MPO-ANCA関連血管炎と全身性強皮症:半月体形成...

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全 身 性 強 皮 症(SSc)発 症 約 9 年 後 に,myelope- roxidase-antineutrophil cytoplasmic antibody(MPO- ANCA)の出現に伴い,半月体形成性糸球体腎炎,多 発単神経炎をそれぞれ合併した 2 例を報告した.症例 は 56 歳女性および 21 歳女性.両患者とも,diffuse cu- taneous SSc であった.ANCA 関連血管炎の合併と考 え,プレドニゾロン内服に加え,シクロフォスファミ ド大量静注療法を行い,両症例とも血管炎症状に対し て著効した.現在当科で経過観察中の SSc 患者のう ち,調べ得た 21 例中,本論文の 2 例のみ MPO-ANCA 陽性であった.本邦例を検討したところ,MPO-ANCA 陽性となりやすい SSc の臨床的特徴は,SSc 発症後の 罹病期間が長い症例(平均10年,0.5~30年)および抗 topoisomerase I 抗体陽性例(71%)であった.このよ うな特徴を持つ SSc 症例の経過中に,正常血圧の腎機 能低下,血痰,呼吸困難,紫斑などの症状がみられた 場合には,ANCA を測定すべきであると考える.SSc 患者にANCA関連血管炎が合併することは稀であ る.しかし,急速進行性糸球体腎炎や肺胞出血等の重 篤な症状をきたすため,臨床上極めて重要な病態であ る.迅速な診断と早期からの強力な免疫抑制療法を要 することから,強皮症診療上,常に留意すべき症候と いえる. はじめに 全身性強皮症(以下SSc)は,皮膚をはじめとする全 身諸臓器の線維化を主徴とする系統疾患である 1) SSc の約 10% に急性腎不全を合併するが,そのほとん どが強皮症腎クリーゼである.近年,血圧が正常にも かかわらず,急速進行性の腎不全を呈する稀なSSc 症例が報告されている 2)3) .抗好中球細胞質抗体(anti- neutrophil cytoplasmic antibody;以 下 ANCA)が そ の発症に関与しており,腎および肺を中心とする細 小・毛細血管炎症候を生じる 4)5) SSc の 経 過 中 に,myeloperoxidase(以 下 MPO) - ANCAの出現に伴い,半月体形成性糸球体腎炎あるい は多発単神経炎を発症した 2 症例を経験した.SSc に お け る MPO-ANCA 陽 性 の 意 義 お よ び MPO-ANCA 陽性となりやすい SSc の臨床的特徴について文献的 考察を加え,報告する. 症例 1:56 歳,女性. :1997 年 6 月 25 日. 家族歴・既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:1995 年より,手指の皮膚硬化・しびれ・レ イノー症状が出現.両前腕・両足~下腿にも硬化と色 素沈着が徐々に拡大した.舌小帯の短縮,嚥下困難も 伴った.1997 年 6 月に当科を紹介受診.臨床症状と抗 核抗体および抗 topoisomerase I 抗体陽性より,SSc と診断した.同時期に%DLcoが60.1と低下を認め,胸 部 CT にて間質性肺炎の合併と診断した.それぞれの 臓器病変の活動性を考慮し,ステロイドや D-ペニシラ ミンの全身投与は行わず,循環障害に対して塩酸イソ クスプリン(ズファジラン ),関節痛に対して桂枝加 朮附湯の投与等の対症療法を行っていた.2004 年 6 月 MPO-ANCA 関連血管炎と全身性強皮症:半月体形成性糸球体腎炎, 多発単神経炎を合併した全身性強皮症の 2 例の検討と文献的考察 牧之段恵里 1) 小林 信彦 1) 星野さち子 1) 敦子 1) 横井 祥子 1) 山本 純照 1) 浅田 秀夫 1) 浅井 2) 中谷 公彦 2) 熊本 牧子 3) 須崎 康恵 3) 濱田 3) 宮川 幸子 1) 1) 奈良県立医科大学皮膚科学教室(主任:宮川幸子) 2) 奈良県立医科大学第一内科学教室 3) 奈良県立医科大学第二内科学教室 平成 17 年 4 月 7 日受付,平成 17 年 9 月 7 日掲載決定 別刷請求先:(〒6348522)奈良県橿原市四条町 840 番地 奈良県立医科大学皮膚科学教室 牧之段恵里 日皮会誌:116(1),51―60,2006(平18)

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Page 1: MPO-ANCA関連血管炎と全身性強皮症:半月体形成 …drmtl.org/data/116010051j.pdf要旨 全身性強皮症(SSc)発症約9年後に,myelope-roxidase-antineutrophil

要 旨

全身性強皮症(SSc)発症約 9 年後に,myelope-roxidase-antineutrophil cytoplasmic antibody(MPO-ANCA)の出現に伴い,半月体形成性糸球体腎炎,多発単神経炎をそれぞれ合併した 2 例を報告した.症例は 56 歳女性および 21 歳女性.両患者とも,diffuse cu-taneous SSc であった.ANCA 関連血管炎の合併と考え,プレドニゾロン内服に加え,シクロフォスファミド大量静注療法を行い,両症例とも血管炎症状に対して著効した.現在当科で経過観察中の SSc 患者のうち,調べ得た 21 例中,本論文の 2 例のみ MPO-ANCA陽性であった.本邦例を検討したところ,MPO-ANCA陽性となりやすい SSc の臨床的特徴は,SSc 発症後の罹病期間が長い症例(平均 10 年,0.5~30 年)および抗topoisomerase I 抗体陽性例(71%)であった.このような特徴を持つ SSc 症例の経過中に,正常血圧の腎機能低下,血痰,呼吸困難,紫斑などの症状がみられた場合には,ANCA を測定すべきであると考える.SSc患者に ANCA 関連血管炎が合併することは稀である.しかし,急速進行性糸球体腎炎や肺胞出血等の重篤な症状をきたすため,臨床上極めて重要な病態である.迅速な診断と早期からの強力な免疫抑制療法を要することから,強皮症診療上,常に留意すべき症候といえる.

はじめに

全身性強皮症(以下 SSc)は,皮膚をはじめとする全身諸臓器の線維化を主徴とする系統疾患である1).SSc の約 10% に急性腎不全を合併するが,そのほとんどが強皮症腎クリーゼである.近年,血圧が正常にもかかわらず,急速進行性の腎不全を呈する稀な SSc症例が報告されている2)3).抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody;以下 ANCA)がその発症に関与しており,腎および肺を中心とする細小・毛細血管炎症候を生じる4)5).

SSc の 経 過 中 に,myeloperoxidase(以 下 MPO)-ANCA の出現に伴い,半月体形成性糸球体腎炎あるいは多発単神経炎を発症した 2 症例を経験した.SSc における MPO-ANCA 陽性の意義および MPO-ANCA陽性となりやすい SSc の臨床的特徴について文献的考察を加え,報告する.

症 例

症例 1:56 歳,女性.初 診:1997 年 6 月 25 日.家族歴・既往歴:特記すべきことなし.現病歴:1995 年より,手指の皮膚硬化・しびれ・レ

イノー症状が出現.両前腕・両足~下腿にも硬化と色素沈着が徐々に拡大した.舌小帯の短縮,嚥下困難も伴った.1997 年 6 月に当科を紹介受診.臨床症状と抗核抗体および抗 topoisomerase I 抗体陽性より,SScと診断した.同時期に%DLco が 60.1 と低下を認め,胸部 CT にて間質性肺炎の合併と診断した.それぞれの臓器病変の活動性を考慮し,ステロイドや D-ペニシラミンの全身投与は行わず,循環障害に対して塩酸イソクスプリン(ズファジランⓇ),関節痛に対して桂枝加朮附湯の投与等の対症療法を行っていた.2004 年 6 月

MPO-ANCA 関連血管炎と全身性強皮症:半月体形成性糸球体腎炎,

多発単神経炎を合併した全身性強皮症の 2 例の検討と文献的考察

牧之段恵里1) 小林 信彦1) 星野さち子1) 泉 敦子1)

横井 祥子1) 山本 純照1) 浅田 秀夫1) 浅井 修2)

中谷 公彦2) 熊本 牧子3) 須崎 康恵3) 濱田 薫3)

宮川 幸子1)

1)奈良県立医科大学皮膚科学教室(主任:宮川幸子)2)奈良県立医科大学第一内科学教室3)奈良県立医科大学第二内科学教室平成 17 年 4 月 7 日受付,平成 17 年 9 月 7 日掲載決定別刷請求先:(〒634―8522)奈良県橿原市四条町 840

番地 奈良県立医科大学皮膚科学教室 牧之段恵里

日皮会誌:116(1),51―60,2006(平18)

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図4 症例2 臨床像

a 全指,両手背から前腕全体にかけて皮膚の硬化が

著明であり,指尖部の皮膚の蒼白,冷感を認める.

b 顔面は,仮面様を呈する.

図1 症例1 臨床像

a.全指,両手背から前腕近位3分の1まで著明な皮

膚硬化を認め,手指は紫色調で冷感がある.

b.顔面は,軽度仮面様を呈する.

図2 症例1 腎生検病理組織像

半月体形成を認める.

(PAS染色,20倍)

図3 症例1の臨床経過

mPSL:methylprednisolone CP:cyclophosphamide PSL:prednisolone

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表1 入院時検査所見

〈症例2〉〈症例1〉〈正常値〉

120/60112/60mmHg血圧

10,8006,9003,900~9,800 /μlWBC

400310427~570×104 /μlRBC

10.78.911.3~15.2 g/dlHb

57.532.513.2~36.2 万/μlPlt

1111131~7 mm(1時間値)

赤沈

(-)0.3 g(-)1日尿蛋白

(-)(-)(-)尿糖

(-)(3+)(-)尿潜血

10461.120代女性117.1±30.2 ml/min

24hCCr

60代女性91.3±28.2 ml/min

(-)上皮円柱(+)尿沈査

n.d.1,65317~338 μg/l尿中β2ミクログロブリン

2.51.9<0.6 mg/dlCRP

7.56.26.4~8.1 g/dlTP

3.52.73.8~8.5 g/dlAlb

132112~32 IU/lGOT

19135~36 IU/lGPT

461922~160 IU/lCPK

13128~20 mg/dlBUN

0.50.80.3~0.9 mg/dlCRE

n.d. : not done

〈症例2〉〈症例1〉〈正常値〉

247900<20 EU/mlMPO-ANCA

1,0001,580<500 U/mlKL-6

69.1155<110 ng/ml SP-D

92n.d.<10 IU/mlRF

1,280倍640倍(-)抗核抗体

(homo-geneous)

(homo-geneous)

160倍(nucleolar)

<=57<=10 IU抗ds-DNAIgG抗体

16倍4倍(-)抗topoisomerase I抗体

45.546.9<=20 index抗SS-A/Ro抗体

<56<=10 index抗SS-B/La抗体

<5<5<=10 index抗セントロメア抗体

(-)n.d.(-)抗Sm抗体

<=7<=7<=10 U/ml抗Jo-1抗体

n.d.<10<=10 EU/ml抗GBM抗体

9.70.50.3~2.9 ng/ml/hr血漿レニン活性

94.5<25.056.9~150.3 pg/mlアルドステロン

下旬より,四肢近位優位の筋肉痛を自覚.8 月中旬に尿量減少と熱発が出現したため,9 月 6 日入院した.入院時現症:強指症を認め,上肢,�幹,頸部にわ

たりびまん性に暗赤色を示し,浮腫,硬化があり,dif-fuse cutaneous SSc である(図 1a).両足足背,趾背に浮腫性硬化があり,暗赤色を呈する.顔面は仮面様である(図 1b).全身にびまん性の色素沈着を認める.舌小帯短縮,逆流性食道炎がある.手指屈曲拘縮,指尖皮膚潰瘍・壊死,石灰沈着,小口症は認めない.入院時検査所見(表 1):血圧正常.貧血,赤沈促進,

低アルブミン血症を認めた.尿検査にて潜血(3+),1 日尿蛋白は 0.3g.尿沈渣で上皮円柱を認めた.24 時間クレアチニン・クリアランスは低下,尿中 β2 ミクログロブリン高値であり,腎機能低下を認めた.血漿レニン活性正常,アルドステロンは低下していた.KL-6,SP-D は高値.抗核抗体は 640 倍まで陽性(ho-mogeneous pattern).抗 topoisomerase I 抗体および抗 SS-A�Ro 抗体も陽性であった.MPO-ANCA 900EU�ml と高値.

病理組織学所見(1999 年 7 月):表皮は軽度の萎縮を認める.真皮全層にわたり硬化がみられ,皮膚付属器の萎縮がある.口唇腺生検:導管周囲に 50 個以上のリンパ球浸潤

を認め,抗 SS-A�Ro 抗体陽性と合わせて Sjögren 症候群の合併と診断した.腎生検所見(図 2):31 個の糸球体のうち,1 個は硬

化,8 個には半月体形成を認めた.蛍光抗体直接法では,糸球体への免疫グロブリンの沈着はなく,毛細血管壁にそって C3 の沈着がわずかにみられた.pauci-immune type の半月体形成性糸球体腎炎と診断し,SSc と ANCA 関連血管炎の合併と考えた.入院経過(図 3):入院後,プレドニゾロン(以下

PSL)40mg�日より内服開始.ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン 1g�日×3 日)に引き続き,シクロフォスファミド(以下 CP)900mg 点滴静注によるエンドキサンⓇパルス療法を 3 回併用した.また,上部消化管造影検査にて,逆流性食道炎の合併も認め,ラベプラゾールナトリウム(パリエットⓇ)の内服を開始

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図5 症例2の臨床経過

mPSL:methylprednisolone CP:cyclophosphamide PSL:prednisolone

CsA:cyclosporin A

した.この間,PSL は漸減し,尿所見,MPO-ANCA抗体価,赤沈は改善した.腎生検所見も,23 個の糸球体のうち半月体形成は 2 個と改善がみられたため,2004 年 12 月 6 日に退院した.症例 2:21 歳,女性.初 診:1997 年 9 月 8 日.家族歴・既往歴:特記すべきことなし.現病歴:1995 年頃よりレイノー症状が出現.近医よ

りステロイド内服(詳細不明)を開始されていた.1997年 9 月に当科を紹介受診した.手指の皮膚硬化,抗核抗体および抗 topoisomerase I 抗体陽性より SSc の初期と診断した.1999 年より前腕および顔面の硬化が著明となり,2000 年 4 月より肺線維症を合併.2002 年より冬期に指尖潰瘍が出現した.2003 年 3 月上部消化管造影検査にて,逆流性食道炎の合併を認めた.この間,ベタメサゾン 0.25~1.5mg�日を内服していた.2004年 3 月 16 日より,朝に 38 度台の熱発と四肢近位を中心とした激痛が出現した.NSAIDs 内服が無効なため,3 月 23 日に入院した.

入院時現症:上肢,�幹,頸部にわたり,浮腫,硬化があり,diffuse cutaneous SSc である.強指症を認め,特に両手背から前腕全体にかけて皮膚の硬化が著明である.指尖部の蒼白,冷感を認め,右示指に指尖虫食い状瘢痕がある(図 4a).両足足背,趾背にも硬化を認める.顔面は仮面様である(図 4b).全身にわずかに色素沈着がある.小口症および舌小帯短縮を認めるが,指尖皮膚潰瘍・壊死,石灰沈着,手指屈曲拘縮はない.理学的所見:両側肺底部に乾性ラ音を聴取した.下

肢 MRI にて筋組織に軽度の浮腫を認めたが,徒手筋力検査では明らかな筋力低下はない.入院時検査所見(表 1):血小板増多と赤沈促進を認

めた.CRP は軽度上昇.KL-6 は上昇していたが,動脈血液ガスは正常.抗核抗体 1,280 倍(homogeneous pat-tern)および 160 倍(nucleolar pattern)まで陽性.自己抗体は,他に抗 topoisomerase I 抗体および抗 SS-A�Ro 抗体を認めた.MPO-ANCA も 247EU�ml(2004年 5 月 26 日検査)と陽性.血漿レニン活性は高値で

牧之段恵里ほか54

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表2 MPO-ANCA陽性およびMPO-ANCA関連血管炎合併SSc例の統計

D-ペニシラミン投与後陽性例

MPO-ANCA関連血管炎MPO-ANCA陽性例

症例数他臓器腎炎

1肺胞出血236(6.0%)100Endo et al(1994)2)

n.d.全身性血管炎117(9.1%)77Akimoto et al(1996)10)

1012(2.4%)81Locke et al(1997)11)

0000(0%)45Merkel et al(1997)12)

n.d.n.d.n.d.2(14.3%)14Chikazawa et al(2000)13)

3n.d.n.d.4(3.5%)115Ruffatti et al(2002)14)

1n.d.n.d.1(1.6%)62Caramaschi et al(2002)15)

n.d.n.d.n.d.4(9.5%)42 Puszczewicz et al(2003)16)

0多発単神経炎112(9.5%)21Our cases

n.d. : not described

あった.皮膚病理組織学所見:未施行.入院経過(図 5):感染症の合併,間質性肺炎の増悪

および筋炎の合併を否定した.熱発,筋肉痛の原因を,膠原病に伴う非特異的な症状の増悪と考え,ベタメサゾンの内服を 3mg�日に増量し,ステロイドパルス療法を施行した.解熱し,CRP はいったん低下したが,四肢の左右非対称性の疼痛は持続した.5 月 22 日に右下肢全体に激痛が出現.右正中神経,右脛骨神経,左右腓骨神経の神経伝達速度の遅延を認め,多発単神経炎の合併と診断した.MPO-ANCA が高値であり,多発単神経炎は ANCA 関連血管炎の病態と考えた.ステロイドパルス療法に引き続き,CP 700mg 点滴静注によるエンドキサンⓇパルス療法を 3 回施行した.PSLは 50mg�日より漸減し,20mg�日からはシクロスポリン A 80mg�日を併用した.四肢の疼痛は軽快し,赤沈,CRP,MPO-ANCA 抗体価とも低下したため 2004 年9 月 13 日退院した.

考 察

ANCA は,1982 年に Davies らが間接蛍光抗体法を用いて,半月体形成を伴った巣状壊死性糸球体腎炎患者血清中に,好中球の細胞質に対する IgG クラス抗体が存在するのを報告したのが最初である6).細胞質がびまん性顆粒状に染色される細胞質型(cytoplasmic ;C-ANCA)と核周囲が染色される核周囲型(perinu-clear ; P-ANCA)の二型があり,前者は proteinase 3

(以下 PR3),後者は MPO が主な対応抗原として同定されている.ANCA 関連血管炎の病態生理については未だ解明されていないことが多いが,一つの仮説として ANCA-サイトカイン連鎖説が提唱されている7).

ANCA が産生された後,上・下気道感染等を契機として産生された種々のサイトカインの刺激により,好中球と血管内皮は相互に接着する.活性化された好中球および血管内皮細胞は同時に PR3 や MPO を表出し,ここに血清中の PR3-ANCA や MPO-ANCA が結合する.respiratory burst によって放出された組織障害酵素(PR3,MPO)および活性酸素等が,血管内皮細胞を傷害し,血管炎を発症する5)7).PR3-ANCA,MPO-ANCA ともに,その抗体価は 60~70% の症例で血管炎の疾患活動性と相関して変動する5).今回報告した2 症例では,当科初診時及び血管炎発症前(症例 1 では1997 年 6 月 と 2000 年 3 月,症 例 2 で は 1997 年 9 月)における MPO-ANCA を凍結保存血清を用いて測定したところ,いずれの時期でも陰性であった.このことより,SSc の経過中に,SSc に関連した何らかの免疫異常あるいは気道感染や吸入抗原等を契機として,ANCA の産生および好中球・血管内皮細胞の活性化が生じ,ANCA 関連血管炎を合併したと推測される.また,2 症例とも治療により,MPO-ANCA 抗体価の低下とともに血管炎症状が改善し,MPO-ANCA 抗体価は疾患活動性をよく反映していた.

ANCA 関連血管炎の治療法は,PSL 内服単独,あるいはステロイドパルス療法との併用が推奨されている.これらに,CP を併用したほうが生命予後が優れており,また点滴静注による CP パルス療法は,経口投与に比べ骨髄抑制や出血性膀胱炎などの副作用が少ないとされている8).膠原病に ANCA 関連血管炎を合併した場合,予後不良となることもあるため8),血管炎症候に対して,迅速かつ積極的に免疫抑制療法を開始する必要がある9).症例 1 では,MPO-ANCA は 900EU�ml と非常に高値であり,急速進行性糸球体腎炎の初期

MPO-ANCA 関連血管炎と全身性強皮症 55

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段階と考え,CP 大量静注療法を行った.症例 2 では,臨床的に多発単神経炎を認めたこと,MPO-ANCA 陽性であったこと,ステロイドパルス療法が奏効しなかったこと,右下肢の激痛が耐え難く早期の治療が求められたこと,ステロイドパルス療法後のため神経生検で血管炎の像が得られない可能性があったこと等を勘案し,病理組織学的に血管炎の診断は得られていなかったが,ANCA 関連血管炎の合併と診断し,速やかに CP 大量静注療法を行った.ANCA 関連血管炎の死因として,感染症が最も多く,次いで肺胞出血や腎不全等の血管炎による症状がみられる.このため,CP大量療法などの強力な免疫抑制療法を行う際には感染症予防が重要である.感染症対策の試案も提唱されており,参考となる8).

SSc の MPO-ANCA 陽性率は,0% から 15% 程度と報告されている(表 2)2)10)~16).海外からの報告例(0~9.5%)に比べて,本邦からの報告では MPO-ANCA陽性率がやや高く(6~14%),日本人 SSc 患者の方がMPO-ANCA 陽性となりやすいことが示唆される.MPO-ANCA 陽性患者のうち,実際に血管炎を発症するものは更に少数であり,半月体形成性糸球体腎炎,肺胞出血,多発単神経炎等の合併が報告されている.当科で現在経過観察中の SSc 症例のうち,調べ得た 21例中,MPO-ANCA 陽性であったのは本論文の 2 例のみであった.合併例が非常に少ないことより,ANCA関連血管炎は SSc の一症状というより,SSc に ANCA関連血管炎が overlap する症例があるのではないかと考えている.ANCA 関連血管炎が overlap した SScの臨床的特徴として,SSc の罹病期間が長く2),特に皮膚硬化の範囲が四肢末端に限局される limited cutane-ous SSc(CREST 症候群を含む)症例,二次性 Sjögren症候群を合併する症例に多い17)18)としている報告もある.さらに,D-ペニシラミン,プロピルチオウラシル,ミノサイクリン,ヒドララジン等の薬剤によってもMPO-ANCA 関連血管炎が誘発されることが知られている7)19).

SSc の臨床病型は,人種間で差がみられる.このためMPO-ANCA 陽性 SSc の本邦報告例の特徴について検討した(表 3)2)~4)10)20)~33).われわれが調べ得た限り,33 例中記載のあった 26 例では,MPO-ANCA 陽性となった年齢は 28~74 歳,平均 56 歳,全例女性であった.また,MPO-ANCA 陽性となるまでの SSc 罹病期間は 0.5~30 年,平均約 10 年であった.抗核抗体は96.8%(31 例 中 30 例),抗 topoisomerase I 抗 体 は

71.0%(31 例中 22 例),抗セントロメア抗体は 25.0%(16 例中 4 例)で陽性であった.その他の自己抗体についても陽性例がみられた.日本人 SSc 患者の 88% が女性,自己抗体の陽性率は,抗核抗体 88.6%,抗 topoi-somerase I 抗体 29.1%,抗セントロメア抗体 23.4% であることから34),MPO-ANCA 陽性となりやすい日本人 SSc 患者の特徴として,特に抗 topoisomerase I 抗体陽性および SSc 発症後の罹病期間が長いことがあげられる(表 3).Akimoto ら10)は,報告した 6 例の日本人 MPO-ANCA 陽性 SSc では,リウマチ因子,抗topoisomerase I 抗体,抗セントロメア抗体,サイロイドテスト,マイクロゾームテスト等が重複して陽性になる傾向があったと記載している.われわれの 2 症例は,日本人の MPO-ANCA 陽性 SSc の特徴をよく反映しており,SSc 発症より約 9 年を経た後に ANCA 関連血管炎を合併した.両症例とも抗 topoisomerase I 抗体および抗 SS-A�Ro 抗体陽性,症例 1 では Sjögren 症候群の診断基準も満たしていた.また,両症例とも MPO-ANCA 関連血管炎を誘発しうる薬剤の投薬歴はなかった.

以上の文献的考察から,罹病期間が長い抗 topoisom-erase I 抗体の陽性 SSc の経過中に,正常血圧の腎機能低下,血痰,呼吸困難,紫斑などの症状がみられた場合には,ANCA を測定すべきであると考える.また,ANCA 陽性例のうち実際に血管炎を発症するものはさらに少数であることから,血管炎症状出現前にスクリーニング検査として ANCA を測定する必要はないと考える.

他の膠原病でも MPO-ANCA 陽性例が存在する.関節リウマチでは 0~11%,全身性エリテマトーデスでは 1~21%,Sjögren 症 候 群 で は 0~5% の 症 例 がMPO-ANCA 陽性であると報告されている12)13)16)35)36).これらの膠原病に ANCA が出現する臨床的意義については,充分に解明されていない.しかし,SSc では,ANCA 陽性例は,陰性例に比べて,より多彩で重篤な全身症状を呈し,ANCA 関連血管炎の治療の遅れにより予後不良となり得る.今回の 2 症例を経験し,膠原病患者に血管炎の発症が疑われた場合,ANCA 関連血管炎の合併も念頭におき,適切な対応が必要であることを痛感した.

(2 症例の要旨は,第 28 回皮膚脈管・膠原病研究会,第104 回日本皮膚科学会総会で発表した.)

牧之段恵里ほか56

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表3 MPO-ANCA陽性SSc本邦報告例

薬剤歴血管炎症状自己抗体罹病

期間性別年齢

その他centromeretop I抗核抗体

-抗RNP抗体,抗Sm抗体

n.d.++9年F56Endo et al(1994年)2)

D-ペニシラミン

肺胞出血,腎血管炎抗RNP抗体 n.d.++6年F53

-腎血管炎n.d.++10年F62

-抗GBM抗体n.d.++11年F63

-肺胞出血n.d.++5年F71

-腎血管炎抗RNP抗体,抗Sm抗体

n.d.-+6年F40

n.d.半月体形成性腎炎抗GBM抗体-+speckled19年F42小林ら(1995年)20)

n.d.サイロイドテスト,マイクロゾームテスト

+-+n.d.n.d.n.d.Akimoto et al(1996年)10)

n.d.肺胞出血,腎血管炎抗SS-A抗体,RF+++n.d.n.d.n.d.

n.d.---n.d.n.d.n.d.

n.d.サイロイドテスト,マイクロゾームテスト,RF

+-+n.d.n.d.n.d.

n.d.マイクロゾームテスト--+n.d.n.d.n.d.

n.d.サイロイドテスト,マイクロゾームテストRF,抗RNP抗体

-++n.d.n.d.n.d.

n.d.-++n.d.n.d.n.d.

n.d.半月体形成性腎炎RF-+diffuse,nucleolar

10年F46Omote et al(1997年)21)

-脳血管炎?n.d.+diffuse6年F37瓜生原ら(1997年)22)

n.d.腎血管炎,びまん性肺出血

抗SS-A抗体n.d.+homogeneous,speckled

11年F51三谷ら(1998年)3)

n.d.半月体形成性腎炎--homogeneous18年F50原島ら(1999年)23)

-半月体形成性腎炎n.d.-+0.5年F57水谷ら(2000年)24)

n.d.びまん性肺出血,血管炎(腎臓他)

抗カルジオリピンIgG抗体

-+homogeneous14年F43兒玉ら(2000年)25)

n.d.半月体形成性腎炎,下腿網状皮斑

RF-+homogeneous,speckled

1年F66水野ら(2001年)26)

n.d.n.d.n.d.n.d.16年F74加藤ら(2001年)27)

n.d.血管炎(筋肉他)n.d.n.d.n.d.23年F70

n.d.下肢紫斑,肺胞出血,脳出血

RF,RAPAn.d.++6年F66南ら(2002年)28)

-壊死性血管炎RF-+homogeneous,speckled

9年F54宮村ら(2002年)29)

n.d.抗ds-DNA抗体+-homogeneous,speckled

11年F73宮田ら(2002年)30)

D-ペニシラミン

半月体形成性腎炎,肺胞出血

ループスアンチコアグラント

n.d.+homogeneous,nucleolar

14年F67

-肺胞出血RAPAn.d.-homogeneous,speckled

2年F54山田ら(2003年)31)

n.d.多発単神経炎,下肢網状皮斑

RFn.d.+homogeneous,nucleolar

5年F 57長谷川ら(2004年)4)

D-ペニシラミン

半月体形成性腎炎n.d.+homogeneous,speckled

20年F61小笠原ら(2004年)32)

-半月体形成性腎炎RFn.d.++29年F64Tomioka et al(2004年)33)

-半月体形成性腎炎抗SS-A抗体-+homogeneous9年F62自験例

-多発単神経炎RF,抗SS-A抗体-+homogeneous,nucleolar

9年F28

n.d.:not described top I:抗topoisomerase I抗体 centromere:抗セントロメア抗体

MPO-ANCA 関連血管炎と全身性強皮症 57

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文 献

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25)兒玉静香,永田佳子,上園繁弘ほか:MPO-ANCA陽性を呈した強皮症腎クリーゼの 1 例,宮崎医学

牧之段恵里ほか58

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が上昇した全身性強皮症,皮膚病診療,23 : 591―594, 2001.

27)加藤敏明,伊東干城,沖本久志,呉 賢一,高橋裕一:経過中に MPO-ANCA 陽性血管炎を発症した強皮症の 2 例,内科,87 : 1015―1017, 2001.

28)南 満芳,荒瀬誠治,岡 信晃,白神 実,曽根三郎:紫斑,肺胞出血を伴った P-ANCA 陽性の全身性強皮症,臨皮,56 : 507―510, 2002.

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30)宮田直子,小林朋子,松川吉博,澤田滋正,西成田進,堀江孝至:抗好中球細胞質抗体陽性を示し,急速進行性腎炎を合併した全身性ならびに限局性皮膚硬化症例,日臨免会誌,25 : 473―479, 2002.

31)山田 徹,中島 洋,田中栄一ほか:病理組織学的検討にて腎障害を認めず,MPO-ANCA 陽性の肺胞出血を呈した強皮症の一症例,リウマチ,43 :690―695, 2003.

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MPO-ANCA 関連血管炎と全身性強皮症 59

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Key words :

Development of MPO-ANCA-related Vasculitis in Systemic Sclerosis :

Report of Two Cases and Review of the Literature

Eri Makinodan1), Nobuhiko Kobayashi1), Sachiko Hoshino1),Atsuko Izumi1), Shoko Yokoi1), Yoshiteru Yamamoto1), Hideo Asada1),

Osamu Asai2), Kimihiko Nakatani2), Makiko Kumamoto3),Yasue Suzaki3), Kaoru Hamada3)and Sachiko Miyagawa1)

1)Department of Dermatology,2)First Department of Internal Medicine, and

3)Second Department of Internal Medicine, Nara Medical University School of Medicine

(Received April 7, 2005 ; accepted for publication September 7, 2005)

We report two patients, a 59-year-old female and a 21-year-old female with systemic sclerosis(SSc)whodemonstrated myeloperoxidase-antineutrophil cytoplasmic antibodies(MPO-ANCA). Both patients devel-oped crescentic glomerulonephritis and mononeuritis multiplex, respectively, nine years after the onset ofSSc. We diagnosed these patients as having an overlap of SSc and MPO-ANCA-related vasculitis. A combina-tion of oral administration of prednisolone and intravenous cyclophosphamide improved their vasculitic symp-toms. We determined the incidence of ANCA-related vasculitis in SSc patients at our hospital. Of the 21 SScpatients examined, only the two patients described here were MPO-ANCA positive. A literature review dem-onstrated that the features of Japanease SSc patients who produce MPO-ANCA included a high incidence ofpositive anti-topoisomerase I antibody(71%)and a long lag phase between the onset of SSc and the develop-ment of MPO-ANCA(average 10 years, 0.5~30 years). Although the development of MPO-ANCA-relatedvasculitis is extremely rare in SSc patients, it is clinically of great importance. Acute progressive glomeru-lonephritis as well as pulmonary hemorrhage caused by ANCA-related vasculitis can determine the prognosisof such patients. If clinically evident vasculitis occurs in an SSc patient, particularly a patient with positiveanti-topoisomerase I antibody and a long lag phase from the onset of SSc, prompt diagnosis of ANCA-relatedvasculitis and the early initiation of immunosuppressive therapy, particularly in the case of life-threateningconditions, can be determinative factors for a good outcome.

(Jpn J Dermatol 116 : 51~60, 2006)systemic sclerosis, MPO-ANCA, crescentic glomerulonephritis, mononeuritis multiplex, ANCA-related vasculitis

牧之段恵里ほか60