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地域調査情報 16-1 2004.5.19 地元企業主体によるPFI事業参画へのポイント SHINKIN CENTRAL BANK 視点 「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(通称PFI法) の施行(1999 年)以来、 PFI事業の数は 140 件にも至っている。従来型公共事業のPF I事業への置き換えが公共事業費のパイ縮小傾向の中で進んでいることに加え、現時点で はゼネコンをはじめとする大手企業のPFI事業参画が目立っているため、建設業者をは じめとする地元企業の受注量減少への危機感は高まっている。ただし、危機感を持ちつつ もどのように取り組めばよいのか等をはじめとしたPFIに対する情報の不足からかPF I事業参画に向けた具体的な取組みにまで至らない地元企業も少なくないと思われる。 そこで本稿では地元企業がPFI事業落札(優先交渉権の獲得)までに取り組むべきこ とや企画提案書作成における留意点・課題とその克服方法を検討する。さらに信用金庫は、 地元企業のPFI事業参画に向けてどのような役割が発揮できるのかも考えてみたい。 要旨 z PFI事業参画において地元企業に必要な要件は、①競争力のあるコンソーシアムを 組むための独自性や専門性などの強み、②資金調達等のための信用力である。 z 地元企業が落札(優先交渉権の獲得)までのプロセスにおいて取り組むべきことは、 ①大手企業に遅れを取らずに動き出せる体制づくりと、②高い評価を得るために地元 ならではの提案内容を企画提案書に盛り込むことである。 z 地元企業の企画提案書作成までの課題は、①多方面の高度な知識・ノウハウの習得、 ②積極的な人的・資金的投資、③信頼できるパートナーの確保である。 z これらの課題解決に向けて取り組むべきことは、①実務経験者等が講演する研究会・ 勉強会への参加、②大手企業のコンソーシアムへの参加などが考えられる。 z 信用金庫が地元企業のPFI事業参画に向けて果たすべき役割は、①競争力のあるコ ンソーシアム形成に向けたコーディネーター機能の発揮、②研究会・勉強会の開催、 ③審査能力の発揮などで、行政に対しても①PFIに対する意識改革・体制づくりの 促進、②情報提供等による事業の企画立案のサポートを行うべきである。 キーワード PFI、社会資本整備、コンソーシアム、運営重視型 地域調査情報 16-1 S C B 総合研究所 〒104-0031 東京都中央区京橋3-8-1 TEL.03-3563-7541 FAX.03-35 URL http://www.scbri.jp SHINKIN CENTRAL BANK (2004.5.19)

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地域調査情報 16-1 2004.5.19

地元企業主体によるPFI事業参画へのポイント

SHINKIN CENTRAL BANK

視点

「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(通称PFI法)

の施行(1999 年)以来、PFI事業の数は 140 件にも至っている。従来型公共事業のPF

I事業への置き換えが公共事業費のパイ縮小傾向の中で進んでいることに加え、現時点で

はゼネコンをはじめとする大手企業のPFI事業参画が目立っているため、建設業者をは

じめとする地元企業の受注量減少への危機感は高まっている。ただし、危機感を持ちつつ

もどのように取り組めばよいのか等をはじめとしたPFIに対する情報の不足からかPF

I事業参画に向けた具体的な取組みにまで至らない地元企業も少なくないと思われる。

そこで本稿では地元企業がPFI事業落札(優先交渉権の獲得)までに取り組むべきこ

とや企画提案書作成における留意点・課題とその克服方法を検討する。さらに信用金庫は、

地元企業のPFI事業参画に向けてどのような役割が発揮できるのかも考えてみたい。

要旨

PFI事業参画において地元企業に必要な要件は、①競争力のあるコンソーシアムを

組むための独自性や専門性などの強み、②資金調達等のための信用力である。

地元企業が落札(優先交渉権の獲得)までのプロセスにおいて取り組むべきことは、

①大手企業に遅れを取らずに動き出せる体制づくりと、②高い評価を得るために地元

ならではの提案内容を企画提案書に盛り込むことである。

地元企業の企画提案書作成までの課題は、①多方面の高度な知識・ノウハウの習得、

②積極的な人的・資金的投資、③信頼できるパートナーの確保である。

これらの課題解決に向けて取り組むべきことは、①実務経験者等が講演する研究会・

勉強会への参加、②大手企業のコンソーシアムへの参加などが考えられる。

信用金庫が地元企業のPFI事業参画に向けて果たすべき役割は、①競争力のあるコ

ンソーシアム形成に向けたコーディネーター機能の発揮、②研究会・勉強会の開催、

③審査能力の発揮などで、行政に対しても①PFIに対する意識改革・体制づくりの

促進、②情報提供等による事業の企画立案のサポートを行うべきである。

キーワード

PFI、社会資本整備、コンソーシアム、運営重視型

(2004.4.)

地域調査情報 16-1

S C B 総合研究所 〒104-0031 東京都中央区京橋 3-8-1 TEL.03-3563-7541 FAX.03-3563-7551 URL http://www.scbri.jp

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(2004.5.19)

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1.PFIの概要

(1)PFIとは

PFI(Private Finance Initiative)とは、民間の資金やノウハウを活かした社

会資本整備等のことである。行政は従来型の公共事業の場合、計画立案から執行まで

すべての活動を行っていたが、PFIの場合、計画立案および監視機能のみを担う。

事業については民間事業者が実施する。民間事業者は、自らの創意工夫のもと設計か

ら建設、維持管理、運営までの一連のプロセスを最も効率的かつ効果的に実施する方

法を考える。その主たる目的は、行政と民間事業者による適切なリスク管理により事

業期間全体のコストを縮減し、併せて民間事業者の経営ノウハウや先進的な技術力を

導入して公共サービスの向上を図ることである。

PFIは 1992 年にイギリスで導入された政策手法であるが、日本でも財政悪化に

よる公共事業費の削減圧力等を背景として、1999 年9月に「民間資金等の活用による

公共施設等の整備等の促進に関する法律」(通称PFI法)が施行され、PFIによ

る社会資本の整備、運営等が行われるようになった。

PFI事業の三大プレーヤーは、行政、民間事業者、金融機関である。民間事業者

は、代表企業を立ててコンソーシアム(事業者グループ)を形成し企画提案書を作成

の上PFI事業に応募する。コンソーシアムを構成するのは、設計、建設、維持管理、

運営を担う各企業である。事業落札後、コンソーシアム構成企業はSPC(Special

1.PFIの概要

(1)PFIとは

(2)PFI事業の動向

(3)地元企業が利益を維持・拡大するにはコンソーシアムを組むことが必要

2.地元企業がPFI事業の落札(優先交渉権の獲得)に向けて取り組むべきこと

(1)地元企業に必要な要件

(2)落札(優先交渉権の獲得)までのプロセスにおける留意点

(3)企画提案書の内容と作成時の留意点

(4)地元企業主体で企画提案書を作成するまでの課題

(5)課題解決のために考えられる対応

3.地元企業の取組み事例

【事例1】㈱ナルックス

【事例2】㈱岡山スポーツ会館、蜂谷工業㈱

4.地元企業の企画提案書作成における信用金庫の役割

(1)地元企業に対する役割

(2)行政に対する役割

おわりに

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Purpose Company)(注)1を設立し事業主

体となる。金融機関が三大プレーヤーの

一員であるのは、SPCの事業実施に必

要な資金の融資で重要な役割を果たす

からである。通常SPCへの融資はプロ

ジェクトファイナンス方式で行われる。

PFI事業の代表的なスキームは図

表1のようになる。

なお、三大プレーヤーのほか、一般的

に民間事業者側、行政側がFA(ファイ

ナンシャルアドバイザー)や弁護士、技

術コンサルタント等の外部専門家を雇

う。

(2)PFI事業の動向

イ.増加する事業数と高まる行政の関心

1999 年のPFI法施行以来、2004 年3月 31 日現在に至るまで、行政により実施方

針(当該事業を実施することを広く周知させることを目的としたもの)が策定・公表

されたPFI事業は 140 件(注)2である。

事業主体別には、国(独立行政法人を含む)が 32 件、地方自治体が 109 件となっ

ている(国と地方と共同のものをそれぞれ1件としている。)。図表2のとおり、1999

年度以降、実施事業数は増加基調を辿り、最近2か年は年間 48 件に達し、2002 年度

からは国からの発注事業も増えている。地

域別では、東京都、神奈川県、千葉県、大

阪府など、大都市圏の都府県の割合が高い

が、島根県八雲村(人口約 7,000 人)や兵

庫県八鹿町(人口約 12,000 人)といった小

規模町村でもPFI事業が行われ始めてい

る。

次に行政のPFIへの関心を日経産業消

費研究所の調査(注)3でみると、全国 47 都

道府県、677 市・東京 23 区において、2003 年3~5月時点でPFIを「導入済み」

の自治体は 6.6%、「導入予定」が 2.9%、「導入を検討」が 51.8%であり、全体の

約6割がPFI導入に前向きであることがわかる。ちなみに、同研究所が 2002 年3

(注)1特定目的会社のこと。特定事業の実施を目的に設立される会社であり、PFIにおいては、P

FI事業以外は行わない。PFIの契約期間が終了すれば解散する。 (注)2当レポート発行(2004 年5月 19 日)までに断念された事業を除く。 (注)3日経産業消費研究所「本格化するPFI活用」『日経地域情報(№417)』(2003 年 6 月 16 日

号)

(注)直接契約(ダイレクト・アグリーメント)とは、民間事

業者の事業遂行が困難となった際に、資金供給を行った金融機関が事業の修復を目的に事業へ介入することについて行政と金融機関が取り交す契約のこと。

(備考)信金中金総合研究所作成

(図表1)代表的なスキーム

行政

SPC 金融機関

設計会社 建設会社維持管理会

社企画運営会

コンソーシアム

利用者 事業契約

各業務に関する契約

サービス提供

出資

利用料金

直接契約

融資

(注)

(備考)PFIインフォメーション(㈱PFIネット) より信金中金総合研究所作成

(図表2)年度別PFI事業数

計 地方自治体 国 等1999年度 3 32000年度 12 122001年度 29 28 12002年度 48 27 212003年度  48 39 10

計 140 109 32

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~4月に行った同様の調査では、PFI導入に前向きな自治体は4割弱であり、自治

体のPFIに対しての関心度合いの高まりが窺われる。

また、市・区の導入状況を人口規模別に見ると、「導入済み」と「導入予定」を合

わせた割合が最も多いのは人口 40 万人以上の自治体で 36.1%に達する。これに対し

5万人未満の市・区では「導入済み」はなく、「導入予定」も 1.8%にとどまってい

るものの「導入を検討」している自治体は 43.6%にのぼり、今後のPFI事業の裾野

の拡がりが期待される。

このように実際の事業数が増え、関心が高い自治体が多いのは、PFI導入によっ

て、①財政支出の軽減、②財政負担の平準化(民間のサービス提供に対し、行政は毎

年一定の対価を支払う。)、③公共サービスの質の向上、④行政、民間事業者の適切

なリスク分担によるリスク管理コストの削減、⑤行政経営の改善(顧客である住民重

視の姿勢への転換)などのメリットが得られるためである。

特に財政面で危機感を持つ行政は多く、公共事業を削減させながらさらに従来型公

共事業をPFI事業に置き換えていくことが今後増加すると予想される。

ロ.今後、「運営重視型」事業の増加が予想される

PFI法が定

める「公共施設

等」には、道路、

鉄道、港湾、庁舎、

廃棄物処理施設

や情報通信施設

など多様な施設

が含まれ、民間事

業者にとっての

ビジネスチャン

スは多岐にわた

るが、PFI導入

にあたっては、法、

基本方針、ガイド

ラインに則り、民

間事業者に対し

て一般的に①専

門性や創意工夫の発揮、②公共サービスの向上あるいは公的財政負担の軽減(VFM

(備考)1.2004 年3月 31 日現在

2.九段第3合同庁舎・千代田区役所本庁舎整備等事業(国土交通省・東京都千代田区)を国等と

地方自治体でそれぞれ一件としてカウントしているため、小計を足したものと総計は一致しない

3.PFIインフォメーション(㈱PFIネット)より信金中金総合研究所作成

(図表3)事業分野別事業数

事業分野(大分類) 事業分野(小分類) 国等 地方 計

教育と文化 小中学校・高校 6 6大学・試験研究機関 16 16社会体育施設 4 4給食センター 5 5文教その他 2 4 6文化施設(公民館・市民ホール、図書館、美術館、文化交流施設等) 6 6

生活と福祉 福祉・老人福祉施設等 11 11健康と環境 医療施設(病院、保健衛生施設、衛生試験場) 5 5

廃棄物処理施設(ごみ処理施設、廃棄物循環型社会基盤施設) 15 15斎場 4 4

産業 商工業振興施設(観光施設、漁港、インキュベーション) 5 5まちづくり 道路・駐車場・駐輪場 3 3

都市公園 5 5下水道施設 7 7港湾施設 4 4公営住宅 3 3市街地再開発事業 2 2

庁舎と宿舎 事務庁舎・宿舎 14 5 18複合施設等 複合施設等 15 15

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による評価(注)4)、③リスクの軽

減・除去への対応、④事業の適正

な実施と継続、が求められる。

これまで実際には庁舎、宿舎、

病院、大学、小中学校、図書館、

美術館、駐車場、廃棄物処理施設、

余熱利用施設などでPFIが導入

されており、これを事業分野別事

業数でみると「九段第3合同庁

舎・千代田区役所本庁舎整備等事

業」をはじめとする庁舎・宿舎が

最も多く、「京都大学(桂)総合研

究棟Ⅴ(桂)福利・保健管理棟施

設整備事業」のような大学・研究

施設や廃棄物処理施設、複合施設がそれに続いている(図表3)。

導入当初のPFI事業は、庁舎・大学のように施設の設計、建設が主体のいわゆる

「箱モノ」事業が多かった。現在、PFIの導入が検討されている事業においても、

箱モノ事業が多い「教育文化」分野が依然として多い(ただし、「庁舎」は減少して

いる)。しかしながら足元では「廃棄物処理施設」、「医療」、「保健衛生」分野の

事業など運営業務のウエイトが高い「運営重視型」事業の割合が高まりつつあり、事

業分野の多様化もみられる(図表4)。

ハ.受注企業が利益を確保できる事業規模

は 20 億円~30 億円

日本で行われているPFI事業には、高

知県・高知市による「高知医療センター整

備運営事業」のような約 2,300 億円の大型

案件もあるが、「岡山県当新田環境センタ

ー余熱利用施設整備・運営事業」や「仙台

市松森工場関連市民利用施設整備事業」の

ように事業規模 10億円~50億円が最も多

い(図表5)。

一般的に、外部専門家にかかる費用だけ

でも 2,000 万円~3,000 万円(例えば、弁

(注)4VFM=バリュー・フォー・マネー:行政の支払額(マネー)に対する公共サービス価値(バ

リュー)を表す概念。行政が自ら実施する場合の事業期間全体を通じた公的財政負担額とPFI事

業として実施する場合の公的財政負担額の見込み額の現在価値を比較し、後者が前者を下回った場

合にVFMが出る、という。

33

65

7

0

7

0

8

3

5

2

01 1

0 0

2

4

1

15

32

10

6 65

43 3

2 2 2 2 21 1 1

0 0 0

5

0

5

10

15

20

25

30

35

宿

健衛

2003年度

2001年度

(図表4)検討されているPFI事業の施設種類

(備考)内閣府「PFIに関する全国自治体アンケート」(2003年度)   より信金中金総合研究所作成

(図表5)事業規模別事業主体別事業数

(備考)1.2003 年 11 月 30 日現在 2.PFI推進委員会の資料より 信金中金総合研究所作成

7

4 3 21

5

22

1

2

1 3

4

8

3 2

4

1

1

1

0

5

10

15

20

25

10億円未満 10億円~ 50億円~ 100億円~ 200億円~ 1000億円~

事業規模

その他

事務組合

市区町村

政令市

都道府県

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(図表6)受注企業ランキング(4件以上受注の企業)

企業名 件数大林組 12

新日本製鐵 10大成建設 9鹿島建設 7

ハリマビステム 6佐藤総合計画 5三菱商事 5伊藤忠商事 4清水建設 4竹中工務店 4

東畑建築事務所 4西松建設 4日建設計 4三井物産 4

(備考)1.2003 年 11 月8日現在 2.日本PFI協会『PFI年鑑 2004 年版』より信金中金総合研究所作成

護士費用約 500 万円~1,000 万円、技術コンサルタント費用約 1,000 万円~1,500 万

円)かかるため、受注企業が利益を確保するためには 20 億円~30 億円の事業規模が

必要だといわれている。

ただし、行政のPFI導入ニーズの高さから、「鎌倉市山崎地区屋内温水プール施

設整備事業」(事業場所:神奈川県鎌倉市)や「高浜市新型ケアハウス事業」(事業

場所:愛知県高浜市)のように 10 億円を下回る事業も出始めてきた。

ニ.大手企業主導で全国ベースの受注競争が展開

民間事業者は、PFI事業に参画することで、

一般的に長期にわたる安定した収入に加え、こ

れまで行政が行っていた事業を民間に移転す

ることによる事業機会の増大などのメリット

が得られる。

PFI事業が地元・非地元問わず民間事業者

に参画・競争を促すという公平性の原則のもと

で行われるものであるといった背景もあり、こ

れまでのPFI事業は、上記のメリットの享受

を狙い積極的にノウハウの蓄積を図ろうとす

る大手ゼネコン、大手商社主導による全国ベー

スの受注競争が進められてきた(図表6)。

このためPFI導入が進むことによって受注

機会が減少するのではないかという危機感を

増大させている地元企業(特定の地域を営業基盤としている企業)も少なくないであ

ろう。

(3)地元企業が利益を維持・拡大するにはコンソーシアムを組むことが必要

危機感を持っている地元企業

の中には、PFI事業に参画した

いが、何をいつまでに取り組む必

要があるのか等のPFIに対す

る情報不足等もあり、応募に向け

た具体的な取組みにまで至れな

い企業も少なくないだろう。

地元企業のPFI事業参画形

態としては①協力会社としての

参画、②大手企業とコンソーシア

ムを組んでの参画、③地元企業主

地元企業のメリット 地元企業のデメリット

協力会社としての参画 企画提案書作成など煩雑な

作業の回避

収益性が低い

大手企業と組んでの参画

収益性の向上

地元へのアピール

多様な事業分野への参画

大手企業のリーダシップに

よる業務の円滑な進展、地

元企業の負担軽減

大手企業主導の業務推進

によるメリットの縮小

地元企業主体での参画

収益性の極大

より強い地元へのアピール

企画提案力の向上

事業規模拡大の可能性

業務推進にかかる地元企

業の負担増

(備考)信金中金総合研究所作成

(図表7)地元企業の参画形態とメリット/デメリット

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体での参画があげられ、各参画形態には図表7のようなメリット/デメリットがある。

イ.協力会社としての参画では利益率が低位にとどまることが多い

PFI事業には地元企業は参入しにくいことが懸念されているが、大手企業が受注

しても実際の建設や維持管理は、従来型の公共事業と同様、協力会社としての地元企

業が請け負うことも多い(大手企業の系列である場合が多い。)。

協力会社としてPFI事業に参画する場合、コンソーシアム構成企業ではないこと

からPFI事業への応募にかかる企画提案書作成などの煩雑な作業は回避できる。し

かし、PFI事業が効率性を重視することから下請けとなる地元企業の利益率も低位

にとどまっているといわれている。従って地元企業は今後、自らの生き残りを賭けた

利益の維持・拡大のために協力会社としての参画に加えて、大手企業とコンソーシア

ムを組んでの参画や地元企業主体での参画も積極的に検討する必要がある。

ロ.大手企業と組めば収益性の向上や多様な事業分野への参画などが期待できる

最近では地域経済への配慮など発注者側の行政の意向もあり、大手企業と地元企業

がコンソーシアムを組んで事業に参画しているケースも少なくない。

地元企業は、このように下請けではなくコンソーシアムの構成企業になることで収

益性の向上、インターネット・新聞等に名前が公表されることによる地元へのアピー

ルが期待できるほか、大手企業の技術力等を活かして多様な事業分野に参画できる可

能性がある。

ただし、代表となる大手企業が役割分担や利害調整、事業計画策定等でリーダーシ

ップを発揮してPFI事業を推進してくれる反面、その分地元企業が享受できるメリ

ットは限定的になる可能性が高い。

ハ.地元企業主体での参画が理想的

(イ)今後、小規模かつ運営重視型事業では参画できる可能性が高まる

現在PFI事業に積極的に参画している大手企業は案件の増加に伴い、今後応募す

る事業の選別を始めると考えられる。すなわち、実績積み上げが一巡しつつあること

から、小規模案件よりも収益性のより高い国等による大型の案件に傾注する可能性が

高いだろう。

それにより地方の小規模PFI事業では大手企業が参入せず、地元企業主体でコン

ソーシアムを組めなければ成立しなくなる可能性も考えられる。そこでこれをビジネ

スチャンスと捉える地元企業には、地元行政が発注する小規模なPFI事業は自分た

ちのプロジェクトであり、ビジネスチャンスであるという認識を持ち、PFI事業に

主体的に参画できるよう準備しておくことが求められる。

また今後増加するであろう運営重視型事業では、民間の創意工夫の余地が大きく、

地元色を出しやすいことに加えて、運営事業者の選定において行政が地元での運営実

績を重視するケースがある。よって運営重視型事業が増加すれば、地元ニーズを的確

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に把握し事業展開する力がある地元企業が落札(優先交渉権の獲得)する可能性が高

まると考えられる。

例えば、「長岡市高齢者センターしなの整備、運営および維持管理事業」(事業場

所:新潟県長岡市)のような福祉施設の整備運営事業では、地元の社会福祉法人が運

営企業としてコンソーシアムに入っているケースがいくつかある。

したがって、特に小規模で運営重視型のPFI事業であれば、競合も少なく地域性

を発揮しやすいため、地元企業は落札(優先交渉権の獲得)しやすい。小規模事業で

実績を積み上げれば、より大規模な運営重視型の事業において、受注できる可能性が

高まり、事業規模を拡大できるチャンスを掴めよう。

(ロ)収益の極大化、企画提案力の向上が期待できる

地元企業自らが主体となってコンソーシアムを組成しPFI事業に参画すれば、大

手企業と組む場合と比べて、①収益の極大化、②より強い地元へのアピール、③ノウ

ハウの蓄積による企画提案力の向上が期待できる。

①については、地元企業がリーダーシップを発揮する場合、大手企業が主導する場

合に比べ地元企業の収益はより多くなるだろう。

②については、コンソーシアム代表企業となれば、大手企業と組み構成企業の一員

となることに比べ、新聞・公報などに取り上げられるケースが多くなる。建設業者な

どは代表企業となることで、地元での評価が高まり受注増につながることも考えられ

よう。

③については、PFI事業は行政が施設の仕様や工法・資材などを指定する仕様発

注方式ではなく、サービス内容や水準のみを行政が明示し、その達成手段は民間事業

者が自由に企画提案する性能発注方式で行われる。よって自らが中心となって業務遂

行を行うことにより企画提案力の向上が見込め、それはPFI事業以外の民間企業等

による事業公募に応じる場合にも役立つはずである。

地元企業主体での参画は理想的であるが参画するためには備えるべき要件や業務

推進にかかる留意点、克服すべき課題がある。

そこで以下では、地元企業主体のコンソーシアムによるPFI事業参画のポイント

について特に前提として備えるべき要件や事業落札(優先交渉権の獲得)までの留意

点、課題を取り上げ、それらの克服方法について検討したい。

2.地元企業がPFI事業の落札(優先交渉権の獲得)に向けて取り組むべきこと

(1)地元企業に必要な要件

地元企業はPFI事業への参画を検討する際、前提となる以下の要件を満たしてい

るかをチェックする必要がある。

イ.競争力のあるコンソーシアムを組むための独自性や専門性などの強み

地元企業主体で競争力のあるコンソーシアムを組むには、設計、建設、維持管理、

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運営を担う各企業が、独自性や高い専門性など同業他社にない強みを有していること

が必要である。例えば、建設業者ならば空調関係や給排水、電気関係などでは地域で

一番であるとか、福祉施設の建設では、大手企業にも引けをとらないなどである。ま

た、運営業者ならばスポーツ施設やケアハウスの運営ではノウハウが蓄積されている

とか、維持管理業者ならば機械警備の分野には強い等である。なお、コスト削減能力

は、VFMに直接反映するため全業種に共通した強みと考えられる。

ロ.資金調達等のための信用力

PFI事業は一般的に事業期間が 10~30 年と長期にわたることから行政は、コン

ソーシアムに対し、事業期間中万が一運転資金不足に陥った場合を想定して、金融機

関に対し、融資枠の設定を求めることがある。

また、PFI事業における建設期間中のファイナンスはSPCから工事請負契約を

受注した建設会社がコーポレート・ファイナンスで賄うことが多いため、一定以上の

資金調達力が必要となる。

従って、経営事項審査点数など一般的な公共事業の入札参加資格を満たしているこ

とはもちろんのこと、財務面等で信用力がない企業や過去の業務における納期・品質

などのパフォーマンスや技術力等で信用力がない企業は、PFI事業への参画が困難

になる。

(2)落札(優先交渉権の獲得)までのプロセスにおける留意点

PFI事業に実際に参画しようとする場合、図表8

の行政側のプロセスに従うことになるが、ここでは地

元企業が各プロセスにおいて取り組むべき内容を整理

する。なお、PFI事業では各段階でPFI導入可能

性調査の結果や実施方針などが公表されるが行政のホ

ームページを利用するほか、行政の担当部署での書面

の閲覧・入手が可能である。

なお、各プロセスにおいて地元企業は、事業性の評

価を行う必要がある。最初の段階での事業性評価は、

行政による公表資料の制約から限定的なものになろう

が、PFI事業が効率性を重視することや事業期間が

長期におよぶことに加えて、これまでのPFI事業の

中には民間事業者が過度のリスク負担をしている事業

もあると言われることから事業性の評価は重要である。

イ.PFI導入可能性調査、実施方針の策定および公

表段階で取り組むこと

PFI導入可能性調査とは、ある公共事業にPFI

特定事業の評価・選定、公表

民間事業者の募集、評価・選定、公表

協定等の締結等

事業の終了

事業の実施、監視等

PFI事業落札までのプロセス

PFI事業落札後のプロセス

PFI導入可能性調査の実施

実施方針の策定および公表

(図表8)行政側のPFI事業のプロセス

(備考)信金中金総合研究所作成

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を導入した場合のメリット、デメリット、課題等を整理し、導入すべきか否かを行政

側で調査することである。

一般的に大手企業は、PFI導入可能性調査の段階で応募に向けて水面下で動き出

しており、どの企業と組み、どのように事業を組み立てるかなどのストーリーを描い

ている。よって地元企業は、なるべく大手企業の動きに遅れをとらぬよう定期的に行

政のホームページや担当部署で情報収集を行う必要がある。逸早く事業の存在をつか

み、少なくとも実施方針が公表された段階では、自社の強みが活かせる事業であるか

等を検討し、事業性を評価のうえ参画の適否を決断したい。参画を決めた後、コンソ

ーシアムの組成を検討することになるが、大手企業をはじめとする競合他社とパート

ナーとなる地元企業の奪い合いが起こる可能性があるため、候補となる地元企業への

迅速な打診が必要である。

なお実施方針には、事業の目的、範囲、期間のほか、民間事業者の選定基準や募集・

選定のスケジュール、応募資格要件、施設・運営仕様、リスク分担のあり方などが含

まれている。

ロ.特定事業の評価・選定、公表段階で取り組むこと

実施方針の公表後、民間からの意見の受付、回答プロセスを経て、PFI導入によ

りVFMが見込めると評価された場合に当該事業が特定事業として選定・公表される。

この段階ではVFMの算定結果が出されることから、地元企業は企画提案書を作成

する際の参考として目を通しておく必要がある。

ニ.民間事業者の募集、評価、選定段階で取り組むこと

特定事業の選定の後、募集要項が作成・公表され、実際にPFI事業を実施する事

業者の募集、企画提案書の受付、審査が行われる。

審査には一次審査と二次審査があり、民間事業者は落札(優先交渉権の獲得)まで

に段階に応じて二つの企画提案書を作成する。一次審査では①必要とされる資格およ

び事業遂行能力を有していること、②事業にかかる提案内容が一定の要求を満たして

いることが審査される。一次審査段階での企画提案書には設計、建設から維持管理、

運営までの各業務に対する当該コンソーシアムの考え方など提案の概要となるもの

を盛り込む。また、二次提案書には、通常、①一次提案書の内容をより具体的にした

ものに加え、②提案価格を盛り込み、技術面と価格面の審査を受ける。審査において

は学識経験者、地元関係者、行政職員等から構成される審査委員会が組織されるのが

一般的で、審査基準に則って各企画提案書を審査のうえ落札企業(優先交渉権者)が

決定される。通常一次審査で3~5社程度に絞られ、二次審査で最終落札企業(優先

交渉権者)が決まる。

事業の規模にもよるが募集から一次提案書提出まで通常約2、3カ月程度しかない

ため、地元企業には逸早い募集要項の入手が必要である。

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(3)企画提案書の内容と作成時の留意点

イ.企画提案書の内容

コンソーシアムの組成後、直ちに募集要項にしたがって企画提案書の作成を行うが、

企画提案書の内容によって落札(優先交渉権の獲得)できるかが決まるため、この作

業がPFI事業落札(優先交渉権の獲得)に向けて重要となる。

企画提案書には一般に、①各施設に対する具体的な仕様項目(規模・構造、安全性、

機能性、利便性、環境性、魅力度、地域景観への配慮、環境保全策など)、②各施設

でのサービス内容(営業日数、営業時間、独自プログラム、料金、メニューなど)、

③保守点検計画、修繕計画に加え、④事業計画(事業スキーム、提案価格、資金調達

計画、計数計画、リスク管理方針など)などを盛り込む。

それぞれについて、行政が要求するサービス水準等を示した要求水準書および評価

の視点や評価点の配分を示した事業者選定基準書の内容を参考に行政の指定する様

式に従い作りあげていく。

ロ.作成時の留意点は独自性の発揮を心掛けること

落札(優先交渉権の獲得)できる企画提案書とするためには、発注者の意図に沿い

事業全体のコスト削減策などをアピールすることは前提として、それに加えてはっき

りと他社と差別化できる点を盛り込み、審査委員から高い評価が得られるよう努力す

る必要があるだろう。

そこで地元企業は、企画提案書の作成にあたり設計、建設、運営、維持管理それぞ

れの側面で地元ならでは、自社ならではの提案内容を盛り込むなど独自性の発揮を心

掛けたい。

設計・建設面では、短工期・低コストで行うことや機能面での付加価値をつけるこ

とはもちろんのこと、地域の景観への配慮も積極的にアピールすべきである。運営面

は、最も独自性ある提案内容が盛り込める部分であろう。例えば、給食事業の運営に

おいて地元の食材を用い、地元ならではの調理方法で、地域住民の味覚にあった食事

を提供する地産地消によるサービス提供を盛り込むことも考えられる。その他、維持

管理面では地元に拠点があることによるサービスの迅速性・機動力をアピールするな

どがある。事業計画では、赤字を避けるため採算面を固く見積もることはもちろん、

地域での営業実績を基にした説得力のある市場予測、商圏分析による計数計画を策定

したい。

(4)地元企業主体で企画提案書を作成するまでの課題

地元企業が上記の留意点を踏まえ、高い評価を得られる企画提案書を作成するため

には、以下のような点が課題となる。

イ.多方面の高度な知識・ノウハウの習得

企画提案書を、募集から一次審査までの約2、3か月という短期間でまとめあげる

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ためには、スキームや事業方式、プロセスなどPFI事業にかかる多方面の高度な知

識の習得が必要である。また、設計から運営までのリスクを管理する方法やコスト削

減方法、サービス向上方法、企業間の役割分担の仕方等における独自性をいかにコン

パクトに提案書に落とし込んでいくかという、見せ方を含めた企画提案書作成のノウ

ハウも求められる。

例えば大手ゼネコン等では海外でPFI事業を経験した人材を活用したり、日本で

PFI事業が行われ始めた時期に積極的に取り組んだこともあり、現在ではある程度

の知識・ノウハウが蓄積されている。一方、地元企業はそもそも一地域内でのPFI

事業が現時点では多くないこともあり、知識・ノウハウの蓄積が十分でない場合が少

なくないと考えられる。

ロ.知識・ノウハウの不足をカバーするための積極的な人的・資金的投資

知識・ノウハウの不足をカバーするには、①外部専門家を活用する、②PFI担当

者を配置・育成する、など、資金面、人材面での積極的な投資が必要になる。

一つ目に関して、FAや弁護士、技術コンサルタント等を雇うことになるが、それ

には概ね 2,000 万円~3,000 万円かかるといわれている。二つ目に関しては、高度な

専門知識・ノウハウの習得に加えて短期間で膨大な事務作業をこなさなくてはならな

いため、社内でも優秀な人材をPFI担当として配置・育成していく必要がある。具

体的には、向学心があることはもちろんPFIにかかる高度な専門知識・ノウハウを

ベースとしながら技術面、財務面等に詳しい自社内外の人材を企画提案書作成のため

に上手に使いこなせるマネジメント能力や外部専門家のアドバイスを企画提案書に

正確に反映させられる能力などが求められる。

事業を落札(優先交渉権の獲得)できなければ、これらの投資はほとんどが無駄に

なってしまう可能性がある。PFI事業を一度以上経験している企業とコンソーシア

ムを組んで当該企業の知識・ノウハウの蓄積を活用し、外部専門家にかかる費用の軽

減を図ることなども考えられるが、いずれにせよ企画提案書作成のためにある程度の

投資は必要不可欠であろう。

ハ.業務推進円滑化のための信頼できるパートナーの確保

企画提案書を設計、建設、維持管理、運営それぞれの分野の地元企業が共同して短

期間でまとめるには、リーダーシップを取れる企業の存在に加えて各企業間の役割分

担が必要である。

経験豊富な大手企業が中心であれば、利害調整や事業性評価、プロジェクト管理面

でリーダーシップを取りながら提案書内の詳細な内容についても大手企業が責任を

持つかもしれない。一方、経験の少ない地元企業のみでコンソーシアムを組む場合、

代表企業が利害調整等でリーダーシップをとりながらも各業務内容や事業性など企

画提案書の詳細な部分については、各企業が相対的に得意な分野に基づいて責任を持

つことになる。

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したがって、提案書を作成できる能力と同時に、役割を任せられる信頼性があるパ

ートナーの確保が必要となってくる。

(5)課題解決のために考えられる対応

イ.実務経験者等が講演する研究会・勉強会への参加

研究会・勉強会に参加する目的は、①PFIに関する知識・ノウハウの習得、②情

報収集ルートの構築、③企業間のネットワーク形成を図ることである。

一つ目について、実際にPFI事業を経験した民間事業者、弁護士、FA等が講演

する研究会・勉強会ならば、法務面、事業計画面等における実務上のポイントなど生

の声を聞く事ができる。二つ目について、自治体のPFI担当職員などが参加してい

る研究会・勉強会であれば、情報収集ルートの構築を図ることができ、大手企業に遅

れずに動きだせる体制作りにもつながる。三つ目について、設計事務所、建設会社、

運営会社、維持管理会社など様々な業種が参加している研究会・勉強会ならば地元企

業間のネットワーク作りが期待でき、それが地元企業主体でコンソーシアムを組む際

の足がかりになるだろうし、大手企業が参加していれば大手とのパイプ作り等に役立

つ。

なおPFI事業の実務経験者、自治体職員、大手企業を含む多様な業種の企業が一

同に参加する研究会・勉強会は、商工会議所や日本PFI協会等の業界団体、金融機

関などによって主催されていることが多い。

ロ.効率的なノウハウ蓄積を目的とした大手企業のコンソーシアムへの参加

地元企業主体でコンソーシアムを組む前段階として自社内で企画提案書づくりを

完結できる大手企業のコンソーシアム構成企業になり、効率的なノウハウの蓄積を図

ることも有効である。すなわち実際のPFI事業に携わり、様々な議論が行われてい

るテーブルに着くことによる人材育成、知識・ノウハウの吸収が期待できる。ただし、

積極的に事業に関与していかなければ、下請けと変わらず、ノウハウの蓄積が進まな

いことに注意する必要がある。

また付随的な効果として投資負担の軽減も期待できる。仮にこの段階で地元企業の

担当者の育成が十分でなくても大手企業の人材によって企画提案書作成がうまく回

ることも考えられるし、地元企業の参入障壁になりうる外部専門家を雇う費用を軽減

できる可能性も高い。

大手企業としても地元企業をコンソーシアムに入れ、緊急時の迅速な対応など小回

りのよさ(機動力)等を活かしたいというケースが多いため、強みのある地元企業で

あれば大手企業のコンソーシアムに参加できる可能性は高まるであろう。

よって取引のある大手企業とのパイプは太くしておく必要がある。また、取引のな

い大手企業に対しては、大手企業が参加する研究会に参加して接点を持ったり、大手

企業と取引のある地元企業にアプローチするなどして、パイプ作りを図ることも考え

られる。

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3.地元企業の取組み事例

【事例1】㈱ナルックス

ここでは、ゼネコンを代表企業とす

るコンソーシアムの構成企業として

「四日市市立小中学校施設整備PF

I事業」に応募した地元企業の㈱ナル

ックスを取り上げる(図表9)。同社

は、四日市市を中心に事業展開するコ

ンクリート製品製造・建設施工業者で

ある。

なお本事業は、老朽化し

た小中学校4校に対し、解

体・撤去から設計・企画、

改築、維持管理までを一貫

して行う事業である。運営

業務が全く含まれていな

いため、建設重視型の事業

といえる。事業の概要は図

表 10、図表 11 のとおり。

応募から優先交渉権獲得までの経

同社は、資本関係があり、過去

に取引実績もあった事を背景に、

大成建設㈱からの打診を受けて本

事業にコンソーシアムの構成企業

として応募した(図表 12)。

コンソーシアムの代表企業を務

めた大成建設㈱は、会社の方針と

してPFIに限らず地方の仕事の

場合、地元のことをよく解ってお

り、かつ小回りの利く(機動力の

ある)地元企業と組んで取り組む

こととしている。四日市市から地

域経済への配慮が要請されていた

こともあるが、今回のPFI事業でも、資本関係があって信用力に関して理解してお

り、過去の実績で技術力にも信頼がおける㈱ナルックスに声をかけた。㈱ナルックス

は、大手企業とコンソーシアムを組むことでPFIにかかるノウハウを吸収できるほ

(図表9)㈱ナルックスの企業概要

所在地

(本社) 四日市市天カ須賀5-4-13

創業 1930 年

資本金 997,296 千円

従業員 170 名

代表取締役社長 生川 浩平

事業内容 コンクリート製品製造・建設施工業

(備考)㈱ナルックスホームページより信金中金総合研究所作成

優先交渉権者決定・公表

提案書(二次提案)の受付

実施方針等の公表

募集要項の公表

特定事業の選定

提案書(一次提案)の受付

一次審査結果通知

2003年2月4日

2003年6月26日

2003年9月5日~17日

2004年1月30日

2003年12月15、16日

2003年10月15日

2003年7月22日

57日間

62日間

119日間

(図表11)四日市市立小中学校施設整備事業のプロセス

(備考)四日市市資料より信金中金総合研究所作成

(図表 10)四日市市立小中学校施設整備PFI事業の概要

事業名 四日市市立小中学校施設整備PFI事業

発注者 四日市市

事業の内容・範囲 老朽化した小中学校4校の解体・撤去から設計・企画、改築、維持管

理までを行う

事業期間 20 年(建設期間を除く)

実施方針公表年月 2003 年2月

応募事業者数 7グループ

(備考)四日市市資料より信金中金総合研究所作成

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か、構成企業として名前

が公表されることによ

り地元貢献をアピール

できることを目的に参

加した。

なお、一次審査におい

て7グループから3グ

ループに絞られた後、二

次審査を経て当コンソ

ーシアムは当該事業の

優先交渉権を獲得した。

提案価格は、約 65 億3千万円であった。

これまで小中学校の建設事業は、1校ごとの入札であったため、金額の規模が小さ

く地元企業の受注が中心であった。しかし今回は、PFIを導入することで4校分を

同時に入札にかけたことに加え、受注企業の制限をなくしたため、大手企業の参画が

進んだ。大手企業と組んだ㈱ナルックスも従来から取り組んでいた小中学校の施設整

備に設計から維持管理までという一貫したかたちで関与することができた。ちなみに

㈱ナルックスは当該事業において学校の建設を担当している。

諸課題への対応方法

㈱ナルックスは、大成建設㈱から参画の打診があった段階で若手を含む3名からな

る研究チームを社内に作り、書籍購読やセミナー参加、大成建設㈱への相談などによ

り知識の蓄積に努めた。

また、外部専門家を雇う費用の負担は、全国でPFI事業の経験がある大成建設㈱

内の人材を活用することにより解消された。同時に提案書作成に関するノウハウの不

足ついても大成建設㈱に蓄積されているノウハウによってカバーされた。

さらに、大成建設㈱内のアレンジャー機能を担う組織が、PFIの応募にかかる手

続きやリスクの分担、ファイナンス面等においてリーダーシップをとり、コンソーシ

アム内の利害調整を行った。

この例のように、地元企業主体でPFI事業を落札(優先交渉権の獲得)する際の

課題は、実績のある大手企業と組むことでその多くが克服できる場合がある。ただし、

大成建設㈱が地元企業を活用するメリットを重視していたことに加え、㈱ナルックス

が堅実経営と技術力により大成建設㈱との良好な関係を維持し続けてきたことが背

景にあることを忘れてはならない。

では、地元企業は大手企業が代表となるコンソーシアムに構成企業として入った経

験を活かして、次回以降、自らが代表となって地元企業のみのコンソーシアムを組み、

PFI事業を落札(優先交渉権の獲得)することが出来るのであろうか。これを事例

2でみていく。

四日市市

SPC(大成建設グループ)

金融機関

設計会社建設会社

(大成建設)建設会社

コンソーシアム

事業契約

出資

直接契約

融資

(備考)四日市市資料より信金中金総合研究所作成

(図表12)四日市市立小中学校施設整備事業のスキーム

建設会社(ナルックス)

建設会社 維持管理会社建設会社

各業務に関する契約

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【事例2】㈱岡山スポーツ会館、蜂谷工業㈱

二つ目の事例として地元企業のみで

形成されたコンソーシアムにおいて代

表企業、構成企業を務め「岡山市東部余

熱利用健康増進施設整備・運営PFI事

業」に応募した企業2社を取り上げる。

㈱岡山スポーツ会館は 1972 年の設立以

来、岡山県内で7つの直営クラブを経営

し、1か所の業務委託、1か所の指導者

派遣、13 か所での教室開催を実施して

いる。中国、四国、九州地区ではトップ

クラスの事業展開をしている企業であ

る(図表 13)。一方、蜂谷工業㈱は、

岡山県を中心に中国、四国地区で事業展

開する岡山県でも有数の総合建設業者

である(図表 14)。なお、本事業の目

的は、ごみ処理施設から発

生する余熱を有効利用する

温水プールと事業場所から

湧出する温泉を活用した健

康増進施設を整備・運営す

ることで、市民に休息およ

びコミュニケーションの場

を提供し、地域の活性化と

公共福祉の増進を図ること

である。事業の概要は、図表 15、図表 16 のとおり。

応募から優先交渉権獲得までの経緯

㈱岡山スポーツ会館は大手ゼネコンの誘いに応じたことをきっかけにPFI事業

に取り組み始めた。コンソーシアム構成企業として岡山市のPFI第1号案件であっ

た「当新田環境センター余熱利用施設整備・運営PFI事業」に応募し、このときは

二次提案まで進んだ。

本事業では、そのとき蓄積された知識・ノウハウを活かし、代表企業として応募し

た。建設部門におけるコンソーシアム構成企業については、県内の有力企業で以前か

ら知り合いであった蜂谷工業㈱を選んだ(図表 17)。

一方蜂谷工業㈱は、岡山市の財政の厳しさから近い将来PFI事業が出てくるだろ

うと考え、書籍等でPFIに関する知識の蓄積に努めることに加えて、社内でプロジ

ェクトチームをつくり(その後正式に組織化)、積極的に事例研究に取り組んだ。ま

(図表 15)岡山市東部余熱利用健康増進施設整備・運営PFI事業の概要

事業名 岡山市東部余熱利用健康増進施設整備・運営PFI事業

発注者 岡山市

事業の内容・範囲

ごみ処理施設から発生する余熱を有効利用する温水プールと事業場

所から湧出する温泉を活用した温泉施設とを中心とした健康増進施

設の整備(設計・建設)および運営(維持管理を含む)

事業期間 15 年(建設期間を除く)

実施方針公表年月 2002 年6月

応募事業者数 2グループ

(備考)岡山市資料より信金中金総合研究所作成

(図表 14)蜂谷工業㈱の企業概要

所在地

(本社) 岡山県岡山市鹿田町 1-3-16

創業 1917 年

資本金 3億円

従業員 203 名

代表取締役社長 蜂谷 泰祐

事業内容 総合建設業

(備考)蜂谷工業㈱ホームページより信金中金総合研究所作成

(図表 13)㈱岡山スポーツ会館の企業概要

所在地

(本社) 岡山県岡山市絵図町 1-50

設立 1972 年

資本金 2,500 万円

従業員 49 名(パートタイマー含めると 220 名)

代表者 江尻 博子

事業内容 スポーツクラブ経営

(備考)㈱岡山スポーツ会館ホームページより信金中金総合研究所作成

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た、公共事業の縮小が続く中、

建設業者としてPFI事業に

取り組まないと仕事がなくな

ってしまうのではという危機

感もあった。

その上で東京に本社を置く

ゼネコンからの誘いに応じて

コンソーシアムの構成企業と

して岡山県発注の「岡山リサ

ーチパーク・インキュベーシ

ョンセンターPFI事業」に

応募した。このときは落札に

至らなかったが、企画提案書

作成にかかる相応の知識・ノ

ウハウの蓄積が図られた。ま

た、この時行政が示した提案

書に対する評価点等から改善点を見つけ出し、本事業における企画提案書づくりの参

考とした。

なお、当コンソーシアムは、大手ゼネコングループとの競争の結果、当該事業の優

先交渉権を獲得した。提案価格は、31 億5千万円であった。

当該事業において㈱岡山スポーツ会館は、温水プールの運営を担当することとなっ

ている。一方、蜂谷工業㈱は、施

設の建設に加え、SPCの設立、

維持管理等を担当している。

㈱岡山スポーツ会館と蜂谷工業

㈱は、自らがリーダーシップを取

り地元企業のみでコンソーシアム

を組んだことにより、PFI事業

の応募に必要な税制、法制面など

の知識に明るくなったほか、事業

計画、資金計画等の作成能力の一

層の向上が図られ、企業として一

回り大きくなれたと感じていると

いう。

諸課題への対応

当コンソーシアムでは当該案件の募集要項の公表から一次・二次提案を経て優先交

渉権の獲得に至るまでの約5か月間、二週に一度の頻度で構成企業同士が会議を行っ

優先交渉権者決定・公表

提案書(二次提案)の受付

実施方針等の公表

募集要項の公表

特定事業の選定

提案書(一次提案)の受付

一次審査結果通知

2002年6月21日

2002年9月10日

2002年12月9日、10日

2003年5月22日

2003年4月10日

2003年2月4日

2002年9月10日

91日間

65日間

156日間

(図表16) 岡山市東部余熱利用健康増進施設整備・運営PFI事業事業のプロセス

(備考)岡山市資料より信金中金総合研究所作成

岡山市

SPC(PFIヘルスプラザ岡山)

金融機関

設計会社建設会社

(蜂谷工業)維持管理会社

運営会社(岡山スポーツ会館)

コンソーシアム

利用者 事業契約

各業務に関する契約

サービス提供

出資

利用料金

直接契約

融資

(備考)岡山市資料より信金中金総合研究所作成

(図表17)岡山市東部余熱利用健康増進施設整備・運営PFI事業のスキーム

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た。

PFI事業の担当者は、両社とも社内でも優秀な人物3名程度が選ばれている。こ

の背景としては、両社が地域で有数の優良企業であり、人材に対して積極的な投資を

行う余裕のあることが挙げられる。

当コンソーシアムは、企画提案書の作成において大手企業と組んでPFI事業への

応募を経験した㈱岡山スポーツ会館と蜂谷工業㈱の知識・ノウハウを利用したことお

よび地方銀行の協力により、特別に外部専門家を雇わなかった。(ただし、優先交渉

権獲得後の契約交渉においては、弁護士を利用している。)そのため応募コストは大

幅に軽減できた。コンサルタント等をつけないことによって企画提案書の形式や内容

について本当にこれで問題がないかという不安感が生まれコンソーシアム構成企業

同士が疑心暗鬼になってしまう恐れがあったが、㈱岡山スポーツ会館と蜂谷工業㈱の

リーダーシップのもと市場予測に対する裏づけを取ったり、各企業間の役割分担、リ

スク分担をきちんと行うことにより、コンソーシアム構成企業間で信頼関係を築くこ

とができた。特に蜂谷工業㈱は、これまで総合建設業者として様々な現場において多

種多様な地元企業と共同で業務を遂行してきたことで得られた利害調整能力、プロジ

ェクト管理能力を発揮することが出来た。

ちなみに以前からの取引により信頼関係が構築されている地方銀行からは、関心表

明書(注)5を出してもらうなど資金調達に関する協力も得られたうえ、審査力を活かし

た事業計画のアドバイスなどをしてもらった。

この例のように大手企業のコンソーシアム入った経験を活かして、地元企業のみの

コンソーシアムでPFI事業を落札(優先交渉権の獲得)できるケースも実際にある。

ただし、外部専門家を雇わずに優先交渉権獲得まで至った背景として、PFI事業へ

の応募を経験した地元企業二社が組んでいたことに加え、㈱岡山スポーツ会館にとっ

て余熱利用施設整備・運営PFI事業への応募が今回で2度目であったという特殊事

情があったことにも留意する必要がある。

4.地元企業の企画提案書作成における信用金庫の役割

金融機関は、資金提供者、モニタリングの実行者としてPFI事業の重要なプレー

ヤーであることから、地元企業主体によるPFI事業への信用金庫の支援は本業その

ものと言える。また地元企業の他、発注者側の行政としても地域内の資金循環、税収

の増加、地元での雇用増加等が見込め、住民サイドも地域ニーズをより多く取り入れ

た公共サービスの提供が期待できるため、信用金庫による事業の支援は地域貢献とし

ても捉えられる。

よって積極的な役割の発揮が期待されるが、その内容は地元企業に対するものと行

政に対するものとに分けられる。ちなみに「リレーションシップバンキングの機能強

(注)5金融機関が対外的に発出する当該事業への関心・融資の検討について表明するレター。あくま

でも融資検討の実施の表明にすぎず、融資の確約ではない。PFI事業においては、資金調達の確

実性を担保するために、審査基準に関心表明書の取得が盛り込まれていることが多い。

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化計画」においてPFIへの

積極的な取組みをあげている

信用金庫も少なくない。貸付

ベースでみれば、実際に取り

組みを実施済みのところもい

くつか存在する(図表 18)。

(1)地元企業に対する役割

イ.地元企業の知識・ノウハ

ウの蓄積等を目的とした研究

会・勉強会の開催

信用金庫が中心となってPFIに関する研究会・勉強会を開催することも考えられ

る。前述したように研究会・勉強会の目的は、地元企業のPFIに関する知識の習得

のほか、研究会メンバー同士の情報共有、企業間のネットワーク形成を図ることであ

る。

三重県を地盤とする地方銀行の百五銀行では、2002 年 10 月~2003 年9月までの一

年間にわたり三重PFI研究会を主催した。参考までに内容等を紹介しよう。

百五銀行がインターネット等で研究会開催の告知をした結果、地元の建設会社、維

持管理会社、運営会社等の計 30 社程

度の他、大手ゼネコンも会員となった。

地元企業は、他業種の地元企業と接点

を持てたことに加え、大手企業とのパ

イプを太くすることができた。なお、

研究会の運営は、会員からの参加費6

万円によって行われている。

研究会の具体的な内容は、研究会に

参加した企業同士でコンソーシアム

を組み、PFI事業に応募することを

最終的な目標としているため、PFI

の概要の説明からはじまり、事例紹介

を経て契約や事業性評価等の実践的

なものにまでおよんでいる(図表19)。

また、PFI事業の経験がある一流の

コンサルタントや公認会計士、弁護士

等が講師を務め、生の情報を伝えるこ

とにより地元企業の意欲向上を図っ

た。

実際、この研究会に参加した地元企

回 数

(開催日) 演 題

まちづくりとPFI 1回

(2002.10.22) 三重県におけるPFI事業の動向

PFIとプロジェクトファイナンス

-PFI事業に携わっていくための基礎知識- 2回

(2002.11.21)PFI事業参画のためになすべきこと

3回

(2002.12.19)

PFIの現状と課題

(手続きの流れ、評価のポイント等)

調布市立調和小学校PFI事業の概要 4回

(2003.1.22)行政がPFIの導入を決めるまで

-PFIで求められる民間のノウハウとは-

桑名市図書館等複合公共施設特定事業の概要 5回

(2003.2.20) 四日市市におけるPFIの取り組み

国内PFI案件に関するプロジェクトファイナンスについて6回

(2003.3.19) 桑名市図書館等複合公共施設特定事業の概要

7回

(2003.4.17)PFI事業契約の意義

8回

(2003.5.22)VFMについて

9回

(2003.6.19)PFI事業のVFM評価と事業キャッシュフロー分析①

10回

(2003.7.23)PFI事業のVFM評価と事業キャッシュフロー分析②

11回

(2003.9.19

~9.20)

『地方におけるPFIに向けての提言』(講演、交流会、パネ

ルディスカッション)

(備考)百五銀行資料より信金中金総合研究所作成

(図表 19)三重PFI研究会の概要

(図表 18)信用金庫のPFIへの取組み状況

(備考)(社)全国信用金庫協会「信用金庫(全 314 金庫)における、平成 15 年度上半期の

「リレーションシップバンキングの機能強化計画の進捗状況」の概要」より

信金中金総合研究所作成

うち 2003 年3月末以前から(貸付を)実施しているが 2003 年度上半期未実施 1

うち 2003 年3月末以前から(貸付を)実施し 2003 年度上半期も実施 1

2003 年度上半期から(貸付を)実施 3

み 計 5

2003 年度中に(貸付を)実施予定 2

2004 年4月以降(貸付を)実施予定 1

すでに諸準備が整い案件発生時に(貸付を)実施予定 1

未定 10

定計 14

2003 年度上半期貸付実施件数

(貸付実行額)

4件

(40 億円)

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業のうち何社かが大手ゼネコンと組んでPFI事業に応募し、百五銀行は、当該コン

ソーシアムに対し関心表明書を出した。

ロ.競争力のあるコンソーシアム形成に向けたコーディネーター機能の発揮

信用金庫は、地域において多くの取引先を持ち、経営内容や経営状況なども把握し

ているため、コーディネーター機能の発揮によって信頼の置けるコンソーシアム形成

に貢献できる。具体的には異業種交流会、既存の会員組織等を通じた地元企業同士の

マッチングの促進などである。

また究極的には、自らの主導のもと地元企業を集めてコンソーシアムを形成するこ

とも考えられるが、これには相応のマネジメント能力と技術面・価格面等での専門知

識が必要となることから、長期的に捉える必要があるだろう。

ハ.ビジネスプランに妥当性を持たせるための審査能力の発揮

地元企業からの要請があれば、PFI事業の事業計画策定において事業リスク・事

業採算の見極め力を発揮し、ビジネスプランに妥当性を持たせるなどの支援を行うこ

ともできるであろう。アドバイスを通じてファイナンスまで実行できれば、信用金庫

にとって大きなメリットになる。

ただし、PFIのようなプロジェクトファイナンスは特定の企業の信用力ではなく、

当該プロジェクトからのキャッシュフローが重要となるため、当該事業自体の評価や

キャッシュフローの試算等が特に重要となるが、信用金庫のプロジェクトファイナン

スにかかるノウハウの蓄積は未だ十分ではないという指摘もある。この点で事業評価

を行う専担者の配置・育成など組織的対応が一層必要となろう。

(2)行政に対する役割

イ.PFI導入に向けた行政の意識改革・体制づくりの促進

PFI事業は、行政、民間事業者および金融機関の三者のPFI事業に対する認識

一致のレベルが事業の成否を左右する重要なポイントになる。地元企業、金融機関が

PFI事業に積極的であっても行政の認識が低ければ、PFI事業は行われない。よ

って、普段から地元行政との深いつながりを持つ信用金庫がPFI事業の受注を目指

す地元企業と共同しPFI導入に向けて行政の意識改革を促すことも考えられる。

具体的な方法の一つとしては、研究会、勉強会への参加機会の提供が挙げられる。

実際、先ほど紹介した三重PFI研究会では、地元行政がオブザーバーとして参加し

ていた。また、PFI導入で先行している行政の情報を還元するなどによって、PF

I事業への認識を高め、実際にPFIに取り組むための専担者の配置、研究チームの

組成等を後押しすることもできる。ちなみに、岡山市役所では、PFI法の施行後間

もない 2000 年4月に総合政策部内にPFI推進班が設置され、専担者がついてPF

I事業を進めている。

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ニ.情報提供等による事業の企画立案のサポート

信用金庫は地域の事情を良く知っている者の一人として、相談役的立場から事業の

企画立案をサポートすることもありえる。特に、地元企業のPFI事業参画を促進す

るという意味では、行政側が①地域ならではの提案など非価格面にウェイトを置いた

提案書の評価方法の導入、②実際のサービス利用者の審査員へ招聘、③投資負担の軽

減のための応募者への一定金額の支払などを検討できるよう先進事例の情報提供を

することなどが考えられる。例えば四日市市では二次提案で次点以下となった企業に

対し 200 万円を支払っており、こうした情報を提供することなどが考えられる。

さらに行政の意識改革の促進と並行して、新たな施設整備へのPFI導入を行政に

対し積極的に提案することも考えられる。

これらの役割発揮を通じて、一定地域内で年間一案件以上のPFI導入が行われれ

ば、地元企業にとってもPFI事業参画のインセンティブとなりえるだろう。

おわりに

最近、PPP(Public Private Partnerships)という言葉がよく使われている。P

PPとは、行政と民間事業者・NPO・住民とのパートナーシップに基づく行政サー

ビスの民間開放を表す概念であり、民間事業者の創意工夫による財政負担の軽減と行

政サービスの質的向上の実現を目的としている。今回取り上げたPFIはPPPの一

手法として位置づけられるが、PPPにはその他、公共施設の管理運営において清

掃・警備など一部の業務のみを民間事業者に委託する「業務委託」や公共施設等を行

政が建設した後、その管理運営を民間事業者に委ねる「管理運営委託」等が含まれる。

新たな社会資本整備が存在しないことや事業規模等の理由からPFI導入が困難

な場合であっても、PPP手法が活用されれば財政支出の削減が期待できる他、民間

事業者のビジネスチャンスはより拡大していくものと考えられる。

そして、PFI事業への参画によって得られる企画提案力やプロジェクト管理、リ

スクマネジメント能力は、他のPPPの手法にも活かせるだろう。すなわちPFI事

業への参画は、多様なビジネスチャンスをものにする第一歩になりうる。

本稿では、地元企業のPFI事業への参画形態について①協力会社としての参画、

②大手企業と組んでの参画、③地元企業主体での参画を挙げ、そして特に③の形態に

注目し留意点や克服すべき課題を検討した。それは公共事業費の縮小傾向の中でPF

I導入が進む現在、地元企業が収益の維持・拡大を目指すには地元企業主体での参画

を検討する事が喫緊の課題であろうという問題意識からである。

ただし、はじめから主体となれる地元企業はそう多くないことを考慮すると、まず

は協力会社としての参画を目指し大手企業とのパイプを一層太くすることが先決で

あろう。そしてその上で、大手企業からの打診を受けてコンソーシアム構成企業とな

り、知識・ノウハウの蓄積をした後に地元企業主体でコンソーシアムを組むことにな

ろう。

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本稿第2章において、地元企業主体でPFI事業に参画する際の前提条件として

「独自性や専門性などの強み」と「信用力」を挙げたが、前述の段階論的なアプロー

チで考えてみても、これはPFI事業参画のすべての形態に共通する前提条件である

ことが分かる。

「独自性や専門性などの強み」、「信用力」は大手企業が協力会社やコンソーシア

ム形成企業として地元企業を選定する際にも同様の条件であるはずであり、PFI事

業に限らず企業が永続的に発展するために必要な要素でもある。

これは備えようとして一朝一夕に備わるものでなく、常日頃からの経営努力が必要

であり、信用金庫としてもPFI事業への参画可能な企業を自金庫の取引先に一つで

も多く持てるよう、地元企業の良きアドバイザーとして情報収集や事業評価ノウハウ

の蓄積などに努める必要があろう。

以 上

(瀬戸 仁志)

<参考資料>

井熊均『自治体PFIプロジェクトの実務』東洋経済新報社(2003 年)

植田和男「地元中小企業の参入方式について-地域完結型PFI-(上)」『全建ジャーナル』(社)全

国建設業協会(2004 年1月号)

同上「地元中小企業の参入方式について-地域完結型PFI-(下)」『全建ジャーナル』(社)全国建

設業協会(2004 年2月号)

小泉伸洋「地域金融機関のPFIへの取組み」『金融法務事情(1693 号)』金融財政事情研究会(2003

年)

佐野修久「地域再生とPPP(Public Private Partnerships)」『信金中金月報 2004 年5月号』

(社)全国建設業協会P.P.P研究会『PFI事業への挑戦』(2004 年)

(社)全国信用金庫協会「信用金庫(全 314 金庫)における、平成 15 年度上半期の「リレーションシ

ップバンキングの機能強化計画の進捗状況の概要」(2004 年)

内閣府「PFIに関する全国自治体アンケート」(2003 年)

日経産業消費研究所「本格化するPFI活用」『日経地域情報(№417)』日本経済新聞社(2003 年 6

月 16 日号)

日本PFI協会『PFI年鑑 2004 年版』(2004 年)

横浜商工会議所PFI研究会「横浜商工会議所PFI研究会報告書」(2003 年)

本レポートのうち、意見にわたる部分は、執筆者個人の見解です。

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*バックナンバーの請求は信金中央金庫営業店にお申しつけください。

号 数 題 名 発行年月

№1 木製家具製造業の動向について

-静岡地区と大川地区の産地比較- 1998 年 8月

№2 水産加工業の動向について-八戸地区と塩釜地区の産地比較- 11 月

№3

環境変化への厳しい対応を求められる温泉旅館業

-伊東、伊香保温泉を中心として- 1999 年 8月

№4

企画開発力とQRへの対応力が求められる横編ニット

製品製造業界-東京横編産地と新潟産地の比較を中心に- 2000 年 4月

№5

米国のまちづくりから見た我が国中心市街地活性化への示唆

-運命共同体としての信用金庫の役割- 9月

№6 戦略的まちづくり活動と信用金庫

-信用金庫の先進事例に学ぶ- 11 月

№7

陶磁器製造業の現況(美濃地区・有田地区)

-独創的な製品開発力の向上と高コスト生産体制の見直しを- 12 月

№8

地域活性化の起爆剤となる「バイオ版シリコンバレー」

-大学、インキュベーター、サイエンスパークの事例を中心に- 2001 年 12 月

№9 駅開業が与える地域への影響 -駅を地域活性化の核にする- 2002 年 3月

№10

変化する水産物流通とこれを資源とする地域振興支援

-地元住民・観光客の両面を視野に入れた焼津・清水・萩・下関の取

り組み- 3月

№11

金融機関主催「ビジネスフェア」による中小企業・地域振興支援

-信用金庫が核となる地域プラットフォームの整備を- 5月

№12

第三セクターを事業主体とする地域振興支援への取組み

-成功する第三セクター経営とは- 9月

№13

地域一体内発型の観光振興 -地域資源を活かした住民

・地元民間企業・行政一体の地域活性化の取組み- 2003 年 3月

15-1

地域振興支援への示唆

-地域活性化の成功モデルと信用金庫の関わり- 4月

15-2

地場産品の地域ブランド化のために

-農水産品を活かして地域経済の活性化を図る- 10 月

15-3 タウンマネージメント組織の現状と信用金庫の役割

10 月

15-4

地域振興計画の立案手順

-信用金庫による地域振興支援の一例として- 2004 年 3月

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今後取り上げてもらいたいテーマ

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