GC/Q-TOF と Low - Energy EI (E&L)...高分解能精密質量 GC/Q-TOF と Low - Energy EI...

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高分解能精密質量 GC/Q-TOF Low - Energy EI イオンによる抽出物 および浸出物 (E&L) 化合物分析 アプリケーションノート 著者 Kevin Rowland 1 , Mark Jordi 1 , Kai Chen 2 , and Jennifer Sanderson 2 1 Jordi Labs Mansfield, Massachusetts 2 Agilent Technologies, Inc. Santa Clara, California 概要 抽出物および浸出物 (E&L) する研究では、正確化合物同定重要になります [1]。広範囲にわたる種類濃度化学物質含有する E&L 抽出複雑であり、化合物 同定課題となっています [2]。従来、E&L する研究GC検査可能部分 については、標準 EI フルスキャンモードでのユニットマス GC/MS NIST GC/MS ライ ブラリ検索による化合物同定いられていますただしライブラリの一致スコアが 不確かな状態検出された化合物場合、 この手法からられるのはられた結果のみ ですこの研究では、高分解能精密質量 GC/Q-TOF Low-Energy EI 対応のイオンいることにより柔軟性信頼性向上したE&L 化合物分析用しいツールについて 説明します1. Agilent 7250 シリーズ GC/Q-TOF システム

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高分解能精密質量 GC/Q-TOF と Low - Energy EI イオン源による抽出物 および浸出物 (E&L) 化合物の分析

アプリケーションノート

著者

Kevin Rowland1, Mark Jordi1, Kai Chen2, and Jennifer Sanderson2

1 Jordi Labs Mansfield, Massachusetts

2 Agilent Technologies, Inc. Santa Clara, California

概要

抽出物および浸出物 (E&L) に関する研究では、正確な化合物の同定が重要になります [1]。広範囲にわたる種類と濃度の化学物質を含有する E&L 抽出は複雑であり、化合物の同定が課題となっています [2]。従来、E&L に関する研究の中で GCで検査可能な部分については、標準 EI フルスキャンモードでのユニットマス GC/MS と NIST GC/MS ライブラリ検索による化合物の同定が用いられています。ただし、ライブラリの一致スコアが不確かな状態で検出された化合物の場合、この手法から得られるのは限られた結果のみです。

この研究では、高分解能の精密質量 GC/Q-TOF と Low-Energy EI 対応のイオン源を用いることにより柔軟性と信頼性が向上した、E&L 化合物分析用の新しいツールについて説明します。

図 1. Agilent 7250 シリーズ GC/Q-TOF システム

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データ解析化合物の同定では、Agilent MassHunter Unknowns Analysis B.08.00 の SureMass [3] および NIST 14 GC/MS ライブラリとの照合を用いました (図 2)。標準 EI スペクトルと Low-Energy EI スペクトルを比較することにより、同定した化合物の分子式を調査しました。必要に応じて、Agilent MassHunter Qualitative Analysis B.08.00 を用いて MS および MS/MS 質量スペクトルを確認しました。未知化合物の候補物質を MS/MS スペクトルを基にして構造解析するために、Agilent MassHunter Molecular Structure Correlator B.08.00 を用いました。サンプルグループの差分解析には、Agilent Mass Profiler Professional (MPP) B.13 を使用しました。

実験方法

機器による分析サンプル抽出物とコントロールは、Agilent 7250 シリーズ GC/Q-TOF システム (図 1) と表 1 に示した条件により分析しました。取り込みメソッドのリテンションインデックス (RI) をキャリブレーションするために、n-アルカンを注入しました。

表 1. Agilent 7250 GC/Q-TOF 分析条件

パラメ-タ 設定

カラム Agilent DB-5 MS UI、15 m × 0.25 mm、0.25 µm

注入口 S/SL、310 °C

キャリアガス 1.5 mL/min ヘリウム

オーブンプログラム 50 °C で 5 分、 10 °C/min で 320 °C まで上昇、10 分

トランスファーライン 280 °C

イオン源モード EI、70 eV、10~15 eV

イオン源温度 200 °C

四重極温度 150 °C

スペクトル範囲 50~1,000 m/z

図 2. SureMass によるピーク検出とライブラリ照合に用いた Agilent MassHunter Unknowns Analysis ソフトウェア

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サンプル前処理生理食塩水を 37 ° C で 72 時間フロースルー抽出し、組み立てが完了した使い切りのバイオプロセスシステムを抽出しました。生理食塩水は、1 錠のリン酸緩衝生理食塩水錠剤 (Sigma) を 200 mL の各蒸留水に加えることで調製し、137 mH NaCl、2.7 mM KCl、10 mM リン酸緩衝液を作製しました (25 ° C で pH 7.4)。エタノールと水/エタノール (1:1) 溶液を用いてデバイスのフィルタを抽出し、抽出溶媒間の差を示しました。すべての抽出実験において、コントロールブランクを準備しました。各抽出溶液 (エタノール以外) は等量のジクロロメタンで抽出してから 10 倍に濃縮し、GC/Q-TOF により分析しました。

結果と考察

生理食塩水抽出物とコントロールブランクの関係MPP ソフトウェアを用いてサンプルとコントロール間の差分解析を実行し、生理食塩水抽出物の結果を代表的なデータセットとして示しました。その結果から、デバイス全体の生理食塩水抽出物中にはコントロールブランクと比較して、倍率変化 ≥ 3 および p-値 ≥ 0.05 を示す 113 の化合物が存在することがわかりました (図 3)。表 2 は、多く含まれる成分を示しています。

表 2. 生理食塩水抽出物の化合物の同定リスト (上位のリスト)

化合物 分子式* RI質量差 (mDa)

カプロラクタム C6H11NO 1,268 0.2

フェノール C6H6O 978 0.0

トリ(1,2-プロピレングリコール)、 モノメチルエーテル

C10H22O4 1,315 0.0

Dowanol 62b 異性体 1 C10H22O4 1,291 -0.2

Dowanol 62b 異性体 2 C10H22O4 1,294 -0.2

Dowanol 62b 異性体 3 C10H22O4 1,289 0.0

暫定 ID 化合物 C9H12O4 1,572 0.5

Dowanol 62b 異性体 4 C10H22O4 1,286 -0.1

安息香酸, 4-エトキシ-, エチルエステル C11H14O3 1,527 0.1

暫定 ID 化合物 C12H15N3O3 1,659 0.2

バニリン C8H8O3 1,399 -0.1

ヘキサンアミド C6H13NO 1,144 -0.2

暫定 ID 化合物 C8H12O3 1,403 0.1

7,9-ジ-tert-ブチル-1-オキサスピロ(4,5)デカ-6,9-ジエン-2,8-ジオン

C17H24O3 1,908 -0.2

暫定 ID 化合物 C15H22O 1,476 0.4

エチルパラベン C9H10O3 1,522 0.2

2-ピロリジノン、1-メチル- C5H9NO 1,040 0.3

2,4-ジ-tert-ブチルフェノール C14H22O 1,507 0.0

暫定 ID 化合物 C8H8O 1,069 -0.2

2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル- C5H10N2O 1,109 0.3

アセトアミド、N-シクロヘキシル- C8H15NO 1,292 0.2

ブトキシエトキシエタノール C8H18O3 1,187 -0.2

ジ-t-ブチルヒドロキノン C14H22O2 1,467 0.0

2-フェニルイソプロパノール C9H12O 1,088 -0.3

暫定 ID 化合物 C5H12O2 1,014 0.1

ベンゾチアゾール C7H5NS 1,232 0.2

フタル酸ジメチル C10H10O4 1,452 0.1

暫定 ID 化合物 C13H20O2 1,349 0.5

図 3. 生理食塩水抽出物中に有意に存在する化合物を示すボルケーノプロット (右上)

-20 -10 0 10 20

2

4

6

8

10

* 同定した化合物の分子式は、標準 EI モードと Low-Energy EI モードの スペクトルを比較することにより確認 (または、暫定 ID 化合物を提案) しました。

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Low-Energy EI による評価図 5 に示すように、Low-Energy EI を用いた実験により、スペクトル内の分子イオン (M+) を維持または確認できる可能性が高くなります。これらの実験では、ライブラリ検索の結果に期待できない場合に、暫定化合物の同定に関するさらなる知見が得られます。

図 6 は、Low-Energy EI と Q-TOF MS/MS により、未知化合物 (2 つの溶媒抽出グループ間で共通) を分析するためのワークフローを示しています。可能性のある候補物質は、ベンジルアルコール誘導体です。

図 7 は、Low-Energy EI スペクトルがエタノール抽出物に固有の多数のアルカン化合物を高い信頼度で同定するために有用であることを示しています。

結論

• Low-Energy EI により、M+ を維持または確認できる可能性が高まります。また、精密質量 MS/MS スペクトルからは、未知化合物の構造解析に関する有益な知見が得られます。

• 精密質量測定と RI キャリブレーションを実施することにより、化合物の同定における信頼性が向上します。

• 差分解析は、サンプルグループの E&L 化合物を比較するのに役に立ちます。

抽出溶媒の影響フィルタ抽出物を評価して、異なる抽出溶媒を用いた際の抽出物プロファイル全体に対する影響を調べました (図 4)。ベン図によってこれらの結果を簡単に視覚化でき、各抽出で検出された一意の抽出物と共通の抽出物の両方がわかります。

図 5. Low-Energy EI により、一致スコア 92.6 (RI: 1908) の高い信頼度で同定された化合物のスペクトル内の M+ 相対アバンダンスが増加

7,9-ジ-tert-ブチル-1-オキサスピロ(4,5)デカ-6,9-ジエン-2,8-ジオン

Low energy EI (10 eV)分子式: C17H24O3

質量差: -0.4 ppm

60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260

60 80 100 120 140 160 180質量電荷比 (m/z)(m/z)

質量電荷比 (m/z)

カウント

(%)

カウント

(%)

200 220 240 260

×102

×102

-1.0

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

-0.5

0

0.5

1.0

205.0

205.0861

175.1121

217.0175.0

232.0

91.0547

91.0 261.0135.0 161.069.0

135.0808

124.0884 150.1040

175.1118220.1095

232.1821

276.1721

261.1484

標準 EI (70 eV)ライブラリ照合

分析対象物 4: コントロール_エタノール/水分析対象物 1: コントロール_エタノール

分析対象物 3: 抽出物_エタノール/水分析対象物 2: 抽出物_エタノール

図 4. デバイスのフィルタにより異なる溶媒から抽出された抽出化合物を示すベン図

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図 6. Agilent MassHunter Molecular Structure Correlator による候補物質に関する Low-Energy EI および構造解析による未知化合物の分析ワークフロー

17.5

Low-Energy EI イオン源による未知化合物の測定

標準 EI (70 eV)

Low energy EI (10 eV)

18.0 18.5 19.0 19.5 20.0

RI: 1,711

20.5 21.0 21.5 22.0 22.50

0.51.01.52.0

×107

M+ の確認と Q-TOF MS/MS の実施

可能性のある候補物質に関する構造解明

Low energy EI (10 eV)分子式: C15H24O質量差: -1.5 ppm

220.1824CID at 5 eV

191.1434 CID at 10 eV

カウント

50 60

55.0545

58.0659 121.0653

135.0807149.0963 191.1433 220.1825

77.0389

107.0493

121.0649

135.0805

149.0962

165.0703191.1434 220.1824

70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200 210 2200

0.5

1.0×102

カウント

(%)

カウント

(%)

0

0.5

1.0×102

質量電荷比 (m/z)

取り込み時間 (min)

220 220 220

221.1852[C15H24O]+

121.0645[C8H9O]+

77.0386

107.0490

121.0648

135.0802 191.1431

135.0803[C9H11O]+

149.0960[C10H13O]+

191.1429[C13H19O]+

220.1818[C15H24O]+

220.1825[C15H24O]+

0

0123456

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2×104 ×104

60 80 100 120 140 160 180 200 2200123456

×104

カウント

カウント

カウント

質量電荷比 (m/z)

質量電荷比 (m/z)

0.7 ppm 0.6 ppmC10H13OC10H19O

C8H9OC9H11O

C7H7O2.4 ppm

1.0 ppm0.4 ppm

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参考文献1. D. Jenke. �Development and Justification of a Risk

Evaluation Matrix to Guide Chemical Testing Necessary To Select and Qualify Plastic Components Used in Production Systems for Pharmaceutical Products� PDA J. Pharma. Sci. Technol. 69, 677–712, (2015).

2. A. Mire-Sluis, et al. �Extractable and Leachables. Challenges and Strategies in Biopharmaceutical Development� BioProcess Int., Feb (2011).

3. Agilent SureMass, Agilent Technologies Technical Overview, publication number 5991-8048EN (2017).

www.agilent.com/chem/jp本製品は一般的な実験用途での使用を想定しており、医薬品医療機器等法に基づく登録を行っておりません。

60 170 171 17270 80 90 100 110

57.0701ドデカン (n-C12)質量差: -1.2 ppm

イコサン (n-C20)質量差: 0.4 ppm

ヘキサコサン (n-C26)質量差: 0 ppm

85.1014

98.1093 127.1482 170.2031

120 130 140 150 160 1700

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2×102

カウント

(%)

質量電荷比 (m/z)

60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280

71.0857

99.1172127.1485

183.2107 282.3280239.27370

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2×102

カウント

(%)

質量電荷比 (m/z)

60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280 300 320 340 360

71.0858

267.3043 366.42200

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

×102

カウント

(%)

質量電荷比 (m/z)

170.2031[C12H26]+

171.2063[C12H26]+

282 283 284

282.3280[C20H42]+

283.3306[C20H42]+

366 367 368

366.4220[C26H54]+

367.4254[C26H54]+

図 7. n-アルカンの Low-Energy EI (12 eV) スペクトル。M+ クラスタは良好な質量精度と同位体信頼度を達成示しています。

詳細

本文書のデータは代表的な結果を記載したものです。アジレント製品とサービスの詳細については、アジレントのウェブサイト www.agilent.com/chem/jp をご覧ください。

ホームページwww.agilent.com/chem/jp

カストマコンタクトセンタ0120-477-111

[email protected]

本製品は一般的な実験用途での使用を想定しており、医薬品医療機器等法に基づく登録を行っておりません。本文書に記載の情報、説明、製品仕様等は

予告なしに変更されることがあります。

アジレント・テクノロジー株式会社 © Agilent Technologies, Inc. 2017

Printed in Japan, October 17, 20175991-8198JAJP