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学会賞 受賞演題・論文解説
(72) 排尿障害プラクティス Vol. 28 No. 1 202072
遺伝子異常を誘発する因子となり,さまざまな疾患の原因になります。今回の実験で得られた知見は,複雑で難治である夜間頻尿の新しい治療に結びつく可能性があるとも考えています2)。
苦労した点
実験はすべてマウス細胞の体内時計に合わせて行う必要があります。一度始めてしまうと途中でやめることができません。データ収集は4時間ごとに行い,24時間続けました。これを何回も繰り返すのですが,そのせいで私の体内時計も崩れてしまいました。また,ATPの測定にも慎重を要します。微量かつ分解も速く,正確な経時的データの定量には多くの工夫と時間を費やしました。 泌尿器科領域において,時計遺伝子異常が関与していると思われる疾患は多数あると考えています。今後も基礎研究を続け,微力ながら日本排尿機能学会の発展に尽力したいと思っています。こ
の度は栄誉ある賞に選考いただきまして,誠にありがとうございました。
文 献1)Birder L, Andersson KE. Urothelial signaling.
Physiol Rev. 2013;93:653-80.2) Ihara T, Nakamura Y, Mitsui T, et al. Intermittent
restraint stress induces circadian misalignment in the mouse bladder, leading to nocturia. Sci Rep. 2019;9:10069.
3) Sulli G, Manoogian ENC, Taub PR, et al. Training the Circadian Clock, Clocking the Drugs, and Drugging the Clock to Prevent, Manage, and Treat Chronic Diseases. Trends Pharmacol Sci. 2018;39:812-27.
4) Ihara T, Mitsui T, Nakamura Y, et al. The Clock mutant mouse is a novel experimental model for nocturia and nocturnal polyuria. Neurourol Uro-dyn. 2017;36:1034-8.
5) Ihara T, Mitsui T, Nakamura Y, et al. The oscilla-tion of intracellular Ca(2+) influx associated with the circadian expression of Piezo1 and TRPV4 in the bladder urothelium. Sci Rep. 2018;8:5699.
学会賞 受賞演題・論文解説
(73) 排尿障害プラクティス Vol. 28 No. 1 2020 73
基礎部門Biofabricated Srucuture Reconstruct Functional Urinary Bladders in Radiation-injured Rat Bladders
第26回 日本排尿機能学会
背 景
高齢化社会対策,少子化対策や保険医療体制の維持など,わが国が抱える大きな課題に対して医療やヘルスケアなどの充実化は重要な位置付けにあります。そのなかで,難治性・重篤疾患の治療,あるいは患者の生活の質(QOL)の改善と向上において,従来医療の一翼を担うと期待されているのが再生医療です。わが国では再生医療関連の法制化が整い,世界に先駆けた再生医療先進国として歩んでいます。われわれは「次世代Tissue Engineering」をキーワードとして,下部尿路再生
医療の本格的な実現を見据えて取り組んでおり,本論文は次世代Tissue Engineeringに基づいた研究について報告したものです。
緒 言
再生医療の基盤技術は細胞生物学ですが,一方で,幹細胞による治療効果を最大限に引き出す細胞の利用,加工,ドラッグデリバリーシステム技術など,実用化に向けた基盤技術では組織工学
(Tissue Engineering)が必須です。Tissue Engineer ingとは,1993年にLanger博士とVacanti博士が「細胞の足場となる生体分解性材料に細胞を播種して生体内に埋め込み,生体内の環境によって最適な組織が形成される」と提唱したものです。われわれは,Tissue Engineeringの概念を基礎にして,生体微小環境に基づくTissue Engineeringの構築と新規に開発された科学技術を効果的に導入・融合し,機能的な臓器・組織の再生を目指す考え方・手技手法を「次世代Tissue Engineering」と呼んでいます。 最初に,マウス膀胱凍結傷害モデルを用いて,骨髄由来細胞の注入移植による膀胱再生を示し1),その再生機序をTissue Engineeringの視点から考察しました。凍結傷害部位には,細胞の足場としての役割を担うハニカム様構造が形成されており,さらに,平滑筋細胞への分化に関与する19種類の細胞成長因子の増加を示しました2)。この結果から,目的の組織・臓器の再生には,その部位の生体微小環境に適したTissue Engineeringの構築が
信州大学医学部泌尿器科学教室助教
今村 哲也Tetsuya Imamura
略歴
2007年10月 信州大学医学部泌尿器科学教室
泌尿器科学領域産学連携学講座研究員
2010年 4月 信州大学医学部泌尿器科学教室研究員
2011年 4月 信州大学医学部下部尿路医学講座助教
2013年 4月 信州大学医学部下部尿路医学講座講師
2015年 4月 信州大学医学部泌尿器科学教室特任講師
2017年 4月 信州大学医学部泌尿器科学教室助教
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