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1 かちかち山 「UD デジタル教科書体」サンプル(B5 判:22pt) 2 かちかち山 「UD デジタル教科書体」サンプル(B5 判:22pt)

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かちかち山

楠山正雄

さく

むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさん

がありました。おじいさんがいつも畑はたけに出て働はたらいています

と、裏うらの山から一ぴきの古ふるだぬきが出てきて、おじいさんが

せっかく丹たん精せいをしてこしらえた畑はたけのものを荒あ

らした上に、ど

んどん石いしころや土つちくれをおじいさんのうしろから投な

げつけま

した。おじいさんがおこって追お

っかけますと、すばやく逃に

て行ってしまいます。

しばらくするとまたやって

来き

て、あいかわらず

いたずらをしました。

おじいさんも困こまりきって、

わなをかけておきますと、

ある日、たぬきはとうとう

そのわなにかかりました。

おじいさんは躍おどり

上あ

がって喜よろこびました。

「ああいい気き

味み

だ。

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かちかち山

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かちかち山

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とうとうつかまえてやった。」

こう言い

って、たぬきの四よ

つ足あしをしばって、うちへかついで

帰かえりました。そして天てん

井じょうのはりにぶら下さ

げて、おばあさんに、

「逃に

がさないように番ばんをして、晩ばんにわたしが帰かえるまでにたぬ

き汁じるをこしらえておいておくれ。」

と言い

いのこして、また畑はたけへ出ていきました。

たぬきがしばられてぶら下さ

げられている下で、おばあさん

は臼うすを出だ

して、とんとん麦むぎをついていました。そのうち、

「ああくたびれた。」

とおばあさんは言い

って、汗あせをふきました。するとそのとき

まで、おとなしくぶら下さ

がっていたたぬきが、上から声こえをか

けました。

「もしもし、おばあさん、くたびれたら少すこしお手て

伝つだいをいた

しましょう。その代か

わりこの縄なわをといて下ください。」

「どうしてどうして、お前まえなんぞに手て

伝つだってもらえるものか。

縄なわをといてやったら、手て

伝つだうどころか、すぐ逃に

げて行い

ってし

まうだろう。」

「いいえ、もうこうしてつかまったのですもの、今いまさら逃に

るものですか。まあ、ためしに下お

ろしてごらんなさい。」

あんまりしつっこく、殊しゅ

勝しょうらしくたのむものですから、お

ばあさんもうかうか、たぬきの言うことをほんとうにして、

縄なわをといて下お

ろしてやりました。するとたぬきは、

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かちかち山

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かちかち山

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「やれやれ。」

としばられた手て

足あしをさすりました。そして、

「どれ、わたしがついてあげましょう。」

と言い

いながら、おばあさんのきねを取と

り上あ

げて、麦むぎをつく

ふりをして、いきなりおばあさんの脳のう天てんからきねを打う

ち下お

しますと、「きゃっ。」という間ま

もなく、おばあさんは目をま

わして、倒たおれて死し

んでしまいました。

たぬきはさっそくおばあさんをお料りょう理りして、たぬき汁じるの代か

わりにばばあ汁じるをこしらえて、自じ

分ぶんはおばあさんに化ば

けて、

すました顔かおをして炉ろ

の前まえに座すわって、おじいさんの帰かえりを待ま

うけていました。

夕ゆう方がたになって、なんにも知し

らないおじいさんは、

「晩ばんはたぬき汁じるが食た

べられるな。」

と思おもって、一ひと人りでにこにこしながら、急いそいでうちへ帰かえって

来き

ました。するとたぬきのおばあさんはさも待ま

ちかねたとい

うように、

「おや、おじいさん、おかいんなさい。さっきからたぬき汁じる

をこしらえて待ま

っていましたよ。」

と言い

いました。

「おやおや、そうか。それはありがたいな。」

と言い

いながら、すぐにお膳ぜんの前まえに座すわりました。そして、た

ぬきのおばあさんのお給きゅう仕じで、

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かちかち山

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かちかち山

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「これはおいしい、おいしい。」

と言い

って、舌したつづみをうって、ばばあ汁じるのおかわりをして、

夢む

中ちゅうになって食た

べていました。それを見み

てたぬきのおばあさ

んは、思おもわず、「ふふん。」と笑わらうひょうしにたぬきの正しょう体たいを

現あらわしました。

「ばばあくったじじい、

流ながしの下の骨ほねを見み

ろ。」

とたぬきは言い

いながら、大きなしっぽを出だ

して、裏うら口ぐちから

ついと逃に

げていきました。

おじいさんはびっくりして、がっかり腰こしをぬかしてしまい

ました。そして流ながしの下のおばあさんの骨ほねをかかえて、おい

おい泣な

いていました。

すると、

「おじいさん、おじいさん、どうしたのです。」

と言い

って、これも裏うらの山にいる白しろうさぎが入はいって来き

ました。

「ああ、うさぎさんか。よく来き

ておくれだ。まあ聞き

いておく

れ。ひどい目にあったよ。」

とおじいさんは言い

って、これこれこういうわけだとすっか

り話はなしをしました。うさぎはたいそう気き

の毒どくがって、

「まあ、それはとんだことでしたね。けれどかたきはわたし

がきっととって上あ

げますから、安あん心しんしていらっしゃい。」

とたのもしそうに言い

いました。おじいさんはうれし涙なみだをこ

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かちかち山

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かちかち山

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ぼしながら、

「ああ、どうか頼たのみますよ。ほんとうにわたしはくやしくっ

てたまらない。」

と言い

いました。

「大だい丈じょう夫ぶ。あしたはさっそくたぬきを誘さそい出だ

して、ひどい目

に合あ

わしてやります。しばらく待ま

っていらっしゃい。」

とうさぎは言い

って、帰かえっていきました。

さてたぬきはおじいさんのうちを逃に

げ出だ

してから、何なんだか

こわいものですから、どこへも出ずに穴あなにばかり引ひ

っ込こ

んで

いました。

するとある日、うさぎはかまを腰こしにさして、わざとたぬき

のかくれている穴あなのそばへ行い

って、かまを出だ

してしきりにし

ばを刈か

っていました。そしてしばを刈か

りながら、袋ふくろへ入い

れて

持も

って来き

たかち栗ぐりを出だ

して、ばりばり食た

べました。するとた

ぬきはその音おとを聞き

きつけて、穴あなの中からのそのそはい出だ

して

きました。

「うさぎさん、うさぎさん。何なにをうまそうに食た

べているのだ

ね。」

「栗くりの実み

さ。」

「少すこしわたしにくれないか。」

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かちかち山

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「上あ

げるから、このしばを半はん

分ぶん向む

こうの山までしょっていっ

ておくれ。」

たぬきは栗くりがほしいものですから、しかたなしにしばを背せ

負お

って、先さきに立た

って歩あるき出だ

しました。向む

こうの山まで行く

と、たぬきはふり返かえって、

「うさぎさん、うさぎさん。かち栗ぐりをくれないか。」

「ああ、上あ

げるよ、もう一つ向む

こうの山まで行ったら。」

しかたがないので、またたぬきはずんずん先さきに立た

って歩あるい

ていきました。やがてもう一つ向む

こうの山まで行くと、たぬ

きはふり返かえって、

「うさぎさん、うさぎさん。かち栗ぐりをくれないか。」

「ああ、上あ

げるけれど、ついでにもう一つ向む

こうの山まで行っ

ておくれ。こんどはきっと上あ

げるから。」

しかたがないので、たぬきはまた先さきに立た

って、こんどは何なん

でも早はやく向む

こうの山まで行きつこうと思おもって、うしろもふり

向む

かずにせっせと歩あるいていきました。うさぎはそのひまに、

ふところから火ひ

打う

ち石いしを出だ

して、「かちかち。」と火をきりま

した。たぬきはへんに思おもって、

「うさぎさん、うさぎさん、かちかちいうのは何なんだろう。」

「この山はかちかち山だからさ。」

「ああ、そうか。」

と言い

って、たぬきはまた歩あるき出だ

しました。そのうちにうさ

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かちかち山

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ぎのつけた火が、たぬきの背せ

中なかのしばにうつって、ぼうぼう

燃も

え出だ

しました。たぬきはまたへんに思おもって、

「うさぎさん、うさぎさん、ぼうぼういうのは何なんだろう。」

「向む

こうの山はぼうぼう山だからさ。」

「ああ、そうか。」

とたぬきが言い

ううちに、もう火はずんずん背せ

中なかに燃も

えひろ

がってしまいました。たぬきは、

「あつい、あつい、助たすけてくれ。」

とさけびながら、夢む

中ちゅうでかけ出だ

しますと、山やま風かぜがうしろか

らどっと吹ふ

きつけて、よけい火が大きくなりました。たぬき

はひいひい泣な

き声ごえを上あ

げて、苦くるしがって、ころげまわって、

やっとのことで燃も

えるしばをふり落お

として、穴あなの中にかけ込こ

みました。うさぎはわざと大きな声こえで、

「やあ、たいへん。火か

事じ

だ。火か

事じ

だ。」

と言い

いながら帰かえっていきました。

そのあくる日、うさぎはおみその中に唐とうがらしをすり込こ

でこうやくをこしらえて、それを持も

ってたぬきのところへお

見み

舞ま

いにやって来き

ました。たぬきは背せ

中なか

中じゅう大おおやけどをして、

うんうんうなりながら、まっくらな穴あなの中にころがっていま

した。

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「たぬきさん、たぬきさん。ほんとうにきのうはひどい目に

あったねえ。」

「ああ、ほんとうにひどい目にあったよ。この大おおやけどはど

うしたらなおるだろう。」

「うん、それでね、あんまり気き

の毒どくだから、わたしがやけど

にいちばん利き

くこうやくをこしらえて持も

って来き

たのだよ。」

「そうかい。それはありがたいな。さっそくぬってもらお

う。」こ

ういってたぬきが火ぶくれになって、赤あか肌はだにただれてい

る背せ

中なかを出だ

しますと、うさぎはその上に唐とうがらしみそをとこ

ろかまわずこてこてぬりつけました。すると背せ

中なかはまた火が

ついたようにあつくなって、

「いたい、いたい。」

と言い

いながら、たぬきは穴あなの中をころげまわっていました。

うさぎはその様よう子すを見み

てにこにこしながら、

「なあにたぬきさん、ぴりぴりするのははじめのうちだけだ

よ。じきになおるから、少すこしの間あいだがまんおし。」

と言い

って帰かえっていきました。

それから四、五日にちたちました。ある日うさぎは、

「たぬきのやつどうしたろう。こんどはひとつ海うみに連つ

れ出だ

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て、ひどい目にあわせてやろう。」

と独ひとり言ごとを言い

っているところへ、ひょっこりたぬきがたず

ねて来き

ました。

「おやおや、たぬきさん、もうやけどはなおったかい。」

「ああ、お陰かげでたいぶよくなったよ。」

「それはいいな。じゃあまたどこかへ出かけようか。」

「いやもう、山はこりごりだ。」

「それなら山はよして、こんどは海うみへ行こうじゃないか、海うみ

はおさかながとれるよ。」

「なるほど、海うみはおもしろそうだね。」

そこでうさぎとたぬきは連つ

れだって海うみへ出かけました。う

さぎが木の舟ふねをこしらえますと、たぬきはうらやましがって、

まねをして土の舟ふねをこしらえました。舟ふねができ上あ

がると、う

さぎは木の舟ふねに乗の

りました。たぬきは土つちの舟に乗の

りました。

べつべつに舟ふねをこいで沖おきへ出ますと、

「いいお天てん気きだねえ。」

「いいけしきだねえ。」

とてんでんに言い

いながら、めずらしそうに海うみをながめてい

ましたが、うさぎは、

「ここらにはまだおさかなはいないよ。もっと沖おきの方ほうまでこ

いで行こう。さあ、どっちが早はやいか競きょう争そうしよう。」

と言い

いました。たぬきは、

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「よし、よし、それはおもしろかろう。」

と言い

いました。

そこで一、二、三とかけ声ごえをして、こぎ出だ

しました。うさ

ぎはかんかん舟ふなばたをたたいて、

「どうだ、木の舟ふねは軽かるくって速はやかろう。」

と言い

いました。するとたぬきも負ま

けない気き

になって、舟ふなば

たをこんこんたたいて、

「なあに、土つちの舟ふねは重おもくって丈じょう夫ぶだ。」

と言い

いました。

そのうちにだんだん水がしみて土つちの舟ふねは崩くずれ出だ

しました。

「やあ、たいへん。舟ふねがこわれてきた。」

とたぬきがびっくりして、大おおさわぎをはじめました。

「ああ、沈しずむ、沈しずむ、助たすけてくれ。」

うさぎはたぬきのあわてる様よう子すをおもしろそうにながめな

がら、

「ざまを見み

ろ。おばあさんをだまして殺ころして、おじいさんに

ばばあ汁じるを食く

わせたむくいだ。」

と言い

いますと、たぬきはもうそんなことはしないから助たすけ

てくれと言い

って、うさぎをおがみました。そのうちどんどん

舟ふねは崩くずれて、あっぷあっぷいうまもなく、たぬきはとうとう

沈しずんでしまいました。

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底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社1983(昭和 58)年 5月 10日第 1刷発行1992(平成 4)年 4月 20日第 14刷発行

入力:鈴木厚司校正:大久保ゆう2003年 8月 2日作成青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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むかし、むかし、あるとこ

ろに、おじいさんとおばあさ

んがありました。おじいさん

がいつも畑はたけに

出て働はたらい

ていま

すと、裏うら

の山から一ぴきの古ふる

だぬきが出てきて、

おじいさんがせっかく丹たん

精せい

してこしらえた畑はたけの

ものを荒あ

らした上に、どんどん石いし

ころ

や土つち

くれをおじいさんのうし

ろから投な

げつけました。おじ

いさんがおこって追お

っかけ

ますと、すばやく逃に

げて行っ

てしまいます。しばらくする

とまたやって来き

て、あいかわ

らずいたずらをしました。お

じいさんも困こま

りきって、わな

をかけておきますと、ある日、

たぬきはとうとうそのわなに

かかりました。

おじいさんは躍おど

り上あ

がって

喜よろこび

ました。

「ああいい気き

味み

だ。とうとう

つかまえてやった。」

こう言い

って、たぬきの四よ

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かちかち山

楠山正雄

さく

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足あし

をしばって、うちへかつい

で帰かえ

りました。そして天てん

井じょうの

はりにぶら下さ

げて、おばあさ

んに、

「逃に

がさないように番ばん

をし

て、晩ばん

にわたしが帰かえ

るまでに

たぬき汁じる

をこしらえておいて

おくれ。」

と言い

いのこして、また畑はたけへ

出ていきました。

たぬきがしばられてぶら下さ

げられている下で、おばあさ

んは臼うす

を出だ

して、とんとん麦むぎ

をついていました。そのう

ち、

「ああくたびれた。」

とおばあさんは言い

って、汗あせ

をふきました。するとそのと

きまで、おとなしくぶら下さ

がっていたたぬきが、上から

声こえ

をかけました。

「もしもし、おばあさん、く

たびれたら少すこ

しお手て

伝つだ

いをい

たしましょう。その代か

わりこ

の縄なわ

をといて下くだ

さい。」

「どうしてどうして、お前まえ

んぞに手て

伝つだ

ってもらえるもの

か。縄なわ

をといてやったら、手て

伝つだ

うどころか、すぐ逃に

げて

行い

ってしまうだろう。」

「いいえ、もうこうしてつか

まったのですもの、今いま

さら逃に

げるものですか。まあ、ため

しに下お

ろしてごらんなさい。」

あんまりしつっこく、殊しゅ

勝しょうら

しくたのむものですか

ら、おばあさんもうかうか、

たぬきの言うことをほんとう

にして、縄なわ

をといて下お

ろして

やりました。するとたぬき

は、

「やれやれ。」

としばられた手て

足あし

をさすり

ました。そして、

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「どれ、わたしがついてあげ

ましょう。」

と言い

いながら、おばあさん

のきねを取と

り上あ

げて、麦むぎ

をつ

くふりをして、いきなりおば

あさんの脳のう

天てん

からきねを打う

下お

ろしますと、「きゃっ。」と

いう間ま

もなく、おばあさんは

目をまわして、倒たお

れて死し

んで

しまいました。

たぬきはさっそくおばあさ

んをお料りょう理り

して、たぬき汁じる

代か

わりにばばあ汁じる

をこしらえ

て、自じ

分ぶん

はおばあさんに化ば

て、すました顔かお

をして炉ろ

の前まえ

に座すわ

って、おじいさんの帰かえ

を待ま

ちうけていました。

夕ゆう

方がた

になって、なんにも知し

らないおじいさんは、

「晩ばん

はたぬき汁じる

が食た

べられる

な。」と

思おも

って、一ひと人り

でにこにこ

しながら、急いそ

いでうちへ帰かえ

て来き

ました。するとたぬきの

おばあさんはさも待ま

ちかねた

というように、

「おや、おじいさん、おかい

んなさい。さっきからたぬき

汁じる

をこしらえて待ま

っていまし

たよ。」

と言い

いました。

「おやおや、そうか。それは

ありがたいな。」

と言い

いながら、すぐにお膳ぜん

の前まえ

に座すわ

りました。そして、

たぬきのおばあさんのお給きゅう仕じ

で、

「これはおいしい、おいし

い。」と

言い

って、舌した

つづみをうっ

て、ばばあ汁じる

のおかわりをし

て、夢む

中ちゅう

になって食た

べていま

した。それを見み

てたぬきのお

ばあさんは、思おも

わず、「ふふ

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ん。」と笑わら

うひょうしにたぬ

きの正しょう

体たいを

現あらわし

ました。

「ばばあくったじじい、

流なが

しの下の骨ほね

を見み

ろ。」

とたぬきは言い

いながら、大

きなしっぽを出だ

して、裏うら

口ぐち

らついと逃に

げていきました。

おじいさんはびっくりし

て、がっかり腰こし

をぬかしてし

まいました。そして流なが

しの下

のおばあさんの骨ほね

をかかえ

て、おいおい泣な

いていました。

すると、

「おじいさん、おじいさん、

どうしたのです。」

と言い

って、これも裏うら

の山に

いる白しろ

うさぎが入はい

って来き

まし

た。

「ああ、うさぎさんか。よく

来き

ておくれだ。まあ聞き

いてお

くれ。ひどい目にあったよ。」

とおじいさんは言い

って、こ

れこれこういうわけだとすっ

かり話はなしを

しました。うさぎは

たいそう気き

の毒どく

がって、

「まあ、それはとんだことで

したね。けれどかたきはわた

しがきっととって上あ

げますか

ら、安あん

心しん

していらっしゃい。」

とたのもしそうに言い

いまし

た。おじいさんはうれし涙なみだを

こぼしながら、

「ああ、どうか頼たの

みますよ。

ほんとうにわたしはくやし

くってたまらない。」

と言い

いました。

「大だい

丈じょう夫ぶ

。あしたはさっそく

たぬきを誘さそ

い出だ

して、ひどい

目に合あ

わしてやります。しば

らく待ま

っていらっしゃい。」

とうさぎは言い

って、帰かえ

って

いきました。

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さてたぬきはおじいさんの

うちを逃に

げ出だ

してから、何なん

かこわいものですから、どこ

へも出ずに穴あな

にばかり引ひ

っ込こ

んでいました。

するとある日、うさぎはか

まを腰こし

にさして、わざとたぬ

きのかくれている穴あな

のそばへ

行い

って、かまを出だ

してしきり

にしばを刈か

っていました。そ

してしばを刈か

りながら、袋ふくろへ

入い

れて持も

って来き

たかち栗ぐり

を出だ

して、ばりばり食た

べました。

するとたぬきはその音おと

を聞き

つけて、穴あな

の中からのそのそ

はい出だ

してきました。

「うさぎさん、うさぎさん。

何なに

をうまそうに食た

べているの

だね。」

「栗くり

の実み

さ。」

「少すこ

しわたしにくれないか。」

「上あ

げるから、このしばを半はん

分ぶん

向む

こうの山までしょって

いっておくれ。」

たぬきは栗くり

がほしいもので

すから、しかたなしにしばを

背せ

負お

って、先さき

に立た

って歩ある

き出だ

しました。向む

こうの山まで行

くと、たぬきはふり返かえ

って、

「うさぎさん、うさぎさん。

かち栗ぐり

をくれないか。」

「ああ、上あ

げるよ、もう一つ

向む

こうの山まで行ったら。」

しかたがないので、またた

ぬきはずんずん先さき

に立た

って歩ある

いていきました。やがてもう

一つ向む

こうの山まで行くと、

たぬきはふり返かえ

って、

「うさぎさん、うさぎさん。

かち栗ぐり

をくれないか。」

「ああ、上あ

げるけれど、つい

でにもう一つ向む

こうの山まで

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行っておくれ。こんどはきっ

と上あ

げるから。」

しかたがないので、たぬき

はまた先さき

に立た

って、こんどは

何なん

でも早はや

く向む

こうの山まで行

きつこうと思おも

って、うしろも

ふり向む

かずにせっせと歩ある

いて

いきました。うさぎはそのひ

まに、ふところから火ひ

打う

ち石いし

を出だ

して、「かちかち。」と火

をきりました。たぬきはへん

に思おも

って、

「うさぎさん、うさぎさん、

かちかちいうのは何なん

だろう。」

「この山はかちかち山だから

さ。」

「ああ、そうか。」

と言い

って、たぬきはまた歩ある

き出だ

しました。そのうちにう

さぎのつけた火が、たぬきの

背せ

中なか

のしばにうつって、ぼう

ぼう燃も

え出だ

しました。たぬき

はまたへんに思おも

って、

「うさぎさん、うさぎさん、

ぼうぼういうのは何なん

だろう。」

「向む

こうの山はぼうぼう山だ

からさ。」

「ああ、そうか。」

とたぬきが言い

ううちに、も

う火はずんずん背せ

中なか

に燃も

えひ

ろがってしまいました。たぬ

きは、

「あつい、あつい、助たす

けてく

れ。」と

さけびながら、夢む

中ちゅう

でか

け出だ

しますと、山やま

風かぜ

がうしろ

からどっと吹ふ

きつけて、よけ

い火が大きくなりました。た

ぬきはひいひい泣な

き声ごえ

を上あ

て、苦くる

しがって、ころげま

わって、やっとのことで燃も

るしばをふり落お

として、穴あな

中にかけ込こ

みました。うさぎ

はわざと大きな声こえ

で、

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「やあ、たいへん。火か

事じ

だ。

火か

事じ

だ。」

と言い

いながら帰かえ

っていきま

した。

そのあくる日、うさぎはお

みその中に唐とう

がらしをすり込こ

んでこうやくをこしらえて、

それを持も

ってたぬきのところ

へお見み

舞ま

いにやって来き

まし

た。たぬきは背せ

中なか

中じゅう

大おお

やけど

をして、うんうんうなりなが

ら、まっくらな穴あな

の中にころ

がっていました。

「たぬきさん、たぬきさん。

ほんとうにきのうはひどい目

にあったねえ。」

「ああ、ほんとうにひどい目

にあったよ。この大おお

やけどは

どうしたらなおるだろう。」

「うん、それでね、あんまり

気き

の毒どく

だから、わたしがやけ

どにいちばん利き

くこうやくを

こしらえて持も

って来き

たのだ

よ。」

「そうかい。それはありがた

いな。さっそくぬってもらお

う。」こ

ういってたぬきが火ぶく

れになって、赤あか

肌はだ

にただれて

いる背せ

中なか

を出だ

しますと、うさ

ぎはその上に唐とう

がらしみそを

ところかまわずこてこてぬり

つけました。すると背せ

中なか

はま

た火がついたようにあつく

なって、

「いたい、いたい。」

と言い

いながら、たぬきは穴あな

の中をころげまわっていまし

た。うさぎはその様よう子す

を見み

にこにこしながら、

「なあにたぬきさん、ぴりぴ

りするのははじめのうちだけ

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だよ。じきになおるから、少すこ

しの間あいだが

まんおし。」

と言い

って帰かえ

っていきまし

た。

それから四、五日にち

たちまし

た。ある日うさぎは、

「たぬきのやつどうしたろ

う。こんどはひとつ海うみ

に連つ

出だ

して、ひどい目にあわせて

やろう。」

と独ひと

り言ごと

を言い

っているとこ

ろへ、ひょっこりたぬきがた

ずねて来き

ました。

「おやおや、たぬきさん、も

うやけどはなおったかい。」

「ああ、お陰かげ

でたいぶよく

なったよ。」

「それはいいな。じゃあまた

どこかへ出かけようか。」

「いやもう、山はこりごり

だ。」

「それなら山はよして、こん

どは海うみ

へ行こうじゃないか、

海うみ

はおさかながとれるよ。」

「なるほど、海うみ

はおもしろそ

うだね。」

そこでうさぎとたぬきは連つ

れだって海うみ

へ出かけました。

うさぎが木の舟ふね

をこしらえま

すと、たぬきはうらやまし

がって、まねをして土の舟ふね

こしらえました。舟ふね

ができ上あ

がると、うさぎは木の舟ふね

に乗の

りました。たぬきは土つち

の舟に

乗の

りました。べつべつに舟ふね

こいで沖おき

へ出ますと、

「いいお天てん気き

だねえ。」

「いいけしきだねえ。」

とてんでんに言い

いながら、

めずらしそうに海うみ

をながめて

いましたが、うさぎは、

「ここらにはまだおさかなは

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いないよ。もっと沖おき

の方ほう

まで

こいで行こう。さあ、どっち

が早はや

いか競きょう争そうし

よう。」

と言い

いました。たぬきは、

「よし、よし、それはおもし

ろかろう。」

と言い

いました。

そこで一、二、三とかけ声ごえ

をして、こぎ出だ

しました。う

さぎはかんかん舟ふな

ばたをたた

いて、

「どうだ、木の舟ふね

は軽かる

くって

速はや

かろう。」

と言い

いました。するとたぬ

きも負ま

けない気き

になって、舟ふな

ばたをこんこんたたいて、

「なあに、土つち

の舟ふね

は重おも

くって

丈じょう夫ぶだ

。」

と言い

いました。

そのうちにだんだん水がし

みて土つち

の舟ふね

は崩くず

れ出だ

しまし

た。

「やあ、たいへん。舟ふね

がこわ

れてきた。」

とたぬきがびっくりして、

大おお

さわぎをはじめました。

「ああ、沈しず

む、沈しず

む、助たす

けて

くれ。」

うさぎはたぬきのあわてる

様よう子す

をおもしろそうにながめ

ながら、

「ざまを見み

ろ。おばあさんを

だまして殺ころ

して、おじいさん

にばばあ汁じる

を食く

わせたむくい

だ。」と

言い

いますと、たぬきはも

うそんなことはしないから助たす

けてくれと言い

って、うさぎを

おがみました。そのうちどん

どん舟ふね

は崩くず

れて、あっぷあっ

ぷいうまもなく、たぬきはと

うとう沈しず

んでしまいました。

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底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社1983(昭和 58)年 5月 10日第 1刷発行1992(平成 4)年 4月 20日第 14刷発行

入力:鈴木厚司校正:大久保ゆう2003年 8月 2日作成青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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かちかち山

楠山正雄

さく

むかし、むかし、あるところに、おじいさんとお

ばあさんがありました。おじいさんがいつも畑はたけに出

て働はたらいていますと、裏うらの山から一ぴきの古ふるだぬきが

出てきて、おじいさんがせっかく丹たん精せいをしてこしら

えた畑はたけのものを荒あ

らした上に、どんどん石いしころや土つち

くれをおじいさんのうしろ

から投な

げつけました。

おじいさんがおこって

追お

っかけますと、すばやく

逃に

げて行ってしまいます。

しばらくするとまたやって

来き

て、あいかわらず

いたずらをしました。

おじいさんも困こまりきって、

わなをかけておきますと、

かちかち山 1

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

2 かちかち山

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ある日、たぬきはとうとうそのわなにかかりました。

おじいさんは躍おどり上あ

がって喜よろこびました。

「ああいい気き

味み

だ。とうとうつかまえてやった。」

こう言い

って、たぬきの四よ

つ足あしをしばって、うちへ

かついで帰かえりました。そして天てん

井じょうのはりにぶら下さ

て、おばあさんに、

「逃に

がさないように番ばんをして、晩ばんにわたしが帰かえるま

でにたぬき汁じるをこしらえておいておくれ。」

と言い

いのこして、また畑はたけへ出ていきました。

たぬきがしばられてぶら下さ

げられている下で、お

ばあさんは臼うすを出だ

して、とんとん麦むぎをついていまし

た。そのうち、

「ああくたびれた。」

とおばあさんは言い

って、汗あせをふきました。すると

そのときまで、おとなしくぶら下さ

がっていたたぬき

が、上から声こえをかけました。

「もしもし、おばあさん、くたびれたら少すこしお手て

伝つだ

いをいたしましょう。その代か

わりこの縄なわをといて下くだ

さい。」

「どうしてどうして、お前まえなんぞに手て

伝つだってもらえ

かちかち山 3

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

4 かちかち山

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

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るものか。縄なわをといてやったら、手て

伝つだうどころか、

すぐ逃に

げて行い

ってしまうだろう。」

「いいえ、もうこうしてつかまったのですもの、今いま

さら逃に

げるものですか。まあ、ためしに下お

ろしてご

らんなさい。」

あんまりしつっこく、殊しゅ

勝しょうらしくたのむものです

から、おばあさんもうかうか、たぬきの言うことを

ほんとうにして、縄なわをといて下お

ろしてやりました。

するとたぬきは、

「やれやれ。」

としばられた手て

足あしをさすりました。そして、

「どれ、わたしがついてあげましょう。」

と言い

いながら、おばあさんのきねを取と

り上あ

げて、

麦むぎをつくふりをして、いきなりおばあさんの脳のう天てんか

らきねを打う

ち下お

ろしますと、「きゃっ。」という間ま

なく、おばあさんは目をまわして、倒たおれて死し

んでし

まいました。

たぬきはさっそくおばあさんをお料りょう理りして、たぬ

き汁じるの代か

わりにばばあ汁じるをこしらえて、自じ

分ぶんはおば

あさんに化ば

けて、すました顔かおをして炉ろ

の前まえに座すわって、

かちかち山 5

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

6 かちかち山

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

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おじいさんの帰かえりを待ま

ちうけていました。

夕ゆう方がたになって、なんにも知し

らないおじいさんは、

「晩ばんはたぬき汁じるが食た

べられるな。」

と思おもって、一ひと人りでにこにこしながら、急いそいでうち

へ帰かえって来き

ました。するとたぬきのおばあさんはさ

も待ま

ちかねたというように、

「おや、おじいさん、おかいんなさい。さっきから

たぬき汁じるをこしらえて待ま

っていましたよ。」

と言い

いました。

「おやおや、そうか。それはありがたいな。」

と言い

いながら、すぐにお膳ぜんの前まえに座すわりました。そ

して、たぬきのおばあさんのお給きゅう仕じで、

「これはおいしい、おいしい。」

と言い

って、舌したつづみをうって、ばばあ汁じるのおかわ

りをして、夢む

中ちゅうになって食た

べていました。それを見み

てたぬきのおばあさんは、思おもわず、「ふふん。」と笑わら

うひょうしにたぬきの正しょう体たいを現あらわしました。

「ばばあくったじじい、

流ながしの下の骨ほねを見み

ろ。」

とたぬきは言い

いながら、大きなしっぽを出だ

して、

かちかち山 7

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8 かちかち山

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

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裏うら口ぐちからついと逃に

げていきました。

おじいさんはびっくりして、がっかり腰こしをぬかし

てしまいました。そして流ながしの下のおばあさんの骨ほね

をかかえて、おいおい泣な

いていました。

すると、

「おじいさん、おじいさん、どうしたのです。」

と言い

って、これも裏うらの山にいる白しろうさぎが入はいって

来き

ました。

「ああ、うさぎさんか。よく来き

ておくれだ。まあ聞き

いておくれ。ひどい目にあったよ。」

とおじいさんは言い

って、これこれこういうわけだ

とすっかり話はなしをしました。うさぎはたいそう気き

の毒どく

がって、

「まあ、それはとんだことでしたね。けれどかたき

はわたしがきっととって上あ

げますから、安あん心しんしてい

らっしゃい。」

とたのもしそうに言い

いました。おじいさんはうれ

し涙なみだをこぼしながら、

「ああ、どうか頼たのみますよ。ほんとうにわたしはく

やしくってたまらない。」

かちかち山 9

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10 かちかち山

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

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と言い

いました。

「大だい丈じょう夫ぶ。あしたはさっそくたぬきを誘さそい出だ

して、

ひどい目に合あ

わしてやります。しばらく待ま

ってい

らっしゃい。」

とうさぎは言い

って、帰かえっていきました。

さてたぬきはおじいさんのうちを逃に

げ出だ

してか

ら、何なんだかこわいものですから、どこへも出ずに穴あな

にばかり引ひ

っ込こ

んでいました。

するとある日、うさぎはかまを腰こしにさして、わざ

とたぬきのかくれている穴あなのそばへ行い

って、かまを

出だ

してしきりにしばを刈か

っていました。そしてしば

を刈か

りながら、袋ふくろへ入い

れて持も

って来き

たかち栗ぐりを出だ

て、ばりばり食た

べました。するとたぬきはその音おとを

聞き

きつけて、穴あなの中からのそのそはい出だ

してきまし

た。

「うさぎさん、うさぎさん。何なにをうまそうに食た

べて

いるのだね。」

「栗くりの実み

さ。」

かちかち山 11

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12 かちかち山

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

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「少すこしわたしにくれないか。」

「上あ

げるから、このしばを半はん

分ぶん

向む

こうの山まで

しょっていっておくれ。」

たぬきは栗くりがほしいものですから、しかたなしに

しばを背せ

負お

って、先さきに立た

って歩あるき出だ

しました。向む

うの山まで行くと、たぬきはふり返かえって、

「うさぎさん、うさぎさん。かち栗ぐりをくれないか。」

「ああ、上あ

げるよ、もう一つ向む

こうの山まで行った

ら。」し

かたがないので、またたぬきはずんずん先さきに

立た

って歩あるいていきました。やがてもう一つ向む

こうの

山まで行くと、たぬきはふり返かえって、

「うさぎさん、うさぎさん。かち栗ぐりをくれないか。」

「ああ、上あ

げるけれど、ついでにもう一つ向む

こうの

山まで行っておくれ。こんどはきっと上あ

げるから。」

しかたがないので、たぬきはまた先さきに立た

って、こ

んどは何なんでも早はやく向む

こうの山まで行きつこうと思おもっ

て、うしろもふり向む

かずにせっせと歩あるいていきまし

た。うさぎはそのひまに、ふところから火ひ

打う

ち石いしを

出だ

して、「かちかち。」と火をきりました。たぬきは

かちかち山 13

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14 かちかち山

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

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へんに思おもって、

「うさぎさん、うさぎさん、かちかちいうのは何なんだ

ろう。」

「この山はかちかち山だからさ。」

「ああ、そうか。」

と言い

って、たぬきはまた歩あるき出だ

しました。そのう

ちにうさぎのつけた火が、たぬきの背せ

中なかのしばにう

つって、ぼうぼう燃も

え出だ

しました。たぬきはまたへ

んに思おもって、

「うさぎさん、うさぎさん、ぼうぼういうのは何なんだ

ろう。」

「向む

こうの山はぼうぼう山だからさ。」

「ああ、そうか。」

とたぬきが言い

ううちに、もう火はずんずん背せ

中なかに

燃も

えひろがってしまいました。たぬきは、

「あつい、あつい、助たすけてくれ。」

とさけびながら、夢む

中ちゅうでかけ出だ

しますと、山やま風かぜが

うしろからどっと吹ふ

きつけて、よけい火が大きくな

りました。たぬきはひいひい泣な

き声ごえを上あ

げて、苦くるし

がって、ころげまわって、やっとのことで燃も

えるし

かちかち山 15

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16 かちかち山

「UDデジタル教科書体」サンプル(A4判:30pt)

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ばをふり落お

として、穴あなの中にかけ込こ

みました。うさ

ぎはわざと大きな声こえで、

「やあ、たいへん。火か

事じ

だ。火か

事じ

だ。」

と言い

いながら帰かえっていきました。

そのあくる日、うさぎはおみその中に唐とうがらしを

すり込こ

んでこうやくをこしらえて、それを持も

ってた

ぬきのところへお見み

舞ま

いにやって来き

ました。たぬき

は背せ

中なか

中じゅう大おおやけどをして、うんうんうなりながら、

まっくらな穴あなの中にころがっていました。

「たぬきさん、たぬきさん。ほんとうにきのうはひ

どい目にあったねえ。」

「ああ、ほんとうにひどい目にあったよ。この大おおや

けどはどうしたらなおるだろう。」

「うん、それでね、あんまり気き

の毒どくだから、わたし

がやけどにいちばん利き

くこうやくをこしらえて持も

て来き

たのだよ。」

「そうかい。それはありがたいな。さっそくぬって

もらおう。」

かちかち山 17

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18 かちかち山

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こういってたぬきが火ぶくれになって、赤あか肌はだにた

だれている背せ

中なかを出だ

しますと、うさぎはその上に唐とう

がらしみそをところかまわずこてこてぬりつけまし

た。すると背せ

中なかはまた火がついたようにあつくなっ

て、

「いたい、いたい。」

と言い

いながら、たぬきは穴あなの中をころげまわって

いました。うさぎはその様よう子すを見み

てにこにこしなが

ら、

「なあにたぬきさん、ぴりぴりするのははじめのう

ちだけだよ。じきになおるから、少すこしの間あいだがまんお

し。」と

言い

って帰かえっていきました。

それから四、五日にちたちました。ある日うさぎは、

「たぬきのやつどうしたろう。こんどはひとつ海うみに

連つ

れ出だ

して、ひどい目にあわせてやろう。」

と独ひとり言ごとを言い

っているところへ、ひょっこりたぬ

きがたずねて来き

ました。

かちかち山 19

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20 かちかち山

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「おやおや、たぬきさん、もうやけどはなおったか

い。」

「ああ、お陰かげでたいぶよくなったよ。」

「それはいいな。じゃあまたどこかへ出かけよう

か。」

「いやもう、山はこりごりだ。」

「それなら山はよして、こんどは海うみへ行こうじゃな

いか、海うみはおさかながとれるよ。」

「なるほど、海うみはおもしろそうだね。」

そこでうさぎとたぬきは連つ

れだって海うみへ出かけま

した。うさぎが木の舟ふねをこしらえますと、たぬきは

うらやましがって、まねをして土の舟ふねをこしらえま

した。舟ふねができ上あ

がると、うさぎは木の舟ふねに乗の

りま

した。たぬきは土つちの舟に乗の

りました。べつべつに舟ふね

をこいで沖おきへ出ますと、

「いいお天てん気きだねえ。」

「いいけしきだねえ。」

とてんでんに言い

いながら、めずらしそうに海うみをな

がめていましたが、うさぎは、

「ここらにはまだおさかなはいないよ。もっと沖おきの

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22 かちかち山

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方ほうまでこいで行こう。さあ、どっちが早はやいか競きょう争そうし

よう。」

と言い

いました。たぬきは、

「よし、よし、それはおもしろかろう。」

と言い

いました。

そこで一、二、三とかけ声ごえをして、こぎ出だ

しまし

た。うさぎはかんかん舟ふなばたをたたいて、

「どうだ、木の舟ふねは軽かるくって速はやかろう。」

と言い

いました。するとたぬきも負ま

けない気き

になっ

て、舟ふなばたをこんこんたたいて、

「なあに、土つちの舟ふねは重おもくって丈じょう夫ぶだ。」

と言い

いました。

そのうちにだんだん水がしみて土つちの舟ふねは崩くずれ出だ

ました。

「やあ、たいへん。舟ふねがこわれてきた。」

とたぬきがびっくりして、大おおさわぎをはじめまし

た。

「ああ、沈しずむ、沈しずむ、助たすけてくれ。」

うさぎはたぬきのあわてる様よう子すをおもしろそうに

ながめながら、

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24 かちかち山

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「ざまを見み

ろ。おばあさんをだまして殺ころして、おじ

いさんにばばあ汁じるを食く

わせたむくいだ。」

と言い

いますと、たぬきはもうそんなことはしない

から助たすけてくれと言い

って、うさぎをおがみました。

そのうちどんどん舟ふねは崩くずれて、あっぷあっぷいうま

もなく、たぬきはとうとう沈しずんでしまいました。

かちかち山 25

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底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社1983(昭和 58)年 5月 10日第 1刷発行1992(平成 4)年 4月 20日第 14刷発行

入力:鈴木厚司校正:大久保ゆう2003年 8月 2日作成青空文庫作成ファイル:

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