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急激なアクセス増に 柔軟に対応するUtility CoD FX(外国為替保証金取引)と呼ばれ る金融商品を取り扱う専門会社とし て、2003年に設立されたのが伊藤忠 グループの FX プライムである。 金銭信託の義務化、保証金(レバ レッジ)規制などの規制強化により、 業界の健全化が促進され、さらなる成 長が期待される FX 市場。世界中で 24 時間動き続ける外国為替市場にイン ターネットで即応するには、強靭なシ ステムの存在が不可欠である。 もし取引の最中にシステムダウンが 発生すれば、相場変動に対応できず、 投資家の取引に重大な影響を及ぼす。 売買注文のチャンスを逃すことのない よう、取引画面に即座にログインし、 瞬時にオーダーを出せる高いレスポ ンス性の確保も欠かせない。安定性・ 信頼性の高いシステム基盤の確立は、 FX ビジネスの生命線なのである。 そのため同社は、売買注文の処理や 顧客管理・入出金管理など一連の業務 を処理する取引システムの信頼性確 保に向けて、万全の体制で臨んでき た。例えば基幹業務システムの稼働す る System iは、都内のデータセンター に設置した本番機のほか、神奈川県内 のデータセンターにバックアップ機を 設置し、さらに北海道内のデータセン ターでもデータバックアップを行い、 3 台のデータをリアルタイムに同期さ せることで障害発生に備えている。 今年5月、トランザクション量の 増大に対応するため、POWER6プロ セッサを搭載した本番機Power 570 を、POWER7 プロセッサ搭載の Power 770 へリプレースした。その際、Utility CoDとSSDという2つの最新テクノ ロジーを採用したのも、システムのパ フォーマンスを最善の状態に維持しよう とする同社の姿勢を表すものであろう。 Utility CoDとは、あらかじめ搭載 された未使用のプロセッサやメモリ の資源を、システムを停止すること なく、処理状況に応じて活動化する Capacity on Demand(CoD)の一種。 POWER4 よ り サ ポ ー ト さ れ て い る CoDの使い勝手や経済性を向上させ た最新型で、POWER6から実装され た。共用プロセッサプールに対して、 一時的かつ自動的にプロセッサの処理 能力を増強する。プロセッサごとの分 単位で課金され、使用分のみを後払い すればよい。 同社が導入した Power 770 には、合 計24コアのプロセッサが実装されて いる。このうち常時稼働させている のは12コアで、処理能力がこれを超 える場合、残る12コア分を必要量に 応じて自動的に活動化し、トランザク ションの急増に一時的に対処する。 FXの取引は、米国市場が動き出す 午後9時頃(日本時間)から、アクセスが 集中する傾向があるのに加え、予測不 能のさまざまな要因によって相場が急 変する。例えば毎月初金曜日に発表さ れる米国の雇用統計や、最近では6年 ぶりの政府・日銀による為替介入といっ た金融行政の動向で、膨大な取引が一 気に集中し、トランザクション量が短 時間で急激に膨らむことも珍しくない。 処理量が限界点を超え、システムが 停止する事態は絶対に避けねばならな い。しかし、こうした処理のピークは 極めて短時間で終了するため、瞬間的 に記録される処理量の最大値に合わせ てリソースを設計すれば、導入コスト の肥大化を招くことになる。 「そこで Power 770 の導入では、12 コ ア分を購入対象とし、処理量がこれを 超える場合のみ、使用分だけを後払い にするUtility CoDの利用を検討しま した。そうすれば、導入コストを適正 に抑えられると判断したからです」と、 その採用理由を語るのは、情報システ ム本部の中林卓也本部長代行である。 Utility CoD では、1 コア分の使用率 が100%を超えた状態が1分続いた場 合に初めて、5300円/分の使用料金 が課金される。この仕組みを利用すれ ば、 24コア分を購入した場合に比べて、 導入コストを 2 分の 1 に抑えられる。 「当社のように、急激な変化への対応 が即時に求められる金融システムで は、手作業を要する従来のCoDより、 Utility CoDが最適で、コストパフォー Utility CoDとSSDの利用 ●パフォーマンス確保に向けて最新テクノロジー採用 ●急激なアクセス増大にUtility CoDで対応 ●SSDで入出力処理の多いシステムパフォーマンスを向上 User Success Story 先進ユーザー事例 ❸  FXビジネスを支えるIT 基盤強化 Power 770でUtility CoDとSSDを採用 FXプライム株式会社 POINT 86 2010.11

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Page 1: User Success Story - アイマガジン|i Magazine|IS magazine...User Success Story 先進ユーザー事例 FXビジネスを支えるIT基盤強化 Power 770でUtility CoDとSSDを採用

急激なアクセス増に柔軟に対応するUtility CoD

 FX(外国為替保証金取引)と呼ばれる金融商品を取り扱う専門会社として、2003年に設立されたのが伊藤忠グループのFXプライムである。 金銭信託の義務化、保証金(レバレッジ)規制などの規制強化により、業界の健全化が促進され、さらなる成長が期待されるFX市場。世界中で24時間動き続ける外国為替市場にインターネットで即応するには、強靭なシステムの存在が不可欠である。 もし取引の最中にシステムダウンが発生すれば、相場変動に対応できず、投資家の取引に重大な影響を及ぼす。売買注文のチャンスを逃すことのないよう、取引画面に即座にログインし、瞬時にオーダーを出せる高いレスポンス性の確保も欠かせない。安定性・信頼性の高いシステム基盤の確立は、FXビジネスの生命線なのである。 そのため同社は、売買注文の処理や顧客管理・入出金管理など一連の業務を処理する取引システムの信頼性確保に向けて、万全の体制で臨んでき

た。例えば基幹業務システムの稼働するSystem iは、都内のデータセンターに設置した本番機のほか、神奈川県内のデータセンターにバックアップ機を設置し、さらに北海道内のデータセンターでもデータバックアップを行い、3台のデータをリアルタイムに同期させることで障害発生に備えている。 今年5月、トランザクション量の増大に対応するため、POWER6プロセッサを搭載した本番機Power 570を、POWER7プロセッサ搭載のPower 770へリプレースした。その際、Utility CoDとSSDという2つの最新テクノロジーを採用したのも、システムのパフォーマンスを最善の状態に維持しようとする同社の姿勢を表すものであろう。 Utility CoDとは、あらかじめ搭載された未使用のプロセッサやメモリの資源を、システムを停止することなく、処理状況に応じて活動化するCapacity on Demand(CoD)の一種。POWER4よりサポートされているCoDの使い勝手や経済性を向上させた最新型で、POWER6から実装された。共用プロセッサプールに対して、一時的かつ自動的にプロセッサの処理

能力を増強する。プロセッサごとの分単位で課金され、使用分のみを後払いすればよい。 同社が導入したPower 770には、合計24コアのプロセッサが実装されている。このうち常時稼働させているのは12コアで、処理能力がこれを超える場合、残る12コア分を必要量に応じて自動的に活動化し、トランザクションの急増に一時的に対処する。 FXの取引は、米国市場が動き出す午後9時頃(日本時間)から、アクセスが集中する傾向があるのに加え、予測不能のさまざまな要因によって相場が急変する。例えば毎月初金曜日に発表される米国の雇用統計や、最近では6年ぶりの政府・日銀による為替介入といった金融行政の動向で、膨大な取引が一気に集中し、トランザクション量が短時間で急激に膨らむことも珍しくない。 処理量が限界点を超え、システムが停止する事態は絶対に避けねばならない。しかし、こうした処理のピークは極めて短時間で終了するため、瞬間的に記録される処理量の最大値に合わせてリソースを設計すれば、導入コストの肥大化を招くことになる。 「そこでPower 770の導入では、12コア分を購入対象とし、処理量がこれを超える場合のみ、使用分だけを後払いにするUtility CoDの利用を検討しました。そうすれば、導入コストを適正に抑えられると判断したからです」と、その採用理由を語るのは、情報システム本部の中林卓也本部長代行である。 Utility CoDでは、1コア分の使用率が100%を超えた状態が1分続いた場合に初めて、5300円/分の使用料金が課金される。この仕組みを利用すれば、24コア分を購入した場合に比べて、導入コストを2分の1に抑えられる。 「当社のように、急激な変化への対応が即時に求められる金融システムでは、手作業を要する従来のCoDより、Utility CoDが最適で、コストパフォー

Utility CoDとSSDの利用

●パフォーマンス確保に向けて最新テクノロジー採用

●急激なアクセス増大にUtility CoDで対応

●SSDで入出力処理の多いシステムパフォーマンスを向上

User Success Story 先進ユーザー事例 ❸ 

FXビジネスを支えるIT基盤強化Power 770でUtility CoDとSSDを採用

FXプライム株式会社

POINT

86 2010.11

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マンスにおいても非常によい技術であると評価しています」(情報システム部システム技術課 阿部光課長) ちなみに同社は、Power SystemsでUtility CoDを導入した第1号ユーザーである。

パフォーマンス確保を狙いにSSDを採用

 一方のSSD(Solid State Drive)は、IBM iで2009年5月からサポートされた新しい記憶媒体である。ハードディスクに比べるとアクセスの速さを特徴とし、特にディスク入出力を多く伴う種類のアプリケーションでパフォーマンスを大きく改善する、と期待されている。 ただし通常のハードディスクに比べると価格が割高であるため、パフォーマンス要件とコスト最適化のバランスを見極める必要がある。同社では、取引時のレスポンスを快適に保つため、SSDの採用を決定。Power 770では合計3.6TBのディスク容量をサポートしているが、そのうち1.1TBをSSDで、残る2.5TBをハードディスクで実装した。 入出力の多い注文系の処理を中心

中林 卓也氏情報システム本部本部長代行

阿部 光氏情報システム部 システム技術課課長

小川 良太氏情報システム部 システム開発課

設 立:2003年

本 社:東京都渋谷区

資本金:13億6487万5000円

売上高:58億円

従業員数:80名

http://www.fxprime.com/

COMPANY PROFILE

に、データをSSDに配置するなどした結果、「注文履歴などを確認する照会系画面では、特にレスポンスのよさを実感しています」(情報システム部システム開発課 小川良太氏)。 ちなみにV7R1では、アクセス頻度の高いデータをSSDに自動的に配置する機能がサポートされたが、V6R1では人手による配置作業が必要になる。 同社ではPower 770が8月から本稼働しているが、運用は極めて順調で、高いレスポンスが確保されている。何度かUtility CoDを活用する場面もあったが、まだ課金対象にはなっていない。しかし今後、ビジネスの拡大に応じて、Utility CoDの利用頻度が高まることは間違いなさそうだ。 同社では、FX商品(「選べる外貨」)や為替オプション商品(「選べるHIGH・LOW」)のWeb版システムを7月に全面リニューアルした。また、「PrimeNavigator」と呼ばれるリッチクライアント型のFX専用ソフトや携帯アプリ、iPhoneなどスマートフォンサポートと取引ツールの拡充にも力を入れている。FX市場の拡大に向けて、同社のIT基盤は今後さらに充実の度合いが高まることになりそうだ。

Power 770(POWER7)24 コア搭載 12 コア(常時利用)、12 コア(Utility CoD)ディスク容量:3.6TB×2SSD:1.1TB×2HHD:2.5TB×2

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