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2016年 4 月 1 日発行(毎月 1 回 1 日)/第43巻第 4 号/ ISSN0910-7991 新医療 総特集 今、最 しい 手術室 のかたち 特集 国際医用画像総合展 注目の展示ブースガイド 特別企画がん登録と病院情報システム 岐阜大学医学部附属病院では、本年1月より第3期病院情報システムが稼働を開始。仮想化と診療支援システム等の開発によりデータの可視化や 診療の効率化を一層向上させている(詳しくはグラビア頁)。左から小倉真治病院長、飯田宏樹副病院長、紀ノ定保臣医療情報部部長 経営戦略 ツールとしての 画像診断装置 病院の成長に必須の条件となってきている高性能画像診断装置。新しい視点で意欲的な導入を図った施設トップの証言を紹介する 機器、情報システム、設備 ─ 明日の病院インフラを考える

Transcript of ;+z Ø C³µÂÜz 7 Ì Ôw ´Ã ïÑå ßQ ý©

2016年 4月 1日発行(毎月 1回 1日)/第43巻第 4号/ ISSN0910-7991

新医療 月刊◉総特集

今、最も新しい手術室のかたち◉特集

国際医用画像総合展 注目の展示ブースガイド

[特別企画]

がん登録と病院情報システム

岐阜大学医学部附属病院では、本年1月より第3期病院情報システムが稼働を開始。仮想化と診療支援システム等の開発によりデータの可視化や診療の効率化を一層向上させている(詳しくはグラビア頁)。左から小倉真治病院長、飯田宏樹副病院長、紀ノ定保臣医療情報部部長

経営戦略ツールとしての画像診断装置病院の成長に必須の条件となってきている高性能画像診断装置。新しい視点で意欲的な導入を図った施設トップの証言を紹介する

機器、情報システム、設備 ─ 明日の病院インフラを考える

( )8新 医 療 2016年4月号( )9 新 医 療 2016年4月号

岐阜県

岐阜大学医学部附属病院

医療情報部

部長

紀ノ定保臣氏に聞く

In

te

rv

ie

w

――岐阜大学医学部附属病院における病

院情報システム構築の経緯からお聞かせ

ください。

 

岐阜大学医学部附属病院は2004年、

現在の地に新築移転を果たしましたが、

その際に院内の情報ネットワークを光

ファイバーで結び、全ての診療データをデ

ジタル化した第1期の病院情報システム

を構築しました。

 

04年は、国立大学が独法化された年で

あり、病院の新築と相俟って、旧病院の

医事会計システムやオーダリングシステ

ムにとらわれることなく、〝新しい器に新

しいワインを〞という感じで、自由な発

これを1Gbps

の通信速度を維持したメタ

ルに置き換え、2.4GH

z

/5GHz

共用の

WiFi

アンテナを増設して無線環境を充実

させました。

 

そして、仮想化技術を全面的に取り入

れ、サーバの仮想化と病院情報システム

端末の仮想化を実現しました。

 

当院では、16年4月から第3期中期計

画が始まります。大学病院として地域医

療連携を実現し、大学間や広域間での共

同研究を実現するためにはクラウド化・

仮想化に対応する必要があったのです。

 

なお、第1期、2期のシステムにおいて、

診療データは全て電子化され、中央部門

で一元管理する体制がすでに出来上がっ

ていましたので、1年で仮想化に関する

仕様書を作成し、わずか半年でシステム

を開発してアプリケーションの載せ替え

やデータの移行を実施できました。

想に基づいたシステムを構築できたと実

感しています。

 

10年に更新した、第2期のシステムで

は、全てのシステムでバージョンアップを

行い、当時最先端の指静脈認証を導入す

るなど、強固なセキュリティと高い機能

性を保ったシステムとしました。そして、

16年、ネットワークも含め、ハードおよ

びソフトを全面的に再構築した第3期シ

ステムを稼働させました。

――3期目となる、新システムの特徴に

ついてお聞かせください。

 

16年1月1日より稼働を開始した第3

期目の病院情報システムを、私たちは

「SystemGifu_3G

」と呼んでいますが、シ

ステム構築における基本コンセプトは「マ

ルチベンダーの協調が創る新たな診療&

支援環境の構築」です。当院の病院情報

システムには29ものベンダがその構築・運

用に参加していることから、全ての診療

情報の統合・データベース化と全部署・

全職種間での診療データ共有環境を構築

し、4つの機能を強化することを目指し

たのです。4機能とは、①保険診療の質

的向上と適正化、②災害時バックアップ

システムの運用とBCP(事業継続計画)

への対応、③地域医療連携システムの構

築・運用、④臨床研究の推進・治験の推

進です。

 

これらの機能を強化するため、第3期

のシステムにおいては、更なるシステムの

拡充を図りました。まず、ネットワーク

システムの更新です。従来、1端末に1

本の光ファイバーを接続していましたが、

――仮想化技術の導入で苦労された点は

ありましたか。

 

当院は、前述の通り仮想化技術導入に

不可欠なデータの一元管理をすでに達成

していたので、難しくはありませんでし

たね。

 

仮想化技術の導入が盛んに議論されて

いますが、そのためには、さまざまな下

準備=環境構築をしておく必要がありま

す。例えば、データを中央管理する仕組

みや、それを統括する医療情報部門の開

設、システム間でのデータ共有です。ただ、

それらは一朝一夕にできることではありま

せん。幸いなことに、当院ではその前提

条件ができていたということです。

 

なお、医療情報部は病院経営にも参画

し、病院の年間売上は年率7%伸ばして

おり、現在では旧病院の倍以上の年間売

上を計上しています。病院経営を健全化

仮想化や高速ネットワーク採用により、データの可視化と効率化を大きく実現。第3期HISはまたもや先進的であった岐阜大学医学部が岐阜市郊外の現在の地に移転してきたのは2004年のことであったが、その際、なによりも驚かされたのは、その余りにも先進的な病院情報システムであった。それから12年。システムは3回目の更新が行われ、本年1月から稼働を開始している。その構築を主導したのは、12年前と同じく医療情報分野の泰斗、紀ノ定保臣教授。各種先進機能を搭載した「System Gifu_3G」名のHISは、今また最前線に躍り出た。紀ノ定氏に加え、今般 HIS の目玉「クリニカルフロー」の主導者、長瀬 清氏らに話を聞いた。

岐阜大学医学部附属病院 2 0 1 6 A p r i l

1954 年大阪府生まれ。1983 年東海大学大学院工学研究科光工専攻 博士課程(後期)修了。医学博士、工学博士。同年東海大学医学部ME学教室助手、1989 年三重大学医学部放射線医学教室助手、96年京都府立医科大学放射線医学教室講師、99年岐阜大学医学部教授、現在に至る

紀ノ定保臣(きのさだ・やすとみ)氏

岐阜大学医学部附属病院は2004 年、現在の地に新築移転を果たす。特定機能病院の承認を受けるほか、臨床研修病院、高度救命救急センター、災害拠点病院(基幹災害医療センター)に指定されている。9 階建ての建物であり、床面積は61,000m²。1階から3階が外来、中央診療部。4階から9階が病棟となっている。病床数は614床を数える

岐阜大学医学部附属病院 第 3期病院情報システムで強化した4つの機能性について。同院のシステムは、1期~2期の過程で29に及ぶマルチベンダー・システムによるデータの中央管理と共有化を実現し、3期目で更なる機能強化を図る

( )10新 医 療 2016年4月号( )11 新 医 療 2016年4月号

――病院長のお立場から、更新した病院情報システムに対する期待をお聞かせください。 稼働が開始してからまだ月日が経っていませんが、今後は臨床に対してよい影響が出てくるだろうと期待しています。 当院では、ERだけでなく、重症患者に対する治療を中心に取り組んでいますが、新しいシステムで導入されたクリニカルフローという機能を活用することで、治療を実施するにあたって必ず実施されていなければならない検査や書類上の手続き等の抜けがなくなり、適切な医療の推進に役立つだろうと感じています。

――手術部 部長である飯田先生のお立場から、新病院情報システムに期待している点をお聞かせください。 手術部 副部長の長瀬先生が中心となって開発を進めたクリニカルフローは、色や形で直感的に情報を把握できるインターフェイスによって、診療の進捗状況がとても確認しやすくなっており、その点がとても優れていると感じています。高度な医療を進めていく上では、術前検査や同意書等の書類の漏れが最も困ります。それらの有無を病院情報システム端末上で、

――救急医療の権威のお立場から見て、救急医療に医療 ITを役立てるには、どのような要件が必要でしょうか。 救急医療の現場で電子カルテに必要な要件としては、信頼性と即時性が挙げられます。特に即時性という点で、ITは救急医療には向かないと話す人が多いですが、私は、救急医療に必要な診療情報に限って ITを活用すれば、スピードを上げながら、精度の高い救急医療を展開できると考えています。 この観点は、救急医療だけでなく、地域医療連携をする上でも、重要なのではないでしょうか。

チーム医療に携わる医療スタッフ全員が共有することができるので、保険診療の面も含めて効率よく医療を提供することが可能となります。――クリニカルフローは手術用のシステムとして応用可能でしょうか。 クリニカルフローは本来、入院患者の現状把握のために構築されたシステムですが、このシステムを手術患者用に応用できれば、術前の準備状況も全て把握することができ、医療過誤等の削減に大きく貢献できるのではないでしょうか。

1985 年岐阜大学医学部卒。2000年香川医科大学附属病院救急部助教授を経て2003 年より岐阜大学大学院医学系研究科救急・災害医学教授。2004 年岐阜大学医学部附属病院高次救命治療センター長、2014年岐阜大学医学部附属病院長(兼務)

1981年岐阜大学医学部卒。同大病院、総合大雄会病院、関東逓信病院等を経て、2010 年 5月より医学系研究科 病態制御学講座 麻酔・疼痛制御学分野 教授、2014年より岐阜大学医学部附属病院副病院長(兼務)

I n t e r v i e w I n t e r v i e w

岐阜大学医学部附属病院病院長

小倉真治氏に聞く

岐阜大学医学部附属病院副病院長

飯田宏樹氏に聞くおぐら しんじ いいだ ひろき

することで、医療ITに投資する経営側

の理解を得るとともに予算も確保でき、

今回最新の仮想化技術の導入を実現でき

ました。仮想化技術の導入は、このよう

に段階を踏んで進めていかない限り、た

いへんな作業となるでしょう。

――4つの機能強化に関するシステム更

新における取り組みについて具体的にお

聞かせください。

 

特に保険診療の質向上と最適化につい

ては、手術部の長瀬

清先生が中心となっ

て開発した「クリニカルフロー」に期待し

ています。これは、富士フイルムが提供

する統合診療支援プラットフォーム

「CITA Clinical Finder

」を活用したもの

で、チーム医療推進と保険診療対策を目

指した統合診療支援システムです。患者

一覧画面では診療の進捗状況が一目で理解

できるよう工夫され、ボタンを1つクリッ

クすれば患者の詳細情報画面を展開する

ことが可能です。詳細情報画面は、ガ

ジェット構造によるフリーレイアウトを実

現しており、あらゆる診療の場面で、自

分自身やチームで必要な情報を自由に配

置することができます。

 

同機能活用によって診療の進捗状況の

可視化や保険診療の適正化が可能になる

と期待しています。

 

災害時バックアップシステムの運用とB

CP(事業継続計画)への対応については、

日本全国の大学、研究機関等の学術情報

基盤である学術情報ネットワーク「SI

NET(サイネット)」が平成28年度から

「SINET5(サイネット

ファイブ)」

に移行するに当たり、当院でもSS‒

MI

X2による災害時用医療情報バックアッ

プシステムの充実化を進めています。

――地域医療連携システムへの取り組み

についてはいかがでしょうか。

 

地域医療連携に当たっては、セキュリ

ティの高いシステム構築が鍵となります。

第3期システムでは、院内ネットワークを

論理的に分割して相互の通信を厳密に規

定することにより、インフラ面から高度

なセキュリティを実現する〝エリア別ネッ

トワーク〞を構築しました。エリアの区

分の仕方としては、まず外部接続をルー

ル化して安全性を担保するため、エリア

を大きく以下の4つに分けました。①イ

ンターネットを介して外部施設等と接続

を行うエリア1、②インターネット公開エ

リアとソースデータエリアの間に中継の役

割を持った装置を置くエリア2、③デー

タの2次利用を前提としたデータのコ

ピーを蓄積するエリア3、④データの真

正性を担保するためのエリア4です。エリ

ア3とエリア4は外部に直接接続するこ

とはなく、高いセキュリティ強度を確保

してあります。このような高いセキュリ

ティ対策を講じた上で、一般病院、医科

診療所、歯科診療所、薬局、訪問看護ステー

ション、介護事業所等と、私たちが「W

ebカルテ」と呼ぶ連携システムによって

つながっています。

――4つ目の臨床研究・治験の推進につ

いては、非常に意欲的なものと聞いてい

ます。

 

理研での問題を受けて2015年に「人

を対象とする医学系研究に関する倫理指

針」が厚生労働省から出されたことから、

大学病院では患者さんのデータを使った

医学系研究では、そのデータについて修

整前後の記録が残っている環境を構築す

る必要に迫られましたので、当院でも新

システム化に併せて対応しました。この

機能強化こそ、新システムの目玉と言え

るでしょう。

 

当院では、地域医療連携や研究事業等

のための臨床研究中核病院とのデータ連

携など、診療データの相互通信を円滑か

つ迅速に推進するため、これまで医療分

野では日本医師会と医療情報システム開

発センター(MEDIS‐DC)にのみ置

かれていた認証局を岐阜大学内に設置し

ました。これにより、全ての診療データ

に電子署名とタイムスタンプを実施する

ことが可能となっており、新システムの機

能と有用性を大幅に高めています。

――第3期の病院情報システムに対する

評価をお聞かせください。

 

この1、2年、大学病院を取り巻く環境

は激変しています。当院はたまたまよい

タイミングで更新を迎えることができま

した。今回の更新では、今後10年を想定

した際に求められる機能全てを盛り込ん

だと評してよいでしょう。

 

04年から病院情報システムの運用を続

け、改良を重ねてきたことで、データの

中央による一元管理、マルチベンダー間で

のスムーズなデータ共有および連携を実

現し、それが岐阜大の病院情報システム

に対する〝カルチャー〞を育み、今日の

更新にもそのカルチャーが大きく反映さ

れています。そして、その成果物である

データの利活用に関しては、全国でも最

も進んでいる病院の1つであると自負し

ています。

 

また、病院の電子化は今後も進展し続

けます。当然、システムは新しく更新さ

れていかなければなりませんが、その際

はデータ移行や臨床研究、地域連携への

対応等、社会的な情勢の変化に対応する

柔軟性を持った組織とシステムを構築・

運用しなければなりません。当院のシス

テムには、そうした点に対応したさまざ

まなアイデアが詰まっています。日本の医

療情報システム担当者の参考にしていた

だきたいと願っています。

第 3期病院情報システムでは、仮想化技術を大規模に導入。病院情報システム端末上では、Microsoft Officeを含む、50近いアプリケーションを仮想化サーバ上で動かし、端末のシンクライアント化を推進。地域医療連携システムも仮想化技術の活用により、構築されている

「CITA Clinical Finder」の患者情報画面。患者単位で詳細のデータを参照する画面で、ガジェット構造を採用したことにより、病名や診療の場面、操作者自身の業務内容に応じて、必要な診療情報を組み合わせた画面を設定できる

( )12新 医 療 2016年4月号( )13 新 医 療 2016年4月号

岐阜大学医学部附属病院

所 在 地:岐阜県岐阜市柳戸1番1病 床 数:614床外来患者数:1324.3人/1日(2014年度)入院患者数:472.4人/1日(2014年度)

 岐阜大学医学部附属病院は岐阜県下唯一の医学部附属病院、特定機能病院として東海地方でも屈指のレベルとなる質の高い医療を提供している。中でも高次救命治療センターは、多発外傷や熱傷など最も高度な三次救急患者を受け入れることのできる高度救命救急センターに中部地方で2番目に指定され、2011年からはドクターヘリの基地病院に指定され、2014年度は約400回のフライト実績を有する。 また、2011年10月には岐阜県総合医療センターとともに県の基幹災害拠点病院に指定され、自院だけでなく県や他の医療機関とも緊密な連携を取りながら災害対策を推進するなど、 高次救命治療センターから始まり、難病、肝疾患、エイズ、がんなどの診療拠点病院となっており、救急医療、災害医療など、全ての領域において岐阜県の中心的な役割を担っている。

いる長瀬

清氏は、システム構築によって

目指す理想について、つぎの4点を挙げる。

「医療情報システム構築が果たすべき理想

としては、①医療の質向上を目指す②標

準化や効率化を推進する③医療安全を担

保し、医療過誤を予防する④透明性が高

く、分かりやすい医療を提供する―この

4つが挙げられます。

 

医療は、最善と思われるプロセスを積

み重ねることでしか、最善のアウトカムに

到達できません。そのために、医療情報

システムを用いて、業務の標準化や

Evidence-Based Medicine

、PDCA

サイク

ルやクリニカルパスの導入、チーム医療の

推進のための診療情報の共有などが行わ

れてきました。

 

中でも、〝チーム医療〞という概念は、

複雑化する医療において非常に重要な意

味を持っています。しかし、病院全体の

課題や目標としてチーム医療の推進が多

くの医療機関で叫ばれているものの、独

立した職種、多様な職制、そして特有の

価値観を背景に持つ専門家が多くいる医

療現場において、チームスタッフのコミュ

ニケーションを支援することは、既存の医

療情報システムでは想定されるものでは

ありませんでした。

 

情報とコミュニケーションは全く異なり

ます。情報とは、あくまで記号です。例

えば、〝体重50㎏〞は情報ですが、そこに

感情や理解や共有できるコンセプト、価

値観などが加わってはじめてコミュニケー

ションとなります。医療情報システムは

あくまで〝情報〞しか伝えないシステム

です。残念ながら医療〝コミュニケーショ

ン〞システムではありません。こうした課

題を改善し、チーム医療を推進するため

のシステムとして私が提案したのがクリニ

カルフローなのです」

 

長瀬氏の提案を受け、岐阜大学医学部

附属病院における統合診療支援システム

を担当している富士フイルムが「クリニカ

ルフロー」構築のために開発したのが、同

社の統合診療支援プラットフォーム

統合

データファインリングシステム「CIT

A

Clinical Finder

」である。

 

同システムは、検査画像やバイタル情

報、処方など病院内の各システムで管理

されている診療データを1つのプラット

フォームに集約して表示。さらに、入院

中の患者や、自身が担当する登録患者を

リスト化し、診療のプロセスにおける検

査や文書作成の進捗状況、保険請求に必

要な検査や文書記載に関する状況を一目

で把握することができるのである。部門・

患者横断的に医療従事者間の情報共有や、

施設基準の遵守、保険請求対策など、病

院全体の診療支援・経営支援に貢献する

システムとなっている。

 

クリニカルフローの目的について、長瀬

氏はつぎのように話す。

「クリニカルフローの目的はチーム医療の

推進です。そのためには、臨床業務の進

捗状況を可視化、適切な保険診療の担保、

多職種と協働しやすい環境の構築、手術・

カテ・内視鏡など専門医療への支援、業

務の標準化や効率化の推進、医療安全を

担保する安全機構の確保、中央診療部門

への支援、医療マネジメントの導入や改

善といった各機能が備わることが求めら

れます。

 

クリニカルフローのホーム画面では、列

に患者リストを表示し、行に患者におけ

る入院から退院に至るまでの診療情報を

並べて表示します。ここでは、患者の治

療計画を経時的に表示し、現在の進捗状

況を可視化するとともに、診療文書の有

無を確認することで保険診療の担保もで

き、さらには日常生活自立度や摂食の有

無、体温、安静時と体動時の疼痛やせん

妄スコア、看護必要度など、全ての患者

の基本的な情報を一目で把握できるよう

になっています」

 

クリニカルフローでは、ホーム画面上の

ボタンをクリックすることで、当該患者の

詳細情報画面を開くことができる。

 

同院の病院情報システムでは、マルチベ

ンダーによるデータの一元管理と情報共

有がほぼ完全な形で達成されており、複

数のシステムから診療データを取得し、

詳細情報画面に表示できる。

 

また、情報の表示についてはガジェット

構造によるフリーレイアウトとなってお

り、入院時や術前、術中、術後など、さ

まざまな診療場面において、異なるガ

ジェット配置を設定することによって、診

療プロセスの各ステップでの確認漏れの防

止等に有効である。また、医師、看護師、

技師等、異なる職種・職制の医療スタッ

フが1人の患者情報を共有するとともに、

自分自身やチームで必要な診療情報を自

由に配置することが可能となっている。

「クリニカルフロー」というネーミングに

ついて、長瀬氏はつぎのように話す。

「クリニカルパスが多くの医療機関で導入

されていますが、これは主に〝将来〞の

治療計画を提示したシステムです。それ

に対し、〝現在〞の進捗状況を可視化し、

把握するためのシステムであることから、

このシステムには、〝フロー〞と名付けま

した」

 

クリニカルフローの今後の拡張につい

て、長瀬氏は院内での進捗状況の把握だ

けでなく、院外を含む多職種間で共有で

きるチェックリストの機能を盛り込めない

か、検討していると話す。

「チーム医療においては、関与する全スタッ

フによるコミュニケーションが必要と先に

述べましたが、それを支援するために多

職種共有チェックリストを作成し、職種

を超えた進捗管理と、全体の流れと担当

部署の関係が把握できるようにすればよ

いのではないかと、現在院内で検討中で

す。例えば、周術期管理チームの術前

チェックリストの内容は膨大なもので、現

在はこれらのチェックを各スタッフが行

い、それを持ち寄って確認しているのが現

状です。このチェックリストをクリニカル

フローで表示して、周術期管理チームの

スタッフ全員が進捗状況を把握できるよ

うになればよいと考えています。

 

富士フイルムには〝仏〞を作ってもらっ

たので、今後我々はそれに〝魂〞を入れ

たいと思っています」

 

長瀬氏は、さらにクリニカルフローの新

たなニーズを模索している。

「医療の質向上のために、保険診療等で必

須とされる文書だけでなく、入院患者へ

の質問票や術前カンファ文書、そして死

亡カンファ文書などは医療安全上のガバ

ナンスを可視化する上で必要ではないで

しょうか。

 

他にも、詳細情報画面を活用してのカ

ンファレンスやプレゼンテーションへの支

援、リソースナースと言われる認定看護

師の活動の可視化など、マネジメントシ

ステムとしてクリニカルフローを活用する

ことが考えられます。目標を共有したチー

ム医療推進により、多職種協働など、一

層の業務連携が整うでしょう。

 

また、コミュニケーションも支援するマ

ネジメントの導入により、成果も共有さ

れます。クリニカルフローの導入により、

プロセスが可視化・最適化され、業務標

準化や効率化だけでなく、医療の質向上

が進むはずです。加えて、病院経営面に

おける適正な保険診療の実施と保険指導

対策だけでなく、ビッグデータ活用によ

る医療の質可視化や臨床指標導入による

ベンチマーキングなどにも使えるのではな

いでしょうか。

 

クリニカルフローが、クリニカルパスに

呼応する概念に育ってほしいですね。ク

リニカルフローを用いることで、専門家の

視点だけでなく、患者の視点で医療に対

するニーズを解決してほしいですし、業

務効率化・標準化や医療安全への配慮な

ど、マネジメントやコミュニケーションも

改善してほしいと願っています」

入院病棟で使用されているクリニカルフロー画面。同システムは、入院患者の診療プロセスや検査・手術に対する同意書の有無等、保険診療を実施する上で診療の進捗管理と、チーム間での情報・データ共有に貢献している

クリニカルフローの連携データ種。病院情報システム内の各システムとデータを共有、大量データの検索・表示に適したテーブル構造で、パフォーマンスを維持するとともに、全患者を対象とした自由検索も可能である

クリニカルフローの利用者ホーム画面。利用者が必要とする対象患者の一覧だけでなく、診療プロセスの進捗情報やその漏れ等の確認ができ、診療状況の可視化やチーム医療に貢献するだけでなく、適正な保険診療の実施確認や入院基本料算定の担保等、経営支援にも貢献する

統合データファインリングシステム

「CITA Clinical Finder

統合診療支援プラットフォーム

〝現在〞の医療の進捗管理を実現

さまざまな医療場面での応用が可能

クリニカルフロー

▼岐阜大学医学部附属病院

マルチベンダーによるデータ共有とシステム間連携で診療の進捗管理と

適正な保険診療を実現する革新的な診療支援システムを開発

1969 年岐阜県生まれ。1994 年岐阜大学医学部卒。1996 年同大学附属病院麻酔蘇生科助手、同年県立岐阜病院、2002年岐阜大学大学院医学研究科卒。同医学部附属病院麻酔蘇生科助手、2004 年同院高次救命治療センター助手、2006年同講師、2008 年より同院手術部副部長

長瀬 清(ながせ・きよし)氏

手術部は、2008年に高次救命治療セ

ンター手術部門から分離・新設された部

署である。手術部は急性期医療を担う岐

阜大学医学部附属病院の基幹部署である

ことから、副病院長が手術部長を兼務し

ており、安全面や標準化への配慮だけで

なく、病院経営方針に合わせて迅速に対

処できる業務体制を整えている。この手

術部の提案を受け、病院情報システムの

1機能として開発されたのが「クリニカル

フロー」である。同機能開発の経緯とコン

セプト、およびその有用性について、開発

を主導した手術部副部長の長瀬

清氏に聞

いた。

岐阜大学医学部附属病院

手術部

副部長

長瀬

清氏に聞く

In

te

rv

ie

w

 

手術部副部長の重職にありながら、病

院情報システム構築に積極的に携わって