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7 GRC-Japan事務局 北爪 雅彦 GRC-Japan事務局 松下 欣親 日本のコーポレート・ガバナンスの動き コーポレート・ガバナンスは、企業の持続的な成長を実現することで企業の価値を高めるための総合的な取り組みである。 しかし、総合的な取り組みであるが故に、その全体像を理解することは必ずしも容易ではない。 そこで、日本のコーポレート・ガバナンス関連の諸制度が、どのような経緯で、どのように改訂されてきたのかを振り返る日本のコーポレート・ガバナンス 関連諸制度の改定の歴史を振り返る 日本の歴史を20年程遡ると、コーポレート・ガバナン スの要素である「ルールを守る」という企業姿勢が崩れる ことで不正の発生や倫理の欠如が生じ、「効率性を追求す る」という規律が低下することで経営効率の悪化に起因す る問題が顕在化し、制度(ハードロー)やソフトローの改正 が行われている。制度としては、株主による直接監督機能 の強化からはじまり、取締役等の機関設計や内部統制と いった間接監督機能の強化、そしてそれらを支える情報提 供機能の充実といった順で整備が進められ、金融商品取 引法が成立した2006年の時点で大枠の整備が完了して いる。そのため、企業価値報告書が公表された2005年以 降は、制度だけでなく企業が検討する際に望まれる考え方 を示すという趣旨から、ソフトローも提示されてきた。 2010年以降は前年に公表された「企業統治研究会 報告書」(経済産業省・経済産業政策局)や「我が国金融・ 資本市場の国際化に関するスタディグループ報告」(金 融庁・金融審議会)などを契機に、社外役員の導入につ いて議論がなされ、2014年6月に可決された改正会社 法において「社外取締役を置くことが相当でない理由」 の定時株主総会における説明義務が追加された。近年 では役員へのインセンティブとの関係から役員報酬に 関する議論も盛んになっており *1 、2006年に導入さ れた業績連動報酬要件を改訂し、税制上の損金算入要 件の緩和を経済産業省では要望しているという記事も 見られる *2 より具体的には(図表4)のように、ここ20年の間に、多 くの事件や不祥事の発生と共に経営者や執行責任者の 倫理観に多く支えられた属人的なコーポレート・ガバナ ンス体制は、組織的なものに改善されてきている。今後 はマーケットのグローバル化に伴い、日本企業の更な るグローバル化が必須となってくる。しかも、それに費 やせる時間軸も短い。それに迅速に対応するには、異な る歴史的背景をもつ役員・従業員が一体となって目的 に向かった「良質な経営行動」を引き出せる仕組みを構 築していく必要がある。 *1 参考資料:企業法制改革論コーポレート・ガバナンス編(武井一浩著、中央経済社、109~143頁) *2 日本経済新聞 電子版 2013/6/19

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GRC-Japan事務局  北爪 雅彦GRC-Japan事務局  松下 欣親

日本のコーポレート・ガバナンスの動き

 コーポレート・ガバナンスは、企業の持続的な成長を実現することで企業の価値を高めるための総合的な取り組みである。

 しかし、総合的な取り組みであるが故に、その全体像を理解することは必ずしも容易ではない。

 そこで、日本のコーポレート・ガバナンス関連の諸制度が、どのような経緯で、どのように改訂されてきたのかを振り返る。

日本のコーポレート・ガバナンス 関連諸制度の改定の歴史を振り返る

 日本の歴史を20年程遡ると、コーポレート・ガバナン

スの要素である「ルールを守る」という企業姿勢が崩れる

ことで不正の発生や倫理の欠如が生じ、「効率性を追求す

る」という規律が低下することで経営効率の悪化に起因す

る問題が顕在化し、制度(ハードロー)やソフトローの改正

が行われている。制度としては、株主による直接監督機能

の強化からはじまり、取締役等の機関設計や内部統制と

いった間接監督機能の強化、そしてそれらを支える情報提

供機能の充実といった順で整備が進められ、金融商品取

引法が成立した2006年の時点で大枠の整備が完了して

いる。そのため、企業価値報告書が公表された2005年以

降は、制度だけでなく企業が検討する際に望まれる考え方

を示すという趣旨から、ソフトローも提示されてきた。

 2010年以降は前年に公表された「企業統治研究会

報告書」(経済産業省・経済産業政策局)や「我が国金融・

資本市場の国際化に関するスタディグループ報告」(金

融庁・金融審議会)などを契機に、社外役員の導入につ

いて議論がなされ、2014年6月に可決された改正会社

法において「社外取締役を置くことが相当でない理由」

の定時株主総会における説明義務が追加された。近年

では役員へのインセンティブとの関係から役員報酬に

関する議論も盛んになっており*1、2006年に導入さ

れた業績連動報酬要件を改訂し、税制上の損金算入要

件の緩和を経済産業省では要望しているという記事も

見られる*2。

より具体的には(図表4)のように、ここ20年の間に、多

くの事件や不祥事の発生と共に経営者や執行責任者の

倫理観に多く支えられた属人的なコーポレート・ガバナ

ンス体制は、組織的なものに改善されてきている。今後

はマーケットのグローバル化に伴い、日本企業の更な

るグローバル化が必須となってくる。しかも、それに費

やせる時間軸も短い。それに迅速に対応するには、異な

る歴史的背景をもつ役員・従業員が一体となって目的

に向かった「良質な経営行動」を引き出せる仕組みを構

築していく必要がある。

*1 参考資料:企業法制改革論Ⅱ コーポレート・ガバナンス編(武井一浩著、中央経済社、109~143頁)

*2 日本経済新聞 電子版 2013/6/19

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 このような歴史的な推移をコーポレート・ガバナンス

により「良質な経営行動を引き出す」ための仕組みと併

せて検討することで、組織運営に必要な機能の最低限(ミ

ニマムライン)が徐々に整備されてきたことが分かる。

のであり、それぞれの制度の改正を契機として中身の充

実した実効性の高いコーポレート・ガバナンス体制を構

築できるかは企業の意識次第である。

図表4 改正の目的ときっかけ

改正時期 改正の目的 改正のきっかけ 改正の内容

1993~2001年改正

• (直接・間接)監督機能を強化• 情報提供機能の充実

• 証券会社の損失補てん、金融機関による総会屋への利益供与事件等の不祥事が続発

• 日米構造問題協議における要求• 大手証券会社や商社などの経営破たん

• 株主代表訴訟に関する改正• いわゆる会計ビッグバンによる情報開示• 社外監査役制度、委員会等設置会社の導入

2002~2006年改正

• 情報提供機能の迅速化• 内部統制の整備

• 大手銀行株主代表訴訟事件• 会社法の現代化• 大手鉄道会社やIT企業の有価証券報告書虚偽記載

• 四半期報告書(監査を含む)の導入• 内部統制構築義務の明文化• 上場会社に対して内部統制監査制度の導入

2005~2009年改正

• ソフトローの公表

• グリーンメーラーによる買収提案• MBOや買収防衛策導入企業の増加• 買収防衛策に対する最高裁判所決定• 欧米政府間協議での改善要求

• 企業価値報告書の公表• 企業価値の向上及び公正な手続確保のため

の経営者による企業買収(MBO)に関する報告の公表

• 企業統治研究会報告書の公表

2010~2014年改正

• グローバル化への対応  (諸外国との整合性に配慮)

• 大手機械メーカー等の企業不祥事により、企業統治の国際標準からの遅れが顕在化

• 日本のグローバル企業の生産性の低さ、機関投資家の影響力増大に伴う「日本再興戦略」の公表・改訂

• 会社法改正による社外取締役、監査等委員会設置会社等の導入

• 日本版スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードの導入

• IFRS任意適用の拡大

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