¯ïÐá » w · ¯ïÐá » w ¯ïÐá »¢ Ô ÂO*#. G Ô 'À ôM ú ¯ïÐá  ï¬xîMz?t þ...

量子コンピュータ -- 始まりの始まり 量子コンピュータ市場を狙う IBM-- 慶大や日本企業も高い関心 量子コンピューティングは実際、何に役立つのか 「真の量子コンピュータ」実現への道 --IBM の開発状況を読み解く 世界全体の工場で生産を最適化したい -- デンソーが考える量子コンピュータの使い方 開発競争が過熱 --「量子コンピュータ」の国際会議で 日本企業は何を語ったか

Transcript of ¯ïÐá » w · ¯ïÐá » w ¯ïÐá »¢ Ô ÂO*#. G Ô 'À ôM ú ¯ïÐá  ï¬xîMz?t þ...

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

量子コンピュータ市場を狙うIBM-- 慶大や日本企業も高い関心

量子コンピューティングは実際、何に役立つのか

「真の量子コンピュータ」実現への道 --IBMの開発状況を読み解く

世界全体の工場で生産を最適化したい-- デンソーが考える量子コンピュータの使い方

開発競争が過熱 --「量子コンピュータ」の国際会議で日本企業は何を語ったか

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2018/03/28 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35116732/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 IBM は 3 月 23 日まで米ラスベガスで開催した年次イ

ベント「Think 2018」で、量子コンピュータの実機を披

露した。”モノ”を見せるだけではない。同社がクラウド

経由で提供する量子コンピューティング「IBM Quantum

Experience」を体験した人は、すでに 8 万人近くに達し

ているという。

 量子コンピュータは、0 と 1 という現在のコンピュー

タとは全く異なる新しいコンピュータだ。IBM でハイ

ブリッド・クラウド担当シニア・バイス・プレジデン

ト兼 IBM Research のディレクターを務める Arvind

Krishna 氏は、量子コンピュータをテーマとした基調講

演で、「量子は熱やノイズ、電波障害に弱く、不安定と

いう性質を持ち、単位であるキュー(量子)ビットが上

がると指数関数的な成長をする」と説明する。N キュー

ビットで計算できるのは、2 の N 乗、つまり 50 キュー

ビットは 2 の 50 乗、200 キュービットは 2 の 200

乗だ。「200 キュービットになると、状態は世界上の既

知の粒子の数を上回る」と Krishna 氏、とてつもない

能力を持つのが量子コンピュータだ。

量子コンピュータ市場を狙う IBM-- 慶大や日本企業も高い関心

 詳細は日本アイ・ビー・エムの THINK Blog Japan

を参照されたい。

 日本アイ・ビー・エムの執行役員 研究開発担当 森

本典繁氏は、「自然界のほとんどのものが 0、1 という

現在のコンピュータで表現できないものを無理やり表

現しているが、量子コンピュータにより自然界の理解や

計算が進む。そうなると、確実に世の中のいくつかが変

わってくるだろう」とその潜在能力の高さを語った。

 詳細を説明した IBM Research の Jerry Chow 氏

(エクルペリメンタル・クオンタム・コンピューティン

グ マネージャー)によると、量子コンピュータの構築

は 20 年ほど前から、さまざまな取り組みが進んできた

という。IBM は超電導メタルをシリコンの上に置くな

ど、シリコン技術のノウハウを活用するとのことだ。

 IBM が企業や学術用途向けにユニバーサルな量子コ

ンピュータを構築していることを発表したのは、2017

年のことだ。最初は 5 キュービットの量子コンピュー

IBM ハイブリッド・クラウド担当シニア・バイス・プレジデント兼 IBM Research ディレクターの Arvind Krishna 氏

IBM Research Experimental Quantum Comput ing グループ特別リサーチスタッフのJerry Chow 氏

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2018/03/28 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35116732/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

ティングをクラウド経由でアクセスできるようにした。

その後、16 キュービットのシステムを、そのさらに

6 カ月後には 20 キュービットの量子コンピュータを

発表した。最新のプロトタイプでキュービット数は 50

キュービットまで上がっている。

 「量子コンピュータはこれまで学術・研究界のものと

思われてきたが、IBM Quantum Experience として

誰でもアクセスできる」と Chow 氏はいう。

 それほどの処理能力を何に使うのか? 既存のコン

ピュータで動かしていたものを量子コンピュータで動

かすことはできない。既存のものをどう移植するかよ

り、全く新しいものになるようだ。Krishna 氏は、「こ

れまでのコンピューティングでは解決できない分野」と

言う。具体的にあげたのは、素材、化学式のシミュレー

ション、運輸・輸送、財務リスクなどだ。

 Krishna 氏の基調講演では、IBM Q を実際に使って

いる企業として Samsung、さらに日本からは慶應義塾

大学が登場した。中でも慶應大学理工学部は、「IBM Q

Network」のハブとなることも発表されている。IBM Q

Network は量子コンピュータの用途を探るネットワー

クで、2017 年末に発足した。慶應大学はハブとして、

メンバー企業の量子計算ソフトウェア開発の支援など

を行うという。

 慶應大学理工学部長の伊藤公平氏は、「IBM のおかげ

で量子コンピュータが歴史上初めて使えるようになっ

た」と IBM の実用化に向けた取り組みを賞賛した。な

展示フロアにあった IBM の量子コンピュータ「IBM Q」。中央下の筒の中に、爪の先ほどのチップが入っている(”Q”と書いてある部分の中)。残りは冷やすためのもので、外宇宙よりも低い絶対零度を維持する。これにより量子状態を安定させ、マニピュレートし、さらに読み出すということを行うという。このようにコンピュータとしての形を成しているのは「IBM だけ」と日本アイ・ビー・エムの森本典繁氏

これまでのコンピュータは 1 か 0 だが、量子コンピュータのキュービットでは1、0、0 と1 が可能。

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2018/03/28 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35116732/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

タートできる「QISkit」も提供する。昨年末の IBM Q

Network 立ち上げを受け、今年はエコシステムを強化す

るという。キュービットも引き続き上げていくが、そこ

に主眼を置くよりも利用者を増やし、理解を求める。

 また、単に量子コンピュータをプッシュするのでは

なく、どこに使うのかの成功事例も重視したいとする。

「数学的には量子コンピュータは全てができるが、現在

の量子コンピュータではローレベルなロジックをやろ

うとするとかえって遅くなる」と Sutor 氏。ポイント

は、顧客が解決しようとする問題や高速化したい部分は

ソフトウェアエンジニアリングでは可能か、これまでと

違う方法で考えて量子を適用できるか、など。IBM で

は専用のコンサルチームを組んで助言を行なっている

という。

 技術面では、キュービットを少し増やし、安定性を改

善したり設計を考える、そしてキュービットがまだ増や

せると分かれば増やす、という作業を少しづつ進めてい

くとした。

 このように少しずつ量子コンピュータが発展しつつ

あるが、Sutor 氏は、「将来もこれまでのコンピュータ

はなくならず、量子コンピュータとのハイブリッド型に

なる」と予想する。

お、IBM Q Network のハブは現在、英国、米国、オー

ストラリア、日本の 4 カ国しかなく、慶應大学はアジ

ア初となる。日本からは、JSR、日立金属、本田技術研

究所、長瀬産業なども参加しており、関心が高まってい

るようだ。

 Chow 氏は、今後企業での利用が進むと述べるが、

「まだ量子コンピュータとは何かを探っているところ。

他の AI 技術などのような大規模な投資はしないが、

量子コンピュータは無視できない存在になっている」

(Samsung Electronics の Advanced Institute of

Technology バイスプレジデントのSeongjun Park

氏)という言葉のように、現場で量子コンピュータが使

われるまでには時間がかかりそうだ。日本 IBM の森本

氏も、「1 年後、2 年後に購入して使うというものでは

ない」と述べる。

 IBM Research で IBM Q ストラテジー、エコシステ

ムを担当するバイスプレジデントの Bob Sutor 氏は、

現在を「まだまだ早期。何に利用できるのかを見せて、

われわれと一緒に量子コンピュータを探り、競合優位性

につなげようという企業と協業している」と説明する。

 IBM は IBM Q Experience、の一環として、開発者

が容易に量子コンピューティングのプログラム開発をス

慶應義塾大学理工学部 学部長伊 藤 公 平 氏 は、「IBM Q は 初の リ ア ル な コ ン ピ ュー タ ー。こ れ は ブ レ ー ク ス ル ー で あり、”Quantum Leap(=飛躍的進歩)”だ」と述べた。

重ね合わせ(左)、量子もつれ(右)は重要な量子コンピュータの特徴だ。

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2018/03/28 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35116732/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

る。高度なエンジニアチームと研究チームの組み合

わせが可能にしている」と Sutor 氏。実際、シリコ

ン量子コンピュータの研究で知られる慶應大学の伊

藤氏は基調講演で、「量子コンピュータと名乗るもの

はあっても、制限があるものもある」とも述べた。

 IBM Q チームは、IBM の社内にありながら、スター

トアップのように動いているという。Krishna 氏は「コ

ンピューティングの歴史において、重要な時を迎えてい

る。振り返ったとき、実用的な量子コンピュータの始ま

りとして記憶されるだろう」と語った。

 量子コンピュータの取り組みを進めているのは IBM

だけではない。Microsoft、Google などの大手ベン

ダーやベンチャー企業もある。Sutor 氏は IBM の差別

化として、1946 年からある IBM Research を挙げ

る。「われわれは世界中に 3000 人の優れた研究者がさ

まざまな研究を進めている。量子コンピュータでも数十

年の研究を重ねてきた」と Sutor 氏。

 「IBM は コ ン ピ ュ ー タ の 会 社 で あ り、Power

Systems や IBM Z などのシステムを作っている。

量子コンピュータでも本物のシステムを作ってい

「QISkit」の画面。音楽の 5 線のようなシートを使って量子の回路が表現されている。

IBM の量子コンピュータのチップ

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/10/17 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35108747/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 量子コンピューティングとは、素粒子物理学の力で、

従来のコンピュータとはまったく異なる方法でデータを

保持し、問題を解く技術のことだ。この技術は従来のバ

イナリ値を使った計算の世界を完全に覆してしまう。こ

れは量子ビット(キュービットとも呼ばれる)が、0 と

1 だけではなく、複数の状態を同時に表すことができる

ためだ。量子コンピュータは、ハイパフォーマンスコン

ピューティング(HPC)の分野で扱われている問題の一

部を、より効率的に解ける可能性がある。

 ところで、量子コンピュータを動かすには、温度を 4

ケルビンまで下げる必要があるという話は聞いたことが

あるだろうか。4 ケルビンは絶対零度よりもたった 4 度

高いだけであり、星間空間よりもはるかに低い温度だ。

 これを聞いて、量子コンピュータは「スタートレック」

のワープ速度みたいなものだと片付けてしまうのは簡単

だ。しかし、SAS の創業者 James Goodnight 氏が、ス

タートレックのカーク船長がコンピュータに話しかける

ように、「Alexa」に話しかけて SAS のアナリティクス

を実行してみせたのは、わずか数カ月前の話だ。

 なぜこんな話をしているのかを説明しよう。われわれ

は、この 1 カ月間に起こった一連の出来事に注意を引か

れた。最初の出来事は、IBM が科学論文誌「Nature」に

掲載される予定の、量子コンピューティングで複雑な分

子行動をモデル化する方法をまとめた論文について、ア

ナリストを集めたカンファレンスコールで説明したこと

だ。この方法は「Jupyter Notebook」にまとめられて公

開されている(技術的なことに関心がある人向けに説明

すると、これは水素化ベリリウム分子の最低エネルギー

状態を導き出す方法に関する話だ)。

量子コンピューティングは実際、何に役立つのか

 また Satya Nadella 氏が、Microsoft の自社イベント

である「Ignite」の基調講演の締めくくりに、同社の研

究者を集めたパネルディスカッションを行い、純粋に理

論的な物理学に関する議論を行った(その話は、主な聴

衆であるビジネスアナリストや開発者たちの右の耳から

左の耳に抜けていった可能性が高い)。幸い IBM のカン

ファレンスコールでは、比較的わかりやすい言葉を使っ

て、量子コンピュータが一般的なビジネスの問題にどう

応用できるのか、そして現在の技術はどの段階にあるの

かが語られた。

 その説明によれば、量子コンピュータの実現は、ビッ

グデータアナリティクスの分野で言えば、サンプルだけ

でなくデータ全体を対象にクエリを実行できるようにな

るような技術的進歩を引き起こす可能性があるという。

グラフコンピューティングの分野であれば、従来ならリ

レーショナルデータモデルを無限に連結していく必要が

あるような、多対多の複雑な関係を扱えるようになるこ

とに相当するという。

 量子コンピューティングは、複雑すぎて従来のバイナ

リコンピュータでは解けない、多数の順列組み合わせが

関係する最適化問題なら、どんなものでも効果がある。こ

のため、驚くほど身近な、ありふれたビジネス上の問題

や業務上の問題にも役に立てることができる。

 例えば、サプライチェーンを最適化したいとしよう。

現在であれば、まず問題を可能性の高い 10 個程度のシ

ナリオに分割しなければならないことが多いはずだ。し

かし量子コンピューティングのリソースがあれば、分析

の対象を事実上可能性のあるあらゆるシナリオに広げ

ることができる。同じことは、世界中にまたがる、相互

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/10/17 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35108747/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

に連動する複雑な取引システムの財務リスクを管理す

るというような具体的な課題にも言える。あるいは臨床

研究を行っているチームが、薬物試験中に、特定の患者

コホートが服用している可能性がある、あらゆる薬物の

組み合わせと新薬の相互作用をモデル化できればどう

だろうか?その先には、真の個別化医療も見えてくる可

能性がある。

 ただし量子コンピューティングの開発は、まだ萌芽

段階にある。現在は、カナダの小規模なスタートアッ

プである D-Wave Systems が、限定的な形で量子コ

ンピュータを販売しているほか、IBM がクラウドで 5

~ 17 量子ビットのマシンをクラウドで提供しており、

Googleが49量子ビットのアーキテクチャを開発して

いるという程度だ。従って、量子コンピュータがまだ、

複雑な繰り返し処理が必要なクラスの問題(ちなみにこ

れは、「Spark」が得意としている領域だ)を扱えない

としても驚くには当たらない。

 暗号化と復号の処理も、現在は手が届かない問題の一

例だ。暗号アルゴリズムが複雑になればなるほど、より

大きな数の素因数分解が必要になる。しかし量子ビット

間の相互作用(「量子もつれ」と呼ばれている)を利用

すると、入力値の数が従来の平方根の数になり、多くの

手順を省略して問題を簡単にできる可能性があること

が分かっている。ボトルネックはメモリだ。このような

計算を行うには、状態や中間結果を保存しておく必要が

ある。これは、Spark や「MapReduce」が抱えている

問題に似ている。問題は、計算を実行するチップの開発

は進んでいるにもかかわらず、量子メモリの開発はまっ

たく進んでいないということだ。

 このことは、一部の問題を扱うためには、暫定的な(あ

るいは長期的な)手法として、量子コンピューティング

には順列組み合わせの処理を任せ、従来型のスケールア

ウトシステムには繰り返し処理を担わせるという役割分

担が必要になる可能性があることを意味している。

 現在量子コンピューティングを手がけている組織の

数は驚くほど多い。その多くは政府資金が投じられた研

究開発だが、過去 3 年間のベンチャーキャピタルによ

る投資が、約 1 億 4700 万ドルに達していると推定し

ているレポートもある。その一方、スマートモバイルデ

バイスやモノのインターネット(IoT)、ビッグデータア

ナリティクス、クラウドコンピューティングなどのさま

ざまな技術が、10 年前には事実上存在しなかったこと

を考えれば、量子コンピューティングの実現時期につい

ても楽観的に見ていいのではないかとも思える。

 しかし、量子コンピューティングの実現を阻む障害

は、物理的な面と知的な面の両面で存在する。

 第 1 の問題はマシンを極低温に冷却する必要がある

ことだ。以前であればこれは大きな障害になっていただ

ろう。しかしクラウドの普及によって、規模の経済が働

いて GPU の値段が下がったのと同じことが、量子コン

ピュータにも起こる可能性が高い。

 それでも、いくつか厄介な問題が残っている。スケール

アウトに関する物理学的な問題には、まだ基礎的な研究

が必要であり、このような大規模で脆弱なシステムをス

ケールアウトさせる方法は分かっていない。しかし、もっ

とも困難な課題は、おそらく知的なものだろう。量子コン

ピューティングの問題を概念化するには、従来とはまっ

たく異なる考え方が必要になる可能性が高い。これは、

量子コンピューティングへの入り口は、過去 10 年間に登

場したテクノロジが急速に普及したのに比べ、ずっと緩

やかなものになる可能性が高いことを意味している。

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/06/22 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35102298/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 量子コンピュータの開発スピードがここにきて急速

に高まっている。そこで今回は量子アニーリングにこ

だわらず、新時代を築く量子コンピュータの開発状況

を眺めてみよう。

 量子コンピュータを代表する 2 つの方式の一つが

D-wave Systems 社が販売している世界初の商用量

子コンピュータが採用している方式、量子アニーリン

グだ。現行では 2000 量子ビットを搭載する D-wave

2000Q というマシンが販売されている。

 ただしこの量子アニーリングは最適化問題に特化し

て開発されて、変わった利用方法として機械学習への

応用がある。極めて限定的ではあるものの、最適化問題

そのものの応用範囲の広さから、利用する顧客やユー

ザーが世界中で増加している。

  リ ク ル ー ト コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ズ も D-wave

Systems の量子アニーリングマシンを駆使して、そ

の目を見張る性能の虜になった。

 そしてもう一つの方式がゲート方式による”万能”

量子コンピュータと呼ばれるものであり、量子アニー

リングのように最適化問題に特化するといった限定が

外れ、量子力学で許されたどのような計算もできる文

字通り最強のマシンだ。

 その万能性から量子アニーリングをソフトウェアと

して動かすこともでき、実際そのような最適化量子ア

ルゴリズムが実装されている。

 2017 年 5 月 17 日に、IBM が 17 量子ビットの

量子コンピュータを披露した。小さな数字に聞こえる

「真の量子コンピュータ」実現への道 --IBM の開発状況を読み解く

2000 量子ビットを搭載する D-wave 2000Q

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/06/22 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35102298/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 これまでのシミュレーションは、われわれが日常的に使

うコンピュータ上で仮想的な世界を作り出してきた。この

アプローチは対象が原子や分子など“量子力学に従って振

る舞う類”には「計算量が爆発」しうまくゆかない。

 それが量子コンピュータでは、原子や分子などの非常

に小さな世界で起きていること、量子力学をそっくりそ

のまま再現した世界そのものを構築できるのだ。

 それゆえ、そのシミュレーションの精度や速度は、既

存のコンピュータを利用したものと比較して圧倒的な

ものと考えられている。

 「自然法則に従い自在に操作のできる万能な量子コン

ピュータを人類が手にすることで、この世の中で起こる

ミクロな細部にわたる森羅万象がシミュレーションで

きてしまう。これまでは、自然にお伺いを立てて、それ

に耳をすませるというスタイルで実験が進められて科

学は進んできたわけですが、量子コンピュータを利用す

ればお伺いを立てずに、自らが物質や”宇宙”をシミュ

レーションし新たな知見を得ることができます」――こ

う語るのは、量子コンピュータの実現に向けて奔走する

若手研究者の雄、藤井啓祐氏(東京大学・助教)だ。

 「実験技術のめざましい進展で、コンピュータとして

日常的に使われるレベルでの実現にはまだ道のりは長

いですけど、SF(サイエンティフィックフィクション)

の域を脱したと思います」(藤井氏)

かもしれない。しかし非常に重要な一歩を人類が歩ん

だことを示す数字である。

 われわれが利用しているコンピュータは、プログラム

により指令を送ることで所望の動作をする。いわば自由

自在にお願いを聞いてくれる大規模な装置である。

 そのコンピュータの動作原理は、(物理学の観点で

は)電気が流れるか流れないか、という 2 つの状態を

それぞれ異なるものとして扱う。

 この 2 つの状態の間のスイッチングを巧みに利用し

て複雑な動作を実現させている。

 量子コンピュータでは、「電気が流れるか流れないか」

という 2 つの状態を分離して扱うだけではなく、足し

合わせて利用し、複雑に絡み合わせて利用することもで

きる。そのため、われわれが想像をしている動作の範疇

(はんちゅう)を大きく超える。

 この新しい計算能力を利用すると、これまでのコン

ピュータでは非常に時間がかかってしまうような難問

の一部についても比較的高速に解くことが可能になる。

 既存の問題を高速に解くという素朴な期待を超えて、

量子コンピュータを人類が手にした時には、人間の思考

のスタイルそのものすら変革を迎えることはあまり強

調されない。

 ゲート方式による量子コンピュータで期待されてい

るのが、量子シミュレーションと呼ばれる技術の開拓

だ。自然法則に従う複雑な現象を細部に渡り、シミュ

レーションを行うのだ。

 今回は彼が語る量子コンピュータの未来について、解

説を交えながら紹介していくことにしよう。

東京大学・助教 藤井啓祐氏(ウェブサイトから引用)

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/06/22 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35102298/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

り、さまざまな要求に対して操作する必要があり、その

操作の際に生じるエラーに対しても堅牢である必要が

ある。

 ささいなエラーが生じてもその誤りを直ちに訂正す

る、または無力化する仕組みを施すことで、ユーザーが

実行するどんな操作にも耐えられるようにする必要が

ある。これを「フォールトトレラント(障害許容)な誤

り訂正」と呼ぶ。

 「憶測ですが、IBM が開発した 17 量子ビットのコン

ピュータの『17』という数字が示す意味は、計算に必

要な数値を入力する部分を示す『9』と量子に特有の誤

りの2種類を検査するために必要な4ビットが2つで、

9+4 + 4=17 ということだと思います。この数字は

フォールトトレラントな誤り訂正を実現する最小構成

のサイズです。この数字の意味通り、IBM が量子ビッ

トの誤り訂正技術を実装しているという意味であれば、

人類の偉大な一歩ではないかと思います」と興奮気味に

藤井氏は語った。

 最近の世界各国の量子コンピュータ開発の様相を見

て、このように感想を述べた藤井氏。筆者の問いかけに

興奮気味に終始一つひとつ語ってくれた。

 IBM が開発した 17 量子ビットの量子コンピュータ

を始め、ここ最近の量子コンピュータ周辺のニュースは

それだけインパクトの大きいものばかりだ。

 IBM の「17 量子ビット」と聞くと、異なる方式であ

るとはいえ、D-wave Systems が開発した 2000 量

子ビットのマシンと比較すると、その規模が非常に小さ

いものに感じる。

 D-wave Systems が採用した量子アニーリング形

式では、基本的には特定の最適化問題を解いてほしい、

という要求をするだけで放っておくだけで良い。ここが

実現のポイントの一つがある。

 一方でゲート方式による量子コンピュータでは、一般

にイメージするコンピュータと同様、プログラムがあ

IBM が公開した「IBM Q」研究ラボの様子 (IBM 提供)

量子コンピュータや量子アニーリングの関連研究の最前線を見ることのできる国際会議が 6 月 26 ~ 29 日に開催される。すでに会場のキャパシティを超えるほどである。その大きな反響を受けて、会議の様子を配信することが決定している

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/22 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35104799/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 リクルートコミュニケーションズが、「組み合わせ最

適化問題」の解法の 1 つとして研究されている「量子

アニーリング」を利用し、広告分野への最適化問題の応

用に取り組んでいることが紹介された。その成果が東

京で開催された「Adiabatic Quantum Computing

Conference(AQC2017)」で公表された。

 日本発の新たなテクノロジである量子アニーリン

グ。カナダのベンチャー企業 D-Wave Systems がこ

のテクノロジから量子コンピュータを実現し、これを

利用して日本の企業が応用を進める。なんともむずが

ゆい気持ちにもなる一方、ワクワクする話でもある。

 今回は、別の量子アニーリングに注目した自動車部

品などを手掛ける、デンソーの動きを紹介しよう。

 筆者の率いる東北大学の研究チームと早稲田大学の

田中宗氏、そしてデンソーの先端技術研究所の 3 者が

量子アニーリングの基礎的な側面にとどまらず、応用

研究を進めてきた。

 手前味噌になるが、当該研究についての成果を日本

物理学会で公開しており、独自の技術を確立して特許

についても次々とそれらの出願を終えている。成果に

関する学術論文の投稿も終えたところだ。

 そして次は、「量子コンピュータが人工知能を加速す

る」技術をまさに生み出している。そんな心が踊る研

究の舞台から、生の声をお届けしよう。

 この量子アニーリング研究に従事するデンソー先端技

術研究所の岡田俊太郎氏と寺部雅能氏にインタビューし

た。まずはデンソーがなぜ量子アニーリング・量子コン

ピュータに注目したか。そこから聞き出してみた。

世界全体の工場で生産を最適化したい-- デンソーが考える量子コンピュータの使い方

量子アニーリング研究に従事するデンソー先端技術研究所の寺部雅能氏(右)、岡田俊太郎氏(左)

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/22 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35104799/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

は、自動車の世界に量子コンピュータ活用が進んでいく

大きな転機になると考えています。

岡田:量子アニーリングを「D-Wave」などの専用ハー

ドウェアで解く際は、どんな最適化問題も解けるわけで

はなく、「イジングモデル(問題について磁性体の振る

舞いという物理現象を数式にすること)」という、特殊

なモデルに落とし込む必要があります。

 実社会の問題をうまくモデリングするのは問題ごと

に工夫が必要ですが、そういう視点で、Volkswagen

が交通流最適化をどうモデリングしているかは実に興

味深いです。

ーー Volkswagen、そして日本からはデンソーが動く。

今後車業界でも量子アニーリングを利用した研究は加

速していくのでしょうか。

寺部:加速していくと思います。実は今、自動車業界で

も IoT 化が進み始め、車だけでなく社会も含めた、大き

な規模での最適化が必要になると考えられています。

 また、ドイツの「Industrie 4.0」に代表されるよう

に、工場でも IoT 化が進んでいきます。今まで生産ライ

ーー早速ですが、自動車部品メーカーの大手であるデン

ソーが量子アニーリングに興味を持ったきっかけは何

ですか。

岡田:2 年前、D-Wave System の記事を見つけたこ

とです。私は大学時代に超電導理論の研究をしていた

ので、まさか超電導の量子コンピュータが商用化され

る日が来るとは……と大興奮でした。

 そこで、初めは興味本位でしたが原理を考案した東

京工業大学の西森秀稔教授にコンタクトを取り、量子

コンピュータに使われている量子アニーリングという

技術を知ったのがきっかけです。

寺部:世の中で IoT により取得可能な情報量が飛躍的

に増え、データ解析の重要性が高まってきていますが、

デンソーも例外ではありません。

 その中で、最適化の技術が競争力の要になっていく

と考えます。大量のデータをいかに料理して利益を最

大化する最適な対策を見つけ出すかが重要であると。

そこに使える技術を探していたところに、この量子ア

ニーリング技術に出会いました。

ー ー 量 子 ア ニ ー リ ン グ と い え ば、 最 近 D-wave

Systems と Volkswagen が共同研究を開始したとい

うニュースがありました。同じ自動車業界として、どの

ように意識していますか。

寺部:自動車業界でこの分野に取り組んでいるのは、わ

れわれだけだと思っていましたので、驚きました。実用

化にはまだまだ時間がかかると考えていたので。

 こうしてプレイヤーが増えていくことで、実用化が早

まるかもしれません。私見として、Volkswagen の話

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/22 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35104799/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 まだまだ基礎研究段階ではありますが、Google と

NASA の立ち上げた量子人工知能研究所のような、量

子アニーリングを使って人工知能を加速する試みには

注目しています。これからも負けずに、大関先生と技術

開発していきたいですね。

岡田:量子アニーリングといえば、D-Wave マシンの

ように量子コンピュータとして非組み込みの世界で使

うイメージがありますが、これが車載など、組み込みの

世界でも使えるようになると可能性が広がります。

ーー(量子コンピュータを使うために)通信するという

のも手ですけど、技術革新により量子コンピュータの小

型化が進んで、「どの車にも積める」ようになるとした

ら夢のような話ですね。ちょっと話題になりましたか

ら、われわれの共同研究内容について紹介しましょう。

寺部:大関先生と量子の性質を応用した探索アルゴリズ

ムとして、「連続値量子アニーリング」という技術を創

出しました。これは、量子コンピュータそのものではな

くて通常の PC でも使える新技術です。

 このアルゴリズムは、並列的に“良い解”を探索しな

がら、トンネル効果(量子力学の分野でエネルギー的に

は超えられない領域を粒子が一定の確率で通り抜けて

しまう現象)を引き起こすメカニズムを使って“良い

解”を得るという方法です。

 並列的に用意された解の候補同士を引力で引き寄せ

合い、“良い解”に集まるようになっています。

 通常の量子アニーリングで想定されているような「ス

ピン系」、言い換えると 0 と 1 のデジタル信号に相当す

るものを動かすものではなく、もっと広範な最適化問題

に登場する、連続的な値に対応させたものです。

ンごとに最適化していた、生産計画や設備配置が工場単

位で最適化できるようになれば、生産効率を更に向上で

きます。

 デンソーの場合、世界に 130 の工場があるので、そ

れらをまとめた最適化できたら面白そうです。デンソー

でも工場の IoT 化を進めようとしています。

 こういった最適化ニーズの高まりの中で量子アニー

リングの活用機会も増えていくのではと考えています。

ーーデンソーとしての狙いは自動車だけにとどまらな

い。あくまで応用の一例として考えていて、もっと大き

な視点を持っていると。

岡田:ハーバードビジネススクールの Michael Porter

教授は、「「IoT は(1)モニタリング、(2)制御、(3)

最適化、(4)自律性という進化を遂げていく」と提唱

しています。

 今後 IoT 分野で最適化の需要が高まっていき、量子ア

ニーリングが注目されていくのではと考えています。

ーー自動車業界といえば世界中で競争が始まっている

自動運転技術の開発で、量子アニーリングが果たす役割

とは何でしょうか。

寺部:近年、自動運転に必要と言われる認知、判断、制

御の色んな部分に機械学習が使われようとしています

が、機械学習の学習過程も最適化の計算です。

 この学習過程は時には数カ月かかることもあり、これ

が高速・高精度に解けることになれば大きなインパクト

があると思います。

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/22 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35104799/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 インタビューから日本を代表する企業と大学

が手を組み、新しい技術を利用したシステムや

サービスづくりの基礎を構築している様子がう

かがえる。

 量子アニーリング研究を実施する一員として

日々感じていることは、単なる基礎研究では感じ

ることのないものだ。

 研究を実施して、その成果を出すたびに世の中

が変わっていくような不思議な感覚と、周囲のス

ピード感と迫力、ダイナミズムを感じるのだ。

 それだけ世界中が注目しており、新しいアイデ

アと技術が次から次へと生み出されているのが、

この分野である。そのため多くの人が関わり、さ

まざまな出会いをする。

 このデンソーの研究者たちと出会えたことも

非常に幸運な巡り合わせだ。

 今後も日本の産学連携の一つの代表例として、

世の中に新しい成果をもたらしていきたい。

 もっと簡単にできるかと思いきや、トンネル効果をど

の程度効かせると効果的なのか、試行錯誤が必要でした。

 試しに、文字認識や顔認識などの画像に対するディー

プラーニングの学習過程に利用をしてみました。従来技

術に対し、認識精度向上や学習時間短縮といった効果が

出ることを確認しました。

岡田:量子コンピュータを実社会で使うためには、大規

模な問題への適用と高速化・高精度化にまだまだ現時点

では課題があると考えており、共同研究を実施している

ところです。

 特に高速化については、断熱定理と呼ばれる量子ア

ニーリングの核について、再検討を加えました。非常に

ゆっくりと量子アニーリングを実行すると、確実に最適

解を得られるという保証を与える数学的な定理です。

 失敗する原因をつかむにはここを追求するべきだと

考えました。これまでに考えられているメカニズムとは

異なるメカニズムが、量子アニーリングの性能に影響を

与えていることを突き止めました。

 6 月の AQC2017 で発表しましたが、やはり皆さん

大きな課題意識を持っているようで、関心の高さがうか

がえました。

 9 月の日本物理学会でその進展について報告したい

と思います。さらに 2018 年の AQC2018 が NASA

Ames 研究所で開かれるということですから、そこで

多くの研究成果を披露したいと思います。

――ありがとうございました。

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/24 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35105458/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 組合せ最適化処理向けの計算技術である「量子ア

ニーリング」に関する世界トップクラスの国際会議

「Adiabatic Quantum Computing Conference 2017」

(AQC2017)が 6 月 26 ~ 29 日に開催された。

 この国際会議は 2012 年に米国で開催されてから毎

年、開催地を欧州と米国で交互に変えながら催されてき

たが今回、量子アニーリングの提案者の一人である西森

秀稔氏を組織委員長とし、第 6 回目にして初めて日本

で開催された。

 筆者は AQC2017 の組織委員として参加し、国内

企業との共同研究成果を発表した。Google や NASA、

MITなど国内外から100件近くの研究成果発表の中か

ら、筆者の感じた AQC2017 の様子を紹介する。

量子アニーリングの現在

 量子アニーリングは、1998 年に門脇正史氏(当時、

東京工業大学大学院生)と西森秀稔氏(東京工業大学)

によって提案され、2011 年に D-Wave Systems が

世界初の商用量子アニーリングマシンを発表したこと

により、世間の注目を集めた計算技術である。

 既存のコンピュータでは困難である組合せ最適化処

理を解く技術は、コンピューティクス業界の重要な課

題であり、組合せ最適化処理がボトルネック要因に

なっている情報処理はさまざまな業種に存在する。膨

大なデータ処理が必要である”IoT の社会実装”など、

産業界では今、量子アニーリングに対する強い期待が

持たれている。

開発競争が過熱 --「量子コンピュータ」の国際会議で日本企業は何を語ったか

AQC2017 オープニング(東北大学 大関真之氏提供)

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/24 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35105458/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

ハードウェア開発に関する講演

 AQC2017 では、量子アニーリングマシンの改良や新

しいタイプの量子アニーリングマシン開発状況に関する

報告があった。量子アニーリングマシンを実際に利用した

研究が増え、幾つかの乗り越えるべき課題が見つかった。

 D-Wave Systems は、それらに対する改善策を考案

し、量子アニーリングマシンを改良したという(写真)。

いま、そこにあるマシンを試しに利用してみて、その結

果、期待される性能が出なかったら、その都度改良をし

ていくというサイクルを明確に意識した研究スタイル

が重要であることを再認識した。

 新しいタイプの量子アニーリングマシン開発を目指

した研究も活発に進んでいる。

 また最近、リクルートコミュニケーションズが

D-Wave Systems との共同研究を本格化したり、

フィックスターズと D-Wave Systems が協業が開始

したという話も出ている。

 さらに、科学技術振興機構(JST)による、研究成果

展開事業 大学発新産業創出プログラム(START)で

は、平成 29 年度第1サイクル審査分の新規プロジェ

クトの一つとして、東北大学の大関真之氏による「量子

アニーリングで加速する最適化技術の実用化」が採択さ

れた。このように、実社会のさまざまなシーンで量子ア

ニーリングを活用するための動きがみられる。

 以下では、AQC2017 の特色でもあるハードウェア

開発や応用事例探索の研究開発について、筆者が携わる

研究や筆者が強く印象に残った発表を紹介する。

最新版の量子アニーリングマシン D-Wave 2000Q (D-Wave Systems 提供 )

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/24 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35105458/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 国立情報学研究所の Ryan M. Hamerly 氏によって、

革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)で開発さ

れているハードウェアと D-Wave の比較研究の発表が

なされた。

 組合せ最適化処理を表現するネットワーク構造の違

いによって、優位なマシンが異なると Hamerly 氏は主

張している。

 さらに、富士通研究所による「デジタルアニーラ」に

関する報告がなされた。これは、組合せ最適化処理を高

速に行うことを可能にする計算機アーキテクチャであ

り、半導体技術に基づくものである。

 デジタルアニーラは量子アニーリングとは別の計算

技術であるが、組合せ最適化処理を高速に実行すること

を目的とする点は共通している。

 富士通研究所は 5 月、量子アニーリングのソフトウェ

ア開発の先陣を切る 1QBit との協業を開始したとの発

表していた。

応用事例探索に関する講演

 実際に利用できる量子アニーリングマシンが既にあ

る。そのような状況から、量子アニーリングマシンを

使った応用事例探索に関する研究が盛んだ。

 社会実装へ駒を進める時代に突入したいま、実データ

を扱っている組織の強みが現れやすい研究領域でもあ

る。一連の情報処理に対し、既存のコンピュータで済ま

せるべき部分と、量子アニーリングマシンを使うべき部

分を適切に切り分ける必要がある。

 量子アニーリングマシンとして有名な D-Wave で

は、「横磁場」と呼ばれるタイプの量子ゆらぎ(量子力

学の現象のひとつ)が用いられている。それとは異なる

タイプの量子ゆらぎを導入することにより、更なる性能

改善が期待されるという理論研究がある。

 それを踏まえ、「多様な量子ゆらぎ」が導入可能な量

子アニーリングマシンを実現する方法についての報告

が MIT の Gabriel O. Samach 氏によってなされた。

また、Google の Yu Chen 氏からは、Google の開発

する量子アニーリングマシン「量子アニーラー V2.0」

に向けた進展についての報告がなされた。

 また、1999 年に中村泰信氏(東京大学)と超伝導

回路による量子ビットを世界で初めて実現した研究者

である、理化学研究所の蔡兆申氏からは、超伝導回路

(量子コンピュータの心臓部)での量子シミュレーショ

ンに関する報告や、新エネルギー・産業技術総合開発

機構(NEDO)IoT プロジェクトで開発中である量子

アニーリングマシンに関する現状報告がなされた。

 同プロジェクトで開発中の別の超伝導量子アニー

リングマシンの現状について、産業技術総合研究所

の前澤正明氏から発表がなされた。前澤氏によれ

ば、Application Specific Annealing Computing

(ASAC)と呼ばれるアーキテクチャを提案したという。

解くべき課題に特化したアーキテクチャを構築するこ

とにより、より少ない量子ビット数でスケールの大きな

問題を解けるという仕組みだ。

 量子アニーリングとは異なる計算技術であるが、組合

せ最適化処理を高速に実行できるとされるハードウェ

アの発表もあった。

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/24 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35105458/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

ニーリングマシンを使った、機械学習における特徴量選

択に関する発表がなされた。いずれも既存手法に比べ、

D-Wave を用いた場合の優位性を示唆する結果が報告

された。

 さらに、リクルートコミュニケーションズの高柳慎一氏

からは、広告配信を最適化するために、量子アニーリング

を利用する方法を提案し、D-Wave を用いて解析した。

 既存手法に比べて、ウェブサイトに埋め込まれたディ

スプレイ広告の最適度合いが高まることを確認した。

 これらはいずれも量子アニーリングを使った機械学

習の高速化を目指した研究開発であり、現在ホットなト

ピックの一つである。

ポスターセッション

 1 日目、2 日目にはポスターセッションが行われ

た。59 件のポスター発表があり、量子アニーリング

 この発想のもと、トータルとして情報処理性能が高ま

る応用事例を見出すことが重要である。

 NASA の Davide Venturelli 氏は、最適化問題を扱

う際に使用する計算手法「整数線形計画法」を D-Wave

でどのように取り扱うべきかについて伝えた。

 D-Wave や類似のイジングマシンを使うためには、解

決したい課題をイジングモデルと呼ばれる数理モデルで

表現し、それをさらに、イジングマシンのビット間接続の

ネットワーク構造に即した埋め込みを行う必要がある。

 この埋め込みの部分について徹底的に議論したとい

うわけだ。実社会問題の課題解決を行う際、この埋め込

み技術のノウハウを徹底的に積み上げていくことが、量

子アニーリングマシンの性能を最大限発揮するために

必要不可欠である。

 また QxBranch の Dan D. Padilha 氏やリクルート

コミュニケーションズの棚橋耕太郎氏により、量子ア

超伝導回路による量子ビットを世界で初めて実現した蔡兆申氏(理化学研究所)による招待講演 (東北大学 大関真之氏提供)

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/24 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35105458/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 実際の活用シーンを念頭に置いた応用研究である。

Nextremer の阿部智彦氏によるポスター発表では、自

己組織化マップと呼ばれるニューラルネットワークモ

デルの一種に量子アニーリングを用いるための理論を

構築したとの報告があった。

 PEZY Computing の石川仁氏によるポスター発表

では、 HPC(High Performance Computing) 用途の

プロセッサ「PEZY-SC」の性能を引き出す量子モンテ

カルロ(最適化問題のための計算手法)実装方法につい

ての報告がなされた。

まとめ

 本記事冒頭で述べたように、私は AQC2017 の組織

委員を務め、また、私の共同研究者の方々がいくつかの

講演を行った。そのため、AQC2017 を外側から見た

他のメディアの報じ方と異なる観点で、AQC2017 を

内側から見た記事を執筆した。

 本記事では詳細に取り上げることができなかった話

題として、量子アニーリングの基礎理論に関する研究が

挙げられる。

 1998 年に量子アニーリングが提案された当時に

は、いまのような技術発展を想像できた人は誰もいな

かったのと同様、量子アニーリングに関する今の基礎理

論研究が将来、革新的な技術の種になるかもしれない

し、または基礎学理としての重要な新しい発見につなが

るかもしれない。

 応用志向の研究同様、基礎研究は常に重要なものであ

ることは強調したい。

 AQC2017 の特徴的な点は、純粋な基礎科学の研究成

果報告と、実社会利用を見据えた応用研究に関する報告

のソフトウェア開発を行う海外企業である 1QBit や

QxBranch、Booz Allen Hamilton による、量子アニー

リングを機械学習の高速化に利用するという発表はひ

ときわ大きな注目を集めていた。

 Booz Allen Hamilton の Joseph S. Dulny 氏によ

れば、類似の成果をスパコンの国際会議でも発表したと

ころ、大きな反響を呼んだという。スパコン業界でも注

目を集めている量子アニーリングであるが、実社会応用

に向けた取り組みが大きなうねりとなって生じている。

 国内組織の研究開発状況に目を転じると、大学や国立

研究開発法人によるポスター発表はもちろんのこと、国

内企業のポスター発表が多かったという印象がある。

 2016 年 Google LA で開催された AQC2016 では

国内企業の参加は極めて珍しかったが、産業界における

研究開発も着々と進んでおり、AQC2017 ではいくつ

かの企業か研究開発状況を持ち込んだ。

 そのため、それぞれの企業の研究開発動向を知る場とし

て有用だったとの声も参加者の方々から多く聞こえた。

 リクルートライフスタイルの本橋智光氏によるポス

ター発表では、量子アニーリングマシン D-Wave を

使ったアイテム推薦の最適化に関する報告がなされた。

 デンソーの岡田俊太郎氏は、組み合せ最適化処理を高

速に行うために考慮すべき点を、理論的見地から詳細に

検討した結果を報告した。寺部雅能氏(デンソー)が述

べているように、IoT 向けサーバ領域で量子アニーリン

グの技術が使えると期待している。

 ブレインパッドの伊藤多一氏によるポスター発表では、

宅配の最適配送問題について複数種類のモデルを作り、比

較検討を行った。

量子コンピュータ-- 始まりの始まり

こちらは、2017/08/24 に公開された記事(https://japan.zdnet.com/article/35105458/)を再録したものです。仕様等は公開時点のものです。

 その結果、応用事例探索に触発され、ハードウェアの

開発が進むといったサイクルを通じて、量子アニーリン

グや類似の計算技術がスケールする技術として大きく

発展していくはずだ。

 AQC2017の口頭講演動画が先日公開された。詳細な

情報を知りたい読者の方は、ぜひ視聴していただきたい。

 来年開催される AQC2018 は、NASA のエイムズ

研究センターで開催される予定だ。AQC2017 の聴衆

の方々の中から、2018 年こそは発表したいという声

が聞かれた。AQC2018 では、何が語られるだろう

か。今も猛烈な勢いで、量子アニーリングの研究開発

は進んでいる。

が同居していたことである。もともと基礎科学の研究か

ら得られた基礎概念が、使える計算技術として大化けし

ている瞬間にいま、立ち会っているという感覚を受けた。

 世界各地でハードウェア開発競争が繰り広げられて

おり、これから数年かけて、さらに性能の良い量子ア

ニーリングマシン、もしくは類似の概念で動作するハー

ドウェアが次々に開発されていくだろう。

 また応用事例探索の研究については、世界各地のトッ

ププレーヤーに引けを取らない国内企業の活躍がある。

日々の業務や生活の中で、「どこに組合せ最適化問題が

潜んでいるか」を見つけ出す人々が増えてはじめて、新

しい応用事例が次々と生み出される。

AQC2018 の開催地を予告する西森秀稔氏(東京工業大学、AQC2017 組織委員長) (東北大学 大関真之氏提供)