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東レリサーチセンター The TRC News No.116(Mar.2013)・31

●カールフィッシャー法、TPD-MS、GCによる材料中の水分分析

1.はじめに

 水分は化学製品、工業製品の劣化を促進させる因子であり、製品自体やそこで使用されている材料中の水分量の把握は重要である。例えば、化学原料の品質管理、半導体分野では防湿材、封止材に使用されている樹脂など水分分析が必要となる場面は多岐にわたる。現在、実用化されている水分分析法は、物理的、電気的、光学的など数多く存在し、材料の特徴、分析目的に応じた適切な手法の選択が重要である。ここでは、弊社で主に使用している手法であるカールフィッシャー法(Karl Fischer method:KF)、昇温脱離-質量分析法(Temperature programmed desorption-Mass spectrometry:TPD-MS)、ガスクロマトグラフ法(Gas chromatography:GC)について、簡単な原理と実施例を示す。

2.カールフィッシャー法

 カールフィッシャー法の名称は発明者の名前を冠しており、その特長は液体・固体試料いずれも測定可能で、水分分析に特化した手法であることである。精度、感度の良さに加えて、装置の扱いやすさやコストの面から、現在、工業、医薬など各分野で広く用いられている。また、国内では公定試験法として、日本工業規格(JIS)、日本農林規格(JAS)、食品添加物公定書および石油学会規格などにも採用されている。KFには、微量水分分析に有利な「電量滴定法」と試料の適用範囲が広い「容量滴定法」がある。ここでは、電量滴定法について説明する。図1にKF滴定装置の写真を示す。セル内に導入さ

れた水分は、陽極液中で電解により生成したヨウ素と選択的に、定量的に反応する。消費されたヨウ素は電気量から求められ、ヨウ素1モルは水1モルと反応することから正確な水分量を知ることができる。 液体試料、電解液に可溶な固体試料については直接セルに導入して分析することができる。しかし、電解液に不溶な固体試料は、水分気化法を用いる必要がある。これは、乾燥した窒素ガス気流中で試料を加熱して、気化された水分を電解液に捕集して、KF測定を行う。KFはヨウ素を使った電気化学反応を利用しており、この反応を妨害する物質を含む試料は測定値に誤差を与える。例えば、ヨウ素、金属酸化物、シラノール類、ケトン類などが挙げられる。そのため、正しい測定値を得るには、前述の水分気化法の利用、KF試薬(容量滴定法で使用される)の選定、中和など妨害物質に応じた対策が必要となる1︶。 次に、リチウムイオン電池用電解液の測定例を紹介する。リチウムイオン電池内部に含まれる水分は電池性能を劣化させるため、水分量の把握は重要である。今回は、電解液(ジエチルカーボネート、不活性ガス雰囲気下保管)を10mlガラス容器に7ml入れ、実験室(室温25℃、相対湿度50%)で所定時間暴露した後にKF測定を実施した結果を表1に示す。大気暴露により吸水した水分量を再現良く分析できることがわかる。

表1 大気暴露による電解液の吸水量

3.昇温脱離−質量分析法(TPD-MS)

 TPD-MSは、図2に示す概略図のように加熱装置と質量分析計を接続した装置である。試料を加熱管内で室温から最大1000℃まで加熱することができ、発生する水分およびその他のガスをリアルタイムで質量分析計に導入する。そのため、発生ガスの温度依存性(何℃でどのような成分が発生するか)を知ることができる手法であり、弊社では、エレクトロニクスを中心とする先端工業材料、有機・無機材料など様々な分野に適用している。試料を加熱した際の脱離挙動評価法として、他にTDS(Thermal Desorption Spectrometry)があり、これは真空下で分析を行うため高感度という特長がある。これに対して、TPD-MSはTDSと比べて試料形状の適用範囲が広い、温度精度が良い、同時に水分以外の有機・無機ガ

カールフィッシャー法、TPD-MS、GCによる材料中

の水分分析材料物性研究部 美野 卓大

図1 カールフィッシャー滴定装置

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●カールフィッシャー法、TPD-MS、GCによる材料中の水分分析

スの分析が可能などの特長を有しており、弊社では試料に応じて使い分けをしている。

質量分析計

キャリアガス

試料 加熱装置

図2 TPD-MS 装置の概略図

 SiO2膜と多孔質MSSQ系low-k膜(低誘電率の層間絶縁膜)のTPD-MS測定例を図3に示す。この図の横軸は時間、左縦軸は発生速度、右縦軸は温度である。予め水分について、質量分析計のイオン強度と発生速度の関係(検量線)を求めておき、その検量線を用いて各温度での発生速度および発生量を算出する。本測定では、測定開始から5分後に試料を導入、25分後に昇温を開始した。室温で発生が認められる水分は表面吸着が主で、昇温開始から400℃付近までの発生は膜中に閉じ込められた水分が加熱に伴って放出されたものと考えられる。約400℃以上での発生は、Si-OH基の熱分解により生じたものと考えられる。このように、全水分量を高感度に分析できることのみならず、状態の異なる水分を温度毎に分離できることが本手法の大きな特長である。また、Si-OH基の熱分解については、未熱処理品と熱処理品についてのFT-IR測定を併用し、Si-OH基濃度を調べることで確認できる2︶。

室温脱離 昇温脱離水

吸着水

熱分解水

(SiOH)

図3 SiO2膜とlow-k 膜のTPD-MS 測定結果

4.ガスクロマトグラフ法(GC)

 GCは、気化しやすい様々な化合物の同定・定量に用いられている汎用的な分析手法である。GC装置の概略図を図4に示す。液体試料は注入口からシリンジ等で導入され、気化室で気化した後、キャリアガスによってカラムに移動する。カラム内で、各成分は分離され、検出器で順次検出される。定量には、予め水分濃度既知の試

料で作成した検量線を用いる。妨害成分によりKFでは正しい測定値が得られない試料に対して、GCでは妨害成分を分離して定量するため有効である。また、水分分析の際にも、通常のGC装置をそのまま使用できるという利点があるが、カラムで分離する際、保持時間が水と重なる夾雑成分を含む試料は分析ができない。樹脂などの固体試料や、GCに直接注入できない成分を含む液体試料は、抽出などの前処理により分析が可能となる。

He

試料注入口

カラムTCD(熱伝導度検出器)

恒温槽

図4 GC 装置の概略図

5.まとめ

 本稿では、弊社で主に使用されている手法であるKF、TPD-MS、GCについて紹介した。今後、多様な材料においても、適した手法の選択により信頼できる分析データの提供を目指したい。

6.参考文献

1) 三菱化学/APICのカールフィッシャー試薬 テクニカルマニュアル, 株式会社エーピーアイコーポレーション

2) 伊藤真知子,高井良浩,石切山一彦,マテリアルインテグレーション,Vol.14, No.6(2001).

■ 美野 卓大(みの たかひろ) 材料物性研究部 材料物性第1研究室

趣味:読書