資家にとってさえ)最も容易なのは、リスクの高い資産や長期債ではなく、信用力を若干引き下げて投資適格社債を選ぶ方法であろう。スプレッドのボラティリティは厄介な問題かもしれないが、最終的に資産が保全される可能性は極めて高い。最近の状況が続き、FRBが政策金利の先行き見通しに忠実であり続けるなら、スプレッドの縮小は減速するものの持続するだろう。

2011/11/30:+225 bps

+131 bps

1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011

長期平均¹: +126 bps

600

500

400

300

200

100

0

オプション調整後スプレッド

(bps

)

図表2バークレイズ米国クレジット・インデックス:オプション調整後スプレッド

出所:バークレイズ 2012年12月31日現在 過去の景気後退期を色付けしています。11989年6月からの月次平均値。

Page 3: 20130116 SKL Commentary...ウエスタン・アセット 2 2013年1月 市場コメント 「この先どこへ向かうのか?」と問う段階にきている。システミック・リスクは大幅に減退

ウエスタン・アセット 2013年1月3

市場コメント

これは、スプレッド・ボラティリティのために利回りの緩やかな上昇を受け入れるという究極の課題である。歴史的に見て、投資適格社債は低リスクの資産クラスとみなされてきた( その通りではあるが、最近の経験を踏まえると今や必ずしもそう単純には言い切れない)。投資家は、低い流動性と最小のデフォルトリスクと引き換えに、僅かに高い利回りを受け入れてきた。誰もが知っているファイナンスの基本だが、利回り向上が僅かなら流動性の低下は極めて小幅で、イールドスプレッドのボラティリティは極めて低く抑えられるはずである。現在の状況はここから大幅に外れているが、最終的には、そこが目指していた方向ではないのか。スプレッドの変動が激しいハイイールド債やエマージング債市場などの高リスクセクターと異なり、最終的な元本返済の確実性の高さは、ボラティリティの大幅な低下を示唆する。それだけでなく、リターン特性が異なる可能性も考えられる。当社が以前レポートで取り上げた、日本の過去18年間の経験や、米国の1930年代後半の経験を思い出してほしい。いずれのケースも、最も悲観的な予測をも超える未曽有の不況だったにもかかわらず、投資適格社債は驚くほど高いパフォーマンスを記録した。

簡単に言えば、投資適格社債は米国債市場や株式市場の代替なのか、ということだ。低成長環境でも、システミック・リスクが後退すれば(日米の過去の例が示すように)、投資適格社債は力強いパフォーマンスを続けるだろう。そこで「システミック・リスクの後退は続くのか?」という点が重要になる。政策当局による銀行セクターへの対応や、金融政策面の取り組みは、テールリスクを十分に断ち切ることができたのか。それとも、あまりに失望的な成長により、新たな政策が次 と々打ち出されても、世界経済は危機に逆戻りしてしまうのか。

確かに、米国債を大幅に上回る超過リターンは過去のものとなり、リスク/リターン特性は以前に比べて遥かに不利になっている。リスクを抑えるためにはポジションの規模を削減する必要がある。それでも、イールドスプレッドは異例なことに縮小に向かうだろう。

思い出を辿る米国のコア運用の標準的な運用指針により、1970年代初め(債券のアクティブ運用ビジネスが始まった時期)から金融危機発生までは、ポートフォリオのデュレーションの取り方は厳し

く制限されてきた。通常は最大でベンチマークのデュレーションの±1年以内に制限されていた。その理由は、ファンドマネジャーがデュレーション・リスクを2年取り、金利が予想と反対方向に400bp動いた場合、8%の損失を被ることになるためだった。当時の金利変動は大幅で、400bpの変動は珍しくなかった。1980年には、短期金利は年前半に1000bp以上低下し、年後半の反発は100bpに留まった。中期ゾーンの金利(コアの運用のデュレーションをより反映している)の動きはそれほど大幅ではなかったものの、1970年代および1980年代には数百bpの変動は当たり前であった。長期金利の変動はより小幅だったものの、1981年9月には20年債の入札で金利は15.75%に達した。価格が大幅に変動する中、金利が予想と反対方向に大きく変動した場合、パフォーマンスに対して致命的な影響となった。

この注目に値する状況の結果、この期間のリスク、そしてもちろんリターンの主な源泉は金利、イールドカーブ、コンベクシティの管理であった。債券運用会社は、金利リスク管理の極めて高い技術が求められた。実際、債券運用会社のトップはほぼ全員が金利に関して非常に豊富な経験を持っていた。

これに対して投資適格社債の標準的な運用指針に制約はなかった。保有総額に対する比率などの制限は課されていなかった。それはなぜか。イールドスプレッドのボラティリティが極めて低かったからである。投資適格社債のインデックスにあまり動きはなかった。確かに、景気が低迷する環境でスプレッドが予想に反して25bp拡大する可能性はあり、その場合に1年間の超過スプレッド・デュレーションを持っていると、パフォーマンスに悪影響を与える

(25bp)可能性はある。しかし、スプレッド・ボラティリティによる損益への影響は、特定銘

Page 4: 20130116 SKL Commentary...ウエスタン・アセット 2 2013年1月 市場コメント 「この先どこへ向かうのか?」と問う段階にきている。システミック・リスクは大幅に減退

ウエスタン・アセット 2013年1月4

市場コメント

柄のリスクほど重視されなかった。一方、大規模な個別銘柄のリスクを取るために、運用担当マネジャーはボトムアップのクレジット調査を駆使する必要があった。彼らの運用能力の判断基準は、長期的に元本割れを回避しつつ銘柄選択できるか否かであり、スプレッド・ボラティリティ・リスクの管理ではなかった。

投資適格社債において、デュレーション・リスクをアウトライトで1年間保有する場合と、スプレッド・デュレーションを1年間保有する場合のリスクを比較し、図表3に示した。金融危機発生までの30年間では、金利リスクがスプレッド・デュレーション・リスクを上回り、最大で10倍に達した時も数回あった。こうした環境では、金利の動きを注視し、ボトムアップの調査を組み合わせることで、状況に相応しい優れた対応が可能となった。成功のためには、金利リスクを明確に管理しながら金利動向の方向性を正しく見極めることが第一で、それに加えて、銘柄選択と綿密なクレジット調査を通じてリターンの向上を目指した。

バック・トゥ・ザ・フューチャー?これと比較対照すると、現在の環境ではスプレッド・デュレーションのボラティリティが金利の変動を上回っている。仮に投資家が1年間の金利リスクを追加し、金利が予想と反対方向に50bpという現時点では大幅と思える動きをした場合、損失は50bpだけである。これに対してスプレッド・デュレーションは過去数年間に数百bp変動した。つまり相対的なリスクは完全に逆転したことになるが、こうした状況は続くのだろうか。今のところ、数年にわたり短期金利をほぼゼロ%に抑えている金融政策がそうなる可能性を下支えしている。しかし、政策の効果が持続すれば、社債の信用リスクは低減し、その一方で金利のボラティリティは再び上昇し始めるだろう。

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

10

8

6

4

2

0

レシオ

3年間移動平均レシオ

図表3デュレーション・ベットの相対リスク*対クレジットスプレッド・ベット

出所:バークレイズ、ウエスタン・アセット*一年間の超過スプレッド・デュレーションを複数年保有する場合の、対バークレイズ総合インデックスのトラッキングエラー。

Page 5: 20130116 SKL Commentary...ウエスタン・アセット 2 2013年1月 市場コメント 「この先どこへ向かうのか?」と問う段階にきている。システミック・リスクは大幅に減退

ウエスタン・アセット

リスク・ディスクロージャー

© Western Asset Management Company 2013. 当資料の著作権は、ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタン・アセット」という)に帰属するものであり、ウエスタン・アセットの顧客、その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人のみを対象として作成されたものです。第三者への提供はお断りいたします。当資料の内容は、秘密情報及び専有情報としてお取り扱い下さい。無断で当資料のコピーを作成することや転載することを禁じます。

過去の実績は将来の投資成果を保証するものではありません。当資料は情報の提供のみを目的としており、作成日におけるウエスタン・アセットの意見を反映したものです。ウエスタン・アセットは、ここに提供した情報が正確なものであるものと信じておりますが、それを保証するものではありません。当資料に記載の意見は、特定の有価証券の売買のオファーや勧誘を目的としたものではなく、事前の予告なく変更されることがあります。当資料に書かれた内容は、投資助言ではありません。ウエスタン・アセットの役職員及び顧客は、当資料記載の有価証券を保有している可能性があります。当資料は、お客様の投資目的、経済状況或いは要望を考慮することなく作成されたものです。お客様は、当資料に基づいて投資判断をされる前に、お客様の投資目的、経済状況或いは要望に照らして、それが適切であるかどうかご検討されることをお勧めいたします。お客様の居住国において適用される法律や規制を理解し、それらを考慮する責任はお客様にあります。

ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社について業務の種類: 金融商品取引業者(投資運用業、投資助言・代理業、第二種金融商品取引業)登録番号: 関東財務局長(金商)第427号加入協会: 一般社団法人日本投資顧問業協会(会員番号 011-01319) 一般社団法人投資信託協会