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NEWS KANSAI 2019.January Vol.496 1 巻 頭 言 心理学とヒートポンプから学ぶ、企業におけるイノベーションの鍵 研究紹介 系統安定度向上を目的とした 自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発 社内案内 第47回全社技術研究発表会 総合大会を開催 R & D

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N E W S K A N S A I

2019.JanuaryVol.496

1

巻 頭 言心理学とヒートポンプから学ぶ、企業におけるイノベーションの鍵

研究紹介系統安定度向上を目的とした自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発 他

社内案内第47回全社技術研究発表会 総合大会を開催

R&D

R&D N

EWS KAN

SAI  

2019年1月

号 

Vol.496

関西電力(研究開発室)

〒530-8270大阪市北区中之島3丁目6番16号TEL. 06-6441-8821大阪市営地下鉄四ツ橋線「肥後橋駅」から徒歩約5分京阪中之島線「渡辺橋駅」から徒歩約3分

● “R&D News Kansai”についてのお問い合わせ、またはお気づきの点がありましたら、下記までご連絡ください。 関西電力株式会社 研究開発室 研究企画グループ:上野 TEL. 050-7104-0495 FAX. 06-6441-9864   E-mail:[email protected]

●インターネット『URL~http://www.kepco.co.jp/→研究開発情報→R&D News Kansai』にて掲載内容を ご覧いただくことが出来ますのでご利用ください。

2019年1月号 vol.496

発行所 関西電力株式会社 研究開発室〒530-8270 大阪市北区中之島3丁目6番16号 TEL. 06-6441-8821(代) FAX. 06-6441-9864◆本誌に記載されている記事、写真等の無断掲載、複写、転載を禁じます。

・この冊子は再生紙を使用しています。

サントリービル●

●朝日新聞

●アバンザ堂島

大阪マルビル

阪神百貨店

JR 東西線国道 2 号線

京阪中之島線

福島駅

新福島駅阪 神

東海道本線

JR 大阪駅

梅田駅梅田駅

JR北新地駅

渡辺橋駅 大江橋駅渡辺橋

大江橋

堂島川

土佐堀川

地下鉄

四ツ橋線

地下鉄

御堂筋線

西梅田駅

御堂筋

淀屋橋駅

四ツ橋筋

肥後橋駅

なにわ筋

福島駅

関西電力

技術研究所〒661-0974兵庫県尼崎市若王寺3丁目11番20号TEL. 06-6491-0221阪急電鉄神戸線「園田駅」から徒歩約15分JR「尼崎駅」より阪神バス「近松公園」から徒歩約5分

ガソリンスタンド

● イオン

尼崎上坂部局〶 ○文

○文

〶尼崎次屋局

園田駅阪急神戸線百合学院高

尼崎小中島局

小園小

山幹通り

スーパーマルハチ

東署

東海道本線

尼崎駅

塚口駅

福知山線

山陽新幹線

名神高速道路

近松公園○

技術研究所

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経営企画室 イノベーション担当室長

岡村 修

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 1

巻 頭 言

1

2

3

4

5

6

7

8

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

系統安定度向上を目的とした自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発 ……………………………P2

心理学とヒートポンプから学ぶ、企業におけるイノベーションの鍵 ……………P1

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

リレーハードへの適用を考慮したオンライン型電源制限装置の開発 …………P4

送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ

次期配電自動化システムにおける事故検出・復旧機能の高度化検討 ……………P6

水力事業本部 運営グループ

高解像度レーダー情報を活用した短時間降雨予測手法の開発 …………………P8

研究開発室 技術研究所 発電技術研究室

CO2分離回収研究における新吸収液の開発 …………………………………… P10

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)

VPPのリソースとしてのエアコン制御の研究について ……………………… P12

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

スーパーマーケットにおける温熱環境・設備使用に関する実態調査 ………… P14

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥技術の実証研究 ………… P16

技術研究所が保有する元素分析技術の紹介 …………………………………… P18

微細藻類活用によるバイオ燃料合成について ………………………………… P19

知財の保護方法について ~知財で事業を守るために~ ………………………… P20

AIを活用した火力発電所運用高度化サービスの開発 ………………………… P22

レガシーシステム刷新に向けた取組みについて~顧客料金システムの刷新~ ………………………………………………………… P23

第47回全社技術研究発表会 総合大会を開催  ……………………………… P24

巻 頭 言

研究紹介

トピックス

ミニ解説

社内案内

C O N T E N T SN E W S K A N S A I

2019.JanuaryVol.4961R&D

 あけましておめでとうございます。 平成最後の年となるこの亥年、新年号の巻頭言に、私の言を取り上げて頂きます事を、大変嬉しく思っております。 思い起こしますと、私自身は入社2年目に、研究機関に出向し、酸化物超電導の黎明期に材料研究を行っておりました。工務の担当時代には、当誌に研究成果を投稿したこともあります。その後も、新型ヒートポンプ開発やVPP実証等、様々な研究開発に関与してきました。そして、現在の立場では、社内のデジタルトランスフォーメーションをはじめ、イントレプレナー育成やスタートアップへの投資からハンズオンなど、イノベーション創出の推進役を担っております。 あらためて“イノベーション”とは? “技術革新”と同義? いえ、ご存知の方も多いと思いますが、経済学者J.シュンペーターの概念であり、「経済活動の中で生産手段や資源・労働力等を今までとは異なる仕方で“新結合”して価値を生み出す」ことです。つまり、たとえ技術革新をしたとしても、経済的・社会的成功に繋がらなければ、それはイノベーションには当らない、と解釈できます。 また、早大の入山章栄先生は、“新結合”を「既存の知と、別の既存の知の新しい組合せが、新たな知を生み出す」と咀嚼されています。 無から新たなものを生み出す基礎研究の重要性は言わずもがなですが、「イノベーションを起せ」という号令下では、自前主義に拘らず、アンテナを高くし、既存の知を収集した上で、「結びつければ、こんな新しいことが出来る」ことに、いかに早く気付くか、が、まずは大変重要です。 ここからは、企業、特に、規模が大きく歴史のある、いわゆる大企業において、イノベーションをどうやって起こしていくか?についてです。 例えば一社員が、「これは!」という“新結合”を想起し、社内でイノベーションを起したい、と考えたとします。ただ、大企業では、その業務自体の所管部門や関連部門があり、そこには既に様々なルールが確立されており、新しいものを受け入れることが容易でないケースがあります。また、頭の固い上司がいたりすると、人間関係も課題になり得るでしょう。皆の理解を得、多くの壁を乗り越えないと、イノベーションは起きない・・・。 社会心理学者のクルト・レヴィンが提唱した「解凍⇒変革⇒再凍結」(“変革”を“混乱”と訳す例も有り)のモデルを見てみましょう。 “解凍”は、既存思考や行動様式に基づく抵抗を取り除いていく段

階、“変革”(ないし“混乱”)は、以前の考え方が変わることで引き起こされる苦しみを乗り越えていく段階、そして“再凍結”は、新しいものの見方や考え方が結晶化し、新システムに順応する段階です。 レヴィンの三段階モデルは、大企業でイノベーションを巻き起す為の非常に重要な鍵であり、リーダーが全体を牽引し、周りはそれを積極的に受け入れる覚悟を持つこと、極端な言い方をすれば、これまでのやり方にケリを付けろ、とも受け止められます。 また、このモデルは、個々人の思考パターンにも当てはめることが出来ると思います。凝り固まった発想では、研究開発のブレイクスルーも、イノベーションの“新結合”も生まれないわけであり、自問自答のワードとしても興味深いものではないでしょうか。 次に、少し飛躍して、心理学と技術を繋げて考えてみましょう。レヴィンのモデルから、ヒートポンプの冷凍サイクルを思い起こしてみてください。 “解凍”を冷凍サイクルにおける放熱過程、“再凍結”を吸熱過程に見立てた場合、両者の温度差が大きくなると、二段圧縮器の採用や冷凍サイクルの二元化といった高い技術が必要となります。また、“変革”にあたる圧縮過程では、圧縮機を駆動させる投入エネルギーを如何に低減させるか?が、ヒートポンプの性能向上に繋がります。 すなわち、変化前後の差が大きいほど難易度が高く、それでもなお、いかに効率よく変化させていく事の重要性については、ヒートポンプ技術、企業のイノベーション、いずれにも同じことが言えると考えられます。これはおそらく、両者とも、魔法でもイリュージョンでもなく、学問として論理的に説明できるものであるからでしょう。 以上、やや強引な文理融合により、企業におけるイノベーションの鍵となるモデル、また、その難易度並びに実現へのアプローチ方法について、私なりに考察してみました。これもある意味では“新結合”の1つでは?と、受け止めて頂ければ、筆者としては嬉しい限りです。

 効果的、効率的な「解凍⇒変革⇒再凍結」により、国際競争力のあるイノベーションを! 6年後の大阪万博の場で、「振り返ると、新しい元号となった2019年は、“日本版イノベーション元年”であった!」と、後に言われることを祈念しつつ、自ら努力する所存です。本年もよろしくお願い申し上げます。

心理学とヒートポンプから学ぶ、企業におけるイノベーションの鍵

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経営企画室 イノベーション担当室長

岡村 修

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 1

巻 頭 言

1

2

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4

5

6

7

8

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

系統安定度向上を目的とした自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発 ……………………………P2

心理学とヒートポンプから学ぶ、企業におけるイノベーションの鍵 ……………P1

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

リレーハードへの適用を考慮したオンライン型電源制限装置の開発 …………P4

送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ

次期配電自動化システムにおける事故検出・復旧機能の高度化検討 ……………P6

水力事業本部 運営グループ

高解像度レーダー情報を活用した短時間降雨予測手法の開発 …………………P8

研究開発室 技術研究所 発電技術研究室

CO2分離回収研究における新吸収液の開発 …………………………………… P10

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)

VPPのリソースとしてのエアコン制御の研究について ……………………… P12

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

スーパーマーケットにおける温熱環境・設備使用に関する実態調査 ………… P14

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥技術の実証研究 ………… P16

技術研究所が保有する元素分析技術の紹介 …………………………………… P18

微細藻類活用によるバイオ燃料合成について ………………………………… P19

知財の保護方法について ~知財で事業を守るために~ ………………………… P20

AIを活用した火力発電所運用高度化サービスの開発 ………………………… P22

レガシーシステム刷新に向けた取組みについて~顧客料金システムの刷新~ ………………………………………………………… P23

第47回全社技術研究発表会 総合大会を開催  ……………………………… P24

巻 頭 言

研究紹介

トピックス

ミニ解説

社内案内

C O N T E N T SN E W S K A N S A I

2019.JanuaryVol.4961R&D

 あけましておめでとうございます。 平成最後の年となるこの亥年、新年号の巻頭言に、私の言を取り上げて頂きます事を、大変嬉しく思っております。 思い起こしますと、私自身は入社2年目に、研究機関に出向し、酸化物超電導の黎明期に材料研究を行っておりました。工務の担当時代には、当誌に研究成果を投稿したこともあります。その後も、新型ヒートポンプ開発やVPP実証等、様々な研究開発に関与してきました。そして、現在の立場では、社内のデジタルトランスフォーメーションをはじめ、イントレプレナー育成やスタートアップへの投資からハンズオンなど、イノベーション創出の推進役を担っております。 あらためて“イノベーション”とは? “技術革新”と同義? いえ、ご存知の方も多いと思いますが、経済学者J.シュンペーターの概念であり、「経済活動の中で生産手段や資源・労働力等を今までとは異なる仕方で“新結合”して価値を生み出す」ことです。つまり、たとえ技術革新をしたとしても、経済的・社会的成功に繋がらなければ、それはイノベーションには当らない、と解釈できます。 また、早大の入山章栄先生は、“新結合”を「既存の知と、別の既存の知の新しい組合せが、新たな知を生み出す」と咀嚼されています。 無から新たなものを生み出す基礎研究の重要性は言わずもがなですが、「イノベーションを起せ」という号令下では、自前主義に拘らず、アンテナを高くし、既存の知を収集した上で、「結びつければ、こんな新しいことが出来る」ことに、いかに早く気付くか、が、まずは大変重要です。 ここからは、企業、特に、規模が大きく歴史のある、いわゆる大企業において、イノベーションをどうやって起こしていくか?についてです。 例えば一社員が、「これは!」という“新結合”を想起し、社内でイノベーションを起したい、と考えたとします。ただ、大企業では、その業務自体の所管部門や関連部門があり、そこには既に様々なルールが確立されており、新しいものを受け入れることが容易でないケースがあります。また、頭の固い上司がいたりすると、人間関係も課題になり得るでしょう。皆の理解を得、多くの壁を乗り越えないと、イノベーションは起きない・・・。 社会心理学者のクルト・レヴィンが提唱した「解凍⇒変革⇒再凍結」(“変革”を“混乱”と訳す例も有り)のモデルを見てみましょう。 “解凍”は、既存思考や行動様式に基づく抵抗を取り除いていく段

階、“変革”(ないし“混乱”)は、以前の考え方が変わることで引き起こされる苦しみを乗り越えていく段階、そして“再凍結”は、新しいものの見方や考え方が結晶化し、新システムに順応する段階です。 レヴィンの三段階モデルは、大企業でイノベーションを巻き起す為の非常に重要な鍵であり、リーダーが全体を牽引し、周りはそれを積極的に受け入れる覚悟を持つこと、極端な言い方をすれば、これまでのやり方にケリを付けろ、とも受け止められます。 また、このモデルは、個々人の思考パターンにも当てはめることが出来ると思います。凝り固まった発想では、研究開発のブレイクスルーも、イノベーションの“新結合”も生まれないわけであり、自問自答のワードとしても興味深いものではないでしょうか。 次に、少し飛躍して、心理学と技術を繋げて考えてみましょう。レヴィンのモデルから、ヒートポンプの冷凍サイクルを思い起こしてみてください。 “解凍”を冷凍サイクルにおける放熱過程、“再凍結”を吸熱過程に見立てた場合、両者の温度差が大きくなると、二段圧縮器の採用や冷凍サイクルの二元化といった高い技術が必要となります。また、“変革”にあたる圧縮過程では、圧縮機を駆動させる投入エネルギーを如何に低減させるか?が、ヒートポンプの性能向上に繋がります。 すなわち、変化前後の差が大きいほど難易度が高く、それでもなお、いかに効率よく変化させていく事の重要性については、ヒートポンプ技術、企業のイノベーション、いずれにも同じことが言えると考えられます。これはおそらく、両者とも、魔法でもイリュージョンでもなく、学問として論理的に説明できるものであるからでしょう。 以上、やや強引な文理融合により、企業におけるイノベーションの鍵となるモデル、また、その難易度並びに実現へのアプローチ方法について、私なりに考察してみました。これもある意味では“新結合”の1つでは?と、受け止めて頂ければ、筆者としては嬉しい限りです。

 効果的、効率的な「解凍⇒変革⇒再凍結」により、国際競争力のあるイノベーションを! 6年後の大阪万博の場で、「振り返ると、新しい元号となった2019年は、“日本版イノベーション元年”であった!」と、後に言われることを祈念しつつ、自ら努力する所存です。本年もよろしくお願い申し上げます。

心理学とヒートポンプから学ぶ、企業におけるイノベーションの鍵

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第2図 電気的ダンピングの特性例

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 10 20 30 40 50 60

Elec

tric

Dam

ping

[pu]

Frequency [Hz]

AC-AVR(Q)

POD(P)

POD(Q)

AC-AVR+POD

第4図 電気的ダンピング特性

第3図 SSTI検討対象系統

第5図 SSDCによる抑制効果

第1図 パワーエレクトロニクス技術を応用したFACTS機器の例

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 32

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

系統安定度向上を目的とした自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発1研究紹介

1.研究背景および目的 東日本大震災以降、当社では火力発電機が昼夜を問わず高稼働を続け、基幹系統が恒常的に重潮流化しました。そのため、一部の系統においては系統安定度面の問題が顕在化しました。そこで、大規模な送電系統の改修と比較してコスト・用地・工期面で優位な自励式BTB

(第1図左)による対策の検討を進めてきました。BTBは変換器の違いにより自励式と他励式がありますが、近年は導入に制約が少ない自励式に注目が集まっています。 一方で、このような自励式変換器を導入すると、発電機と自励式変換器の相互干渉により発電機軸系にねじれ振動現象(SSTI)が発生する可能性があります。当社はすでに犬山開閉所に自励式変換器を用いたSTATCOM(第1図右)を導入していますが、水力発電機の軸系は比

較的短く、SSTIが発生しづらいため検討は不要でした。しかし、導入系統の近くに火力発電機がある場合にはSSTIが発生してしまうおそれがあります。 今回、自励式BTBの制御系が発電機の軸系に与える影響を検証し、SSTIを抑制するロジックの開発に取組みました。

2.SSTIとは SSTIとは変換器の制御系と発電機の軸系の固有振動が干渉し、軸振動の持続・拡大によって軸系に影響を及ぼす現象を言います。 軸ねじれが発生するかどうかは、発電機の軸などが持つ機械的ダンピングと発電機や自励式変換器などによる電気的ダンピングの和の正負で判別可能です。ダンピングは変動を抑えるための力ですので、この和が負になると軸ねじれ振動が

発生する可能性があります。 また、機械的ダンピングは発電機の軸特性によるもので、特定の周波数帯で零に近くなることはあっても負の値にはなりません。したがって、電気的ダンピングの特性を把握することでSSTIが発生する可能性を判断できます。(第2図参照)

3.自励式BTBの制御系による影響 安定度対策として自励式BTBを導入する場合、有効電力の変動に対するPOD(Power Oscillation Damping)や電圧変動に対するAVR (Automatic Voltage Regulator)といった制御系が設けられます。そこで、これらがSSTIに与える影響を検討しました。 検討に用いた系統を第3図に示します。自励式BTBが設置される母線に火力発電機が接続された系統を想定しています。第4図にAVR適用時、有効電力制御側へのPOD適用

時、無効電力制御側へのPOD適用時、AVR・POD全ての制御系適用時、それぞれのシミュレーション結果を示します。 有効電力制御側PODを適用した場合に電気的ダンピングが負の領域となる範囲が広く、影響が大きいことがわかります。また、すべての制御系を考慮すると電気的ダンピングがさらに悪化します。

4.SSTI抑制ロジックの開発 上記により、自励式BTBの制御系はその組合せによりSSTIが発生する可能性があることがわかりました。 SSTIを抑制する対策として自励式BTBの制御系のブロック変更や定数の変更などが考えられます。その中でも特に電気的ダンピング特性の悪化に影響が大きいPODを変更することで改善が見込まれます。そこでPODの効果が小さくなるように定数を変更したところ改善効果が見られ、SSTIの発生を抑制できることがわかりました。ところが、PODは系統安定度向上を目的として適用・設定されている制御系ですので、効果を小さくすることにより本来の安定度向上が期待できない可能性があります。 そこで、SSTIの抑制対策として発電機固有の特性に応じた周波数帯において電気的ダンピング特性を改善するSSDC (Subsynchronous

Damping Control)の適用を検討しました。SSDCを適用した前後の解析結果を第5図に示します。適用前は、発電機と自励式BTBの相互干渉によりSSTIが発生し、発電機の軸系の振動が拡大していることがわかります。これに対して、SSDCを適用することで振動は収束し、SSDCが有効な対策であることが確認できました。

5.まとめと今後の取組み 自励式BTBと発電機の相互干渉によるSSTIについて、自励式BTBの制御系が与える影響を検討し、PODの影響が大きいことを確認し

ました。また、その対策として本来の系統安定化機能を損なうことがないようSSTIを抑制するSSDCを開発し、これが有効であることを確認しました。 本研究の成果により、SSTIを抑制することができ、火力発電機がある系統でも自励式BTBの導入が可能となります。これによりコスト・用地・工期面で課題の多い大規模な電線張替等の改修をせずに、送電できる量を拡大させることができます。 今後も引き続き、次世代送変電設 備として 役 割 が 期 待 さ れるFACTS機器の更なる活用・技術開発に取組んでいきます。

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

中山 維織送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ電力系統解析業務に従事

執 筆 者所   属主な業務

当社では安全かつ安定的にお客さまへ電気をお届けするため、パワーエレクトロニクス技術を応用した系統安定化装置(FACTS:Flexible AC Transmission System)の開発・導入を進めており、近年では自励式BTB(Back To Back)を用いた系統安定化手法の開発に取り組んでいます。このような装置を電力系統へ導入した場合、発電機と干渉することで、発電機の軸ねじれ振動現象(SSTI:Subsynchronous Torsional Interaction)が発生し、発電機を損傷してしまう可能性があります。今回、自励式BTBの制御系がSSTIに与える影響を検証し、実用化に向けてSSTI抑制ロジックの開発を行いましたので紹介します。

系統安定度向上を目的とした自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発

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第2図 電気的ダンピングの特性例

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 10 20 30 40 50 60

Elec

tric

Dam

ping

[pu]

Frequency [Hz]

AC-AVR(Q)

POD(P)

POD(Q)

AC-AVR+POD

第4図 電気的ダンピング特性

第3図 SSTI検討対象系統

第5図 SSDCによる抑制効果

第1図 パワーエレクトロニクス技術を応用したFACTS機器の例

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 32

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

系統安定度向上を目的とした自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発1研究紹介

1.研究背景および目的 東日本大震災以降、当社では火力発電機が昼夜を問わず高稼働を続け、基幹系統が恒常的に重潮流化しました。そのため、一部の系統においては系統安定度面の問題が顕在化しました。そこで、大規模な送電系統の改修と比較してコスト・用地・工期面で優位な自励式BTB

(第1図左)による対策の検討を進めてきました。BTBは変換器の違いにより自励式と他励式がありますが、近年は導入に制約が少ない自励式に注目が集まっています。 一方で、このような自励式変換器を導入すると、発電機と自励式変換器の相互干渉により発電機軸系にねじれ振動現象(SSTI)が発生する可能性があります。当社はすでに犬山開閉所に自励式変換器を用いたSTATCOM(第1図右)を導入していますが、水力発電機の軸系は比

較的短く、SSTIが発生しづらいため検討は不要でした。しかし、導入系統の近くに火力発電機がある場合にはSSTIが発生してしまうおそれがあります。 今回、自励式BTBの制御系が発電機の軸系に与える影響を検証し、SSTIを抑制するロジックの開発に取組みました。

2.SSTIとは SSTIとは変換器の制御系と発電機の軸系の固有振動が干渉し、軸振動の持続・拡大によって軸系に影響を及ぼす現象を言います。 軸ねじれが発生するかどうかは、発電機の軸などが持つ機械的ダンピングと発電機や自励式変換器などによる電気的ダンピングの和の正負で判別可能です。ダンピングは変動を抑えるための力ですので、この和が負になると軸ねじれ振動が

発生する可能性があります。 また、機械的ダンピングは発電機の軸特性によるもので、特定の周波数帯で零に近くなることはあっても負の値にはなりません。したがって、電気的ダンピングの特性を把握することでSSTIが発生する可能性を判断できます。(第2図参照)

3.自励式BTBの制御系による影響 安定度対策として自励式BTBを導入する場合、有効電力の変動に対するPOD(Power Oscillation Damping)や電圧変動に対するAVR (Automatic Voltage Regulator)といった制御系が設けられます。そこで、これらがSSTIに与える影響を検討しました。 検討に用いた系統を第3図に示します。自励式BTBが設置される母線に火力発電機が接続された系統を想定しています。第4図にAVR適用時、有効電力制御側へのPOD適用

時、無効電力制御側へのPOD適用時、AVR・POD全ての制御系適用時、それぞれのシミュレーション結果を示します。 有効電力制御側PODを適用した場合に電気的ダンピングが負の領域となる範囲が広く、影響が大きいことがわかります。また、すべての制御系を考慮すると電気的ダンピングがさらに悪化します。

4.SSTI抑制ロジックの開発 上記により、自励式BTBの制御系はその組合せによりSSTIが発生する可能性があることがわかりました。 SSTIを抑制する対策として自励式BTBの制御系のブロック変更や定数の変更などが考えられます。その中でも特に電気的ダンピング特性の悪化に影響が大きいPODを変更することで改善が見込まれます。そこでPODの効果が小さくなるように定数を変更したところ改善効果が見られ、SSTIの発生を抑制できることがわかりました。ところが、PODは系統安定度向上を目的として適用・設定されている制御系ですので、効果を小さくすることにより本来の安定度向上が期待できない可能性があります。 そこで、SSTIの抑制対策として発電機固有の特性に応じた周波数帯において電気的ダンピング特性を改善するSSDC (Subsynchronous

Damping Control)の適用を検討しました。SSDCを適用した前後の解析結果を第5図に示します。適用前は、発電機と自励式BTBの相互干渉によりSSTIが発生し、発電機の軸系の振動が拡大していることがわかります。これに対して、SSDCを適用することで振動は収束し、SSDCが有効な対策であることが確認できました。

5.まとめと今後の取組み 自励式BTBと発電機の相互干渉によるSSTIについて、自励式BTBの制御系が与える影響を検討し、PODの影響が大きいことを確認し

ました。また、その対策として本来の系統安定化機能を損なうことがないようSSTIを抑制するSSDCを開発し、これが有効であることを確認しました。 本研究の成果により、SSTIを抑制することができ、火力発電機がある系統でも自励式BTBの導入が可能となります。これによりコスト・用地・工期面で課題の多い大規模な電線張替等の改修をせずに、送電できる量を拡大させることができます。 今後も引き続き、次世代送変電設 備として 役 割 が 期 待 さ れるFACTS機器の更なる活用・技術開発に取組んでいきます。

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

中山 維織送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ電力系統解析業務に従事

執 筆 者所   属主な業務

当社では安全かつ安定的にお客さまへ電気をお届けするため、パワーエレクトロニクス技術を応用した系統安定化装置(FACTS:Flexible AC Transmission System)の開発・導入を進めており、近年では自励式BTB(Back To Back)を用いた系統安定化手法の開発に取り組んでいます。このような装置を電力系統へ導入した場合、発電機と干渉することで、発電機の軸ねじれ振動現象(SSTI:Subsynchronous Torsional Interaction)が発生し、発電機を損傷してしまう可能性があります。今回、自励式BTBの制御系がSSTIに与える影響を検証し、実用化に向けてSSTI抑制ロジックの開発を行いましたので紹介します。

系統安定度向上を目的とした自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発

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第2図 演算ロジック第1図 事前設定型とオンライン演算型の比較

第3図 ワンステップ法のイメージ

第4図 実績データを用いた精度検証結果

第1表 電制量の変更条件

第2表 演算精度の評価指標

第3表 精度向上の効果

C s/s TrB

( )

A-B

A-B 3Φ4LG-O-C

C s/s TrB

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A-B

A-B 3Φ4LG-O-C

パラ

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流. 電

制量[

MW

断面時刻[分]8016011

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

401201 1001 1201 1401

バックアップ選択(3回)

電制量低減効果

事故モードA-B線3Φ4LG-O-C

オフライン整定(バックアップ選択)

オンライン演算電制量

A-B線 潮流

C s/s TrB潮流

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 54

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

リレーハードへの適用を考慮したオンライン型電源制限装置の開発2研究紹介

1.研究背景および目的 再生可能エネルギーの増加など電力系統利用の多様化が進み、系統運用は従来よりも複雑化しています。このような状況変化に対応しながら、安全に安定した電気をお届けするために当社では、系統安定化対策の高度化に取り組んでいます。 系統安定化対策のひとつに、系統に事故が発生し、発電機が安定的に運転できなくなる前に、一部の発電機を一時的に系統から切り離す電源制限という方法があります。これは事故発生後、高速に実施した方が有効で電源制限装置により自動的に行われます。従来型の装置は、電源を切り離す量(電制量)に不足がないよう、最も過酷な系統の状況を想定し、事前に1つの固定値を設定しています。しかし、実際の運用で想定した状況となるのは一部の期間で、設定値よりも電制量を低減できる場合があります。 需給バランスを維持しつつ、系統

安定度を維持するためには電制量を最小限にする必要があります。そこで、時々刻々の系統情報を収集し、系統状況に応じた電制量を算出可能なオンライン演算型電源制限装置の開発に取り組みました。

2.新たな電源制限装置の開発(1)オンライン演算型 事前設定型とオンライン演算型の比較を第1図に示します。系統の状況は時間や季節により変化します。しかし、従来の事前設定型は系統状況に応じた電制量の設定ができません。そのため、本来の系統安定化効果を損なうことがないよう、常に過剰側に制御してしまうことが課題でした。 オンライン演算型の演算ロジックを第2図に示します。時々刻々変化する系統状況を把握するため、中央給電指令所システムで収集されるオンラインの系統データを、シミュレーション用の系統モデルに反映します。次に、対象とする系統事故の

シミュレーションを行い、系統安定化に必要な電制量を算出します。これにより、従来に比べて制御量の大幅な適正化を図ることができます。

(2)オンライン演算化の課題 事前設定型では電制対象発電機の組合せ等の条件を総当りし、想定した系統状況での最適値を求めていました。これにはかなりの時間が必要となりますが、オンライン演算化にあたってはリアルタイム性が重要です。そのため限られた計算回数の中で、いかに電制量を最小化できるかが課題となります。

(3)演算の高速化 最適な結果を求めるあまり、1回の演算に時間がかかってしまうとリアルタイム性を失ってしまいます。そのため、まずは演算の高速化を優先して検討を進め、今回、計算回数

を1回に抑えた演算手法(ワンステップ法)を開発しました。 本手法は、毎回の演算結果が最適解とならない場合がありますが、高速な演算周期で繰り返し計算しながら、次に説明する精度向上の取組みにより次回の演算以降で順次最適解に近づけることができます。また、安定となる結果が得られなかった場合は、あらかじめ設定した従来相当の電制量(バックアップ選択)を採用することで不足制御を防止します。(第3図参照)

(4)演算精度の向上 ワンステップ法では、バックアップ選択に戻ることをおそれるあまり、電制量の低減に消極的になると最適な電制量へ到達するのに時間がかかり、最適電制量と一致する回数が少なく、最適電制量との差も大きくなってしまいます。つまり、毎回の計算回数を1回に限定するため、次回の演算で電制量をどのように変更(減らす、増やす、維持)するかが鍵となります。 そこで、前回の電制量を演算した際のシミュレーション波形のうち発電機内部相差角の第1波ピーク値(δmax)と、前回と今回の潮流状況変化(ΔP)を条件に電制量を変更し、精度向上を図ることを考えました。電制量の変更条件例を第1表に示します。 次に1日分の実績データを用いて

シミュレーションを行い、精度向上対策の有無の比較を行いました。演算精度の評価指標は第2表に示す、3つ(1.最適電制量と一致する回数、2.バックアップ選択に戻る回数、3.最適電制量との差)としました。 評価の結果を第3表に示します。全ての指標で改善効果が確認され、δmaxやΔPを考慮することで、演算精度が向上しました。 また、精度向上対策後の1日分のシミュレーション結果を第4図に示します。ほとんどの断面でオンライン演算による電制量の方がバックアップ選択の電制量より少ないことが確認できます。 これらの取組みにより高速化と演算精度の両方を実現しました。

3.まとめと今後の取組み 今回、系統状況に応じて必要量を算出できる電源制限装置の開発に取り組みました。この中で高速かつ高精度なリアルタイム演算を実現する新たな電制対象選択手法を開発しました。さらに今回の演算手法は大規模なシステム等を必要としないため、ハード面でも有用な手法と言えます。 今後は、開発した電制装置を適用する系統に応じた詳細な設定条件の調整等を行いながら、実用化に向けての検討を進めていく予定としています。

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

森田 誠送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ系統解析業務に従事

執 筆 者所   属主な業務

電力系統利用の多様化による系統構成の複雑化に伴って、系統に事故が発生した際でも安定的に電気を送りつづけるため、系統安定化対策の高度化が必要になっています。系統安定化対策のひとつとして、発電機の一部を高速かつ一時的に系統から切り離す「電源制限」という方法があります。このとき、需給バランスを維持しつつ系統安定度も維持するためには系統から切り離す発電機の量を必要最小限にする必要があります。従来の電源制限装置は事前に設定した値に基づき制御を行っていましたが、今回、時々刻々と変化する系統状況に応じて必要量を算出できる新たな高速演算手法を適用したオンライン演算型の電源制限装置の開発に取り組みました。

リレーハードへの適用を考慮したオンライン型電源制限装置の開発

Page 7: 2019 .January Vol.496 NEWS KANSAI - KEPCOpw Mt æ ÇZ q !Z z b{y hz\wÞÃçxzx w¥ßÍ» ït pox \q U Z R q¥M b½{ { lh ... Rw -¢ M OtmMo RpÄÀ h t 1 "* Æ ;`hP C ? tá ;ô S=±

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第2図 演算ロジック第1図 事前設定型とオンライン演算型の比較

第3図 ワンステップ法のイメージ

第4図 実績データを用いた精度検証結果

第1表 電制量の変更条件

第2表 演算精度の評価指標

第3表 精度向上の効果

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A-B 3Φ4LG-O-C

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バックアップ選択(3回)

電制量低減効果

事故モードA-B線3Φ4LG-O-C

オフライン整定(バックアップ選択)

オンライン演算電制量

A-B線 潮流

C s/s TrB潮流

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送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

リレーハードへの適用を考慮したオンライン型電源制限装置の開発2研究紹介

1.研究背景および目的 再生可能エネルギーの増加など電力系統利用の多様化が進み、系統運用は従来よりも複雑化しています。このような状況変化に対応しながら、安全に安定した電気をお届けするために当社では、系統安定化対策の高度化に取り組んでいます。 系統安定化対策のひとつに、系統に事故が発生し、発電機が安定的に運転できなくなる前に、一部の発電機を一時的に系統から切り離す電源制限という方法があります。これは事故発生後、高速に実施した方が有効で電源制限装置により自動的に行われます。従来型の装置は、電源を切り離す量(電制量)に不足がないよう、最も過酷な系統の状況を想定し、事前に1つの固定値を設定しています。しかし、実際の運用で想定した状況となるのは一部の期間で、設定値よりも電制量を低減できる場合があります。 需給バランスを維持しつつ、系統

安定度を維持するためには電制量を最小限にする必要があります。そこで、時々刻々の系統情報を収集し、系統状況に応じた電制量を算出可能なオンライン演算型電源制限装置の開発に取り組みました。

2.新たな電源制限装置の開発(1)オンライン演算型 事前設定型とオンライン演算型の比較を第1図に示します。系統の状況は時間や季節により変化します。しかし、従来の事前設定型は系統状況に応じた電制量の設定ができません。そのため、本来の系統安定化効果を損なうことがないよう、常に過剰側に制御してしまうことが課題でした。 オンライン演算型の演算ロジックを第2図に示します。時々刻々変化する系統状況を把握するため、中央給電指令所システムで収集されるオンラインの系統データを、シミュレーション用の系統モデルに反映します。次に、対象とする系統事故の

シミュレーションを行い、系統安定化に必要な電制量を算出します。これにより、従来に比べて制御量の大幅な適正化を図ることができます。

(2)オンライン演算化の課題 事前設定型では電制対象発電機の組合せ等の条件を総当りし、想定した系統状況での最適値を求めていました。これにはかなりの時間が必要となりますが、オンライン演算化にあたってはリアルタイム性が重要です。そのため限られた計算回数の中で、いかに電制量を最小化できるかが課題となります。

(3)演算の高速化 最適な結果を求めるあまり、1回の演算に時間がかかってしまうとリアルタイム性を失ってしまいます。そのため、まずは演算の高速化を優先して検討を進め、今回、計算回数

を1回に抑えた演算手法(ワンステップ法)を開発しました。 本手法は、毎回の演算結果が最適解とならない場合がありますが、高速な演算周期で繰り返し計算しながら、次に説明する精度向上の取組みにより次回の演算以降で順次最適解に近づけることができます。また、安定となる結果が得られなかった場合は、あらかじめ設定した従来相当の電制量(バックアップ選択)を採用することで不足制御を防止します。(第3図参照)

(4)演算精度の向上 ワンステップ法では、バックアップ選択に戻ることをおそれるあまり、電制量の低減に消極的になると最適な電制量へ到達するのに時間がかかり、最適電制量と一致する回数が少なく、最適電制量との差も大きくなってしまいます。つまり、毎回の計算回数を1回に限定するため、次回の演算で電制量をどのように変更(減らす、増やす、維持)するかが鍵となります。 そこで、前回の電制量を演算した際のシミュレーション波形のうち発電機内部相差角の第1波ピーク値(δmax)と、前回と今回の潮流状況変化(ΔP)を条件に電制量を変更し、精度向上を図ることを考えました。電制量の変更条件例を第1表に示します。 次に1日分の実績データを用いて

シミュレーションを行い、精度向上対策の有無の比較を行いました。演算精度の評価指標は第2表に示す、3つ(1.最適電制量と一致する回数、2.バックアップ選択に戻る回数、3.最適電制量との差)としました。 評価の結果を第3表に示します。全ての指標で改善効果が確認され、δmaxやΔPを考慮することで、演算精度が向上しました。 また、精度向上対策後の1日分のシミュレーション結果を第4図に示します。ほとんどの断面でオンライン演算による電制量の方がバックアップ選択の電制量より少ないことが確認できます。 これらの取組みにより高速化と演算精度の両方を実現しました。

3.まとめと今後の取組み 今回、系統状況に応じて必要量を算出できる電源制限装置の開発に取り組みました。この中で高速かつ高精度なリアルタイム演算を実現する新たな電制対象選択手法を開発しました。さらに今回の演算手法は大規模なシステム等を必要としないため、ハード面でも有用な手法と言えます。 今後は、開発した電制装置を適用する系統に応じた詳細な設定条件の調整等を行いながら、実用化に向けての検討を進めていく予定としています。

送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ

森田 誠送配電カンパニー 系統運用部 系統技術グループ系統解析業務に従事

執 筆 者所   属主な業務

電力系統利用の多様化による系統構成の複雑化に伴って、系統に事故が発生した際でも安定的に電気を送りつづけるため、系統安定化対策の高度化が必要になっています。系統安定化対策のひとつとして、発電機の一部を高速かつ一時的に系統から切り離す「電源制限」という方法があります。このとき、需給バランスを維持しつつ系統安定度も維持するためには系統から切り離す発電機の量を必要最小限にする必要があります。従来の電源制限装置は事前に設定した値に基づき制御を行っていましたが、今回、時々刻々と変化する系統状況に応じて必要量を算出できる新たな高速演算手法を適用したオンライン演算型の電源制限装置の開発に取り組みました。

リレーハードへの適用を考慮したオンライン型電源制限装置の開発

Page 8: 2019 .January Vol.496 NEWS KANSAI - KEPCOpw Mt æ ÇZ q !Z z b{y hz\wÞÃçxzx w¥ßÍ» ït pox \q U Z R q¥M b½{ { lh ... Rw -¢ M OtmMo RpÄÀ h t 1 "* Æ ;`hP C ? tá ;ô S=±

第1図 実フィールドでの検証ステップ

第2図 予兆検知現場

第3図 事故点標定手法

<フェーズ2:実運用機能検証>配自システムと連携した開閉器制御・系統情報の監視

<フェーズ1:通信機能検証>通信の品質、安定性確認

<フェーズ3:波形収集機能検証>波形収集機能を実装、データ蓄積

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 76

送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ

次期配電自動化システムにおける事故検出・復旧機能の高度化検討3研究紹介

1.背景とねらい 当社は、太陽光発電(以下、PV)等の再生可能エネルギーを配電系統に連系するため、電力品質の維持向上の観点から系統監視・制御機器や電圧制御手法の開発を進めています。今後も配電系統に多数のPVが連系されることが予想され、今まで以上に高度な系統運用が必要になります。加えて、さらなる公衆保安の確保や供給信頼度の向上を目的に、事故検出・復旧機能の高度化に向けた検討を進めてきました。 また、当社における現行の配電自動化システム(以下、配自システム)は、通信メディアとして主に同軸ケーブル、ツイストペアケーブルを用いていますが、設備構築から20年以上が経過しており、伝送路設備の更新時期を迎えています。 当社はこれらの課題に確実に対応するため、光伝送路に対応した開閉器制御機器である光ユニット子局を開発し、平成29年3月から一部の地域で光伝送路システムを導入し、実フィールドでの検証試験を実施しています。

2.現地フィールド検証試験 実フィールドに約1,600台の光ユニット子局を設置し、第1図のステップで動作検証、性能評価を実施しています。

(1)フェーズ1 光ユニット子局約40台で1リングを構成し、各子局との疎通確認や通信の信頼性等に特化した試験を実施し、通信品質に問題がないことを確認しました。

(2)フェーズ2 光ユニット子局約1,600台で10リングを構成し、配自システムと連携の上、開閉器の入切制御やテレメータ値(線間電圧、線電流等)の系統情報を正常に監視できることを確認しました。また、従来の子局では系統情報の取得を中央装置からのポーリングで実施しており受動的な仕様となっ

ていましたが、光ユニット子局では開閉器の状態変化やテレメータ値の変化を検出したタイミングで自らが能動的に中央装置へ情報を送信する自己発呼機能を実装しました。それにより、リアルタイムに系統情報を取得することで、さらなる電力品質の維持向上を図ることができました。また、この自己発呼機能により、事故発生前の微小な状

態変化を検出し、高圧線とメッセンジャー間で感電したカラスが原因であることが分かりました(第2図)。この機能を活用することで事故予兆検出の確立に繋げることができます。

(3)フェーズ3 事故発生時の波形を光ユニット子局から中央装置へ送信し、収集する機能を新たに実装しました。将来的には、中央装置で波形分析することで、事故原因推定や事故予兆、事故点を推定する事故点標定等の事故検出・復旧機能を高度化し、事故探査の省力化とさらなる公衆保安確保や供給信頼度の向上を実現できるように、波形データを蓄積しています。 3.事故検出・復旧機能の高度化将来像(1)事故原因推定 事故原因推定は、事故が発生する要因となった事象を推定する機能です。事故に起因する波形データだけでなく、原因推定の精度を向上させるために関連情報(環境、設備情報等)を組合せて原因推定する方式を検討しています。例えば、事故が気象状況(突風等)のように電力系統の外部要因と関連を持つ場合に、気象情報を取り込むことで、精度を向上させることができると考えています。また、単なる事故原因の推定だけでなく、目視では発見が困難な事故点探査に活用することで省力化に寄与することができます。

(2)事故予兆 事故予兆は、事故が発生し得る兆候を捉え、事故を未然に防ぐ機能です。事故には、設備機器の劣化(時間経過とともに進展する絶縁低下)によって発生する事象、あるい

は倒木による断線など突発的な要因によって発生する事象がありますが、突発的な事故を予兆するのは困難であるため、ここでは時間経過とともに絶縁低下が進展し事故に至る事象をターゲットとし検討しています。 手法としては、過去からの波形データを解析・監視することにより、近い将来に事故が発生する可能性があることを運用者に知らせることで、事故による変電所の配電線用遮断器が開放する前に不具合箇所を発見し、予防保全に繋げることを目標としています。

(3)事故点標定 事故点標定は、事故が発生した位置を推定する機能です。手法としてはいくつかありますが、地絡サージ到達時間差解析方式の検討を進めています。配電線で地絡事故が発生すると、事故発生の瞬間に放電現象が生じ、急峻な立上りをともなった波形が生じます。この波形

は、事故点を中心に配電線を放射状に伝播するため、複数地点で事故点を挟み込むように観測することで、事故検出と発生方向判定が同時に可能となり、事故点を挟んだ2つの地点における波形の到達時間差を計測し、距離に換算することで事故点を標定することができます。ただし、波形の伝播速度が1μs違うだけで標定結果が100m以上変化してしまうことから、波形到達時間の算出方法が重要となります。事故点の推定が可能となれば、事故点の発見から除去、復旧までの時間短縮に寄与できます。 

4.今後の予定 引き続きフェーズ3で波形データの蓄積をし、事故検出・復旧機能を確立していくとともに、最終的には、配電線用遮断器の開放前に事故区間を切り離すことを目標に、事故検出・復旧機能の高度化実現に向けて、開発検討を進めていきます。

送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ

橋川 一功送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ配電設備の通信・制御機器開発に従事

執 筆 者所   属主な業務

送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ  竹内 翔吾、石川 聖也、元井 秀彦、木村 光利

研究に携わった人

当社では、電力品質の維持向上や公衆保安の確保・供給信頼度の向上を目的として次期配電自動化システムを開発しています。次期配電自動化システムでは、系統監視・制御の高度化やセンサ開閉器情報を活用した配電線事故(以下、事故)検出機能の高度化を実現するため、大容量データを高速で通信可能な光伝送路の活用に取り組んでいます。本稿では、事故検出・復旧機能の高度化に向けた実フィールドでの検証試験結果および将来像について紹介致します。

次期配電自動化システムにおける事故検出・復旧機能の高度化検討

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第1図 実フィールドでの検証ステップ

第2図 予兆検知現場

第3図 事故点標定手法

<フェーズ2:実運用機能検証>配自システムと連携した開閉器制御・系統情報の監視

<フェーズ1:通信機能検証>通信の品質、安定性確認

<フェーズ3:波形収集機能検証>波形収集機能を実装、データ蓄積

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送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ

次期配電自動化システムにおける事故検出・復旧機能の高度化検討3研究紹介

1.背景とねらい 当社は、太陽光発電(以下、PV)等の再生可能エネルギーを配電系統に連系するため、電力品質の維持向上の観点から系統監視・制御機器や電圧制御手法の開発を進めています。今後も配電系統に多数のPVが連系されることが予想され、今まで以上に高度な系統運用が必要になります。加えて、さらなる公衆保安の確保や供給信頼度の向上を目的に、事故検出・復旧機能の高度化に向けた検討を進めてきました。 また、当社における現行の配電自動化システム(以下、配自システム)は、通信メディアとして主に同軸ケーブル、ツイストペアケーブルを用いていますが、設備構築から20年以上が経過しており、伝送路設備の更新時期を迎えています。 当社はこれらの課題に確実に対応するため、光伝送路に対応した開閉器制御機器である光ユニット子局を開発し、平成29年3月から一部の地域で光伝送路システムを導入し、実フィールドでの検証試験を実施しています。

2.現地フィールド検証試験 実フィールドに約1,600台の光ユニット子局を設置し、第1図のステップで動作検証、性能評価を実施しています。

(1)フェーズ1 光ユニット子局約40台で1リングを構成し、各子局との疎通確認や通信の信頼性等に特化した試験を実施し、通信品質に問題がないことを確認しました。

(2)フェーズ2 光ユニット子局約1,600台で10リングを構成し、配自システムと連携の上、開閉器の入切制御やテレメータ値(線間電圧、線電流等)の系統情報を正常に監視できることを確認しました。また、従来の子局では系統情報の取得を中央装置からのポーリングで実施しており受動的な仕様となっ

ていましたが、光ユニット子局では開閉器の状態変化やテレメータ値の変化を検出したタイミングで自らが能動的に中央装置へ情報を送信する自己発呼機能を実装しました。それにより、リアルタイムに系統情報を取得することで、さらなる電力品質の維持向上を図ることができました。また、この自己発呼機能により、事故発生前の微小な状

態変化を検出し、高圧線とメッセンジャー間で感電したカラスが原因であることが分かりました(第2図)。この機能を活用することで事故予兆検出の確立に繋げることができます。

(3)フェーズ3 事故発生時の波形を光ユニット子局から中央装置へ送信し、収集する機能を新たに実装しました。将来的には、中央装置で波形分析することで、事故原因推定や事故予兆、事故点を推定する事故点標定等の事故検出・復旧機能を高度化し、事故探査の省力化とさらなる公衆保安確保や供給信頼度の向上を実現できるように、波形データを蓄積しています。 3.事故検出・復旧機能の高度化将来像(1)事故原因推定 事故原因推定は、事故が発生する要因となった事象を推定する機能です。事故に起因する波形データだけでなく、原因推定の精度を向上させるために関連情報(環境、設備情報等)を組合せて原因推定する方式を検討しています。例えば、事故が気象状況(突風等)のように電力系統の外部要因と関連を持つ場合に、気象情報を取り込むことで、精度を向上させることができると考えています。また、単なる事故原因の推定だけでなく、目視では発見が困難な事故点探査に活用することで省力化に寄与することができます。

(2)事故予兆 事故予兆は、事故が発生し得る兆候を捉え、事故を未然に防ぐ機能です。事故には、設備機器の劣化(時間経過とともに進展する絶縁低下)によって発生する事象、あるい

は倒木による断線など突発的な要因によって発生する事象がありますが、突発的な事故を予兆するのは困難であるため、ここでは時間経過とともに絶縁低下が進展し事故に至る事象をターゲットとし検討しています。 手法としては、過去からの波形データを解析・監視することにより、近い将来に事故が発生する可能性があることを運用者に知らせることで、事故による変電所の配電線用遮断器が開放する前に不具合箇所を発見し、予防保全に繋げることを目標としています。

(3)事故点標定 事故点標定は、事故が発生した位置を推定する機能です。手法としてはいくつかありますが、地絡サージ到達時間差解析方式の検討を進めています。配電線で地絡事故が発生すると、事故発生の瞬間に放電現象が生じ、急峻な立上りをともなった波形が生じます。この波形

は、事故点を中心に配電線を放射状に伝播するため、複数地点で事故点を挟み込むように観測することで、事故検出と発生方向判定が同時に可能となり、事故点を挟んだ2つの地点における波形の到達時間差を計測し、距離に換算することで事故点を標定することができます。ただし、波形の伝播速度が1μs違うだけで標定結果が100m以上変化してしまうことから、波形到達時間の算出方法が重要となります。事故点の推定が可能となれば、事故点の発見から除去、復旧までの時間短縮に寄与できます。 

4.今後の予定 引き続きフェーズ3で波形データの蓄積をし、事故検出・復旧機能を確立していくとともに、最終的には、配電線用遮断器の開放前に事故区間を切り離すことを目標に、事故検出・復旧機能の高度化実現に向けて、開発検討を進めていきます。

送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ

橋川 一功送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ配電設備の通信・制御機器開発に従事

執 筆 者所   属主な業務

送配電カンパニー 配電部 配電高度化グループ  竹内 翔吾、石川 聖也、元井 秀彦、木村 光利

研究に携わった人

当社では、電力品質の維持向上や公衆保安の確保・供給信頼度の向上を目的として次期配電自動化システムを開発しています。次期配電自動化システムでは、系統監視・制御の高度化やセンサ開閉器情報を活用した配電線事故(以下、事故)検出機能の高度化を実現するため、大容量データを高速で通信可能な光伝送路の活用に取り組んでいます。本稿では、事故検出・復旧機能の高度化に向けた実フィールドでの検証試験結果および将来像について紹介致します。

次期配電自動化システムにおける事故検出・復旧機能の高度化検討

Page 10: 2019 .January Vol.496 NEWS KANSAI - KEPCOpw Mt æ ÇZ q !Z z b{y hz\wÞÃçxzx w¥ßÍ» ït pox \q U Z R q¥M b½{ { lh ... Rw -¢ M OtmMo RpÄÀ h t 1 "* Æ ;`hP C ? tá ;ô S=±

第2図 レーダーの観測範囲と評価に 用いた地上雨量観測点

第3図 PAWRによる立体観測例 (2015年8月17日)

02468

101214161820

5 10 15 20 25 30

RMSE

mm

/

1 1 HRPN

2 2 HRPN

3 3 HRPN

4 4 HRPN

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RMSE

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3 3 HRPN

4 4 HRPN

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2 2 HRPN

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2 2 HRPN

3 3 HRPN

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RMSE

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1 1 HRPN

2 2 HRPN

3 3 HRPN

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5 10 15 20 25 30

RMSE

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1 1 HRPN

2 2 HRPN

3 3 HRPN

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5 10 15 20 25 30

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1 1 HRPN

2 2 HRPN

3 3 HRPN

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02468

101214161820

5 10 15 20 25 30

RMSE

mm

/

1 1 HRPN

2 2 HRPN

3 3 HRPN

4 4 HRPN

第4図 HRPNとのRMSE比較結果

RMSE = Σ( − )2式-1…… 総雨量比 =

ΣΣ 式-2……

第2表 和知ダム流域総雨量比による評価結果

事例 予測時間

10分後 20分後 30分後 40分後 50分後 60分後1 1.92 2.23 2.61 3.01 3.39 3.98 2 1.82 1.88 2.11 2.49 3.00 3.50 3 2.99 2.60 2.31 2.25 2.10 2.09 4 2.29 2.05 1.69 1.38 1.15 0.86

まだ地上に到達していない雨

和知ダム流域

:予測雨量 :XRAIN 観測雨量 :データ数

第1表 利用したレーダーの仕様比較

第1図 パラボラ型レーダー(上)と    PAWRのアンテナ方式(下)

XRAIN PAWR

5分 30秒10 100

250m 100m実施 未実施

レーダー項 目

立体観測周期仰角数

水平空間分解能マルチパラメータ観測

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 98

水力事業本部 運営グループ

高解像度レーダー情報を活用した短時間降雨予測手法の開発4研究紹介

1.研究の背景 近年、局地的大雨により短時間で河川流量の増加ピークを迎える事象が頻発しています。一方、各種機関において進められている気象レーダーの開発、整備、また、これらの情報活用による短時間降雨予測の精度向上の取組みの多くは、平野部(都市部)を主な対象としたものであり、山間部に位置するダム流域を対象とした研究はほとんどありません。したがって、ダムの運用信頼度をより高めるためには、ダム流域における短時間の局地的な降雨を精度良く予測し、短時間降雨に伴い急増する河川流入量の予測技術を確立することが求められています。さらに、精度の高い降雨予測手法を確立するためには、高精度かつ高密度な降水量分布を得ることが非常に重要です。 そこで、本研究では、既に展開されている国土交通省による高解像度レーダー観測網(X-band polarimetric RAdar Information Network “XRAIN”)の情報に加えて、最新の気象レーダーであるフェーズドアレイ気象レーダー(Phased Array Weather Radar “PAWR”)の観測情報を活用した降雨予測手法の開発に向けた基礎検討を実施しました。 第1表にPAWRとXRAINの仕様比較、第1図にパラボラ型レーダー

とPAWRアンテナ方式の違いを示します。研究対象流域は、観測設備およびデータ提供に協力頂いた大阪大学のPAWRの観測範囲に含まれる当社の和知ダム流域としました。 本研究では、短時間で超高解像度な情報を取得できるPAWRの観測情報を活用し、XRAINの利点であるマルチパラメータ観測情報を組み合わせることで降雨予測精度の向上を図りました。

2.降雨予測手法の開発 本研究に利用した各レーダーの観測範囲と評価に用いた雨量観測点の位置を第2図に示します。今回評価対象とした降雨事例としては、和知ダム流域でまとまった降雨となった異なる4つの大気不安定や低気圧接近に伴う降雨事例を用いました第3図にPAWRによる観測結果の一例を示します。図からもわかるように、PAWRでは上空の雨雲を詳細に捉えることが出来ます。降雨予測手法を新たに開発するにあたり、

本研究では、従来手法から以下2点の高度化に取り組みました。

(1)降雨強度推定手法の高度化 PAWRで取得される単偏波レーダー情報(反射強度)のみから降雨強度を推定する手法としては、統計的に定められた係数を用いた経験式を使う手法が一般にありますが、雨滴粒径分布をより高精度に把握するために、XRAINで観測されるマルチパラメータ情報をPAWRで観測される反射強度と組み合わせて降雨強度を推定する手法を用いて高度化を図りました。

(2)降水域移動予測の高度化 短時間の局地的な大雨を予測する場合、直前までの降水域の動きから直近1時間程度を予測する運動学的降雨予測手法が主流ですが、予測中の降水域の時間変化(発生、発達及び衰退)は計算負荷が大きいため、予測配信情報の即時性を優先して考慮されないことが多くあります。しかし、近年この問題を解決するために、上空の降雨情報を活用した新たな予測手法が提案されています。 本研究では、PAWRの高解像度3次元レーダー情報を活用することで可能となる上空の降水域の解析を実施し、個々の降水域とその移動ベクトルを推定し、降水域ごとに移動予測を行うことで、降雨予測精度の向上を図りました。

3.開発手法の精度検証 今回開発した手法による降雨予測結果の観測値および別手法による予測結果との比較を紹介します。 第4図に、式-1の定義式で表されるRMSE(Root Mean Squared Error)の気象庁の最新の短時間降水予測手法による結果である高解像度降水ナウキャスト(図中はHRPNと表

記)との比較結果を示します。30分先までの5分毎のRMSEを確認すると、事例により数値のばらつきはあるものの、総じて本開発手法の方が小さい値を示しており、従来手法と比較して高精度な予測結果が得られました。 次に、和知ダム流域を対象とした予測結果の評価として、式-2の定義式で表される総雨量比(1より大きいと過小、1より小さいと過大)を第2表に示します。ダム運用を想定し、60分先までの10分毎の総雨量比を確認すると、全事例共通して本開発手法は過小予測傾向にあることが分かります。この原因としては、本開発手

法では降水域の移動を予測していますが、降水域の発達・衰弱過程が精度良くモデル化されていないことが原因であると考えられます。

4.結論と今後の展望 現在、内閣府の取組みのひとつであり、東京五輪に向けたゲリラ豪雨対応の目的等で開発されていることでも注目されているPAWR観測手法が、将来広域的に整備されるかどうかも注視しながら、今後はより多くの事例に開発手法を適用するとともに、降水域の発達・衰弱機構を導入した予測手法の高度化を目指します。

水力事業本部 運営グループ

近年の局地的大雨は短時間で急激に発達する頻度が高いですが、公開されている気象情報のみでは、現象が局所的過ぎて精緻に捕らえられない場合があるため、出水前後のダムの運用管理において、より高精度な短時間降雨予測手法の必要性が高まっています。各種機関においては、局地的大雨を把握可能な高解像度レーダー観測の開発研究やレーダー観測網の整備が盛んに進められており、これらの情報活用による短時間降雨予測の精度向上が期待されています。本稿では、短時間降雨予測手法の精度向上を目的として当社グループで検討したフェーズドアレイ気象レーダーの情報を活用した降雨予測手法の開発研究の概要および結果について紹介します。

高解像度レーダー情報を活用した短時間降雨予測手法の開発

高橋 真弘 水力事業本部 運営グループ自然災害対応計画、デジタル化関連検討

執 筆 者所   属主な業務

黒部川水力センター 大坪 祐介研究に携わった人

Page 11: 2019 .January Vol.496 NEWS KANSAI - KEPCOpw Mt æ ÇZ q !Z z b{y hz\wÞÃçxzx w¥ßÍ» ït pox \q U Z R q¥M b½{ { lh ... Rw -¢ M OtmMo RpÄÀ h t 1 "* Æ ;`hP C ? tá ;ô S=±

第2図 レーダーの観測範囲と評価に 用いた地上雨量観測点

第3図 PAWRによる立体観測例 (2015年8月17日)

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101214161820

5 10 15 20 25 30

RMSE

mm

/

1 1 HRPN

2 2 HRPN

3 3 HRPN

4 4 HRPN

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101214161820

5 10 15 20 25 30

RMSE

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1 1 HRPN

2 2 HRPN

3 3 HRPN

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101214161820

5 10 15 20 25 30

RMSE

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1 1 HRPN

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3 3 HRPN

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101214161820

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1 1 HRPN

2 2 HRPN

3 3 HRPN

4 4 HRPN

第4図 HRPNとのRMSE比較結果

RMSE = Σ( − )2式-1…… 総雨量比 =

ΣΣ 式-2……

第2表 和知ダム流域総雨量比による評価結果

事例 予測時間

10分後 20分後 30分後 40分後 50分後 60分後1 1.92 2.23 2.61 3.01 3.39 3.98 2 1.82 1.88 2.11 2.49 3.00 3.50 3 2.99 2.60 2.31 2.25 2.10 2.09 4 2.29 2.05 1.69 1.38 1.15 0.86

まだ地上に到達していない雨

和知ダム流域

:予測雨量 :XRAIN 観測雨量 :データ数

第1表 利用したレーダーの仕様比較

第1図 パラボラ型レーダー(上)と    PAWRのアンテナ方式(下)

XRAIN PAWR

5分 30秒10 100

250m 100m実施 未実施

レーダー項 目

立体観測周期仰角数

水平空間分解能マルチパラメータ観測

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 98

水力事業本部 運営グループ

高解像度レーダー情報を活用した短時間降雨予測手法の開発4研究紹介

1.研究の背景 近年、局地的大雨により短時間で河川流量の増加ピークを迎える事象が頻発しています。一方、各種機関において進められている気象レーダーの開発、整備、また、これらの情報活用による短時間降雨予測の精度向上の取組みの多くは、平野部(都市部)を主な対象としたものであり、山間部に位置するダム流域を対象とした研究はほとんどありません。したがって、ダムの運用信頼度をより高めるためには、ダム流域における短時間の局地的な降雨を精度良く予測し、短時間降雨に伴い急増する河川流入量の予測技術を確立することが求められています。さらに、精度の高い降雨予測手法を確立するためには、高精度かつ高密度な降水量分布を得ることが非常に重要です。 そこで、本研究では、既に展開されている国土交通省による高解像度レーダー観測網(X-band polarimetric RAdar Information Network “XRAIN”)の情報に加えて、最新の気象レーダーであるフェーズドアレイ気象レーダー(Phased Array Weather Radar “PAWR”)の観測情報を活用した降雨予測手法の開発に向けた基礎検討を実施しました。 第1表にPAWRとXRAINの仕様比較、第1図にパラボラ型レーダー

とPAWRアンテナ方式の違いを示します。研究対象流域は、観測設備およびデータ提供に協力頂いた大阪大学のPAWRの観測範囲に含まれる当社の和知ダム流域としました。 本研究では、短時間で超高解像度な情報を取得できるPAWRの観測情報を活用し、XRAINの利点であるマルチパラメータ観測情報を組み合わせることで降雨予測精度の向上を図りました。

2.降雨予測手法の開発 本研究に利用した各レーダーの観測範囲と評価に用いた雨量観測点の位置を第2図に示します。今回評価対象とした降雨事例としては、和知ダム流域でまとまった降雨となった異なる4つの大気不安定や低気圧接近に伴う降雨事例を用いました第3図にPAWRによる観測結果の一例を示します。図からもわかるように、PAWRでは上空の雨雲を詳細に捉えることが出来ます。降雨予測手法を新たに開発するにあたり、

本研究では、従来手法から以下2点の高度化に取り組みました。

(1)降雨強度推定手法の高度化 PAWRで取得される単偏波レーダー情報(反射強度)のみから降雨強度を推定する手法としては、統計的に定められた係数を用いた経験式を使う手法が一般にありますが、雨滴粒径分布をより高精度に把握するために、XRAINで観測されるマルチパラメータ情報をPAWRで観測される反射強度と組み合わせて降雨強度を推定する手法を用いて高度化を図りました。

(2)降水域移動予測の高度化 短時間の局地的な大雨を予測する場合、直前までの降水域の動きから直近1時間程度を予測する運動学的降雨予測手法が主流ですが、予測中の降水域の時間変化(発生、発達及び衰退)は計算負荷が大きいため、予測配信情報の即時性を優先して考慮されないことが多くあります。しかし、近年この問題を解決するために、上空の降雨情報を活用した新たな予測手法が提案されています。 本研究では、PAWRの高解像度3次元レーダー情報を活用することで可能となる上空の降水域の解析を実施し、個々の降水域とその移動ベクトルを推定し、降水域ごとに移動予測を行うことで、降雨予測精度の向上を図りました。

3.開発手法の精度検証 今回開発した手法による降雨予測結果の観測値および別手法による予測結果との比較を紹介します。 第4図に、式-1の定義式で表されるRMSE(Root Mean Squared Error)の気象庁の最新の短時間降水予測手法による結果である高解像度降水ナウキャスト(図中はHRPNと表

記)との比較結果を示します。30分先までの5分毎のRMSEを確認すると、事例により数値のばらつきはあるものの、総じて本開発手法の方が小さい値を示しており、従来手法と比較して高精度な予測結果が得られました。 次に、和知ダム流域を対象とした予測結果の評価として、式-2の定義式で表される総雨量比(1より大きいと過小、1より小さいと過大)を第2表に示します。ダム運用を想定し、60分先までの10分毎の総雨量比を確認すると、全事例共通して本開発手法は過小予測傾向にあることが分かります。この原因としては、本開発手

法では降水域の移動を予測していますが、降水域の発達・衰弱過程が精度良くモデル化されていないことが原因であると考えられます。

4.結論と今後の展望 現在、内閣府の取組みのひとつであり、東京五輪に向けたゲリラ豪雨対応の目的等で開発されていることでも注目されているPAWR観測手法が、将来広域的に整備されるかどうかも注視しながら、今後はより多くの事例に開発手法を適用するとともに、降水域の発達・衰弱機構を導入した予測手法の高度化を目指します。

水力事業本部 運営グループ

近年の局地的大雨は短時間で急激に発達する頻度が高いですが、公開されている気象情報のみでは、現象が局所的過ぎて精緻に捕らえられない場合があるため、出水前後のダムの運用管理において、より高精度な短時間降雨予測手法の必要性が高まっています。各種機関においては、局地的大雨を把握可能な高解像度レーダー観測の開発研究やレーダー観測網の整備が盛んに進められており、これらの情報活用による短時間降雨予測の精度向上が期待されています。本稿では、短時間降雨予測手法の精度向上を目的として当社グループで検討したフェーズドアレイ気象レーダーの情報を活用した降雨予測手法の開発研究の概要および結果について紹介します。

高解像度レーダー情報を活用した短時間降雨予測手法の開発

高橋 真弘 水力事業本部 運営グループ自然災害対応計画、デジタル化関連検討

執 筆 者所   属主な業務

黒部川水力センター 大坪 祐介研究に携わった人

Page 12: 2019 .January Vol.496 NEWS KANSAI - KEPCOpw Mt æ ÇZ q !Z z b{y hz\wÞÃçxzx w¥ßÍ» ït pox \q U Z R q¥M b½{ { lh ... Rw -¢ M OtmMo RpÄÀ h t 1 "* Æ ;`hP C ? tá ;ô S=±

第3図 化学吸収法のプロセスフロー

第2図 主なCO2回収技術

第1図 南港発電所構内の       排ガスCO2分離回収装置

第5図 KS-1吸収液と新吸収液の吸収塔頂における気相中の液濃度指標の比較

第4図 商用CO2回収装置の設置状況

充填材

排ガス入口

CO2

回収

抜出しポンプ

循環ポンプ

蒸気消費

吸収塔(40℃)

再生塔(120℃)

クーラ

クーラ

クーラ

クーラ

CO2

分離器

ブロワ

CO2

放散

加熱器

N2

CO2

含CO2

吸収液

戻り吸収液

( N2 , CO2 , H2O )(水蒸気)

CO2回収後の排ガス

(煙道戻り)南港では煙道戻り

煙道から分岐

水洗部

新吸収液

KS-1吸収液

天然ガス焚排ガスCO2濃度 石炭焚排ガス想定CO2濃度

KS-1吸収液

新吸収液

吸収塔上部の水洗水流量(L/分) 吸収塔上部の水洗水流量(L/分)

化学吸収法(化学吸収液)

膜分離法

固体吸収法(固体吸収材)

燃焼後回収

物理吸収法(物理吸収液)

・窒素除去して酸素でボイラ燃焼

・排ガスはCO2+H2Oだけに近い

ボイラ排ガス等常圧ガス

石炭ガス化ガス等高圧ガス

吸収塔頂でのアルカリ濃度

吸収塔頂でのアルカリ濃度

燃焼前回収

酸素燃焼法

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496

研究開発室 技術研究所 発電技術研究室

CO2分離回収研究における新吸収液の開発5研究紹介

1110

1.研究のねらい 地球温暖化対策の一つとして、最も排出量が多い温室効果ガスとされるCO2を燃焼排ガスなどから回収する研究を、南港発電所構内に設置した排ガスCO2分離回収装置のパイロットプラント

(第1図)で三菱重工エンジニアリング(株)(分社化前は三菱重工業

(株))と共同で行っています。

 CO2を多く含むガスからCO2

を回収する主な方式は第2図のようにいくつかありますが、現在は化学吸収法が国内外の大型機で主流の回収方式になっています。

2.化学吸収法および以前に開発 した吸収液での商用プラント 燃焼排ガスに含まれる酸性ガスのほとんどがCO2であることから、アルカリ性で温度が上がるとCO2

吸収量が少なくなる性質の吸収液を化学吸収法で使います。 装置のフローは第3図にありま

すように、まず冷却塔で温度を下げた排ガスを吸収塔の下から上に送り、これと逆方向の上から吸収液が充填材表面を流下する間に排ガスと接触してCO2を吸収した後、CO2を多く含む吸収液を再生塔に送り、加熱昇温によってCO2を分離して99.9%以上の純度で回収します。CO2分離後の吸収液は冷却して吸収塔に戻し、装置内を循環させます。 この方式においては、再生塔側の加熱器でエネルギーを最も多く消費します。CO2回収に伴うエネルギー消費を削減するため、省エネ性に優れる吸収液を開発してKS-1と名付けるとともに、各種システム改良に関しては吸収塔の上部にある水洗部の強化や再生塔周りの熱交換システム改良により再

生塔加熱器の消費エネルギー低減を図るなどでCO2回収コストの低減を行なってきました。 これらの技術はアジアや米国に設置した商用機(第4図)に順次採用され、本技術が世界トップシェアになっています。 

3.新規吸収液の試験結果 化学吸収法での吸収液は、種類などにもよりますが商用機のように運転が長期間になると損失量が大きくなって補充が必要になります。 KS-1吸収液よりも液損失を抑制できると期待する新吸収液での試験を開始し、CO2回収に要する消費エネルギーが現行のKS-1吸収液とほぼ同等で、吸収液損失は第5図のようにKS-1液に比べて少ない結果を得ています。これは、新吸収液の熱劣化や酸化劣化が少ないためと考えられます。 この吸収塔頂からの吸収液損失が少ない新吸収液では、吸収塔水洗部のコンパクト化によるブロワ動力の低減や、再生塔の高圧化によるCO2圧縮機の動力低減も期

待できます。

4.おわりに 新たに試験している吸収液およびこの吸収液を使う化学吸収法プロセスはそれぞれKS-21およびAdvanced KM CDR Processとい

う名称で商用化を計画しています。 CO2回収装置としての競争力を維持するために今後もCO2回収システム全体の改良に取り組む予定です。

処 理 ガ ス 量C O 2 回 収 量C O 2 回 収 率回収CO2純度

600m3N/h2 トン/日90%99.9%

::::

設計諸元

研究開発室 技術研究所 発電技術研究室

野条 貴司研究開発室 技術研究所 発電技術研究室発電用ボイラ排ガスからのCO2分離回収技術開発に従事

執 筆 者所   属主な業務

火力発電所の排ガスから二酸化炭素(CO2)を少ない消費エネルギーで分離・回収できる吸収液(KS-1液)および省エネシステムなどを既に開発していますが、それ以降もさらにCO2回収システムの改良やさらなるコスト低減に取り組んでおり、今回は近年の成果について報告します。

CO2分離回収研究における新吸収液の開発

Page 13: 2019 .January Vol.496 NEWS KANSAI - KEPCOpw Mt æ ÇZ q !Z z b{y hz\wÞÃçxzx w¥ßÍ» ït pox \q U Z R q¥M b½{ { lh ... Rw -¢ M OtmMo RpÄÀ h t 1 "* Æ ;`hP C ? tá ;ô S=±

第3図 化学吸収法のプロセスフロー

第2図 主なCO2回収技術

第1図 南港発電所構内の       排ガスCO2分離回収装置

第5図 KS-1吸収液と新吸収液の吸収塔頂における気相中の液濃度指標の比較

第4図 商用CO2回収装置の設置状況

充填材

排ガス入口

CO2

回収

抜出しポンプ

循環ポンプ

蒸気消費

吸収塔(40℃)

再生塔(120℃)

クーラ

クーラ

クーラ

クーラ

CO2

分離器

ブロワ

CO2

放散

加熱器

N2

CO2

含CO2

吸収液

戻り吸収液

( N2 , CO2 , H2O )(水蒸気)

CO2回収後の排ガス

(煙道戻り)南港では煙道戻り

煙道から分岐

水洗部

新吸収液

KS-1吸収液

天然ガス焚排ガスCO2濃度 石炭焚排ガス想定CO2濃度

KS-1吸収液

新吸収液

吸収塔上部の水洗水流量(L/分) 吸収塔上部の水洗水流量(L/分)

化学吸収法(化学吸収液)

膜分離法

固体吸収法(固体吸収材)

燃焼後回収

物理吸収法(物理吸収液)

・窒素除去して酸素でボイラ燃焼

・排ガスはCO2+H2Oだけに近い

ボイラ排ガス等常圧ガス

石炭ガス化ガス等高圧ガス

吸収塔頂でのアルカリ濃度

吸収塔頂でのアルカリ濃度

燃焼前回収

酸素燃焼法

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研究開発室 技術研究所 発電技術研究室

CO2分離回収研究における新吸収液の開発5研究紹介

1110

1.研究のねらい 地球温暖化対策の一つとして、最も排出量が多い温室効果ガスとされるCO2を燃焼排ガスなどから回収する研究を、南港発電所構内に設置した排ガスCO2分離回収装置のパイロットプラント

(第1図)で三菱重工エンジニアリング(株)(分社化前は三菱重工業

(株))と共同で行っています。

 CO2を多く含むガスからCO2

を回収する主な方式は第2図のようにいくつかありますが、現在は化学吸収法が国内外の大型機で主流の回収方式になっています。

2.化学吸収法および以前に開発 した吸収液での商用プラント 燃焼排ガスに含まれる酸性ガスのほとんどがCO2であることから、アルカリ性で温度が上がるとCO2

吸収量が少なくなる性質の吸収液を化学吸収法で使います。 装置のフローは第3図にありま

すように、まず冷却塔で温度を下げた排ガスを吸収塔の下から上に送り、これと逆方向の上から吸収液が充填材表面を流下する間に排ガスと接触してCO2を吸収した後、CO2を多く含む吸収液を再生塔に送り、加熱昇温によってCO2を分離して99.9%以上の純度で回収します。CO2分離後の吸収液は冷却して吸収塔に戻し、装置内を循環させます。 この方式においては、再生塔側の加熱器でエネルギーを最も多く消費します。CO2回収に伴うエネルギー消費を削減するため、省エネ性に優れる吸収液を開発してKS-1と名付けるとともに、各種システム改良に関しては吸収塔の上部にある水洗部の強化や再生塔周りの熱交換システム改良により再

生塔加熱器の消費エネルギー低減を図るなどでCO2回収コストの低減を行なってきました。 これらの技術はアジアや米国に設置した商用機(第4図)に順次採用され、本技術が世界トップシェアになっています。 

3.新規吸収液の試験結果 化学吸収法での吸収液は、種類などにもよりますが商用機のように運転が長期間になると損失量が大きくなって補充が必要になります。 KS-1吸収液よりも液損失を抑制できると期待する新吸収液での試験を開始し、CO2回収に要する消費エネルギーが現行のKS-1吸収液とほぼ同等で、吸収液損失は第5図のようにKS-1液に比べて少ない結果を得ています。これは、新吸収液の熱劣化や酸化劣化が少ないためと考えられます。 この吸収塔頂からの吸収液損失が少ない新吸収液では、吸収塔水洗部のコンパクト化によるブロワ動力の低減や、再生塔の高圧化によるCO2圧縮機の動力低減も期

待できます。

4.おわりに 新たに試験している吸収液およびこの吸収液を使う化学吸収法プロセスはそれぞれKS-21およびAdvanced KM CDR Processとい

う名称で商用化を計画しています。 CO2回収装置としての競争力を維持するために今後もCO2回収システム全体の改良に取り組む予定です。

処 理 ガ ス 量C O 2 回 収 量C O 2 回 収 率回収CO2純度

600m3N/h2 トン/日90%99.9%

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設計諸元

研究開発室 技術研究所 発電技術研究室

野条 貴司研究開発室 技術研究所 発電技術研究室発電用ボイラ排ガスからのCO2分離回収技術開発に従事

執 筆 者所   属主な業務

火力発電所の排ガスから二酸化炭素(CO2)を少ない消費エネルギーで分離・回収できる吸収液(KS-1液)および省エネシステムなどを既に開発していますが、それ以降もさらにCO2回収システムの改良やさらなるコスト低減に取り組んでおり、今回は近年の成果について報告します。

CO2分離回収研究における新吸収液の開発

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1 1 第1表 1日の運転スケジュール

第3図 暖房実験データの例(下げDRあり)

第2図 暖房実験データの例(下げDRなし)

第1図 エアコンのVPP模擬システム

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写真2 実験状況(エアコン周り)

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写真1 実験状況(実験住宅)

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研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)

VPPのリソースとしてのエアコン制御の研究について6研究紹介

1.VPPとは VPP(Virtual Power Plant)とは、各地に分散している太陽光、蓄電池等のリソースを、IoTを活用して統合制御し、一つの発電所のように機能させることをいいます。 リソース一つ一つは小規模なものですが、IoTを活用したエネルギーマネジメント技術によりこれらを束ね、遠隔・統合制御することで、電力の需給バランス調整に活用することができます。 エアコンは発電しませんが、消費電力を抑制する下げDRを行うことにより抑制分の電力を他の機器へ融通することが可能となりますので、VPPのリソースの一つであると言えます。

2.実験の概要 本 実 験は、当 社 、巽 実 験センターにおいて、第1図のようにエアコンのVPP模擬システムを作り実施しました。 汎用性を高めるため、テレビやエアコンをスマホアプリ等から操作できるスマートリモコンを使い、スマートフォンからエアコンのスケジュール設定を行いました。

 巽実験センターにおける実験状況は、写真1、写真2のとおりです。 一日の運転スケジュールは、第1表のとおりとし、在宅を模擬した時間中にエアコンを運転させ、照

明、人を模擬する内部発熱用の白熱球も点灯することとしました。 エアコンの運転方法としては、冬期は電力消費が増加する午前と夕方に1時間ずつ、同様に夏期は昼と夕方に1時間ずつ、エアコ

ン設定温度(冬期22℃、夏期26℃と仮定)から下げDRを行うことと仮定しました。なお、外気温度設定は、アメダス気象データ大阪2010における冬期(1、2月)、夏期(7、8月)の1時間ごとの平均外気温度としました。 そして、住宅の断熱性能とエアコン性能を変化させ、暖房実験と冷房実験を行いました。エアコンの消費電力等から需要削減効果を算出し、室内温度等から快適性指標である作用温度OTを算出して、快適性を損なうことなくエアコンの下げDRがどの程度可能であるか検討しています。 

3.実験データの例 第2図と第3図に高断熱住宅における暖房実験データの例として、下げDRを行った時と行わなかった時の作用温度OT、外気温、消費電力の一日の変化を示しました。 冬期の午前と夕方に1時間ずつ下げDRを行ったことにより、消費電力、作用温度OTが、ベースラインである第2図から第3図のように変化しました。 エアコンのVPPリソースとしての需要削減効果は消費電力を比較することによって把握し、快適性は作用温度OTの変化等から評価、検討していきたいと考えています。

4.今後の予定 断熱性能やエアコン性能の違いにより需要削減効果や快適性がどのように変化するのか、また、最適な評価方法についても検討し、いろいろな観点から評価したいと考えています。

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)

近年の電力自由化に伴い、VPP/DR技術を利用したアグリゲーション事業/ネガワット取り引き/一括受電事業などの電力ビジネスが展開されていくと考えられますが、この場合、電力負荷を正確かつ効率的に制御する必要があります。また、IoT家電やxEMSの普及が進み、需要側の家電機器の運転状態の把握や直接制御が可能となりつつある一方で、エアコンは普及台数が多く電力負荷量が大きいことから、VPPのリソースとして貢献できると考えます。そこで本研究では、エアコンについて住宅の快適性を損なわないVPPの制御システムを構築するため、必要となる機器・装置、制御方法等を明確化し、当社の環境試験設備である巽実験センターにおいて模擬システムを用いた実験によりデータを取得し、VPPのリソースであるエアコンの下げDRによる需要削減効果と快適性の両立を目指して取り組んでいますので、それらについて紹介します。

VPPのリソースとしてのエアコン制御の研究について

前嶋 納里子研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)高機能エアコンおよび高性能ヒートポンプの制御および性能評価に従事

執 筆 者所   属主な業務

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1 1 第1表 1日の運転スケジュール

第3図 暖房実験データの例(下げDRあり)

第2図 暖房実験データの例(下げDRなし)

第1図 エアコンのVPP模擬システム

風速計

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研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)

VPPのリソースとしてのエアコン制御の研究について6研究紹介

1.VPPとは VPP(Virtual Power Plant)とは、各地に分散している太陽光、蓄電池等のリソースを、IoTを活用して統合制御し、一つの発電所のように機能させることをいいます。 リソース一つ一つは小規模なものですが、IoTを活用したエネルギーマネジメント技術によりこれらを束ね、遠隔・統合制御することで、電力の需給バランス調整に活用することができます。 エアコンは発電しませんが、消費電力を抑制する下げDRを行うことにより抑制分の電力を他の機器へ融通することが可能となりますので、VPPのリソースの一つであると言えます。

2.実験の概要 本 実 験は、当 社 、巽 実 験センターにおいて、第1図のようにエアコンのVPP模擬システムを作り実施しました。 汎用性を高めるため、テレビやエアコンをスマホアプリ等から操作できるスマートリモコンを使い、スマートフォンからエアコンのスケジュール設定を行いました。

 巽実験センターにおける実験状況は、写真1、写真2のとおりです。 一日の運転スケジュールは、第1表のとおりとし、在宅を模擬した時間中にエアコンを運転させ、照

明、人を模擬する内部発熱用の白熱球も点灯することとしました。 エアコンの運転方法としては、冬期は電力消費が増加する午前と夕方に1時間ずつ、同様に夏期は昼と夕方に1時間ずつ、エアコ

ン設定温度(冬期22℃、夏期26℃と仮定)から下げDRを行うことと仮定しました。なお、外気温度設定は、アメダス気象データ大阪2010における冬期(1、2月)、夏期(7、8月)の1時間ごとの平均外気温度としました。 そして、住宅の断熱性能とエアコン性能を変化させ、暖房実験と冷房実験を行いました。エアコンの消費電力等から需要削減効果を算出し、室内温度等から快適性指標である作用温度OTを算出して、快適性を損なうことなくエアコンの下げDRがどの程度可能であるか検討しています。 

3.実験データの例 第2図と第3図に高断熱住宅における暖房実験データの例として、下げDRを行った時と行わなかった時の作用温度OT、外気温、消費電力の一日の変化を示しました。 冬期の午前と夕方に1時間ずつ下げDRを行ったことにより、消費電力、作用温度OTが、ベースラインである第2図から第3図のように変化しました。 エアコンのVPPリソースとしての需要削減効果は消費電力を比較することによって把握し、快適性は作用温度OTの変化等から評価、検討していきたいと考えています。

4.今後の予定 断熱性能やエアコン性能の違いにより需要削減効果や快適性がどのように変化するのか、また、最適な評価方法についても検討し、いろいろな観点から評価したいと考えています。

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)

近年の電力自由化に伴い、VPP/DR技術を利用したアグリゲーション事業/ネガワット取り引き/一括受電事業などの電力ビジネスが展開されていくと考えられますが、この場合、電力負荷を正確かつ効率的に制御する必要があります。また、IoT家電やxEMSの普及が進み、需要側の家電機器の運転状態の把握や直接制御が可能となりつつある一方で、エアコンは普及台数が多く電力負荷量が大きいことから、VPPのリソースとして貢献できると考えます。そこで本研究では、エアコンについて住宅の快適性を損なわないVPPの制御システムを構築するため、必要となる機器・装置、制御方法等を明確化し、当社の環境試験設備である巽実験センターにおいて模擬システムを用いた実験によりデータを取得し、VPPのリソースであるエアコンの下げDRによる需要削減効果と快適性の両立を目指して取り組んでいますので、それらについて紹介します。

VPPのリソースとしてのエアコン制御の研究について

前嶋 納里子研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(ホームエネルギー)高機能エアコンおよび高性能ヒートポンプの制御および性能評価に従事

執 筆 者所   属主な業務

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第2図 夏期ショーケース上下温度推移 第3図 店内各点での絶対湿度推移

第4図 日平均外気温度と空調機日積算消費電力の相関 第5図 日平均外気温とショーケース日積算消費電力の相関

第1図 店内平面図(空調、ショーケース設置位置、温湿度計測点)

第1表 空調室外機一覧

第2表 冷凍機別置型ショーケース室外機一覧

2017/5/1~2018/1/31 2017/5/1~2018/1/31

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

スーパーマーケットにおける温熱環境・設備使用に関する実態調査7研究紹介

1514

1.はじめに 食品スーパーでは、開放型の冷蔵冷凍設備から生じる冷気漏れや出入口の頻繁な開閉によって、その室内の温湿度にムラが起きやすく、結露で床面が濡れることによる買い物客の転倒やカビの発生にもつながり衛生管理に注意が必要となっています。また商品鮮度への影響を危惧して過剰な冷房が行われる場合も多く、省エネ面でも問題を抱えていました。さらに買い物客と従業員の滞在時間の差が大きいことから、両者の熱的快適性を持たせることは簡単ではありません。食品スーパーでの温熱環境の最適化は、省エネ、衛生面、快適性と、様々な問題解決につながると考えられます。 本研究では、関西圏内の食品スーパーにて温湿度や消費電力を測定し、食品スーパー固有の温熱環境や設備使用に関する実態調査を行いましたので、その結果をご紹介します。

2.調査概要(1)測定対象建物 測定対象は関西圏内の食品スーパーとし、建物平面の概要を第1図に示します。買い物客は店舗南東の出入口から入店し、店舗を反時計回りに周回して再び出入口から退店するよう設計されています。

(2)空調・冷蔵冷凍設備 対象店舗の室内機の設置位置を第1図に、空調室外機の一覧を第1表に示します。ビル用マルチエアコン(EHP)が店内とバックヤードに4系統ずつ、外気処理空調機(OEHP)が店内に2系統設置され、室外機は店舗屋上に設置されています。 一方、冷蔵冷凍設備は、売場に冷凍 機 内 蔵 型と冷 凍 機 別 置 型 のショーケース、バックヤードに冷凍、冷蔵庫が設置されています。冷凍機別置型ショーケースの室外機の一 覧を第 2 表に示します。またショーケースの設置位置を室外機番号に対応させたグループで第1図に示します。

3.測定結果(1)温度 夏期の代表3日間について、魚売場(◇、◇)、肉売場(◇、◇)、冷凍食品売場(◇、◇)の各ショーケース上下での温度推移を第2図に示します。測定点の高さはショーケース上部で200cm、ショーケース下部で20cmとしました。温度は一日中下部が低くなり、営業時間ではショーケースの上下で6~10℃もの温度差が生じていました。また冷凍食品売り場の床面では一部分で結露水が確認されました。

(2)絶対湿度 夏期の絶対湿度の推移を第3図に示します。外気や風除室の絶対湿度に対し、店内は低く保たれており出入口から店内奥になるほど絶対湿度は低下しています。これは空調等の設備によって外気を約4割

も除湿していると考えられます。

(3)外気温度と消費電力 第4図、第5図に外気温と、空調設備、冷蔵・冷凍ショーケースによる消費電力の関係を示します。 空調設備は外気温が高温側や低温側になるにつれてバラツキが大きくなりました。これは店舗スタッフによる体感で運転停止を判断している影響と考えられます。一方、冷蔵・冷凍ショーケースの消費電力は外気温が上昇すると増加傾向となっており相関性が見られました。

4.まとめ 食品スーパーにおける実態調査を行い、温熱環境のムラや消費電力の季節変動を確認できました。今後は買い物客の快適性や衛生面を考慮した空調運転タイミングや運用検討を進めて、営業コンサルに資する有効な解決策の考案に取り組む予定です。

5.おわりに 本研究は京都大学の鉾井名誉教授、伊庭助教と共同で研究を行いました。関係各位に感謝の意を表します。

位 置

全てが空冷、冷媒はR-404A

出力[kW]青果飲料、スイーツ精肉、鮮魚、バックヤード冷凍食品アイスクリームバックヤード

①②③④⑤⑥

冷蔵冷蔵冷蔵冷凍冷凍冷凍

29.225.521.914.63.79.1

7.3×3+7.37.3+9.1+9.17.3×2+7.37.3+7.33.79.1

系 統冷房 暖房

売場、グロッサリーレジ、風除室、レストスペース水産・畜産作業場農産作業場ミート・デリデリカ作業場計算室・事務室休憩室・更衣室外気処理 東外気処理 西

EHP-1EHP-2EHP-3EHP-4EHP-5EHP-6EHP-7EHP-8OEHP-1OEHP-2

19.233.68.073.464.3110.27.6

5.6319.219.2

17.730.68.333.334.029.956.946.0517.717.7

定格消費電力[kW]

店内

バックヤード

店内

バックヤード

店内

1 2 3 4

5 6

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

当社では空調システムに加えて冷蔵冷凍ショーケースを有している食品スーパーを省エネ対象として検討を進めています。一方、食品スーパー業界では売上げが重要な課題となっており、また衛生面や快適性と言ったニーズにもマッチした提案が求められています。そこで本研究では食品スーパーの温熱環境を最適化する第一歩として、実際に営業中の関西圏内食品スーパーにて温湿度や消費電力を測定し、温熱環境や設備使用に関する実態調査を行いましたので、その結果についてご紹介します。

スーパーマーケットにおける温熱環境・設備使用に関する実態調査

土居 信一研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)電気利用機器のシステム最適化研究に従事

執 筆 者所   属

主な業務

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第2図 夏期ショーケース上下温度推移 第3図 店内各点での絶対湿度推移

第4図 日平均外気温度と空調機日積算消費電力の相関 第5図 日平均外気温とショーケース日積算消費電力の相関

第1図 店内平面図(空調、ショーケース設置位置、温湿度計測点)

第1表 空調室外機一覧

第2表 冷凍機別置型ショーケース室外機一覧

2017/5/1~2018/1/31 2017/5/1~2018/1/31

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研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

スーパーマーケットにおける温熱環境・設備使用に関する実態調査7研究紹介

1514

1.はじめに 食品スーパーでは、開放型の冷蔵冷凍設備から生じる冷気漏れや出入口の頻繁な開閉によって、その室内の温湿度にムラが起きやすく、結露で床面が濡れることによる買い物客の転倒やカビの発生にもつながり衛生管理に注意が必要となっています。また商品鮮度への影響を危惧して過剰な冷房が行われる場合も多く、省エネ面でも問題を抱えていました。さらに買い物客と従業員の滞在時間の差が大きいことから、両者の熱的快適性を持たせることは簡単ではありません。食品スーパーでの温熱環境の最適化は、省エネ、衛生面、快適性と、様々な問題解決につながると考えられます。 本研究では、関西圏内の食品スーパーにて温湿度や消費電力を測定し、食品スーパー固有の温熱環境や設備使用に関する実態調査を行いましたので、その結果をご紹介します。

2.調査概要(1)測定対象建物 測定対象は関西圏内の食品スーパーとし、建物平面の概要を第1図に示します。買い物客は店舗南東の出入口から入店し、店舗を反時計回りに周回して再び出入口から退店するよう設計されています。

(2)空調・冷蔵冷凍設備 対象店舗の室内機の設置位置を第1図に、空調室外機の一覧を第1表に示します。ビル用マルチエアコン(EHP)が店内とバックヤードに4系統ずつ、外気処理空調機(OEHP)が店内に2系統設置され、室外機は店舗屋上に設置されています。 一方、冷蔵冷凍設備は、売場に冷凍 機 内 蔵 型と冷 凍 機 別 置 型 のショーケース、バックヤードに冷凍、冷蔵庫が設置されています。冷凍機別置型ショーケースの室外機の一 覧を第 2 表に示します。またショーケースの設置位置を室外機番号に対応させたグループで第1図に示します。

3.測定結果(1)温度 夏期の代表3日間について、魚売場(◇、◇)、肉売場(◇、◇)、冷凍食品売場(◇、◇)の各ショーケース上下での温度推移を第2図に示します。測定点の高さはショーケース上部で200cm、ショーケース下部で20cmとしました。温度は一日中下部が低くなり、営業時間ではショーケースの上下で6~10℃もの温度差が生じていました。また冷凍食品売り場の床面では一部分で結露水が確認されました。

(2)絶対湿度 夏期の絶対湿度の推移を第3図に示します。外気や風除室の絶対湿度に対し、店内は低く保たれており出入口から店内奥になるほど絶対湿度は低下しています。これは空調等の設備によって外気を約4割

も除湿していると考えられます。

(3)外気温度と消費電力 第4図、第5図に外気温と、空調設備、冷蔵・冷凍ショーケースによる消費電力の関係を示します。 空調設備は外気温が高温側や低温側になるにつれてバラツキが大きくなりました。これは店舗スタッフによる体感で運転停止を判断している影響と考えられます。一方、冷蔵・冷凍ショーケースの消費電力は外気温が上昇すると増加傾向となっており相関性が見られました。

4.まとめ 食品スーパーにおける実態調査を行い、温熱環境のムラや消費電力の季節変動を確認できました。今後は買い物客の快適性や衛生面を考慮した空調運転タイミングや運用検討を進めて、営業コンサルに資する有効な解決策の考案に取り組む予定です。

5.おわりに 本研究は京都大学の鉾井名誉教授、伊庭助教と共同で研究を行いました。関係各位に感謝の意を表します。

位 置

全てが空冷、冷媒はR-404A

出力[kW]青果飲料、スイーツ精肉、鮮魚、バックヤード冷凍食品アイスクリームバックヤード

①②③④⑤⑥

冷蔵冷蔵冷蔵冷凍冷凍冷凍

29.225.521.914.63.79.1

7.3×3+7.37.3+9.1+9.17.3×2+7.37.3+7.33.79.1

系 統冷房 暖房

売場、グロッサリーレジ、風除室、レストスペース水産・畜産作業場農産作業場ミート・デリデリカ作業場計算室・事務室休憩室・更衣室外気処理 東外気処理 西

EHP-1EHP-2EHP-3EHP-4EHP-5EHP-6EHP-7EHP-8OEHP-1OEHP-2

19.233.68.073.464.3110.27.6

5.6319.219.2

17.730.68.333.334.029.956.946.0517.717.7

定格消費電力[kW]

店内

バックヤード

店内

バックヤード

店内

1 2 3 4

5 6

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

当社では空調システムに加えて冷蔵冷凍ショーケースを有している食品スーパーを省エネ対象として検討を進めています。一方、食品スーパー業界では売上げが重要な課題となっており、また衛生面や快適性と言ったニーズにもマッチした提案が求められています。そこで本研究では食品スーパーの温熱環境を最適化する第一歩として、実際に営業中の関西圏内食品スーパーにて温湿度や消費電力を測定し、温熱環境や設備使用に関する実態調査を行いましたので、その結果についてご紹介します。

スーパーマーケットにおける温熱環境・設備使用に関する実態調査

土居 信一研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)電気利用機器のシステム最適化研究に従事

執 筆 者所   属

主な業務

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第1表 試作品の評価

第2図 下水処理場概要

第1図 自己熱再生型ヒートポンプ式高効率汚泥乾燥装置

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 1716

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥技術の実証研究8研究紹介

1.背景と目的 下水処理場で発生する脱水汚泥は約80%W.B.(ウェットベース)の水分を含んでいます。大規模な処理場では焼却等の設備を有し、処理している例もあるのですが、中小規模の処理場ではこれらの設備投資が難しく、脱水処理後、全量外部搬出・委託処理している場合が多くなっています。この委託処理費は自治体にとって大きな負担となっています。 また外部搬出後の脱水汚泥は建築資材や肥料原料等に利用されていますが、脱水汚泥のままでは有効利用先が限られます。 そこで下水汚泥が安定して大量に発生することに着目して、エネルギーとしての利用と温室効果ガス排出量削減を図るための固形燃料化を行い、近年、要請されている低炭素・循環型社会形成推進として活用することが注目されてきています。 下水汚泥を固形燃料化するために脱水汚泥の乾燥を行いますが、大量の乾燥エネルギーが必要です。しかしながら、焼却施設や溶融施設を持たない規模のさほど大きくない下水処理場ではコスト面で乾燥を行うことが困難です。 このような処理場を対象とした省エネ・省コストで汚泥乾燥処理を行う「自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥技術」(以下、「本技術」と記す)を紹介します。なお本技術については、当社と株式会社大

川原製作所、神奈川県秦野市の3社が共同研究体となり、国土交通省下水道部の平成28年度下水道革新的技術実証事業(B-DASH)の【中小規模処理場を対象とした肥料化・燃料化技術】に応募し、採択されて国土交通省国土技術政策総合研究所の委託研究として実証を行いました。

2.研究の概要(1)システム構成 本技術の核となる「自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥装置」については「蒸気再圧縮ヒートポンプ式乾燥装置」として既にR&D NEWS KANSAI No.480にて紹介済みですので、詳細はそちらに譲るとして、ここでは簡単に説明します。(第1図) 蒸気ブロワおよび蒸気圧縮機に

て2段圧縮された蒸気は乾燥設備内の細管に入ります(この蒸気を乾燥蒸気といいます)。乾燥設備の筐体内で滞留する乾燥汚泥上に脱水汚泥が投入され、さらに上述の細管と接触することにより熱交換が行われ汚泥の水分が蒸発し、乾燥汚泥となります。また蒸気の一部は乾燥設備の筐体内に噴出し、汚泥から蒸発した水分を機外に送り出すために利用されます。 脱水汚泥から蒸発した蒸気は熱を持っているので、仕事を終え膨張弁を通過した乾燥蒸気に熱交換器内で熱を与え、排出されます。一方、熱を受け取った乾燥蒸気は再び蒸気ブロワ、蒸気圧縮機で2段圧縮され、上述の工程を繰り返します。 なお補助ボイラは設備起動時の蒸気確保と運転中の蒸気補給に利

用されます。

(2)実証試験 神奈川県の秦野市浄水管理センターを実証フィールドとし、ここで発生する脱水汚泥の全量を乾燥する実規模の設備を製作し、実証試験を行いました。 従来、処理場に流入する汚水等は水処理後に発生する濃縮汚泥を機械脱水し外部に搬出していました。今回、実証設備として導入したのは、機械脱水後の汚泥を乾燥させる工程で、第2図の破線で囲った部分になります。 秦野浄水管理センターの年間脱水汚泥発生量は9,360t/年、平均水分は72%W.B.で、実証設備はこれを全量処理して、水分20%W.B.とする規模となっています。

3.実証試験結果 各実証項目と目標に対する試験結果は次のとおりです。(1)乾燥機の熱効率目標155%以上 実証の結果、熱効率は188%となり目標を達成しています。なお、熱効率とは、汚泥の乾燥に必要な熱量を圧縮機の電力量や補助ボイラ燃料など本システムに投入するエネルギーで割ったものです。 ちなみに従来式の熱風式乾燥機の熱効率は約60%なので、ヒートポンプ式の乾燥機が有効であることがわかります。

(2)汚泥処理費用削減率目標35% 実証の結果、削減率38%となり目標以上の効果を達成しました。

(3)ランニングコスト削減については、従来よりも低くなることを目標としました。

 脱水汚泥全量を外部委託で処理する場合に比べて22%、従来の熱風式乾燥機を使用する場合に比べて40%のコスト削減となり、目標を達成しています。

(4)従来の熱風式乾燥機に対するエネルギーの削減率目標32%以上

 実証では目標を超える46%の削減効果となりました。

(5)従来の熱風式乾燥機に対するCO2削減率35%以上

 目標を超える51%の削減となりました。

(6)乾燥汚泥の肥料化 成分分析の結果、有害成分は許容範囲内。また植害試験結果も良好。市場性については肥料としての需要期間は年間8ヶ月で、無償または有償で引き取る自治体が存在することが分りました。また当該乾燥

汚泥は肥料登録を行いました。

(7)乾燥汚泥の燃料化 成分分析を行い、発熱量はJIS規格においてBSF -15(総発熱量15MJ/kg以上、全水分の質量分率20%以下)に相当することが分りました。乾燥汚泥を有償で受け入れる企業は存在するものの、既存の設備への受け入れは設備改造等もあり困難であることが分りました。しかし近隣に新規燃料利用設備等の計画があり、当初から設備対応すれば受け入れ可能性が高くなることも分りました。

4.まとめ 本技術は脱水処理のみの下水処理場において省コストを実現でき、また従来の温風式乾燥機を導入するよりも省エネ、省CO2、省コストであることが分りました。加えて、制約があるものの乾燥汚泥の活用可能性もあります。 ガイドライン化により自治体への導入のハードルも低くなっていますが、今後自主研究を通じてさらなる導入に向けた訴求ポイントを探っていく予定です。

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

大量に発生する下水汚泥を乾燥により減量化するには多くのエネルギーを必要とします。当社は株式会社大川原製作所、神奈川県秦野市とともにヒートポンプを利用した蒸気再圧縮式乾燥装置を用いて、省エネ・低コストで下水汚泥を乾燥する技術に関する実証試験を行ったので、その概要を紹介します。

自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥技術の実証研究

木村 忠剛研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)産業用・業務用システム開発に従事

執 筆 者所   属

主な業務

Page 19: 2019 .January Vol.496 NEWS KANSAI - KEPCOpw Mt æ ÇZ q !Z z b{y hz\wÞÃçxzx w¥ßÍ» ït pox \q U Z R q¥M b½{ { lh ... Rw -¢ M OtmMo RpÄÀ h t 1 "* Æ ;`hP C ? tá ;ô S=±

第1表 試作品の評価

第2図 下水処理場概要

第1図 自己熱再生型ヒートポンプ式高効率汚泥乾燥装置

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研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥技術の実証研究8研究紹介

1.背景と目的 下水処理場で発生する脱水汚泥は約80%W.B.(ウェットベース)の水分を含んでいます。大規模な処理場では焼却等の設備を有し、処理している例もあるのですが、中小規模の処理場ではこれらの設備投資が難しく、脱水処理後、全量外部搬出・委託処理している場合が多くなっています。この委託処理費は自治体にとって大きな負担となっています。 また外部搬出後の脱水汚泥は建築資材や肥料原料等に利用されていますが、脱水汚泥のままでは有効利用先が限られます。 そこで下水汚泥が安定して大量に発生することに着目して、エネルギーとしての利用と温室効果ガス排出量削減を図るための固形燃料化を行い、近年、要請されている低炭素・循環型社会形成推進として活用することが注目されてきています。 下水汚泥を固形燃料化するために脱水汚泥の乾燥を行いますが、大量の乾燥エネルギーが必要です。しかしながら、焼却施設や溶融施設を持たない規模のさほど大きくない下水処理場ではコスト面で乾燥を行うことが困難です。 このような処理場を対象とした省エネ・省コストで汚泥乾燥処理を行う「自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥技術」(以下、「本技術」と記す)を紹介します。なお本技術については、当社と株式会社大

川原製作所、神奈川県秦野市の3社が共同研究体となり、国土交通省下水道部の平成28年度下水道革新的技術実証事業(B-DASH)の【中小規模処理場を対象とした肥料化・燃料化技術】に応募し、採択されて国土交通省国土技術政策総合研究所の委託研究として実証を行いました。

2.研究の概要(1)システム構成 本技術の核となる「自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥装置」については「蒸気再圧縮ヒートポンプ式乾燥装置」として既にR&D NEWS KANSAI No.480にて紹介済みですので、詳細はそちらに譲るとして、ここでは簡単に説明します。(第1図) 蒸気ブロワおよび蒸気圧縮機に

て2段圧縮された蒸気は乾燥設備内の細管に入ります(この蒸気を乾燥蒸気といいます)。乾燥設備の筐体内で滞留する乾燥汚泥上に脱水汚泥が投入され、さらに上述の細管と接触することにより熱交換が行われ汚泥の水分が蒸発し、乾燥汚泥となります。また蒸気の一部は乾燥設備の筐体内に噴出し、汚泥から蒸発した水分を機外に送り出すために利用されます。 脱水汚泥から蒸発した蒸気は熱を持っているので、仕事を終え膨張弁を通過した乾燥蒸気に熱交換器内で熱を与え、排出されます。一方、熱を受け取った乾燥蒸気は再び蒸気ブロワ、蒸気圧縮機で2段圧縮され、上述の工程を繰り返します。 なお補助ボイラは設備起動時の蒸気確保と運転中の蒸気補給に利

用されます。

(2)実証試験 神奈川県の秦野市浄水管理センターを実証フィールドとし、ここで発生する脱水汚泥の全量を乾燥する実規模の設備を製作し、実証試験を行いました。 従来、処理場に流入する汚水等は水処理後に発生する濃縮汚泥を機械脱水し外部に搬出していました。今回、実証設備として導入したのは、機械脱水後の汚泥を乾燥させる工程で、第2図の破線で囲った部分になります。 秦野浄水管理センターの年間脱水汚泥発生量は9,360t/年、平均水分は72%W.B.で、実証設備はこれを全量処理して、水分20%W.B.とする規模となっています。

3.実証試験結果 各実証項目と目標に対する試験結果は次のとおりです。(1)乾燥機の熱効率目標155%以上 実証の結果、熱効率は188%となり目標を達成しています。なお、熱効率とは、汚泥の乾燥に必要な熱量を圧縮機の電力量や補助ボイラ燃料など本システムに投入するエネルギーで割ったものです。 ちなみに従来式の熱風式乾燥機の熱効率は約60%なので、ヒートポンプ式の乾燥機が有効であることがわかります。

(2)汚泥処理費用削減率目標35% 実証の結果、削減率38%となり目標以上の効果を達成しました。

(3)ランニングコスト削減については、従来よりも低くなることを目標としました。

 脱水汚泥全量を外部委託で処理する場合に比べて22%、従来の熱風式乾燥機を使用する場合に比べて40%のコスト削減となり、目標を達成しています。

(4)従来の熱風式乾燥機に対するエネルギーの削減率目標32%以上

 実証では目標を超える46%の削減効果となりました。

(5)従来の熱風式乾燥機に対するCO2削減率35%以上

 目標を超える51%の削減となりました。

(6)乾燥汚泥の肥料化 成分分析の結果、有害成分は許容範囲内。また植害試験結果も良好。市場性については肥料としての需要期間は年間8ヶ月で、無償または有償で引き取る自治体が存在することが分りました。また当該乾燥

汚泥は肥料登録を行いました。

(7)乾燥汚泥の燃料化 成分分析を行い、発熱量はJIS規格においてBSF -15(総発熱量15MJ/kg以上、全水分の質量分率20%以下)に相当することが分りました。乾燥汚泥を有償で受け入れる企業は存在するものの、既存の設備への受け入れは設備改造等もあり困難であることが分りました。しかし近隣に新規燃料利用設備等の計画があり、当初から設備対応すれば受け入れ可能性が高くなることも分りました。

4.まとめ 本技術は脱水処理のみの下水処理場において省コストを実現でき、また従来の温風式乾燥機を導入するよりも省エネ、省CO2、省コストであることが分りました。加えて、制約があるものの乾燥汚泥の活用可能性もあります。 ガイドライン化により自治体への導入のハードルも低くなっていますが、今後自主研究を通じてさらなる導入に向けた訴求ポイントを探っていく予定です。

研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)

大量に発生する下水汚泥を乾燥により減量化するには多くのエネルギーを必要とします。当社は株式会社大川原製作所、神奈川県秦野市とともにヒートポンプを利用した蒸気再圧縮式乾燥装置を用いて、省エネ・低コストで下水汚泥を乾燥する技術に関する実証試験を行ったので、その概要を紹介します。

自己熱再生型ヒートポンプ式高効率下水汚泥乾燥技術の実証研究

木村 忠剛研究開発室 技術研究所 エネルギー利用技術研究室(都市・産業エネルギー)産業用・業務用システム開発に従事

執 筆 者所   属

主な業務

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第2表 微細藻類から抽出される有用物質の例2)

第1図 鋼材断面のEPMAマッピング

写真1          ポータブル蛍光X線分析装置

第1表 原料による単位面積当たりの油収率1)

第1表 元素分析装置とその違い

写真1 微細藻類の顕微鏡写真

    作物種トウモロコシ大豆菜種ナンヨウアブラギリココナツアブラヤシカメリナヒマワリジャトロファ微細藻類(油含油量70%)微細藻類(油含油量30%)

油収率(L/ha/y)1724461,1901,8922,6895,9505609551,890136,90058,700

装置(分析法)

XRFXPSEPMA

SEM-EDX

ICP-OES

蛍光X線分析X線光電子分光分析

電子プローブマイクロアナライザーエネルギー分散型X線分光分析

誘導結合プラズマ発光分光分析

一般的な雰囲気真空真空真空真空

大気

試料に照射する(与える)もの

X線X線電子線電子線

アルゴンプラズマ熱エネルギー

試料から発せられ検出器で補足するもの

特性X線光電子特性X線特性X線

発光

よく使用する試料形態固体固体固体固体

液体

   種 類クロレラナンノクロロプシスドナリエラスピルリナ

有効成分カロテノイド、タンパク、ビタミン

EPAカロテノイドγリノレイン酸

Feのマッピング電子顕微鏡画像 Sのマッピング

鋼材部分

(表面)

(内部)

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 19R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.49618

ミニ解説 ミニ解説

1.はじめに 微細藻類は、海水あるいは淡水中に生息する単細胞微生物で、植物と同じように葉緑体を持ち、光合成によって 大 気 中 の 二 酸 化 炭 素

(CO2)を固定化して有機物とし、酸素を発生します(写真1)。一般的には植物プランクトンとも呼ばれています。自然界には多種多様な微細藻類が存在しており、陸上植物と比べてバイオマスの生産性が高く(第1表)、中には高含量で油を生産するものがあります。国内では、オイルショックを受けて、1990年代にニューサンシャイン計画が実施されて以来、微細藻類による燃料生産は長く研究が行われてきました。

2.微細藻類による油生産 微細藻類が生産する油分は、通常バイオディーゼルの原料と同じトリグリセリドで、燃料として使用するにはエステル化などの処理が必要です。一方、炭化水素を生産するBotryococcus等の微細藻類も存在します。微細藻類を用いて油を生産するには、まず油生産性の高い微細藻類を選定し、選定した微細藻類の特性によって培養設備を最適化する必要があります。培養装置には大きく分けて開放系のオープンポンド型と閉鎖系のフォトバイオリ

アクター(PBR)を用いた方式があります。開放系は設備の初期投資や運営コストが安いという利点がありますが、雑菌混入などにより培養が不安定になるという欠点があります。閉鎖型では外部からの汚染の問題はありませんが、いかにコストを下げるかということが課題となってきます。培養設備以外にも、培養方法、回収、抽出、改質などの製造行程を最適化する必要があります。

3.有用物質生産へのシフト これまで、国内外でさまざまな企業や研究機関で微細藻類を用いた油生産の研究が行われてきましたが、現状ではエネルギー収支、コスト収支、CO2収支のすべてを満足するシステムは達成されていません。コストの面で見ると、燃料としての油の価格が安いという問題があります。このため、油以外の高付加価値物質(第2表)の生産についても検討されています。

4.おわりに 微細藻類による油生産については、コスト面の問題を解決するため、高付加価値物質の生産、および燃料以外の活用先を見据えたカスケード生産に比重が移ってきています。また、エネルギーコストの問題やスケールメリットによるコスト低減効果の面から生産地点の選定も重要になってくると考えられます。

1) 電力中央研究所報告 V090252) 三井物産戦略研究所“バイオマス資源としての微細藻類”

執筆者名 : 田中 聡

1.はじめに 電力設備には、金属・セラミックス・プラスチック・ゴム・塗料など様々な材質・素材が使用されています。変色や異物付着等を発見した場合は、その原因や影響を把握するため、異変箇所の成分(元素)の種類や濃度(または割合)を測定します。これを「元素分析」といいます。本稿では、技術研究所が保有する元素分析技術(測定装置)を紹介します。

2.元素分析手法 技術研究所には、第1表に示す5種類の元素分析装置があります。試料の状態や分析目的に合わせて、装置を使い分けます。複数の分析手法が可能な場合は、結果を照らし合わせてデータの信頼性を高めることもあります。(1)固体試料を測定する4種類の機器 XRFは、測定が簡便なうえ、測定による試料の損傷がほとんど無いため、多くの場合に使用します。XPSは、元素の状態(例 ニッケル元素であれば、Ni3+,Ni2+,Ni0等)を区別して含有量を把握できます。EPMAやSEM-EDXは、微小な部位を選択的に測定することができます。さらに、あるエリアの元素濃度分布をマッピング画像として示すことが可能です(第1図)。両者の違いは検出器にあり、EPMAはSEM-EDXに比べ、測定に時間を要するものの、分析精度が高いなどの特徴があります。これまで4種類の装置を用いて、例えば、金属部品の腐食原因を解明したり、蓄電池の電極を分析し、特定の元素が電池性能に及ぼす影響を解明しました。

(2)液体試料を測定する機器 ICP-OESは液体中に含まれる微量元素の濃度を測定できることから、冷却水や排水に含まれる微量金属元素の測定等に使用しています。

3.ポータブル機器の導入 近年、ポータブル元素分析器を導入しました。この装置は、蛍光X線分析法により、現場にて、設備から試験片を切り取らなくても対象部位に接触させるだけで含有元素を測定できます。ただし測定可能な元素は、マグネシウムより重い元素です。設備表面の変色部の測定や、壁面の塗料に含まれる鉛含有量の測定などに適用できます。現場で即座に結果が得られる貴重な分析機器です。

執筆者名 : 渡邊 恒典

研究開発室 技術研究所 先進技術研究室

微細藻類活用によるバイオ燃料合成について

研究開発室 技術研究所 基盤技術研究室(基盤技術)

技術研究所が保有する元素分析技術の紹介

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第2表 微細藻類から抽出される有用物質の例2)

第1図 鋼材断面のEPMAマッピング

写真1          ポータブル蛍光X線分析装置

第1表 原料による単位面積当たりの油収率1)

第1表 元素分析装置とその違い

写真1 微細藻類の顕微鏡写真

    作物種トウモロコシ大豆菜種ナンヨウアブラギリココナツアブラヤシカメリナヒマワリジャトロファ微細藻類(油含油量70%)微細藻類(油含油量30%)

油収率(L/ha/y)1724461,1901,8922,6895,9505609551,890136,90058,700

装置(分析法)

XRFXPSEPMA

SEM-EDX

ICP-OES

蛍光X線分析X線光電子分光分析

電子プローブマイクロアナライザーエネルギー分散型X線分光分析

誘導結合プラズマ発光分光分析

一般的な雰囲気真空真空真空真空

大気

試料に照射する(与える)もの

X線X線電子線電子線

アルゴンプラズマ熱エネルギー

試料から発せられ検出器で補足するもの

特性X線光電子特性X線特性X線

発光

よく使用する試料形態固体固体固体固体

液体

   種 類クロレラナンノクロロプシスドナリエラスピルリナ

有効成分カロテノイド、タンパク、ビタミン

EPAカロテノイドγリノレイン酸

Feのマッピング電子顕微鏡画像 Sのマッピング

鋼材部分

(表面)

(内部)

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 19R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.49618

ミニ解説 ミニ解説

1.はじめに 微細藻類は、海水あるいは淡水中に生息する単細胞微生物で、植物と同じように葉緑体を持ち、光合成によって 大 気 中 の 二 酸 化 炭 素

(CO2)を固定化して有機物とし、酸素を発生します(写真1)。一般的には植物プランクトンとも呼ばれています。自然界には多種多様な微細藻類が存在しており、陸上植物と比べてバイオマスの生産性が高く(第1表)、中には高含量で油を生産するものがあります。国内では、オイルショックを受けて、1990年代にニューサンシャイン計画が実施されて以来、微細藻類による燃料生産は長く研究が行われてきました。

2.微細藻類による油生産 微細藻類が生産する油分は、通常バイオディーゼルの原料と同じトリグリセリドで、燃料として使用するにはエステル化などの処理が必要です。一方、炭化水素を生産するBotryococcus等の微細藻類も存在します。微細藻類を用いて油を生産するには、まず油生産性の高い微細藻類を選定し、選定した微細藻類の特性によって培養設備を最適化する必要があります。培養装置には大きく分けて開放系のオープンポンド型と閉鎖系のフォトバイオリ

アクター(PBR)を用いた方式があります。開放系は設備の初期投資や運営コストが安いという利点がありますが、雑菌混入などにより培養が不安定になるという欠点があります。閉鎖型では外部からの汚染の問題はありませんが、いかにコストを下げるかということが課題となってきます。培養設備以外にも、培養方法、回収、抽出、改質などの製造行程を最適化する必要があります。

3.有用物質生産へのシフト これまで、国内外でさまざまな企業や研究機関で微細藻類を用いた油生産の研究が行われてきましたが、現状ではエネルギー収支、コスト収支、CO2収支のすべてを満足するシステムは達成されていません。コストの面で見ると、燃料としての油の価格が安いという問題があります。このため、油以外の高付加価値物質(第2表)の生産についても検討されています。

4.おわりに 微細藻類による油生産については、コスト面の問題を解決するため、高付加価値物質の生産、および燃料以外の活用先を見据えたカスケード生産に比重が移ってきています。また、エネルギーコストの問題やスケールメリットによるコスト低減効果の面から生産地点の選定も重要になってくると考えられます。

1) 電力中央研究所報告 V090252) 三井物産戦略研究所“バイオマス資源としての微細藻類”

執筆者名 : 田中 聡

1.はじめに 電力設備には、金属・セラミックス・プラスチック・ゴム・塗料など様々な材質・素材が使用されています。変色や異物付着等を発見した場合は、その原因や影響を把握するため、異変箇所の成分(元素)の種類や濃度(または割合)を測定します。これを「元素分析」といいます。本稿では、技術研究所が保有する元素分析技術(測定装置)を紹介します。

2.元素分析手法 技術研究所には、第1表に示す5種類の元素分析装置があります。試料の状態や分析目的に合わせて、装置を使い分けます。複数の分析手法が可能な場合は、結果を照らし合わせてデータの信頼性を高めることもあります。(1)固体試料を測定する4種類の機器 XRFは、測定が簡便なうえ、測定による試料の損傷がほとんど無いため、多くの場合に使用します。XPSは、元素の状態(例 ニッケル元素であれば、Ni3+,Ni2+,Ni0等)を区別して含有量を把握できます。EPMAやSEM-EDXは、微小な部位を選択的に測定することができます。さらに、あるエリアの元素濃度分布をマッピング画像として示すことが可能です(第1図)。両者の違いは検出器にあり、EPMAはSEM-EDXに比べ、測定に時間を要するものの、分析精度が高いなどの特徴があります。これまで4種類の装置を用いて、例えば、金属部品の腐食原因を解明したり、蓄電池の電極を分析し、特定の元素が電池性能に及ぼす影響を解明しました。

(2)液体試料を測定する機器 ICP-OESは液体中に含まれる微量元素の濃度を測定できることから、冷却水や排水に含まれる微量金属元素の測定等に使用しています。

3.ポータブル機器の導入 近年、ポータブル元素分析器を導入しました。この装置は、蛍光X線分析法により、現場にて、設備から試験片を切り取らなくても対象部位に接触させるだけで含有元素を測定できます。ただし測定可能な元素は、マグネシウムより重い元素です。設備表面の変色部の測定や、壁面の塗料に含まれる鉛含有量の測定などに適用できます。現場で即座に結果が得られる貴重な分析機器です。

執筆者名 : 渡邊 恒典

研究開発室 技術研究所 先進技術研究室

微細藻類活用によるバイオ燃料合成について

研究開発室 技術研究所 基盤技術研究室(基盤技術)

技術研究所が保有する元素分析技術の紹介

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特許、実用新案意 匠商 標

論文、プレスリリースなどによる公知化       

ノウハウとして管理先使用権

公 開

非公開その他   

非権利化

権利化

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 21R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.49620

ミニ解説 ミニ解説

1.知的財産の保護とは 研究開発やその他事業活動で発生した知的財産は事業を行っていくうえで必要なものです。それを適正に保護しないと、事業が行えなくなるといった支障が生じかねません。 知的財産の保護には種々の方法があり、それらは下の表のように整理することができます。

 これらの方法にはそれぞれ特徴があり、保護の方法の選択にあたっては、各方法の特徴をふまえ、知的財産活用の目的を明確にし、目的に適合した保護方法を選ぶことが重要です。

2.権利化による保護 特許などを出願し、権利化を図ることにより知的財産を保護することは、最も一般的な方法といえます。権利化により、そのアイディアなどの実施権を独占することができますし、他者にライセンスすることもできます。また、権利を侵害する者に対して差し止めや、損害賠償請求などの権利行使をすることもできます。 一方、出願などの権利化によって、発明や創作の内容が公開されます。公開された発明を他者に模倣されることも想定され、その内容によっては、侵害を発見することが難しかったり、権利の範囲が狭いために、他者の権利侵害を主張することが難しい場合もあります。 また、権利には存続期間があり、期間が満了したものは、誰でも利用することができます。

3.ノウハウとして管理 2.で述べたように、例えば特許では、権利者に独占的

な権利が与えられる一方で、出願から1年半後に、その発明が公開されます。 ノウハウ(秘匿化)は、秘匿することで、公開により他者に知られることなく、技術や情報を独占できるというメリットがあります。 一方、外部に技術や情報が漏れ、その技術を模倣する者が現れた場合には、特許法などに基づいて権利を主張することができないというデメリットがあります。 そのような場合でも、ノウハウを営業秘密として適切に管理していれば、ノウハウが不正に取得された場合などに、不正競争防止法の保護が受けられる可能性がありますから、秘密管理に十分留意する必要があります。秘密管理が難しいのであれば、2.の権利化や4.の公表による公知化を図ることを検討してください。 また、他者が同じ技術を発明、権利化した場合に、権利の侵害を主張される可能性がありますので、5.で説明する先使用権の主張ができるよう対応しておくことが望まれます。

4.公表による公知化 特許や意匠の権利化には、新規性が要件となっているため、頒布された刊行物に記載した場合や、インターネット上に公開した場合などは、新規性の喪失により、特許権などを取得することはできなくなります(特許法29条1項、意匠法3条1項。前回のR&Dニュースのとおり、例外規定はあります)。 言い換えれば、公表などによって公知化すれば、他者が権利化により技術やアイディアを独占することはできなくなります(もちろん、自らも権利化することができないので、その技術やアイディアを独占することはできません)。 自らがその技術を使うかどうかはわからなくても、他者が権利化することで独占されるのは避けたいと考える場合や、万が一、権利を取得した他者からの権利行使によって、自社の事業ができなくなる事態は避けたい場合は、公表することによって他者の権利化を防ぐことが考えられます。

 また、広く公表することで、アピール効果や、研究・事業のパートナーを募る効果も考えられます。

5.先使用権 特許出願されている発明の内容を知らないで ① 自らその発明をした場合、 あるいは、 ② ①の発明者から発明内容を知った場合で、特許出願の際に日本国内でその発明による事業(準備を含む)を実施している者は、その発明および事業の目的の範囲内において、その特許出願された特許権について通常実施権を有します。これを先使用権といいます

(特許法79条)。 先使用権は、特許権の侵害との主張を受けた場合の防衛となり得ますが、そのためには、侵害を主張した権利者の特許出願の時期に、その発明の実施である事業またはその準備をしていたことを主張する必要があり、そのような主張ができるよう、証拠資料を残しておく必要があります。

6.オープン・クローズ戦略 知的財産をライセンスや無償開放により他者にも使わせる(オープン)ことで技術を広める一方で、その技術に関連する商品については、知的財産権を自社独占したり、中核をなす技術をノウハウとして秘匿する(クローズ)ことで利益の拡大を図ることが行われます。これらを組み合わせたものをオープン・クローズ戦略といいます。 例えばデンソーはQRコードの特許権を開放し、規格化することで広め、QRコードのリーダーによって利益をあげています。

7.知財ミックスによる権利保護 文具メーカーのコクヨが販売している消しゴム「カドケシ」に関して、同社は特許権でアイディアを、意匠権でアイディアを具体化した製品のデザインを、商標権で「カドケシ」という商品名をそれぞれ保護しています。 特許権は、技術内容によっては侵害にあたるかの判断

が困難なことがあるのに対し、意匠権は物品の形態なので、侵害の判断が比較的容易であり、模倣品対策には有効です。 反面、物品の形態が変更されると、意匠権は権利行使ができない可能性がありますが、技術内容が同じであれば特許権による保護が受けられます。  権利の存続期間については、特許権が出願から20年なのに対し、意匠は登録から20年と長くなっています

(注)。 一方、商標権の存続期間は10年ですが、更新することで半永久的に権利を保持することができます。特許権、意匠権が期間満了となっても、商標のもつブランド力で他社と差別化することができます。 このように、知的財産を保護する方法には、それぞれ特徴があり、その特徴を活かすことで、より強固に権利保護することができます。これを知財ミックスといいます。

8.おわりに 事業の継続、拡大により収益を拡大していくうえで、知的財産の保護は重要です。 そのための方法は、特許などの権利化だけとは限りません。保護の方法の選択にあたっては、保護の目的を明確にし、目的に適合した保護方法を選ぶことが重要です。 どの方法によればよいかについては、知的財産グループにお気軽にご相談ください。

(注)「カドケシ」は、意匠権の存続期間が15年の時代に登録されたので、特許権よりも先に存続期間満了となりました。

(社内の方へ)研究開発や業務改善等で発明をした場合には、知的財産Gへご相談ください。また、業務別コンテンツ集「知財ポータル」も合わせてご覧ください。

研究開発室 知的財産グループ

知財の保護方法について~知財で事業を守るために~

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特許、実用新案意 匠商 標

論文、プレスリリースなどによる公知化       

ノウハウとして管理先使用権

公 開

非公開その他   

非権利化

権利化

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 21R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.49620

ミニ解説 ミニ解説

1.知的財産の保護とは 研究開発やその他事業活動で発生した知的財産は事業を行っていくうえで必要なものです。それを適正に保護しないと、事業が行えなくなるといった支障が生じかねません。 知的財産の保護には種々の方法があり、それらは下の表のように整理することができます。

 これらの方法にはそれぞれ特徴があり、保護の方法の選択にあたっては、各方法の特徴をふまえ、知的財産活用の目的を明確にし、目的に適合した保護方法を選ぶことが重要です。

2.権利化による保護 特許などを出願し、権利化を図ることにより知的財産を保護することは、最も一般的な方法といえます。権利化により、そのアイディアなどの実施権を独占することができますし、他者にライセンスすることもできます。また、権利を侵害する者に対して差し止めや、損害賠償請求などの権利行使をすることもできます。 一方、出願などの権利化によって、発明や創作の内容が公開されます。公開された発明を他者に模倣されることも想定され、その内容によっては、侵害を発見することが難しかったり、権利の範囲が狭いために、他者の権利侵害を主張することが難しい場合もあります。 また、権利には存続期間があり、期間が満了したものは、誰でも利用することができます。

3.ノウハウとして管理 2.で述べたように、例えば特許では、権利者に独占的

な権利が与えられる一方で、出願から1年半後に、その発明が公開されます。 ノウハウ(秘匿化)は、秘匿することで、公開により他者に知られることなく、技術や情報を独占できるというメリットがあります。 一方、外部に技術や情報が漏れ、その技術を模倣する者が現れた場合には、特許法などに基づいて権利を主張することができないというデメリットがあります。 そのような場合でも、ノウハウを営業秘密として適切に管理していれば、ノウハウが不正に取得された場合などに、不正競争防止法の保護が受けられる可能性がありますから、秘密管理に十分留意する必要があります。秘密管理が難しいのであれば、2.の権利化や4.の公表による公知化を図ることを検討してください。 また、他者が同じ技術を発明、権利化した場合に、権利の侵害を主張される可能性がありますので、5.で説明する先使用権の主張ができるよう対応しておくことが望まれます。

4.公表による公知化 特許や意匠の権利化には、新規性が要件となっているため、頒布された刊行物に記載した場合や、インターネット上に公開した場合などは、新規性の喪失により、特許権などを取得することはできなくなります(特許法29条1項、意匠法3条1項。前回のR&Dニュースのとおり、例外規定はあります)。 言い換えれば、公表などによって公知化すれば、他者が権利化により技術やアイディアを独占することはできなくなります(もちろん、自らも権利化することができないので、その技術やアイディアを独占することはできません)。 自らがその技術を使うかどうかはわからなくても、他者が権利化することで独占されるのは避けたいと考える場合や、万が一、権利を取得した他者からの権利行使によって、自社の事業ができなくなる事態は避けたい場合は、公表することによって他者の権利化を防ぐことが考えられます。

 また、広く公表することで、アピール効果や、研究・事業のパートナーを募る効果も考えられます。

5.先使用権 特許出願されている発明の内容を知らないで ① 自らその発明をした場合、 あるいは、 ② ①の発明者から発明内容を知った場合で、特許出願の際に日本国内でその発明による事業(準備を含む)を実施している者は、その発明および事業の目的の範囲内において、その特許出願された特許権について通常実施権を有します。これを先使用権といいます

(特許法79条)。 先使用権は、特許権の侵害との主張を受けた場合の防衛となり得ますが、そのためには、侵害を主張した権利者の特許出願の時期に、その発明の実施である事業またはその準備をしていたことを主張する必要があり、そのような主張ができるよう、証拠資料を残しておく必要があります。

6.オープン・クローズ戦略 知的財産をライセンスや無償開放により他者にも使わせる(オープン)ことで技術を広める一方で、その技術に関連する商品については、知的財産権を自社独占したり、中核をなす技術をノウハウとして秘匿する(クローズ)ことで利益の拡大を図ることが行われます。これらを組み合わせたものをオープン・クローズ戦略といいます。 例えばデンソーはQRコードの特許権を開放し、規格化することで広め、QRコードのリーダーによって利益をあげています。

7.知財ミックスによる権利保護 文具メーカーのコクヨが販売している消しゴム「カドケシ」に関して、同社は特許権でアイディアを、意匠権でアイディアを具体化した製品のデザインを、商標権で「カドケシ」という商品名をそれぞれ保護しています。 特許権は、技術内容によっては侵害にあたるかの判断

が困難なことがあるのに対し、意匠権は物品の形態なので、侵害の判断が比較的容易であり、模倣品対策には有効です。 反面、物品の形態が変更されると、意匠権は権利行使ができない可能性がありますが、技術内容が同じであれば特許権による保護が受けられます。  権利の存続期間については、特許権が出願から20年なのに対し、意匠は登録から20年と長くなっています

(注)。 一方、商標権の存続期間は10年ですが、更新することで半永久的に権利を保持することができます。特許権、意匠権が期間満了となっても、商標のもつブランド力で他社と差別化することができます。 このように、知的財産を保護する方法には、それぞれ特徴があり、その特徴を活かすことで、より強固に権利保護することができます。これを知財ミックスといいます。

8.おわりに 事業の継続、拡大により収益を拡大していくうえで、知的財産の保護は重要です。 そのための方法は、特許などの権利化だけとは限りません。保護の方法の選択にあたっては、保護の目的を明確にし、目的に適合した保護方法を選ぶことが重要です。 どの方法によればよいかについては、知的財産グループにお気軽にご相談ください。

(注)「カドケシ」は、意匠権の存続期間が15年の時代に登録されたので、特許権よりも先に存続期間満了となりました。

(社内の方へ)研究開発や業務改善等で発明をした場合には、知的財産Gへご相談ください。また、業務別コンテンツ集「知財ポータル」も合わせてご覧ください。

研究開発室 知的財産グループ

知財の保護方法について~知財で事業を守るために~

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第1図 デジタルツインの概要

第1図 顧客料金システム刷新スケジュール

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 23R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.49622

トピックス トピックス

1.背景、目的 近年、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)といったデジタル技術のめざましい発展による第4次産業革命の進行とともに、世界中の様々な業種・分野において新たなデジタル化の仕組み・サービスの開発が盛んに行われており、社会構造の変革期を迎えようとしています。 このデジタル化の波は電力業界においても大きな変革をもたらすものであり、当社においても既存事業における更なる収益基盤強化や事業領域の拡大を目指し、これまでの火力発電事業の中で蓄積してきた各種データとAI・IoTなどのデジタル技術を融合した価値創造の取組みを進めています。 ここではAIを活用した火力発電所運用高度化サービスの開発・展開を目指し、2017年9月から三菱日立パワーシステムズ株式会社(以下、MHPS)と協働で進めているデジタルツインの開発概要と今後の展開について紹介します。

2.デジタルツイン概要 デジタルツインとは実在する設備・製品などをデジタル上に再現したものです。デジタルツインでは発電所で蓄積されてきた実際の運転データを基に、AIを駆使して設備の圧力、温度等の予測モデルを構築するため、高い精度で発電所の運転状態を再現することが可能です。そのため、各種運転制御パラメータを操作した際の影響をデジタルツイン上でシミュレートし、最適な結果を導出、実際の発電所に適用することで運転状態の安定化や発電効率の向上につなげることができます。 今回の開発では、当社が保有する火力発電に関する運用ノウハウや大量の運転データとMHPSが保有する設計・製造・建設ノウハウを融合し、最先端のAI技術(機械学習)を駆使することで、火力発電所のデジタルツインを構築しました(第1図)。

3.開発内容 今回の開発では、石炭火力発電所におけるボイラ燃焼の最適化等を目的としてデジタルツインを構築し、実証

試験を実施しました。ボイラ燃焼に関わる各種設定は運転時の安定性やボイラ効率等を考慮する必要があり、これまでは蓄積してきた知見・ノウハウに基づいた人の洞察によって設定してきましたが、今回の実証試験では本燃焼設定をデジタルツインにて行うものです。 当社が保有する舞鶴発電所1号機(石炭火力発電所)における実証試験では、ボイラ内の運転制御パラメータをデジタルツインから得られた最適設定とすることで、実証試験時の炭種、運転条件下において既存設定に比べ年間1億円程度の運転費用削減効果が期待できるとの結果となりました。これらはデジタルツインの最適設定によってボイラの燃焼特性が向上し、ボイラ効率向上や補機動力低減等の効果を得たものです。

4.今後の展開 本取組みはボイラ燃焼の最適化を行い、当社火力発電所の運用高度化に資するものです。今後はさらに開発を進め、運用高度化サービスとして国内外の発電事業者にも提供していくことで、事業の拡大を図るとともに、社会インフラのさらなる高度化に貢献したいと考えています。

執筆者名 : 鈴木 信吾

1.当社の情報システム開発 当社はこれまで50年以上にわたり、700を超える情報システムを開発し、業務の効率化・高度化を図ってきました。その一方で、情報システムの中には機能追加を繰り返した結果、構成が複雑化し、いわゆるレガシーシステムとなったものも存在しており、これらのシステムでは、開発期間やコストが肥大化する傾向にあります。

2.顧客料金システムの刷新 厳しい競争環境を勝ち抜くためには、新サービス・新メニューをより迅速に投入する必要がありますが、その要となる顧客料金システムは前述のレガシーシステム化が顕著であり、H27年4月よりシステム刷新に着手しました。

3.従来のやり方との決別 今回の顧客料金システム刷新は、従来のように、あらゆる業務要件をカバーするカスタムメイドの手法を捨て、パッケージソフト(米国ORACLE社のCC&B(Costomer Care and Billing))をできる限りそのまま適用し、業務に適合しない部分はパッケージに合わせて業務のやり方を見直すという、これまでとはまったく異なるアプローチを採用しました。 その結果、1,000万件規模のデータを取り扱う情報システムでありながら開発着手から2年後のH29年4月にはガス事業向け機能、H30年4月には低圧電気向け機能、7月以降は対象となる料金メニューの拡大など、これまでに考えられないスピードで順次リリースを行うことができました。

4.RPA※の活用 今回の開発では、旧来の例外的な業務プロセスを見直し、できる限り簡素化した上で、基本的な業務パターンのみをシステム化の範囲と定義しました。 例えば、従来開発していた新旧システム切替え時のみ使用するデータ移行機能も、今回は例外的なプロセスとして開発していません。その代わりにルールと手順が決められた定型作業が得意なRPAを活用することにしました。具体的には旧システムに表示されたデータを項目毎に読み取り、新システムの該当項目に書き込む作業を繰り返し行います。多機能であるがゆえに複雑に作りこまれた従来のシステムではRPAの活用が困難ですが、今回のシステムは機能をシンプルにしたため、活用が容易になりました。 このように一部機能の代替として一定の効果が得られたことで、システム機能を補完するツールとしてRPAの有用性も確認することができました。※Robotic Process Automation:パソコン上での作業

をソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念

5.今回の開発を通じて 当社では引続きデータ利活用や連携が容易にできるよう、レガシーシステム刷新の取組みを計画的に進めていきます。 今回のレガシーシステム刷新では、従来のやり方と決別する取組みも合わせて進めてきましたが、これは、利用部門である営業本部の「従来の業務を変えてでも競争力あるシステムを手に入れる」という強い決意と協力があり実現できたものです。 これからのシステム刷新では、今まで以上に利用部門とシステム部門が一致団結して取り組み、業務ルールの簡素化を図ると共に、RPA等でシステム機能を補完し、より迅速なシステムリリースを実現していきます。

執筆者名 : 梅田 亘康

火力事業本部 火力開発部門 技術開発グループ

AIを活用した火力発電所運用高度化サービスの開発

IT戦略室 情報システムセンター お客さまシステムグループ

レガシーシステム刷新に向けた取組みについて~顧客料金システムの刷新~

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第1図 デジタルツインの概要

第1図 顧客料金システム刷新スケジュール

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 23R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.49622

トピックス トピックス

1.背景、目的 近年、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)といったデジタル技術のめざましい発展による第4次産業革命の進行とともに、世界中の様々な業種・分野において新たなデジタル化の仕組み・サービスの開発が盛んに行われており、社会構造の変革期を迎えようとしています。 このデジタル化の波は電力業界においても大きな変革をもたらすものであり、当社においても既存事業における更なる収益基盤強化や事業領域の拡大を目指し、これまでの火力発電事業の中で蓄積してきた各種データとAI・IoTなどのデジタル技術を融合した価値創造の取組みを進めています。 ここではAIを活用した火力発電所運用高度化サービスの開発・展開を目指し、2017年9月から三菱日立パワーシステムズ株式会社(以下、MHPS)と協働で進めているデジタルツインの開発概要と今後の展開について紹介します。

2.デジタルツイン概要 デジタルツインとは実在する設備・製品などをデジタル上に再現したものです。デジタルツインでは発電所で蓄積されてきた実際の運転データを基に、AIを駆使して設備の圧力、温度等の予測モデルを構築するため、高い精度で発電所の運転状態を再現することが可能です。そのため、各種運転制御パラメータを操作した際の影響をデジタルツイン上でシミュレートし、最適な結果を導出、実際の発電所に適用することで運転状態の安定化や発電効率の向上につなげることができます。 今回の開発では、当社が保有する火力発電に関する運用ノウハウや大量の運転データとMHPSが保有する設計・製造・建設ノウハウを融合し、最先端のAI技術(機械学習)を駆使することで、火力発電所のデジタルツインを構築しました(第1図)。

3.開発内容 今回の開発では、石炭火力発電所におけるボイラ燃焼の最適化等を目的としてデジタルツインを構築し、実証

試験を実施しました。ボイラ燃焼に関わる各種設定は運転時の安定性やボイラ効率等を考慮する必要があり、これまでは蓄積してきた知見・ノウハウに基づいた人の洞察によって設定してきましたが、今回の実証試験では本燃焼設定をデジタルツインにて行うものです。 当社が保有する舞鶴発電所1号機(石炭火力発電所)における実証試験では、ボイラ内の運転制御パラメータをデジタルツインから得られた最適設定とすることで、実証試験時の炭種、運転条件下において既存設定に比べ年間1億円程度の運転費用削減効果が期待できるとの結果となりました。これらはデジタルツインの最適設定によってボイラの燃焼特性が向上し、ボイラ効率向上や補機動力低減等の効果を得たものです。

4.今後の展開 本取組みはボイラ燃焼の最適化を行い、当社火力発電所の運用高度化に資するものです。今後はさらに開発を進め、運用高度化サービスとして国内外の発電事業者にも提供していくことで、事業の拡大を図るとともに、社会インフラのさらなる高度化に貢献したいと考えています。

執筆者名 : 鈴木 信吾

1.当社の情報システム開発 当社はこれまで50年以上にわたり、700を超える情報システムを開発し、業務の効率化・高度化を図ってきました。その一方で、情報システムの中には機能追加を繰り返した結果、構成が複雑化し、いわゆるレガシーシステムとなったものも存在しており、これらのシステムでは、開発期間やコストが肥大化する傾向にあります。

2.顧客料金システムの刷新 厳しい競争環境を勝ち抜くためには、新サービス・新メニューをより迅速に投入する必要がありますが、その要となる顧客料金システムは前述のレガシーシステム化が顕著であり、H27年4月よりシステム刷新に着手しました。

3.従来のやり方との決別 今回の顧客料金システム刷新は、従来のように、あらゆる業務要件をカバーするカスタムメイドの手法を捨て、パッケージソフト(米国ORACLE社のCC&B(Costomer Care and Billing))をできる限りそのまま適用し、業務に適合しない部分はパッケージに合わせて業務のやり方を見直すという、これまでとはまったく異なるアプローチを採用しました。 その結果、1,000万件規模のデータを取り扱う情報システムでありながら開発着手から2年後のH29年4月にはガス事業向け機能、H30年4月には低圧電気向け機能、7月以降は対象となる料金メニューの拡大など、これまでに考えられないスピードで順次リリースを行うことができました。

4.RPA※の活用 今回の開発では、旧来の例外的な業務プロセスを見直し、できる限り簡素化した上で、基本的な業務パターンのみをシステム化の範囲と定義しました。 例えば、従来開発していた新旧システム切替え時のみ使用するデータ移行機能も、今回は例外的なプロセスとして開発していません。その代わりにルールと手順が決められた定型作業が得意なRPAを活用することにしました。具体的には旧システムに表示されたデータを項目毎に読み取り、新システムの該当項目に書き込む作業を繰り返し行います。多機能であるがゆえに複雑に作りこまれた従来のシステムではRPAの活用が困難ですが、今回のシステムは機能をシンプルにしたため、活用が容易になりました。 このように一部機能の代替として一定の効果が得られたことで、システム機能を補完するツールとしてRPAの有用性も確認することができました。※Robotic Process Automation:パソコン上での作業

をソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念

5.今回の開発を通じて 当社では引続きデータ利活用や連携が容易にできるよう、レガシーシステム刷新の取組みを計画的に進めていきます。 今回のレガシーシステム刷新では、従来のやり方と決別する取組みも合わせて進めてきましたが、これは、利用部門である営業本部の「従来の業務を変えてでも競争力あるシステムを手に入れる」という強い決意と協力があり実現できたものです。 これからのシステム刷新では、今まで以上に利用部門とシステム部門が一致団結して取り組み、業務ルールの簡素化を図ると共に、RPA等でシステム機能を補完し、より迅速なシステムリリースを実現していきます。

執筆者名 : 梅田 亘康

火力事業本部 火力開発部門 技術開発グループ

AIを活用した火力発電所運用高度化サービスの開発

IT戦略室 情報システムセンター お客さまシステムグループ

レガシーシステム刷新に向けた取組みについて~顧客料金システムの刷新~

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写真2 優秀賞・優良賞・特別賞の授与式

写真1 岩根社長による開会のあいさつ

写真3 代表発表の様子(系統運用部門「PV出力短時間予測を活用したELDによる燃料費低減効果の検証」) 写真5 特別講演時の会場の様子

写真4 特別講演の様子(西田様)

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 25R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.49624

社内案内 社内案内

1.開会のあいさつ 大会冒頭のあいさつで岩根社長は、「安全最優先」と

「CSRの全う」を前提とした中期経営計画に基づく様々な取組みに日々、各持ち場で全力を尽くしていることへの感謝を述べました。 また、当社グループの経営環境について、引き続きライバルとの熾烈な競争が続く中、原子力発電所の運転再開とこれに伴う再値下げを原動力に本格攻勢をかけたことで、販売電力量が上半期として8年ぶりに増加に転じるなど、その成果が着実に表れつつあるものの、今後も総合エネルギー事業を中心とした競争のさらなる激化が見込まれるとともに、グループ事業においても競合他社との厳しい競争に立ち向かっていかなければならない、との認識を示しました。 加えて、こうした競争を勝ち抜き、当社グループのありたい姿を実現していくためには、グループを挙げて、「信頼され、選ばれ、成長する」好循環を確実に築き上げていくことが必要である、との考えを述べました。 その上で、研究開発においては、当社グループの成長に向けた取組みをしっかりと後押しするため、社内外のあらゆる経営資源を総動員するとともに、限られた予算の中で最大限の費用対効果が得られるよう創意工夫を重ねながら、技術課題の解決や新技術の開発などに果敢に挑戦していく必要があるとして、①「安全・安定供給を支える研究開発を着実に進める」、②「コスト削減や競争力強化による収益拡大のための研究開発を強力に推進する」、③「グループ全体の新たな成長につながる研究開発に挑戦する」の3点をお願いしました。 また、近年目覚しい進歩を遂げているAIやIoTといったデジタル技術を活用した生産性向上や新たな価値創出の成否が企業の命運を左右するといっても過言ではない状況にあり、こうしたデジタル技術もいち早く取り入れながら、従来の価値観や既成概念にとらわれることなく、画期的なイノベーションの創出につながる研究開発に挑み続けることが重要であると述べました。

2.技術研究報賞の授与 8月に開催された部門別大会における約100件の発表論文の中から、「優秀賞」2件、「優良賞」8件、およびグループ会社の発表に対する「特別賞」2件が岩根社長より授与されました。また、この他、「進歩賞」に19件および「R&D 変革WAY Award」に10件の論文が受賞しました。

3.優秀賞・特別賞受賞論文の代表発表 優秀賞、特別賞のうち下記3件の論文について代表発表を行いました。

【優秀賞】●「PV出力短時間予測を活用したELDによる燃料費低減効果の検証」(系統運用部門)

 太陽光発電の大量導入が進む中、より精度の高い太陽光発電出力予測システム「アポロン」のデータを組み込んだ新たな需給制御手法を構築し、予測誤差を小さくすることで、調整電源の燃料費低減につなげる技術を開発●「ナムニアップ1水力プロジェクト主ダムのカーテングラウトにおける独自の新手法(Hybrid工法)の確立」(土木建築部門)

 日本と海外のダム地盤処理工法の長所を組み合わせ、品質と経済性を両立した独自の工法を確立

【特別賞】●「接地線電流によるCVケーブル活線部分放電診断方法の開発」(株式会社かんでんエンジニアリング)

 CVケーブルの絶縁劣化の新たな診断方法として、従来と異なり、停電させることなく部分放電の有無を検出できる画期的な手法を開発

4.特別講演 国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 首席研究員の西田佳史様から、「人工知能とIoTを活用した生活のイノベーション:人生100年時代の価値創造」と題してご講演いただきました。 ご講演では、我々の身の回りの様々な課題に対して、IoTやAI技術を活用することで新たな価値を創造し、課題を解決していく事例をご紹介いただきました。今後、デジタル技術を有効に活用した研究開発を積極的に行っていくことが求められる当社グループにとって大変貴重なお話をお聞きすることができました。

 平成30年11月21日(水)午後、本店40階において、約270名の参加者のもと、第47回全社技術研究発表会 総合大会が開催されました。以下に、大会の概要をご紹介します。

研究開発室 研究企画グループ

第47回全社技術研究発表会 総合大会を開催

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写真2 優秀賞・優良賞・特別賞の授与式

写真1 岩根社長による開会のあいさつ

写真3 代表発表の様子(系統運用部門「PV出力短時間予測を活用したELDによる燃料費低減効果の検証」) 写真5 特別講演時の会場の様子

写真4 特別講演の様子(西田様)

R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.496 25R&D NEWS KANSAI 2019.1 No.49624

社内案内 社内案内

1.開会のあいさつ 大会冒頭のあいさつで岩根社長は、「安全最優先」と

「CSRの全う」を前提とした中期経営計画に基づく様々な取組みに日々、各持ち場で全力を尽くしていることへの感謝を述べました。 また、当社グループの経営環境について、引き続きライバルとの熾烈な競争が続く中、原子力発電所の運転再開とこれに伴う再値下げを原動力に本格攻勢をかけたことで、販売電力量が上半期として8年ぶりに増加に転じるなど、その成果が着実に表れつつあるものの、今後も総合エネルギー事業を中心とした競争のさらなる激化が見込まれるとともに、グループ事業においても競合他社との厳しい競争に立ち向かっていかなければならない、との認識を示しました。 加えて、こうした競争を勝ち抜き、当社グループのありたい姿を実現していくためには、グループを挙げて、「信頼され、選ばれ、成長する」好循環を確実に築き上げていくことが必要である、との考えを述べました。 その上で、研究開発においては、当社グループの成長に向けた取組みをしっかりと後押しするため、社内外のあらゆる経営資源を総動員するとともに、限られた予算の中で最大限の費用対効果が得られるよう創意工夫を重ねながら、技術課題の解決や新技術の開発などに果敢に挑戦していく必要があるとして、①「安全・安定供給を支える研究開発を着実に進める」、②「コスト削減や競争力強化による収益拡大のための研究開発を強力に推進する」、③「グループ全体の新たな成長につながる研究開発に挑戦する」の3点をお願いしました。 また、近年目覚しい進歩を遂げているAIやIoTといったデジタル技術を活用した生産性向上や新たな価値創出の成否が企業の命運を左右するといっても過言ではない状況にあり、こうしたデジタル技術もいち早く取り入れながら、従来の価値観や既成概念にとらわれることなく、画期的なイノベーションの創出につながる研究開発に挑み続けることが重要であると述べました。

2.技術研究報賞の授与 8月に開催された部門別大会における約100件の発表論文の中から、「優秀賞」2件、「優良賞」8件、およびグループ会社の発表に対する「特別賞」2件が岩根社長より授与されました。また、この他、「進歩賞」に19件および「R&D 変革WAY Award」に10件の論文が受賞しました。

3.優秀賞・特別賞受賞論文の代表発表 優秀賞、特別賞のうち下記3件の論文について代表発表を行いました。

【優秀賞】●「PV出力短時間予測を活用したELDによる燃料費低減効果の検証」(系統運用部門)

 太陽光発電の大量導入が進む中、より精度の高い太陽光発電出力予測システム「アポロン」のデータを組み込んだ新たな需給制御手法を構築し、予測誤差を小さくすることで、調整電源の燃料費低減につなげる技術を開発●「ナムニアップ1水力プロジェクト主ダムのカーテングラウトにおける独自の新手法(Hybrid工法)の確立」(土木建築部門)

 日本と海外のダム地盤処理工法の長所を組み合わせ、品質と経済性を両立した独自の工法を確立

【特別賞】●「接地線電流によるCVケーブル活線部分放電診断方法の開発」(株式会社かんでんエンジニアリング)

 CVケーブルの絶縁劣化の新たな診断方法として、従来と異なり、停電させることなく部分放電の有無を検出できる画期的な手法を開発

4.特別講演 国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 首席研究員の西田佳史様から、「人工知能とIoTを活用した生活のイノベーション:人生100年時代の価値創造」と題してご講演いただきました。 ご講演では、我々の身の回りの様々な課題に対して、IoTやAI技術を活用することで新たな価値を創造し、課題を解決していく事例をご紹介いただきました。今後、デジタル技術を有効に活用した研究開発を積極的に行っていくことが求められる当社グループにとって大変貴重なお話をお聞きすることができました。

 平成30年11月21日(水)午後、本店40階において、約270名の参加者のもと、第47回全社技術研究発表会 総合大会が開催されました。以下に、大会の概要をご紹介します。

研究開発室 研究企画グループ

第47回全社技術研究発表会 総合大会を開催

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N E W S K A N S A I

2019.JanuaryVol.496

1

巻 頭 言心理学とヒートポンプから学ぶ、企業におけるイノベーションの鍵

研究紹介系統安定度向上を目的とした自励式BTB導入時におけるSSTI抑制ロジックの開発 他

社内案内第47回全社技術研究発表会 総合大会を開催

R&DR&D

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 2019年

1月号

 Vol.496

関西電力(研究開発室)

〒530-8270大阪市北区中之島3丁目6番16号TEL. 06-6441-8821大阪市営地下鉄四ツ橋線「肥後橋駅」から徒歩約5分京阪中之島線「渡辺橋駅」から徒歩約3分

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2019年1月号 vol.496

発行所 関西電力株式会社 研究開発室〒530-8270 大阪市北区中之島3丁目6番16号 TEL. 06-6441-8821(代) FAX. 06-6441-9864◆本誌に記載されている記事、写真等の無断掲載、複写、転載を禁じます。

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