MPO-ANCA高値で発症し,腎生検でANCA関連腎炎...

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症  例 症 例:51 歳女性。2014 9 月に近医で腎機 能障害を指摘され,当院腎臓内科紹介受診とな り,外来にて精査中に徐々に血清クレアチニン 値の上昇を認めていた。血液検査で MPO- ANCA408U/ml と判明し,ANCA 関連血管炎 の疑いで腎生検も含めて精査加療目的に 2014 12 30 日に入院。入院時血清 Cr 3.08 ㎎/dl であった。発熱関節痛はこの時点では認めてい なかった。急速進行性糸球体腎炎の診断基準を 満たし,全身倦怠感も増悪傾向であったため, 1 病日から mPSL500㎎× 3 日間のステロイド ハーフパルスを行い,後療法として PSL40mg 投与を開始した。第 9 病日に腎生検を施行。 腎臓病理所見で,光顕では半月体の形成は乏 しく,segmental なメサンジウムの増殖が見ら れた。間質,尿細管領域に軽度のリンパ球浸潤 を認めた。蛍光ではメサンジウムに IgGIgAC1q の沈着を認めた。電顕では dense deposit メサンジウム基質に認められ,内皮下,基底膜 内にも少数認めた。メサンジウム細胞の増殖は 認めなかった。以上,ANCA 関連腎炎と IgA 症が混在している所見と思われた。 入院時の外注項目で抗核抗体> 1280 倍が判 明し,追加検査で抗 DNA 抗体陽性も明らかと なった。SLE の診断基準を満たし,ループス腎 炎の可能性も出てきた。 経過中,腎機能改善の程度が低下したため, 16 病日にエンドキサン 400㎎パルスを追加施 行し,その後は順調に血清 Cr 値,一日尿蛋白 の低下を認めた。下肢しびれなどの神経炎所見 は継続していた。 PSL 30mg 内服まで減量し,第 54 病日退院と なった。退院時血清 Cr 1.68mg/dl, U-TP 0.27g/ 日であった。現在治療として PSL 20mg の内服 とし,血清 Cr 1.12mg/dlMPO-ANCA 定量 8 とコントロール良好で,外来にて経過観察して いる。 疑問点:この症例において RPGN の主たる原 因は ANCA 関連腎炎とループス腎炎のいずれ でしょうか? またこの症例の治療指針について MPO- ANCA の値と抗核抗体のいずれを指標にして治 療を行うべきであったか,よろしく御教授お願 い致します。 1 大和市立病院 腎臓内科 2 横浜市立大学附属病院病態制御内科学 3 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座  4 山口病理組織研究所 MPO-ANCA 高値で発症し,腎生検で ANCA 関連腎炎, ループス腎炎,IgA 腎症が合併した RPGN の一例 山 地 孝 拡 1 竹 下 康 代 1 渋 谷 諭 之 1 原   美 朋 1 梅 村   敏 2 病理コメンテータ 城   謙 輔 3 山 口   裕 4 Key WordANCA 関連血管炎,ループス腎炎,血尿,RPGN 159 第 64 回神奈川腎炎研究会

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症  例症 例:51歳女性。2014年9月に近医で腎機

能障害を指摘され,当院腎臓内科紹介受診となり,外来にて精査中に徐々に血清クレアチニン値 の 上 昇 を 認 め て い た。 血 液 検 査 でMPO-ANCA:408U/mlと判明し,ANCA関連血管炎の疑いで腎生検も含めて精査加療目的に2014

年12月30日に入院。入院時血清Cr 3.08㎎ /dl

であった。発熱関節痛はこの時点では認めていなかった。急速進行性糸球体腎炎の診断基準を満たし,全身倦怠感も増悪傾向であったため,第1病日からmPSL500㎎×3日間のステロイドハーフパルスを行い,後療法としてPSL40mg

投与を開始した。第9病日に腎生検を施行。腎臓病理所見で,光顕では半月体の形成は乏

しく,segmentalなメサンジウムの増殖が見られた。間質,尿細管領域に軽度のリンパ球浸潤を認めた。蛍光ではメサンジウムに IgG,IgA,C1qの沈着を認めた。電顕ではdense depositがメサンジウム基質に認められ,内皮下,基底膜内にも少数認めた。メサンジウム細胞の増殖は認めなかった。以上,ANCA関連腎炎と IgA腎症が混在している所見と思われた。

入院時の外注項目で抗核抗体>1280倍が判明し,追加検査で抗DNA抗体陽性も明らかとなった。SLEの診断基準を満たし,ループス腎炎の可能性も出てきた。

経過中,腎機能改善の程度が低下したため,

第16病日にエンドキサン400㎎パルスを追加施行し,その後は順調に血清Cr値,一日尿蛋白の低下を認めた。下肢しびれなどの神経炎所見は継続していた。

PSL 30mg内服まで減量し,第54病日退院となった。退院時血清Cr 1.68mg/dl, U-TP 0.27g/日であった。現在治療としてPSL 20mgの内服とし,血清Cr 1.12mg/dl,MPO-ANCA定量 8 とコントロール良好で,外来にて経過観察している。疑問点:この症例においてRPGNの主たる原

因はANCA関連腎炎とループス腎炎のいずれでしょうか?

ま た こ の 症 例 の 治 療 指 針 に つ い てMPO-ANCAの値と抗核抗体のいずれを指標にして治療を行うべきであったか,よろしく御教授お願い致します。

(1 大和市立病院 腎臓内科(2 横浜市立大学附属病院病態制御内科学(3 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 (4 山口病理組織研究所

MPO-ANCA高値で発症し,腎生検でANCA関連腎炎,ループス腎炎,IgA腎症が合併したRPGNの一例

山 地 孝 拡1  竹 下 康 代1  渋 谷 諭 之1

原   美 朋1  梅 村   敏2

病理コメンテータ   城   謙 輔3  山 口   裕4

Key Word:ANCA関連血管炎,ループス腎炎,血尿,RPGN

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U/mlと高値を認めました。入院時に行った心電図,胸部レントゲン写真,

心臓超音波検査,腹部CTでは明らかな所見は認めませんでした。スライド⑤

入院後の治療及び経過についてご説明します。RPGNの臨床所見のスコア化による重症度分類で総スコアは1点,重症度GradeⅠと判定し,ANCA関連急速進行性糸球体腎炎の治療指針に従い,治療を開始しました。

2014年12月30日 か ら2015年1月1日 ま でmPSL500㎎ハーフパルスを行いました。

2015年1月2日よりPSL40mgの内服を開始しました。ステロイドハーフパルス後の1月2日の血液検査で腎機能はCr:2.86と軽度改善傾向を示し,畜尿検査で一日尿蛋白は1208㎎ /日でした。1月5日の血液検査では腎機能はCr:2.33 まで改善しました。1月7日確定診断目的に腎生検を施行しました。スライド⑥,⑦

腎生検の結果ですが,光学顕微鏡で当院病理部の診断はメサンギウム増殖性腎炎でした。弱拡大で9個の糸球体が観察され,全体が硬化した糸球体は認めませんでした。観察可能な7個の糸球体で分節性のメサンギウムの増殖が認められ,一部で硬化,ボーマン嚢との癒着を伴っていました。係蹄壁の肥厚を認めましたが,明らかな基底膜の肥厚には乏しい所見でした。半月体形成は乏しく,治療による修飾が加わった可能性があるとの判断でした。間質,尿細管領域に軽度のリンパ球の浸潤を認めましたが,血管炎の所見は認めませんでした。スライド⑧,⑨

蛍光抗体で IgG,IgA,IgM,C3cがメサンギウム領域に沈着し,係蹄壁には IgG,IgA,C3c

が一部線状に沈着を認めました。またC4,C1q,フィブリノーゲンもメサンギウム領域に沈着を認め,C1q,フィブリノーゲンは係蹄壁にも一部線状に沈着を認めました。

蛍光所見からはループス腎炎を疑うも,

スライド①MPO-ANCA高値で発症し,腎生検でANCA

関連腎炎,ループス腎炎,IgA腎症が合併したRPGNの一例について発表させて頂きます。よろしくお願いいたします。スライド②

症例は51歳女性主訴は尿の色が黒っぽくなったということで

した。現病歴ですが,2014年9月に近医皮膚科での

血液検査で腎機能障害を指摘され,10月当院腎臓内科紹介受診。外来にて精査及び経過フォロー中でした。徐々に血清クレアチニン値の上昇を認め,2014年12月29日に尿の色が濃くなってきたことを自覚,当院救急外来受診されました。以前の外来時に提出した血液検査でMPO-ANCA:408U/mlと 判 明 し,ANCA関 連血管炎と診断しました。同日一旦は帰宅したものの,12月30日全身倦怠感を主訴に救急外来再診し,Cr:3.08㎎ /dlと上昇を認めたため,腎生検及び加療目的に同日入院となった。スライド③

既往歴に膵炎(発症時期は不明,本人も自覚なし)を認めました。家族歴,服薬歴,生活歴は記載の通りで,アレルギー歴は食物,薬物に対してないとのことでした。入院時現症ですが,身長 154.2cm 体重 43.6kgでバイタルに特に異常は認められず,眼瞼結膜に貧血を認める以外は明らかな身体所見上の異常も認めませんでした。スライド④

入院時の尿所見では蛋白(3+),潜血(3+)を認めました。尿沈渣では赤血球が100/HPF,白血球10-19/HPF,硝子円柱1-4/HPF,顆粒円柱なし,他は異常所見は認めませんでした。血液所見では,ヘモグロビン7.9g/dlと貧血を認め,Cr:3.08と腎機能障害を認めました。血清免疫学所見は2014年12月19日に外来で採取した結果も一部含まれますが,IgG 2754㎎ /dlと高値を認め,抗核抗体が1280倍,MPO-ANCA 408

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腎炎症例研究 32巻 2016年

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ファミドによる副作用かは判断がつきませんでした。退院後の経過について:現在外来フォロー中ですが,4/10よりPSL25

㎎へ減量,MPO-ANCAは27.0まで低下,以降4

週ごとに5㎎ずつ減量し,7/31時点で5㎎まで減量しました。その間に明らかな症状の再燃は認 め ず,MPO-ANCAの 値 も13.4→8.0→5.6→ 3.5(7/30採血)まで順調に減少しております。8

月27日の時点でCrは1.25まで改善しております。またSLEについてはds-DNA抗体が10IU/ml未満となっており,血清補体価も正常範囲内です。現在はPSL 5㎎/dayを継続しています。膠原病科のDrと相談の結果,今後はPSL3㎎→2㎎→1㎎と順次減量していく予定です。

スライド⑬今回の症例は臨床的にANCA関連腎炎とし

て治療を開始しましたが,腎生検の結果,ループス腎炎の合併が疑われ,IgA腎症も合併しておりました。

疑問点として,この症例においてRPGNの主たる原因はANCA関連腎炎とループス腎炎のいずれでしょうか?

ま た こ の 症 例 の 治 療 指 針 に つ い てMPO-ANCAの値と抗核抗体のいずれを指標にして治療を行うべきであったでしょうか?

この二点が当科でこの症例を見返した際に疑問として残ったため,今回この場にて発表させて頂きました。

よろしく御教授お願いいたします。

尿所見の経過:蛋白は1-2+で入院中から経過。外来で3/20より1+で経過,7/30より±となっている。沈渣で赤血球の減少を認めたのが3/20の外来受診時,潜血反応は3+であったが,赤血球は10-19/HPFと減少。4/9の外来以降は5-9/HPFで経過,7/30の外来受診時には潜血反応-,沈渣でも赤血球1未満/HPFとなった。8/27の定期外来受診時も尿所見は変化な

MPO-ANCA陽性からANCA関連血管炎による非特異的蛍光と IgA腎症の蛍光所見が重なっているとの判断でした。スライド⑩,⑪

電子顕微鏡の所見ではDense depositがメサンギウム基質に中等量認められ,内皮下,基底膜内にも少数認められた。上皮下には認められなかった。メサンギウム基質は軽度,一部で中等度増加しているが,メサンギウム細胞の増多はなかった。メサンギウム細胞間入も認めなかった。係蹄基底膜は一部で軽度菲薄化を認めた。軽度の内皮下浮腫が散見された。そく(足)突起は比較的広範囲で消失し,所々で軽度微絨毛化していた。半月体形成はなかった。

以上の所見からANCA関連腎炎と IgA腎症が合併ているが,ループス腎炎も否定は出来ないという診断であった。スライド⑫

1月8日の畜尿検査で一日尿蛋白は686㎎ /日まで改善。順調に腎機能の改善傾向を示していたが,1月13日の血液検査でCr:2.23 と改善認めなかったため,1月15日にシクロフォスファミド400㎎パルスを施行しました。1月19日の血液検査でBUN/Cr:53/1.98 と改善を認めた。1月23日,外腎生検の外注結果が判明し,腎不全の原因はANCA関連血管炎及びループス腎炎によるものと判断しました。追加検査で抗DNA抗体陽性,抗SSA抗体が4倍であったため,1月27日リウマチ膠原病内科併診,SLEの確定診断がついた。治療方針についてはPSL内服で一致していたため,特に変更は行わず,1

月30日 ま でPSL40mg内 服 し,1月31日 よ り35mgへ減量,減量後も症状再燃,悪化は認めず,2月13日の血液検査でMPO-ANCA:84まで著明に低下した。2月16日の血液検査でCr:1.68

まで改善し,翌日の一日尿蛋白で274㎎まで改善を認めた。2月21日よりPSL30mgへ減量し,同日自宅退院となった。尚経過中,1/19頃より四肢末梢のしびれを認め,数日で軽快しました。血管炎による末梢神経障害かシクロフォス

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し。1日尿蛋白:1/2 1208 ㎎ 1/8 686 ㎎ 1/14 499 ㎎ 

1/22 542㎎ 2/17 274㎎

図 5

腎生検 光顕

図 4

入院後経過

0200400600800100012001400

00.5

11.5

22.5

33.5

Cr (mg/dl) Cr (mg/dl)一日尿蛋白 (㎎/day)

12/30-1/1 mPSL pulse500㎎/day 1/15 IVCY

400mg/day

12/29Cr 3.08 1/13

Cr 2.23 2/16 Cr 1.68

1/2-1/30 PSL 40mg/day 1/31-2/17 PSL 35mg/day

(㎎/dl)

図 3

入院時検査所見

尿所見:比重 1.014 蛋白(3+) 糖(-) 潜血(3+) 赤血球 100↑/HPF 白血球 10-19/HPF

硝子円柱 1-4/HPF 顆粒円柱 1未満/HPF

末血所見: 白血球 5300/µl 赤血球 286万/μl Hb 7.9 g/dl 血小板 17.5万/µl

血液生化学所見:TP 8.4 g/dl Alb 3.6 g/dl BUN 42 mg/dl Cr 3.08 mg/dl

総ビリルビン 0.4 mg/dl AST 21 IU/l ALT 9 IU/l LD 195 IU/l ALP 222IU/l γ-GTP 11 IU/l

CK 48 IU/l UA 8.1 mg/dl Na 139 mEq/l K 5.2 mEq/l Cl 106 mEq/l TG 320 mg/dl HDL 28 mg/dl

LDL 73 mg/dl 空腹時血糖 104mg/dl HbA1c 5.9% フェリチン 353.70 ng/m

血清免疫学所見:CRP 0.20 mg/dl

(2014/12/19) IgG 2754 mg/dl IgA 407 mg/dl IgM 94 mg/dl ANA>1280倍 PR3-ANCA 0.6 U/ml

MPO-ANCA 408 U/ml BJP(-) RF<3.0IU/l

心電図:正常洞調律で明らかな異常所見はない

胸部X線写真:CTR50%で心拡大はなく、両側肺野に明らかな異常陰影なし.

心臓超音波検査:EF 64%で左室壁運動に明らかな異常を認めず、弁膜症もなし.

腹部CT:腎萎縮、水腎症は認めず、腎実質に輝度亢進を認めた以外に明らかな異常所見は

認めなかった.

【既往歴】膵炎

【家族歴】特記事項なし

【服薬歴】特記事項なし

【生活歴】喫煙、飲酒ともになかった

【アレルギー】食物、薬物に対して特になし

【入院時現症】

身長 154.2cm 体重 43.6kg意識清明.体温36.9℃ 脈拍 83/分、整 血圧 129/81 mmHgSpO2(自発呼吸、room air)98%眼瞼結膜に貧血を認め、眼球結膜に黄染はない.

表在リンパ節は触知せず、皮疹も認めない.

呼吸音は清、ラ音は聴取しない.

心音は純、雑音は聴取しない.

腹部は平坦で軟、圧痛(-) 腸蠕動音に異常はない.肝・脾は触知しない.

両側下腿に浮腫を認めない.

神経学的に明らかな異常所見はない.

図 2

【症例】51歳女性

【主訴】尿の色が黒っぽくなった

【現病歴】

2014年9月に近医皮膚科での血液検査で腎機能障害を指摘され、10月

当院腎臓内科紹介受診。外来にて精査中であったが、徐々に血清クレ

アチニン値の上昇を認めた。2014年12月29日に尿の色が濃くなってき

たことを自覚、当院救急外来受診。以前提出の血液検査でMPO-

ANCA:408U/mlと判明し、ANCA関連血管炎と診断。同日一旦は帰宅し

たものの、12月30日全身倦怠感を主訴に救急外来再診し、Cr:3.08㎎

/dlと上昇を認め、腎生検も含めて精査加療目的に同日入院となった。

図 1

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腎炎症例研究 32巻 2016年

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図 11

入院後経過

0200400600800100012001400

00.5

11.5

22.5

33.5

Cr (mg/dl) Cr (mg/dl)一日尿蛋白 (㎎/day)

12/30-1/1 mPSL pulse500㎎/day 1/15 IVCY

400mg/day

12/29Cr 3.08 1/13

Cr 2.23 2/16 Cr 1.68

1/2-1/30 PSL 40mg/day 1/31-2/17 PSL 35mg/day

(㎎/dl)

図 10

腎生検 電顕②

図 9

腎生検 電顕①

腎生検 蛍光抗体②

図 8

腎生検 蛍光抗体①

図 7

腎生検 光顕

図 6

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討  論 山地 大和市立病院腎臓内科の山地孝拡です。よろしくお願いいたします。「MPO-ANCA高値で発症し,腎生検でANCA関連腎炎,ループス腎炎,IgA腎症を合併したRPGNの一例」について発表させていただきます。 症例は,51歳女性。主訴は,尿の色が黒っぽくなったということでした。 現病歴ですが,2014年9月に近医皮膚科の血液検査で腎機能障害を指摘され,10月に当院腎臓内科を紹介受診されました。外来日程精査および経過フォロー中でしたが,徐々にクレアチニン値の上昇を認め,2014年12月29日に尿の色が濃くなってきたことを自覚され,当院救急外来を受診されました。 以前の外来時に提出した血液検査でMPO-ANCA408U/mlと判明し,ANCA関連血管炎と判断しました。同日は一旦帰宅されたものの,翌日,全身倦怠感を主訴に再度救急外来を受診され,クレアチニンが3.08mg/dlと上昇を認めていたため,腎生検および加療目的に同日入院となりました。 既往歴に膵炎を認めました。家族歴,服薬歴,生活歴,アレルギー歴は記載のとおりです。 入院時現症です。身長154.2cm,体重43.6kgで,バイタルに特に異常は認められず,眼瞼結膜に貧血を認める以外は,明らかな身体所見上の異常も認めませんでした。 入院時の尿所見では,蛋白3(+),潜血3(+)を認めました。尿沈渣では赤血球が1視野に100以上,白血球が10 〜 19でした。ほかに異常所見は認めませんでした。 血液所見では,ヘモグロビンが7.9g/dlと貧血を認め,クレアチニン3.08mg/dlと腎機能障害を認めました。 血清免疫学所見は,2014年12月19日に外来で採取した結果も一部含まれますが,IgGが2754と高値を認め,抗核抗体が1280倍,MPO-ANCAが408と高値を認めていました。

疑問点

• この症例においてRPGNの主たる原因はANCA関連腎炎

とループス腎炎のいずれでしょうか?

• この症例の治療指針についてMPO-ANCAの値と抗核抗

体のいずれを指標にして治療を行うべきであったで

しょうか?

よろしく御教授お願いいたします。

図 12

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腎炎症例研究 32巻 2016年

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 電子顕微鏡の所見では,dense depositがme-

sangium基質に中等量認められ,内皮下,基底膜内にも少数が認められました。上皮下には認められませんでした。mesangium基質は軽度,一部で中等度増加していましたが,mesangium

細胞の増殖はありませんでした。mesangium細胞嵌入も認めませんでした。 係蹄基底膜は,一部で軽度菲薄化を認めました。軽度の内皮下浮腫が散見されました。足突起は比較的広範囲で消失し,所々で軽度微絨毛化しておりました。半月体形成は認めませんでした。 以上の所見から,ANCA関連腎炎と IgA腎症が合併しているが,ループス腎炎も否定できないというところ診断でした。 治療の経過について説明します。1月8日の蓄尿検査で,1日尿蛋白は686gまで改善しました。順調に腎機能の改善傾向を示していましたが,1月13日 の 血 液 検 査 で, ク レ ア チ ニ ン2.23mg/dlと改善が鈍っておりました。1月15

日にシクロホスファミド400mgパルスを施行しました。1月19日の血液検査では,クレアチニンは1.98と改善を認めていました。12月23

日に腎生検の外注結果が判明し,腎不全の原因はANCA関連血管炎,およびループス腎炎によるものと判断しました。 追加検査で,抗DNA抗体が陽性,抗SAA抗体が4倍であったため,1月27日,リウマチ膠原病内科を併診し,SLEの確定診断がつきました。 治療方針については,プレドニンの内服で一致していたため特に変更は行わず,1月30日までプレドニン40mgを内服し,31日より35mg

に減量。減量後も症状再燃,悪化は認めず,2

月13日の血液検査で,MPO-ANCAは84まで著明に低下しました。2月16日の血液検査でクレアチニンは1.68mg/dlまで改善し,翌日の1日尿蛋白量は274mgまで改善を認めました。2月21日によりプレドニン30mgに減量し,同日自宅退院となっております。

 入院時に行った心電図,胸部レントゲン写真,心臓超音波検査,腹部CTでは明らかな所見は認めませんでした。 入院後の治療および経過についてご説明します。RPGNの臨床所見スコア化による重症度分類で,総スコア1点,重症度グレード1と判定し,ANCA関連急速進行性糸球体腎炎指針に従い加療を開始しました。 2014年12月30日 か ら2015年1月1日 ま で,メチルプレドニゾロン500mgのハーフパルスを行いました。2015年1月2日よりプレドニン40mgの内服を開始しました。ステロイドハーフパルス後の1月2日の血液検査で,腎機能はクレアチニン2.86mg/dlと軽度改善傾向を示し,蓄尿検査で1日尿蛋白は1208mgでした。1月5

日 の 血 液 検 査 で, 腎 機 能 は ク レ ア チ ニ ン2.33mg/dlまで改善しました。 1月7日,確定診断目的に腎生検を施行しました。結果は,光学顕微鏡で当院病理部の診断はmesangium増殖性腎炎でした。弱拡大で9個の糸球体が観察され,全体が硬化した糸球体は認めませんでした。観察可能な7個の糸球体で分節性のmesangium増殖が認められ,一部で硬化,ボーマン嚢との癒着を伴っていました。係蹄壁の肥厚を認めましたが,明らかな基底膜の肥厚には乏しい所見でした。半月体形成は乏しく,治療による収縮が加わった可能性があるとの判断でした。間質尿細管領域に軽度のリンパ球浸潤を認めましたが,血管への所見は認めませんでした。 蛍光抗体で IgG,IgA,IgM,C3cがmesangi-

um領域に沈着し,係蹄壁には IgG,IgA,C3c

が一部線状に沈着を認めました。また,C4,C1q,fibrinogenもmesangium領域に沈着を認め,C1q,fibrinogenは係蹄壁にも一部線状に沈着を認めました。 蛍光所見からはループス腎炎を疑うも,MPO-ANCAが陽性からANCA関連血管炎による非特異的傾向と,IgA腎症の蛍光所見が重なっているとの判断でした。

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山地 尿沈渣では,入院時は特に認めておりませんでしたが,入院後治療を経過していく中で,硝子円柱は軽度,常に認めている状況ではありました。城 血尿は?山地 血尿は,ずっと潜血3(+)が続いておりまして,治療を始めてから,退院後の4月9日の時点で赤血球が顕微鏡上は5 〜 9で,潜血反応は2(+)まで下がっていました。城 沈渣で,好中球やほかの細胞は。要するにtelescoped urinary sedimentの所見があったかどうかです。山地 すみません。当院では,好中球までは見ておりません。白血球のみでの経過になっておりますが,経過中はおおむね10 〜 19,20 〜29あたりを推移しておりました。城 糸球体につぶれがあって腎機能が下がるのか,尿細管間質病変だけで下がるのか,その2

つがあります。生検のときに,尿沈渣で糸球体が本当にやられているかどうかの確認が必要だと思いました。山地 分かりました。ありがとうございます。城 もう1つ,IgA腎症が合併しているという根拠を教えてください。山地 私どもの病理部ではなく,外の先生にお願いした病理の所見にそのような記載があったことと,蛍光所見で IgAが染まっていたことと,血清値で,IgAが正常範囲ではあるのですが,407まで正常高値で上昇しており,それを根拠として考えました。城 C1qは,この次にスライドに出てきますか。山地 はい。C1qは出ます。城 結構染まっていますよね。山地 はい。城 こういうかたちの IgA腎症は非常に少ないです。これだけC1qが陽性に出て,しかも,IgGと IgAがほぼ同等に出ています。これを見ますと,必らずしも IgA腎症とは診断できないと思います。山地 分かりました。ありがとうございます。

 なお経過中,四肢末梢のしびれを認めました。これが血管炎による末梢神経障害か,シクロホスファミドによる副作用かは判断がつきませんでした。 退院後の経過は,現在外来フォロー中です。4月10日よりプレドニン25mgへ減量し,MPO-ANCAは27.0まで低下しました。以降4週ごとに5mgずつプレドニンを減量し,7月31日の時点で5mgまで内服を減量しております。その間に明らかな症状の再燃は認めず,MPO-ANCA

も7月30日の採血で3.5まで順調に減少しております。8月27日の時点でクレアチニンは1.25mg/dlまで改善しております。 またSLEについては,抗ds-DNA抗体が10未満まできており,血清補体価も正常範囲内です。現在はプレドニン5mg/dayを継続しております。 今回の症例は,臨床的にANCA関連腎炎として治療を開始しましたが,腎生検の結果,ループス腎炎の合併が疑われ,IgA腎症も合併しておりました。 疑問点として,この症例においてRPGNの主たる原因は,ANCA関連腎炎とループス腎炎のいずれかでしょうか。また,この症例の治療指針において,MPO-ANCAの値と抗核抗体のいずれを指標にして治療を行うべきであったでしょうか。この2点が,当科でこの症例を見返した際に疑問として残ったため,今回この場にて発表させていただきました。よろしくご教示お願いいたします。座長 どうもありがとうございました。ここまでの経過で,フロアの先生方のご質問,ご意見等ありましたらお願いいたします。城先生,お願いいたします。城 最初にRPGN(rapidly progressive glomeru-

lonephritis syndrome)で,腎機能が急速に下がることは分かるのですけれども,尿細管傷害でも急性腎不全になります。尿沈渣とかで,glo-

merulonephritisを起こしている証拠はありましたか。

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山地 そうですね。治療後,2月9日に入院中の採血を行っておりまして,その際の補体価では下限よりは上昇しておりました。補体価は44U/mlで,C3が98mg/dl,C4は25mg/dlま で戻ってきております。竹内 入院時の扁桃の所見はどうでしょうか。山地 扁桃の所見はなかったように思います。竹内 どうもすみません。ありがとうございます。座長 そのほか,ご意見はございますでしょうか。では,城先生,お願いします。城 IVCY(シクロホスファミド大量静注療法)をやっているのですけれども,先生の施設でのIVCYの適応は,どういうふうに考えていらっしゃるのですか。山地 当院での適応は,若年で比較的全身状態の良好な患者さん,ステロイドパルスの効きが良くない患者さんに治療しております。城 ステロイドパルスをやって,ある程度の反応があって,そこに IVCYを追加したところのスライドをもう一度お願いします。 ここでクレアチニンが3.0 〜 2.23に下がっています。追い打ちをかけるように,大体2週間後に IVCYをしていますね。山地 そうですね。その前の採血のデータで,1月5日時点でクレアチニンが2.33まで低下を認め,その後,1月9日に2.14まで下がりました。その後も順調に下がってくるかと思ったのですけれども,1月13日の時点では2.23と,軽度ですが戻っているという所見でしたので,疾患の活動性が持続していると考え,追加させていただきました。座長 ありがとうございました。では,ちょっと時間がなくなってきましたので,病理組織に移らせていただいてもよろしいでしょうか。では,城先生,お願いいたします。城 【スライド01】3本採取されておりますが,真ん中は結合織ということで,腎実質は2本です。皮質が全てで,髄質は採取されておりません。

座長 そのほか,フロアの先生,ご質問,ご意見はございますでしょうか。 では,私から1点お願いします。ANCA関連腎炎の所見は,全身症状や組織像からどのような点を挙げられますでしょうか。山地 全身所見としては,急速に進行した腎障害と,MPO-ANCAの値が高値であったことです。それから,入院時に抗核抗体を測っていたのですけれども,dsDNA抗体は測っていなかったことと,SLEとしての所見が乏しかったことで,ANCA関連血管炎としての治療を開始した状況でした。座長 ありがとうございました。そのほかにご意見はございますでしょうか。先生,お願いいたします。竹内 北里大学の内科の竹内と申します。 確か,最初に皮膚科をご受診されたということでしたでしょう。山地 はい,そうです。竹内 皮膚科を受診したのは,何か理由があったのですか。山地 すみません。紹介状は見ておりませんので,理由はこの場でお答えできません。申し訳ありません。竹内 皮膚科の受診理由によっては,lupusか,血管炎かというところもあるのかなと思いました。 生化学のデータで補体の結果が写っていなかったのですが,C3とCH50は,当初幾つぐらいだったでしょうか。山地 入院後の1月2日にC3と,C4,補体価を取っておりますが,補体価は正常範囲でした。当院の診断では,補体価自体は29U/mlで正常下限をちょっと下回る程度で,C3は81mg/dl,C4は13.7mg/dlでした。竹内 正常範囲であっても,治療経過中に補体の改善が少しずつ出ていることはありましたか。当初は正常範囲の下限であっても,正常範囲でだんだん上がってきているとかはありましたか。

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第64回神奈川腎炎研究会

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半月体があって,それが,こういう瘢痕性の癒着に収束したのではないかと思います。

【スライド13】そういうことで,癒着の頻度は後で出てきますけれども,最初の腎機能の低下が半月体形成によるものかどうか,そこに間質病変が加わっていたかどうか,これが次の課題になります。

【スライド14】これを見ますと,間質には tubu-

litisがあります。好中球の浸潤もあります。こういう変化は lupus腎炎だけでは出てまいりません。MPO-ANCAが陽性ですので,こういった変化はANCA関連腎症に伴う尿細管間質病変ではないかと思います。 もう1カ所,ここに tubulitisがあります。治療をしておりますので病変としては,それほど強くありませんが tubulitisは依然として残っています。

【スライド15】これがhemosiderin顆粒です。出血があった場合には,間質のほうにhemosiderin

が沈着することが多いのですが,この症例は尿細管の中に,しかも限局性にhemosiderinが沈着しております。この解釈は分かりませんが,少なくとも出血あるいは溶血があった後の変化だと思います。

【スライド16】これはHE染色で,かなり強くhemosiderinが沈着しております。

【スライド17】ここの場所もそうです。【スライド18】そういうことで,糸球体は9個ありまして,全節性硬化はありません。mesan-

gium細胞増多が9分の4で,segmentalな所見も加えておりますので44%。管内性細胞増多,分節性硬化もわずかにありました。細胞性半月体が1個,線維性半月体が3個で33%,癒着が2個,虚脱が2個というスコアを付けました。

【スライド19】糸球体基底膜の肥厚はなく,PAM染色で二重化ならびに spike,bubblingは見られない。糸球体の腫大もありませんでした。

【スライド20】一方,尿細管の萎縮が強く,間質の拡大があります。40%ほどでした。びまん性の細胞浸潤は,70%あります。すなわち,軽

【スライド02】尿細管の萎縮,間質の拡大が約40%で,特にひどいところの2カ所を見てみますと。

【スライド03】51歳の女性ですが,年齢にしては小葉間動脈の硬化が少し強いと思います。糸球体腎炎を疑わせる所見もあります。

【スライド04】mesangiumを中心に糸球体腎炎の所見があります。

【スライド05】癒着もあります。【スライド06】尿細管がこの領域ではかなり萎縮をして,周囲の間質のfibrosisが目立ちます。

【スライド07】このように尿細管が拡張しておりますが,これは,どこかに糸球体硬化があって,それに付属した廃用性のnephronの病変であると思います。

【スライド08】この糸球体に関して言うと,mesangium細胞増多は目立ちません。ここに癒着と分節性の硬化があります。

【スライド09】この糸球体は,mesangium細胞増多が軽度に見られます。管内増殖性の変化は目立ちません。ここに癒着を疑わせる所見があります。

【スライド10】こちらが血管極,こちらが尿管極に近いところですが,癒着があって,その場所の糸球体毛細血管係蹄に分節性の硬化があります。 全体的に,mesangium細胞増多はそれほど目立ちません。管内性細胞増多もそれほど目立ちません。 そういうことから,糸球体の病変で腎機能の低下を説明できないのではないかと思います。

【スライド11】ここが糸球体病変の強いところです。mesangium細胞増多があって,全体に毛細血管係蹄が虚脱して,毛細血管管腔がよく分かりません。分節性硬化への途上にある糸球体と思います。その糸球体のボーマン嚢腔に細胞性半月体の形成があります。

【スライド12】ここに癒着と分節性硬化が見られます。ステロイドパルス,IVCYをやっているということで,恐らく病変の極期には細胞性

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せる所見があります。しかも,lupus腎炎の場合に膜性腎症の合併が意外と多いということですので,細かいdepositがあるかどうかをもう1

回,目を皿のようにして見なければいけないと思います。 その理由は,foot process effacementが結構広範にありまして,これだけのvillous transforma-

tionがあります。これは膜性腎症のときによく見られる変化ですので,ここらへんに細かいdepositがあるのかどうか,すなわち,初期の膜性腎症の合併があるのかどうかをもう1回確認する必要があると思います。

【スライド29】lupus腎炎は,膜性腎症を合併する,要するにClass Ⅴを合併するかしないかで,蛋白尿に対する治療反応性が違いますので,病理としてはきちんと決着をつけなければいけないと思います。

【スライド30】これは傍mesangiumで,一見IgA腎症のようですが,lupus腎炎でも IgA腎症そっくりに傍mesangium depositが見られます。

【スライド31】depositはmesangium基質の中にも見られますがfinger print等の構造は見られません。

【スライド32】これも同じです。傍mesangium

から内皮下にかけてdense depositが見られます。また,広範な foot process effacementがありますので,細かいepimembranous depositが見られないかどうか。何を頼りにするかというと,IgGの蛍光染色を頼りにしながらepimembra-

nous depositを見ていかなければいけないです。【スライド33】尿細管には,好中球,plasma

cell,リンパ球が混在しております。【スライド34】免疫染色は,C3c,C1qが優勢で,

IgG,IgAが,mesangiumならびに毛細血管係蹄に顆粒状に陽性です。IgM,C4がmesangium領域に顆粒状に陽性です。 以上の所見から,免疫複合体腎炎。これ自体は,MPO-ANCA関連腎症と異なった所見です。C1qが陽性で,しかも優勢だということで,lupus腎炎に矛盾しません。

度ですけれどもdiffuseに炎症細胞浸潤があって,その内訳では尿細管炎を伴っていました。

【スライド21】炎症細胞の種類は,リンパ球,形質細胞のほかに,少量の好中球浸潤も認めております。ANCAのときは尿細管基底膜の破壊が多いのですけれども,この症例はありませんでした。ある時期に治療をして,その後,軽度の尿細管炎を残すという時期に腎生検をされたのではないかと思います。

【スライド22】萎縮した尿細管です。遠位尿細管を中心に硝子円柱が見られます。

【スライド23】血管系では,小葉間動脈で,年齢にしては結構強い動脈硬化性の内膜での線維性肥厚があります。

【スライド24】輸入細動脈内膜での硝子様肥厚は軽度です。

【スライド25】動脈炎,あるいは動脈内膜炎の所見はありません。

【スライド26】免疫染色です。実際に蛍光でよく見ないと分かりません。プリントで来るので,ある程度推測しながら判断せざるを得ません。これで見ますと,IgAはこの程度染まっておりまして,C3が IgAよりも強い。IgGも IgAよりも強い。C3,C1qが染まっているということで,このパターンは IgA腎症のパターンとは異なると思います。 病理的には免疫複合体性腎炎で,臨床的にはlupusの診断基準を満たしているということですので,lupus腎炎としていいのではないかと思います。  電 顕 で のdense depositも,mesangium, 傍mesangium,内皮下腔に見られますので,lupus

腎炎として矛盾しません。IgAの場合も内皮下に出てくることはありますが,比較的少ないです。IgAの 場 合 は, 傍mesangium,mesangium

にとどまることのほうが多いようです。【スライド27】足細胞のvillous transformationが結構目立ちます。

【スライド28】先ほどの IgAの蛍光をよく見ると,peripheralに軽度の膜性腎症の合併を疑わ

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ころで,ANCA関連の間質性腎炎から十分に腎機能が落ちますので,必ずしもglomerulone-

phritisによるものではなかったかもしれない。しかし,半月体が44%ということで,どちらとも言えないと思います。

【スライド41】治療方針についてですが,ループス腎炎のClass Ⅴが本当にないかどうか,もっときちんと見なければいけない。これがないとすれば,immune complex型のnephritisはステロイド治療で寛解が可能だと思います。そういうことからすれば,むしろMPO-ANCAの値と関連して治療をモニターしていくべきかなと思います。

【スライド42】まとめは今のとおりです。以上です。座長 はい。ありがとうございました。では,山口先生,お願いいたします。山口 【スライド01】lupusのⅢ型と取るか,ANCA関連腎炎を主体的にして lupusも合併していると取るかは,意見が分かれると思います。

【スライド02】治療後ですと,ずいぶん組織像が修飾されるのです。ですから,どのへんまでをcrescentと取るかはすごく重要になります。そんなに focusは大きくないのです。所々,確かに segmentalに動いています。治療をしている 割 に は, 例 え ばperitubular capillaritisと か,間質炎,糸球体炎に伴って回りに炎症が広がるのが一般的ですが,ANCAの場合は全腎的な炎症ですので,糸球体と関係のないところに間質性の炎症細胞浸潤があると思います。

【スライド03】このへんは,だいぶ尿細管が萎縮して,糸球体がcollapseしているのですが,動脈炎があっても,うまく標本内に出てこない場合が多いです。rebiopsyしますと動脈炎が得られる場合があります。ですから,こういう萎縮が,もちろんcrescent,糸球体硬化もあまりありませんので,バックグラウンドに動脈炎なり,何なりがないと説明がつかないように思います。 赤血球円柱はあちこちにあって,やはり

【スライド35】電顕診断です。傍mesangiumが主体で,mesangium領域,内皮下にdepositが見られます。finger printは見られません。

【スライド36】内皮の細胞質内のmicrotubular structures。これは特に活動性病変の lupus腎炎に出やすいですが,この所見はありませんでした。しかし lupus腎炎として矛盾しない所見です。 足 細 胞 の 脚 突 起 消 失 は 広 範 で,villous transformationを伴っていますので,ごく軽度な膜性腎症の合併があるかもしれないです。この点は,与えられた材料から私自身は結論が出せませんでした。

【スライド37】MPO-ANCA陽性ですが毛細血管管腔内への好中球浸潤はなく,糸球体に関してはANCA関連腎症の所見はありませんでした。しかし,間質に好中球,形質細胞を含む炎症細胞浸潤があって,tubulitisがあるということから,ANCA関連腎症の影響はあったと思います。

【スライド38】総じて言いますと,crescentがあって,それがパルスと IVCYから硬化した。そして,ANCAの影響で間質性腎炎もある。lupus腎炎の間質性腎炎でこういう tubulitisが伴ってくることはありませんので,やはりANCAの関与はある。最初の腎機能の低下は,ANCA関連の間質性腎炎が関与していた可能性があると思います。

【スライド39】半月体が44%あり,尿細管炎があることで,lupus腎炎にMPO-ANCA関連腎症の合併が考えられます。半月体形成,そして間質性腎炎に影響していたのではないかと。急速な腎機能低下はANCA性の尿細管炎によるものが疑われます。半月体が慢性化しているため,ANCA関連腎症が繰り返されていた可能性もあります。

【スライド40】疑問点を提示します。臨床的なRPGNが,尿細管炎を伴う尿細管間質性腎炎によるものかどうか。とにかく lupus腎炎の糸球体腎炎からはこのRPGNは説明がつかない。先ほど質問しましたように,本当にglomerulone-

phritisを合併していたかどうかが結構重要なと

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断は,普通のcrescentの形成ですと,例えばIgAですとdelta型にできてくるわけで,分断型のcrescentはANCA等ではないと見られない病変のように思います。

【スライド10】small crescent様の病変で,he-

mosiderinがだいぶ沈着しています。【スライド11】蛍光は,IgAといえるほどではないように思います。IgMも出ていますから,full houseに近い状態と思います。間質にはあまり沈着がないので,lupusがあったとしても,そんなにactivityの高いものではないと思います。

【スライド12】電顕は,城先生が説明されましたようにmesangial matrix,paramesangium,内皮下にもちょっとdepositがある。確かにvillous transformationが強いので,何かhyperfiltrationがかかっているのかどうかという問題だろうと思います。

【スライド13】間質炎はまだactiveで,tubulitis

もありますし,peritubular capillaritisもまだ残っているように思います。

【スライド14】広い意味でANCAと取ったほうがいいように思います。 ですから,lupusでANCAが陽性になりますと,crescenticなglomerulonephritisを呈してくるということで,このへんをどういうふうに考えるかは,総合的な判断が必要だろうと思います。 ですから,lupus腎炎にANCA(血管炎)がかぶって,尿細管間質の萎縮が広がっているのは,もしかしたらバックグラウンドに動脈炎が潜んでいるのかもしれない。クレアチニンのレベルから考えても考えられるだろうと思います。以上です。座長 どうもありがとうございました。臨床の先生から,何かご質問はございますでしょうか。山地 大丈夫です。どうもありがとうございました。座長 今回の症例は,lupus腎炎にANCA関連が合併したと考えるということでよろしいかと思うのですが,私も個人的に調べたところ,頻

crescentと思うのですが大きくないです。このように segmentが小さいです。あちこちに癒着あるいは,半月体の痕みたいなものが見られています。

【スライド04】城先生が注目されたように,尿細管上皮内にhemosiderosisがあるのはANCA

が多いのです。IgAでも,マクロのhematuriaが出てどこかにありそうなのですが,あまり目立たないです。われわれは,ANCAの症例をまとめて鉄染色しますと,尿細管上皮内,間質にも出てきますし,peritubular capillaries壁内にも少し残ります。 これはいろいろな意見があると思うのですが,核の崩壊像もありましてearlyなnecrotizing

な病変です。ですから,またたたいたというのは,それなりに意味があったのかなと思います。これも小さな focusであります。

【スライド05】先ほど城先生が出された,比較的はっきりしたcellularなところも出ていますし,間質炎,capillaritis,半周に近いようなfi-

brocellular crescentがあります。【スライド06】このへんは,capillaritisがちょっとあるのかな。まだ,だいぶcapillaritisが残っているという印象であります。

【スライド07】城先生が指摘されたように tubu-

litisがあります。lupusの間質性腎炎では tubuli-

tisはあるのですが,あまり激しいものは見ないことが多いです。mesangiumの拡大はあります。

【スライド08】1カ所,これをglobal sclerosisに取るべきだろうと思うのですが,このようにsegmentが分断されていて,ボーマン嚢の基底膜があまりはっきりしなくなっているのです。ANCAのときのグローバルなcrescentができて,一部 segmentが残っていると見るほうがいいと思っています。tubulitis,間質炎がまだ強い場所です。

【スライド09】この segmentも分断。先ほど,臨床の先生が写真を出していたのですが,これをcrescentと言わなかったのです。こういう分

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度的に20%ぐらい lupusにはANCAが合併しやすいということですので,今後も lupusの人にはANCAも測ってみるということも大切でしょう。今回は逆のパターンだったと思うのですけれども,治療がよく効いていると思いますので,また,引き続き教えていただきたいと思います。 では,この演題はこれで終了いたします。ありがとうございました山地 どうもありがとうございました。

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I-1MPO-ANCA高値で発症し、腎生検でANCA関連腎炎、

ループス腎炎、IgA腎症が合併したRPGNの一例

大和市立病院 腎臓内科、横浜市立大学付属病院 病態制御内科山地孝拡先生、竹下康代先生、渋谷諭之先生、

原 美朋先生、梅村 敏先生

東北大学大学院・医科学専攻・病理病態学講座城 謙輔

第64回 神奈川腎炎研究会2015年9月17日(土)15:30~19:45 横浜シンポジア

城先生 _01

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<光顕>標本は2切片採取。

糸球体全ての糸球体(9個)に全節性硬化はありません。全ての糸球体において、メサンギウム細胞増多を4/9個(44%)認めますが、管内性細胞増多ならびに分節性硬化はありません。細胞性半月体を1/9個(11%)、線維性半月体を3/9個(33%)、癒着を2/9個(22%)、虚脱を2/9個(22%)認めます。糸球体基底膜の肥厚はなく、PAM染色にて二重化ならびにspike・bubblingも見られません。糸球体の腫大はありません(200μm)。尿細管・間質尿細管の萎縮ならびに間質の線維性拡大を中等度に認め(40%)、同域にびまん性の炎症細胞浸潤を70%認めます。炎症はリンパ球・形質細胞・少量の好中球浸潤を認めます。尿細管炎を伴っています。尿細管基底膜の破壊はありません。萎縮した尿細管では、遠位尿細管を中心に硝子円柱を認めます。血管系小葉間動脈に中等度の内膜の線維性肥厚を認め、輸入細動脈に軽度の内膜の硝子様肥厚を認めます。動脈炎の所見はありません。免疫染色にてループス腎炎にcompatible です。また電顕的にもループス腎炎 ClassⅢにcompatible です。

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<免疫染色>C3c・C1qが優勢で、IgG・IgAがメサンギウムならびに糸球体末梢毛細血管係蹄

に顆粒状に陽性です。さらにIgM・C4がメサンギウム領域に顆粒状に陽性です。以上の所見から免疫複合体性腎炎の所見です。MPO-ANCA関連腎症とは異なった所見です。C1qが陽性でループス腎炎に矛盾しません。

<電顕診断>dense depositは傍メサンギウムが主体でメサンギウム領域そして内皮下に

見られます。depositには Finger printなどの構造はありません。また内皮にmicro tubular structureは見られません。しかしループス腎炎として矛盾しない所見です。足細胞脚突起消失が広範でvillous transformationを伴っています。極く軽度の膜性腎症の合併があるかも知れません。MPO-ANCAが陽性ですが血管管腔内への好中球浸潤はなく、内皮下の浮腫も無い事から電顕的にANCA関連腎症を裏付ける所見はありません。一方、尿細管・間質が採取されています。間質に好中球・形質細胞を含む炎症細胞浸潤があり、尿細管炎を伴っていることから、ANCA関連腎症の影響は否定出来ません。

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考察半月体形成が44%あり、尿細管・間質において尿細管炎があること、間質の炎症細胞浸潤に好中球が含まれていることを考慮すると、ループス腎炎にMPO-ANCA関連腎症の合併が考えられます。腎生検前に急激な腎機能の低下はANCA関連尿細管間質性腎炎によるものと思われます。いた可能性があります。半月体は慢性化しており ANCA関連腎症が繰り返されて

<疑問点に対する解答>①本症例におけるRPGNは44%の半月体形成と尿細管炎を伴う尿細管・間質性腎炎によるものと思われ、主としてANCA関連腎炎による病態と思われます。

②治療方針に関してはループス腎炎はClassⅢでClassⅤの合併がないことから、ステロイド治療により寛解が可能です。腎機能ならびに蛋白尿の推移はMPO-ANCAの値と関連して治療を行うべきと思われます。

城先生 _21

城先生 _22

標本番号 15P-006651歳 女性

臨床診断: 急速進行性腎炎症候群、MPO-ANCA:高値、ループス腎炎の合併、腎機能低下、ステロイドパルス治療後

病因分類: ループス腎炎+MPO-ANCA陽性腎炎病型分類: MPO-ANCA関連腎症(半月体形成性腎炎+尿細管・間質性腎炎)、

ループス腎炎 ClassⅢ

IF診断 : 免疫複合体性腎炎、ループス腎炎,compatible電顕診断: ループス腎炎 ClassⅢ,compatible、A

NCA関連尿細管・間質性腎炎の疑い

皮質:髄質=10:9糸球体数:9個、全節性硬化:0個、メサンギウム細胞増殖:4個、管内性細胞増多:0個、半月体形成:4個(細胞性半月体:1個、線維細胞性半月体:0個、線維性半月体:3個)分節性硬化:0個、癒着:2個、虚脱: 2個、未熟糸球体:0個尿細管の線維化(IFTA):40%、間質の炎症細胞浸潤:70%小葉間動脈内膜の線維性肥厚:中等度、輸入細動脈内膜の硝子様肥厚:軽度

山口先生 _01

I‐1:MPO‐ANCA高値で発症し、腎生検でANCA関連腎炎、ループス腎炎、IgA腎症が合併したPRGNの1

例(大和市立腎内)

症例:51歳、女。3ヶ月前に腎機能障害を指摘。MPO‐ANCA 408U/ml, Cr 3.08 mg/dl。ステロイドパルス療法後生検。その後抗核抗体>1280倍で、ループス腎炎も疑う。

臨床病理学的問題点:

1.ANCA関連腎炎かループス腎炎か?2.IgA腎炎はあるか?3.治療は?

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第64回神奈川腎炎研究会

Page 20: MPO-ANCA高値で発症し,腎生検でANCA関連腎炎 ......U/mlと高値を認めました。入院時に行った心電図,胸部レントゲン写真,心臓超音波検査,腹部CTでは明らかな所見は

64‐I‐1(大和市立)1. Crescentic sclerozing glomerulonephritis2. Mesangial lupus nephritis (ISN/RPS: Class II), most‐likely

cortex/medulla= 6/4, global sclerosis/glomeruli= 1/9

光顕では、糸球体には9ヶ中に8ヶに半周に及ぶ線維細胞性或いは線維性半月体が見られ、分節状硬化や癒着を認めます。球状硬化1ヶに全周性線維性半月体を認め、分節やボウマン囊壁の断裂、消失が見られます。

尿細管系には多核球や単核球浸潤による尿細管炎が中等度散見され、近位上皮の再生性変化と血鉄症を認め、赤血球円柱や硝子円柱の散在を伴っています。

間質には萎縮傾向のある尿細管系と共に間質の線維化巣がかなり拡がり、単核球や多核球浸潤を認め、傍尿細管毛細血管炎も散在性に中等度見られます。中位動脈内膜肥厚は軽度見られ、細動脈硝子化は軽度です。

蛍光抗体法で、IgG(±), IgA(+), IgM(+), C3(+), C1q(±), C4(±), fib(‐): peripheral < mesangial patternです。

電顕では、糸球体にはGBMに内皮下沈着と共に部分的メサンギウム間入を認め、内皮の

腫大、増生が見られます。傍メサンギウム域から基質内にも沈着物を認め、メサンギウム細胞増生と基質増加が軽度見られます。脚突起癒合が所々で見られます。多核球や単核球浸潤による尿細管炎が散見され、傍尿細管毛細血管炎も認めます。

以上、ループス腎炎にANCA関連血管炎の合併を示唆します。

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腎炎症例研究 32巻 2016年