「医学哲学が生きる医療」 - miyazaki-u.ac.jp発表演題...

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発表演題

「感覚の疎外-自閉症の子どもの現象学的考察-」

「志向性を用いた精神疾患の定義は妥当なのか」

「日本における「東洋医学」の多様化をめぐって」

第 10回 九州医学哲学・倫理学会 学術大会

「医学哲学が生きる医療」 とき:2019年9月7日(土) 13:00~16:55

場所:産業医科大学 2 号館 2 階 2201 講義室

北九州市八幡西区医生ケ丘1-1

主催:日本医学哲学・倫理学会 九州支部 連絡先:九州医学哲学・倫理学会 事務局

(熊本大学 文学部 総合人間学科 佐藤岳詩研究室)

Mail:sattake@kumamoto-u.ac.jp

来 聴 歓 迎

第10回九州医学哲学・倫理学会学術大会 プログラム

大会テーマ 「医学哲学が生きる医療」

日時:2019年(令和元年)9月 7日(土)13:00~16:55

会場:産業医科大学、2号館(北九州市八幡西区医生ケ丘 1-1)

主催:日本医学哲学・倫理学会 九州支部

開会式 13:00~13:05

演題発表①

13:10~13:40

感覚の疎外-自閉症の子どもの現象学的考察-

筑紫女学園大学 中野 桂子

演題発表②

13:45~14:15

志向性を用いた精神疾患の定義は妥当なのか

九州大学 後藤 真理子

演題発表③

14:20~14:50

日本における「東洋医学」の多様化をめぐって

日本医療大学 森口 眞衣

総会 14:55~15:25

休憩 15:25~15:30

特別講演 ビハーラ病棟における医学哲学の実践

15:35~16:45 福岡恵病院常勤顧問・九州大学名誉教授 吉田 眞一

閉会式

16:50~16:55

✴ 懇︎親会

18:00~20:00

会場 natural kitchen & café irodori

(北九州市八幡西区大浦 1丁目 11-16 トリムビル 102 ℡093-883-9326)

懇親会費 4,000円

演題発表 予稿

「感覚の疎外-自閉症の子どもの現象学的考察-」

中野 桂子 (筑紫女学園大学)

本論文は、自閉スペクトラム症(自閉症とその近縁の障害)、いわば自閉症のある東田直

樹の手記を対象としている。東田の手記を対象としたのは、東田の自閉症が重度であり、し

かも手記が幼年期から青年期にわたって綴られているからである。東田の手記には「感覚

の疎外」を思わせる記述が数多く掲げられている。これらの記述には、本来人に具わってい

る感覚が閉ざされ、働いていない事態が現れている。このような事態は感覚の疎外と称して

よい。東田直樹は、生理・病理における何らかの疾患が生む症状をもって、この疎外をいか

に生きぬいているのか。本研究はこの問いを明らかにする現象学的考察である。

東田君は手記で語っている。

人を見かけたら「こんにちは」を言うだけのどこが難しいのか、みんなは不思議に感じるでし

ょう。 僕には人が見えていないのです。

僕には聞こえないのです。 音は聞こえているけれど、意味になって頭の中に入ってこない

のです。

花などを見た時には、花びらの一枚一枚やおしべ、めしべなど、花全体というより部分が目

についてしまいます。

例えば、蝶を見ます。すると蝶と判断する前に、蝶の羽の白い色が目の中に飛び込んでくる

のです。

東田君には知覚がバラバラに分断されている。脳神経生理学は、ここに複雑な疾患を見

る。それには大脳皮質の連合野にある側頭葉の疾患や右頭頂葉皮質の疾患、あるいは言

語野のブローカ野(運動)とウェルニッケ野(感覚)とをつなぐ神経線維(弓状束)の障害など

があげられている。このような障害にもかかわらず、それと闘いながら生きる姿が東田君に

はある。それは疾患を受け容れながら、それを乗り越える姿である。それを可能にするのは、

東田君が自分の症状を知り、それを文字で表現することができることにある。

母親は、東田君に筆談を試み、文字盤・言葉のカードをつくり、絵本をつくり、言葉を必死に

教えている。途方もない労苦によって東田君は文字を覚え、文を書き、自分の考えや思い、

苦しみや喜びを表すようになっている。人間の感覚の疾患は、それ自体を直すことはできな

い。だが、感覚の疎外は克服することができる。

「志向性を用いた精神疾患の定義は妥当なのか」

後藤 真理子 (九州大学)

本発表の目的は、精神疾患概念の定義問題についての複数の議論を整理し、それらを吟

味することにある。

1960 年代に精神疾患の実在性に疑問を投げかける反精神医学の運動が興ったのは周知

の事実であろう。その運動に連動し、D.ローゼンハン、T.サズ、R.D.レインといった研究者や精

神科医が「精神疾患」というカテゴリーを退けるために様々な論点を提出した。しかしながら、

彼らの主張については一定の正当性のある反論が出されているという点、また 1980 年に操

作的診断基準を導入したDSM-Ⅲが出版されたという点などから精神疾患の実在性について

の議論は下火となっていった。

むろん、それでもなお精神疾患の実在性について問うことには一定の価値があるように思

われる。その理由として挙げられるのが、DSM-5 において示唆されているアメリカ精神医学

会(APA)の大幅な方向転換である。この方向転換はディメンジョナル・アプローチと呼ばれ、

従来の表面上の性質の有無によって精神疾患であるか否かを区別するカテゴリー(範疇/類

型)的分類に代わり、ディメンジョン(次元/特性)的モデルを採用するというアプローチである。

このような潮流の中で、精神疾患の実在性は再び揺らいでいるように思われる。なぜなら、精

神疾患がディメンジョナルなものであるならば、我々の精神疾患の分類は恣意的なカテゴライ

ズであり、哲学的に言えば精神疾患は実在しないという結論に至る可能性が生じるからであ

る。

精神疾患の実在性について問う方法としては、以下の2つのものが考えられる。ひとつは精

神疾患が自然種であるか否かを問うこと、そしてもうひとつが精神疾患とはそもそも何である

のか、すなわち、どのような条件下で或る状態が精神疾患と呼ばれうるのかを問うことであろ

う。本発表では後者のアプローチを採り、精神疾患の定義問題にその主眼を置く。

哲学における精神疾患の定義については、様々な主張が存在している。C.ブールスの精神

疾患および身体障害を生物学的な機能不全とする主張、その改良版とも言える J.C.ウェイク

フィールドによる有害な機能不全モデル(HDA)、R.クーパーによる不運さを重視する主張、F.

ブレンターノによって脚光を浴びた志向性概念を用いる説などが挙げられるだろう。本発表で

は、ブールス、ウェイクフィールド、クーパーの学説について概説したのちに、精神疾患を志向

性の「極端な不足」であるとする説に注目し、精神疾患の定義から精神疾患の実在性の問題

に近づいていきたい。

「日本における「東洋医学」の多様化をめぐって」

森口 眞衣 (日本医療大学)

日本には主に医療機関における実践形態として「西洋医学」と総称される医学体系のほか

に、それよりも長い歴史をもって展開してきた「東洋医学」と呼称されるもうひとつの姿が存

在する。

ただし、東洋医学は明治維新での西洋医学導入を契機としてその位置づけが大きく変化し

ており、医療提供における中核的な地位を譲り渡す形となった。そのため医療として提供さ

れる実践範囲や対象、内容などは縮小したといえるが、一般社会で非医療としての形態で

提供されることになった実践のそれらはむしろ拡大多様化したともいえる。その結果、制度

上の医療の中で特定の疾病を対象に漢方や鍼灸として提供される治療の形態から、一種

のリラクセーションとしての形態まで、さまざまなものが「東洋医学」という同じ名称をもつ枠

組みの中で展開する状況に至ったといえる。この変化は、医療制度改革という大きな歴史

的分岐点だけではなく、日本社会の発展とともに生まれたさまざまな形の苦に対して「癒し」

を希求した人々、あるいはそれに応えさまざまな形で「癒し」を人々に提供しようとした人々

による、個別的な取り組みの集積からもたらされたともいえよう。

現在も東洋医学は制度上の医療内外の領域で活発に展開しており、その背景には日本社

会で人々が医学的なものとしてだけではなく、幅広い意味でそのあり方を希求している可能

性が想定される。ただし、一般社会では制度上の医療の外部において、また、非医療者に

よって「東洋医学」の実践が多く展開してきたという経緯を踏まえると、医学に関する事項概

念や体系上の差異が整理・統一されにくくなったという事態が発生した状況もありえる。その

場合、「東洋医学」に関するイメージの誤解や齟齬が生まれたとしても不思議ではない。さら

に、そうした一般社会における多様なイメージが、現在も制度上の医療の中である程度確

固とした形態を維持しつつ実際に提供されている「東洋医学」のあり方に何らかの影響を与

えている可能性も考えられる。

発表では、近代以降の日本社会において「東洋」と関連した形で展開したと考えられる医療

的実践をとりあげ、「東洋医学」のあり方に対する影響について考察してみたい。

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