Measure Theory(測度論)masada/2007080301.pdfMeasure Theory(測度論) (Mark Coleman...

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Measure Theory * Mark Coleman 22 1 8 1 部分集合のクラス 1.1 位相 定義 1 (X, T ) X X (collection) T (T1) X, ∅∈T (T2) A 1 ,...,A n ∈T T n i=1 A i ∈T (T3) (index) I A i ∈T ,i I S iI A i ∈T T (open set) 注意 2 T = {X, ∅} T = P (X) X 2 補題 1.1 T j ,j J X T jJ T j X 証明 (T1) j X, ∅∈T j X, ∅∈ T jJ T j (T2) A 1 ,...,A n T jJ T j j A 1 ,...,A n ∈T j j T n i=1 A i ∈T j T n i=1 A i T jJ T j (T3) A i T jJ T j ,i I i I j J A i ∈T j j S iI A i ∈T j S iI A i T jJ T j 1.2 (a, b) T 0 U⊆T 0 R U 証明 R (a, b) T 0 = P (R) U = T T (a, b) (intersection) U 1.2 定義 2 U R usual topology 定義 3 X A A A * http://www.maths.manchester.ac.uk/~mdc/ 1

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Measure Theory(測度論)∗

(Mark Coleman氏の講義ノートの日本語訳)

平成 22 年 1 月 8 日

1 部分集合のクラス

1.1 位相

定義 1 位相空間 (X, T )とは,空でない集合X と,X の部分集合の系 (collection) T との組で,以下を満たすものをいう.

(T1) X, ∅ ∈ T

(T2) A1, . . . , An ∈ T ならば⋂ni=1Ai ∈ T

(T3) ある添え字 (index)の集合 I について Ai ∈ T , i ∈ I ならば⋃i∈I Ai ∈ T

T の要素は開集合 (open set)と呼ばれる.

注意 任意の集合は,その上に少なくとも 2つの位相を持つ.つまり,T = {X, ∅}と,T = P(X)(X の全ての部分集合の系)という,2つの自明な位相である.

補題 1.1 Tj , j ∈ J がX 上の位相ならば,⋂j∈J Tj はX 上の位相となる.

証明

(T1) 全ての j についてX, ∅ ∈ Tj だからX, ∅ ∈ ⋂j∈J Tj

(T2) 集合の任意の有限な系A1, . . . , An ∈⋂j∈J Tj を取る.すると,各 jについてA1, . . . , An ∈ Tj であり,よって

各 j について⋂ni=1Ai ∈ Tj なので,

⋂ni=1Ai ∈

⋂j∈J Tj

(T3) 集合の任意の系 Ai ∈⋂j∈J Tj , i ∈ I を取る.すると,全ての i ∈ I と全ての j ∈ J について Ai ∈ Tj であり,

よって各 j について⋃i∈I Ai ∈ Tj であり,したがって

⋃i∈I Ai ∈

⋂j∈J Tj �

系 1.2 すべての区間 (a, b)を含み,それらの区間を全て含む他のどんな位相 T0 についても U ⊆ T0 となるような,

R上の位相 U がある.

証明 R上には,すべての (a, b)を含む位相が少なくともひとつある.T0 = P(R)である.U =⋂ T,つまりすべ

ての区間 (a, b)を含む位相全ての交わり (intersection)とせよ.この U が補題 1.2の位相であり,極小性は定義から明らか. �

定義 2 U を R上の usual topologyという.

定義 3 X の部分集合の任意の系Aについて,Aを含む全ての位相の交わりを,Aによって生成される位相という.∗訳は正田備也.原文は http://www.maths.manchester.ac.uk/~mdc/ を参照されたい.特に注意がない限り[]内は訳者の補足.

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例 1 R上の usual topologyは,区間 (a, b)によって生成される位相.

R上の位相は他にもある.例えば

例 2 R上の co-finite位相は,A = ∅または |Ac| < ∞(つまり補集合が有限)のときまたそのときにかぎり A ∈co-finiteと定義される.

以下の定義で,写像 f : X → Y の pre-imageという概念が必要となる.A ⊆ Y のとき,Aの pre-imageとは

f−1(A) = {x ∈ A : f(x) ∈ A}のことである.

定義 4 位相空間 (X, TX), (Y, TY )と写像 f : X → Y について

U ∈ Ty → f−1(U) ∈ TXが成り立つとき,f が TX , TY に関して連続という.(つまり,開集合の pre-imageがまた開集合.)

後で次の結果が必要になる.

定理 1.3 (Heine-Borel) [a, b] ⊆ Rが系 (ci, di)によって覆われるならば,つまり [a, b] ⊆ ⋂i∈I(ci, di)ならば,[a, b] ⊆⋂Ni=1(ci, di)となる有限な部分系 (ci, di)が存在する.

証明 付録参照. �

定理 1.4 (Lindelofの定理) G = {Iα : α ∈ A}が区間 (a, b) ⊆ Rの非可算かもしれない系のとき,可算な部分系{Ii : i ≥ 1} ⊆ G で下記を満たすものが存在する.

α∈AIα =

∞⋃

i=1

Ii

証明 付録参照.[この定理は,後に定理 1.13として再びとりあげられ,証明されている.] �

系 1.5 S を,可算個の区間 (a, b) ⊆ Rの和すべての集合とする.このとき S = U,つまり S は usual topologyとなる.

証明 S ∈ S が,ある (ai, bi)について S =⋃∞i=1(ai, bi)を満たすとする.しかし全ての iについて (ai, bi) ∈ U で,

しかも U は位相なので,⋃∞i=1(ai, bi) ∈ U である.よって S ∈ U となり,したがって S ⊆ U が言える.次に S が位相であることを性質 (T1),(T2),(T3)を確認することによって示す.

(T1) R =⋃n∈N(−n, n) ∈ S かつ ∅ = (0, 0) ∈ S

(T2) S1, S2, S3, . . . , Sn ∈ S のとき各々が

ある Iji = (aji , bji)についてSi =∞⋃

ji=1

Iji

を満たすのでn⋂

i=1

Si =n⋂

i=1

∞⋃

ji=1

Iji

=( ∞⋃

j1=1

Ij1

)∩( ∞⋃

j2=1

Ij2

)∩ · · · ∩

( ∞⋃

jn=1

Ijn

)

=∞⋃

j1=1

∞⋃

j2=1

· · ·∞⋃

jn=1

(Ij1 ∩ Ij2 ∩ · · · Ijn)

ここで有限個の開区間の交わりは開区間である.(無限個の開区間の交わりは閉かもしれない.)よって⋂ni=1 Si

は可算個の開区間の和であり,S の要素となる.

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(T3) k ∈ Kについて Sk ∈ Sが非可算かもしれない系とすると,⋃k∈K Sk =

⋃k∈K

⋃∞jk=1 Ijk は非可算個かもしれな

い区間 (ajk , bjk)の和である.しかし,Lindelofの定理よりこれは可算個の集合の和で書けるから⋃k∈K Sk ∈ S.

よって S は区間 (a, b)すべてを含むひとつの位相である.しかし,U はすべての区間を含む唯一の最小の位相である.よって U ⊆ S.したがって,[さきほどの S ⊆ U と合わせて]U = S. �

1.2 環

定義 5 空でない集合X の部分集合の系 S で以下を満たすものを半環 (semi-ring)という.

(i) ∅ ∈ S

(ii) A,B ∈ S → A ∩B ∈ S

(iii) A,B ∈ S → A \B =⋃Ni=1Ei,ただし Ei ∈ S は互いに素 (disjoint).

例 3 (a, b] ⊆ Rというかたちのすべての有限区間の系 P は半環をなす.

これは我々が検討する半環の最も重要な例.(a, b)というかたちのすべての区間の系が半環をなさないことと比較されたい.

証明は読者に委ねる.

定義 6 X の部分集合の空でない系Rは,以下を満たすとき環である.(i) A,B ∈ R → A ∪B ∈ R

(ii) A,B ∈ R → A \B ∈ R

注意 (i)R 6= ∅は,Rにある集合 Aが存在し,そのため ∅ = A \A ∈ Rとなることを含意する.(ii)[訳注:この部分省略.]

注意 系 P は環でない.例えば (0, 3], (1, 2] ∈ P であるが (0, 3] \ (1, 2] = (0, 1] ∪ (2, 3] 6∈ P.

定義 7 P の互いに素なメンバーの,有限個の和すべてからなる系 E は,Rにおける set elementary figuresと呼ばれる.

例 4 系 E は環.

確認 A,B ∈ E は,Ai, Bj ∈ P として A =⋃mi=1Ai かつ B =

⋃nj=1Bj と,互いに素な集合の和に書ける.よって

A \B = A ∩Bc =( m⋃

i=1

Ai

)∩Bc

=m⋃

i=1

(Ai ∩Bc

)

と,互いに素な集合の和となる.Ai = (a, b],B =⋃nj=1(aj , bj ]と書くと

Ai ∩Bc = (a, b] ∩{

(−∞, a1] ∪n−1⋃

j=1

(bj , aj+1] ∪ (bn,+∞]}

となることが分かり,分配則を使えば,E に属することが分かる.したがって,Aiが互いに素だから A \Bは E に属する互いに素な集合の和となり,よって A \B ∈ E,つまり条件 (ii)が成立する.また A ∪ B = (A \ B) ∪ (A ∩ B) ∪ (B \ A)より,これは互いに素な集合の和である.後は A ∩ B ∈ E を示せば

よいが,A∩B =⋃mi=1

⋃nj=1

(Ai ∩Bj

)は P に属する互いに素な集合の和であり,よって E に属する.したがって,

条件 (i)が満たされる.よって E は環である. �

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定義 8 環Rは,可算個の集合の和について閉じているとき,つまり An ∈ R, n ≥ 1ならば⋃n≥1An ∈ Rのとき,

σ-環である.

注意 Rを σ-環とし,An ∈ Rについて A =⋃n≥1An と書く.

⋂n≥1An ⊆ Aは自明だが,このことは

n≥1

An = A \(A \

n≥1

An

)

と書けることを意味する.ここで

A \⋂

n≥1

An = A ∩(⋂

n≥1

An

)c= A ∩

(⋃

n≥1

Acn

)

=⋃

n≥1

(A ∩Acn

)=⋃

n≥1

(A \An

)

である.A ∈ Rかつ全ての n ≥ 1について An ∈ Rより,A \An ∈ Rを得る.したがって⋃n≥1

(A \ An

) ∈ Rである.よって A \ (A \⋂n≥1An

) ∈ R,つまり ⋂n≥1An ∈ Rである.したがって σ-環は可算個の集合の交わりについても閉じている.

1.3 体

定義 9 空でない集合 X の部分集合の,空でない系 F は,以下を満たすとき体 (field) (もしくは代数 (algebra))である.

(i) X ∈ F

(ii) F が環

[つまり,X それ自身も F に含まれる,ということ.]さらに F は以下を満たすとき σ-体である.

(i) X ∈ F

(ii) F が σ-環

注意 体は以下を満たすものとして定義することもできる.

(i) X ∈ F

(ii) A ∈ F ならば Ac ∈ F

(iii) A,B ∈ F ならば A ∪B ∈ F

σ-体についても同様である.

確認 (i)X ∈ F,(ii)A,B ∈ R → A ∪ B ∈ R,かつ (iii)A,B ∈ R → A \ B ∈ Rは (i’)X ∈ F.(ii’)A,B ∈ R →A ∪B ∈ R,かつ (iii’)A ∈ F ならば Ac ∈ F と同値であることをこれから確認する.

(i),(ii),(iii) が成り立つと仮定せよ.このとき (i’) と (ii’) は明らかに成り立つ.(iii’) は,(iii) と (i) とから,X,A ∈ F がX \A ∈ F つまり Ac ∈ F を含意することを使って導くことができる.

(i’),(ii’),(iii’)が成り立つと仮定せよ.このとき (i)と (ii)は明らかに成り立つ.(iii)は,A\B = A∩Bc = (Ac∪B)c

がRに属することと,(i’),’(ii’)とから帰結する. �

例 5 (a)X を無限集合とする.F を,|A| <∞または |Ac| <∞のときまたそのときにかぎり A ∈ F,と定義する.このとき F は体である.しかし σ-体ではない.

(b)X を無限集合とする.F を,|A|が可算または |Ac|が可算のときまたそのときにかぎり A ∈ F,と定義する.このとき F は σ-体である.

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定理 1.6 1 X における環,体,σ-体の,空でない系の交わりは,それぞれ,環,体,σ-体である.

証明 補題 1.1と同じ方法による.

系 1.7 X の部分集合の系 Aが与えられたとき

(i) Aを含む最小の環R(A)が存在する.

(ii) Aを含む最小の σ-体 σ(A)が存在する.

これらは,以下の意味で最小である.

(i) Rが Aを含む任意の環ならばR(A) ⊆ R

(ii) F が Aを含む任意の σ-体ならば σ(A) ⊆ F

証明 単にR(A)を,Aを含む全ての環の交わりに選べばよい.また,σ(A)を,Aを含む全ての σ-体の交わりに選べばよい.これらは空でない交わりである.なぜなら,空でない X 上にはすくなくともひとつの環または σ-体が常に存在するからである.それはべき集合 P (X)である. �

定義 10 R(A)はAによって生成される環と呼ばれる.同様に,σ(A)はAによって生成される σ-体と呼ばれるが,これは,しばしば B(A)と書かれ,Aによって生成される Borel体とも呼ばれる.

定理 1.8 R(C)を,X 上の半環 C によって生成される環とする.このとき,R(C)は C に属する互いに素な集合の有限個の和の系であるつまり

R(C) ={A ⊆ X : A =

n⋃

i=1

Ei ただし Ei は C のある互いに素なメンバー}

(*)

証明 Aを式 (*)の右辺とする.A ∈ Aならば C のある互いに素なメンバー Ei について A =⋃ni=1Ei である.し

かし環R(C)は有限の和の下で閉じており,特に C の有限個の要素の和の下で閉じている.よって A ∈ R(C).次に,Aが環であることを,定義を確かめることによって示す.任意の A,B ∈ R(C)を取ると

A =m⋃

i=1

Ei かつ B =n⋃

j=1

Fj

が C におけるある有限個の互いに素な系 {Ei}と {Fj}について成り立つ.このとき

A \B =( m⋃

i=1

Ei

)∩( n⋃

j=1

Fj

)c

=( m⋃

i=1

Ei

)∩( n⋂

j=1

F cj

)

=m⋃

i=1

(Ei ∩

( n⋂

j=1

F cj

))

=m⋃

i=1

{ n⋂

j=1

(Ei \ Fj)}

(a)

しかし C は半環なので

Ei \ Fj =Lij⋃

l=1

Hijl

1原文では番号がずれているので修正した.

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と,C の互いに素な集合の和になる.よってn⋂

j=1

(Ei \ Fj) =n⋂

j=1

Lij⋃

l=1

Hijl

=( Li1⋃

l1=1

Hi1l1

)∩( Li2⋃

l2=1

Hi2l2

)∩ . . . ∩

( Lin⋃

ln=1

Hinln

)

=Li1⋃

l1=1

Li2⋃

l2=1

. . .

Lin⋃

ln=1

(Hi1l1 ∩Hi1l1 ∩ . . . ∩Hinln) (b)

は互いに素な集合の和である.さらに再び C は半環なので

Hi1l1 ∩Hi1l1 . . . ∩Hinln ∈ C

である.したがって式 (a)と式 (b)を組み合わせて A \Bが C の互いに素な集合の和であることが分かる.つまり,A \B ∈ Aである.同様に Ei ∩ Fj ∈ C であるから

A ∩B =( m⋃

i=1

Ei

)∩( n⋃

j=1

Fj

)

=m⋃

i=1

n⋃

j=1

(Ei ∩ Fj)

∈ A (1.1)

よって A ∪ B = (A \ B) ∪ (A ∩ B) ∪ (B \ A)は,上でそれが Aに属することを見た互いに素な集合の和であるから,A ∪B ∈ Aである.したがって Aは環である.明らかに C ⊆ Aであるが,定義よりR(C)は C を含む最小の環である.したがってR(C) ⊆ C.合わせて,R(C) = Aを得る. �

系 1.9 E = R(P)

証明 これは定理 1.8と,E が半環 P からの有限個の互いに素な集合の和の系であるという定義とから,帰結する.

定義 11 Rにおける Borel集合とは,P によって生成される σ-体の要素である.それは σ(P),B(P)または単に Bと記される.

定理 1.10 Rにおいて,以下を得る.

(i) U ⊆ B(P)

(ii) P ⊆ B(U)

(iii) B(P) = B(U)

証明 (i) 任意の A ∈ U について,

A =∞⋃

j=1

(ai, bi) ある ai と bi について,系 1.5より.

=∞⋃

i=1

∞⋃n=1

(ai, bi − 1

n

]

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各々(ai, bi−1/n] ∈ P であるので,AはP を含む任意の σ-体に含まれる.特に B(P)に含まれる.よって U ⊆ B(P)である.

(ii)任意の A ∈ P が与えられたとき,

A = (a, b] ある aと bについて.

=∞⋂n=1

(a, b+

1n

)

各々(a, b+ 1/n) ∈ U であり,σ-体は可算個の集合の交わりの下で閉じているので,Aは U を含む任意の σ-体に属する.特に B(U)に属する.よって P ⊆ B(U)である.(iii) 上の (i)は B(P)が U を含む σ-体であることを述べている.しかし,B(U)は U を含む最小の σ-体である.よって B(U) ⊆ B(P)である.同様に上の (ii)は B(P) ⊆ B(U)を含意する.したがって,B(P) = B(U)である. �

注意 X の部分集合の系 Aについて,Aによって生成される σ-体は,Aによって生成される位相を含む必要はない.これは,位相が,可算でないかもしれない集合の和を含むからである.例外的に,Rにおける usual topologyUは,系 1.5より,区間 (a, b)の可算和から成り立っている.よって,全ての区間 (a, b)を含む任意の σ-体はまた U を含まなければならない.系 1.5の証明は,本質的に Lindelofの補題,つまり定理 1.4に依存している.定理 1.4の証明[この定理は,後に定理 1.13として再びとりあげられ,証明されている]を見るならば,この結果は,Rの可算で稠密な部分集合,つまり Qの存在に依存していることが分かる.

1.4 付録:濃度

Aと B が二つの有限集合で,|A|と |B|がこれらの集合の要素数を表すとする.

注意 |A| ≤ |B|は,Aから B への単射 (one-to-one)が存在するとき,またそのときに限り,成立する.別の言い方をすれば,|A| ≤ |B|は,Bから Aへの全射 (onto)が存在するとき,またそのときに限り,成立する.

それらの間に全単射 (bijection)が存在する二つの集合CとDが与えられていると仮定する.全単射とは,Cから

Dへの単射(よって |C| ≤ |D|)であり,かつ C からDへの全射(よって |C| ≥ |D|)である.よって,|C| = |D|.これを次の定義に利用する.

定義 12 (無限集合も含む)二つの集合は,それらの間に全単射が存在するとき,またそのときに限り,同じ濃度

(cardinality)を持つ.

例 6 有限集合Eについて,Eから {1, 2, 3, . . . , n}への全単射が存在するとき,その濃度が nであると言い,|E| = n

と書く.全単射が g : E → {1, 2, 3, . . . , n}ならば E = {e1, e2, . . . , en}と書ける.ここで全ての 1 ≤ k ≤ nについてg(ek) = kである.

定義 13 集合 E について,E と Nの間に全単射が存在するならば,E は可算 (countable)と言う.無限可算集合について |E| = ℵ0 と書く.また,全単射が h : E → Nならば,E を E = {e1, e2, e3, . . . , }として列挙できる (canenumerate),あるいはその要素をリストできる (can list the elements of)と言う.ここで全ての k ≥ 1についてh(ek) = kである.

例 7 整数の集合 Zは可算である.可能な全単射としては,

h : Z→ N, n 7→{

2n− 1 n ≥ 1のとき2− 2n n ≤ 0のとき

がある.これは Zの列挙を {1, 0, 2,−1, 3,−2, 4,−3, . . .}として与えるだろう.

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例 8 直積 N× Nは可算である.順序対を次のような配列においてリストできる.(1, 1)(1) (1, 2)(2) (1, 3)(6) (1, 4)(7) . . .(15)

(2, 1)(3) (2, 2)(5) (2, 3)(8) . . .(14)

(3, 1)(4) (3, 2)(9) (3, 3)(13) . . .

(4, 1)(10) (4, 2)(12) . . .

. . .(11) . . .

上付きの添え字は,ここでは N× Nの要素を Nへどのように写像するかを示している.

例 9 直積 Z×Zは可算である.例 7より,Zを,例えば {r1, r2, r3, . . .}と列挙できることが分かっている.よって,Z× Zを以下のようにリストできる.

(r1, r1)(1) (r1, r2)(2) (r1, r3)(6) (r1, r4)(7) . . .(15)

(r2, r1)(3) (r2, r2)(5) (r2, r3)(8) . . .(14)

(r3, r1)(4) (r3, r2)(9) (r3, r3)(13) . . .

(r4, r1)(10) (r4, r2)(12) . . .

. . .(11) . . .

このように,例 8と同じ写像で足る.

例 10 同様に,Zn は任意の n ≥ 1について可算.

定理 1.11 Aが可算かつ B ⊆ Aならば B は可算.

証明 B が有限なら証明すべきことはない.

B が無限と仮定する.

Aが可算なので,ある全単射 f : N→ Aが存在する.Aの相異なる要素を {a1, a2, a3, . . .}と列挙するとする.これらの要素がBの中にあることが分かる.Aについての順序から,Bについての順序を得る.また,Bに {b1, b2, b3, . . .}とラベルを付け直すことで,b1 が B における Aの最初の要素,つまり

b1 = an1 ただし n1 = min{n : an ∈ B}

となり,また b2 が B における Aの二番目の要素,つまり

b2 = an2 ただし n2 = min{n : an ∈ B \ {b1}}

となり,一般に

br+1 = anr+1 ただし nr+1 = min{n : an ∈ B \ {b1, b2, . . . , br}}となるようにすることができる.ここで bi は相異なり,B の任意の要素はリスト b1, b2, b3, . . .の中にある.

この最後の叙述を理解するために,B の任意の要素 bをとる.B ⊆ Aだから,あるmについて b = am である.

リスト n1 < n2 < n3 . . .は無限であり,よってあるところで nt ≤ m < nt+1 が成り立たなければならない.もし

nt < m < nt+1 なら,以下を満たす am = b ∈ B の存在を得たことになる.

min{n : an ∈ B \ {b1, b2, . . . , bt}} > m > min{n : an ∈ B \ {b1, b2, . . . , bt−1}

最初の不等式は b ∈ B \{b1, b2, . . . , bt}を述べており,その一方,二番目の不等式は b 6∈ B \{b1, b2, . . . , bt−1}を述べている.これは矛盾.したがって,m = ntでなければならず,よって bは btとしてリストの中に現れなければならな

い.[訳注:「最初の不等式は b ∈ {b1, b2, . . . , bt}を述べており,その一方,二番目の不等式は b ∈ B \{b1, b2, . . . , bt−1}を述べている.だから b = bt,つまりm = nt でなければならない」という議論が正しい?]

B の任意の要素がリスト b1, b2, b3, . . .に現れているので,写像 g : N→ B,n 7→ bn は全射である.これが単射で

あることを示すために,g(s) = g(t)よって bs = bt,つまり ans = ant を仮定する.このとき ns = ntである.なぜ

なら,Aのラベル付きの要素は相異なるからである.同様に,nj は全て相異なる.よって s = tでなければならな

い.したがって gは単射であり,よって全単射である.したがって B は可算. �

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例 11 Qは可算.

確認 各要素を r/sと書く.ここで s ∈ N, r ∈ Zかつ s, rは互いに素 (coprime)とする(つまり分数は最も小さい項を使って書かれている).すると Qを r/s 7→ (r, s)によって例 9の配列の部分集合へ写像できる.この写像の像は可算と分かっている配列の部分集合だから,やはり可算である.そして,写像は全単射なので,Qは可算.

例 12 可算集合の可算な和は可算.

確認 可算個の集合の系とは,それらの集合が,例えば S1, S2, S3, . . .とリストできることを意味する.各 Si は可

算なので,今度はそれ自体が Si = {ai1, ai2, ai3, . . .}とリストできる.よって,⋃∞i=1 Si は以下の配列に含まれる.

(私は含まれるという言葉を使った.なぜなら,この配列は同じ要素を繰り返し含むかもしれないからであり,それ

らの要素は和においては一度しか勘定されない.)

a11(1) a12

(2) a13(6) a14

(7) . . .(15)

a21(3) a22

(5) a23(8) . . .(14)

a31(4) a32

(9) a33(13) . . .

a41(10) a42

(12) . . .

. . .(11) . . .

以前の例のように,この配列は可算であり,よって⋃∞i=1 Si は可算.

定義 14 (実 (real))代数的数 (algebraic number)とは,任意の n ≥ 1について次のかたちをとる任意の多項式の根をいう.

anxn + an−1x

n−1 + an−2xn−2 + · · ·+ a2x

2 + a1x+ a0 (1)

ここでどの iについても ai ∈ Zである.例えば√

2は代数的.代数的数 αが次数 nの多項式の根ではあるが,より小さな多項式の根でありえないとき,αは次数 (degree)nを

もつと言う.

例 13 代数的数の集合は可算.

確認 各m ≥ 1について,Rm ⊆ Rを,式 (1)のような多項式で次数がmのものの実根の集合と定義する.各多項

式について,高々m個の根があり,高々Zm+1 通りの可能な多項式がある.よって Rm は可算個の有限集合の和で

あり,したがって可算.よって,代数的数の集合⋃∞n=1Rn は,可算個の可算集合の和であり,したがって可算.

例 14 実数の集合 Rは非可算.

確認 [0, 1)が非可算であることを示せば足る.[0, 1)が可算と仮定すると,その要素を終わりがない十進数のかたちでリストできる.そのリストは以下のように

始まるだろう.

a1 = 0.a11a12a13a14 · · ·a2 = 0.a21a22a23a24 · · ·a3 = 0.a31a32a33a34 · · ·a4 = 0.a41a42a43a44 · · ·

... (1.2)

ここで,数 b = 0.b1b2b3b4 · · · ∈ [0, 1)を以下のように定義する.

bj =

{ajj + 1 0 ≤ ajj ≤ 8のとき1 ajj = 9のとき

(1.3)

9

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明らかに,全ての j ≥ 1について,数 bはリストの j 番目の要素とは j 番目の位置で異なっている.これはリス

トが [0, 1)の全ての数を含むことに矛盾する.よって仮定は偽であり,Rは可算でない.これは Cantorの対角論法として知られている. �

定義 15 集合 Aが Rと同じ濃度をもつとき,|A| = cと書く.

例 15 非代数的な実数を超越数と呼ぶ.例 13と例 14を合わせると,超越数の集合が非可算であると分かる.よって,ある意味では代数的数よりずっとたくさんの超越数がある.しかし,与えられた数が超越数かどうかを知るこ

とは,はるかに難しい.例えば,πや eが超越数であると証明されたのは比較的最近になってからである.(これら

が非有理数であることを示すことも十分難しい!)

注意 Aが有限集合なら,部分集合の個数は 2|A|で与えられる.この観察を,無限集合の部分集合の系の濃度に記号を割り当てるために使う.

定義 16 Aが(無限かもしれない)集合のとき,Aの全ての部分集合の系(つまり,Aの冪集合)を 2Aと書き(P (A)という書き方も依然使うが),2A の濃度を 2|A| と書く.

例 16 集合 2N は非可算.

この証明は Rが非可算であることの証明と同様である.そこで 2N が可算と仮定する.v1, v2, v3, . . .を Nの部分集合のある列挙とする.新しい集合 vを,kが vk に属さないとき,またそのときに限り vに属する,と定義する.

すると,全ての k ≥ 1について,kを含むのは vと vk のペアのうちのひとつであり,また,ひとつしかない.よっ

て vは vk と異なる.したがって,vは列挙に現れず,仮定に反する.

定義 17 集合 Aが集合 Bと一対一の対応関係に置かれることができないが,Aの真の部分集合は Bと一対一の対

応関係に置かれることができるとき,Aは B より大きな濃度をもつと言う.

よって 2Nの濃度は Nより大きい.ここで,Nより濃度が大きく,2Nより濃度が小さい集合 Aが存在するか,と

いう問題が生じる.Cantorの連続体仮説では,そのような集合がないと主張されている.特に,これは 2N の任意の無限部分集合が Nか 2N のいずれかと一対一の関係にあることを意味する.言い換えれば,任意の非可算集合 A

は |A| ≥ cを満たす.奇妙にも,この仮説が真か否かがいつか分かるだろうとは,期待されていない.

例 17 2ℵ0 = cを示すことは難しくない.(ヒント:全ての x ∈ [0, 1]を,二進法で展開した終わりのない小数のかたちで書き,x = 0.x1x2x3x4 . . .を xk = 1のとき,またそのときに限り k ∈ V となるように,Nの部分集合 V を定

義する.)

1.5 付録:位相空間について得られるいろいろな結果

定理 1.12 (Heine-Borel) [a, b] ⊆ Rが,[a, b] ⊆ ⋃i∈I(ci, di)と開区間の系によって被覆されるなら,(ci, di)の有限な部分系が存在し,1 ≤ i ≤ N として [a, b] ⊆ ⋃Ni=1(ci, di)とラベルを付け直すことができる.

証明 有限個の部分被覆がないと仮定する.[a, b] = [a, c] ∪ [c, d]と分割し,c = (a+ b)/2とする.これらの部分区間はともに [a, b]の被覆によって被覆される.これら部分区間がともに有限個の部分被覆によって被覆されることはない.なぜなら,そのような有限個の部分被覆の和は,[a, b]の有限個の部分被覆を与えるからである.そこで,有限個の部分被覆を持たないほうの部分区間をとる.それを再び半分に分割し,有限個の部分被覆によって被覆され

ないほうの新しい部分区間をとる.

これを続け,以下のような閉区間の列を見つけたとする.

J1 ⊆ J2 ⊆ J3 ⊆ · · ·ただし `(Ji) = 12i

10

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これらはいずれも有限個の部分被覆を持たない.aiを Jiの左側の端点とすると,{ai}i≥1は bによって上から押さ

えられる非減少列なので,例えば αに収束する.biを Jiの右側の端点とすると,{bi}i≥1は aによって下から押さ

えられる非増加列なので,例えば βに収束する.また,全ての iについて |ai − bi| = 1/2iなので α = βである.こ

の共通の値を γ とする.このとき⋂i = {γ}である.ここで γ ∈ [a, b]なので,ある i ∈ I について γ ∈ (ci, di)と

なる.これは開区間であり,また,全ての i ≥ 1について γ ∈ Ji であり,さらに i → ∞のとき `(Ji) → 0なので,γ ∈ Jn ⊆ (ci, di)となる n ≥ 1が存在しなければならない.しかし,これは Jnの有限個の被覆を与えており,矛盾.

定理 1.13 (Lindelofの定理)G = {Iα : α ∈ A}が区間 (a, b) ⊆ Rの系で,非可算の系かもしれないとする.このとき,可算な部分系 {Ii : i ≥ 1} ⊆ G で以下を満たすものが存在する.

α∈AIα =

∞⋃

i=1

Ii

証明 x ∈ ⋃α∈A Iαとすると,x ∈ Iαとなる α ∈ Aが存在する.例えば Iα = (a, b)だとすると,a < x < bである.

Qが Rにおいて稠密であることを思い出せば,r, r′ ∈ Qで a < r < x < r′ < bとなるものを見つけることができ

る.J = (r, r′)と書く.このように,各 xについて,x ∈ J ⊆ Iαとなり,その端点が有理数である区間 J を見つけ

ることができる.有理数の数は可算なので,x ∈ ⋃α∈A Iαをいろいろ変えて見つけられる相異なる J の個数も可算

である.よって,このようにして得られる J を J1, J2, J3, . . .とリストできる.このとき

α∈AIα ⊆

∞⋃

i=1

Ji ⊆⋃

α∈AIα

となる.なぜなら,[まず,x ∈ ⋃α∈A Iαなるすべての xを考慮して,その各々を含むものとして J1, J2, J3, . . .をリ

ストしたので,明らかに⋃α∈A Iα ⊆

⋃∞i=1 Jiであり,そして]各 Jiについて,ある αで Ji ⊆ Iαが成り立つからで

ある.よって⋃

α∈AIα =

∞⋃

i=1

Ji

を得る.各 i ≥ 1について,Ji ⊆ Iαを複数の α ∈ Aについて得るかもしれない.そこで,ちょうどひとつの Iαを

選んで,Ii とラベルをつける.すると

α∈AIα =

∞⋃

i=1

Ji ⊆∞⋃

i=1

Ii ⊆⋃

α∈AIα

が得られる.この式では,全体として等号が成り立たなければならず,したがって,定理が得られる. �

このように証明できるのは,Rが稠密な可算部分集合,つまり Qを含んでいるからである.あるいは,上で利用したように,すべての開区間がこの可算な部分集合からの要素を含んでいるからである.位相空間 (X, T )は,X の可算な部分集合で,T のどの開集合とも非空の交わりをもつものがあるとき,可分 (separable)と言われる.

11

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2 集合関数

2.1 集合関数

記法 R∗ = R ∪ {−∞,+∞} また R+ = {x ∈ R : x ≥ 0} ∪ {+∞}とする.ここで +∞と −∞は自明な下記の条件を満たす記号 (symbol)である.

任意の実数 x ∈ R : −∞ < x < +∞について

(±∞) + (±∞) = x+ (±∞) = (±∞) + x = ±∞(±∞)(±∞) = +∞ そして (±∞)(∓∞) = −∞

(±∞)x = x(±∞) =

±∞ x > 0のとき0 x = 0のとき∓∞ x < 0のとき

x

+∞ =x

−∞ = 0

(+∞) + (−∞)は定義されていないことが分かる.また 10 はまだ定義されていない.

例 18 I∗ を (a, b), (a, b], [a, b)そして [a, b] ⊆ R∗ というタイプのすべての区間の系とする.可能な集合関数は(i) l : I∗ → R∗, `(a, b) = b− a

(ii) f : R→ Rが非負のリーマン積分可能な関数とすると,F : I∗ → R+ を F ((a, b)) =∫ baf(t)dtと定義する.

定義 18 Aを空でない集合X の部分集合の系とする.拡張された実数値集合関数 φ : A → R∗ は

全ての A ∈ Aについて φ(A) ≥ 0なら非負

全ての A ∈ Aについて φ(A) ≤ 0なら非正

|φ(A)| <∞なら Aにおいて有限

全ての A ∈ Aについて |φ(A)| <∞なら有限

全ての A ∈ Aについて,可算な系 {An}n≥1 ⊆ Aが存在し,A ⊆⋃n≥1Anかつ |φ(An)| <∞が全ての n ≥ 1

について成り立つならば,σ-有限.

2.2 (有限)加法的関数

定義 19 φ : A → R∗ は以下を満たすとき有限加法的 (finitely additive)である.

(i) φ(∅) = 0

(ii) {An}1≤n≤N ⊆ Aが有限個の互いに素な集合の系で,かつ,⋃Nn=1An ∈ Aならば

φ

( N⋃n=1

An

)=

N∑n=1

φ(An)

例 19 X = (0, 1]また A = {(a, b] : 0 ≤ a < b ≤ 1}とする.

µ((a, b]) =

{b− a a 6= 0のとき+∞ a = 0のとき

と定義すると,これは加法的関数である.各自確認せよ.

12

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2.3 σ-加法的集合関数

定義 20 µ : A → R∗ は下記を満たすとき σ-加法的である.

(i) φ(∅) = 0

(ii) {An}n≥1 ⊆ Aが可算個の互いに素な集合の系で,かつ,⋃∞n=1An ∈ Aならば

φ

( ∞⋃n=1

An

)=∞∑n=1

φ(An)

注意 (A) (ii)で有限個の集合 Anを除いて全ての集合が空かもしれないので,σ-加法的の定義は加法的の定義を含む.つまり,σ-加法的は加法的を含意する.

(B) 例 19で,各 n ≥ 1について An = ( 1n+1 ,

1n ]ととる.このとき

∞∑n=1

=∞∑n=1

(1n− 1n+ 1

)= 1

となるが

µ

( ∞⋃n=1

An

)= µ((0, 1]) = +∞

であり,よって加法的であることは σ-加法的であることを含意しない.(C) Aが σ-環なら定義は簡単になる.なぜなら必然的に

⋃∞n=1An ∈ Aを得るからである.

(D) Aが σ-体ならば µは +∞と −∞の両方の値を取ることはできない.[訳注:本稿の σ-加法的の定義では Aについて特別な仮定がないことに注意.]

(D)の証明 µ(F ) = +∞かつ µ(G) = −∞となる F,G ∈ Aが存在すると仮定する.A は σ-体なので X ∈ A である.よって µ(X) は定義されなければならない.しかし X を二通りに分解でき

る.第一に X = F ∪ F c であり,よって µ(X) = µ(F ) + µ(F c)である.だが µ(F c) = −∞とはなりえない.なぜなら (+∞) + (−∞)は定義されないからである.したがって µ(F c)の値が何であれ µ(X) = +∞である.ところが X = G ∪ Gc でもあり,よって µ(X) = µ(G) + µ(Gc)である.今度は µ(Gc) = +∞となりえない.よってµ(X) = −∞である.これは矛盾. �

定義 21 写像 F : R → R は,単調増加,つまり x < y ならば F (x) ≤ F (y) であり,かつ,右連続,つまりlimx→x0+ F (x) = F (x0)であるとき,分布関数(distribution function)である.

そのような F のうちの一部分の系は F (x) =∫ x

0f(t)dtによって与えられる.ただし f ≥ 0.(例 18(ii)参照.)

記法 F : R→ Rが分布関数のとき,集合関数 µF : P → R+ を下記のように定義する.

µF ((a, b]) = F (b)− F (a)

F は増加関数のため b ≥ aなら F (b) ≥ F (a)であり,µF ((a, b]) ≥ 0となる.つまり µF は非負集合関数である.

次の結果は重要である.

定理 2.1 集合関数 µF は P 上で σ-加法的.

証明 証明は2ステップで構成される.

(A) µF は P 上で加法的

13

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(ai, bi] ∈ P, 1 ≤ i ≤ nを互いに素な集合とし,⋃ni=1(ai, bi] ∈ P を満たすとする.このとき,ある a, bについて⋃n

i=1(ai, bi] = (a, b]である.これらは有限個の区間の系なので,以下のように順序付けられていると仮定できる.

a = a1 < b1 = a2 < b2 = a3 < · · · < bn = b

(これは無限個の区間の系では必ずしも可能ではない.)すると

µF (n⋃

i=1

(ai, bi] = µF ((a, b]) = F (b)− F (a)

= F (bn) + (−F (an) + F (bn−1))

+ (−F (an−1) + F (bn−2)) + · · ·· · ·+ (−F (a2) + F (b1))− F (a1)

= (F (bn)− F (an)) + (F (bn−1)− F (an−1))

+ (F (bn−2)− F (an−2)) + · · ·· · · − F (a2)) + (F (b1)− F (a1))

=n∑

i=1

µF ((ai, bi])

(B) µF は P 上で σ-加法的.{(ai, bi]}i≥1を可算個の互いに素な区間の系とし,

⋃∞i=1(ai, bi] ∈ Pを満たすとする.このとき

⋃∞i=1(ai, bi] = (a, b]

がある aと bについて成り立つ.証明したいのは

µF ((a, b]) =∞∑

i=1

(ai, bi]

である.証明のアイディアは µF が P 上で加法的である事実を使うことである.これは,無限の集合和を有限の集合和で置き換えなければならないことを意味する.このことは,有限個の区間だけを残して,他を集合和の演算か

ら除去することで容易に成し遂げられる.当然,これによって誤差が生じ,不等式を証明できるだけである.逆方

向の不等式を得るには,より困難な作業が必要で,無限の集合和を有限なもので置き換えることを可能にする別の

結果が必要である.これは Heine-Borelの定理(定理 1.3)である.しかし,その結果は閉区間を被覆する開区間を扱っている.一方,ここでは開-閉区間を被覆する開-閉区間が問題となっている.そこで,これらの区間を「変

更」し,Heine-Borelの定理が使えるかたちにしなければならない.(B1) N ≥ 1が与えられているとする.このとき (a, b] ⊇ ⋃Ni=1(ai, bi]である.これは有限和なので a1 < a2 <

· · · < aN とラベルを付け直す.すると (a, b]は以下のように分解できる.

(a, b] = (a, a1] ∪N⋃

i=1

(ai, bi] ∪N−1⋃

i=1

(bi, ai+1] ∪ (bn, b]

µF は P 上で σ-加法的だから,上の (A)より

µF ((a, b]) = µF ((a, a1]) +N∑

i=1

µF ((ai, bi]) +N−1∑

i=1

µF ((bi, ai+1]) + µF ((bn, b])

を得る.適宜,項を削除することで

µF ((a, b]) ≥N∑

i=1

µF ((ai, bi])

が得られる.したがって,上から押さえられた部分和の列を得る.この列は増加する.なぜなら,N を増やすと非

負の項 µF ((ai, bi])が部分和に足されるからである.上から押さえられた増加列は収束する.よって,無限な列は収束し,その和は

∞∑

i=1

µF ((ai, bi]) ≤ µF ((a, b])

14

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を満たす.

(B2) a+ ε < bを満たす ε > 0が与えられているとする.分布関数 F は右連続だった.これは,ある点 biで右に

動いても,関数が値をあまり変えないことを意味する.つまり,b′i > bi なる b′i で下を満たすものを見つけられる.

F (bi) ≤ F (b′i) < F (bi) +ε

2i(2.1)

(1/2iというファクターに注意.これは「トリック」である.後で無限に多数のこれらの項を足すだろう.すると,いくら εが小さくても,このファクターがないと和が発散する.)次を考える.

[a+ ε, b] ⊆ (a, b] =∞⋃

i=1

(ai, bi] ⊆∞⋃

i=1

(ai, b′i)

これは可算個の開区間で被覆された閉区間であり,まさにHeine-Borelの定理を使える状況である.よって,[a+ε, b]の有限な部分被覆があると結論できる.M を,この部分被覆の中に現れる最大の iとすると,下記を得る.

[a+ ε, b] ⊆M⋃

i=1

(ai, b′i) (2.2)

有限個の区間の和を得たが,区間は P に属さないし,互いに素でもない.しかしながら,有限個の区間なのでa ≤ a1 < a+ εかつ a1 < a2 < a3 < · · · < aM < bとなるようにラベルを付け直すことができる.また,式 (2.2)中の開区間は重なり合わなければならないので,b′i > ai+1 を全ての 1 ≤ i ≤M − 1について得る.列 {ai}を使うと(a1, b]を以下のように分解できる.

(a1, b] =M−1⋃

i=1

(ai, ai+1] ∪ (aM , b]

µF が加法的で,これが有限個の互いに素な集合の和だから

µF ((a1, b]) =M−1∑

i=1

µF ((ai, ai+1]) + µF ((aM , b])

を得る.しかし

µF ((ai, ai+1]) = F (ai+1)− F (ai) 定義より

≤ F (b′i)− F (ai) aa+1 < b′i だから

< F (bi)− F (ai) +ε

2ib′i の定義より

= µF ((ai, bi]) +ε

2i

同様に µF ((am, b]) ≤ µF ((aM , b′M ]) < µF ((aM , bM ]) + ε2Mである.よって

µF ((a1, b]) <M−1∑

i=1

(µF ((au, bi]) +

ε

2i

)+ µF ((aM , bM ]) +

ε

2M

<

∞∑

i=1

µF ((ai, bi]) + ε (2.3)

今や式 (2.2)で εを 1/2iによって重み付けした重要性が分かる.上より a ≤ a1 < a+ εである.よって ε→ 0につれて a1 → aを得,また F が右連続より F (a1)→ F (a)である.特にこれは ε→ 0につれて µF ((a1, b])→ µF ((a, b])を意味する.よって式 (2.3)で ε→ 0として,下記を得る.

µF ((a, b]) ≤∞∑

i=1

µF ((ai, bi])

最後に,上の (A)の部分と (B)の部分を合わせて,所望の結果を得る. �

15

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2.4 σ-加法的関数を拡張 (extend)する

定理 2.1は,Rの部分集合の半環上に定義された σ-加法的集合関数の重要な例を与えていた.ここでの目標は,この集合の系を拡大し,その上に集合関数を定義することである.これは,続くいくつかのセクションで達成され

る.まずは一般の場合についてこれを行い,それからその一般的な結果を,系や例において,特殊ケース µF に適

用する.一般の結果と特殊な結果の区別を強調するために,特殊な結果には †を付ける.C は半環とする.

定理 2.2 µ : C → R+ が半環 C 上の非負 σ-加法的集合関数とする.このとき,R(C)上の唯一の σ-加法的関数 vが

存在し,C 上で v = µを満たす.(つまり vは µを拡張している.)さらに vは非負.

証明 A ∈ R(C)とすると,定理 1.8より A =⋃nk=1Ek が,ある互いに素な集合 Ek ∈ C について成り立つ.そこ

で次のように定義する.

v(A) =n∑

k=1

µ(Ek)

まず,これが well-definedであることを示す.そこで他の分解 A =⋃mj=1 Fj が,ある互いに素な集合 Fj ∈ C につ

いて成り立つとする.Hkj = Ek ∩ Fj とおく.C は半環なので,全ての kと j についてHkj ∈ C を得る.明らかに Ek ⊆ A =

⋃mj=1 Fj であるが,これは以下を意味する.

Ek = Ek ∩A = Ek ∩( m⋃

j=1

Fj

)=

m⋃

j=1

Hkj

同様に,Fj =⋃mk=1Hkj である.よって

n∑

k=1

µ(Ek) =n∑

k=1

m∑

j=1

µ(Hkj) µが C 上で加法的だから

=m∑

j=1

n∑

k=1

µ(Hkj) 和の入れ替え

=m∑

j=1

µ(Fj)

よって,この結果は分割によらず,vは well-definedである.これが σ-加法的であることを示すために,互いに素な集合の系 {Ek}k≥1 ⊆ R(C)で⋃k≥1Ek ∈ R(C)を満たすも

のをとる.すると,定理 1.8より E ∈ R(C)は,互いに素な集合 Ar ∈ R(C)について E =⋃nr=1Ar を意味する.同

様に,再び定理 1.8より Ek ∈ R(C)は,互いに素な集合 Bki ∈ R(C)について各々Ek =⋃mki=1Bki を意味する.

Crki = Ar ∩Bkiとおく.これは Cから取られた互いに素な集合の系となる(Cが半環である事実を使っている).

Ar =⋃

k≥1

mk⋃

i=1

Crki かつ Bki =n⋃r=1

Crki

16

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に注意すると

v

(⋃

k≥1

Ek

)= v

( n⋃r=1

Ar

)

=n∑r=1

µ(Ar) vの定義より.

=n∑r=1

µ

(⋃

k≥1

mk⋃

i=1

Ctki

)

=n∑r=1

∞∑

k=1

mk∑

i=1

µ(Crki) µが C 上で σ-加法的であることより.

=∞∑

k=1

mk∑

i=1

n∑r=1

µ(Crki) µ ≥ 0だから入れ替えが許される.

=∞∑

k=1

mk∑

i=1

µ(Bki) µが C 上で加法的だから.

=∞∑

k=1

v(Ek) vの定義より.

よって vはR(C)上で σ-加法的.τ を C からR(C)への µの他の任意の拡張とすると,Ei ∈ C を使って A ∈ Rは A =

⋃ni=1Ei と分解されるので

τ(A) =n∑

i=1

τ(Ei) τ はR(C)上で加法的

=n∑

i=1

µ(Ei) C 上で τ = µより.

= v(A) vの定義より.

よって µは唯一. �

系 2.3 † 定理 2.1の P 上の µF を,E 上の σ-加法的関数に拡張することができる.これも µF と書くことにする.

証明 系 1.9より E は P によって生成される環である. �

17

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3 測度

3.1 測度と外測度 (outer measure)

定義 22 σ-加法的である任意の非負集合関数 µ : C → R+ を C 上の測度 (measure)と言う.

注意 µを環 R上の測度とし,E,F ∈ Rが E ⊆ F を満たすとする.このとき F = E ∪ (F \ E)は互いに素な集合の和であり F \ E ∈ Rである.よって µ ≥ 0より µ(F ) = µ(E) + µ(F \ E)である.したがって E ⊂ F は

µ(E) ≤ µ(F )を含意する.µは単調(monotonic)と言う.

定義 23 CがXのすべての部分集合の系のとき,λ : C → R+ が以下を満たすならば,X上の外測度(outer measure)と呼ばれる.

(i) λ(∅) = 0

(ii) (単調性) E ⊆ F ならば λ(E) ≤ λ(F )

(iii) (可算劣加法性) X の任意の可算個の部分集合の系 {An}について

λ

( ∞⋃n=1

An

)≤∞∑n=1

λ(An)

注意 (iii)で Anは互いに素でなくてよい.ある外測度については,Anが互いに素であっても等式が成立しないこ

とが,後で分かる.

ここで中心となる結果は以下である.

定理 3.1 RをX の部分集合の環とし,X =⋃∞i=1Eiがある Ei ∈ Rについて成り立つとする.µをRの測度とす

る.A ⊆ X について,以下のように µ∗ を定義する.

µ∗(A) = inf∞∑

j=1

µ(Aj) (3.1)

ただし,inf は,集合 Aj ∈ Rによるすべての被覆 A ⊆ ⋃∞j=1Aj にわたっている.このとき µ∗ はX 上の外測度.

証明 外測度の定義の条件が満たされているかどうかを調べればよい.

µは測度なので,全ての j について µ(Aj) ≥ 0であり,よって µ∗(A) ≥ 0がすべての Aについて成り立つ.つま

り,C をX のすべての部分集合の系として,µ∗ : C → R+ である.

(i) 空集合 ∅はRに属するので,それ自身によって被覆される.よって µ∗(∅) ≤ µ(∅) = 0.µ∗ ≥ 0を得ていたので,µ∗(∅) = 0と結論できる.

(ii) E ⊆ F ならば,F の任意の被覆は E の被覆でもある.よって,F のいろいろな被覆についての∑∞j=1 µ(Aj)

の値の集合は,E のいろいろな被覆についての∑∞j=1 µ(Aj)の値の集合に含まれる.一般に A ⊆ B ⊆ Rならば,

inf B ≤ inf Aである.今の場合,このことは µ∗(E) ≤ µ∗(F )を意味する.(iii) 任意の可算個の集合の系 {An}が与えられているとする.ある nについて µ∗(An) = +∞ならば,µ∗ ≥ 0よ

り∑∞j=1 µ

∗(Aj) = +∞である.よって所望の結果が自明に成立する.全ての nについて µ∗(An) < +∞と仮定する.ε > 0が所与とする.このとき,下限 (infimum),あるいは等価

だが最小上界 (least upper bound)の定義より2,AnのGni ∈ Rによる被覆 An ⊆⋃∞i=1Gniで,下記を満たすもの

を見つけることができる.

µ∗(An) ≤∞∑

i=1

µ(Gni) < µ∗(An) +ε

2n(3.2)

2訳注:inf(S) = − sup(−S)が任意の S ⊆ R+ で成り立つ.ただし −S は S の要素の符号を反転させたものの集合.つまり両概念は等価.

18

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(定理 2.1の証明で,誤差に重み付けしたのと同様の「トリック」を,式 (3.2)において 1/2nによって用いていることに注意.)しかし,このとき

∞∑n=1

µ∗(An) ≥∞∑n=1

( ∞∑

i=1

µ(Gni)− ε

2n

)

≥ µ∗( ∞⋃n=1

An

)−ε (3.3)

が µ∗ の定義と,⋃∞n=1

⋃∞i=1Gni が

⋃∞n=1An の被覆である事実とから得られる.式 (3.3)はすべての ε > 0につい

て成り立つので,可算劣加法性が導かれる. �

系 3.2 E 上の µF から R上の Lebesgue-Stieltjes外測度 µ∗F が定義できる.[訳注:定義 7を参照.]

3.2 外測度と可測集合

注意 この節のいろいろな結果は,任意の外測度 λに関するものである.

集合X 上の外測度 λが測度ならば,それは加法的である.特に,任意のふたつの集合 A,B ⊆ X について A∩Bと A ∩Bc は互いに素で,しかも (A ∩B) ∪ (A ∩Bc) = Aであるから

λ(A) = λ(A ∩B) + λ(A ∩Bc)

が得られると思うかもしれないが,これが必ずしも全ての AとBで成り立つわけではないことが分かるだろう.し

かし,これは次の定義へとつながっていく.

定義 24 λを集合X 上の外測度とする.このとき,次が成立するならば E ⊆ X は λについて可測(あるいは λ-可測)と言われる.

全ての A ⊆ X について λ(A) = λ(A ∩ E) + λ(A ∩ Ec) (3.4)

(このことは,次のような意味だと読むことができる.つまり,可能なすべての「テスト集合」Aをひとつひとつ

取ってきて,Eの外にはみ出す部分と内側に入る部分との測度を調べ,それらを足すと Aの測度に一致するかどう

かを調べる,という意味である.)

λは劣加法的なので λ(A) ≤ λ(A ∩ E) + λ(A ∩ Ec)である.よって,可測性をチェックするためには,以下を確認しさえすればよい.

全ての A ⊆ X について λ(A) ≥ λ(A ∩ E) + λ(A ∩ Ec) (3.5)

M =M(λ)を,λ-可測な集合の系とする.

定理 3.3 Mは体である.

証明 明らかに ∅とX はMに属する.任意の E1, E2 ∈Mと任意の A ⊆ X を取る.このとき,下記が成り立つ.

λ(A) = λ(A ∩ E1) + λ(A ∩ Ec1)

ここで E2 の可測性の定義をテスト集合 A ∩ Ec1 に使うと,以下を得る.

λ(A ∩ Ec1) = λ((A ∩ Ec1) ∩ E2) + λ((A ∩ Ec1) ∩ Ec2)

= λ(A ∩ Ec1 ∩ E2) + λ(A ∩ (E1 ∪ E2)c)

19

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これを先の式に代入すると,下記を得る.

λ(A) = λ(A ∩ E1) + λ(A ∩ Ec1 ∩ E2) + λ(A ∩ (E1 ∪ E2)c) (3.6)

式 (3.6)の右辺の最初のふたつの項に λの劣加法性を使いたい.これらの集合については

(A ∩ E1) ∪ (A ∩ Ec1 ∩ E2) = A ∩ (E1 ∪ (Ec1 ∩ E2))

= A ∩ ((E1 ∪ Ec1) ∩ (E1 ∪ E2))

= A ∩ (X ∩ (E1 ∪ E2))

= A ∩ (E1 ∪ E2)

が得られるので,以下が成立する.

λ(A ∩ E1) + λ(A ∩ Ec1 ∩ E2) ≥ λ(A ∩ (E1 ∪ E2))

これを式 (3.6)に代入するとλ(A) ≥ λ(A ∩ (E1 ∪ E2)) + λ(A ∩ (E1 ∪ E2)c)

を得る.よって式 (3.5)を E1 ∪ E2 について確認したことになり,つまり E1 ∪ E2 ∈Mである.λ-可測集合の定義は,Ec ∈Mならば,またそのときにかぎり E ∈Mである,という意味で対称的なので

E1 \ E2 = E1 ∩ Ec2 = (Ec1 ∪ E2)c ∈M

が得られ,Mは体である. �

命題 3.4 G,F ∈M(λ)が互いに素ならば

λ(A ∩ (G ∪ F )) = λ(A ∩G) + λ(A ∩ F )

がすべての A ⊆ X について成り立つ.

証明 A ⊆ X が与えられているとする.λ-可測性の定義を,テスト集合を A ∩ (G ∪ F )として Gに適用すると

λ(A ∩ (G ∪ F )) = λ((A ∩ (G ∪ F )) ∩G) + λ((A ∩ (G ∪ F )) ∩Gc) (3.7)

となるが

(G ∪ F ) ∩G = (G ∩G) ∪ (F ∩G)

= G ∪ (F ∩G) = G

が F ∩G ⊆ Gより成り立つ.また,F と Gが互いに素であることは F ⊆ Gc つまり F ∩Gc = F を意味するので

(G ∪ F ) ∩Gc = (G ∩Gc) ∪ (F ∩Gc)= ∅ ∪ F = F

が成り立つ.したがって式 (3.7)は

λ(A ∩ (G ∪ F )) = λ(A ∩G) + λ(A ∩ F )

となる. �

帰納法を使うと,次を証明できる.

20

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系 3.5 任意の n ≥ 1について {Fi}1≤i≤n がM(λ)からの有限個の互いに素な集合の系とすると,次が成り立つ.

全ての A ⊆ X について λ

(A ∩

n⋃

i=1

Fi

)=

n∑

i=1

λ(A ∩ Fi)

証明 略.

系 3.6 {Fi}i≥1 がM(λ)からの可算個の互いに素な集合の系とすると,次が成り立つ.

全ての A ⊆ X について λ

(A ∩

∞⋃

i=1

Fi

)=∞∑

i=1

λ(A ∩ Fi)

証明 任意の n ≥ 1について A ∩⋃∞i=1 Fi ⊇ A ∩⋃ni=1 Fi が成り立つので,単調性より

λ

(A ∩

∞⋃

i=1

Fi

)≥ λ

(A ∩

n⋃

i=1

Fi

)

=n∑

i=1

λ(A ∩ Fi)

が系 3.5から得られる.n→∞とすると

λ

(A ∩

∞∑

i=1

Fi

)≥∞∑

i=1

λ(A ∩ Fi)

が得られる.逆向きの不等号は劣加法性から帰結する. �

定理 3.7 M(λ)は σ-体であり,M(λ)に制限された λは測度である.

証明 {Ei}i≥1 をMからの可算個の集合の系とする.それらは互いに素とは限らない.ここで,F1 = E1 と定義

し,全ての i ≥ 1について次のように定義する.

Fi = Ei \i−1⋃

j=1

Ej

Fiは互いに素で,Mが体であることより Fi ∈Mである.Gm =⋃mj=1 Fj そしてG =

⋃∞j=1 Fj =

⋃∞i=1Eiとする.

このとき任意の A ⊆ X と任意の n ≥ 1について以下を得る.

λ(A) = λ(A ∩Gn) + λ(A ∩Gcn) Gn ∈Mだから

=n∑

i=1

λ(A ∩ Fi) + λ(A ∩Gcn) 系 3.5より

≥n∑

i=1

λ(A ∩ Fi) + λ(A ∩Gc) Gc ⊆ Gcn だから

全ての nについてこれが成り立つことは,以下を意味する.

λ(A) ≥∞∑

i=1

λ(A ∩ Fi) + λ(A ∩Gc)

= λ

(A ∩

∞⋃

i=1

Fi

)+ λ(A ∩Gc) Fi が互いに素なので,系 3.6より

= λ(A ∩G) + λ(A ∩Gc)

全ての A ⊆ X についてこれが成り立つことは,G ∈M(λ)を意味する.系 3.6で A = X と選ぶと,λがM(λ)上で σ-加法的であると示せる.よって λはM(λ)上の測度である. �

21

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例 20 系 3.2 の Lebesgue-Stieltjes 外測度 µ∗F を使うと,σ-体M(µ∗F ) を作ることができる.これは Lebesgue-

Stieltjes可測集合として知られており,LF と表記される.F (x) = xならば,それは単に Lebesgue可測集合と

して知られており,Lと表記される.

ここから,式 (3.1)にあるような,環の中で定義された測度から構成された外測度へと,考察を特化する.

定理 3.8 Rを集合X の部分集合の環とし,X =⋃∞i=1Eiが,ある Ei ∈ Rについて成り立つとする.µをR上の

測度とし,µ∗ を式 (3.1)のように µから構成されたX 上の外測度とする.このとき

(i) Rの要素は µ∗-可測な集合である.

(ii) R上では µ∗ = µである.

証明 (i) E ∈ Rとし,テスト集合 A ⊆ X が与えられているとする.µ∗(A) = +∞ならば式 (3.4)が自明に成り立つので,µ∗(A) < +∞と仮定する.ε > 0が与えられているとする.定義の式 (3.1)より,可算個の集合の系 {Ei}i≥1 ⊆ Rで A ⊆ ⋃i≥1Ei と

µ∗(A) ≤∞∑

i=1

µ(Ei) < µ∗(A) + ε

を満たすものが存在する.しかし µはR上の測度であり,Ei, E ∈ Rだから

µ(Ei) = µ(Ei ∩ E) + µ(Ei ∩ Ec)

である.以上を組み合わせて,次を得る.

µ∗(A) + ε >

∞∑

i=1

(µ(Ei ∩ E) + µ(Ei ∩ Ec))

≥ µ∗(A ∩ E) + µ∗(A ∩ Ec)

これは,{Ei ∩E}i≥1と {Ei ∩Ec}i≥1がそれぞれ A ∩E と A ∩Ecの被覆だからである.上が全ての ε > 0について妥当することは,式 (3.4)が成り立つこと,よって E ∈Mであり,したがってR ⊆Mであることを意味する.

(ii) E ∈ Rが与えられているとする.E はRから取られた E の被覆だから,下記を得る.

µ∗(E) = infすべての被覆

∑µ(Ei) ≤ µ(E)

E の任意の他の被覆 {Ei}i≥1 を取る.定理 3.7のように,Ei を互いに素な集合 Fi ⊆ Ei, Fi ∈ Rで置き換える.ここで

⋃∞i=1 Fi =

⋃∞i=1Ei である.すると

µ(E) = µ

(E ∩

∞⋃

i=1

Fi

)E ⊆ ⋃∞i=1 Fi だから

= µ

( ∞⋃

i=1

(E ∩ Fi))

=∞∑

i=1

µ(E ∩ Fi) µがR上で σ-加法的だから

≤∞∑

i=1

µ(Fi) ≤∞∑

i=1

µ(Ei) E ∩ Fi ⊆ Fi ⊆ Ei であり µがR上で単調だから

よって,µ(E)は,ある和の下界 (lower bound)であり,その和の最大下界 (greatest lower bound)は µ∗(E)である.したがって µ(E) ≤ µ∗(E)である.よって,µ(E) = µ∗(E)である. �

22

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今や µ∗ は µを拡張すると言うのが合理的であると分かる.

さらに,AをX の部分集合の系とする.

定義 25 拡張された実数値集合関数 φ : A → R∗ は,全ての A ∈ Aについて,可算個の集合の系 {An}n≥1 ⊆ Aが存在し,A ⊆ ⋃n≥1An かつ |φ(An)| <∞が任意の n ≥ 1で成り立つならば,σ-有限である.

すると,以下を示すことができる.

定理 3.9 定理 3.8の条件に加えて,µがR上で σ-有限ならば,Mへの拡張は一意であり,また σ-有限である.

証明 ここでは示さない[訳注:後で出てくる,定理 4.7と定理 4.8を参照.] �

例 21 † µF が,まず P 上で定義され,次に系 1.9にある E へ拡張されたことを想起せよ.例 20においては,LF として知られている σ-体M(µ∗F )が構成された.今や定理 3.8は E ⊆ LF を含意し,また E 上で µ∗F = µF を含意する.

したがって,LF 上では µ∗F を単に µF と書くのが合理的であり,これを Lebesgue-Stieltjes測度と呼ぶ.F (x) = x

ならば,µF を単に µと書き,Lebesgue測度と呼ぶ.

注意 † LF ⊇ E ⊇ P であるから,LF は P を含む σ-体である.しかし B,つまり Rの Borel集合は,P を含む最小の σ-体である[訳注:定義 11].よって LF ⊇ Bがすべての分布関数 F について成り立つ.

3.3 Lebesgue可測集合

集合 A ⊆ Rと x ∈ Rについて,平行移動集合 (translated set)を A(x) = A+ x = {y + x : y ∈ A}と定義する.

補題 3.10 (平行移動の下での不変性)† E ∈ Lと x ∈ Rについて,E(x) ∈ Lかつ µ(E) = µ(E(x))が成り立つ.

証明 (i) I ∈ P ならば I = (a, b]がある aと bについて成り立ち

µ(I(x)) = µ((a+ x, b+ x])

= (b+ x)− (a+ x)

= b− a = µ(I)

(ii) E ∈ E ならば E =⋃ni=1 Ii が互いに素な Ii ∈ P について成り立つ.定理 2.2の証明にある拡張された測度の

定義より,µ(E) =∑ni=1 µ(Ii) が得られる.また,上の (i)より,これは平行移動不変である.

(iii)今度は外測度 µ∗について考える.A ⊆ Rとする.このときAの被覆 {Ei}i≥1 ⊆ EとA(x)の被覆 {E′i}i≥1 ⊆ Eとの間に,Ei → Ei(x)および E′i → E′i(−x)によって与えられる写像が存在する.(ii)より,µ(Ei) = µ(Ei(x))および µ(E′i) = µ(E′i(−x))を得るので,

∑∞i=1 µ(Ei)の下限 (infimum)と

∑∞i=1 µ(E′i)の下限 (infimum)は同じ値にな

る.したがって µ∗(A) = µ∗(A(x))であり,よって µ∗ は平行移動不変.

(iv) E ∈ Lと x ∈ Rが与えられているとする.任意の集合 A ⊆ Rを取る.E にテスト集合を A(−x)として可測集合の定義をあてはめると,以下を得る.

µ∗(A(−x)) = µ∗(A(−x) ∩ E) + µ∗(A(−x) ∩ Ec) (3.8)

しかし

y ∈ A(−x)かつ y ∈ E のとき,またそのときにかぎり y ∈ A(−x) ∩ Ey + x ∈ Aかつ y + x ∈ E(x)のとき,またそのときにかぎり y ∈ A(−x) ∩ E

y + x ∈ A ∩ E(x)のとき,またそのときにかぎり y ∈ A(−x) ∩ Ey ∈ (A ∩ E(x))(−x)のとき,またそのときにかぎり y ∈ A(−x) ∩ E

23

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なので,A(−x) ∩E = (A ∩E(x))(−x)である.同様に A(−x) ∩Ec = (A ∩E(x)c)(−x)である.µ∗ が平行移動不変なので,式 (3.8)は次のようになる.

µ∗(A) = µ∗(A ∩ E(x)) + µ∗(A ∩ E(x)c)

すべての A ⊂ X についてこれが成り立つことは,E(x) ∈ Lを意味する. �

3.4 非可測集合

定理 3.11 µ(V )が定義されていない部分集合 V ⊆ Rが存在する.つまり,非可測集合が存在する.

証明 Qq = Q∩ [−1, 1]と定義する.x, y ∈ [0, 1]について,x− y ∈ Q1のとき,またそのときにかぎり x ∼ yと定義する.これは同値関係であり,[0, 1]を互いに素な同値類に [0, 1] =

⋃αEαと分解する.x ∈ Eαならば,各 y ∈ Eα

について y − x ∈ Q1が満たされる.このとき,Q1が可算であることより,yの個数も可算である.つまり,Eαは

可算である.しかし [0, 1]は非可算であるから,Eα の系は非可算である.各 Eαからひとつ要素を選び,集合 V を作るためにそれらを集める.必要ならば α ∈ V となるように Eαのラベ

ルを付けなおす.

なお,ここは非常にデリケートな箇所である.なぜなら,非可算の系に属する各集合から要素を選ぶ可能性が関

係してくるからである.集合を列挙できない場合に,どのようにすれば,集合をひとつひとつ訪問しながら要素を

選ぶことを,確実に行えるのか.実際,これが可能であるということは,要請しなければならない種類の事柄であ

り,これは選択公理と呼ばれている.数学においてこの公理を仮定しても,何の矛盾も生じないことが知られてい

る.しかしまた,これを仮定しなくても,何の矛盾も生じないことが知られている.したがって,奇妙にも,選択

公理が真であるかどうかは知られていない.たいていの数学者はこの公理を仮定している.しかし,その場合,そ

れらを構成することができないような対象が存在する,という種類の証明が行われることになる.例えば,選択公

理を仮定しないと,非可測な集合を見つけることはできない.つまり,選択公理を仮定するならば非可測な集合が

存在する,ということは,単に「分かっている」ことにすぎない.[訳注:単に「分かっている」だけのことであり,

そのような集合を構成できるということではない.]

さて,V が Lebesgue可測であると仮定する.Q1 = {r1, r2, r3, . . .}と列挙し,V を rnによって平行移動する.その結果得られる集合を Vn = V (rn)と書く.こ

れらは互いに素な集合である.なぜなら Vn ∩ Vm 6= ∅とすると,ある y ∈ Vn ∩ Vmを選ぶことができるからである.すると y− rn, y− rm ∈ V となるが,(y− rn)− (y− rm) = rm − rn ∈ Q1より,y− rnと y− rmとが [0, 1]における同じ同値類に属することになる.しかし,V は各同値類からひとつの要素しか含まないため,y− rn = y− rmとなり,よって Vn = Vm となる.

任意の x ∈ [0, 1] が与えられたとき,ある α ∈ V について x ∈ Eα となる.よって,ある rn ∈ Q1 について

x = α+ rn である.つまり以下を得る.

x = α+ rn ∈ V + rn = V (rn) = Vn

したがって [0, 1] ⊆ ⋃∞i=1 Vi である.また⋃∞i=1 Vi ⊆ [−1, 2]である.よって

3 = µ([−1, 2]) ≥ µ( ∞⋃

i=1

Vi

)≥∞∑

i=1

µ(Vi) =∞∑

i=1

µ(V )

を得る.なぜなら µが平行移動不変だからである.よって µ(V ) = 0でなければならない.しかし

1 = µ([0, 1]) ≤ µ( ∞⋃

i=1

Vi

)≤∞∑

i=1

µ(Vi) =∞∑

i=1

µ(V )

が得られ,矛盾が生じ,V が Lebesgue可測であるという仮定は偽である.よって,V は Lebesgue可測ではない.�

24

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系 3.12 R上の外測度 µ∗ は,R上の測度ではない.

証明 T を非可測な集合とすると,T はあるテスト集合 A ⊆ Rについて式 (3.4)を満たさない.つまり,以下が成り立つ.

µ∗F (A) 6= µ∗(A ∩ T ) + µ∗F (A ∩ T c)よって µ∗ は加法的ではなく,したがって測度ではない. �

3.5 測度ゼロの集合

例 22 Rのすべての可算集合は,Lebesgue測度 0をもつ.

確認 ある点 a ∈ Rが与えられたとすると,{a} =⋂n≥1(a − 1/n, a] ∈ Lを得るので,{a}は Lebesgue可測であ

る.その測度は µ({a}) ≤ µ((a − 1/n, a]) = 1/nを,すべての n ≥ 1について満たす.よって µ({a}) = 0である.したがって,可算集合 Aについて以下を得る.

µ(A) = µ

(⋃

a∈A{a})

=∑

a∈A

以下では,測度ゼロの非可算集合を構成する.

定義 26 測度 µ : C → R+ が与えられたとき,E ⊆ F, F ∈ C かつ µ(F ) = 0が,全て合わせて E ∈ C を含意するならば,クラス C は µに関して完備と言われる.さらに,このとき,µは完備な測度と言う.

補題 3.13 µが,外測度 µ∗ を µ∗-可測な集合のクラスMへ制限して得られているならば,µは完備である.

証明 A ⊆ X が与えられているとする.µ∗ は単調だから,E ⊆ F かつ µ∗(F ) = 0 ならば µ∗(E) = 0 かつµ∗(A ∩ E) = 0である.よって

µ∗(A) ≥ µ∗(A ∩ Ec) µ∗ が単調だから

= µ∗(A ∩ Ec) + µ∗(A ∩ E)

を得る.したがって,式 (3.4)が満たされ,E ∈Mである. �

系 3.14 † R上の Lebesgue-Stieltjes測度は完備である.

例 23 Cantor集合 Cantor集合K は,以下のような集合の列を定義することによって構成される.

F0 =[0, 1]

F1 =[0, 1/3] ∪ [2/3, 1]

F2 =[0, 1/9] ∪ [2/9, 1/3] ∪ [2/3, 7/9] ∪ [8/9, 1]

...

つまり,Fn は,Fn−1 から中央の 3分の 1の開区間を除去して構成される.Cantor集合はK =⋂∞n=1 Fn である.

定義 11より,Borel集合 Bは閉区間 [a, b]によって生成される.また,σ-体は,可算個の集合の交わりの下で閉じているのであった.よってK は Borel集合である.このことは,任意の F についてK ∈ B ⊆ Lf であることを意味する.そこで,Lに考察を限定する.

25

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一見したところ,K は単に 13 ,

19 ,

23 ,

127 , . . .といった点だけを含んでいるように思える.そして,この見方は,K

の Lebesgue測度を確認することで支持される.各 nについて,以下が得られる.

µ(K) = µ(Fn) µが単調だから

=23µ(Fn−1) = · · ·

=(

23

)nµ(F0) =

(23

)n

これが全ての nについて成り立つので,µ(K) = 0である.よって,測度の意味では Cantor集合は「小さい」.次に,これとは別の見方をして,[0, 1]の数を 3進法の小数のかたちに分解してみる.

x =a1

3+a2

32+a3

33+a4

34+a5

35+ · · ·

ここで,各 aiは 0か 1か 2である.最後の非ゼロの係数が 1ならば終わりがない展開のほうを取る,というように取り決めると,例えば 1

3 については以下の展開を得る.

03

+232

+233

+234

+235

+ · · ·

一方,8/9については23

+232

+033

+034

+035

+ · · ·を取り,7/9については

23

+032

+233

+234

+235

+ · · ·を取る.すると,以下のことが分かる.

x ∈F1 a1 = 0または 2のとき,またそのときに限り

x ∈F2 (a1 = 0または 2)かつ (a2 = 0または 2)のとき,またそのときに限り

x ∈F3 (a1 = 0または 2)かつ (a2 = 0または 2)かつ (a3 = 0または 2)のとき,またそのときに限り

...

よって,全ての i ≥ 1について ai = 0または 2のとき,またそのときに限り,x ∈ K である.(例えば,これによって,無限の展開に関する上記の取り決めに従うと, 1

3 ∈ K を得る.これは,Fnの交わりとしてK を定義したこと

により期待できたことでもある.)

いま,K を [0, 1]へと,以下のように写像することができる.

f :∞∑n=1

an3n7→

∞∑n=1

bn2n

ここで,an = 0ならば bn = 0であり,an = 2ならば bn = 1である.この写像は一対一ではない.このことは,次の例によって分かる.

f

(89

)= f

(23

+232

+033

+034

+035

+ · · ·)

=12

+122

+023

+024

+025

+ · · · = 34

であるが,一方

f

(79

)= f

(23

+032

+233

+234

+235

+ · · ·)

=12

+022

+123

+124

+125

+ · · · = 34

26

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である.しかし,[0, 1]に属する数を終わりのない 2進法の小数で表したものから,K への写像

h :∞∑

i=1

bn2n7→

∞∑n=1

2bn3n

はKの部分集合への一対一写像である.例えば,h(3/4) = 7/9である一方,h(x) = 8/9は解を持たない.特に,Kは少なくとも [0, 1]と同じ濃度を持たなければならない.しかし,K が [0, 1]の部分集合であることから,それは同じ濃度を持たなければならない.ところが,[0, 1]の濃度は Rと同じであり,cと記される.特に,K は非可算である.よって,濃度の意味では Cantor集合は「大きい」.

系 3.15 Lebesgue可測集合の系の濃度は 2c である.

証明 補題 3.13より,K ∈ Lかつ µ(K) = 0なので,任意の部分集合 A ⊆ K が A ∈ Lを満たす.Kの部分集合の個数は 2cである.よって,Lの濃度は≥ 2cである.しかし,任意の Lebesgue可測集合はRの部

分集合であり,その個数は 2cである.[訳注:よって,Lの濃度は ≤ 2cである.]したがって所望の結果を得る.�

27

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4 可測関数

4.1 可測関数

記法 ペア (X,F)は,F がX の部分集合の σ-体であるとき,可測空間(measurable space)と呼ばれる.µが F 上の測度ならば,(X,F , µ)は測度空間(measure space)である.µ(X) <∞ならば,(X,F , µ)は確率空間(probability space)であり,µは確率測度(probability measure)である.

この測度は,µ(X) = 1となるように再正規化されうるし,また,通常そうする.

定義 27 R∗ の拡張されたBorel集合B∗ とは,Bから取られた集合と {−∞,+∞}の部分集合との和集合の集合である.

B∗ が σ-体であることのチェックは読者に委ねる.重要なのは,以下が得られることである.

命題 4.1 σ-体 B∗ は,R∗ において,すべての区間 (c,+∞], c ∈ Rによって生成される σ-体である.

証明 G を,これらの区間によって生成される σ-体とする.このとき,すべての c ∈ Rについて R∗ \ (c,+∞] =[−∞, c] ∈ Gである.したがって (c,+∞]∩ [−∞, d] = (c, d] ∈ Gが,すべての c, d ∈ Rについて成り立つ.よって Gは,すべての c, d ∈ Rについて (c, d]を含んでいる最小の σ-体でなければならない.つまり Bでなければならない.また,G は,{+∞} =

⋂n≥1(n,+∞]と {−∞} =

⋂n≥1[−∞,−n]とを含んでいる.

したがって,G は Bと {−∞,+∞}とを含む最小の σ-体を含む.つまり,B∗ を含む.よって B∗ ⊆ G である.自明に,(c,+∞] =

⋃n≥1(c, n]∪ {+∞} ∈ B∗が各 cについて成り立つ.よって,これら (c,+∞]を含む最小の σ-

体は,それらを含む任意の他の σ-体に含まれなければならない.つまり G ⊆ B∗ である.したがって G = B∗ である. �

明らかに,同じ σ-体は,区間 {[c,+∞], c ∈ R},または,区間 {[−∞, c], c ∈ R},または,区間 {[−∞, c), c ∈ R}によって生成される.∗以下の定義を正当化するために,関数 f : (X,F)→ R∗をどのようにして積分するかを,前もって見ておいてもいい

だろう.ひとつの方法は,fの値域(range),つまりRを,区間 (aν , aν+1]へ分割し,集合 {x ∈ X : aν < f(x) ≤ aν+1}を調べることによって f を近似することである.それらの集合は可測であること,つまり F の要素であることが望ましい.よって,区間 (aν , aν+1]の逆像 (pre-image)が,またはそれらによって生成される σ-体が,F の中にあることを要求するのは,合理的と思われる.

定義 28 写像 f : (X,F)→ R∗は,全てのB ∈ B∗について f−1(B) ∈ F であるとき,またそのときに限り F-可測.

特殊な場合 f : (R,LF )→ R∗ を Lebesgue-Stieltjes可測と言い,f : (R,B)→ R∗ を Borel可測と言う.

定義 29 可測空間の間の写像 f : (X,FX) → (Y,FY )は,全ての A ∈ FY について f−1(A) ∈ FX のとき,またそのときに限り FX ,FY に関して可測 (measurable with respect to FX ,FY )と言われる.

(この定義を,位相空間の間の連続写像の定義[訳注:定義 4]と比較せよ.)

注意 f : (X,F)→ R∗ が F-可測であると言うことは,f : (X,F)→ (R∗,B∗)が F ,B∗ に関して可測であると言うことと同値である.F ,L∗に関して可測である関数 f : (X,F)→ (R∗,L∗)だけに注目するのは,あまりにも制約が強いだろう.(L∗の定義は明らかである.)この章の付録において,Lは Bより真に大きいことが示されているので,L∗ は B∗ より真に大きい.よって,f が F ,L∗ に関して可測であるならば,全ての V ∈ L∗ について f−1(V ) ∈ Fと言っているのであり,これは,V ∈ B∗ なる全ての V についてだけ f−1(V ) ∈ F であることより,多くを要求している.したがって,より少ない関数によってしか満たされない.

28

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関数が F-可測かどうかをチェックする基準を与えようと思う.それは,全ての拡張された Borel 集合についてf−1(B)を調べるよりも簡潔な基準である.まず,逆像に関する結果を述べる.任意の集合 Ai, i ∈ I について

f−1

(⋃

i∈IAi

)=⋃

i∈If−1(Ai), f−1

(⋂

i∈IAi

)=⋂

i∈If−1(Ai) (4.1)

となることのチェック,また f−1(Ac) = (f−1(A))c となることのチェックは,読者に委ねる.[訳注:和については,

f−1

(⋃

i∈IAi

)= {x ∈ X : f(x) ∈

i∈IAi} =

i∈I{x ∈ X : f(x) ∈ Ai} =

i∈If−1(Ai)

より.また,交わりについては

f−1

(⋂

i∈IAi

)= {x ∈ X : f(x) ∈

i∈IAi} =

i∈I{x ∈ X : f(x) ∈ Ai} =

i∈If−1(Ai)

より.補集合については,

f−1(Ac) = {x ∈ X : f(x) ∈ Ac} = {x ∈ X : f(x) ∈ Y \A} = X \ {x ∈ X : f(x) ∈ A} = X \ f−1(A) = (f−1(A))c

より.逆像ではなく順像の場合,和の場合は f(B1 ∪ B2) = f(B1) ∪ f(B2) と等号が成り立つが,交わりについては f(B1 ∩B2) ⊆ f(B1) ∩ f(B2)と包含関係が成り立つ.なぜなら f(B1) ∩ f(B2) = {y :ある x ∈ B1 について y =f(x)}∩{y :ある x ∈ B2 について y = f(x)}であるが,ある x1 ∈ B1 \B2と x2 ∈ B2 \B1について,f(x1) = f(x2)が成り立っていて,しかも f(x1) = f(x2) = f(x′)を満たす x′がB1 ∩B2に見つからない可能性があるからである.

補集合については,f(Ac)と (f(A))c との間にどのような関係も成り立たない.]

記法 Aが集合の系ならば,h−1(A)は Aに属する各集合の逆像の系である.

この記法と式 (4.1)を,次の「トリッキー」な証明で用いる.

補題 4.2 h : (X,F)→ R∗ であり,Aが R∗ の部分集合の空でない系ならば,

σ(h−1(A)) = h−1(σ(A))

証明 まず (σ(h−1(A)) ⊆ h−1(σ(A)) を,h−1(σ(A)) が σ-体であることを示すことによって示す.{Bi}i≥1 ⊆h−1(σ(A)) を可算個の集合の系とする.このとき,全ての i について,Bi = h−1(Ai) が,ある Ai ∈ σ(A) について成り立つ.σ(A)が σ-体なので

⋃i≥1Ai ∈ σ(A)を得る.よって,

i≥1

Bi =⋃

i≥1

(h−1(Ai))

= h−1

(⋃

i≥1

Ai

)式 (4.1)より

∈ h−1(σ(A))

したがって,h−1(σ(A))は可算個の集合の和の操作のもとで閉じている.ここで任意の B,C ∈ h−1(σ(A))を取ると,B = h−1(S)かつ C = h−1(T )がある S, T ∈ σ(A)について成り立つ.このとき

B \ C = B ∩ Cc

= h−1(S) ∩ h−1(T c) 式 (4.1)より

= h−1(S ∩ T c) 式 (4.1)より

= h−1(S \ T )

∈ h−1(σ(A)) σ(A)が σ-体なので

29

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よって,h−1(σ(A))はひとつのσ-体である.それは明らかに h−1(A)を含んでおり,よって唯一の最小の σ-体である h−1(A)を含んでいる.つまり σ(h−1(A)) ⊆ h−1(σ(A))である.逆向きの包含関係を得るには,どのような集合が σ(h−1(A))に逆像を持つかを見ればよい.願わくば,σ(A)に

属する全ての集合が σ(h−1(A))に逆像を持つことが分かればよい.ここで H = {E ⊆ R∗ : h−1(E) ∈ σ(h−1(A))}とする.式 (4.1)より,これが σ-体であることを即座にチェックできる[訳注:{Ai}i≥1 ⊆ Hを可算個の集合の系とすると,全ての iについて h−1(Ai) ∈ σ(h−1(A))である.よって

⋃i≥1 h

−1(Ai) ∈ σ(h−1(A))となる.式 (4.1)より h−1

(⋃i≥1Ai

) ∈ σ(h−1(A))となり,Hの定義から⋃i≥1Ai ∈ Hが言える.つまりHは可算個の集合の和のもとで閉じている.集合の差についても同様].また,Hは自明にAを含む[訳注:σ(h−1(A))が自明に h−1(A)を含むから].よって,σ(A) ⊆ Hである[訳注:σ(A)が Aを含む最小の σ-体であり,かつ,Hがひとつの σ-体だから].Hの定義より,これは h−1(σ(A)) ⊆ σ(h−1(A))を意味する.したがって,等号が成り立つ. �

定理 4.3 関数 f : (X,F)→ R∗ は,以下が全ての c ∈ Rについて成り立つとき,またそのときに限り F-可測.

{x : f(x) > c} ∈ F

証明 Aをすべての c ∈ Rについての半無限区間 (c,+∞]の系とする.このとき,命題 4.1より σ(A) = B∗を得る.よって,F-可測の定義から出発すると,以下を得る.

f−1(B∗) ⊆ F iff f−1(σ(A)) ⊆ Fiff σ(f−1(A)) ⊆ F 補題 4.2より

iff f−1(A) ⊆ F F が σ-体だから

iff f−1((c,+∞]) ⊆ F Aの定義より,すべての c ∈ Rについてiff {x : f(x) > c} ∈ F すべての c ∈ Rについて

(上の証明で,なぜ σ(f−1(A)) ⊆ F iff f−1(A) ⊆ F が得られるのか,読者はチェックされたい.[訳注:(1)σ(f−1(A)) ⊆ F とする.f−1(A) ⊆ σ(f−1(A))だから,f−1(A) ⊆ F を得る.(2) f−1(A) ⊆ F とする.このとき,F は f−1(A)を含む σ-体のひとつとなる.しかし,f−1(A)を含む最小の σ-体は σ(f−1(A))である.よって,σ(f−1(A)) ⊆ F を得る.以上の (1)と (2)より,σ(f−1(A)) ⊆ F iff f−1(A) ⊆ F を得る.])

注意 (i) 定理 4.3は,しばしば,F-可測の定義として理解される.

(ii) f が F-可測であるのは,以下が成り立つとき,またそのときに限ることを示すのは容易である.

すべての c ∈ Rについて {s : f(x) < c} ∈ Fまたは すべての c ∈ Rについて {s : f(x) ≥ c} ∈ Fまたは すべての c ∈ Rについて {s : f(x) ≤ c} ∈ F

例 24 f : (X,F)→ R∗, f ≡ κ(κは ±∞かもしれないある定数)は F-可測.これは単に

{x : f(x) > c} =

X c < κのとき[訳注:c < κならば全ての xについて f(x) > cが成り立つから.]

∅ c ≥ κのとき[訳注:c ≥ κならば f(x) > cを成り立たせる xがないから.]

となるからである.どのような場合であっても,得られる集合はFに属する.[訳注:最後の文は,すべてのB ∈ R∗について f−1(B) ∈ Fである,という意味.実際,c < κのとき f−1((c,+∞]) = Xであり,c ≥ κのとき f−1((c,+∞]) = ∅である.また,X ∪ ∅ = X およびX \ ∅ = X より,X と ∅から集合の和や差によって得られるのはX と ∅だけである.これらはいずれも F に属する.よって,すべての B ∈ R∗ について f−1(B) ∈ F である.]

30

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例 25 g : (R,LF )→ Rが LF -可測,f : R→ Rが連続,さらに h : (X,F)→ Rが F-可測とする.このとき

(i) f は Lebesgue可測.

(ii) 合成関数 f ◦ gは LF -可測.

(iii) 合成関数 f ◦ hは F-可測.

証明 f と gが有限値なので,(c,∞) =⋃n≥1(c, n) ∈ U つまり R上の usual topologyの逆像だけを調べればよい.

(i) f が連続なので,f−1((c,∞)) ∈ U を得る.しかし U ⊆ B ⊆ LF なので

{x : f(x) > c} = f−1((c,∞)) ∈ LF

(ii) g : (R,LF ) → Rは LF -可測であり,f−1((c,∞)) ∈ U ⊆ B なので,g−1(f−1((c,∞)) ∈ LF である.よって(f ◦ g)−1((c,∞)) ∈ LF であり,f ◦ gは LF -可測.

(iii) h : (X,F) → Rは F-可測であり,f−1((c,∞)) ∈ U ⊆ B なので,h−1(f−1((c,∞)) ∈ LF である.よって,f ◦ hは F-可測.

定理 4.4 f, g : (X,F)→ R∗ を F-可測な関数とする.α, β ∈ Rとする.このとき

(i) f + αと αf は F-可測.

(ii) f2 は F-可測.

(iii) {x ∈ X : f(x) > g(x)} ∈ F

(iv) {x ∈ X : f(x) = g(x)} ∈ F

(v) αf + βgは,それが定義されている xの集合の上で,F-可測.

(vi) fgは F-可測.

(vii) f/gは,それが定義されている xの集合の上で,F-可測.

(viii) max(f, g)とmin(f, g)は F-可測.

(ix) |f |は F-可測.

証明 (i) f が F-可測なので {x ∈ X : f(x) + α > c} = {x ∈ X : f(x) > c− α} ∈ F に属する.よって f + αも

F-可測.

α = 0ならば,c ≥ 0のとき {x ∈ X : αf(x) > c} = ∅で,c < 0のとき {x ∈ X : αf(x) > c} = X である.ど

ちらの場合も集合は F に属する.α > 0ならば,{x ∈ X : αf(x) > c} = {x ∈ X : f(x) > c

α}であり,f が F-可測なので,これは F に属する.α < 0ならば,{x ∈ X : αf(x) > c} = {x ∈ X : f(x) < c

α}であり,f が F-可測なので,これは F に属する.すべての場合で {x ∈ X : αf(x) > c} ∈ F なので,αf は F-可測である.

(ii) 下記のすべての場合で,結果として得られる集合が F に属するので,f2 は F-可測.

{x ∈ X : f2(x) > c} =

X c < 0のとき

{x ∈ X : f(x) >√c} ∪ {x ∈ X : f(x) < −√c} c ≥ 0のとき

31

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(iii) 任意の 2つの数 c, dについて,c > r > dなる有理数 rがあるとき,またそのときに限り c > dであることに

注意する.よって

{x ∈ X : f(x) > g(x)} =⋃

r∈Q({x ∈ X : f(x) > r} ∩ {x ∈ X : r > g(x)})

を得る.右辺は,F に属する集合の可算個の交わりの和であるので,やはり F に属する.(iv) (iii)において {x ∈ X : g(x) > f(x)} ∈ F が示せるので,下記の集合は F に属する.

{x ∈ X : f(x) = g(x)} = X \ ({x ∈ X : f(x) > g(x)} ∪ {x ∈ X : g(x) > f(x)})

(v) (i)より f + gが F-可測であることを示せば足る.(+∞) + (−∞)は定義されないことを想起されたい.よって f + gはX \A上でのみ定義される.ただし Aは

A = {x ∈ X : f(x) = ±∞, g(x) = ∓∞}= {x ∈ X : f(x) = −g(x)} ∩ {x ∈ X : f(x) = ±∞}

と定義した.例 24と (iv)より,この Aは F に属する.よって{x ∈ X \A : f(x) + g(x) > c} = (X \A) ∩ {x ∈ X : f(x) > c− g(x)}

は (iii)より F に属する.(vi) (v)の記法を続けて用いる.このとき,X \A上であれば,下記のように書いても意味をなす.

fg =(f + g)2 − f2 − g2

2これは,(ii) と (v) より,X \ A 上で F-可測である.A 上では,f(x) = +∞ かつ g(x) = −∞,またはf(x) = −∞かつ g(x) = +∞のいずれかを得る.どちらの場合も fg は値 −∞により定義される.したがって {x ∈ A : fg(x) > c} = ∅ ∈ F が,すべての c ∈ Rについて成り立つ.よって fgはX 上で F-可測である.

(vii) (vi)より 1/gが F-可測であることを示せば足る.これはX \B 上でのみ定義される.ただし B は

B = {x ∈ X : g(x) = 0} ∈ Fと定義した.この B は例 24より F に属する.まず c > 0と仮定すると{

x ∈ X \B :1

g(x)> c

}={x ∈ X \B : 0 ≤ g(x) <

1c

}

={x ∈ X : 0 < g(x) <

1c

}

={x ∈ X : g(x) <

1c

}\ {x ∈ X : g(x) ≤ 0}

を得るが,g(x)が F-可測なので,この集合は F に属する.c ≤ 0ならば{x ∈ X \B :

1g(x)

> c

}= {x ∈ X \B : 0 ≤ g(x)} ∪

{x ∈ X \B : g(x) <

1c

}

= {x ∈ X : 0 < g(x)} ∪{x ∈ X : g(x) <

1c

}

となり,この集合は F に属する.(viii) maxとminについては,下記を観察しさえすればよい.

{x : max(f(x), g(x)) > c} = {x : f(x) > c} ∪ {x : g(x) > c}{x : min(f(x), g(x)) > c} = {x : f(x) > c} ∩ {x : g(x) > c}

(ix) f+ = max(f, 0)および f− = −min(f, 0)とする.(記号−は f− ≥ 0となるように解釈する.)このとき f+と

f− は (viii)より F-可測.よって |f | = f+ + f− も (v)より F-可測. �

32

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4.2 関数の列

{xn} ⊆ R∗ を拡張された実数の列とする.下記のようにして,極限 (limit)の定義を拡張することができる.

定義 30

有限な lについて limn→∞ xn = lとなるのは,∀ε > 0 ∃N : |xn − l| < ε ∀n ≥ N のとき,またそのときに限る.limn→∞ xn = +∞となるのは,∀K > 0 ∃N : xn > K ∀n ≥ N のとき,またそのときに限る.limn→∞ xn = −∞となるのは,∀K < 0 ∃N : xn < K ∀n ≥ N のとき,またそのときに限る.

supn≥1 xnは,「α ≥ xnがすべての nについて成り立ち,かつ,任意の ε > 0についてN ≥ 1が存在しα < xN ≤ αが成り立つとき,α = supn≥1 xn」と定義されていたことを想起されたい.もちろん,この定義では supn≥1 xnが有

限であることが暗に言われている.supn≥1 xn = +∞または−∞のときへ拡張することができる.もちろん,最初の場合は+∞が上界 (upper bound)であることをチェックする必要はない.なぜなら,これは必然的に真だからである.二番目の場合,−∞はすべての nについて xn = −∞を意味することが要求される.

定義 31

∀K > 0 ∃N : xN > K のとき,またそのときに限り supn≥1 xn = +∞∀n ≥ 1, xn = −∞のとき,またそのときに限り supn≥1 xn = −∞∀n ≥ 1, xn = +∞のとき,またそのときに限り infn≥1 xn = +∞∀K < 0 ∃N : xN < K のとき,またそのときに限り infn≥1 xn = −∞

もちろん,数列は極限を持つ必要はない.しかし,すべての列について存在する極限の形式を定義できる.

定義 32

lim supn→∞

xn = limn→∞

(supr≥n

xr

)

lim infn→∞

xn = limn→∞

(infr≥n

xr

)

以下のように考えると,これらが常に存在することが分かる.{xr}r≥n+1 ⊆ {xr}r≥n に注意すると

supr≥n+1

xr ≤ supr≥n

xr

が得られる.よって {supr≥n xr}n≥1は非増加列であり,先ほどの拡張された極限の定義により,そのような数列は

収束する.この列は,有限な値,つまり列の下限 (infimum)に収束するときは,下から押さえられるが,上の拡張された定義により−∞に収束するときは,下から押さえられない.しかし,−∞もまた数列の下限 (infimum)である.したがって,いずれの場合にも,下記を得る.

lim supn→∞

xn = infn≥1

(supr≥n

xr

)

同様に,{infr≥n xr}n≥1 は非減少列である.このことから,以下を得る.

lim supn→∞

xn = supn≥1

(infr≥n

xr

)

したがって,次の重要な結果を得る.

定理 4.5 極限 limn→∞ xn は,lim infn→∞ xn = lim supn→∞ xn のとき,またそのときに限り存在する.共通の値

は(たとえ +∞か −∞であっても)極限の値である.

33

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証明 (⇒) limn→∞ xn が存在し,それが有限な値 lだとする.このとき

∀ε > 0 ∃N : |xn − l| < ε ∀n ≥ N

が成り立つので,このような nについて l− ε < xn < l+ εである.つまり,l− εは任意の n ≥ N について {xn}r≥nの下界 (lower bound)であり,よって l − ε ≤ inf{xr}r≥n = infr≥n xr である.しかし infr≥n xr ≤ xn < l + εでも

ある.よって

l − ε ≤ infr≥n

xr < l + ε ∀n ≥ N

(厳密な不等号がどのようにして ≤に変わったかに注意)が成り立つ.これは,極限の定義が,列 {infr≥n xr}n≥1

によって満たされることを示している.よって limn→∞(infr≥n xr) = lである.同様に

l − ε < supr≥n

xr ≤ l + ε ∀n ≥ N

は limn→∞(supr≥n xr) = lを帰結する.

limn→∞ xn が存在すると仮定し,+∞とする.このとき

∀K > 0 ∃N : xn > K ∀n ≥ N

が成り立つ.特に K ≤ infr≥n xr がこのような nについて成り立つ.(明らかに supr≥n xr = +∞であり,よってlimn→∞(supr≥n) = +∞である.)しかしここで,拡張された極限の定義が {infr≥n xr}n≥1 によって満たされるこ

とが分かる.よって limn→∞(infr≥n xr) = +∞となる.同じ証明が,limn→∞ xn が存在し,−∞に等しいときに成り立つ.(⇐) まずは lim infn→∞ xn = lim supn→∞ xn が有限な極限,例えば l で成り立つと仮定する.このとき,lim

infn→∞ xn = lは以下を意味する.

∀ε > 0 ∃N1 :∣∣∣∣ infr≥n

xr − l∣∣∣∣ < ε∀n ≥ N1

特に,このような nについて下記が成り立つ.

xn ≥ infr≥n

xr > l − ε (4.2)

同様に,lim supn→∞ xn = lは以下を意味する.

∀ε∃N2 :∣∣∣∣supr≥n

xr − l∣∣∣∣ < ε∀n ≥ N2

特に,このような nについて下記が成り立つ.

xn ≤ supr≥n

xr < l + ε (4.3)

N = max(N1, N2)とすると,すべての n ≥ N について,式 (4.2)と (4.3)を組み合わせると,l− ε < xn < l+ εを

得る.よって limn→∞ xn = lである.

今度は lim infn→∞ xn = lim supn→∞ xn = +∞を仮定する.このとき

∀K > 0∃N : infr≥n

xr > K ∀n ≥ N

が得られ,特に xn ≥ infr≥n xr > K ∀n ≥ N である.よって limn→∞ xn = +∞となる.同様の証明は,共通の極限が −∞の場合も成り立つ. �

注意 任意の数列 {xn} ⊆ R∗ について,xi > c なる i が存在するとき,またそのときに限り,supn≥1 xn =− infn≥c(−xn)かつ supn≥1 xn > cを得る.

34

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(* 証明は読者に委ねる.二番目の結果については,まず,∀K > 0 ∃N : xN > K のとき,またそのときに限り,

supn≥1 xn = +∞となることに注意する.K = cと選べば所望の結果を得る.それ以外の場合,つまり supn≥1 xn = l

と有限の値を取るのは,任意の ε > 0について l − ε < xN ≤ lなる N ≥ 1が存在すると分かっているときである.単に εを l − ε ≥ cとなるように,例えば ε = (l − c)/2と選べば,所望の結果を得る.)

[訳注:可測関数の sup, inf] fn : (X,F)→ R∗を F-可測な関数の列とし,supn≥1 fnと infn≥1 fnを各点ごとに,つ

まり,すべての x ∈ X について (supn≥1 fn)(x) = supn≥1 fn(x)および (infn≥1 fn)(x) = infn≥1 fn(x)と定義する.

定理 4.6

(i) 関数 supn≥1 fn と infn≥1 fn は F-可測な関数.

(ii) 関数 lim infn→∞ fn と lim supn→∞ fn は F-可測な関数.

(iii) limn→∞ fn(x)が存在する x ∈ X の集合は可測集合.

(iv) limn→∞ fn(x)が存在する xの集合上で,極限関数は F-可測.

証明

(i) c ∈ Rとする.上の注意より{x : sup

n≥1fn(x) > c

}= {x : fi(x) > cとなる iが存在する }

=⋃

i≥1

{x : fi(x) > c} ∈ F

を得る.なぜなら,各 fi が F-可測であり,F は可算個の集合の和のもとで閉じているからである.よってsupn≥1 fn は F-可測.

(ii) 上で観察したように

lim infn→∞

= supn≥1

(infr≥n

fr

)かつ lim sup

n→∞= infn≥1

(supr≥n

fr

)

である.よって,(i)より lim infn→∞

fn と lim supn→∞

fn についての結果が得られる.

(iii) 定理 4.5より,以下を得る.{x ∈ X : lim

n→∞fn(x)が存在する

}={x ∈ X : lim inf

n→∞fn(x) = lim sup

n→∞fn(x)

}

よって,この集合は 2つの F-可測な関数が等しい点の集合である.定理 4.4より,そのような集合は F の要素である.

(iv) A = {x ∈ X : limn→∞ fn(x)が存在する }とする.このとき,(ii)と (iii)を使って,以下を得る.{x ∈ A : lim

n→∞fn(x) > c

}

={x ∈ A : lim inf

n→∞fn(x) > c

}A上では lim inf

n→∞fn = limn→∞ fn だから.

= A ∩{x ∈ X : lim inf

n→∞fn(x) > c

}lim infn→∞

fn はX 全体で定義されているから.

∈ F

35

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注意 可測関数についてのこの極限の結果は,連続関数にはあてはまらない.連続関数が可測であるにもかかわら

ず,である.例えば,fn(x) = xnは [0, 1]上で連続だが,0 ≤ x < 1では inf fn(x) = 0であり,x = 1のとき 1である.よって連続ではない.

4.3 付録:測度の完備化

Rを X における集合の環とする.µをR上の測度とする.ここまでの議論の歩みに従うならば,この次に,X上の外測度 µ∗ を

µ∗(A) = inf{ ∞∑

i=1

µ(Ei) : A ⊆∞⋃

i=1

Ei, Ei ∈ R}

と任意の A ⊆ X について定義する.さらに µ∗ がM(µ∗)上の測度であることが示される.そしてM(µ∗)は σ-体であり(定理 3.7),またRを含む(定理 3.8)ので,そのような σ-体のうち最も小さいもの,つまり σ(R)を含む.M(µ∗)上では,つまり σ(R)上では,µ∗ を µと書く.

µ∗ の定義に戻ると,集合 Aが与えられたとき,この下限 (infimum)がある被覆 {Ei} ⊆ Rについて得られる下限 (infimum)だとは言えない.しかし,Aを被覆する集合 B ∈ σ(R)で,等しい外測度を持つものを見つけることができる.そのような B は Aの可測な被覆と呼ばれる.

定理 4.7 µを環R上の σ-有限な測度とする.このとき,X の任意の部分集合は可測な被覆を σ(R)の中に持つ.

証明 各 A ⊆ X と n ≥ 1について,Aの被覆⋃∞i=1En,i で下を満たすものを,Rから見つけることができる.

µ∗(A) ≤∞∑

i=1

µ(En,i) ≤ µ∗(A) +1n

(4.4)

Bn =⋃∞i=1En,i ∈ σ(R)とする.このとき A ⊆ Bn であり

µ∗(Bn) ≤∞∑

i=1

µ∗(En,i) 可算劣加法性より

=∞∑

i=1

µ(En,i) R上で µ∗ = µより

≤ µ∗(A) +1n

式 (4.4)より

B =⋂∞n=1Bn ∈ σ(R)とする.このとき,全ての n ≥ 1について A ⊆ B ⊆ Bn と

µ∗(A) ≤ µ∗(B) ≤ µ∗(Bn) ≤ µ∗(A) +1n

が成り立つ.これが全ての nについて成り立つことは µ∗(A) = µ∗(B)を意味する.最後に,B ∈ σ(R) ⊆ M(µ∗)なので,µ∗(B) = µ(B)である.したがって µ∗(A) = µ(B)である. �

定理 4.8 µ を環 R 上の σ-有限な測度とする.A ∈ M(µ∗) のとき,B ∈ σ(R) なる集合 B と,D ∈ σ(R) かつµ(D) = 0であるDについて Z ⊆ Dを満たす集合 Z ⊆ X とを取ってきて,A = B ∪ Z とすることができる.

証明 µが σ-有限なので,空間 X を,測度が有限な集合 Xj を使って⋃∞j=1Xj , Xj ∈ Rと分解することができる

が,ここで A ∈M(µ∗)を A =⋃∞j=1(A ∩Xj) =

⋃∞j=1Aj と,測度が有限な各部分へと分解することができる.

各 j ≥ 1について定理 4.7の結果を使うと,集合 Sj ∈ σ(R)で Aj ⊆ Sj かつ µ∗(Aj) = µ∗(Sj)を満たすものを見つけることができる.これらの値は有限なので以下を得る.[訳注:Aj が µ∗-可測であることに注意.また,値が有限だからこそ,引き算の答えが定義されていることにも注意.]

µ∗(Sj \Aj) = µ∗(Sj)− µ∗(Aj)

36

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ここで再び定理 4.7の結果を使うと,Dj ∈ σ(R)で Sj \Aj ⊆ Dj かつ µ∗(D) = µ∗(Sj \Aj) = 0を満たすものを見つけることができる.このDj を,Aj を分解するために使い,Bj = Aj \Dj かつ Zj = Aj ∩Dj と定義する.

明らかに,いま定義した集合はM(µ∗)に属するが,Bj ∈ σ(R)であろうか.これに答えるには,以下のことに注意する.

Aj ⊆ Sj ⊆ Aj ∪Dj

よって

Aj \Dj ⊆ Sj \Dj ⊆ (A ∪Dj) \Dj = Aj \Dj

したがって A \Dj = Sj \Dj ∈ σ(R)である.なぜなら,Sj とDj が σ(R)に属するからである.最後に,下記のように定めればよい.

B =∞⋃

j=1

Bj かつ Z =∞⋃

j=1

Zj さらに D =∞⋃

j=1

Dj

定義 33 (X,F , µ)を測度空間とする.以下のように定義する.

F = {Z ∪ E : E ∈ F かつ Z ⊆ D ただし D ∈ F , µ(D) = 0}

このとき F は σ-体であり F の完備化と呼ばれる.F 上の集合関数 µを µ(Z ∪E) = µ(E)によって定義する.このとき µは測度であり µの完備化と呼ばれる.

もうひとつの,しかし重要な定義は以下である.

定義 34 (X,F , µ)を測度空間とする.以下のように定義する.

F = {A ⊆ X : ∃E,F ∈ F ただし E ⊆ A ⊆ F かつ µ(F \ E) = 0}

ただし µ(A) = µ(E)とする.

最初の定式化は明らかに測度ゼロの集合のすべての部分集合を「加え入れる」ものである.よって F は F を含む完備な σ-体にとって,「最小の」包含者である.しかし F それ自身が σ-体であるかどうかは,なおチェックされなければならない.また,µが well-definedであるかどうか,また,測度であるかどうかも,なおチェックされなければならない.ここではそのチェックは行わない.

例 26 このノートでは,Lebesgue可測集合を,以下の段階を踏んで構成した.

P = {(a, b]}と,これらの区間の長さを与える集合関数 µから始める.

µが P 上で σ-加法的であることを示す(定理 2.1).

µが E = R(P)に拡張可能であることを示す(系 2.3).

外測度 µ∗ を,Rのすべての部分集合の上に定義する(定理 3.1).

このとき L =M(µ∗)であり,µ∗ の Lへの制限は測度となり,再び µと書かれる(例 21).

σ(E) = B,つまり Rにおける Borel集合であることを想起されたい.よって,この特殊な例では,定理 4.8は,次を意味する.つまり,A ∈ Lならば,B ∈ BについてA = B ∪Z であり,かつ µ(D) = 0を満たすあるD ∈ Bについて Z ⊆ Dである.よって,L = Bであり,Lebesgue集合の系は,Borel集合と測度ゼロの集合の部分集合との和であると考えるこ

とができる.つまり,Lは Bと,測度ゼロの集合によってのみ,異なっている.

37

Page 38: Measure Theory(測度論)masada/2007080301.pdfMeasure Theory(測度論) (Mark Coleman 氏の講義ノートの日本語訳) 平成22 年1 月8 日 1 部分集合のクラス

f : (X,F , µ)→ R∗が F-可測ならば,f−1(B) ∈ F がすべての B ∈ B∗で成り立つことを想起されたい.しかし,F ⊆ F なので,f−1(B) ∈ F を得る.つまり,f は F-可測である.逆はしばしば真ではない.つまり,ある σ-体 Fについて,F-可測だが F-可測ではない関数が存在する.(そのような関数を構成することは,簡単ではない.これは,Borel可測だが Lebesgue可測でない集合を構成するのが簡単ではないのと,同じ理由による.)よって,F-可測な関数の系は,F-可測な関数の系よりも大きいと言える.次の結果は,これら二つの系の間の結びつきを与える.

補題 4.9 f : (X, F , µ) → R∗ が F-可測ならば,g : X → R∗ で F-可測であり,かつ,g = f a.e.(µ) であるものが存在する.[訳注:a.e.(µ)とは,µ(A) = 0なる A ⊆ X を除くすべての X の部分集合について,という意味

(a.e.=almost everywhere).]

証明 f が F-可測な関数で,f ≥ 0と仮定する.このとき,定理 4.15より,f に収束する F-可測な関数 snの非減

少列が存在する.

これを以下のように書く.

sn =mn∑

j=1

cn,jχAn,j , An,j ∈ F andmn⋃

j=1

An,j = X for all n ≥ 1

定理 4.8より,すべての nと j について,Zn,j ⊆ An,j ⊆ Fn,j かつ µ(Fn,j \ Zn,j) = 0を満たす Zn,j , Fn,j ∈ F を見つけることができる.

∑mnj=1 cn,jχZn,j によって与えられる F-可測な単関数を考えると問題かもしれない.なぜな

ら,⋃mnj=1 Zn,j が,異なる nについて別々の集合になっていてもおかしくないからである.そこで,代わりに

F =∞⋂n=1

mn⋃

j=1

Zn,j ∈ F

および

tn =mn∑

j=1

cn,jχZn,j∩F

と定義する.

ここで,mn⋃

j=1

(Zn,j ∩ F ) =(mn⋃

j=1

Zn,j

)∩ F = F

つまり,各 nでこれは同じ集合である.しかしまた,F はX のほとんど全体でもある.このことを確かめるには,

任意の n ≥ 1を取り,Zn,j ⊆ An,j に注意すればよい.この場合,An,j = Zn,j ∪ (An,j \ Zn,j)であるので

X =mn⋃

j=1

An,j

=(mn⋃

j=1

Zn,j

)∪(mn⋃

j=1

(An,j \ Zn,j))

これら二つの集合の和は互いに素である(証明は読者に委ねる [訳注:j1 6= j2なる任意の j1, j2でZn,j1∩(An,j2\Zn,j2) ⊆An,j1 ∩ (An,j2 \ Zn,j2) = (An,j1 ∩An,j2) \ Zn,j2 = ∅が成り立つ.よって Zn,j1 ∩ (An,j2 \ Zn,j2) = ∅]).よって

(mn⋃

j=1

Zn,j

)c=

mn⋃

j=1

(An,j \ Zn,j)

⊆mn⋃

j=1

(Fn,j \ Zn,j)

38

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これは,測度ゼロの(互いに素でないかもしれない)F-可測な集合の和である.よって,F-可測と分かっている左辺も,測度ゼロである.よって

F c =∞⋃n=1

(mn⋃

j=1

Zn,j

)c

はまた測度ゼロである.

ここで x ∈ F が与えられているとすると,各 nについて x ∈ ⋃mnj=1(Zn,j ∩ F )を得る.よって x ∈ Zn,jn があるjn について成り立つ.したがって,列 {jn}を得,以下が成り立つ.

tn(x) = cn,jn = sn(x) なぜなら x ∈ Zn,jn ⊆ An,jn

よって,ちょうど {sn(x)}と同様に,列 {tn(x)}は,f(x)に収束する非減少列である.これは,F 全体にわたって成立する.F の外側では,tn(x) = 0をすべての nについて得る.すべての場合で,{tn(x)}は,例えば g(x)という F-可測な関数に収束する.また,F 上では g = f であり,要求されていたとおり,g = f a.e.(µ)を得る.一般の f については,f = f+ − f− と書き,上記の議論を f+ と f− の両方に適用すればよい. �

例 27 f : R→ R∗は,それが Lebesgue可測ならば,可測と言われる.しかし,補題 4.9より,g : R→ R∗で Borel可測なもの,つまり,すべての B ∈ B∗ について g−1(B) ∈ B が成り立つものを,g = f a.e.(µ)となるように,見つけることができる.

4.4 付録:Cantor的な集合 (A Cantor-like set)

[0, 1]から開区間 I1,1 を取り除く.I1,1 は 1/2が中心で,`(I1,1) < 1/2を満たすある長さを持つ.これによって,J1,1と J1,2という閉区間が残ったとする.J1,1と J1,2から,それぞれ,開区間 I2,1および I2,2を取り除く.I2,iは

J1,i と中心が同じで,長さは `(I2,i) < 1/4である.こうして,閉区間 J2,1, J2,2, J2,3, J2,4 を得る.

このように続けると,n番目の段階では,閉区間 Jn,1, Jn,2, Jn,3 から Jn,2n までを得る.Pn =⋃2n

i=1 Jn,i とする.

ここで P1 ⊇ P2 ⊇ P3 ⊇ · · · である.このとき,本項のタイトルである Cantor的な集合とは,下記の集合である.

P =⋂

n≥1

Pn

Cantor集合K は,すべての n ≥ 1と 1 ≤ i ≤ 2n−1 について `(In,i) = 1/3n のときの特殊な場合である.もうひとつの重要な例は,0 ≤ α ≤ 1とし,`(In,i) = α/3n をすべての n ≥ 1と 1 ≤ i ≤ 2n−1 について要求する

場合である.In,i と Jn,i を,I(α)n,i および J

(α)n,i と書き直し,結果として得られる Cantor集合を P (α) と呼ぶ.(よっ

て,P (1) = K である.)下記に注意する.

`(P (α)1 ) = 1− α

3

`(P (α)2 ) = 1− α

3− 2α

32

`(P (α)3 ) = 1− α

3− 2α

32− 4α2

32

よって

µ(P (α)) = 1−∞∑n=0

2nα3n+1

= 1− α

P (α) はK とそれほど似ていないわけではない.

補題 4.10 各 0 ≤ α ≤ 1について,連続な狭義増加 (strictly increasing)関数 F : [0, 1] → [0, 1]で,F (P (α)) = K

なるものが存在する.

39

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証明 次のように関数 Fn の列を定義する.Fn は,[0, 1] から [0, 1] への区分線形 (piecewise linear) 関数であり,{J

(α)n,i

}1≤i≤2n

に属する各区間の端点を,{J

(1)n,i

}1≤i≤2n

に属する各区間の端点へ送る.(K = P (1)であることを想起

されたい.)

一般に,a = a0 < a1 < a2 · · · < an = bと a = b0 < b1 < b2 < · · · < bn = bとの間で,すべての iについて

ai → biと対応付ける区分線形写像は,狭義増加な連続関数である(このことは,関数をグラフに描いてみると容易

に分かる).新たな点 {a′j}と {b′j}が系に加わるならば,写像は,これらの点すべてを含む区間 [ai, ai+1]において変化するだけである.

今の場合,m > nならば P(α)n ⊇ P (α)

m なので,Fmの定義に使われる点は,Fnの定義に使われる点を含む.しか

しさらに,区間 J(α)n+1,j は J

(α)n,i から区間を取り除くことによって構成される.そして実際,下記が成立する.

J(α)n,i ⊇

2i⋃

j=2i−1

J(α)n+1,j

これを繰り返し適用すると,以下を得る.

J(α)n,i ⊇

2i⋃

j=2i−1

J(α)n+1,j ⊇

2(2i)⋃

j=2(2i−1)−1

J(α)n+2,j

⊇ · · · ⊇2m−ni⋃

j=2m−n(i−1)+1

J(α)m,j

よって,Fm を定義するために使われる点は区間 J(α)n,i , 1 ≤ i ≤ 2n の中にある.したがって,Fm は Fn と P

(α)n =⋃2n

i=1 J(α)n,i の内部においてのみ異なる.よって以下が成り立つ.

[0, 1] \ P (α)n 上で,すべてのm ≥ nについて   Fm ≡ Fn (4.5)

x ∈ J (α)n,i ならば Fn(x) ∈ J (1)

n,i である.また,J(α)n,i 上では,関数 Fm は,やはり J

(1)n,i の中へ (into)の区分線形関

数である.よって

すべての 1 ≤ i ≤ 2n とm ≥ nについて Fm(J

(α)n,i

)= Fn

(J

(α)n,i

)= J

(1)n,i (4.6)

式 (4.5)と式 (4.6)より,以下のことが分かる.

|Fm(x)− Fn(x)| < maxi`(J (1)

n,i ) すべての x ∈ [0, 1]とm ≥ nについて

=(

13

)n

よって,すべての x ∈ [0, 1]について {Fn(x)}n≥1 は R における Cauchy列である.したがって,これは収束する.ここで,F (x)に収束するとする.式 (4.5)と式 (4.6)においてm→∞とすると,以下を得る.

すべての n ≥ 1について [0, 1] \ P (α)n 上で F ≡ Fn (4.7)

かつ

すべての 1 ≤ i ≤ 2n と n ≥ 1について F(J

(α)n,i

)= Fn

(J

(α)n,i

)= J

(1)n,i (4.8)

この最後の結果は,すべての n ≥ 1で F(P

(α)n

)= P

(1)n であることを示しており,よって F

(P (α)

)= P (1) である.

最後に,F が狭義増加であることを示す.F について言いうることは,それが狭義増加関数の極限なので非減少

関数だ,ということだけである.w, y ∈ [0, 1], w 6= yとする.以下の 2つの場合を考える.

(i) 一般性を失うことなく w 6∈ P (α) を仮定する.よって n ≥ 1で w 6∈ P (α)n を満たすものが存在する.しかし,

このとき F (w) = Fn(w)を得る.ところが,Fnが狭義増加であることが分かっているので,F は,少なくとも wのまわりの開区間の中では,狭義増加である.これは,y 6= wのときに F (y) 6= F (w)を演繹するための十分条件である.

40

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(ii) w, y両方について w, t ∈ P (α) =⋂n≥1 P

(α)n と仮定する.よって w, y ∈ ⋃i J (α)

n,i がすべての n ≥ 1について成り立つ.ところが,以下を得る.

n→∞のとき `

(J

(α)n,i

)=

12n

(1− α

(1−

(23

)n))→ 0

したがって,異なる i, j について w ∈ J (α)m,i かつ y ∈ J (α)

m,j となるmが存在する.このとき F (w) ∈ Jm,i かつF (y) ∈ Jm,j であり,特に F (y) 6= F (w)を得る. �

定理 4.11 f : R→ Rを連続関数,g : R→ Rを可測関数とする.

(i) 合成関数 f ◦ gは可測.

(ii) 合成関数 g ◦ f は可測とは限らない.

証明 (i) 以下が Lebesgue可測であることを示せばよい.

{x : f(g(x)) > c} = {x : g(x) ∈ f−1(c,∞)}

fは連続なので,f−1(c,∞)が開集合であることは分かっている.Lindelofの定理より,このことは f−1(c,∞) =⋃∞i=1 Ii と,f

−1(c,∞)が開区間 Ii の可算個の和に書けることを意味する.このとき

{x : g(x) ∈ f−1(c,∞)} =∞⋃

i=1

g−1(Ii)

は可測集合(なぜなら gが可測なので.)の可算個の和である.よって可算集合である.

(ii) 上で定義した Cantor的な集合について En = P (1/n) と書く.このとき E1 ⊆ E2 ⊆ E3 ⊆ · · · であり

µ

( ∞⋃

i=1

Ei

)= limn→∞

µ(En) = limn→∞

(1− 1

n

)= 1

が成り立つので,[0, 1] = A ∪⋃∞i=1Ei と書くことが出来る.ここで Aは測度ゼロである.

V ⊆ [0, 1]を可測でない集合とする.このとき V = A′ ∪⋃∞i=1(Ei ∩ V ) である.ここで A′は測度ゼロである.

よって,ある nについて,En ∩ V は可測でない.B = En ∩ V と書く.F : [0, 1]→ [0, 1]を,連続な狭義増加関数で,En をK へ写像するものとする.このとき,F (B) = B1 とすると,B1 ⊆ K であり,よって可測

である.したがって,下記の特性関数は可測.

χB1(x) =

{1 x ∈ B1 のとき

0 x 6∈ B1 のとき(4.9)

χB1 ◦ F (x)を考える.x ∈ Bならば F (c) ∈ B1であるから χB1 ◦ F (x) = 1である.x 6∈ Bならば,F が一対一であることより,F (x) 6∈ B1が得られる.よって,χB1 ◦ F (x) = 0である.したがって χB1 ◦ F = χB であ

り,B が可測でない集合だから,これは可測でない関数となる. �

4.5 単関数

定義 35 関数 f : X → Rは,有限個の異なる値しか取らないとき,単関数 (simple function)といわれる.

注意 これらの値は有限でなければならない.これらの値を ai, 1 ≤ i ≤ N と書き,Ai = {x ∈ X : f(x) = ai}とすると,次のように書ける.

f =N∑

i=1

aiχAi

ここで χA は Aの特性関数である.つまり,χA(x) = 1が x ∈ Aのとき成り立ち,それ以外の場合は 0である.

41

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補題 4.12 単関数は加法と乗法のもとで閉じている.

証明 s =∑Mi=1 aiχAi かつ t =

∑Nj=1 bjχBj とする.ここで

⋃Mi=1Ai =

⋃Nj=1Bj = X である.

Cij = Ai ∩Bj と定義すると,Ai ⊆ X =⋃Nj=1Bj であり,よって Ai = Ai ∩

⋃Nj=1Bj =

⋃Nj=1 Cij である.同様

に,Bj =⋃Mi=1 Cij である.Cij は互いに素だから,これは以下を意味する.

χAi =N∑

j=1

χCij かつ χBj =M∑

i=1

χCij

したがって

s =M∑

i=1

N∑

j=1

aiχCij かつ t =M∑

i=1

N∑

j=1

bjχCij

よって

s+ t =M∑

i=1

N∑

j=1

(ai + bj)χCij かつ st =M∑

i=1

N∑

j=1

aibjχCij

は単関数である. �

F をX 上の σ-体とする.単関数 f について,すべての iで Ai ∈ F とする.このとき

{x : f(x) > c} =⋃ai>c

Ai ∈ F

がすべての c ∈ Rについて成り立つ.よって f は F-可測である.逆に,f が F-可測と仮定する.f によって得られる値を a1 < a2 < · · · < aN と並べる.与えられた 1 ≤ j ≤ N について aj−1 < c1 < aj < c2 < aj+1 と選ぶ.(j = 1または N ならば,この要求の一部は空である.)このとき

Aj =( ⋃ai>c1

Ai

)\( ⋃ai>c2

ai

)

= {x : f(x) > c1} \ {x : f(x) > c2}∈ F

よって

補題 4.13 f : (X,F)→ Rが単関数ならば,Ai ∈ F がすべての 1 ≤ i ≤ N で成り立つとき,またそのときに限り,f は F-可測である. �

系 4.14 単関数で F-可測であるものは,加法と乗法のもとで閉じている.

証明 単に,補題 4.12の証明において,Ai と Bj が F に属するから Cij ∈ F であることに注意すればよい. �

注意 sが単関数であり,また,g : R→ Rが sの取る値を含む定義域を持つ任意の関数とする.このとき,(g◦s)(x) =g(s(x))と定義される g ◦ sは単関数である.実際

g ◦ s =N∑

i=1

g(ai)χAi =M∑

j=1

bjχBi

が,あるM ≤ N について成り立つ.ただし Bj =⋃g(ai)=bj

Ai である.また,sが F-可測ならば,g ◦ sもそうである.

次の結果は非常に重要である.

42

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定理 4.15 fを非負のF-可測な単関数とする.このとき,F-可測な単関数の列 snで,0 ≤ s1 ≤ · · · ≤ sn ≤ sn+1 ≤ · · ·かつ limn→∞ sn = f となるものが存在する.

証明 f の値域を,Dn ={ν2n : 0 ≤ ν ≤ n2n

}の点を使って,分割する.重要なのは,自明ではあるが,Dn ⊆ Dn+1

が成り立つことである.

sn(x) = max{γ ∈ Dn, γ ≤ f(x)}と定義する.このとき,Dn ⊆ Dn+1 は,任意の xについて

{γ ∈ Dn, γ ≤ f(x)} ⊆ {γ ∈ Dn+1, γ ≤ f(x)}

を意味する.よって,以下が成り立つ.

sn(x) = max{γ ∈ Dn, γ ≤ f(x)}≤ max{γ ∈ Dn+1, γ ≤ f(x)}= sn+1(x)

任意の xで上が成り立つことは,所望どおり sn ≤ sn+1 が成り立つことを意味する.また,これは limn→∞ sn(x)が存在すること(必要ならば拡張された極限の定義を使う.)も意味する.

まず,f(x)が有限なxに注目する.このとき,n ≥ f(x)を満たすすべてのnについて,sn(x) = ν/2nを0 ≤ ν ≤ n2n

について得る.ただし ν は下記を満たす.

ν

2n≤ f(x) <

ν + 12n

つまり sn(x) ≤ f(x) < sn(x) +12n

よって,サンドイッチ・ルールより limn→∞ sn(x) = f(x)である.次に f(x) = +∞となる xに注目する.このとき sn(x) = nがすべてのnで成り立つ.よって limn→∞ sn(x) = +∞

が,拡張された極限の定義より成り立つ.したがって limn→∞ sn(x) = f(x)である.すべての xについてこれが成り立つことは,limn→∞ sn = f を意味する.

最後に

sn(x) =∑

0≤ν≤n2n

ν

2nχAν,n(x)

となる.ここで,ν ≤ n2n − 1については

Aν,n ={x :

ν

2≤ f(x) <

ν + 12n

}

={x : f(x) <

ν + 12n

}\{x : f(x) <

ν

2n

}

とし,ν = n2n については下記のように定める.

An2n,n = {x : f(x) ≥ n}

どの場合においても,集合 Aν,n ∈ F である.よって sn は F-可測な単関数である. �

定理 4.15と定理 4.6を組み合わせると,次のことが分かる.つまり,関数 f : (X,F)→ R+は,f に収束する F-可測な単関数の非減少列が存在するとき,またそのときに限り,F-可測である.

系 4.16 f : (X,F)→ R∗ が F-可測ならば,それは F-可測な単関数の列の極限である.

証明 定理 4.4(ix)の証明のように,f = f+ − f− と書くことができる.ここで f+ と f− は非負の F-可測な関数である.よって,定理 4.15より,limn→∞ sn = f+ かつ limn→∞ tn = f− なる F-可測な単関数の列を見つけることができる.この場合,(補題 4.12を使うと){sn − tn}n≥1 が,f に収束する所望の単関数の列である. �

43

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系 4.17 f : (X,F) → R∗ が F-可測で,かつ g : R → Rが,f の取る値を値域に含む連続関数とする.このとき,合成関数 g ◦ f は F-可測である.

証明 系 4.16より,limn→∞ sn = f なる F-可測な単関数の列を見つけることができる.前に示した注意より,関数 g ◦ sn は単関数で,すべての nについてなおも F-可測である.このとき

limn→∞

g(sn(x)) = g( limn→∞

sn(x)) gが連続だから

= g(f(x))

= (g ◦ f)(x)

がすべての x ∈ X で成り立つ.つまり g ◦ f = limn→∞ g ◦ sn である.よって,定理 4.6より g ◦ f は F-可測. �

例 28 f : (X,F)→ R+が F-可測ならば,sin f,exp(f),そして log f もまた,それらが定義されている xの集合

の上で F-可測である.

4.6 付録:興味深い単関数

x ∈ [0, 1]が,ある整数 `について,`進法で x = 0.x1x2x3x4 · · · と展開されるとする.展開の仕方が一意に定まらないときは,終わりのない展開のほうを選ぶ.ここで,すべての i ≥ 1について xi ∈ {0, 1, 2, . . . , `− 1}である.各 i ≥ 1について ai(x) = xi と定義する.これは明らかに単関数である.

例 29 特殊な場合として ` = 2のとき,以下を得る.

a1(x) =

{0 (0, 1/2]の上で.1 (1/2, 1]の上で.

ただし,ここでの規約により12

=02

+122

+123

+124

+ · · ·と書かれることに注意されたい.

同様に

a2(x) =

{0 (0, 1/4] ∪ (1/2, 3/4]の上で.1 (1/4, 1/2] ∪ (3/4, 1]の上で.

であり,また

a3(x) =

{0 (0, 1/8] ∪ (1/4, 3/8] ∪ (1/2, 5/8] ∪ (3/4, 7/8]の上で.1 (1/8, 1/4] ∪ (3/8, 1/2] ∪ (5/8, 3/4] ∪ (7/8, 1]の上で.

である.一般に,` = 2のとき,以下のようになる.

ai(x) = 1⋃2i−1−1i=0

(2`+1

2i , 2`+22i

]の上で.それ以外の場合 0.

任意の `について ai が可測かどうかを見るためには,任意の 0 ≤ κ ≤ ` − 1を取る.すると,ai(x) = κとなる

x ∈ [0, 1]は,以下の形を持っているはずである.

x =a1

`+a2

`2+ · · ·+ ai−1

`i−1+κ

`i+ y

=a1`

i−2 + a2`i−3 + · · ·+ ai−1

`i−1+κ

`i+ y

44

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ここで,1 ≤ j ≤ i− 1について aj ∈ {0, 1, . . . , `− 1}であり,0 < y ≤ 1/`iである.a1`i−2 + a2`

i−3 + · · ·+ ai−1の

各項は別々に変化するので,それらの和は 0から (`−1)∑i−2j=0 `

j = `i−1−1までのすべての整数を取りうる.よって

{x ∈ [0, 1] : ai(x) = κ}

=`i−1−1⋃n=0

(n`+ κ

`i,n`+ κ+ 1

`i

]

となり,明らかに可測である.

例 30 K を Cantor集合とする.f : [0, 1]→ K を以下のように定義する.

∞∑

i=1

xi2i7→

∞∑

i=1

2xi3i

一つ前の例での記法を使うと,` = 2のとき,以下を得る.

f(x) =∞∑

i=1

2ai(x)3i

= limn→∞

∞∑

i=1

2ai(x)3i

つまり,Lebesgue可測関数の非減少列(ai(x) ≥ 0だから.)の極限である.関数 f はCantorの関数と呼ばれる.

興味深いことに,この関数は,[0, 1]という測度が非ゼロの集合を,K という測度ゼロの集合に写像する.これはいろいろと「問題」を生じさせうる.このことは,次の結果で明示される.f が一対一であることに注意されたい.

定理 4.18 Borel集合の系は,Lebesgue可測集合の系の,真の部分集合である.

証明 任意の Lebesgue可測集合が Borel集合と仮定する.V ⊆ [0, 1] を非 Lebesgue 可測集合とする.このとき f(V ) ⊆ K は,測度ゼロの可測集合の部分集合である.

Lebesgue測度は完備だから,f(V )は可測である.よって,仮定より,f(V )はBorel集合である.しかし,そうであるならば,f が可測関数なので,f−1(f(V ))は可測集合である.しかし,f は一対一であり,よって f−1(f(V )) = V

である.したがって,V が可測であることが導かれた.これは矛盾であり,我々の仮定は偽である.よって,Borel集合ではない Lebesgue可測集合が存在する. �

45

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5 積分

5.1 非負単関数の積分

以下の全体では,測度空間 (X,F , µ)について議論する.

定義 36 sを非負 F-可測単関数とする.このとき

s =N∑

i=1

aiχAi

と書ける.ここで Aiは F-可測な集合であり,⋃Ni=1Ai = X であり,ai ≥ 0である.任意の E ∈ F について,sの

E 上での積分を

IE(s) =N∑

i=1

aiµ(Ai ∩ E)

と定義する.ただし,ai = 0かつ µ(Ai ∩E) = +∞ならば 0× (+∞) = 0と取り決めておくことにする.(よって R上で s ≡ 0より下の面積 (area)はゼロである.)

例 31 ([0, 1],L, µ)を考える.

f(x) =

{1 xが有理数

0 xが無理数

と定義する.これは単関数である.ただし A1 = Q∩ [0, 1] ∈ Lであり,A0は [0, 1]に含まれる無理数の集合で,A1

の補集合として Lに含まれる.よって f は可測であり

I[0,1](f) = 1µ(Q ∩ [0, 1]) + 0µ(Qc ∩ [0, 1])

= 0

となる.なぜなら,可算集合の Lebesgue測度はゼロだからである.

補題 5.1 E1 ⊆ E2 ⊆ E3 · · · は F に含まれ,かつ,E =⋃∞n=1En とする.このとき

limn→∞

µ(En) = µ(E)

が成り立つ.(E1 ⊆ E2 ⊆ E3 · · · を,集合の増大列 (increasing sequence)と言う.)

証明

µ(En) = +∞となる nが存在するならば,En ⊆ E は µ(E) = +∞を含意し,所望の結果が帰結する.よって µ(En) < +∞をすべての n ≥ 1について仮定する.このとき

E = E1 ∪∞⋃n=2

(En \ En−1)

は互いに素な集合の和である.En−1 ⊆ En が,En = (En \ En−1) ∪ En−1 と,En が互いに素な集合の和に等しい

ということを含意することに注意する.よって,µ(En) = µ(En \En−1) + µ(En−1)である.測度が有限と仮定している[訳注:有限でないと (+∞)− (+∞)が定義されない]ので,µ(En \En−1) = µ(En)− µ(En)− µ(En−1)と,式を書き直すことができる.よって,

µ(E) = µ(E1) +∞∑n=2

µ(En \ En−1)

= µ(E1) + limN→∞

N∑n=2

(µ(En)− µ(En−1)) (無限和の定義より.)

= limN→∞

µ(EN )

46

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定理 5.2 sと tを (X,F , µ)上の 2つの非負 F-可測単関数とし,E,F ∈ F とする.このとき

(i) すべての c ∈ Rについて IE(cs) = cIE(s)

(ii) IE(s+ t) = IE(s) + IE(t)

(iii) E 上で s ≤ tならば IE(s) ≤ IE(t)

(iv) F ⊆ E ならば IF (s) ≤ IE(s)

(v) E1 ⊆ E2 ⊆ E3 ⊆ · · · かつ E =⋃∞k=1Ek ならば,limk→∞ IEk(s) = IE(s)

証明 補題 4.12にならって

s =M∑

i=1

aiχAi =M∑

i=1

N∑

j=1

aiχCij

および

t =N∑

j=1

bjχBj =M∑

i=1

N∑

j=1

bjχCij

と書く.ただし Cij = Ai ∩Bj ∈ F である.

(i) cs =∑Mi=1 caiχAi であることに注意すると,以下を得る.

IE(cs) =M∑

i=1

caiµ(Ai)

= c

M∑

i=1

aiµ(Ai) = cIE(s)

(ii) sと tが上のように書かれるので,s+ t =∑Mi=1

∑Nj=1(ai + bj)χCij である.よって

IE(s+ t) =M∑

i=1

N∑

j=1

(ai + bj)µ(Cij ∩ E)

=M∑

i=1

N∑

j=1

aiµ(Cij ∩ E) +M∑

i=1

N∑

j=1

bjµ(Cij ∩ E)

=M∑

i=1

aiµ

( N⋃

j=1

(Cij ∩ E))

+N∑

j=1

bjµ

( M⋃

i=1

(Cij ∩ E))

=M∑

i=1

aiµ(Ai ∩ E) +N∑

j=1

bjµ(Bj ∩ E)

= IE(s) + IE(t)

(iii) 任意の 1 ≤ i ≤ M, 1 ≤ j ≤ N で,Cij ∩ E 6= ∅を満たすものが与えられているとする.このとき,任意のx ∈ Cij ∩ E について ai = s(x) ≤ t(x) = bj を得る.よって,以下が成り立つ.

IE(s) =M∑

i=1

N∑

j=1

aiµ(Cij ∩ E)

≤M∑

i=1

N∑

j=1

bjµ(Cij ∩ E)

= IE(t)

47

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(iv) µの単調性より以下を得る.

IF (s) =M∑

i=1

aiµ(Ai ∩ F )

≤M∑

i=1

aiµ(Ai ∩ E)

= IE(s)

(v) 補題 5.1より,E1 ⊆ E2 ⊆ E3 ⊆ · · · かつ E =⋃∞k=1Ek のとき,limk→∞ µ(Ek) = µ(E)が成り立つ.よって

limk→∞

IEk(s) = limk→∞

∞∑

i=1

aiµ(Ai ∩ Ek)

=M∑

i=1

ai limk→∞

µ(Ai ∩ Ek)

=M∑

i=1

aiµ(Ai ∩ E) 補題 5.1より.

= IE(s)

が得られる. �

5.2 非負可測関数の積分

定義 37 f : X → R+ が非負の F-可測関数で,E ∈ F のとき,f の E 上の積分は次のように定義される.∫

E

fdµ = sup{IE(s) : sは F-可測な単関数で 0 ≤ s ≤ f を満たす. }

もちろん,E 6= X のときは,E を含むある定義域で f が定義されていればよい.

I(f,E)は,集合{IE(s) : sは F-可測な単関数で 0 ≤ s ≤ f を満たす.}

を意味するとする.このとき,積分は sup I(f,E)に等しい.

注意 この積分は,無限大となるかもしれないにしても,すべての非負の F-可測な関数について存在する.

∫Efdµ =∞ならば,積分が定義されている (defined)と言う.∫

Efdµ <∞ならば,f は E 上で µ-積分可能 (integrable)または総和可能 (summable)と言う.

命題 5.3 非負の F-可測な単関数 tについて,∫Etdµ = IE(t)を得る.

証明

0 ≤ s ≤ tを満たす任意のF-可測な単関数 sが与えられたとき,定理 5.2(iii)より,IE(s) ≤ IE(t)を得る.よって,IE(t)は I(t, E)のひとつの上界 (upper bound)であり,また,I(t, E)のあらゆる上界のうちの最小の (the least)

上界は∫Etdµである.よって,

∫Etdµ ≤ IE(t)である.

また,∫Etdµ ≥ IE(s)がすべての F-可測な単関数 0 ≤ s ≤ tについて成り立つ.よって,∫

Etdµは任意の特定の

sについて,IE(s)より大きい.つまり s = tについても,IE(s)より大きい.したがって∫Etdµ ≥ IE(t)である.

よって∫Etdµ = IE(t)が成り立つ. �

例 32 ある定数 kについて f ≡ kならば,∫Efdµ = IE(f) = kµ(E)が成り立つ.

48

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定理 5.4 以下,すべての集合は F に属する集合で,すべての関数は非負の F-可測関数とする.

(i) すべての c ≥ 0について∫

E

cfdµ = c

E

fdµ (5.1)

(ii) 0 ≤ g ≤ hのとき ∫

E

gdµ ≤∫

E

hdµ

(iii) E1 ⊆ E2 かつ f ≥ 0のとき ∫

E1

fdµ ≤∫

E2

fdµ

証明

(i) c = 0のとき,式 (5.1)の右辺は 0で,例 32より左辺も 0である.

c ≥ 0と仮定する.

0 ≤ s ≤ cf が F-可測な単関数ならば,0 ≤ 1c s ≤ f もまたそうである.よって定理 5.2(i)より

E

fdµ ≥ IE(

1cs

)=

1cIE(s)

が成り立つ.したがって,c∫Efdµ は I(cf, E) についてのひとつの上界である.また,I(cf, E) について∫

Ecfdµは最小の上界である.よって c

∫Efdµ ≥ ∫

Ecfdµとなる.

今度は,0 ≤ s ≤ f が F-可測な単関数であるという観察から始めると,0 ≤ cs ≤ cf もまた F-可測な単関数である.よって

E

(cf)dµ ≥ IE(cs)∫Eの定義より.

= cIE(s) 定理 5.2(i)より.

したがって, 1c

∫E

(cf)dµは I(f,E)にとってひとつの上界であり,∫Efdµは I(f,E)にとって最小の上界で

ある.よって, 1c

∫E

(cf)dµ ≥ ∫Efdµである.つまり,

∫Ecfdµ ≥ c ∫

Efdµとなる.

両方の不等式を組み合わせることで,所望の結果を得る.

(ii) 0 ≤ s ≤ gを F-可測な単関数とする.このとき,g ≤ hだから,自明に 0 ≤ s ≤ hを得,ここで積分 ∫Eの定

義より IE(s) ≤ ∫Ehdµが成り立つ.したがって,

∫Ehdµは I(g,E)にとってのひとつの上界である.(i)と同

様に,∫Ehdµ ≥ ∫

Egdµを得る.

(iii) 0 ≤ s ≤ f を F-可測な単関数とする.このとき以下を得る.

IE1(s) ≤ IE2(s) 定理 5.2(iv)より.

≤∫

E2

fdµ∫E2の定義より.

よって∫E2fdµは I(f,E2)にとってひとつの上界であり,したがって,すべての上界のうち最小のものより

も大きい.よって∫E2fdµ ≥ ∫

E1fdµである. �

補題 5.5 E ∈ F であり,f ≥ 0が F-可測であり,∫Efdµ <∞と仮定する.

A = {x ∈ E : f(x) = +∞}

と定めると,A ∈ F かつ µ(A) = 0となる.

49

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証明

f が F-可測なので,f−1({∞}) ∈ F であり,よって A = E ∩ f−1({∞}) ∈ F となる.以下のように定義する.

sn(x) =

{n x ∈ Aのとき0 x 6∈ Aのとき

A ∈ F なので,sn が F-可測な単関数であることが導かれる.また,sn ≤ f であり,よってnµ(A) = IE(sn) IE の定義より.

≤∫

E

fdµ∫Eの定義より.

<∞ 仮定より.

すべての n ≥ 1についてこれが成り立つことは,µ(A) = 0を意味する. �

補題 5.6 f が F-可測で,E ∈ F 上で非負,さらに µ(E) = 0ならば,∫Efdµ = 0である.

証明

0 ≤ s ≤ f を F-可測な単関数とする.このとき,ある an ≥ 0と An ∈ F について,s =∑Nn=1 anχAn である.

よって,IE(s) =∑Nn=1 anµ(An ∩E)となる.しかし,µは単調であり,このことは,µ(An ∩E) ≤ µ(E) = 0がす

べての nについて成り立つことを意味する.よって,IE(s) = 0がすべてのそのような単関数について成り立つ.したがって,I(f,E) = {0}であり,よって,∫

Efdµ = sup I(f,E) = 0である. �

補題 5.7 g ≥ 0かつ∫Egdµ = 0ならば

µ{x ∈ E : g(x) > 0} = 0

証明 A = {x ∈ E : g(x) > 0},また,An = {x ∈ E : g(x) > 1n}とする.このとき集合An = E∩{x : g(x) > 1

n} ∈ Fは A1 ⊆ A2 ⊆ A3 ⊆ · · · を満たし,A =

⋃∞n=1An である.補題 5.1より,µ(A) = limn→∞ µ(An)が成り立つ.

sn(x) =

{1n x ∈ An のとき0 それ以外のとき

を用いると,sn ≤ gが An 上で成り立つので,以下を得る.

1nµ(An) = IAn(sn)

≤∫

An

gdµ∫Anの定義より

≤∫

E

gdµ 定理 5.4(iii)より

= 0 仮定より

よって,µ(An) = 0がすべての nについて成り立ち,したがって µ(A) = 0である. �

定義 38 µ(A) = 0を満たす集合 Aについて,E \Aに属するすべての点について性質 P が成り立つとき,P が E

上のほとんどいたるところ (almost everywhere) (µ)で成り立つと言うことにする.

(∗P が Aの点のいくつかで成り立つかもしれないし,P が成立しない点の集合が可測でないかもしれない.だ

が,これは重要ではない.しかし,µが,Lebesgue-Steiltjes測度 µF のように,完備な測度であれば,状況はもっ

と単純である.性質 P が E 上のほとんどいたるところ (µ)で成り立つとせよ.定義から,P が成立しない点の集合,例えばDとする,は,測度ゼロの集合によって被覆されることができる.つまり,D ⊆ Aかつ µ(A) = 0なるAが存在する.ところが,µが完備ならば,Dは可測で,測度ゼロであろう.

この節では,µが完備とは仮定していない.)

よって,例えば,補題 5.7は次のように言い換えることができる.

50

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補題 5.8 g ≥ 0かつ∫Egdµ = 0ならば,E 上のほとんどいたるところ (µ)で g = 0である.

定理 5.4(ii)を次のように拡張することができる.

定理 5.9 g, h : X → R+ が F-可測で,g ≤ hがほとんどいたるところ (µ)で成り立つならば∫

E

gdµ ≤∫

E

hdµ

証明

仮定より,D ⊆ E を満たす測度ゼロの集合 D が存在し,すべての x ∈ E \ D について g(x) ≤ h(x) を得る.0 ≤ s ≤ gを F-可測な単関数とすると

s =N∑

i=1

aiχAi ただしN⋃

i=1

Ai = E

と書くことができる.ここでの問題は,s ≤ hとならないかもしれないことである.そこで

s∗(x) =

{s(x) x 6∈ Dのとき0 x ∈ Dのとき

=N∑

i=1

aiχAi∩Dc

と定義する.これはやはり F-可測な単関数である.このとき,x ∈ D については s∗(x) = 0 ≤ h(x)である一方,x ∈ E \Dについても s∗(x) = s(x) ≤ g(x) ≤ h(x)を得る.よって,すべての x ∈ Eについて s∗(x) ≤ h(x)となる.ここで,Ai = (Ai ∩Dc)∪ (Ai ∩D)と,互いに素な集合の和に書けることに注意する.また,その場合,µ(Ai) =

µ(Ai ∩Dc) + µ(Ai ∩D) = µ(Ai)を得る.しかし,Ai ∩D ⊆ Dであり,よって µ(Ai ∩D) ≤ µ(D) = 0である.したがって,µ(Ai) = µ(Ai ∩Dc)となる.結局

IE(s∗) =N∑

i=1

aiµ(Ai ∩Dc)

=N∑

i=1

aiµ(Ai)

= IE(s)

を得る.よって,積分∫Eの定義より,IE(s) = IE(s∗) ≤ ∫

Ehdµとなる.したがって,

∫Ehdµは I(g,E)のひとつ

の上界であり,一方,∫Egdµは I(g,E)のすべての上界のうち最小のものである.よって,

∫Ehdµ ≥ ∫

Egdµ. �

系 5.10 g, h : X → R+ が F-可測で,E 上のほとんどいたるところ (µ)で g = hならば,以下を得る.∫

E

gdµ =∫

E

hdµ

証明

仮定より,測度ゼロの集合 D ⊆ E で,すべての x ∈ E \Dについて g(x) = h(x)となるものが存在する.特に,これらの xについて g(x) ≤ h(x)かつ h(x) ≤ g(x)である.よって,g ≤ hが E 上のほとんどいたるところ (µ)で成り立ち,かつ,h ≤ gが E 上のほとんどいたるところ (µ)で成り立つ.したがって,定理 5.9を二回適用することで,所望の結果を得る. �

51

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例 33 (例 31を参照.)([0, 1],L, µ)上で,関数

f(x) =

{1 xが有理数

0 xが無理数

は [0, 1]上のほとんどいたるところ (µ)で 0である.よって,以下を得る.∫

[0,1]

fdµ =∫

[0,1]

0dµ = 0

5.3 付録:Chebychevの定理

定理 5.11 Chebychevの定理

f を非負の F-可測な関数とする.このとき,c > 0について以下が成り立つ.

µ{x : f(x) > c} ≤ 1c

X

fdµ

証明 C = {x : f(x) > c} ∈ F とする.このとき∫

X

fdµ ≥∫

C

fdµ >

C

cdµ = cµ(C)

このシンプルな結果は,特に確率論において,多くの応用を持つ.ここでは,数論への応用を与える.そこでは,

第 4.5節への付録で定義された単関数が使われる.I = [0, 1]とする.x ∈ I について,第 4.5節への付録での記法を,l = 2の場合で用いて,次のように書くことが

できる.

x =∞∑

i=1

ai(x)2i

SN (x) =∑

1≤i≤N ai(x)とする.問題は,SN (x)の平均値はいくらか?である.ここで,以下が成り立つことに注意されたい.

すべての iについて∫ 1

0

aidµ =12

したがって,下記も成り立つ.

すべての N ≥ 1について∫ 1

0

SNdµ =N

2

定理 5.12 すべての ε > 0について,N →∞のとき

µ

{x ∈ I :

∣∣∣∣SN (x)N

− 12

∣∣∣∣ > ε

}→ 0

この定理は,SN (x)/N の値が,N が無限大に近づくにつれて,1/2のまわりに集まることを示している.これは,大数の弱法則(weak law of large numbers)の特殊ケースである.

証明

Rk(x) = 2ak(x)− 1と定義される Rademacher関数を考える.すると,以下を得る.

Rk(x) =

{1 ak(x) = 1のとき−1 ak(x) = 0のとき

52

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これらは単関数であるが,非負ではない.しかしながら,これらは積分可能である.というのも,値域も定義域も

有限だからである.これらの関数は直交性を持つ.その最初は,以下のように自明である.∫

I

R2kdµ = 1

さらに,下記が成り立つ.

i 6= j のとき∫

I

RiRjdµ = 0

二番目の結果を確認するには

Ik(n) =(n

2k,n+ 1

2k

]

と書く.すると,以下を得る.

Rk(x) =

{1 nが奇数のときに x ∈ Ik(n)−1 nが偶数のときに x ∈ Ik(n)

ここで,一般性を失うことなく,i < j と仮定する.もちろん i ≤ j − 1である.すると,n ≤ 2j−1 − 1なる nが

与えられたとき,n′ ≤ 2i − 1なる n′で,Ij−1(n) ⊆ Ii(n′)を満たすものを見つけることができる.ところが,RiはIi(n′)上で定数なので,Ij−1(n)上でも定数でなければならない.そこで,以下のように分割する.

Ij−1(n) =(

n

2j−1,n+ 12j−1

]=(

2n2j,

2n+ 12j

]∪(

2n+ 12j

,2n+ 2

2j

]

= Ij(2n) ∪ Ij(2n+ 1)

ここで,Ij(2n)上では Rj(x) = −1であり,Ij(2n+ 1)上では Rj(x) = 1である.Ri,,j−1を Ri(x)の Ij−1(n)上での値と定めると,以下の結果を得る.

Ij−1(n)

RiRjdµ = Ri,,j−1

Ij−1(n)

Rjdµ

= Ri,,j−1(−µ(Ij(2n)) + µ(Ij(2n+ 1)))

= Ri,,j−1

(− 1

2j+

12j

)

= 0

よって,次が成り立つ. ∫

I

RiRjdµ =∑

1≤n≤2j−1−1

Ij−1(n)

RiRjdµ = 0

TN (x) =∑i≤i≤N Ri(x)とする.このとき

TN (x) =∑

1≤i≤N(2ai(x)− 1) = 2SN (x)−N

となる.よってSN (x)N

− 12

=TN (x)

2Nが得られ,所望の結果を得るためには,以下を示せば足ることが分かる.

µ

{x ∈ I :

∣∣∣∣TN (x)

2N

∣∣∣∣ > ε

}→ 0

あるいは,2εを εで置き換えて

µ{x ∈ I : |TN (x)| > εN} → 0

53

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を示せば足ることが分かる.

しかし,|TN (x)| > εN は,TN (x)2 > ε2N2 のとき,またそのときに限り,成り立つ.よって,次を示せば足る.

µ{x ∈ I : TN (x)2 > ε2N2} → 0

だが,Chebychevの不等式は以下を含意する.

µ{x ∈ I : TN (x)2 > ε2N2} ≤ 1ε2N2

I

T 2Ndµ

=1

ε2N2

I

( ∑

1≤i≤NRi

)2

=1

ε2N2

( ∑

1≤i≤N

I

R2i dµ+

1≤i≤N

1≤j≤Ni 6=j

I

RiRjdµ

)

=1

ε2N2

これは,N が無限大に近づくにつれて,ゼロに近づく. �

ここで

A ={x ∈ I : lim

N→∞SN (x)N

=12

}

と定めると,µ(Ac) = 0であることを証明できる [訳注: R. Nillsen, Normal numbers without measure theory,American Mathematical Monthly, 107, 639-644, 2000. 等を参照].よって,ほとんどすべて (µ)の x ∈ I について,以下が成り立つ.

limN→∞

SN (x)N

=12

(5.2)

これは大数の強法則(strong law of large numbers)のひとつの例である.それは,ほとんどすべての xについて,数

字 0と 1とが,二進数表記において同じ頻度で現れることを意味している.では,一般の基数 `についてはどうな

るだろうか?

x ∈ [0, 1]が基数 `において,終わりの無い展開として表わされているとする.さらに,数字 bが最初の n桁のう

ちの nb 桁に現れているとする.nbn→ β

が n → ∞のとき成り立つならば,bが頻度 β を持つ,と言うことにする.この極限が存在することは,アプリオ

リには自明でないが,実は存在する.nbn→ 1

`が,`個ありうるすべての数字 bについて成り立つとき,xは基数 `において単正規(simply normal in the scale of`)と言うことにする.よって,式 (5.2)は,ほとんどすべての数が基数 2において単正規であることを意味する.

例 34 ` = 2のときx = 0.0101010101010 · · · = 0

2+

122

+023

+124

+025

+126

+ · · ·は単正規である.だが,基数 4においては

x =02

+122

+023

+124

+025

+126

+ · · ·

=122

+124

+126

+ · · ·

=14

+142

+143

+ · · ·

= 0.1111 · · ·

となる.よって,xは基数 4においては単正規でない.

54

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定義 39 x, `x, `2x, `3x, · · · という数すべて(の小数部分)が,`, `2, `3, · · · という基数すべてにおいて単正規のとき,xは基数 `において正規(normal in base `)と言うことにする.

定理 5.13 ほとんどすべての数が,任意の基数において,正規である.

証明 ここでは与えない. �

5.4 積分と他の操作 (operation)との入れ替え

ここでは,この講義の主要な結果のひとつが示される.それは,積分と極限をとる操作との入れ替えである.

定理 5.14 Lebesgueの単調収束定理E ∈ F とし,0 ≤ f1 ≤ · · · ≤ fn ≤ fn+1 ≤ · · · を,E 上で定義された非負の F-可測な関数の非減少列とする.こ

のとき,以下が成り立つ.

limn→∞

E

fndµ =∫

E

limn→∞

fndµ

証明 各 x ∈ E について {fn(x)}n は非減少列であるから,極限が存在する.この極限は∞かもしれない.x ∈ Eについて f(x) = limx→∞ fn(x)と定義する.定理 4.6の (iv)より,f は E 上で F-可測である.よって,積分

∫Efdµは,それが +∞かもしれないとしても,

存在する [訳注:原文は以下の通り.“From Theorem 3.6(iv) we see that f is F-measurable on E and so∫Efdµ

though it might well be +∞. ” ].さらに,すべての nについて f ≥ fn なので∫

E

fdµ ≥∫

E

fndµ

が定理 5.4の (ii)より成り立つ.しかし,{∫Efndµ}n≥1 もまた,非減少列なので,極限が存在し,以下を満たす.∫

E

fdµ ≥ limn→∞

E

fndµ (5.3)

(∗ もちろん,この極限も +∞かもしれない.このとき必然的に ∫Efdµ = +∞となり,式 (5.3)で等号が成立

する.よって,ここからは極限が有限と仮定するが,以下の議論で必ずしも実際にそうである必要はない.)

逆方向の不等号の証明には「トリック」が必要である.任意の非負の F-可測な単関数 0 ≤ s ≤ f を取る.さらに,0 ≤ c < 1なる cが与えられているとする.

En = {x ∈ E : fn(x) > cs(x)} ∈ F とすると,E1 ⊆ E2 ⊆ · · · である.x ∈ E ならば f(x) ≥ s(x) > cs(x)となる.s(x)は cs(x)より真に大きいので,fm(x) > cs(x)を満たすm ≥ 1を見つけることができ,これは x ∈ Emを意味する.よって E ⊆ ⋃n≥1Enを得る.だが,すべての nについて En ⊆ Eなので,

⋃n≥1En = Eとなる.よって

E

fndµ ≥∫

En

fndµ

>

En

csdµ

= cIEn(s)

が得られ,よって,limn→∞∫Efndµ ≥ cIE(s)が定理 5.2の (v) [訳注:原文は (iv)となっている.]より成り立つ.

すべての c < 1についてこれが成り立つことは,limn→∞∫Efndµ ≥ IE(s)を意味する.よって,limn→∞

∫Efndµ

は,I(f,E)のひとつの上界であり,また,I(f,E)について∫Efdµは最小の上界である.よって,以下を得る.

limn→∞

E

fndµ ≥∫

E

fdµ (5.4)

式 (5.3)と (5.4)を組み合わせて,所望の結果を得る. �

55

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∗ ここで,なぜ cを導入するという「トリック」が必要だったのかが,理解できる.

E上で f ≡ 1であり,また,E上で fn ≡ 1− 1n である場合を考える.このとき,E上で limn→∞ fn = f となる.

いま,任意の単関数 0 ≤ s ≤ f を取る.s ≡ 1と取っても許される.このとき,cがないと,すべての n ≥ 1について En = {x ∈ E : s(x) ≤ fn(x)} = ∅を得,よって,⋃∞n=1En = ∅となる.しかし,欲しいのは⋃∞n=1En = Eとい

う結果である.問題は,Eの部分集合のうち,測度が非ゼロのものの上で s = f となることを許している点にある.

これは,測度が非ゼロの集合の上で,f が定数である場合,またそのときに限り,起こりうることである.

注意 (i) 非負の F-可測関数 f が与えられたとき,定理 4.15より,非負の F-可測な単関数 snの列で f へと非減少

するものが存在する.このとき,定理 5.14は∫Efdµ = limn→∞ IE(sn)を含意する.この極限は非負の F-可測な

単関数の列に依存しないことを示せる.これは,しばしば,∫Efdµの定義として受け取られている.

∗(ii) Riemann積分では,f は定義域(domain)を分割し,lower階段関数と upper階段関数を得ることで近似される.Lebesgue積分では,分割されるのは値域(range)であり,単関数を得る.これは,定義域が Rでなくてもよいという大きな利点を持つ.つまり,一般の測度空間上に積分を定義できる.

例 35 [0, 1]の有理数を,r1, r2, r3, . . .と数え上げる.そして,次のように定義する.

gn(x) =

{1 ある 1 ≤ r ≤ nについて,x = ri のとき

0 それ以外のとき

gnは定理 5.14を満たすが,さらに,Riemann積分可能で,すべての n ≥ 1についてR-∫ 1

0gndx = 0となる.だが

limn→∞

gn(x) =

{1 x ∈ Q ∩ [0, 1]のとき0 それ以外のとき

は Riemann積分可能ではない.よって,Riemann積分に限って limn→∞ gn が Riemann積分可能であることを保証するために,追加の条件が必要となる(例えば一様収束性).

(∗Lebesgue積分が良いのは,Lebesgue可測関数の収束列の極限が可測であり(定理 4.6(iv)),したがって,結果の値が∞であるかもしれないにしても,それが積分可能だからである.)定理 5.15 f, g :→ R+ を F-可測な関数とし,E ∈ F とする.このとき,下記が成り立つ.

E

(f + g)dµ =∫

E

fdµ+∫

E

gdµ

証明 定理 4.15より,F-可測な非負単関数の列 {sn}n≥1 と {tn}n≥1 で,それぞれ f と gに収束するものを見つけ

ることができる.このとき,{sn + tn}n≥1 は,F-可測な非負単関数の列で,f + gに収束する.よって∫

E

(f + g)dµ =∫

E

limn→∞

(sn + tn)dµ

= limn→∞

E

(sn + tn)dµ 定理 5.14より

= limn→∞

IE(sn + tn) 命題 5.3より

= limn→∞

(IE(sn) + IE(tn)) 定理 5.2(ii)より

= limn→∞

IE(sn) + limn→∞

IE(tn)

= limn→∞

E

sndµ+ limn→∞

E

tndµ 命題 5.3より

=∫

E

limn→∞

sndµ+∫

E

limn→∞

tndµ 定理 5.14より

=∫

E

fdµ+∫

E

gdµ

56

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次の結果は,無限和の操作と積分を入れ替えることに関連する.

系 5.16 {fn}n≥1 を E ∈ F 上で定義された F-可測な非負関数の列とする.このとき,以下が成り立つ.

E

∞∑n=1

fndµ =∞∑n=1

E

fndµ

証明 Hk =∑kn=1 fn とする.このとき,定理 5.15に基づく帰納法より

E

Hkdµ =k∑

n=1

E

fndµ (5.5)

がすべての k ≥ 1について成り立つ.すべての nについて fn ≥ 0なので,Hk は非減少列で,∑∞n=1 fnに収束する

ことが分かる.よって,以下が成り立つ.

E

∞∑n=1

fndµ =∫

E

limk→∞

Hkdµ

= limn→∞

E

Hkdµ 定理 5.14より

= limk→∞

k∑n=1

E

fndµ 式 (5.5)より

=∞∑n=1

E

fndµ

注意 系 5.16では,左辺の積分が有限でなくてもいいし,右辺の和が収束しなくてもいい.しかし,和が発散するときは,全ての項が非負なので,拡張された収束概念によって,それは +∞に収束すると言うことができる.よって,この結果は,左辺と右辺のいずれかが無限であれば,両辺とも無限となることを意味している.

以下の例では,証明なしに,有限区間上での Riemann積分可能な関数はその同じ区間上で Lebesgue積分可能である,という事実を利用する.(付録 8aを参照.)

例 36 以下を示せ. ∫ 1

0

x1/3

1− x log(1/x)dx = 9∞∑n=1

1(3n+ 1)2

答え 非積分項は,(0, 1)上の連続関数であり,よって,可測である.また,積分を Lebesgue積分と見れば,この非積分項は Lebesgue積分可能である.ただ,非積分項は x = 0と x = 1において問題があると思われるかもしれない.しかし,積分の値を変えずに,測度ゼロの集合上で関数の値を変えることができることを思い出しさえすれ

ばよい.よって,この問題を,以下の関数を積分する問題と考える.{

x1/3(1− x)−1 log(1/x) 0 < x < 1のとき0 x = 0および x = 1のとき

ところで,次式が 0 < x < 1のとき成立する.

x1/3

1− x log(1/x) = x1/3 log(1/x)∞∑n=0

xn

57

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よって,系 5.16を適用し,部分積分によって次の結果を得ることができる.∫ 1

0

x1/3

1− x log(1/x)dx =∞∑n=0

∫ 1

0

xn+1/3 log(1/x)dx

= 9∞∑n=0

1(3n+ 4)2

= 9∞∑n=1

1(3n+ 1)2

例 37 0 < p, q,<∞とする.このとき,以下が成り立つ.∫ 1

0

xp−1

1 + xqdx =

(1p− 1p+ q

)+(

1p+ 2q

− 1p+ 3q

)+ · · ·

注意 右辺の和は絶対収束しない.このように,条件収束列については,どのような順番で項を足していくのかが

重要である.条件収束列と実数 αが与えられたとき,その列が αに収束するような加算の順序を見つけられるのは,

興味深い結果である.よって,上では括弧を使っておいた.

答え 仮に,次のように展開すると,すべての項が非負とは限らなくなってしまう.

xp−1(1 + xq)−1 = xp−1(1− xq + x2q − x3q + x4q − · · ·

そこで,これを∑∞n=0 fn(x)と書いて,次のように項をまとめる必要がある.

[0, 1]上で fn(x) = xp−1(x2nq − x(2n+1)q) ≥ 0

fn は連続なので,Lebesgue積分可能である.よって,系 5.16より,以下を得る.∫ 1

0

xp−1

1 + xqdx =

∞∑n=0

∫ 1

0

xp−1(x2nq − x(2n+1)q)dx

=∞∑n=0

[xp+2nq

p+ 2nq− xp+(2n+1)q

p+ (2n+ 1)q

]1

0

=∞∑n=0

(1

p+ 2nq− 1p+ (2n+ 1)q

)

この例の特殊な場合として,p = 1, q = 1とすると,以下を得る.(

1− 12

)+(

13− 1

4

)+(

15− 1

6

)+ · · · =

∫ 1

0

11 + x

dx = log 2

一方,p = 1, q = 2とすると,次の結果を得る.(

1− 13

)+(

15− 1

7

)+(

19− 1

11

)+ · · · =

∫ 1

0

11 + x2

dx =π

4

定理 5.17 (X,F , µ)が測度空間,f がF-可測な非負関数なら,φ(E) =∫Efdµは可測空間 (X,F)上の測度である.

さらに∫Xfdµ <∞も成り立つとき,すべての ε > 0について,A ∈ F かつ µ(A) < δならば φ(A) < εとなるよ

うな δ > 0が存在する.(これは連続性.)

証明 {En}を F に属する互いに素な集合の系とする.ここで

fn(x) =

{f(x) x ∈ En のとき0 x 6∈ En のとき

58

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と定めると,すべての x ∈ ⋃∞n=1Enについて,f(x) =∑∞n=1 fn(x)となる.各 n ≥ 1について,関数 fnは F-可測

[訳注:可測な関数については定理 4.3を参照.]なので

φ

( ∞⋃n=1

En

)=∫⋃∞n=1 En

fdµ =∫⋃∞n=1 En

∞∑m=1

fmdµ

=∞∑m=1

∫⋃∞n=1

fmdµ 系 5.16より

=∞∑m=1

Em

fmdµ

=∞∑m=1

Em

fdµ Em 上では fm = f だから

=∞∑m=1

φ(Em)

したがって,φは σ-加法的である.

Fn(x) =

{f(x) f(x) ≤ nのとき0 f(x) > nのとき

と定めると,これらは F-加法的な関数である.Fn は f へ単調非減少する.定理 5.14より

limn→∞

X

Fndµ =∫

X

fdµ

となることが分かる.このことは,任意の ε > 0について,次を満たす N が存在することを意味する.

0 ≤∫

X

fdµ−∫

X

FNdµ <ε

2

δ = ε/2N と選ぶ.このとき,A ∈ F が µ(A) < δを満たすならば,

φ(A) =∫

A

fdµ =∫

A

(f − FN )dµ+∫

A

FNdµ

≤∫

X

(f − FN )dµ+∫

A

Ndµ FN ≤ N だから

2+Nµ(A)

< ε

例 38 µが R上の Lebesgue測度ならば,e−x2/2は連続であり,したがって,Lebesgue可測である [訳注:例 25(i)

参照].よって,定理 5.17は∫Ae−x

2/2dµが R上の測度であることを含意する.

定義 40

µG(A) =1√2π

A

e−x2/2dµ

は R上のガウス測度である.µG(R) = 1となることに注意.

定理 5.14は,非減少とは限らない列へと拡張できる.次の結果は重要である.

定理 5.18 Fatouの補題 {gn}n≥1 が F-可測な非負関数の列であり,E ∈ F とすると,以下が成り立つ.∫

E

lim infn→∞

gndµ ≤ lim infn→∞

E

gndµ

59

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証明 定理 4.6(ii)より,lim infn→∞

gn は F-可測である.lim infn→∞

gn = limn→∞(infr≥n gr)だったことを想起されたい.hn = infr≥n gr とすると,hnが関数の非減少列であることは,すでに見た [訳注:定義 32に続く説明を参照].よって,定理 5.14,つまり,Lebesgueの単調収束定理より,以下が演繹される.

limn→∞

E

hndµ =∫

E

limn→∞

hndµ

=∫

E

lim infn→∞

gndµ

さらに,hn = infr≥n gr ≤ gn であり,よって∫Ehndµ ≤

∫Egndµとなる.したがって

limn→∞

E

hndµ = lim infn→∞

E

hndµ

≤ lim infn→∞

E

gndµ

が成り立ち,上の二つをあわせて,所望の結果を得る. �

この結果は,lim infn→∞

gn = g a.e.(µ) と置き換え,∫Egdµ ≤ lim inf

n→∞∫Egndµを演繹すれば,少し拡張できる.

5.5 付録:単調収束定理の拡張版

定理 5.14は,拡張することができる.まず,この定理は,E上のほとんどいたるところ (µ)で limn→∞ fn = f が

成り立つ,という条件の下で,しばしば述べられる.しかし,これは単に系 5.10を適用すれば,定理 5.14 から帰結する.ここでは,さらに先に進む.おそらく,E 上のほとんどいたるところ (µ)で fn ≤ fn+1 ということさえ成り

立てばよいのである.つまり,測度ゼロの集合 Anが存在し,すべての x ∈ E \Anについて fn(x) ≤ fn+1(x)が得られればよいのである [訳注:各 nごとに fn(x) ≤ fn+1(x)が成り立つ xの集合(これはEの部分集合)が異なって

いてもよい,ということ].A =⋃∞n=1Anとすると,可算劣加法性 [訳注:定義 23]より,µ(A) ≤∑∞n=1 µ(An) = 0

が成り立つ.よって,すべての x ∈ E \Aについて,以下を得る.

f1(x) ≤ f2(x) ≤ f3(x) ≤ · · ·

したがって,ほとんどいたるところ (µ)で lim fnが存在する.f を F-可測な非負関数とし,さらに,E \A上のほとんどいたることころ (µ)で f = lim fn となるような集合 E すべての上で f は定義されているとするつまり,測

度ゼロの集合B ⊆ E \Aが存在し,すべての x ∈ (E \A) \B = E \ (A∪B)について,f(x) = limn→∞ fn(x)が成り立つとする.

定理 5.19 上記の条件が成り立ち,かつ,µが完備とすると,以下が成り立つ.

limn→∞

E

fndµ =∫

E

fdµ

証明

不等式 fn ≤ fn+1がE上のほとんどいたるところ (µ)で成立することは,すべてのnについて∫Efndµ ≤

∫Efn+1dµ

であることを意味する [訳注:定理 5.9].よって,無限大となるかもしれないが L = limn→∞∫Efndµが存在する.

x ∈ E \ (A ∪ B)について fn(x) ≤ limm→∞ fm(x) = f(x)であったことに注意する.つまり,すべての n ≥ 1について,E 上のほとんどいたることろ (µ)で fn ≤ f が成り立つことに注意する.よって,すべての nについて∫Efndµ ≤

∫Efdµとなる.したがって,以下が成り立つ.

L ≤∫

E

fdµ (5.6)

60

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[訳注:以下,逆向きの不等号の証明だが,1つの補題と 1つの命題を含む,長い証明になっている.]0 ≤ s ≤ f を E 上の任意の F-可測な単関数とし,0 ≤ c ≤ 1 とする.En = {x ∈ E : cs(x) ≤ fn(x)} とす

る.ここで En ⊆ En+1 が成り立つとは限らないことに注意する.例えば,x ∈ En ∩ An のとき,x ∈ En だか

ら cs(x) ≤ fn(x)を得るであろうが,x ∈ Aであるため fn(x) > fn+1(x)が成り立つかもしれないのである.よって,cs(x) > fn+1(x)となりうる.つまり,x 6∈ En+1 でありうる.しかし,[訳注:cs(x) ≤ fn(x) ≤ fn+1(x)はcs(x) ≤ fn+1(x)を含意するから] 確かに En ∩ Acn ⊆ En+1 が成り立つ [訳注:よって,x ∈ En \ En+1 となるなら

ば,x ∈ En ∩An である.つまり En \ En+1 ⊆ En ∩An である]ので,ほとんどすべての En は En+1 の中にある.

なぜなら,En \En+1 ⊆ (En ∩An) \En+1 ⊆ Anだから,つまり,µ(En \En+1) = 0だからである.これにもかからわず,次が成立する:

補題 5.20 E1, E2, E3, . . . ∈ F が,すべての j ≥ 1について µ(Ej \ Ej+1) = 0を満たすならば,次が成り立つ.

µ

( ∞⋃n=1

En

)= limn→∞

µ(En)

証明

Fn =⋂j≥nEj と定義する.このとき F1 ⊆ F2 ⊆ F3 ⊆ · · · であり,よって,補題 5.1より,以下を得る.

µ

( ∞⋃n=1

Fn

)= limn→∞

µ(Fn) (5.7)

ここで,次が成り立つ.∞⋃n=1

Fn =∞⋃n=1

j≥nEj ⊆

∞⋃n=1

En

x ∈ ⋃∞n=1En ならば,x ∈ Ek となる k ≥ 1が存在する.x 6∈ ⋃∞n=1 Fn ならば,特に x 6∈ Fk =⋂j≥k Ej である.

よって,x 6∈ Ej となる j ≥ kが存在する(明らかに j 6= k).`を x ∈ E` となる k ≤ ` < j の範囲の最大の整数と

する.このとき,x 6∈ E`+1 であり,よって x ∈ E` \ E`+1 である.したがって,以下が成り立つ.( ∞⋃n=1

En

)\( ∞⋃n=1

Fn

)⊆∞⋃

`=1

(E` \ E`+1)

右辺は測度ゼロで,µは完備であるから,次を演繹できる.

µ

( ∞⋃n=1

Fn

)= µ

( ∞⋃n=1

En

)(5.8)

明らかに Fn ⊆ Enである.しかし,[訳注:上では (⋃∞n=1 Fn) ⊆ (

⋃∞n=1En) が成り立つということで (

⋃∞n=1 Fn) \

(⋃∞n=1En) について考えたが,今度は]En \ Fn についてはどうなるだろうか.上と同様に,x ∈ En かつ x 6∈ Fn

とすると,x 6∈ Ej となる j ≥ nが存在し,よって x ∈ E` \ E`+1 がある n ≤ ` < j について成り立つ.つまり,

En \ Fn ⊆⋃∞`=1(E` \ E`+1)となり,よって,µ(En) = µ(Fn)が得られる.これと,式 (5.7)および式 (5.8)を組み

合わせて,下記を得る.

µ

( ∞⋃n=1

En

)= limn→∞

µ(En)

命題 5.21 sを⋃∞n=1En上の F-可測な単関数とする.ただし,Enは上の結果に現れているものとする.このとき

次が成り立つ.

limn→∞

IEn(s) = I⋃∞n=1 En

(s)

61

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証明 定理 5.2(v)の証明と同様にすれば,ただちに所望の結果を得る. �

ここで,定理 5.19の証明に戻ることができる.定理 5.14の証明と同様にして,以下を得る.∫

E

fndµ ≥∫

En

fndµ

≥∫

En

csdµ = cIEn(s) (5.9)

上で,集合 En は補題 5.20の条件を満たすことが分かった.よって,式 (5.9)において n → ∞とし,命題 5.21を適用すると,次が成り立つ.

L ≥ cI⋃∞n=1 En

(s)

では⋃∞n=1En とは何だろうか.

x ∈ E \ (⋃∞n=1En)を考える.この場合,cs(x) > fn(x)がすべての nについて成り立つ.x ∈ E \ (A ∪ B)に x

を制限すると,x 6∈ Aなので,これは limn→∞ fn(x)が存在することを含意する.よって,cs(x) ≥ limn→∞ fn(x)を得る.さらに,x 6∈ B であるので,limn→∞ fn(x) = f(x)が得られ,したがって cs(x) ≥ f(x)となる.これは,すべての xについて s(x) ≤ f(x)かつ c < 1なので,ありえない.よって,以下を得る.

E \( ∞⋃n=1

En

)⊆ A ∪B

右辺は測度ゼロなので,次を結論できる.

µ

( ∞⋃n=1

En

)= µ(E)

また,これより,以下を得る.

L ≥ cIE(s)

最初のバージョンの単調収束定理の証明と同様,c→ 1とすると L ≥ IE(s)を得る.したがって,Lは f より小さい

単関数の積分の集合についての上界のうちのひとつである.ところが,∫Efdµはそのような上界のうちの唯一の最

小値である.よって

L ≥∫

E

fdµ (5.10)

を得る.式 (5.6)と式 (5.10)を組み合わせると,所望の結果を得る. �

[訳注:次に現れる,∑∞n=1

1n2 = π2

6 の証明については,訳を略する.]

5.6 可測関数の積分

(X,F , µ) を測度空間とする.f が F-可測なら f = f+ − f− と書くことができ,ここで f+ = max(f, 0) とf− = −min(f, 0)は非負の F-可測関数である.よって,定義より,すべての E ∈ F について ∫

Ef+dµと

∫Ef−dµ

は存在する.

定義 41 これらの積分のうち少なくともひとつが有限ならば,f の E 上での µに関する積分を以下のように定義

する. ∫

E

fdµ =∫

E

f+dµ−∫

E

f−dµ

∫Efdµが有限なら,f は E上で µ-積分可能と言う.E上で積分可能な関数すべての集合は,LE(µ)と記される.

注意 上の記法を使うと,|f | = |f |+ − |f |− ならば,|f |− ≡ 0かつ |f |+ = f+ + f− である.

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定義より,f が積分可能であるならば,またそのときに限り,∫Ef+dµと

∫Ef−dµは有限である.つまり,|f | =

f+ + f−は積分可能である.よって,f ∈ LE(µ)ならば |f | ∈ LE(µ)である.これは,Riemann積分よりも [訳注:積分可能性についての]制約がずっと強いということである.

定理 5.22 f, g ∈ L(µ),また,A ∈ F とする.このとき以下が成り立つ.(i) f ∈ LA(µ)

(ii) すべての a ∈ Rについて,af ∈ L(µ)かつ∫Xafdµ = a

∫Xfdµ

(iii) f + g ∈ L(µ),かつ,∫X

(f + g)dµ =∫Xfdµ+

∫Xgdµ

(iv) ほとんどいたるところ (µ)で f = 0ならば,∫Xfdµ = 0

(v) ほとんどいたるところ (µ)で f ≤ gならば,∫Xfdµ ≤ ∫

Xgdµ

(vi) ほとんどいたるところ (µ)で f = gならば,∫Xfdµ =

∫Xgdµ

証明

(i) f ∈ L(µ)は∫Xf+dµと

∫Xf−dµが有限であることを含意する.しかし,f+と f−は非負なので,定理 5.4(iii)

を適用すれば∫Af±dµ ≤ ∫

Xf±dµ <∞が結論できる.よって f ∈ LA(µ)となる.

(ii) a ≥ 0と仮定する.このとき,(af)± = af± であり,よって定理 5.4(i)より∫

X

(af)±dµ =∫

X

af±dµ = a

X

f±dµ

を得る.f ∈ L(µ) だから,∫Xf±dµ はともに有限であり,よって,

∫X

(af)±dµ もともに有限である.つまり,af ∈ L(µ)となる.さらに,以下を得る.

X

afdµ =∫

X

(af)+dµ−∫

X

(af)−dµ

= a

(∫

X

f+dµ−∫

X

f−dµ)

= a

X

fdµ (5.11)

a = −1と仮定すると,(−f)± = f∓ であり,よって,−f は積分可能である.さらに,次を得る.∫

X

(−f)dµ =∫

X

(−f)+dµ−∫

X

(−f)−dµ

=∫

X

f−dµ−∫

X

f+dµ

= −∫

X

fdµ (5.12)

a < 0と仮定すると,af = −|a|f であり,よって以下の結果を得る.∫

X

afdµ =∫

X

−|a|fdµ = −∫

X

|a|fdµ 式 (5.12)より

= −|a|∫

X

fdµ 式 (5.11)より

= a

X

fdµ

(iii) a ≤ max(a, 0)かつ 0 ≤ max(a, 0)という自明な観察から出発する.任意の実数 aと bについて,max(a+b, 0) ≤max(a, 0) + max(b, 0)を示すことは容易である.したがって (f + g)± ≤ f± + g± であり,よって

X

(f + g)±dµ ≤∫

X

(f± + g±)dµ =∫

X

f±dµ+∫

X

g±dµ <∞

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が成り立つ.なぜなら,f と gは µ-積分可能だからである.したがって,f + gは µ-積分可能である.では,f + g

を二通りの仕方で見てみる.

f + g = (f + g)+ − (f + g)−

f + g = (f+ − f−) + (g+ − g−)

右辺を等しいとおいて,項の順序を入れ替えると

(f + g)+ + f− + g− = (f + g)− + f+ + g+

両辺は非負の F-可測な関数の和である.よって,そのような関数の和の積分が積分の和に等しいと述べている定理 5.15より,以下の結果を得る.

X

(f + g)+dµ+∫

X

f−dµ+∫

X

g−dµ

=∫

X

(f + g)−dµ+∫

X

f+dµ+∫

X

g+dµ

項の順序を入れ替えることで,所望の結果を得る.

(iv) ほとんどいたるところ (µ)で f = 0という仮定は,すべての x ∈ X \Dについて f(x) = 0を得るような,測度ゼロの集合Dが存在することを意味する.特に,f±(x) = 0がそのような xについて成り立ち,よって,f± = 0がほとんどいたるところ (µ)で成り立つ.すると系 5.10より

∫Xf±dµ = 0と分かり,よって

∫Xfdµ = 0である.

(v) ほとんどいたるところ (µ)で f ≤ gであることは,ほとんどいたるところ (µ)で g− f ≥ 0であることを含意する.この場合,ほとんどいたるところ (µ)で (q− f)− = 0である.g = f + (g− f)と書くと,以下の結果を得る.

X

gdµ =∫

X

fdµ+∫

X

(g − f)+dµ−∫

X

(g − f)−dµ (iii)より

=∫

X

fdµ+∫

X

(g − f)+dµ (iv)より

≥∫

X

fdµ (g − f)+ ≥ 0を使い,定理 5.4(ii)より

(vi) ほとんどいたるところ (µ)で f = gであることは,ほとんどいたるところ (µ)で g − f = 0であることを含意するので,

∫X

(g − f)dµ = 0が (iv)より得られる.よって∫Xgdµ =

∫Xfdµである. �

定理 5.23 g ∈ L(µ)のとき,以下を得る. ∣∣∣∣∫

X

gdµ

∣∣∣∣ ≤∫

X

|g|dµ

等号は,ほとんどいたるところ (µ)で g ≤ 0,または,ほとんどいたるところ (µ)で g ≥ 0であるとき成り立つ.

証明 すでに |g| ∈ L(µ)であることを見た.さらに∣∣∣∣∫

X

gdµ

∣∣∣∣ =∣∣∣∣∫

X

g+dµ−∫

X

g−dµ∣∣∣∣

≤∫

X

g+dµ+∫

X

g−dµ (三角不等式)

=∫

X

(g+ + g−)dµ (g+ と g− が非負だから)

=∫

X

|g|dµ

|a− b| ≤ a+ b, a, b ≥ 0での等号は,a = 0または b = 0のとき,またそのときに限り成り立つ.今の場合,これは∫

X

g+dµ = 0 または∫

X

g−dµ = 0

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を意味する.補題 5.7より,これは,以下を意味する.

µ{x : g+(x) > 0} = 0 または µ{x : g−(x) > 0} = 0

つまり,ほとんどいたるところ (µ)で g ≤ 0,または,ほとんどいたるところ (µ)で g ≥ 0を意味する. �

任意の可測な関数 gについて,∫Xg±dµがともに有限であるとき,またそのときに限り,積分が定義されること

を,想起されたい.これをチェックする便利な方法を,次に示す.

系 5.24 gがF-可測で,ほとんどいたるところ (µ)で |g| ≤ hとなる h ∈ L(µ)が存在するならば,g ∈ L(µ)である.

証明 g± ≤ |g|であるので ∫

X

g±dµ ≤∫

X

|g|dµ ≤∫

X

hdµ < +∞

が成り立つ.よって g ∈ L(µ)である. �

次の結果は,定理 5.14を,関数列が非負で非増加であるという条件を,関数列が「押さえ込まれている (dominated)」という条件で置き換えることにより,拡張したものである.この結果は,定理 5.14と同程度に重要である.

定理 5.25 Lebesque’s Dominated Convergence Theorem{gn}n≥1 が,ほとんどいたるところ (µ)で limn→∞ gn = g を満たす F-可測な関数の列であり,かつ,すべての

n ≥ 1において h ∈ L(µ)について |gn| ≤ hとなるとき,次が成立する.

limn→∞

X

gndµ =∫

X

gdµ

証明 系 5.24は,すべての nについて gn ∈ L(µ)を含意する.しかし,また |gn| ≤ hは,ほとんどいたるところ

(µ)で |g| ≤ hとなることを含意する.よって,再び系 5.24より g ∈ L(µ)を得る.積分可能な非負関数の列 {h+ gn}n≥1 を考える.Fatouの補題 [補題 5.18] は以下を含意する.

X

(h+ g)dµ ≤ lim infn→∞

X

(h+ gn)dµ

さらに,以下のことも含意する. ∫

X

gdµ ≤ lim infn→∞

X

gndµ

次に,積分可能な非負関数の列 {h− gn}n≥1 を考える.Fatouの補題は,以下を含意する.∫

X

(h− g)dµ ≤ lim infn→∞

X

(h− gn)dµ

さらに,以下のことも含意する.

−∫

X

gdµ ≤ lim infn→∞

X

(−gn)dµ

これは,次のようにも書ける. ∫

X

gdµ ≥ lim supn→∞

X

(−gn)dµ

すると ∫

X

gdµ ≤ lim infn→∞

X

gndµ ≤ lim supn→∞

X

gndµ ≤∫

X

gdµ

が得られ,この式全体は等号で結ばれる.特に,limn→∞∫Xgndµが存在し,これは

∫Xgdµに等しい. �

[訳注:以下,訳を省略する.]

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