Kosaka Yasuo -...

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橋のお国事情 ド イツ シュライヒ German Bridge Circumstances — Centering around J.Schlaich’s Bridges — Kosaka Yasuo Matsuda Hiroshi 1 ライン川の橋梁 ド イツ して, こされる ,ライン かる 多く ある. ,ア メリカ 学からド イツに ったレオンハルト (Fritz Leonhardt) 28 し, わった 378m プレートガーダー ,ケルン・ロ-デンキルヘン (1941 ),コンクリ-ト ,コブレンツ にある (Cantileber) フィンスタ-ヴァルダ- (Ulrich Finsterwalder) によるプレストレストコンクリ-ト ,ベンド ルフ (1964 ) あろう.こ かれるま 8 して (208m) を維 していた. ド イツ Rheinbr¨ ucke Bendorf び,○○○ そして をつける が多いよう ある.そ ため,あまり られてい かわ から いこ あるが, ライン ベンド ルフ こられた.また かる ,□□□ talbr¨ ucke(□□□ ) れている. ケルン・ロ-デンキルヘン ( 1) ,第 2 によって したが, され, 1995 18m から 36m うため, 2 から 3 し, っている [1].こ 4 がら われた.ケルン・ド イツ ,レ オン ハルト してスレンダ- (1946 ) あるが, 1978 PC がそ けられ, してユニ-ク ある ( 2)[2].ライン 多く かっている.デュッセルドルフ 3 デザイナ-,タムス,バイア- レオンハルト による ある. 1: ロ-デンキルヘン () 2: ケルン・ド イツ ( : ,右:PC ) () 大学 1

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橋のお国事情

ドイツ—シュライヒの橋を中心に —

German Bridge Circumstances

— Centering around J.Schlaich’s Bridges —

Kosaka

上 阪Yasuo

康雄 ∗Matsuda

松 田Hiroshi

浩 †

1 ライン川の橋梁

ドイツの橋として,先ず思い起こされるのは,ライン川に架かる数多くの橋である.中でも代表

的なのは,アメリカ留学からドイツに戻ったレオンハルト (Fritz Leonhardt)が当時 28歳の若さで

設計し,施工にも携わった最大支間長 378mの鋼プレートガーダー吊橋,ケルン・ロ-デンキルヘン

橋 (1941年),コンクリ-ト橋では,コブレンツ下流にある張出し架設 (Cantileber)工法の発案者,

フィンスタ-ヴァルダ- (Ulrich Finsterwalder)によるプレストレストコンクリ-ト橋,ベンドルフ

橋 (1964年)であろう.この橋は浦戸大橋に抜かれるまで, 8年の間,桁橋としての最大支間長記録

(208m)を維持していた.

ドイツでは,河川橋の名前は Rheinbrucke Bendorf などと呼び,○○○河橋そして地名をつける

ことが多いようである.そのため,あまり知られていない川だと,川の名前なのか町の名前なのかわ

からないこともあるが,日本の先輩諸氏はライン河ベンドルフ橋などと呼んでこられた.また谷間に

架かる橋は,□□□ talbrucke(□□□渓谷橋)などと呼ばれている.

ケルン・ロ-デンキルヘン橋 (写真 1)は,第 2次世界戦争によって崩落したが,再建され, 1995

年には幅員 18mから 36mへと大規模な拡幅工事を行うため, 2面から 3面吊橋へと変貌し,現在に

至っている [1].この工事は常時 4車線の交通車両を通しながら行われた.ケルン・ドイツ橋は,レ

オンハルト設計の鋼桁橋としてスレンダ-で有名な橋 (1946年)であるが, 1978年には全く同じ形

の PC桁がその隣に架けられ,双子橋としてユニ-クな存在である (写真 2)[2].ライン河には,斜張

橋も数多く架かっている.デュッセルドルフの 3つの斜張橋は,橋梁デザイナ-,タムス,バイア-

とレオンハルトの協同作業によるものである.

写真 1: ロ-デンキルヘン橋 (拡幅工事中) 写真 2: ケルン・ドイツ橋 (左:鋼橋,右:PC橋)∗新日本技研 (株) 技術部†長崎大学 工学部 構造工学科 助教授

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2 景観・環境への配慮

ドイツの橋の設計過程で,これまでこうしたア-キテクト (建築家,橋梁デザイナ-)たちは重要な

役割を果たしてきた.ライン川などに架かる橋のほとんどは,こうしたア-キテクトと構造技術者の

連携によって,最終形状が決定され,施工へと進められていく.現在の環境に配慮した橋の設計コン

ペでは,さらに環境生態学に詳しい専門家が加わって, 3者の協同により橋を設計する.環境専門家

は,現在の生態系の調査から始め,将来の植林計画を立てるので,造園プラナ-とも呼ばれている.

環境への配慮という点で,ドイツは世界の模範国となっている.ゴミ問題にしても,一般の人々が

出すゴミの量は,日本の 1/3程度であろうか.つまり,ゴミの収集回数が 1/3程度なので,だれでも

ゴミを減らす努力をしなければやっていけないのだ.その分,リサイクル可能なものが増え続けてい

る.ビニール袋は有料のため,布袋や買い物篭を持って出かけるのが常識である.シュツットガルト

大学では,学生たちが使い捨てコーヒーカップをやめ,陶磁器を使おうという運動を行っていた.川

の流れにしても,元来の自然が持っていた蛇行の重要性にいち早く気づき,水辺の生態系復活に向け

て,環境予算が大きく増やされた.環境税は元々急進派の「緑の党」が言い出したことで,反対派も

多いのだが,「緑の党」が政権協力与党となったことにより,社会から受け入れられている.小学校

などにおける環境教育は,すでに保守政権の時代から重点的に進められ,世論調査では,若い世代ほ

ど環境意識が高くなっている.

さて,ドイツ人は散歩と公園が非常に好きな国民である.公園の中に道路が計画されるとき,歩道

橋の建設が不可欠となるが,歩道の勾配は,障害者にも優しく計画されている.

ユニ-クな歩道橋が多いことで知られるシュツットガルトは,市の中心部,駅前の通りにレオン

ハルトの初期の斜張橋,シラ-橋 (1960年)が架けられ,駅の近くには,王宮公園を結ぶシュライヒ

(Jorg Schlaich)のシェル状のアーチ歩道橋 (1977年,写真 3)が架かっている [3].アーチの水平反

力は,両フーチングを地中弦材で結び,自碇式の構造となっている.この橋は夏になるとつたに覆わ

れ,緑の橋に変身する (写真 4).

写真 3: 王宮公園を結ぶシェルアーチ橋 写真 4: 夏には緑の橋に変身

3 シュライヒの吊形式歩道橋

シュライヒは, 1934年シュツットガルト郊外のワイン産地レムスタールに生まれ,シュツットガ

ルト大学,ベルリン工科大学,米国クリープランド大学に学んだ後,レオンハルト・アンドレ-設計

事務所においてミュンヘン・オリンピック競技場吊屋根の設計などに関わっていたが,レオンハルト

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教授の後継教授になると同時に独立し,次々と軽いタッチの構造物を創造してきた.そのシュライヒ

も今年中には後継教授に次世代を託さなければならない年代になられたが,構造物の発想に関しては

まだまだお元気である.昨年の神戸 IABSE大会では,建築構造の基調講演をなされたので,シュラ

イヒ教授の構造設計への取り組み方を直接お聞きになった方も多いと思う.

しかし,シュライヒの構造物を体感するには,やはり地元シュツットガルトが最良の町である.こ

この中央駅の上にはベンツのマークが据えられ,夜になるとこのマークが回転している.ポルシェ社

もここにあり,小都市ながらドイツ経済の中枢のひとつである.レオンハルトの設計によるコンク

リート製のテレビ塔に昇ってみるとよくわかるが,シュツットガルトはネッカー河の周りにわずかな

平野が広がる盆地にあり,中心部を除けばワイン畑と森の緑が非常に多い町である.そういう町な

ので,国際庭園フェア (IGA)がよく開かれ,その会場に続く歩道には,シュライヒのユニークな歩

道橋が方々に架けられている.シュライヒの歩道橋に関して,本誌 [4]でも取り上げられているが,

シュツットガルトには吊形式歩道橋 [5][6]をはじめ多くのユニークな橋が架けられている.

3.1 IGA(1977)のための歩道橋

シュツットガルトのローゼンシュタイン橋 (写真 5)は自碇式吊橋である.鉄筋コンクリートからな

る厚さ 35cmの床版はケーブルの水平方向成分によってプレストレスが導入されている.斜めハンガー

は美観を高めるだけでなく, 局部的な荷重を分担する効果もある.もちろん, そのため鉛直ハンガー

の場合よりも大きな応力変動を受けることになる.直径 75mmの 2本の主ケーブルは塔頂部で鋳鉄

製のケーブルサドルを介して張られており, それぞれ端部で橋台に定着されている.タワーは床版を

つき抜けており接触していない.床版はジャッキによって主塔をもち上げることによって脱型され,

ケーブルに張力が導入されている. (建設年: 1977年,建築家: H.Luz, M.Bacher)

写真 5: ローゼンシュタイン橋 図 1: 概要図

ローゼンシュタイン橋のすぐ近くに架けられているクライネ・ローゼンシュタイン橋 (写真 6)は,

プレテンションが導入されたケーブルトラス形式吊橋 (Seilfachwerkbrucke)である.コンクリート床

版は 2つの橋台間に張られた 2本の上ケーブルの上に直接載せられている.上ケーブルを緊張するこ

とによって,集中荷重に対する変形が減じられ,振動特性が安定する.また,橋軸中央線上に上ケー

ブルに対して反対の曲率をもつ下ケーブルを一本配置し , この下ケーブルと 2本の上ケーブルを斜め

ハンガーロープを用いて連結し, 3次元的なケーブルトラスを形成している.この橋の架設は支保工

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を用いずに行なわれた. 10cm厚のコンクリート床版は上ケーブルの上に載せて連結され,アンカー

部で下ケーブルに張力を導入して完成した. (建設年: 1977年,建築家: H.Luz, M.Bacher)

写真 6: クライネ・ローゼンシュタイン橋

図 2: 概要図

3.2 IGA(1993)のための歩道橋

シュライヒの歩道橋として度肝を抜かれるのは,レ-ベントアー歩道橋 (1993年,写真 7,図 3)で

あろう.この橋は,吊り屋根のイメ-ジで建設され,その上に歩道が載っているだけである.クライ

ネ・ローゼンシュタイン橋のケーブルトラス構造をさらに面的に拡張したケーブルネット構造の形成

である.橋の下面には,ワインのつたが植えられ,今年この橋を再び訪れた際には片側で葉っぱの緑

がずいぶん増えていた.

写真 7: レーヴェントアー歩道橋 図 3: 構造モデル

この橋の近くには,分技点を持った三差形式の吊形式歩道橋,ノルト駅歩道橋 (写真 8)とハイルブ

ロンナー歩道橋 (写真 9),木の枝で支えられたような橋と鋼管アーチ橋であるプラークザッテル I, II

橋 (写真 10, 11)が架けられている.

2つの隣接する類似の三差形式吊橋は,電車の停留所を跨ぐ陸橋の他に,プラットホームへの導入路

として各々 3つの分岐路をもつ.ノルト駅歩道橋の主塔下端は固定支持,主ケーブルは 3方向とも桁

端で定着された自碇式であるのに対して,ハイルブロンナー歩道橋の主塔下端はピン支持,主ケーブ

ルは跨道部は自碇式であるが,導入路部は他碇式である [5]. (建築家: H.Luz und H.Egenhofer)

また,プラークザッテル II橋のアーチリブは中実丸鋼と鋳鉄接合部からなり,鋳鉄接合部から鉛直

材を介してコンクリート床版が補剛桁として設置されている. 2つのアーチリブはスプリンギングで

交差しアーチクラウンに向って広がっている [5].プラークザッテル I橋の樹木のような柱はシュツッ

トガルト空港のターミナルビルの柱にも採用されている (写真 12).

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筆者らは,本年それぞれ相前後して,シュライヒ教授の研究室 (4月松田)もしくは設計事務所 (7

月上阪)を訪れ,シュライヒ教授から,興味ある橋梁設計のお話を伺う機会に恵まれた.その中で,

筆者らが共に感銘を受けたのは,構造について説明されているときの教授の,まるで少年のような

熱っぽい眼差しであった.トレース用紙に新しい橋梁構造が次から次へとスケッチされていく.いろ

いろなアイデアを考え出すのは楽しくてしょうがないというご様子で,ご多忙の中,時間を気にされ

ず,設計の世界に没頭されていかれるようであった.

写真 8: ノルト駅歩道橋 写真 9: ハイルブロンナー歩道橋

写真 10: プラークサッテル I歩道橋 写真 11: プラークサッテル II歩道橋

写真 12: シュツットガルト空港ターミナルビルの柱

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3.3 その他の吊形式歩道橋

シュツットガルトのマックス・アイス橋 (写真 13)はタワー間のスパン長が 114mで, 他碇式吊橋と

して設計されている.タワー支柱から 2本のロープが広げられ, 斜めハンガーとコンクリート床版か

らなる構造は, ネッカー河とワイン畑に対して非常に調和がとれている.構造的には橋の両端部の支

持条件は全く異なっている.

一方の川岸はほとんど平坦で,橋の内側まで樹木がある.床版は,タワー部で 2つに分岐し, 2本の

ケーブルアンカー位置まで張られているハンガーロープによって支持されている.片方の川岸は険し

く, 道はワイン畑へと繋がっている.床版はタワーの前方で片側に曲っており,道と直接繋がってい

る.タワーは直線ケーブルによって地盤に固定されている.

他碇式とすることによるアンカー部などの付加的なコストが増大することは否定できないが,船

が通るネッカー河に補助支柱を建てることは許されず,またプレキャスト部材からなる床版を直接

主ケーブルに吊り下げなければならないので, 他碇式吊橋とすることの有利性を見い出すことができ

る.さらに他碇式吊橋とすることにより床版の幾何形状を自由に決定することができる. (建設年:

1988年,建築家: B.Schlaich-Peterhans)

写真 13: ネッカ-河マックス・アイス橋 図 4: 概要図

シュツットガルトのネッカー通りに架けられているブレ歩道橋 (写真 14, 図 5)は自碇式吊橋として

設計されており, 新築ホテルからケーブルが吊られ, 同時にホテル前の車道を越える屋根として, また

王宮公園への通路として使われている.ホテルの建築物部分で幅員が広くなったコンクリート床版は

建築物と一体ととして接続されており, ケーブルはホテルの反対側にある支柱上の床版部で定着され,

その先端の床版部は可動支持されている.厚さ 20cmのコンクリート床版が圧縮材の役割を果してい

る.防錆の観点より, ケーブルバンド , 定着部, ペンデル沓は, ステンレス鋼製で製作されている.

(1987年建設, 建築家: Kammerer, Belz und Partner)

写真 14: ネッカー通りのブレ歩道橋 図 5: 概要図

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コーヘンホッフ橋 (写真 15)は,キレスベルクの見本市会場と駐車場を結ぶ跨道橋で,主塔が片側

にのみ設置された非対称なケーブル配置をもつプレテンションが導入されたケーブルトラス橋であ

る.クライネ・ローゼンシュタイン橋のケーブルシステムが立体トラスであるのに対して,本橋のケー

ブルシステムは平行なハンガーロープで連結されている (そのためこの形式は Seilbinderbruckeと称

されている).主塔は 3本の丸鋼をタイプレートで組み合わせたた構造で,上下端で三角形が絞られ

た断面形状となっている.横桁は 2.5m間隔に配置され,その端部でハンガーロープにより上・下ケー

ブルに連結されている.その上の 13cm厚のコンクリート床版は, 2.5間隔に配置された横桁で支持

されている.

写真 15: コッヘンホッフの歩道橋

図 6: 概要図

3.4 曲線吊形式および曲線アーチ歩道橋

ケルハイムのライン・マイン・ドナウ運河に架かる歩道橋 (写真 16,図 7)[7]は,運河に平行な 2

つの直線状のランプがあり, その間に半円状の形で運河に架けられている.船の航路高を満足するた

めにこのランプが必要となった.当然, ランプの上端部で橋を直角に曲げ真直に架け渡し, 2~ 3m短

くすることも可能であった.しかし, 採用された桁形状は景観的に優れているばかりでなく, 力学的に

も合理的なものとなった.円形リング状の床版は片側だけを吊るだけでよい.主ケーブルは 2つの傾

斜したタワーから張られ, ハンガーによって美観的に優れた曲面を形成している.床版はその断面重

心軸が平面的にリング状に曲線配置されており, PC構造部材によって反りモーメントを調整するた

めにプレストレスが導入されている.

主構造としては他碇式吊橋に分類されるが,この橋の場合には通常の他碇式と自碇式の分類は該当

せず, 両方の機能を併わせもった構造形式となっている.傾斜したタワーは確実に地盤にアンカーす

る必要があるが, 円形リングはアーチとしての機能を果たし, 主ケーブルの水平方向成分によってこの

圧縮力は調整することができる.桁下が平坦で床版は簡単に足場を組むことができ, また, 橋が完成し

た後, 運河は掘られたので, 架設技術には問題はなかった. (1987年建設, 建築家: Ackermann und

Partner)

このケールハイムの歩道橋と同じ原理で,現在,ミュンヘンのドイチェス・ミュージアム内に曲線

吊形式の歩道橋が建設されている (写真 17).傍らには,円形内側のケーブルを引っ張ると,それに

連結された各横桁にねじりモーメントによる上向きの力が発生する模型が置かれており,このガラス

製床版を体験した子供たちは再び驚きの声を上げていた.

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写真 16: ケルハイムの歩道橋

図 7: 概要図

写真 17: ドイチェス・ミュージアムの歩道橋(床版は 10mm厚のガラス層より成る)

図 8: 概要図

リップスホルスト歩道橋は,面内および面外に曲率をもつ 1本のアーチリブとコンクリート床版か

らなるユニークな橋である (写真 18).面内・面外にアーチ曲率をもつので施工が極めて難しく,アー

チとコンクリート床版を一体化したブロック架設が行われた (写真 19).

写真 18: リップスホルストの歩道橋 写真 19: 架設状況

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4 シュライヒの最近の道路橋

4.1 ドナウ河グラシス橋 (インゴルシュタット橋)

美しい公園内を通るドナウ河グラシス橋は日本の建築家の視察対象 [8]となっている橋梁で,中央

が道路橋で,その両側に歩道橋が併設されている (写真 20, 21).道路橋は極めて偏平な RCアーチ状

の桁 (桁高 70cm×2)とケーブル (ロックドコイルドロープ 4 × φ = 118mm)を使用したスレンダー

な構造である.桁とケーブル間には 4m間隔で鉛直材 (鋳鋼)が設けられている.歩道橋は吊床版形式

で,道路橋のケーブルと同じ幾何形状である.両橋脚部はラーメン方杖構造で,各橋脚はケーブルサ

ドル,橋台はケーブルアンカーの機能をもつ.河川上の方杖部と桁とは一体構造となっているため,

死荷重に対して桁には圧縮力が作用し,活荷重に対しては鉛直材を通じてケーブルに力が伝達され支

持される構造である.また,歩道橋の横揺れ防止策として,道路橋と歩道橋のケーブルがロッドで結

合されている図 9, 10). (1998年建設,建築家:Kurt Ackermann,造園デザイナー:Peter Kluska)

写真 20: グラシス橋 写真 21: グラシス橋の下面

/

図 9: グラシス橋の橋脚部断面図図 10: グラシス橋のスパン中央断面

4.2 ネーゼンバッハ渓谷橋

近郊電車の Universitat(大学)駅にほど近い,現在建設中の橋がネーゼンバッハ渓谷橋である (写真

22, 23).この橋は,Hans Luz(橋梁デザイナー)とともに,設計コンペで賞を獲得した.この橋は森

の中にある谷の両側のトンネルに直結し,橋梁の断面はトンネルの断面と連続しており,あたかもト

ンネの延長だという印象を与える.橋の上部には歩道が取り付けられている.この橋は閑静な森の中

に位置するため,付近の住民の騒音対策に特別に配慮されている.橋の片側は道路と同じ高さに住宅

があり,もう一方は道路より高い斜面上に住宅がある.そのため図 11に示すように,防音壁が取り付

けられているとともに,構造的にはジョイント部や支承部がないコンクリート橋である.シュライヒ

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教授はネーゼンバッハ渓谷橋を Integral bridge と称している [9].さらに,この橋は隣接する重厚な

鉄道橋との調和にも配慮した景観設計がなされている.

写真 22: ネーゼンバッハ渓谷橋橋面 写真 23: ネーゼンバッハ渓谷橋

図 11: 橋梁断面

5 シュライヒの最近の鉄道橋

5.1 ベルリンの鉄道橋 (ハーベル河鉄道橋,フンボルト港鉄道橋)

ドイツ統一で始まった空前の建設ブームは,旧東独地域ではすっかり下火になってしまったが,ベ

ルリンだけは未だに全市を挙げて建設工事の真最中で,現在ヨーロッパ最大の建設現場である.シュ

ライヒは,ベルリンにおいてハーベル橋,フンボルト港橋などの鉄道橋の設計にも携わっている.

ハーベル橋は, 7車線の斜橋で,スパン長 80m,幅員もほぼ同じ長さである.当初,タイドアーチを

並列した橋が計画されていた.タイドアーチは美観的に優れた構造であるが,この橋でこれを採用す

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ると鋼材のジャングルのようであったため,曲げモーメント分布図に従ったウェブ高をもつフルウェ

ブタイプの連続桁橋を提案し,採用されることになった (写真 24, 写真 25).外ケーブルをコンクリー

トで巻いたスイスのリッデス・シャドソン橋 [10]を思わせる橋であるが,鋼橋である.

シュライヒは,橋だけでなく,ベルリンの Lehrter駅のプロジェクトにも参画している.これには,

フンボルト港に架かる 7車線の鉄道橋の建設も含まれている.鋼製アーチリブは鋳鉄製の接合部をも

ち,その上に補剛桁としてのコンクリート床版が載せられている.

写真 24: ハーベル河鉄道橋 写真 25: ハーベル河鉄道橋 (全景)

写真 26: フンボルト港鉄道橋 (スケッチ) 写真 27: フンボルト港鉄道橋 (架設状況)

5.2 バード・カンスタットの鉄道橋

シュツットガルト市内のバード・カンスタットに計画中の鉄道橋は,上路式アーチ橋をちょうど逆

にした形式の橋である (写真 28).ベルリンのハーベル河鉄道橋と類似しているが,支点部は曲線で

切り取られており,きわめて軽快感がある.エクストラドーズド橋やガンター橋を思わせる橋である

が,主塔高が低い場合には,このように曲線部材を用いた方が美観的にも優れているように感じる.

写真 28: バード・カンスタットの鉄道橋

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図 12: 一般図

6 キールの可動橋

写真 29, 30は,バルト海に面するキールの天然フィヨルド港 Fordeに計画された可動橋である (建

設:1995年).この可動橋の設計開発において新しい考え方が得られた.可動部はスパン長 26mであ

る.多くの可動方法を模索し,ゴッホの跳ね橋などの可動形式を避けた結果,ケーブルステイによっ

て支持された折りたたみ式の床版のアイデアに到達した.床版はコンチェルティナのように, 2本の

支持柱が傾斜するとケーブルはそれに従って動く構造となっている.

写真 29: キールの可動橋

写真 30: Kielの可動橋 (模型)

7 ドイツの設計システムとシュライヒ教授からのメッセージ

シュライヒ教授は,過去何度も日本を訪れておられ,また種々の委員会のリーダー的立場にあるの

で,土木・建築分野に幅広い日本の友人をお持ちである.そのため,日本の構造物も数多く知ってお

られるが,日本で設計コンペがほとんどなされていないことを非常に残念に思っておられる.今後の

橋梁発展への一助となることを期待し,以下,教授が語って下さったドイツの設計コンペと照査技師

制度を紹介し,最後に日本の橋梁技術者へのメッセージを示す.

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ドイツをはじめヨーロッパ諸国では, 1990年頃から,地方自治体を中心に橋梁の設計コンペが次々

に導入され,斬新なデザイン,アイデアに富んだ構造物が次々に生まれている.各自治体は,たとえ

国道であっても,それが自治体内を通る場合,大きな発言力を持ち,独自に設計コンペを企画するこ

とが多くなってきた.市の場合,市長が企画委員長となり, 4名程度の専門家,学識経験者からなる

設計コンペ審査委員会を設置する. 1990年当時には,こうして選ばれた設計案が,発注者の決断力

不足のために流れたこともあったが,今では,仮に道路建設局がコンペ案を採用しないと言い出して

も,住民投票によって選定案を勝ち取るケースが増えてきている.

数々のアイデアの中には,不安定に見える案も少なくない.こうした場合,構造に一定の安全性を

確保するため,ヨーロッパ諸国では,全ての構造物に対して照査技師制度が定められている.照査技

師は国から認証を受けた数少ない専門家であり,構造物の安全性に対して法的な責任を持つ.よっ

て,建築関係では建設警察官 (Baupolizei)とも呼ばれる.ドイツの場合,DINには法的な力はない

が,照査技師にはこれが与えられている. EU統一によって,今後はドイツ的な制度が EU諸国に及

ぶ予定である.設計技師と照査技師は,それぞれ別の設計事務所でなければならず,照査技師は,発

注者が委託する.また,照査技師は,施工の可能性を照査する役目も持ち,施工管理における問題に

ついても照査する.さらに,保険制度が発達したヨーロッパでは,設計事務所,施工会社とも,瑕疵

対策としての保険に加入するのが普通になってきた.保険金は,民間の保険会社が定めるが,過去の

実績を重視するので,ミスの少ない会社は保険金が低くなる.

最後に,シュライヒ教授は,シュツットガルトをはじめとして,これまで斬新な設計案が採用され

たのは,行政機関の理解のおかげであると述懐されていた.個人が尊重されるヨ-ロッパのやり方

を,そのまま日本に適用することはできないであろうが,日本の優れた橋梁界のリ-ダ-諸氏が,行

政機関と協力し合って広くアイデアを求めるようになれば,年間橋梁建設数では,ドイツを圧倒する

日本の場合,興味ある橋梁が数多く誕生するのではないかというシュライヒ教授のアドバイスを紹介

し,結びとしたい.

参考文献

[1] 山崎淳,成井信,松田浩:ライン河ケルン・ローデンキルヘン橋拡幅工事,土木施工 37巻 8

号, pp.65-73, 1996.

[2] 成井信,上阪康雄: PC技術の限界に挑戦した橋 —Koln-Deutz橋,プレストレスト・コンク

リート,Vol.23, No.3, pp.81–90.

[3] A. Holgate: The work of Jorg Schlaich and his Team, Edition Axel Menges, 1997.

[4] 橋梁と基礎海外文献研究グループ: シュライヒ歩道橋 (その 1,その 2),橋梁と基礎, pp.50–

51, 94-3, pp.48, 94-4, 1994.

[5] J. Schlaich, R. Bergermann : Fuß gangerbrucken,

Jorg Schlaich, Hangebrucken – heute noch ?, Lehrstuhle und Institute fur Statik, Baustatik

und Baupraxis, Tagungsheft BB4, pp.1.2-1.23, (1990.3).

[6] 松田 浩ほか:今,何故吊橋か — 景観を考慮した中小吊形式橋梁の可能性,九州橋梁・構造工学

研究会,土木構造・材料論文集, pp.159–167.

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Page 14: Kosaka Yasuo - 長崎大学工学部工学科構造工学コース...教授の後継教授になると同時に独立し,次々と軽いタッチの構造物を創造してきた.そのシュライヒ

[7] 上阪康雄:ドイツの独創的な PC橋の系譜,プレストレストコンクリ-ト,Vol.35, No.2,

pp.34–44, 1993.

[8] 渡辺邦夫:構造専門家が見た欧州の橋,日経コンストラクション,No.228, 3-26, pp.86–88,

1999

[9] S. Engelsmann, J. Schlaich and K. Schafer: Integrale Betonbrucken — Bruckenbauwerke

aus Konstruktionsbeton ohne Fugen und Lager, Beton- und Stahlbetonbau, 94, Heft 5,

pp.206–215, 1999

[10] 鋼橋技術研究会 (鋼橋の景観設計研究部会)編,篠原修監修: Visual Structure –構造造形家と橋

梁技術者の出会い –,三興美術印刷, pp.62–65, 1993.

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