履修登録情報の LMS への反映方法の検討と実装 A Study and...

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履修登録情報の LMS への反映方法の検討と実装 A Study and Implementation of Fetching Registration Data into LMS 新村 正明 *1 , 長岡 曉子 *2 , 石田 美代子 *1 , 長谷川 *1 , 矢部 正之 *1 Masaaki NIIMURA *1 , Kyoko NAGAOKA *1 , Miyoko ISHIDA *1 , Osamu HASEGAWA *1 , Masayuki YABE *1 *1 信州大学 *1 Shinshu University Email: [email protected] あらまし:LMS(Learning Management System) を高等教育機関の基幹サービスとして運用する場合,履修 登録情報の LMS への反映が,利用者向けサービスとして重要になる.本稿では,教務システムと LMS との登録情報のデータ連係方法についての検討した.また,検討結果に基づいた,信州大学で LMS とし て運用している Moodle とのデータ連携に実装方法について述べる. キーワード:LMS, コース登録, 履修登録, データ連係, Moodle 1. はじめに 本稿では,高等教育機関において,e-Learning 通常の授業の補助として使用されるブレンディッド ラーニングが主体で,授業担当教員が LMS(Learning Management System)においてその科目の運営を行う 場合を想定する.また, LMS を提供する側で受講者 登録を行うことを想定する.これは, LMS の高機能 化により, ICT 技術に詳しい教職員でなくても容易 に操作することが可能となってきているが,実際の 授業では 100 名近い受講者のユーザ登録が必要など, 教員による管理が困難な場合が多いためである. 通常,高等教育機関では,教務システムで履修登 録情報が管理されており,上記の想定では,この情 報を LMS に反映させる必要がある.このような処 理は,様々な教育機関において,各々の方法により 行われている. 本稿では,複数ある LMS への履修登録情報の反 映方法をまとめ,信州大学で LMS として運用して いる Moodle とのデータ連携の実装方法について述 べる. 2. LMS への履修登録情報の反映方法 以下,反映方法を列挙する.概要を図 1 に示す. 2.1 Web 経由での登録 この方法は,Web 経由で LMS を操作するもので, 各コースにおいてユーザを選択し登録する方法や, CSV 形式等のファイルをアップロードすることで 一括登録を行う方法 (1) もある.この方法は,LMS 提供する最も標準的な方法であるが,手動での登録 作業となる場合が多く,人的コストがかかるなどの 問題点がある. 2.2 DataBase(DB)経由での登録 LMS DB に直接,登録情報を書き込む方法であ る.自動化でき,速い処理も期待できるが,DB 内部構造を知る必要があることや,書込処理と LMS の動作に衝突が起きないよう LMS を停止させる必 要があるなどに問題点がある. 2.3 API 経由での登録 外部システムから LMS のデータ操作ができるよ LMS 側で提供する機能であり,2.1 で人手により 行われる処理を自動化することができる. LMS が提 供する機能であり, 2.2 より安全に自動化することが できる. 2.4 外部リソースとの連携 登録情報を外部リソースから取得する方法である. ユーザ認証も,LDAP との連携など,この方法が用 いられることが多い.リソース連携については LTI 等,標準化が進められているが, LMS により対応状 況や連携方法が異なる. 3. 信州大学における実装 我々は,信州大学において Moodle を中心とした 教育基盤システム eALP (2) を運用しており,前章に よる検討結果に基づき,履修登録情報を LMS に反 映する連携システムの構築を行った.図 2 にその概 要を示す. 3.1 登録情報の一元管理 授業には,履修登録を行った学生だけでなく,聴 講のみの学生や TA なども参加する.このため,履 修登録情報以外にも,コースに登録する学生を管理 する必要がある.そこで,我々は,登録情報を一元 管理するデータベースシステム Academic Data Base(ADB)の開発と運用を行っている (2) .この ADB に登録情報を集約し管理することで,eALPS で提供 する全ての情報が一元管理される. eALPS では,Moodle 以外にも時間割表示ポータ ルの運用を行っており,ここでも履修登録情報が利 用される.さらに,学部独自のシステムへの登録情 報の提供も行っている.これらへの情報提供も,こ ADB により行われている. 3.2 データ連係方法の検討 前章で列挙した反映方法について,eALPS におけ る適用方法を検討する. G1-1 89

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  • 履修登録情報の LMSへの反映方法の検討と実装

    A Study and Implementation of Fetching Registration Data into LMS

    新村 正明*1, 長岡 曉子*2, 石田 美代子*1, 長谷川 理 *1, 矢部 正之*1 Masaaki NIIMURA *1, Kyoko NAGAOKA*1, Miyoko ISHIDA *1, Osamu HASEGAWA *1, Masayuki YABE *1

    *1信州大学

    *1Shinshu University Email: [email protected]

    あらまし:LMS(Learning Management System) を高等教育機関の基幹サービスとして運用する場合,履修登録情報の LMS への反映が,利用者向けサービスとして重要になる.本稿では,教務システムと LMSとの登録情報のデータ連係方法についての検討した.また,検討結果に基づいた,信州大学で LMSとして運用しているMoodleとのデータ連携に実装方法について述べる. キーワード:LMS, コース登録, 履修登録, データ連係, Moodle

    1. はじめに 本稿では,高等教育機関において,e-Learning が

    通常の授業の補助として使用されるブレンディッド

    ラーニングが主体で,授業担当教員が LMS(Learning Management System)においてその科目の運営を行う場合を想定する.また,LMSを提供する側で受講者登録を行うことを想定する.これは,LMSの高機能化により, ICT技術に詳しい教職員でなくても容易に操作することが可能となってきているが,実際の

    授業では 100名近い受講者のユーザ登録が必要など,教員による管理が困難な場合が多いためである. 通常,高等教育機関では,教務システムで履修登

    録情報が管理されており,上記の想定では,この情

    報を LMS に反映させる必要がある.このような処理は,様々な教育機関において,各々の方法により

    行われている. 本稿では,複数ある LMS への履修登録情報の反

    映方法をまとめ,信州大学で LMS として運用している Moodle とのデータ連携の実装方法について述べる.

    2. LMSへの履修登録情報の反映方法 以下,反映方法を列挙する.概要を図 1に示す.

    2.1 Web経由での登録 この方法は, Web経由で LMSを操作するもので,

    各コースにおいてユーザを選択し登録する方法や,

    CSV 形式等のファイルをアップロードすることで一括登録を行う方法(1)もある.この方法は,LMSが提供する最も標準的な方法であるが,手動での登録

    作業となる場合が多く,人的コストがかかるなどの

    問題点がある. 2.2 DataBase(DB)経由での登録

    LMSの DBに直接,登録情報を書き込む方法である.自動化でき,速い処理も期待できるが,DB の内部構造を知る必要があることや,書込処理と LMSの動作に衝突が起きないよう LMS を停止させる必要があるなどに問題点がある.

    2.3 API経由での登録 外部システムから LMS のデータ操作ができるよ

    う LMS側で提供する機能であり,2.1で人手により行われる処理を自動化することができる.LMSが提供する機能であり,2.2より安全に自動化することができる. 2.4 外部リソースとの連携 登録情報を外部リソースから取得する方法である.

    ユーザ認証も,LDAP との連携など,この方法が用いられることが多い.リソース連携については LTI 等,標準化が進められているが,LMSにより対応状況や連携方法が異なる.

    3. 信州大学における実装 我々は,信州大学において Moodle を中心とした

    教育基盤システム eALP(2)を運用しており,前章による検討結果に基づき,履修登録情報を LMS に反映する連携システムの構築を行った.図 2 にその概要を示す. 3.1 登録情報の一元管理 授業には,履修登録を行った学生だけでなく,聴

    講のみの学生や TA なども参加する.このため,履修登録情報以外にも,コースに登録する学生を管理

    する必要がある.そこで,我々は,登録情報を一元

    管理するデータベースシステム Academic Data Base(ADB)の開発と運用を行っている(2).この ADBに登録情報を集約し管理することで,eALPSで提供する全ての情報が一元管理される.

    eALPS では,Moodle 以外にも時間割表示ポータルの運用を行っており,ここでも履修登録情報が利

    用される.さらに,学部独自のシステムへの登録情

    報の提供も行っている.これらへの情報提供も,こ

    の ADBにより行われている. 3.2 データ連係方法の検討 前章で列挙した反映方法について,eALPSにおけ

    る適用方法を検討する.

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  • 図 1 LMSとのデータ連携方法

    Web経由での登録 2.1で述べたとおり,確実な方法であるが,人手に

    よる作業が必要であるという欠点がある.我々は,

    この欠点を解消するために,Web自動テストツールによるコース登録の自動実行を行ってきた(3).しか

    し,Moodleのバージョンアップにより画面構成や操作が変わるなど,自動実行ツールでは追従が困難と

    なりつつある. DB経由での登録

    eALPSでは,一部の Moodle がクラウド上で動作しており,Moodleの DBに直接接続することが出来ない.このため,今回はこの方法を利用することが

    できない. API経由での登録

    MoodleにはWeb Service API と呼ばれる,Web経由での API呼び出し機能がある.これによりクラウド上の Moodle であっても操作が可能であり,今回の目的には適している.しかし,まだ APIが整備途中の段階で,いくつかの操作のみ可能である. 外部リソースとの連携

    3.1 で述べたように,登録情報を一元管理するADBがあり,これを外部リソースとして使用することできれば,新たな情報反映手段を講ずる必要がな

    い.さらに,Moodleには,受講登録に「外部データベース登録」機能があり,接続先の DB を指定することで連携を行うことが可能である. 3.3 eALPSにおける Moodle運用上の制約

    eALPSでは,Moodleの運用において,DBの負荷を軽減するため,あらかじめ全利用者を Moodle に登録することはせず,必要に応じてユーザの登録を

    行っている.このため,コース登録には,ユーザの

    追加が必要になる場合もある. 3.4 データ連係の実装 まず,データ連係には「外部リソースとの連携」

    を用いることとし,「外部データベース登録」機能で

    ADB を参照し,受講登録の反映を行うこととした.しかし,「外部データベース登録」にはいくつか制限

    があり,これを解消するために機能追加を行ってい

    る例(4)もある.しかし,今回は,機能追加はせず関

    連機能による支援で解消することとした.

    図 2 実装の概要

    まず,「外部データベース登録」機能は,コース登

    録情報の更新のみで,ユーザの新規登録を行う機能

    はない.そこで,ユーザの追加のみ,前述の APIを用いて行うこととした. また,ユーザがログインしたタイミングで,外部

    データベースの参照が行われ,Moodle 内でのコース登録情報が更新される. 通常の利用方法であれば,このタイミングで問題ないが,Moodleが受講生向けのメール配信に利用されることも多く,特に学期の

    最初には,学生がログインする前から配信を行うと

    いう需要も多い. そこで,外部データベースの情報を,強制的に

    Moodle のコース登録に反映させるスクリプトを作成した.このスクリプトを1日1回動作させること

    で,すくなくとの1日後には,登録情報が完全に反

    映される.

    4. まとめ 教務システムなどからの履修登録情報を LMS に

    反映させる方法について検討し,信州大学の実情に

    合わせた方法での実装を行った.2014年度より,この実装に基づくシステムを導入し,現在まで,特に

    問題なく運用が行われている.しかし,履修登録期

    間中など,より早いサイクルでの更新が求められる

    場合があることから,データ反映方法の改善を引き

    続き行っていく予定である.

    参考文献 (1) 戸田英貴, 江木啓訓, 須田良幸, 品川徳秀 : "Moodle

    と学務情報システムのデータ連携の設計と課題" ; 情報処理学会研究報告. コンピュータと教育研究会報告 2008-CE-95(9), 49-54, (2008)

    (2) 新村正明, 足立紘亮, 長谷川理, 國宗永佳 : LMSにおける受講登録者管理手法の提案と実装 ; 教育システム情報学会研究報告, 28, (7), pp.123-128,(2014)

    (3) 新村正明, 五月女雄一, 足立紘亮, 長谷川理, 國宗永佳 : LMS大規模運用のための複数サイト構築手法の提案と実装 ; 教育システム情報学会研究報告, 28, (7), pp.129-134, (2014)

    (4) 王躍 , 小柏香穂理 , 久長穰 , 為末隆弘 , 小河原加久治 : Moodle と学務情報システムのデータ連係−山口大学のケーススタディ− ; 第 17 回学術情報処理研究集会講演論文集, 21-26, (2013)

    LMS教務システム Web接続

    API接続DB書込

    履修データDB書込連携

    時間割

    教務システム

    Moodle

    ADB

    参照

    参照

    利用者

    追加登録

    学部独自システム

    参照

    教育システム情報学会 JSiSE2015

    第 40 回全国大会 2015/9/1~9/3

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