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新学術領域研究 研究領域提案型 Newsletter 1 Vol. 2017 March

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新学術領域研究

研究領域提案型

Newsletter1Vol.2017

March

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2 | Vol.1 | March 2017 

領域代表挨拶

CONTENT 1

領域代表

影山 龍一郎京都大学ウイルス・再生医科学研究所 教授

 本年度から、新学術領域「脳構築における発生時計と場の連携」(略称:脳構築の時計と場)が発足しました。本領域では、脳構築過程を中心に、同様のシステムを共有していると考えられる他臓器の構築過程も含めた発生の時間制御機構の解明を目指しています。発生過程では、決められたタイミングや順番で多くの現象が自律的に進みます。例えば、神経幹細胞は決まったスケジュールで分化能を変えて多様な細胞を生み出すことから、タイミングを計る時計を内在すると考えられます。一方で、この時計は、経時的に変化する細胞外環境(場)からのフィードバックも受けます。したがって、神経幹細胞に内在する発生時計と場との連携が脳形成の進行に重要であると言えます。発生時計の存在は以前は概念的なものに過ぎませんでしたが、体節形成を制御する分節時計の発見によって現実のものとして認識されるようになりました。体節形成過程では、転写抑制因子Hes7がネガティブ・フィードバックによって自律的に発現振動し、発生時間を制御します。すなわち、Hes7は分節時計の本体として機能することが分かりました。しかし、このような発生時計は他の組織では見つかっておらず、普遍的な現象かどうかはまったく不明です。 最近になって、脳構築過程の発生時間を制御する因子群の具体的証拠が集まりつつあります。さらに興味深いことに、ES細胞の3次元培養において複雑な脳組織が内在性プログラムに従って自律的に形成されることが示されました。これらの成果がきっかけとなり、発生過程の時間制御機構の統合的理解を目指す機運が高まりました。本領域の成果は、発生過程の進行を制御する発生時計の全体像を明らかにし、時間生物学と発生生物学の融合的分野の創成につながると期待されます。また、発生の進行速度には種差がありますが、

この種差はヒトやマウスES細胞の3次元培養でも再現されます。今後、この種差を制御できるようになれば、時間がかかるヒト組織再生がマウスのように迅速化できるかもしれません。 具体的には、本領域では次の3つの研究項目を設け、発生の時間制御機構の解明を目指します。「研究項目A01:細胞内在的な時間制御機構」では細胞内でタイマーとして働く因子やリズムを刻む因子等を中心に機能解析を行い、細胞に内在する時間制御機構を明らかにします。「研究項目A02:細胞と場の連携による制御」では細胞から組織レベルの現象を対象としており、細胞外環境である「場」と細胞との相互作用の実体や役割を解析します。「研究項目A03:実験技術開発」では、ES細胞3次元培養の応用、数理モデル構築、新規プローブ開発を研究項目A01やA02の研究者と共同で行います。特に、合宿を開催してお互いの研究内容をよく知る機会を設け、数理モデル構築や新規プローブ開発を通じて領域内の共同研究の推進を図ります。また、講習会を開催するなどして本領域研究者によって開発・発展してきたES細胞、イメージング、光操作、子宮内電気穿孔法といった技術の共有化を図り、若手研究者の育成を図ります。 上記のような活動を通じて、神経発生分野や関連領域の発展に貢献したいと考えています。皆様からのご支援・ご指導の程、よろしくお願い申し上げます。

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     March 2017 | Vol.1 | 3

計画研究

評価班

村上 富士夫 先生 大阪大学

池中 一裕 先生 生理学研究所

岡野 栄之 先生 慶應義塾大学

A03研究項目

実験技術開発

永樂 元次 理化学研究所多細胞システム形成研究センター チームリーダー 「種特異的発生時間スケールを規定する分子基盤の解析と制御」

松田 知己 大阪大学産業科学研究所 准教授 「脳組織構築過程で移動する神経細胞と取り巻く場の可視化と光操作」

安達 泰治 京都大学ウイルス・再生医科学研究所 教授 「時間と場が制御する脳発生の数理モデル化とシミュレーション」

細胞内在的な時間制御機構A01

研究項目

後藤 由季子 東京大学大学院薬学研究科 教授 「神経幹細胞の発生タイマー実行因子の解析」

影山 龍一郎 京都大学ウイルス・再生医科学研究所 教授 「振動遺伝子による時間制御機構」

細胞と場の連携による制御A02

研究項目

仲嶋 一範 慶應義塾大学医学部 教授 「場との連携による脳細胞の動態制御機構」

見学 美根子 京都大学物質ー細胞統合システム拠点 (iCeMS) 教授 「発生脳における場の物性を制御する分子基盤」

花嶋 かりな 理化学研究所多細胞システム形成研究センター チームリーダー 「細胞間情報伝達を介した発生時間制御機構」

組織・メンバー

CONTENT 2

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計画班研究

CONTENT 3

細胞内在的な時間制御機構細胞内で働くドミノ因子や時計因子を中心に機能解析を行い、細胞に内在する時間制御機構を明らかにする。

研究代表者

影山 龍一郎 京都大学ウイルス・再生医科学研究所 教授

連携研究者

大塚 俊之京都大学ウイルス・再生医科学研究所 准教授

今吉 格京都大学ウイルス・再生医科学研究所 連携准教授

下條 博美京都大学物質-細胞統合システム拠点 特定助教

大脳構築過程において、神経幹細胞はまず深層ニューロンを、続いて浅層ニューロンを生み出し、最後にグリア細胞を産生する。このように神経幹細胞は決められたタイミングと順番で分化するが、この時間制御機構の詳細

は不明である。体節形成過程は分節時計遺伝子Hes7によって制御されるが、この時間制御機構が普遍的な現象かどうかはまったく不明である。Hes7と同じファミリーに属するHes1やHes5の発現が神経幹細胞において2~3時間周期のリズムを刻むことがわかり、時計遺伝子の存在が確認された。Hes1やHes5の発現振動によってプロニューラル因子 Mash1やNgn2の発現も振動し、その結果、これらの下流因子の発現が徐々に増加あるいは減少して神経幹細胞の分化能が経時的に

変化することが示唆された。本研究では、Hes1やHes5の発現振動が脳形成において発生時計として働く可能性を探る。

研究代表者

後藤 由季子 東京大学大学院薬学研究科 教授

大脳新皮質神経系前駆細胞は、発生時期依存的に種々のニューロンとグリア細胞を順序よく生み出す。我々はこれまでにポリコーム群タンパク質(PcG)が、分化運命に関わる幾つもの標的遺伝子座の転写を発生時期依存的に順次抑制することにより、神経系前駆細胞の運命転換において主要な役割を果たすことを示してきた。しかし、PcGの働きに「時間依存性」を与える時計の実態は不明であった。

課題名

振動遺伝子による時間制御機構

課題名

神経幹細胞の発生タイマー実行因子の解析

最近我々は、標的遺伝子座においてPcGと拮抗するクロマチン制御因子を同定し、その量が発生時間の進行に伴って減少することがPcGの働きに必須であることを見出した。そこで本研究では、この因子とPcGの「内因的な時計」(タイムキーパー)としての役割とその制御を明らかにすることを目指し、時間という要素がどのように組織幹細胞の運命を司るのかを知る手がかりとしたい。

A01研究項目

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     March 2017 | Vol.1 | 5

研究代表者

花嶋 かりな 理化学研究所 多細胞システム形成研究センターチームリーダー

連携研究者

當麻 憲一理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 研究員

侯 珮珊理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 研究員

脳をつくる幹細胞は、各組織幹細胞の中でも時間に対する感受性が高いことが知られるが、時間情報がどこで生み出され、どのような細胞のふるまいに変換されるのかについては不明な点が多い。われわれはこれまでに、大脳皮質の主要なサブタイプのニューロン

の産生タイミングを決定する、発生時間のドミノ式制御因子や下流の遺伝子制御ネットワークを同定してきた。本研究では、これら遺伝子ネットワークの産物であるニューロンから幹細胞へ伝達されるフィードバックシグナルの制御機構を解明することで発生時計の分子実体を明らかにし、さらに 3次元培養系を用い種間における発生時計の普遍

性について評価する。また同じ時間に生み出されるニューロンを操作する技術を用い、経時的に変化する場の情報が感覚野、運動野などの領野ごとの細胞のふるまいを制御するしくみを明らかにする。

課題名

細胞間情報伝達を介した発生時間制御機構

研究代表者

仲嶋 一範 慶應義塾大学医学部 教授

発生期の脳においては、発生時計に依存して次々に異なる特徴を持った細胞が神経幹/前駆細胞から産生され、

それぞれ目的地に向かって移動する。それらの動きや他の細胞との相互作用については、移動細胞の周囲の場によって制御されることが、我々を含む従来の研究で明らかになってきた。また、我々の最近の研究により、ニューロンの特異的分化は、従来言われてきたように脳室面近辺におけるニューロン産生時に完全に運命付けされるとは限らず、移動後の場における未知の細胞外シグナルによってさらに制御されることもわかってきた。すなわち、発生期脳の細胞の動きや分化、それらが織りなす脳の組織作りは、時計と場の

連携によって実現されると考えられる。そこで本研究では、発生時間依存的に進行するプロセスに場との相互作用が加わることによって、発生期脳細胞の組織内の動きや分化がいかに制御されるのかを解明することを目指す。

課題名

場との連携による脳細胞の動態制御機構

連携研究者

久保 健一郎慶應義塾大学医学部

林 周宏慶應義塾大学医学部

本田 岳夫慶應義塾大学医学部

廣田 ゆき慶應義塾大学医学部

大石 康二慶應義塾大学医学部

細胞と場の連携による制御細胞から組織レベルの現象を対象としており、細胞外環境である「場」と細胞との相互作用の実体や役割を解析する。

A02研究項目

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研究代表者

見学 美根子 京都大学物質-細胞統合システム拠点 教授

連携研究者

田中 求京都大学物質-細胞統合システム拠点特定拠点教授

研究協力者

小曽戸 陽一Korea Brain Research InstitutePrincipal Investigator

哺乳類脳発生過程で、新たに生まれたニューロンは組織内を移動して皮質や神経核の特定の層に整然と配置し、精緻な神経回路を形成する。これらの新生ニューロンや神経線維によって「場」の状況は刻々と変化する。しかし、細胞自身の形態や剛性、組織に生

じる応力 -ひずみ場などの細胞を取り巻く物理的環境の劇的な変化が、如何にして細胞増殖・分化・運動に影響を与え、脳組織構築の時間制御に寄与するのかは殆ど明らかでない。本研究では、人工スキャフォールドや力センサープローブを用いた微小力学計測技術により、発生中の脳における細胞と組織の力学的性質を詳細に解析し、物性とその時間依存的な変化を制御する分子機構を明らかにする。また、このような「場」の力学的特性の変化

が、神経幹細胞増殖、分化、細胞運動をフィードバック制御する未知の機構を同定する。

課題名

発生脳における場の物性を制御する分子基盤

発生の時間スケールは種によって異なる。例えば、マウスの妊娠期間は 20日前後であるが、ヒトでは280日程度である。妊娠期間と個体サイズの間には相関があることが知られているが、種特異的な発生時間スケールを生む分子基盤はほとんど明らかにされていない。本研究では、マウス及びヒト多能性幹細胞からの分化誘導系を用いて、脳組織形成過程の細胞・分子動態やゲノムワイドな遺伝子発現を異なる種間で比較解析することによって、種固有の発生時間スケールを規定する分子基盤を明らかにすることを目的とす

る。また、再生医療などへの応用を見据えた場合、機能的なヒト組織を試験管内で形成するために多くの時間とコストがかかることは実用面で問題になるが、種特異的な発生時間スケールの分子基盤を理解することで、短期間でヒト組織を形成できる技術の確立につなげたい。

課題名

種特異的発生時間スケールを規定する分子基盤の解析と制御

実験技術開発ES細胞3次元培養の応用、数理モデル構築、新規プローブ開発を研究項目A01やA02の研究者と共同で行う。

A03研究項目

理化学研究所

研究代表者

永樂 元次 多細胞システム形成研究センターチームリーダー

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     March 2017 | Vol.1 | 7

研究代表者

松田 知己 大阪大学産業科学研究所 准教授

連携研究者

永井 健治大阪大学産業科学研究所 教授

本領域の研究では、場(細胞外環境)と神経細胞の連携という新たな視点で脳発生時計の制御機構を解明することを目的としている。従って、発生過程でダイナミックに移動する神経細胞とそれを取り巻く場で起こる分子・細胞機能の変化を視覚化するライブイメージング手法を発展させることが、新たな現象を発見し、それに基づく仮説を構築するための1つの鍵となると予想される。A03 -ライブイメージング技術開発班では、これまでに蛍光タンパク質や化学発光タンパク質を用いた様々なプローブを開発してきた知識

と経験を生かし、領域研究に貢献できる技術の提供を目指して、 ①領域研究に役立つことが期待される開発中のイメージングツールの改良(化学発光Ca2+センサー)、 ②領域のメンバー同士の情報交換の中で申請者が着想を得たイメージングツールの開発(細胞間の相互作用の可視化プローブ、細胞核の張力変化を可視化するセンサー)、を行う。ツール開発の方向性は最初の計画に限定されたものでは無く、領域研究の方向性、関連研究分野のトレンドやイメージング技術の進歩に合わせてフレキシブルに変化させ、領域の研究に真に有益であ

るライブイメージングツール開発を追求する。

課題名

脳組織構築過程で移動する神経細胞と取り巻く場の可視化と光操作

研究代表者

安達 泰治 京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 教授

脳発生の自律的な進行には、発生時計(時間)による細胞内因的な制御と細胞外環境(場)による細胞外因的な制御が重要な役割を果たしている。本研究では、脳発生現象の数理モデル化とシミュレーションを駆使し、時間と場による連携的な発生制御機構を遺伝子動態に基づいて理解することを目的とする。まず、領域内のグループ

横断的な立場から、細胞内外における発生時間制御に関する個別の知見を統合した脳発生の数理モデルを構築する。本モデルに基づくシミュレーションにより、既知の発生過程を再現し、実験仮説の検証を行うとともに、数値実験を通じて重要な分子機構を予測し、その検証実験を提案する。さらに、微視的な分子・細胞動態と巨視的な組織形成とを結び付けるマルチスケールな数理モデル・シ

ミュレーション手法を開発し、脳の発生過程を数理的に説明する。

課題名

時間と場が制御する脳発生の数理モデル化とシミュレーション

研究分担者

亀尾 佳貴京都大学ウイルス・再生医科学研究所 助教

連携研究者

木村 暁国立遺伝学研究所 構造遺伝学研究センター 教授

Blue light

LOVdomain

CaM-M13

Ca2+

release

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活動報告

CONTENT 4

 多能性幹細胞(ES細胞/ iPS細胞)からの分化誘導技術がこの10年間で大きく発展し、再生医療などの応用分野だけではなく、基礎的な研究分野でもその活用が広がっています。例えば、異なる種に由来するiPS細胞から誘導した神経堤細胞を用いた進化発生生物学的な研究や、最近ではES細胞から誘導したヒト脳組織を用いたジカウイルスの感染メカニズムの研究など、多能性幹細胞分化培養系の新しい適用例を目にすることが多くなってきました。本新学術領域では、技術支援活動の一環として、これまで理研CDBで開発してきたES細胞分化培養技術を、領域内外の研究者に技術移転するための講習会を定期的に行うことを予定しています。 その第1回目として計画班の研究室より15名の希望者に参加していただき、マウスES細胞から神経組織を分化誘導

するための技術講習会を行ないました。既にES細胞分化培養系を扱っておられる方や、これから系を立ち上げようとしておられる方など、様々な動機を持った大学院生や博士研究員の方たちに参加していただき、ES細胞の基本的な知識についてレクチャーを行なった後、マウスES細胞から大脳および網膜組織を誘導するための実験手技の講習を行ないました。 次回以降は公募班からも参加者を募集し、参加者の要望に添ってさらに発展的な内容を盛り込む事も考えていますし、また実際に自分の研究室で実験系を立ち上げられた後のトラブルシュートにも対応する事で、この実験系の有用性が広く領域内で共有できればと考えています。

永樂 元次 理化学研究所多細胞システム形成研究センター

日時:2017年1月27日  場所:理化学研究所多細胞システム形成研究センター(CDB)、神戸市

技術支援活動報告:第1回ES細胞分化培養講習会

 多細胞ダイナミクスの数理モデリングの共同研究のため、2016年10月12日から11月15日の約1か月間において、アメリカ合衆国Princeton大学を訪問した。 本訪問では、ショウジョウバエを用いた分子生物学研究と数理モデリングの融合研究について世界的な先駆者であるLewis-Singler Institute for Integrative GenomicsのStanislav Y. Shvartsman教授の研究室に滞在し、新規の力学モデルの開発に取り組んだ。まず、1細胞レベルの詳細な三次元形態変化と成長動態を記述する数理モデルを構築した。次に、細胞間接着構造や細胞骨格などによる細胞間相互作用の数理モデル化を行った。さらに、この数理モデルを、ショウジョウバエの卵室を構成する細胞集団に適用し、その三次元的な動態変化を再現した。これにより、多細胞の成長動態の力学解析を行う研究基盤の構築に成功し、継続して共同研究を進めることになった。 この滞在期間中には、Princeton大学において、多くの著

名な研究者と交流することができた。中でも、Massachu-setts Institute of Technology のRoger D. Kamm教授との議論では、がん浸潤過程における多細胞ダイナミクスについて議論し、in vitro培養により構築した立体組織を例として、数理モデルによるがん浸潤機構の力学解析に関する研究構想の着想に至った。また、Paul Villoutreix博士など、Stanislav Y. Shvartsman教授の研究室に滞在する多彩なバックグランドの研究者との交流により、画像解析手法や数理解析手法などの新しい数理的アプローチの知見を得た。 この国際交流は、新学術領域「脳構築における発生時計と場の連携」からの多大な支援により実現した。ここに謝辞を示す。

奥田 覚 理化学研究所多細胞システム形成研究センター

Activity

国際交流助成報告Activity

Lewis-Singler Institute for Integrative Genomics,Princeton University 校内

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 March 2017 | Vol.1 | 9

仲嶋 一範 慶應義塾大学医学部

第1回領域班会議報告Activity

 新学術領域研究「脳構築における発生時計と場の連携」の第1回領域班会議が、2017年1月27-28日に静岡県沼津市のふじのくに千本松フォーラム(愛称:プラザヴェルデ)で開催されました。ホテルが隣接していて2階で直接行き来できる、とても便利な会場でした。 今回はまだ公募班が加わる前で計画班のみが構成員でしたので、「お互いを知って共同研究のネタ・相手を探す」ことを意図して、実際に手を動かして実験している若手研究者たちによる発表をメインにしたプログラムとしました。参加者は合計49名で、本領域評価委員の村上富士夫先生、池中一裕先生、学術調査官の倉永英里奈先生もご出席下さいました。 冒頭の影山龍一郎代表のご挨拶に続いて、領域のヒアリング審査の際に使われたスライドを使って、本領域の目標や体制などについての全体説明がありました。続いて、計画研究の各代表者から、各々のグループで目指している研究の紹介が簡潔にされ、領域の全貌を参加者全員で共有しました。 その後二日間にわたって、計20名の若手研究者から、現在進行中の研究についての口頭発表が行われ、活発な質疑がなされました。また、ポスターによる発表も23演題が出され、口頭発表では時間切れで十分議論できなかった内容を含めて白熱した議論が交わされました。 今回は特に若手主体の会であることを鑑み、ゲストスピーカーとして遺伝研の広海健先生をお招きして、研究プレゼンテーションの極意についての特別講演もしていただきました。研究者がプレゼンテーションすることの「そもそもの目的は何か」から始まり、イントロの意義、従来の常識にどんな問題があるかなど、ユーモアを豊富に織り交ぜながらわかりやすくお話し頂きました。若手のみならず、我々シニア組にとっても、目から鱗が落ちるようなお話が続きました。

 一日目の夜には、「若手の会」と称する二次会も近くの別会場で開催され、若手を中心に夜遅くまで交流を深めました。 新学術領域研究は、それぞれの個別研究の総和に留まらず、相互交流、連携を通じた大きな発展が期待されていると理解しています。今回の領域班会議では、特に若手研究者たちが互いを深く知り、仲間意識を養うとても良い機会になったと思います。あと2ヶ月ほどで多くの公募研究班を迎えますが、この仲間の輪がさらに大きく発展し、発生時計と場のコラボレーションのしくみの理解が一段と進むことを期待しつつ、益々頑張らねばと自らに言い聞かせる良い機会にもなりました。 今回の領域班会議の企画運営に中心的な役割を担って下さった総括班事務員の岡田樹里さん、経理でお世話になった澤田英里さん、当日それぞれの役割を担当してくれた研究室のスタッフや学生さんたちに感謝して、第 1回領域班会議のご報告とさせて頂きます。

影山龍一郎代表

ポスター発表

広海健先生

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 新学術領域「脳構築における発生時計と場の連携」第一回領域班会議は、1月27日から28日の二日間、静岡県沼津市のふじのくに千本松フォーラムで行われました。開催中二日間、お天気にも恵まれ、雄大な富士山を間近で眺めながら、活発で有意義な議論や情報交換が展開されました。 今回の領域会議では主に計画班の研究代表者の先生方が大まかに各研究班の研究を紹介したのち、若手研究者が自分のプロジェクトを自ら発表するというスタイルで行われました。研究室のボスと若手とが同じ会議でそれぞれの発表をするというスタイルは、他ではなかなか体験できない新鮮な体験だったように思います。各々のプロジェクトに日々向き合い方向性を探ろうとする若手研究者の現場の声と、それらをまとめてラボの方向性や特色を打ち出そうとするラボヘッドの姿の両方が一度に見られるという貴重なものでした。口頭発表はもちろんポスター発表でも、ベテランの研究者から学生さんを含む若手研究者が、現象や方法論といった様々な課題に対して真摯に向き合い、上下の垣根を越えて活発に議論がなされていたのが大変印象的で刺激になりました。 さらに今回は、遺伝学研究所の広海健先生による「プレゼンテーションの極意」についての特別講演がありました。様々なエピソードや具体例を交えた講演は非常に面白く魅

力的であるとともに、研究者がプレゼンするための目的とは「フィードバックを得ること」であり、そのために「どのようなストラテジーでプレゼンをすればいいのか」という具体的な話は大変勉強になりました。 一見、クラシカルな学問分野と考えられがちな発生学を対象とした本領域は、「時間と場所」というキーワードをもとに、様々な分野の研究者が集結し、それぞれの専門分野が融合したり相互作用したりすることによって新しい学術領域を創り出すことを目指しています。今回の領域会議でもそのような目的意識が随所に現れており、それぞれの研究者が領域内で「どのような共同研究ができるのか?」「どのような共通の問題提起ができるのか?」といったような議論が活発に行われていました。このような連携を通して、今まで「点」で理解されてきたことが統括されて「システム」としての理解へと深化していくのではないかと非常に楽しみです。また、今後の自分自身の課題の再認識が出来た良い機会ともなりました。 最後になりましたが、二日間本当に刺激的で有意義な楽しい時間を過ごさせていただきました。献身的にお世話いただいた仲嶋先生をはじめ、研究室の方々に厚く御礼申し上げます。

第1回領域班会議感想Activity

 2017年1月27、28日に静岡県沼津市にて開催された第1回領域班会議に参加させて頂きました。第1回ということで顔合わせ的な会を想像していましたが、若手研究者による未発表データを中心とした発表と活発な討論、広海健先生の強烈で刺激的な特別講演といった非常に内容の濃い会でありました。実験に従事している若手研究者同士のインタラクションの機会が多かったことは、コラボレーションの可能性を探る上で非常に有意義なものであったと感じました。今後は、若手中心の会議を独立に行うなどしてコラボレーションの実現に向けた活動をしていきたいと思っています。 私自身は、自閉症の発症メカニズムの解明に向けてマウ

スモデルを用いた研究を行なっていますが、実際の患者さんの表現型に詳しい医学系研究者とのインタラクションを介して、今後注目していくべき新たなポイントを発見できました。また、今回特に印象深かったのは計算科学を駆使して生命現象を解こうとしている安達研究室の方々の発表です。これまで私は分子生物学的な手法を用いた研究を行なってきましたが、複雑な脳構築過程を理解するためには計算機を用いた手法も必要なのではと何となく感じていました。本会議においてその分野の最先端の話を聞き、具体的に自分の研究に活かすにはどのような可能性があるのかを現在考えているところです。とても個人的なことですが、あまり出会う機会のなかった同郷(群馬県)出身の研究者と

川口 大地 東京大学大学院薬学研究科

下條 博美 京都大学物質-細胞統合システム拠点

10 | Vol.1 | March 2017 

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吉永 怜史 慶應義塾大学医学部

 2017年1月27-28日、冬晴れで富士山が美しい沼津で新学術領域第1回班会議が行われました。私は学部学生時代には神経の研究をしていたものの、その後初期・精神科後期研修などの臨床業務に従事し、今年度基礎研究を再開したばかりです。したがって、いまだ神経発生については「浦島太郎」の状態を脱していなかったのですが、今回の班会議は前頭葉がびしびしと刺激されるのがわかる inspiringな議論にわくわくすることしきりでした。 はじめに、影山龍一郎先生から領域の目的と概要について説明がありました。「神経幹細胞の内在的な時計」と「場からのフィードバック」の両輪の観点から研究を進めるだけではなく、新たな現象を発見しそれをもとに仮説構築し実証していくためイメージングや数理モデルを最大限強力に使っていくための技術開発をも含めた戦略が提示されました。続いて、計画班代表と連携研究者の先生方による発表が次々に行われました。脳発生についての最新の発表のみならず、組織として脳よりはるかに固い骨組織やHes7の発現振動の解析が進んでいる未分節中胚葉まで、アプローチとしても完全にwetのin vivoの解析からES/iPS細胞やオルガノイドをはじめとする培養系から、微分方程式が出てくるシミュレーション、原子間力顕微鏡を使用した力学的測定までと内容は多岐にわたりました。こうした研究がどのように相互作用して大きな流れになっていくのかとても興味深く感じました。また、広海健先生による研究プレゼンの極意についての特別講演は、既存のメソッドとはひと味もふた味も違い、極意そのものがにじみ出てくるとりわ

け刺激的なものでした。 若手の会二次会は、若手の交流になっただけではなく、PIの先生のご参加もあり若手としてもさらに鼓舞されました。これだけ興奮させられていると過剰興奮となり神経毒性となりそうですが、そこにはエタノールでGABAA受容体がpotentiateされてバランスがとれたことはいうまでもありません。 翌日も各研究班の発表が進みました。同じ分野からの鋭い質問だけではなく異分野の視点による意外な質問等、貴重な議論が行われました。別の仕事のため個人的には最後の総合討論は失礼したのですが、さらに活発な議論が展開されたかと存じます。 今回は、脳構築の時計と場の相互作用という学術領域の班会議ではありましたが、多様な分野の研究者が一堂に集まるという貴重な場で多様な研究者が相互作用することで、神経発生学のカッティングエッジが大きく前進していくことが想像できました。自分も研究にますます邁進しなければという思いを強くしました。

     March 2017 | Vol.1 | 11

語り合えたことは非常に嬉しかったです。地元トークをした時に一番テンションが上がっていたかもしれません。上毛かるたネタは鉄板ですね。 本会議のハイライトは広海健先生の特別講演であったかと思います。「研究プレゼンテーションの極意」というタイトルでご講演いただきました。聴衆からのフィードバックを得ることが研究発表の目的であり、そのためにどのようなポイントが重要となるのかを既存の考え方を踏まえて分かりやすく説明していただきました。1時間のトークでしたが、もっと聞きたい!と思える非常に刺激的なものでした。広海先生の持つ要所要所で聴衆の「笑い」を取れる能力の有効性も実感しましたが、これについてはなかなか真似できるものではないので他の点を磨いていこうと思います。

フィードバックを得るという意味でも、本会議は非常に有意義でありました。今後も、本領域の研究者とのインタラクションを介してフィードバックをどんどん貰えるよう努力していこうと思っています。

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新学術領域研究(研究領域提案型)「脳構築における発生時計と場の連携」

領域代表:影山 龍一郎(京都大学ウイルス・再生医科学研究所)Tel 075-751-4011www.time.icems.kyoto-u.ac.jp ニュースレター Vol.1 2017年 3月発行