001 koji hfs 01...環境整備 (1)療養環境整備...
Transcript of 001 koji hfs 01...環境整備 (1)療養環境整備...
監修 五十嵐 隆 日本小児総合医療施設協議会 会長 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 理事長
編集 日本小児総合医療施設協議会 (JACHRI) 小児感染管理ネットワーク
こどもの医療に携わる
感染対策の専門家がまとめた
小児感染対策マニュアル
監修 五十嵐 隆
編集 日本小児総合医療施設協議会
小児感染管理ネットワーク
こどもの医療に携わる感染対策の専門家がまとめた
小児感染対策マニュアル
こどもの医療に携わる感染対策の専門家がまとめた
小児感染対策マニュアル
ダミー
標準予防策(standard precautions)は,「汗をのぞくすべての血液,体液,分泌物,排泄物,損傷した皮膚および粘膜には感染の危険性があるとして取り扱う」という考え方をもとに,すべての人に適応される感染対策である。標準予防策の勧告(表 1)の中でも小児医療に特徴的な内容を解説する。
小児患者の特徴
小児は,手指衛生,咳エチケット等の衛生行動の習慣を身につける段階の患者も多く,他者へ曝露することもある。また日常生活のほとんどに援助を必要とし,抱っこ,おむつ交換,授乳など,身体的な接触が濃厚である。標準予防策の遵守は医療従事者を防御するため,また医療従事者からの交差感染防止のために,小児医療領域においても非常に重要な対策である。
標準予防策の実際
(1)手指衛生 医療関連感染の原因は,医療従事者の手指による微生物伝播によるものが多い。手指衛生は,最も基本的かつ重要な感染対策であるが,病原微生物は肉眼では見ることはできず,自分の手が媒介しているという認識をもつことが難しい。そのため,手指衛生遵守率を高く保つため,定期的な教育と,遵守率調査とフィードバックを行い,遵守状況を一定レベルに維持する必要がある。 手指衛生の方法(表 2)は手指衛生を実施する場面に合わせ,選択する必要がある。効果的な手指衛生を行うには,手指衛生が必要なタイミング(図 1)と洗い残し・擦りこみ残しがないように,手指衛生のテクニック(石鹸による手洗いと速乾性擦式消毒薬使用による手指消毒)を習得することである(図 2)。
(2)個人防護具 “個人防護具(personal protective equipment:PPE)”は,「感染性物質に対する防御のために職員が着用する防護具や器具」である。手袋,フェイスシールド,アイシールド,マスク,エプロン,ガウン,足袋などの種類が
ある。 ① 医療従事者自身を患者の血液,体液,排泄物な
どの,感染のおそれのあるものから曝露を防ぐため
② 医療従事者を介して他の患者や環境への微生物の移動を防ぐため
の 2つの役割がある。 個人防護具使用のポイント(表 3)を理解し,行う処置・ケアに合わせて,適切な個人防護具を選択し,単独または組み合わせて使用する。
個人防護具の実際
(1)個人防護具着脱の方法 手袋,ガウン,マスクの着脱の方法を具体的に図説する(図 3)。
(2)個人防護具の清潔と汚染の区別 個人防護具着用時には,「患者への接触面をできるだけ清潔に保って,着用」する必要がある。逆に,ケアなどの患者接触後は,「自分への曝露を最小限に脱衣」する必要がある。 具体的な着脱順序を守ることと,一連の動きとして習得することが大切である。
患者ケアに使用した器具の取り扱い
患者ケアに使用し,汚染された器具は,衣服・環境・粘膜を汚染しないように取り扱う。 小児の場合は,有機物(哺乳に使用した乳首,吸入後の吸入器具など)が付着する場合が多い。血液・体液で汚染された器具を操作するときには,個人防護具を着用することを念頭におく。 患者に使用した後の汚染された器材の処理を行う場合には,器材の感染の危険性を考慮し,個人防護具(手袋,エプロン,マスク。場合によってはゴーグル)を適切に着用し,汚染されないように処理する必要がある。
標準予防策2.1
24 2章 小児感染対策の基礎知識
024-031_koji_hco_F1-2.indd 24024-031_koji_hco_F1-2.indd 24 15/12/07 10:2415/12/07 10:24
環境整備
(1)療養環境整備 小児医療は,患者への濃厚な接触が多い。患者自身が自ら片付ける,手を洗うなどの生活習慣が未熟であり,患者ケア区域の汚染や接触が多いため,環境整備の徹
底は不可欠である。 なかでも,ベッド柵は,医療従事者だけではなく,付き添う保護者などがおむつ交換や遊びの際に接触する機会が非常に多く,環境表面が病原体に汚染されている可能性の高い環境である。そのため,定期的な環境整備が必要であり,日常的に清掃できるように標準化しておくことが重要である。
構成内容 勧 告
手指衛生 血液,体液,分泌物,排泄物,汚染物に触れた後手袋を外した直後患者と患者のケアの間
個人防護具(PPE)
手袋 血液,体液,分泌物,排泄物,汚染物に触れる場合粘膜や創のある皮膚に触れる場合
ビニールエプロン,防水性ガウン
衣類/露出した皮膚が血液/血性体液,分泌物,排泄物に接触することが予測される処置および患者ケアの間
サージカルマスク,ゴーグル,フェイスシールド
血液,体液,分泌物,排泄物,汚染物のはねやしぶきが発生しやすい処置や患者ケア
汚染された患者ケア器具 微生物が他の人や環境に移動することを避ける方法で取り扱う肉眼的に汚染していれば手袋を着用する手指衛生を実施する
環境整備 環境表面(とくに患者ケア区域の高頻度接触表面)の日常ケア,洗浄,消毒のための手順を作成する
布・繊維製品と洗濯物
微生物が他の人や環境に移動することを避ける方法で取り扱う
針およびその他の鋭利物
リキャップしない,曲げない,折らない,使用した針を手で取り扱わないやむをえずリキャップが必要な場合は,すくい上げ方式をとる(利用できれば)安全器材を用いる使用した鋭利物は耐貫通性容器に入れる
患者の蘇生 口および口腔分泌物との接触を避けるために,マウスピース,蘇生バッグ,その他の換気器具を用いる
患者配置 次のような状況では個室を優先する伝播の危険性が高い,環境を汚染させやすい,適切な衛生を保持しない,感染後に発症したり不運な結末になる危険性が高い
呼吸器衛生/咳エチケット
(症状のある患者の感染性呼吸器分泌物の発生源の封じ込め,受診時の最初の時点〔救急室やクリニックの振り分け区域および受付区域〕で開始する)
症状のある人に,くしゃみ/咳をするときには口/鼻をおおうように指導するティッシュを用い,手で触れずにふたが開けられる容器に廃棄する気道分泌物で手が汚染された後は手指衛生を遵守する(患者が耐えられれば)サージカルマスクか,空間的分離(約 1 m以上)を維持する
安全な注射手技 すべての医療従事者が推奨される感染制御対策を理解し,確実に遵守するために,訓練プログラムを強化する
腰椎穿刺による髄腔内または硬膜外へのカテーテル挿入や薬剤注入
(ミエログラム,脊椎麻酔,硬膜外麻酔など)時のマスクの着用
脊髄腔や硬膜外にカテーテルを挿入,または薬剤を注入する施行者はマスクを着用する
表 1 標準予防策の構成項目と勧告の内容(文献 2)の表 4を引用,一部改変)
2章
小児感染対策の基礎知識
2.1 標準予防策 25
024-031_koji_hco_F1-2.indd 25024-031_koji_hco_F1-2.indd 25 15/12/07 10:2415/12/07 10:24
患者周囲ではほかにも,電子カルテのキーボード,携帯情報端末,院内 PHSなど複数の医療従事者が使用する器材の清掃も必要であるとされているが,キーボードの保護カバー等に関する勧告はない。
(2)おもちゃの定期的な洗浄 おもちゃを共有する場合,おもちゃの選択については,「洗浄・消毒できる素材である」ことを基準とする。おもちゃは唾液などで汚染されることが多く,子どもが口に入れる可能性のあるおもちゃは消毒の後,水洗いする
か,食器洗浄機で熱による消毒を行うなど定期的な清掃・消毒が必要である。 おもちゃが汚染された場合には,他のおもちゃと分け,洗浄・消毒が終わるまでは別に管理する。 また,実施可能な継続した管理方法を決めておく。
(3) 患者の寝具・寝衣(リネン)の取り扱い,洗濯物
汚れたリネンを取り扱う場合の守るべきポイントとして, ① 使用後のリネン,汚れた物は抱え込まない,身体
手指洗浄薬 適 応 場面例
速乾性擦式手指消毒薬 手に目で見える汚れがないとき ・ 患者と直接接触する前・ 患者の傷のない皮膚に触れた後(脈,血圧測定など)・ 患者ケアの際,体の汚れた部位から清潔な部位へと手を移動させる際
・ 血液・体液・排泄物・粘膜・傷のある皮膚,創傷のドレッシングに触れた後
・ 医療機器に触れた後・ 手袋を外した後
流水と石鹸 手に目で見える汚れがあるときや血液,体液,排泄物などの湿性生体物質により手が汚染されたとき
・ クロストリジウム・ディフィシル等の芽胞と接触した可能性が高い場合
・ 目に見える有機物がついたとき・ シーツ交換の後
表 2 流水と石鹸による手洗いと,速乾性擦式手指消毒薬による手指衛生の選択
血液・体液に触れた後
3患者に触れる前1 患者に
触れた後
• 口腔/歯科ケアの前• 分泌物の吸引前• 損傷皮膚のケアの前• カテーテル挿入,血管確保, 静脈注射の前• 輸液調製の前• 食事,内服薬の準備の前
清潔な操作の前
4
2
患者周囲環境に触れた後
5• 口腔/歯科ケアの後• 分泌物の吸引後• 損傷皮膚のケアの後• 液状検体の採取および処理をした後
図 1 WHOが提唱する医療従事者の手洗いが必要な 5つの場面 3)
26 2章 小児感染対策の基礎知識
024-031_koji_hco_F1-2.indd 26024-031_koji_hco_F1-2.indd 26 15/12/07 10:2415/12/07 10:24
や衣類に接触させない ② 汚れた物は指定の容器にすみやかに入れ,床に
置かず,エアロゾルが発生するのを避けることが重要である。 また,感染性胃腸炎の患者などでは,家庭での曝露量を少なくするために,家族へ排泄物が付着した衣類の洗濯方法について指導する。
患者配置
子どもは発熱・嘔吐・下痢・発疹などの感染症状を言葉で訴えず,活気がないなどといった突然の症状から発症することが多い。そのため,入院時病名が決定していないこともある。
図 2 石鹸による手洗いと速乾性擦式手指消毒薬使用による手指衛生
流水と石鹸による手指衛生の手順
その 1: 十分に泡立ててから手洗いをする。
その 6: 手首を洗い,流水で石鹸をよく洗い流す。
その 2: 手掌を合わせ,手の甲を伸ばすように洗う。
その 3: 指先・爪先の内側を洗う。
その 4:指間を洗う。その 5: 親指と手掌をねじり洗いする。
速乾性擦式消毒薬による手指衛生の手順
その 1: 下までしっかり押し,十分量を手のひらにとる。
その 6:手首全体にすり込む。
その 2: 片方ずつ順番に指先を薬液につけ込み,消毒する。
その 3: 手のひらをすり合わせる。
その 4: 指間にすり込む。親指も忘れずに!
その 5: 片方ずつ順番に,手の甲をすり合わせる。
2章
小児感染対策の基礎知識
2.1 標準予防策 27
024-031_koji_hco_F1-2.indd 27024-031_koji_hco_F1-2.indd 27 15/12/07 10:2415/12/07 10:24
(a)手袋
〔着用方法〕
① 手袋には,手首部分以外,できるかぎり触れないように気をつけて着用する。
②反対側も同様に着用する。 ③でき上がり。
(b)エプロン
① 折り目が外側にくるように首の部分をもつ。
②かぶる。 ③ 腰ひもをゆっくり広げ,後ろで結ぶ。
④着用完了。
図 3 個人防護具着脱の方法
(c)マスク
① マスクの金具が上部にくるようにもつ。
上部の金具を自分の鼻の形に合わせて曲げる。
② マスク下部を下へ引き,マスクを十分に広げ,鼻・口をおおう。
Point
〔個人防護具の使用のポイント〕
1. 患者に接触する前,一般には入室時に着用する
2. 箱から取り出すとき,1つずつ取り出す
3. 患者に接触する面の清潔を保持するよう,①手指衛生,②マスク,③エプロン,④手袋の順に正しく着用する
4. 病室を出る前に,①手袋,②手指衛生,③エプロンの順に外す(周囲環境や自身の皮膚・衣服を汚染させないように注意する)
5. マスクは患者エリア外に出た後に外し,廃棄後,手指衛生を行う
28 2章 小児感染対策の基礎知識
024-031_koji_hco_F1-2.indd 28024-031_koji_hco_F1-2.indd 28 15/12/07 10:2415/12/07 10:24
〔外し方〕
① 利き手で一方の手袋の袖口から 3 cm部分をつかむ。
汚染された手袋の外側が,内側になるように指を折った状態で親指を抜く。
② 脱いだ手袋を,手の中に包みもつ。
③ 手袋を外した手で,利き手の手袋の外側に触れないように袖口に差し入れ,袖口の内側をつかむ。
④ 外したら,そのままの状態で感染性廃棄物容器に廃棄する。
① 首の部分のミシン目の片方を,強く引いて切る。
② 腰ひもより上の部分を,腰ひもの高さまで,外側を中にして折り込む。
③ 左右の裾を腰ひもの高さまでもち上げる。
④ 外側を中にして,折り込む。
⑦ バイオハザードボックスに廃棄する。廃棄後手を洗う。
⑤ 後ろの腰ひもをひっぱりきる。
⑥ 三つ折りにする。
① 利き手で,反対側の耳ひもに指をかける。
② ひもの部分以外は触らないように注意する。
2章
小児感染対策の基礎知識
2.1 標準予防策 29
024-031_koji_hco_F1-2.indd 29024-031_koji_hco_F1-2.indd 29 15/12/07 10:2415/12/07 10:24
患者配置についての決定は,分泌物/排泄物/創傷からの排膿などにより他への曝露がある場合,呼吸器感染および消化器感染症状がある場合など,感染性病原体の伝播の可能性等を考慮する。 他の患者への伝播のリスクをアセスメントし,個室/大部屋(大部屋であれば同室者の選定)を決定する。 患者配置を決定するポイントとしては,以下の点があげられる。 ・ 発熱し,かつ咳嗽,下痢が頻回みられる ・ 感染した患者の伝播経路における他者への危険
因子 ・ 同室になる患者の免疫状態(免疫抑制状態か。
麻疹,水痘などのウイルス性疾患に対して免疫をもっているか)
・ 個室利用ができるか ・ 同じ感染経路・症状の患者を収容できるか
個室隔離対策を行う場合には,個室にいる必要性などを患者にわかる言葉で説明する。必要に応じて,チャイルド・ライフ・スペシャリスト(child life specialist:CLS)に介入を依頼する。 また,個室での療養がストレスとなりうるため,医療保育士やボランティアの協力を得て,遊びなどで気分転換を図るなどの対応を考慮する。
大部屋に配置する場合には,必ず,同室患者・家族への教育も「同時に」行う必要がある。
血液・体液曝露防止
(1) 針,およびその他の鋭利物の取り扱いの注意点
子どもの血管確保の際は,刺入を終え留置針内筒をもつ実施者と,テープ固定を行う介助者の手が交差し,針刺し曝露の危険がある。あらかじめ交差しない動線を確保し,役割分担をする。 血管確保中も声をかけ合い,周囲の状況を確認しながら行動することが必要である。また,血管確保をベッド上で行う際には医療器材(針のキャップ,アルコール綿など)をベッド上に置いたままにしないことも誤飲予防に重要である。
(2)患者の蘇生 患者蘇生時は,患者の口および口腔分泌物との接触を避けるため,マウスピース,蘇生バッグ,その他の換気器具を備えて,使用可能な状況にしておく。 普段から準備することで,医療従事者の体液曝露を減らすことができる。
表 3 具体的な個人防護具の着用のタイミング
個人防護具の種類 着用のタイミング 備考(注意点)
手 袋 血液,体液,分泌物,排泄物,傷のある皮膚,粘膜その他の感染性物質に直接触れる可能性があるとき
① 汚染している,または汚染している可能性がある器材を取り扱うとき
② 交差感染を防ぐために,1人の患者のケアでも,異なる処置を行うときはそのつど交換する
③ 接触予防策が必要な病原体を保菌,または発症している患者に直接接触するとき
④ 汚れた手で自分の顔に触れない,個人防護具を調整しない⑤ 患者ケア中,必要なとき以外に環境表面に触れない⑥ 処置が終わったら周囲の環境を汚染させないためにすぐに外し,廃棄する
エプロン,防水性ガウン
衣服や地肌が血液/体液,分泌物,排泄物に接触することが予想される手技や患者ケアを行うとき
① 処置が終わったら周囲の環境を汚染させないよう直ちに脱ぎ,病室内で廃棄する
② ケアの内容や曝露の程度によって,エプロンと防水性ガウンとを使い分ける
マスク,アイシールド等
血液,体液,分泌物,排泄物のしぶきや噴霧が,眼・鼻・口の粘膜に曝露する可能性があるとき
① 処置が終わったら周囲の環境を汚染させないよう直ちに外し,廃棄する
② 飛沫が発生する処置(気管支鏡,気管吸引など)を実施する場合は,フェイスシールド,マスク+アイシールド,もしくはアイシールド付きマスクを着用する
30 2章 小児感染対策の基礎知識
024-031_koji_hco_F1-2.indd 30024-031_koji_hco_F1-2.indd 30 15/12/07 10:2415/12/07 10:24
安全な注射手技
点滴を調製する際の無菌操作は,最低限,行われるべき事項である。小児医療領域では抗菌薬や点滴液の1回使用量が少ないために,バイアル等に薬液が残ることが多いが,この残液を複数の患者へ流用をしてはならない。注射器,注射針,注射剤を各 1回の使用に限定することで交叉感染や誤投与を防ぐことができる。 同じ患者の治療として複数回量バイアルを使用しなければならないときは,注射器は滅菌の物を毎回使用する。 小児病棟は病棟内での点滴混注業務が多いが,清潔と不潔の経路が交差する環境でもあることが多い。薬液混注の間はできるかぎり清潔環境を維持しながら,無菌操作技術を習得し,衛生的に行う必要がある。
医療従事者・家族の教育
(1)医療従事者の教育① 標準予防策の手順が確実に実行されるために 標準予防策の手順が確実に実行されるためには,従事する医療従事者全員への教育と定期的なトレーニングが重要である。 個々のスキルが維持できるよう,定期的なトレーニング,実施状況の調査とフィードバックを行うことで,質の高い能力を維持することができるプログラムを確立しておく。② 職員の抗体保有の確認と予防接種 小児医療領域に従事する職員は,麻疹,水痘,流行性耳下腺炎,風疹などの流行性ウイルス疾患患者をケアする機会が多いため注意が必要である(2.12節,82ページ参照)。
(2)面会者からの感染予防 面会者は,医療環境における感染症の伝播予防の協力者となりうるが,まれに感染源となる可能性がある。 感染症を外部からもち込まない,また外部へもち出さないために,面会者の症状スクリーニングが必要となる。 また,患者が免疫不全者である場合には,患者への曝露を予防するため,面会者のみならずきょうだいも含めた家族へのワクチン接種の必要性と実施について指導を加える
文献1) Siegel JD, Rhinehart E, Jackson M, Chiarello L;Health
Care Infection Control Practices Advisory Committee:2007 Guideline for Isolation Precautions:Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings. Am J Infect Control, 2007 Dec;35(10 Suppl 2):S65-164.
2) 矢野邦夫 監訳:隔離予防策のための CDCガイドライン 医療現場における感染性微生物の伝播の予防 2007年.(2015年 10月現在):
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/cdc/index_002.php
3) WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee:WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care:First Global Patient Safety Challenge Clean Care Is Safer Care. Geneva:World Health Organization;2009.
4) U.S. Department of Labor Occupational Safety and Health Administration:Personal Protective Equipment, 2003;OSHA 3151-12R.
5) Centers for Disease Control and Prevention,向野賢治 訳:Guidance for the Selection and Use of Personal Protective Equipment (PPE) in Healthcare Settings(医療現場における個人防御器具(PPE)の選択と使用に関するガイダンス.Available from(2015年 10月現在):
http://www.c-c-p.co.jp/20050210CDCppe.pdf6) 日本看護協会:感染管理に関するガイドブック 改訂版,
2004.7) 厚生労働省:インフルエンザ(総合ページ).Available
from(2015年 10月現在): http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/
kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/8) Julia S Garner,向野賢治 訳:病院における隔離予防策
のための CDC最新ガイドライン,メディカ出版,1996.9) 小林寛伊:消毒と滅菌のガイドライン 新版増補版(第
3版),へるす出版,2011.10) William AR, David JW:the Healthcare Infection Control
Pract ices Adv isory Commit tee:Guide l ine fo r Disinfection and Sterilization in Healthcare Facilities, 2008.Available from(2015年 10月現在):
http://www.cdc.gov/hicpac/pdf/guidelines/Disinfection_Nov_2008.pdf
2章
小児感染対策の基礎知識
2.1 標準予防策 31
024-031_koji_hco_F1-2.indd 31024-031_koji_hco_F1-2.indd 31 15/12/07 10:2415/12/07 10:24
感染経路別予防策
医療関連感染の成立には,①感染源,②感染経路,③感受性宿主の 3つの因子が必要で,感染源から排泄される分泌物などが,感染経路により感受性宿主に運ばれて定着し,感染が成立する。感染経路別予防策(transmission-based precautions)
は,病院における隔離予防策のガイドライン 1)の推奨する感染対策で「感染経路を遮断する」考え方にもとづき,伝染性病原体の感染経路遮断のために,標準予防策に加えて行う感染予防策である。それぞれの病原体の感染経路を知り,その経路を遮
断することによって,より効果的な感染対策が実践できる。病原体の感染経路を知らず,必要以上に過剰な対策をとることは非科学的であり,費用と労力の浪費につながる。感染経路や病原体に応じて,必要な対策を必要な期間,徹底して行うことが重要である 2)。感染経路は空気感染(air-borne infection),飛沫感染
(droplet infection),接触感染(contact infection)の 3種類に分けられる(図 1)。付録②(276ページ)に感染経路別にみた主な病原体をまとめた。 また,感染対策実践のためには,多職種のスタッフが感染経路別予防策が必要な患者を把握することができるように病室前などに表示する(図 2)など,院内で統一した方法を用いることも重要である。表示の際には個人情報管理に留意する必要がある。
小児における特徴Point
小児の特徴として,成人と大きく異なる点は,①免疫能が未熟である,②乳幼児の多くは,流行性ウイルス疾患についての免疫をもっていない,③乳児,年少幼児は全面的に医療従事者のケアを必要とし,抱っこなど他者との濃厚接触が頻繁に行われる,④遊びや食事などで親子間(面会,親の付き添い),小児どうしの接触する機会が多い,⑤患者自身の感染予防対策が未熟・未獲得であるため,自身を守れない,などがあげられる。感染経路別に考えると,接触伝播する経路が多く存在
し,ケアにあたる者は接触予防策を行う必要が常に生じ
感染経路別予防策2.2
図 1 感染経路:空気感染,飛沫感染,接触感染
(c)接触感染(左:間接接触,右:直接接触)
(b)飛沫感染
5μm以上の飛沫
2 m以内
(a)空気感染
5μm以下の微小飛沫核
長時間空中を浮遊,空気の流れによって広範囲に伝播
32 2章 小児感染対策の基礎知識
032-035_koji_hco_06.indd 32032-035_koji_hco_06.indd 32 15/12/07 10:5315/12/07 10:53
る。それと同時に,感染予防対策を小児の理解できる言葉でくり返し説明し,衛生教育を行い,手洗いなどの感染予防策を獲得させていく必要がある 3)。 感染予防のためには,小児の特徴を考慮した上で,標準予防策に追加して感染経路別予防策の実施を遵守していくことが重要である。
空気予防策
「空気感染」とは,病原体を含む直径 5μm以下の飛沫核が,長時間空中を浮遊し,空気の流れによって広範囲に伝播され,これを吸入すると感染する。主な疾患は,結核,水痘(免疫不全者あるいは播種性の帯状疱疹を含む),麻疹である。空気予防策はこれらの病原体に感染している患者(疑いを含む)に対して適応される 2)。 「予防接種法」では麻疹,水痘は定期接種 2回の方法を行っている。水痘ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン)は 2014年 10月より定期接種になった。2回のワクチン接種を終了していない場合は,免疫獲得が不十分な患者も存在すると考慮し,ワクチン接種歴と患者の周囲の流行状況および接触状況を慎重に聞き取り,対応する必要がある。
(1)患者配置 ・ 原則的に,陰圧に空調管理された個室に隔離し,
1時間あたり6~ 12回以上換気する(戸外へ排気,再循環であれば高性能濾過フィルタを通す)。入退室以外はドアを常時閉めておく。
・ 個室への配置が難しい場合は,同じ病原体による活動性の感染症に罹患している患者と同室に配置する。
・ 陰圧病室が準備できない場合は,転院などを考
慮する。それまでの期間は個室で,入退室以外はドアを常時閉め,中央コントロールの空調システムがある場合には,空調を切っておく。
(2)N95マスクの着用 ・ 感染性の肺あるいは喉頭結核,漏出する結核性
皮膚病変,またはその可能性がある患者の部屋に入るときには N95マスク(レスピレータ)を着用する 3)。
・ N95マスク使用前にフィットテストおよびリークテストを行う。
(3)患者の移動 ・ 患者の移動は必要最小限に制限する。 ・ 患者の移動が必要な際には,患者はサージカル
マスクを着用する(呼吸症状のある患児が N95
マスクを着用すると呼吸状態悪化のリスクがあるため)。水痘の場合は,可能なかぎり皮膚病変をおおうようにする。
・ 患者が病室外へ出る際には,事前に受け入れ先に連絡し,他の患者と接触しないように時間調整をする。
(4)器材処理 ・ 標準予防策に準ずる。 ・ 結核に罹患中の患者に使用した気管支鏡は高水
準消毒,肺機能検査機器の回路はディスポーザブルを用いるか,高水準消毒が必要である。
(5)環境表面の処理 ・ 標準予防策に準ずる。 ・ 患者が退室した後は 1時間以上換気する(換気
回数によって時間は異なる。また,窓を開けて外気を入れ替える)。その後は通常の清掃でよい。
飛沫予防策
「飛沫感染」とは,咳,くしゃみ,会話,気管吸引および気管支鏡検査にともなって発生する飛沫が経気道的に粘膜に付着し,それに含まれる病原体が感染することをいう。飛沫直径は 5μmより大きいため,飛散する範囲は約 1 m以内であり,床面に落下するとともに感染性はなくなる 2)。主な疾患は,流行性耳下腺炎,風疹,インフルエンザ,肺炎マイコプラズマ感染症,溶血性連鎖球菌感染症,インフルエンザ菌や髄膜炎菌性髄膜炎
図 2 病棟入口の感染経路別予防策マークの表示:飛沫+接触予防策
マスク 手袋 ガウン2章
小児感染対策の基礎知識
2.2 感染経路別予防策 33
032-035_koji_hco_06.indd 33032-035_koji_hco_06.indd 33 15/12/07 10:5315/12/07 10:53