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31 回土木学会地震工学研究表会講演論集 1 津波による護岸前面洗掘と 海底地形変化の予測モデルの改良 成吉 兼二 1 ・山本 吉 2 ・石井 俊輔 3 1 東大学大学院総合理工学研究科総合理工学専 (〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1E-mail:[email protected] 2 東大学授 (〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1E-mail:[email protected] 3 東大学大学院工学研究科土木工学専 (〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1E-mail:[email protected] 大きな地震の来襲によって大規模な岸侵食・掘が生じ,岸構物の倒壊等の被害が生する ことがある.また,の戻りれによる岸掘が堤防・護岸の破堤を引き起こし,破堤後の来襲に よる一層の被害増大も考えられる.それゆえ,による地形変化予測モデルを構築することは,堤防・ 護岸の破堤も含めた被害予測のために重要である.本論では,まず,の戻りれによる岸護岸前 面の最大掘とそれが生じる護岸からの距離の算定式を水理模型実験に基づき構築する.さらに,平面 二次元値モデルを用いた漂砂量評価の検討から,1960年チリ地震による宮城県気仙湾と, 2004年インドによるタイ国Patong岸での地形変化再現を試みる. Key Words : Tsunami, Back flow, Topographical change, Hydraulic experiment, Numerical simulation 1.はじめに 1960 年チリ地震,2004 年インド,2011 年東 北地太平地震に代表されるによる被害が, 世界各国でしばしば生じている.このようなにより, 域では大規模な地形変化が生じ,侵食・掘による 岸構物の倒壊,堆積による港湾機能障害の被害等が 生することがある.また,の入に耐えた護岸 が戻りれによって倒壊するといった事例もいくつか存 在する.そのため,このような被害を軽させるために 事前に被害予測を行い,その対策を実することは極め て重要である. の戻りれによる護岸前面掘について,西村・ 堀川 1) は多くの小規模実験を,野口ら 2),3) はケースの 大規模実験を行って,最大掘を求める実験式を提案 している.しかし,これらは戻りれの諸元が事前に与 えられないと求められないため,山本ら 4) は入射条件 を与え物動モデルを用いて評価するを提案し, 現地実測データとの合性を確認しているが,護岸天端 高が高くなってくると大評価するので,良が必要で ある.この掘の値シミュレーションとしては, MPSによる後藤ら 5) の先駆な試みがあり,定性に は現象を良く説しているので,コンピュータの性能向 上と共に有用な手となるだろう. による広域の平面な地形変化予測については, 高橋ら 6),7),8) の研究があり,掃砂量だけでなく砂量 も考慮する必要があることを指摘している.藤井ら 9) 高橋ら 10) ,西畑ら 11) は砂の巻き上げ量と沈降量を考 慮することにより,地形変化の予測精度を向上させた. 山本ら 12) は高橋ら 10) の値モデルをベースにして,2004 年インドによるパトン岸で地形変化計算を試み たが,合いに人工掘削域のあることが分かり,合 い地形変化の再現性を確認できていない. それゆえ,本研究では,の戻りれによる岸護 岸前面の最大掘とその位置の算定式で,護岸天端高 のいを考慮できるように良した後,規模の大きな水 理模型実験結果に用することで,それらの式の実用性 を確認した.さらに,山本ら 12) の平面二次元値モデル 1960 年チリ地震によって大規模な地形変化が生じ た宮城県気仙湾に当てはめ,合侵食の再現性につい

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第 31回土木学会地震工学研究発表会講演論文集

1

津波による護岸前面洗掘と

海底地形変化の予測モデルの改良

成吉 兼二1・山本 吉道2・石井 俊輔3

1東海大学大学院総合理工学研究科総合理工学専攻 (〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1)

E-mail:[email protected] 2東海大学教授 (〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1)

E-mail:[email protected] 3東海大学大学院工学研究科土木工学専攻 (〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1)

E-mail:[email protected]

大きな地震津波の来襲によって大規模な海岸侵食・洗掘が生じ,海岸構造物の倒壊等の被害が発生する

ことがある.また,津波の戻り流れによる海岸洗掘が堤防・護岸の破堤を引き起こし,破堤後の来襲波に

よる一層の被害増大も考えられる.それゆえ,津波による地形変化予測モデルを構築することは,堤防・

護岸の破堤も含めた被害予測のために重要である.本論文では,まず,津波の戻り流れによる海岸護岸前

面の最大洗掘深とそれが生じる護岸からの距離の算定式を水理模型実験に基づき構築する.さらに,平面

二次元数値モデルを用いた漂砂量評価方法の検討から,1960年チリ地震津波による宮城県気仙沼湾と,

2004年インド洋津波によるタイ国Patong海岸での地形変化再現を試みる.

Key Words : Tsunami, Back flow, Topographical change, Hydraulic experiment, Numerical simulation

1.はじめに

1960年チリ地震津波,2004年インド洋津波,2011年東

北地方太平洋沖地震津波に代表される津波による被害が,

世界各国でしばしば生じている.このような津波により,

浅海域では大規模な地形変化が生じ,侵食・洗掘による

海岸構造物の倒壊,堆積による港湾機能障害の被害等が

発生することがある.また,津波の進入波に耐えた護岸

が戻り流れによって倒壊するといった事例もいくつか存

在する.そのため,このような被害を軽減させるために

事前に被害予測を行い,その対策を実施することは極め

て重要である.

津波の戻り流れによる護岸前面洗掘について,西村・

堀川1)は数多くの小規模実験を,野口ら2),3)は数ケースの

大規模実験を行って,最大洗掘深を求める実験式を提案

している.しかし,これらは戻り流れの諸元が事前に与

えられないと求められないため,山本ら4)は入射波条件

を与え放物運動モデルを用いて評価する方法を提案し,

現地実測データとの整合性を確認しているが,護岸天端

高が高くなってくると過大評価するので,改良が必要で

ある.この洗掘の数値シミュレーション法としては,

MPS法による後藤ら5)の先駆的な試みがあり,定性的に

は現象を良く説明しているので,コンピュータの性能向

上と共に有用な手法となるだろう.

津波による広域の平面的な地形変化予測については,

高橋ら6),7),8)の研究があり,掃流砂量だけでなく浮遊砂量

も考慮する必要があることを指摘している.藤井ら9),

高橋ら10),西畑ら11)は浮遊砂の巻き上げ量と沈降量を考

慮することにより,地形変化の予測精度を向上させた.

山本ら12)は高橋ら10)の数値モデルをベースにして,2004

年インド洋津波によるパトン海岸で地形変化計算を試み

たが,沖合いに人工掘削海域のあることが分かり,沖合

い地形変化の再現性を確認できていない.

それゆえ,本研究では,津波の戻り流れによる海岸護

岸前面の最大洗掘深とその位置の算定式で,護岸天端高

の違いを考慮できるように改良した後,規模の大きな水

理模型実験結果に適用することで,それらの式の実用性

を確認した.さらに,山本ら12)の平面二次元数値モデル

を1960年チリ地震津波によって大規模な地形変化が生じ

た宮城県気仙沼湾に当てはめ,沖合侵食の再現性につい

Page 2: n k H w W 20111003.doc) - JSCElibrary.jsce.or.jp/jsce/open/00578/2011/5-121_Nariyoshi.pdf3 そして,護岸天端上における単位幅当りの最大泿量 q max ,ナップの打ち込み角αおよび最大波掘位置の計算値対実測値比L

2

ても検討した.

2. 戻り流れによる最大洗掘量算定式の構築

(1) 水理模型実験の概要

護岸天端高が戻り流れの水流厚さに比べて高い場合は,

写真-1に示すように戻り流れは放物運動するため,平面

二次元数値モデルを用いてその現象を再現することは困

難であることから表-1に示す計23ケースの水理模型実験

を実施した.

写真-1 津波の戻り流れによる護岸前面洗掘実験の例

本実験では,図-1に示すような,戻り流れ発生用の大

型タンクを設置した幅0.5m,高さ0.8m,長さ22mの二次

元水路を用いて,タンクから3.8mの地点に護岸模型を設

置し,護岸陸側は勾配1/15の固定床斜面,海側は勾配

1/15の移動床斜面にし,図-2に示すような,戻り流れの

流量,底質粒径D50,護岸前面水深 h ,護岸天端から砂

面までの落差 z を変えた実験を行い,最大洗掘深dmax お

よび最大洗掘位置L を測定した.なお,護岸天端上の流

速ur はKENEK社製円盤型電磁流速計で測定し,水流厚

さhr および洗掘量はビデオ撮影から測定した.

図-1 戻り流れの水理模型実験装置

図-2 洗掘量諸元と放物運動の説明図

(2) 実験結果

まず,底質粒径0.2mm,前面水深0.0m,落差0.15mの場

合について,戻り流れの流量を変えた計6ケースの実験

を行った.戻り流れが護岸天端から放物運動し,ナップ

の先端が砂面に到達した地点が最大洗掘位置の計算値Lt

に等しいと仮定すると,Lt は次式から得られる.

rrt tuL ×= βcos (1)

ここで,β は陸側地盤勾配,tr は戻り流れが護岸天端か

ら砂面に到達するまでの時間である.戻り流れの流速ur

は平面二次元数値モデルから求められるが,山本ら4)の

次式から求めても良い.

rr ghf

uβsin2

= (2)

ここで,f は陸側地表面の摩擦係数,g は重力加速度で

ある.上式から求めた計算値と実測値Lp を比較した結果,

図-3に示すように,流量が増加するほど計算値に比べて

実測値が大きくなることが判る.これは,流量が増加す

ると,図-2に示すナップの打ち込み角αが鋭角になり,

沖方向への洗掘傾向が強まるからと考えられる.

図-3 最大洗掘位置の計算値と実測値との比較

洗掘後 洗掘前

底質粒径 D 50 (mm) 戻り流れの単位幅当りの流量 q (m2/s) 落差 z (cm) 護岸前面水深 h (cm)

0.2 0.028, 0.039, 0.043, 0.057, 0.062, 0.073 15.0 0.0

0.2, 0.66, 5, 10 0.039, 0.073 15.0 0.0

0.2 0.073 15.0 2.0, 5.0, 7.5, 10.0, 12.0

0.2 0.073 5.0, 7.5, 10.0, 15.0 0.0

表-1 実験ケース一覧表

Page 3: n k H w W 20111003.doc) - JSCElibrary.jsce.or.jp/jsce/open/00578/2011/5-121_Nariyoshi.pdf3 そして,護岸天端上における単位幅当りの最大泿量 q max ,ナップの打ち込み角αおよび最大波掘位置の計算値対実測値比L

3

そして,護岸天端上における単位幅当りの最大流量

qmax ,ナップの打ち込み角αおよび最大洗掘位置の計算

値対実測値比Lp/Lt との関係を調べた結果が図-4である.

この図からαが約0.66radの時に最大洗掘位置の計算値と

実測値が一致する結果となった.

図-4 戻り流れの単位幅当りの最大流量,打ち込み角お

よび最大洗掘位置の計算値対実測値比との関係

さらに,底質粒径が0.2mmより大きくなるほど底質は

移動しにくくなるため,粒径の違いによって最大洗掘位

置がどの程度低減するかを調べた結果を図-5に示す.ま

た,前面水深と最大洗掘位置との関係を図-6に示す.

図-5 底質粒径と最大洗掘位置との関係

図-6 前面水深と最大洗掘位置との関係

図-4~6の関係を定式化すると,最大洗掘位置Lp を求め

る式として次式が得られる.

hLDL

t

pCCC

L

L⋅⋅= α

(3)

ここで,Cα ,CDL ,ChL は次式から求められる.

−−=

−−=

−+

=

0.32.1tanh0.12

1

003.0exp

066.0

66.09.0

066.0

66.0

66.0

66.05.19.0

2.0

2.050

r

hL

mm

mmDL

h

hC

D

DDC

αα

α

           

     

上式では,山本ら4)の式に対して,近似式をより精度が

良くなるように改良した.なお,α が0.66radより大きく

なる場合は,図-3,4からCα を約0.9とした.

一方,最大洗掘深は,戻り流れの水塊が持つ流速の鉛

直方向成分を用いた運動エネルギーまたは力積を洗掘深

が最大になるまで累加した値で決定されると考えられる.

しかし,洗掘深が最大になるまでの時間を予測すること

は困難であるため,予測が比較的容易である戻り流れの

流速が最大になるまでの時間tp を用いて,式(4)で定義さ

れる単位幅当りの運動エネルギーの累加値と,式(5)で

定義される単位幅当りの力積の累加値を求めた.

( ){ }∑∑ ∆= 2

2

1ryrry uthuE ρ (4)

( ){ }∑∑ ∆=∆ ryrry uthutF ρ (5)

ここで,ρは水の密度,∆t は累加時間間隔,ury は戻り流

れが砂面に到達する瞬間における流速の鉛直方向成分で

ある.

そして,運動エネルギー,力積と最大洗掘深との関係

を調べると,図-7と図-8に示すように良好な相関が得ら

れた.

図-7 最大洗掘深と単位幅当りの

累加運動エネルギーとの関係

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図-8 最大洗掘深と単位幅当りの累加力積との関係

さらに,底質粒径,前面水深と最大洗掘深との関係を

調べた結果を図-9,10に示す.また,護岸天端から砂面

までの落差が大きくなれば,ナップ落下点の鉛直方向流

速が大きくなり,運動エネルギーおよび力積は増加する

ので,最大洗掘深は大きくなると考えられるが,実験結

果からは顕著な変化が見られなかった.この原因は,落

差が大きくなることでナップが分散し,運動エネルギー

および力積の密度が低減するからであり,落差を変えた

実験データを用いて,図-11のように整理した.

図-9 底質粒径と最大洗掘深との関係

図-10 前面水深と最大洗掘深との関係

図-11 落差と最大洗掘深との関係

図-7~11の関係を定式化すると,最大洗掘深dmaxを求

める式として次式が得られる.

∆×⋅⋅

×⋅⋅

=∑

2/1

3/1

max

18.0

47.0

r

y

fhdDd

y

ehdDd

gh

tFCCC

g

ECCC

d

ρ

ρ (6)

ここで,CDd ,Chd ,Ce ,Cf は次式から求められる.

( ){ }( ){ }5/12.0exp65.035.0

5/15.0exp65.035.0

35.1tanh0.12

1

015.0exp2.0

2.050

−−+=

−−+=

−−=

−−=

rf

re

r

hd

mm

mm

Dd

hzC

hzC

h

hC

D

DDC

なお,戻り流れの流量が減少するにつれて,渦により舞

い上がっていた土砂が沈降するため,最終的な洗掘深は

上式から計算した値より2割程度小さくなる.

(3) 算定式の大規模水理模型実験への適用

前述の算定式を大規模水理模型実験に適用することで,

その実用性を検討する.本実験では,図-12に示すよう

な,幅0.5m,高さ1.4m,長さ12.2mの開水路流実験装置

を用いて,表-2に示すような底質粒径,落差,陸側地盤

勾配を変えた計4ケースの実験を行い,前述の算定式か

ら求めた計算値と実測値を比較した.

● 運動エネルギー

の低減係数 Ce

○ 力積の低減

係数 Cf

底質粒径 D 50 (mm) 戻り流れの単位幅当りの流量 q (m2/s) 落差 z (cm) 護岸前面水深 h (cm) 陸側地盤勾配

0.2 0.025 65.0 4.0 1/50

0.2 0.023 70.0 4.0 1/80

10 0.024 65.0 4.0 1/50

10 0.024 70.0 4.0 1/80

表-2 大規模水理模型実験ケース一覧表

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図-12 大規模水理模型実験装置

図-13,14に本算定式および山本ら4)の算定式から求め

た計算値と実測値を比較した結果を示す.本式を用いて

計算した場合では,山本ら4)の式と比較して精度が良好

になっており,誤差は最大洗掘位置が26%,最大洗掘深

は運動エネルギーを用いて計算した場合は16%,力積を

用いた場合は31%であり,本式を用いて実用レベルの精

度で洗掘量を予測することができる.

図-13 最大洗掘位置の計算値と実測値との比較

図-14 最大洗掘深の計算値と実測値との比較

3.平面二次元数値モデルの改良

(1) 1960年チリ地震津波による気仙沼湾での再現計算

計算法は山本ら12)の数値差分モデルによった.すなわ

ち,非線形長波数値モデルを用いて浸水計算を行い,掃

流砂量算定にはRibberink13)の式を,浮遊砂量算定には巻

き上げと沈降を考慮した移流拡散方程式を用いた.ただ

し,掃流砂量係数は検証データに合うように設定した.

対象となる気仙沼湾における津波来襲前後の水深分布

データは,高橋ら6)の論文をもとに格子データ(格子間

隔25m)として作成した. 入力波形は高橋ら6)に倣い,

小々汐での520分間に渡る潮位記録を0.924倍して補正し

た波形を湾口部から入射波として与えた.

図-15は津波来襲前後の水深変化分布を示している.

最初に山本ら12)に倣って掃流砂量係数m=11,n=1.65で計

算したところ,侵食量を過少評価(狭窄部における侵食

深さが約3m)する結果となったので,本計算では,

m=36,n=1.65として計算を行った.その結果を図-16に

示す.この図から,狭窄部での顕著な侵食,湾奥および

小々汐における堆積の傾向があることを再現できた.湾

口部の侵食・堆積分布が実測と異なるが,これは大川の

河川流の影響を再現していないことが原因である.

図-15 気仙沼湾でのチリ地震津波来襲前後の水深変化

(昭和31年と昭和35年6月との水深変化図)

図-16 気仙沼湾でのチリ地震津波来襲前後の水深変化

1.2m

-9.9m

-5.3m

大川

大川

-3.9m

1.9m

-1.5m

2.8m

小々汐

小々汐

● 本算定式

▲ 山本ら 4)の式

運動エネルギー

● 本算定式

▲ 山本ら 4)の式

力積

○ 本算定式

△ 山本ら 4)の式

3.1m

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0.0

-1.0

-2.0

-3.0

-4.0

-5.0

(m)

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0.0

-1.0

-2.0

-3.0

-4.0

-5.0

(m)

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(2) 2004年インド洋津波によるパトン海岸での検証計算

入射させる津波高の経時変化には,タイ国Phuket県北

隣のPhangnga県Kraburi海岸と東隣のKrabi県Krabi海岸の潮

位観測記録の平均値をモデル化した図-17を用いた(山

本ら12)).図-18にタイ国政府提供の津波来襲前(1996

年)と来襲後(2005年)の海図から作成した水深変化分

布を示す.なお,この図の地点A付近の2m前後の侵食は

浚渫によるものであることに注意する必要がある.前述

の計算から決定した漂砂量係数を用いて,2004年インド

洋津波によるパトン海岸での地形変化計算を行った結果

が図-19である.この図から,汀線際の洗掘深を良好に

再現できており,沖側の領域においては侵食量の予測精

度向上が見られた.

図-17 水位上昇量の経時変化モデル

図-18 Patong海岸でのインド洋津波来襲

前後の水深変化(タイ国政府提供の

1996年と2005年の海図による水深変化図)

図-19 Patong海岸でのインド洋

津波来襲前後の水深変化

4.結論

(1) 津波の戻り流れによる海岸護岸前面の洗掘について,

山本ら4)の算定式に護岸天端高の影響を考慮するなどの

改善を行うことで,規模の大きな実験(実物大の1/5程

度の模型)による最大洗掘量とその位置を実用レベルの

精度(±約30%)で評価できることを確認できた.

(2) 広域の平面的な地形変化算定では,本平面二次元数

値モデルも用いて漂砂量係数を調整すれば評価できるこ

とを示せた.

今後は,底質に砂礫以外を用いた場合の戻り流れによ

る洗掘実験を行い,底質の違いによる洗掘量算定法の構

築,VOF法やMPS法等による数値予測法の開発を進める

予定である.

謝辞:研究を行うにあたり,笠野裕司君,鈴木淳之介君,

河村雄太君(2009年度卒研生),五百蔵政文君,須山幸

一君(2010年度卒研生)には,多大なる協力を頂きまし

た.ここに心からの感謝の意を表します.

参考文献

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AAAA

-2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 (m)

-2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 (m)

Page 7: n k H w W 20111003.doc) - JSCElibrary.jsce.or.jp/jsce/open/00578/2011/5-121_Nariyoshi.pdf3 そして,護岸天端上における単位幅当りの最大泿量 q max ,ナップの打ち込み角αおよび最大波掘位置の計算値対実測値比L

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岸洗掘・侵食予測方法の改良,土木学会論文集B2(海岸工

学),Vol.B2-65,No.1,2009,511-515.

13) Ribberink, J.S. (1998) : Bed-load transport for steady flows and unsteady

oscillatory flows, Coastal Engineering, Vol.34, pp.59-82.

IMPROVEMENT OF PREDICTION MODELS OF THE TOE SCOURING

OF A SEA WALL AND THE TOPOGRAPHICAL CHANGE

OF A WIDE COASTAL AREA DUE TO TSUNAMI

Kenji NARIYOSHI, Yoshimichi YAMAMOTO, Shunsuke ISHII

If tsunami hits, large-scale erosion or scour caused in various places. If the coastal scour by the first

tsunami wave caused the destruction of a seawall, it is also considered that the second tsunami wave may

generate much more serious damage. Therefore, research on a predicting method of the coastal erosion

and scour by tsunami is important. In this research, a numerical model which can predict the coastal

erosion and scour in a wide area including land as easily as possible has been built on the basis of

Takahashi’s et al model. Moreover, predicting methods of the maximum scour depth and its position in

the front beach of the seawall are alse proposed.