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獺 祭獺 祭

篠田純子

あを俳句会

篠田純子

あを創刊十周年記念句集限定十部

獺祭篠田純子

11999~ 2003

5

討ち死にの昼の畳の暑さかな

7 6

下町に早稲を実らす米屋かな

落蝉に思ひ遂げしか問ふてゐる

9 8

春暁に産み落とされしわが卵子

少年の言葉のナイフ月凍る

11 10

大気汚染うすきガス室苜蓿

三月の乙女の乳房つんと立ち

13 12

四肢五臓六腑九竅昼寝かな

山の息吹きかけらるる野分かな

15 14

梅雨の寺竹の精霊憑る気配

ひとでの死ゆふべ落ちたる流れ星

17 16

投げつける鼠花火の間合ひかな

突っ掛ける鼻緒もどかし祭笛

19 18

デートリッヒの靴に踏まるる落葉かな

肥満児の梯子くぐりや運動会

21 20

往来の喧嘩見てゐる十二月

マドラーをすっとグラスへ雪女

23 22

木枯やしがみつきたい時もある

25 24

ぬめらりと甲冑黒し今年竹

吸ふ息の継げなき程に初笑ひ

27 26

29 28

雪しまく文楽人形素足なる

母の日の母の乳房に娘の触るる

31 30

早々と蚊帳の吊られし妻の実家

夕立晴魔女は箒を干しゐたり

33 32

ストーカー色なき風に振り向けり

35 34

つづれさせひと匙づつの看取かな

月の酒半跏思惟のポーズして

37 36

やつちや場の裸電球で暖を取る

除夜まうで心は母にしなだれて

39 38

引き籠もる人にも来たり花粉症

便

41 40

コンドームの宣伝のバス青葉風

人おぼろ霊長類とプランクトン

43 42

福祉課に咆哮ひびき梅雨寒し

放浪癖帰巣本能めだかの子

45 44

過労死などあり得ぬ男生ビール

夜濯や少年の香のただならぬ

47 46

いつの世も左まはりに踊りの輪

49 48

流れ着くハングル文字のラムネ瓶

落蝉の喰はれて風になびくかな

51 50

衿を立て五感をつんと研ぎ澄ます

53 52

目の前の悪魔小悪魔豆をまく

55 54

AB型のBが飛び出た豆の飯

葭焼の戦火に見ゆる目眩かな

57 56

少年薄暑百済観音めくうなじ

59 58

父の日や父の中なるピーターパン

ソーダー水縦にせり出すリーゼント

61 60

知り合ったばかりの頃の蛇苺

63 62

かはたれ時もんどり打つて跳ぶ金魚

65 64

67 66

手をつなぐ夫サルトル似木の葉髪

不条理も条理と思へ銀杏の実

69 68

死に際に乳飲む仕草夕月夜

71 70

烏瓜五パーセントの夫婦愛

22004~ 2006

73

今生をくわつと見据ゑ寒鴉

75 74

霜柱老化しながら進化する

憎みつつ愛すことあり大根煮る

77 76

薄氷といふ天井のある世界

龍の玉死ねと言はれて死にますか

79 78

計算のされた後れ毛雪女郎

六区正月永井荷風に似たる人

81 80

哀しくてやさしきひかり蠅生る

生きものに鬱は不可欠寒卵

83 82

ハイヤー待たせ婚姻届春灯

85 84

予報士の満面の笑み桜さく

サプリメントといふ配合飼料春の風邪

87 86

青葡萄娘は家を出ると云ふ

青ざめて癇症の子の入学す

89 88

女衒めく日本語教師柳絮とぶ

花の下ホームレスさんと長ばなし

91 90

苧殻折る口惜しさはほぼ諦めに

面接のソファーふかぶか花曇

93 92

鳳仙花ずつと死ぬまで反抗期

見ず知らずに挨拶される梅雨晴間

95 94

あらがはず上昇気流へ秋の蝶

死にはじめて無までの時間蟻運ぶ

97 96

母の物捨て去りしより昼の虫

酔芙蓉髪の豊かに老にけり

99 98

呼び止めて走り乗るバス秋暑し

合歓の花殺し文句にころされる

101 100

どんみりと雑木林の冬ぬくし

103 102

柿襖なかなか女が止みません

105 104

蜘蛛の巣を逆光に見る十二月

水琴窟のやうな水漏れ冬に入る

107 106

美しく腹を減らせる鷹野かな

109 108

綿虫や母は帰郷を果せずに

111 110

竜の玉笑つて死ねる筈がない

113 112

祖父までが土葬の村の雪ばんば

博打ならまだ勝目あり三の酉

115 114

もらひ笑ひの湧きて卒業写真かな

117 116

寝返りの嘴差し替へて浮寝鴨

119 118

いつだって我慢する癖あめんぼう

在郷の伯母大雪は切ねエてエ

121 120

外階段で待つマロニエの花の夜

123 122

小夜更けて垂れ桜の泣きじやくる

ハンカチの木がしゃべり出す五月かな

125 124

片陰や住んでいたまち他所の町

幼稚園なんてキライでいちご好き

127 126

あをさぎの夜は念仏をききにくる

白鷺の五羽居てそれも関らず

129 128

秋高しおびんづる様の膝がしら

ぷつと踏むうれしくて踏むさくらの実

131 130

唐辛子優しい眉に描き直す

ひととひとは櫛にからまる素風かな

133 132

秋暑し飲み屋のドアに蹴りのあと

龍舌蘭の花と炎帝吠えあへり

135 134

しろもの房ぽんと畳へ夜の秋

ガラパゴスのイグアナめきて昼寝覚

137 136

震災忌あのカンバンを撤去せよ

金持になつたらさーあところ天

139 138

銀座のシェフにまんまと兎喰はされる

ゆんらりと神武天皇山車の発つ

141 140

折れ曲るやうに労りあふ夜寒

疣毟り純粋だから殴られる

143 142

盗賊の女房のやう着膨れり

145 144

腹に脂肪たまらぬ努力三島の忌

地下鉄のけんくわわんわん十二月

147 146

木の葉散るペットショップの犬猫背

十一月の鯛焼のひれ燃えてゐる

149 148

ふはふはの物ばかり食べ春のかぜ

151 150

クロマニオンピテカントロプス姫始

寒猫の屋根の上から降る佃

153 152

エンジンのかからぬ小舟春浅し

絵すごろく百パーセント人は死ぬ

155 154

傷だらけの猿山のボス陽炎へり

蕗の薹淋しがりやで人嫌ひ

157 156

いい一生だつたと思ふ寒鴉もゐるだらう

159 158

イーグルのタトゥの男青葉風

風信子母が異様になつていく

161 160

ハナハトマメマス前頭葉朧

163 162

ねむの花の下で人待つねむの風

両肌を脱ぎ子に乳房選ばせる

165 164

本物がだんだん解るソーダー水

香水をうかつにつけて寝つかれず

167 166

サイレントの台本語りはじめる暑さかな

ビルは樹に樹はビルに添ふ炎暑かな

169 168

曾祖父母祖父母父母零余子飯

171 170

稲穂越し垂仁天皇御陵かな

みつつよつ指輪をはめてプレスリー忌

173 172

両の手で白湯飲み干せり秋の風

吉右衛門の鬼平が好き落花生

174

手のどこの切れたる血やら年の暮

32007~ 2010

177

飴を切る音の裏間に咳をする

179 178

肋骨に収り切れない春が来た

百萬円の熊手の裏を覗きけり

181 180

にんげんに番号のあり獺祭

183 182

間違ひを起こして了ふ田螺かな

春愁や乳房を挟むマンモグラフィー

185 184

シェーカーに8の残像春の宵

花嫁の荷を出し広間おぼろかな

187 186

189 188

CD

濃紫陽花胡弓に怺へしもの溢れ

191 190

根津の夜みこしみてゐる談志見る

シスター二人乗り込んでくる秋の蝶

193 192

原爆忌アインシュタインが悪いのか

川床や足を浸して少女めく

195 194

胎動に大輪の笑み赤とんぼ

永年勤続毛玉の浮きしカーディガン

197 196

ピラカンサきのふの夜のヒステリー

地虫鳴くサービスタイムのラブホテル

199 198

ケイタイを落して了ふ春の泥

雌猫はやさしく咬まれ冬の月

201 200

冬の草干しっ放しのシャツ一枚

203 202

折り合って静かに暮す春燈

205 204

産室に蠢けるもの冬ぬくし

しらふではやってられない雪をんな

207 206

最上部で軋む薄暑の観覧車

東京タワーが高かった頃さくらんぼ

209 208

冷たさの肺に残れりみどりの夜

新樹光法務省より僧侶出づ

211 210

二日ほど盆唄棲めり後頭部

213 212

生身魂慌ててズボン穿きにけり

藍の香の立つや祭の小競りあひ

215 214

老衰は楽さうに見ゆ窓に月

217 216

生身魂曾孫としばし見詰めあふ

つづれさせひと匙づつの看取りかな

219 218

本買ふか飯を食はうか昼の螽斯

生身魂慌ててズボン穿きにけり

221 220

冬の鵙母の楽しみ我楽しみ

メール打つ隙なき仕草冬の駅

223 222

石蕗の花言ひたきことが母の眼に

初紅葉ピカソの描く普通の絵

225 224

かはたれ時生なま

身のうちは寒の紅

花柊脳の隙間に咲いてゐる

227 226

セーターを着せられ水子地蔵かな

寒稽古時の隙間に打ち込めり

229 228

おぼろ月コンクリートの中に住む

初芝居露見まぢかの美人局

231 230

手づくりのスカーフ今日の花衣

柳の芽切り取り線はこちらです

233 232

さりながら恋女房の花粉症

春深し困った顔のフラメンコ

235 234

下町に下水の匂ひ蛇いちご

指それぞれ仏に見ゆる穀雨かな

237 236

水琴窟に永く遊びて藪蚊かな

239 238

櫻桃忌魔法の効かぬ魔法瓶

止って游ぐマンバウの目の愁ひ

241 240

他所の子も叱る佃の盆をどり

とうさんのそのまたとうさんの豆の飯

243 242

海の日の電気をつくる羽根やさし

245 244

秋の空母は硝子の目となりぬ

247 246

白衣の女医に涼しき胸を触れらるる

白シャツと眼鏡浅沼稲次郎

249 248

秋風の吹き抜けてゆく身柱元

孫生れて夫若返る赤とんぼ

251 250

洋梨にヴィーナスの線ありにけり

野良猫にをぢさん抱かれ昼の虫

253 252

年末に皆死んでいく大河ドラマ

防空壕に時空混ざるや冬ぬくし

255 254

ひとつ蒲団ちひさき足に蹴られけり

257 256

親しめり心波打つ日の冬芽

詣獺祭

―――――――終

 二〇〇一年創刊の「あを」は来年で十周年を迎へま

す。「

九邀」の詩のやうに「花を藝う

ゑて以て蝶を邀むか

ふべし。

……書を藏して以て友を邀ふべし。徳を積みて以て天を邀

ふべし。」ではありませんが、正に良友を邀へるべき俳句

を作る、これが「あを」の一つの目標です。そのこころを

形に表したのがこの〝限定一部〟の句集です。

 この句集はあを編集部のデータベースにある『あを』

『飛行船』『獐』句会・吟行等のデータより作家各人が

二百五十句抄出し発表年代順に一本にまとめたものです。

句集名は喜孝が興の赴くまま付けさせていただきました。

 二〇一〇年十一月八日

佐藤喜孝

獺をそまつり

祭著者 篠田純子

発行日 2010 年 11 月 13 日

発行人 佐藤喜孝

装 丁 佐藤喜孝

発行所  竹僊房

製本所 花岡製本所